日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-34 188
-過敏性腸症候群の症状を有する大学生への
アクセプタンス&コミットメントセラピーに基づくプログラムの効果の検討
○伊藤 雅隆1)、武藤 崇2) 1 )同志社大学大学院心理学研究科、 2 )同志社大学心理学部 問題と目的過敏性腸症候群 (Irritable Bowel Syndrome; 以下 IBS) は,腹痛を主な問題とした機能性消化管障害で ある (Longstreth et al., 2006)。その有病率は高 く,本邦でも一般人口を対象にIBSの有病率が13.1% となることが示されている (Miwa, 2008)。IBSには, IBS未患者と呼ばれるものが多数存在している。大学 生関係者を対象とした調査において,受診はしていな いが診断基準に当てはまるものが24%存在しているこ とが示されている (Canon et al. 2017)。IBS未患者 は対処がない場合そのうちの約35%は 3 年以内に患者 に移行することが示されている (Fujii & Nomura 2008)。症状保有歴が長いことで難治化すると指摘さ れており,早期の介入が必要であるといえる。しかし IBS患者に対しての介入は存在しているが,IBS未患者 や軽症者を対象とした介入はほとんど検討されていな い。 IBS未患者への介入方法として,認知行動療法の中 でもアクセプタンス&コミットメントセラピー (以下 ACT) が有効であると考えられる。IBS未患者は,症状 への不安は患者ほど高くないが,QOLの阻害は患者と 同程度であることが示されており (Labus et al. 2007),症状へ焦点化せず,QOLの改善などに焦点を当 てるACTが有効であることが考えられる。また,IBS患 者にたいしてもACTはIBS症状やQOLの改善に対して効 果を示している (Ferreira et al. 2017)。また,本 邦では伊藤・武藤 (2018) がIBS未患者を対象として ACTを実施している。この研究では 1 日のセッション のみでのACTの効果を検討していた。結果として,介 入群のIBS症状が悪化しなかったことが示された。十 分な効果は得られていないが,日常場面での実践に介 入内容が結びつかないことが考えられた。ACTを用い た短期のセッションでは,短期間のセッション後のセ ルフヘルプと組み合わされて実施されることも多い (Dindo et al. 2015)。そこで,本研究では 1 日集団 ワークショップ形式でのACTとワークブックを用いた セルフヘルプを組み合わせることで,IBS症状保有者 のIBS症状の改善や,QOLの改善につながるか検討する ことを目的とした。 方法 参加者 ス ク リ ー ニ ン グ 調 査 を 行 い,Irritable Bowel
Ssyndrome Severity Index Japanese (Shinozaki et al. 2006; 以下IBSSI) において軽症のカットオフ得 点以上の学生をIBS未患者として研究対象者とした。 対象者全員に参加を呼び掛けたところ,最終的な参加 者は26名 (平均年齢19.92歳, 男性10名) となった 。 手続きとデザイン 参加者からインフォームドコンセントを得たのち に,Preアセスメントを実施した。その後介入群と待 機 群 に 無 作 為 に 割 り 付 け た。 介 入 群 に は 1 日 集 団 ワークショップ形式のACTを行い,その後日常生活で の実践を促進するために,ワークブック (ACTをはじ める 武藤ら 2004) を提供した。ワークブックの実施 の程度は10日に 1 回Web上でのテストを行い確認し た。ワークショップから 2 か月後にPostアセスメント を行い,さらに 2 か月後にフォローアップを行った。 待機群にはフォローアップの後に,介入群と同様の介 入 内 容 を 提 供 し た。 介 入 の 内 容 は, 伊 藤・ 武 藤 (2018) に倣い,IBS患者を対象としたACTのFerreira et al. (2017) のプロトコルに基づき行われた。 1 回 の開催につき2-5名の参加者にたいして行われた。 主要評価指標
1 .IBSSI (Shinozaki et al., 2006) を用いた。IBS 症状の重篤度を測定するための指標のとして用いた 二次的評価指標 (一部)
2 . Irritable Bowel Syndrome quality of life measure (Kanazawa et al. 2007; 以下IBSQOL) IBSに 特異的なQOLの阻害について測定することができる指 標として用いた。
3 . Beck Depression Inventory II (小島・古川 2003: 以下BDI) 抑うつの程度を測定する指標として 用いた。
4 . 日本語版Acceptance and Action Questionnaire II (嶋ら, 2013: 以下AAQ) 心理的苦痛を引き起こす 主要な要因として考えられる体験の回避を測定するた め用いた。
5 . 日本語版Cognitive Fusion Questionnaire (嶋 ら, 2014: 以下CFQ) 心理的苦痛を引き起こしたり助 長したりする原因の 1 つである認知的フュージョンを 測定するため用いた。 倫理的配慮 本研究は第 1 著者所属大学の倫理委員会において, 人を対象とする医学系研究として承認を得たのちに実
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-34 189 -施された (審査番号 17020)。また,各参加者には書 面と口頭で本研究の目的を説明し,同意を得たうえで 実施された。本研究は事前に臨床試験登録が行われて いる(UMIN CTR: UMIN000027728)。 結果 各指標の結果をTable1に示した。各評価項目におい て,preアセスメント時には,介入群と待機群の間に 差はなかった (all ps > .05)。各評価指標を,群 (介入群・統制群) と時期 (pre・post・FU 2month) を独立変数とする 2 要因分散分析を用いて分析した。 IBSSIは,有意な時期の主効果を示した (F (2,48) = 4.45)。交互作用は有意ではなかった (F (2,48) = 1.01)。IBSQOLは,群の主効果,時期の主効果および 交互作用は有意ではなかった (順にF (1,24) = 2.38; F (2,48) = 1.02; F (2,48) = 0.39)。BDIは有意な交 互作用が確認された (F (2,48) = 10.17)。単純主効 果の検定の結果,介入群の得点が有意に変化しており (F (1,24) = 0.51),多重比較の結果,Preからフォ ローアップの変化が有意に減少していることが示され た。AAQは有意な変化は確認されなかった(群,時期, 交互作用の順にF (1,24) = 0.00; F (2,48) = 1.38; F (2,48) = 0.51)。CFQの得点においても有意な変化 は確認されなかった(群,時期,交互作用の順にF (1,24) = 0.23; F (2,48) = 0.25; F (2,48) = 0.29)。 考察 本研究の目的は, 1 日集団ワークショップとワーク ブックを用いたによるACTプログラムが,IBS未患者に 対する効果を検討することである。介入群の得点の変 化としては,待機群との比較において効果は示されな かったが,介入群の得点の減少は意味のあるものだっ たといえる。また,副次的項目のうちの抑うつの指標 においては,待機群との比較において変化が確認され た。これらのことから,本研究で用いたACTプログラ ムは,効果を一定程度示していると考えられる。 IBSSIの得点に関しては,待機群と比較して有意な 変化はなかったものの,介入群の得点の改善量は,臨 床的に意味のある変化だとされる50点を上回ってい る。このことから,介入による効果はあったと考えら れる。待機群との比較においては有意な差が得られな かったこととして,待機群がわずかに改善しているこ とや,サンプルサイズの問題があげられる。また,抑 うつの得点の減少に関しては,IBSに対しても予防的 な効果を持つことが指摘できる。IBSは抑うつなどの 心理的問題が症状の発症を予測するとされている (Nicholl et al. 2008)。今後悪化する可能性のある ものを対象としていることからも,予防的な効果が あったといえる。