Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japanese Sooiety for the Soienoe of Design巻 頭言
:
デ ザ
イ
ン
学
会
に お
け
る
景観
研
究
に
つ い
て
「
風 景」
から 「景 観」
ヘー
「
環 境」
へ 稲 次 敏 郎 宝 塚 造 形 芸 術 大 学 1 は じめにいま
、
改め て「
風 景」・
「景観 」
・
「環境 」
を 辞 書 D で引いて み る。
「
風 景 」a一
け し き b一
よい けしきc一
人
の様 子
、容 姿
「
景観 」a一
風 景外観
、
け
しき、
な がめ、
ま た その美 し さb
一
自 然 と人 間 界の ことが人り
ま じっ てい る現 実
の さ ま。
(他の辞 書 で)c一
地 理 学で白然
の風景
と人工 の風 景 が 入 りま じっ てい る現 実の景色。
「
環境
」 a一
周 囲の 状況、
ま わ りb
一
生 物 体 を取 り巻き
、
生物 体
に な んらか の影
響 を 与 えるすべ ての もの。
(他の辞 書で) a一
めぐ り囲む区 域2
四周
の外界
、
周 囲の事 物、
特に人 間 又は 生物を と りま き
、
それと相
互作
用 を及
ぼ し合 う
もの として見
た外 界、
臼然
的 環境
と社 会 的 環境
とがあ
る。(
注
1
、
広辞 林新 訂 版
、
広 辞 苑 四 版 )この 3つ の
言葉
を並べ て み ると、
自
然に対 す る 人 間 集 団のか かわ り合い の度合
が増大 す
る につ れて、
「
風
景」
か ら「
景観
」 へ と移 行し、
現 代に おいて 「環境
」 とい う多
様 な 意 味 を含 む 言 葉が急 浮上 し た様
子 が 理 解 できる。
こ の3
つ の 言 葉の裏
にかく
れ た意 味 を時 代 背 景と ともに見てゆきたいと思 う。
2 自然いま
、
学 徒 兵と し て内 蒙古
オル ドス砂
漠で過ご した一
冬 を 思 い出し てい る。黄
塵の吹
き あれ る厳 冬の砂
漠は、
城 郭を一
歩 外 に出 れ ば そこに は死の 世 界であ り、
城壁 は肩 を寄
せ合っ て過ごす
人間
にとっ て の死 界へ の砦 で あっ た。
春
が近づき
、
野リ スが砂
か ら顔
を出
し、
草芽 吹
く頃
、
人 と 自然の共存
がは じま
る。 こ の ことは日本の山岳
・
大洋
も同
じであ
るが、
自然
は 人間
にとっ て死の世 界である と と も に、
生 の 母体で もある。
この死と姥 が 裹腹
に存在 す
る自然
界 を、
客観 的
に見
つ め、
美 しいと思う
時点
に おいて、
「
風 景 」は成立す
る の で はない だろうか。
3
風 景風 景 画 は
16
世紀
の ヨー
ロ ッパ北 部
に おい て、
伝統 的
テー
マ に 束 縛 さ れ ない 画 家 達の手
に よって発達
し、
17世 紀 オランダにお い て市 民の 問に浸 透 したとされてい る。 2 )当時
のオランダ は 貿 易によって富 を蓄積
した勤勉
な商 人
の国
であ り、
しか も伝 統 的 教 儀に とらわれ ない 青 教 徒の国であっ た。
そこで は伝 統に よ る 祭 壇や大 宗 教 画、
歴史画
の必 要はな く、
平 和 な富め る市
民生活
に は実
川 的な小 写実
画、
す な わち 親 しみ 深い風 景Tll9
、
静 物 画、
肖像
画は特に愛
好さ れたテー
マ であっ た。
この市 民 杜 会へ の絵
画
の浸 透
は、
絵 画
を壁 面・
天 井 か ら離れ て、
額 縁 (タ ブロー
・
一
)のLe
界
とし て独
立 さ せ た。 これ ら風 景 画・
静 物 画・
肖像 画 な どは伝 統
的主
題の表
現で はな く
、
美 的 自律 性
を 有 す る絵 画の出 現 を意 味 し てい る。特
に造 形芸
術の内で、
風 景 描 写は絵 画のみに可能
で あっ
て、
建 築
・
彫刻
には不口J
.
能である。
そ れ は視 覚
のみ が 風 景 を全体 的
眺 望 と して捉 え るこ とが 出 来る か ら であ り、
風景画
は自然
を客観
的に 〈美〉と して称 賛 するとき
に成立
し得
るも
の であ
る。
このことは中 国 山 水 画にもい
え
る。「
夫
れ画
は教 化
を成
し、
人 倫 を助 け、
神 変 を窮
め、
幽徴
を測 り
、
六籍
と功
を 同 じ く し、
四時と運 用 を並ぶ。
こ れ天 然に発 する な り。
述作
に由る に は非 ず 」。
これ は『
歴 代 名 画 記 巻.
.
・
、
画
の源 流 を叙ぶ』 冒 頭の文で あ り、
「
書と画は同 体に し て、
未 だ分か れず 」と続 く。
この よ
う
に中 国絵 画
の底
辺 に は絵 画の功 利 性・
実 用 性 が 基 本 として存 在 するのであ
る が、
この教 化
主義
か ら絵 画観賞
を解 放 し、
自由
な風 を.
入 れ た の は く臥
遊〉の 思 想で ある。
この常に山水
に あっ て常
に楽
し み親
し む臥
遊の思 想 は、
山 水 画 論の.
.
lits
で あ り、
それ は書 画
同体論
か ら誌画
同 体論
と なっ て展 開 する。
この
臥 遊
の思想
は「座窮
泉 谷」
(座 りな が ら に して泉
谷を窮
め る)、
す なわ ち隠 遁 を理想 と する もの であ り、
その理 想 郷の表
現として中 国ll1
水 画は成立 し ている。 中 国出水 画
の根底
には、
「自然に帰れ」
とする老 荘の無為
思想 が基 盤 とし て存在
し てい た。
それ は孔 子の 正統
思想 とし て の儒 教 政 治 社 会 思 想に対 して これ を 俗 とす る 反 」三統 思想
であった。す
な わ ち自然
の山水
を 美 と意 識 す る 時 点 に おいて、
III国Lll
水画 論
お よび中国
Ill
水画
は成 立 したの である。以 ヒの
東
西 両洋
に おけ
る風 景 画の島 現 は、
自然の風 物 を客 観的
に観 賞 的態
度 を もっ て眺め、
そ れ を 身 近 な存在
とし て 〈美
〉 と感じ ることから 出 発 してい る。
もちろん風 景にも人為 的
世界
は介 在 する。
中 村 良 夫 氏は 『風 景学
入門』
におい て、
風 景の思 想と して、
L
自然 景 2,
生活 景を あげてい る が、
生活 景 を風 景と する ことは、
生活 を 自然 とし て見ることで あ り、
生 活 景の風 景画
は絵画
と してい かに「な じむ」かに よっ て成立する。
風 景 とは 対象
が自然 景
であ
れ 生活 景
であ れ、
景 色 その ものが 風 景の本 質 では な く、
人 間の 内 に ある視 覚化
さ れ た自然
であ
る。自然 は 入 間と共 存 す る
「
生 」の 世 界であ
ると とも
に、
それは「
死 」の 丗 界でもあっ た。 風 景は こ の自然
に対 し、
人 がこれ を身
近 な 存 在として 〈美〉 と感
じ るとき
、
白然
は風 景
と して意 識 さ れ た。
風 景に人の世 界が か か わっ ていた とし ても、
そ れは視覚
的に自然でな け ればな らない。
(注2中 山
・
中森
・
美術 史
く西’
i
羊
〉、
P158
,
184
) 4景 観 前 述の辞 書 では、
「
景 観 」は景色
とし て風景
と同 義語
とするも のの、一
方で は「
自然 と人 間 界のこ とが いり
ま じっ て い る現実
の さ ま 」と し てい る。す
な わ ち風 景
と 同 義語
では あ る が、
人 為 的作
用の加
わっ た風 景
の「見
え か た」
であ り、
こ こでは造 形 表 現 とし て絵 画
用語
で はな くなる。
「
見 えか た」は一
方
で は 「見
せ か た」をとも なう
。
景 観と は「
見え
かた」であ り、
「
見
せ か た」
とし て種々複
層 する手 法 が 存 在 し、
これ ら 手 法を総 称 し て「
景 観デザイン」
とい う 言葉
が登 場 し た。
(SEOUL 大 学 校・
環境 大
学 院で は「造 形 」又は「修 景 」とい う言2SPECIAL
ISSUEOF JSSD Vo 】.
2 No,
2 1994 デザ イン学 研 究 特 集号 N工 工一
Eleotronio LibraryJapanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japanese Sooiety for the Soienoe of Design葉
で総 括
し てい る。 )こ の
「
見
せ か た」
に多 く
の手
法 が 存 在 する こ と は、
景 観には 多 くの人 為 的作 用
が加
わっ たうえ
で の風 景である こ とを意
味 す る。
す なわち「
風 景 を 造る」という意
識であ り、
その内 容が今同 の特 集 号『
景 観と デザイン』である と解 釈 してい る。
景 観デ ザ インは静IL し た視 点か らの景 観のみ ならず、
視 点の移 動
に と もなう
連 続 する景観
を含
むもの である。
したがっ て こ の連続
する風 景の「見 えか た」に対 する「
見せ か た」に は「
あ りよう」
が存在
しな ければな らない 。「
あ りよう
」と は普
遍 的 に認
知 さ れ たある べ き姿
・
形である。
こ のあるべ き姿
・
形
は、
時 代
に より
、
民族
により
、
地域住 民
に より異 な
るも
の であ
るが、
しか し時代
・
民族
・
地域
に おい て普
遍性
がな けれ ばな ら ない。
こ こ に快 適性
一
Amenite を基 調 とし た「
環境
j
という
言 葉が登 場 して くる。 こ の言葉
は「
景 観を造る」う
えに おいて、
現 代 杜 会の根 底 に横
た わ る錯綜
する諸 問 題か ら急 浮E
し た と認 識 して いる。
5
環 境前
述の辞 書で は、
「
環 境 」はめ ぐ り囲 む 区 境では あ る が、
そ れ は「自然環境
と社
会環境
の相
互作
用に よ る 総合
的な 下界 」と さ れ ていた。
言
い換
え れ ば 自 然 と 人間
が共
生 する快
適 な区
域であ
る。 こ の場 合
、
自然
と入 間
の共
生 を 理想
と し た、
かっ ての田園
都 市
とは限
ら ない。
総
て が人為 作
用であ
っ た としても
、
快 適
性一
Ameniteが基調 とな るもの で あ る。
1977
年
、
東京 芸
術 大 学に環境
デ ザインが 開 講 され た とき、
私 は 以 トの綱 領 を発 表 した。
「
人があっ て空 間は形 成さ れ る。
その一
よ りよき 空 間 形 成へ の媒 体 として モ ノは存在
する。
環境
デ ザ イン の基 点は こ こ にあ る。 人 は複 数
と なり
、
人数
となり
、
数 卜人
と なり
、
群
と なる。 そ れ ら は 連 続 し な が ら 空間
形 成 を 拡大
し一
よ り よ き 空間
形 成へ の媒
体 と して モ ノは展
開す
る。
人 と人、
人々 と人々のよ りよ き か か わり合
い の場
の形 成
を、
私 達
は環 境
デザ インと捉
えてい る。 環境
デ ザイン講 座は、
その理 念の基
に形 成さ れ る空 間を人 間生活の視
点か ら合 目 的・
審
美 的に 対応さ せ るべ く計 画し、
造 形す
る デザインにつ い て研究 す
ること を目的 とし てい る」
。
この綱
領
は今
日 でも修 正の必 要はない と思っ てい る。
環境
デ ザ インは環境
を構 成 す
る諸要 素
の相 関性
一
か かわり合
い のう
え に存 在 するデザイン手 法で ある。
す なわち多
くのデ ザ イン領 域 が 交 錯 し、、
多
様
に輻
輳 し て 形 成 さ れ る もの であ る が、
そ れ ら デ ザ イン諸 要 素 をひ とつ の秩 序の もとに 関 連 付 け、
構
成 に脈 絡 を与
えて「
ま と まり」
とす
る ことに環境
デザ イン の意義
は存 在 す
る。環 境
デ ザインは こ れ ら デザ
イン諸領 域
を統合 す
る総 合 的
な視 点
に たっ て、
計
画 し造 形 するも
の であ り、
「
統
合・
秩序
・
調 和 」を そのデ ザイン の基 調 と して い る。
環 境 デ ザイン の は統 合 され た諸 要 素を、
ひ とつ の秩 序の もと に調 和 する景観
を求めて、
総ての手 法 を統 括 するデ ザ イン名称
で あ り、
「
景観 」
は環 境 デ ザイン の一
面 を示 す 結 果である。
以 上の よ
う
に見
てく
ると、
各時 代
のAmeniteを
求めて、
言 葉 は移っ てい る よう
な 気がする。
風景
の概念
は かつ て16世 紀 西 洋 におい て意 識さ れ た本質
的な意義
は現 代で は失
わ れ、
景 観の概 念が そ れ に代
わ り、
美
しい整っ た景観 を求めて、
その周 辺 ま た は根底
に あ る環境
の諸
問 題が浮 彫 りさ れつ つ あるのが現 代で は な かろう か。
こ の
快
適 な環境
を求
め て造
られ る現代
の景観 も
、
時
の 流 れに 埋 まっ て、
また風景
となるの で はない だろう
か。.
一
.
・
例をあ げれ ば京 都 大 文 字 送 り火 は、
京
町 衆の意 識 と宗 教的
意義
のも とに 五 山の樹
々が伐採
され、
送 り火 が 燈 され たのであ り、
きょう
と南 禅寺
の煉 瓦 造 アー
チの 疎 水 水 道橋
も同様
である。
今
日では欠
か せない風 景であ り、
保 存の対象
に こ そ な れ、
植樹
・
搬 去の声
は 聞 か ない。
景 観は時と共に 風景 と化 する之思 わ れ る。
7
お わ りに代 え て一
バウハウスの積み残した ものバ ウハ ウス の デザ イン運
動
と環境
デザ インの矛盾
は2つ に絞
る こ とが 出 来る。
1919
年
グロピ ウスの起 草
したバ ウハ ウ ス の綱
領
と 宣言
は、
「すべて の芸
術制作
を 総合
し、
新
しい建 築
のも
と に再 統 合 する」もの であっ た。
そ して新 しい 建 築一
インター
ナ シ ョナル は「
3
個
の同心 円
一
個
人・
民族
・
人 類一
のう
ちの最 大の円 が他
の2つを包 括す
る」
によっ て理論付
け ら れ た。
そ れ か ら75
年余
、
この同 心 円は同 心でな く、
歪み、
ず れてい た 筈である。
こ の歪 み、
撓みの内か ら環 境デ ザ インは発生 し た。
環 境へ の指 向 の急 浮 上は こ の現 象 が 物 語っ てい る。
ま た
、
綱 領の示 す 新 た なる建 築へ の統 合は、
18W
:紀 末 以降
、
純 粋 芸 術として分 解 独 立 する芸 術 諸領 域 を、
再 度 建 築 空間
のも と に再統
合 しょう
とす
るもの であ
っ た。
しか し75
年
の歳 月
は、
更
なる空間
一
都 市
空間
へ の統合
へ と進
んだの であ
る。同 心 円の歪みか ら生 じた インタ
ー
ナ シ ョナ ル の破綻
、
建 築
空間
か ら都 市
空間
へ の指 向
、
こ のバ ウハ ウ ス の積
み残
した2点
は、
環境
デザ インと して、
そのま ま今
日 に持 ち越
さ れ ている。
参
考 文 献 中 由・
中 森 :美
術史
・
西洋、
近藤出版社、
1986
。
歴 代 名 画 記 :岩波
書店
。
小 尾郊
・
:中 国
の隠遁 思想
、
中
公新書
。 中 村 良夫
:風 景 学 入 門、
中 公 新 書。
蔵
田 周 忠:バ ウハ ウス、
彰 国 社、
1953
。
6
風 景 か ら景 観へ、
そ して環 境へデ ザ イ ン学 研 究特 集号 SPECIAL lSSUEOF JSSD Vol