16 香川大学農学部学術報告 農作物にたいする環境汚染の影響に関する研究
Ⅱ 冬期における五色台西部地域の実感調査
梅田 裕,上原勝樹,玉置鷹彦
Ⅰ ま え が き 前報(2)において1969年7月から9月紅かけてこの地域の風向,風速の分布ならび紅植物英汁のpH,植物生薬水浸液 の比電導度を測定し,これらの実態調査を行ない,生業葉汁のpH植は潮風の影響をうける地点においては他の地点の 試料より,より高い値を示したこと,生薬の水没液の比電導度はいずれの地点の試料も特紅著しい傾向を認め聡くい ことなどを知った。 承報にいおいては前回紅引続いて,香川県瀬戸内沿岸五色台西執 すなわち坂出市番ノ州地区臨海工業地帯の東方約 5‰の地域において,1970年1月から3月紅かけて,前回と同じ手法を用いて,気象の調査と併行して戯作物紅対す る環境汚染の影響の有無の調査を行ない,夫々冬期紅おける実態を明らかにするこ.とができたので,その概要紅つい て報告する。 この調査を行なうにあたり,白井桂子,宮脇勝美,八木道明,佐藤恵美子の4氏の協力を得たことを深く感謝する しだいである。 血 調査地域の概況 前報(2)と同じ地域について調査を行なったので,その詳細紅ついては省略する。また調査期間が冬期粧当たってい たので水田地帯でほ大半が休閑され,残りほ麦類,蚕豆などの冬作物が栽培されて.いた。従って試料の採淑は,前回 の夏期における場合とほ自ら異なり,樹木類では柑橘矧その他の常緑樹が対象となった。 Ⅲ 調 査 内 容 調査は1970年1月20日,2月17日,3月18日の3回にわたって二実施された。 調査の対象として供試した植物葉ほ各地名別紅つぎのとおり計5種である。これを前報(2)の計10種に比較して∵少な いことほ,調査時期が厳寒を含む冬期のため越年性草本の種類が限られたことによるものである。また前報(2)紅記し た山神地点でほ調査試料が得られず,大屋富地点よりの魂かんが加え.られた0 亀 水 みかん,ひさかき,のげし 木 沢 みかん,ひさかき,ぴわ 相模坊 みかん,びわ 北須加 みかん,びわ 大屋富 みかん 青 海 みかん,びわ,まき 調査方法に閲しpH,比電導度の測定は前報(9)と同様の測定機器を使用し,測定法も同様に行なった。ただし,比電 導度測定のための生葉の水浸出時間を今回はそれぞれ30分,60分とした。 気象観測麿.ついては前回と全く同様粧,坂出市松山地区並びにそれ紅接続して散在する傾斜地果樹園など,農地にお ける作物災害を対象として,坂出市加茂町から乃生岬にかけての南北線上県遺沿いに,約500肌間隔庭15ケ所と青海, 木沢,飽水の各果樹園内に.,森式風向,風速自画器をそれぞれ約100C椚の高さ紅据付けて風向,風速の観測を行なった0 Ⅳ 調 査 結 果 1月20日,2月17日および3月18日の昼間における風向と風速の調査結果を示したのが第1∼3階である。また植 物尭汁pH値を第4図(1∼3)に,生葉を30分間水浸出した液の比電導度を算5図(1〈〕3)に.,そして比電導度の測定第22巻第1弓(1971) 17 に閲し,生薬の水浸出時間を30分より60分に延長した場合の比′電導度値の変化を姥1表に示した。 風向,風速に関する記録は前報と全く同様檻表示した。すなわら,強い風速が最も数多く記録されている方向,あ るいは最も退くぬりつぶされている方句を最多卦現風■句とレて矢印で表わした。又記録が明瞭になってこいる範囲風 を向変化の巾とし,羽根の広がり角度でその変化巾を表わした。なお矢の長短は風速の大小に一応比例させて−ある。 Ⅴ 考 察 この調査の目的のひとつほ,冬期に.おける同地域の果樹園その他の農地の風向,風速分布の実態を明らかにし,これが 農作物にたいする環境汚染め影響の有無との関連性を求め,その原因を究明するためのものである。 冬期紅おける季節風は,北四国でほ西または西北西で,これが仝風向の20∼25%を占める(3)のであって,したがって 太地域沿岸部の冬期における風の−・般的通性としては,この季節風紅支配されて.西寄りの風が多く,とくに西風の流 通し易い地形のところではこの傾向が強められる。もちろん瀬戸内海が東西に細長い地形であることから考えても, 冬期の西風が流通しやすいことも容易に了解される。しかし,前報(、モ.牝.も述べたよう紅地表付近の風は,微地形の影響 をうける度合が大きく地域性が著しいので,その実態を詳細に.究明するために.ほ,多点同時観測の実施が要望される。 しかし,栢密な自記計器での多点観測は経費と人手などの関係で白から制約をうけ,精度はある程度でがまんしなけ ればならなかった。 舘1図 風向・厨速分布図(45.1り20) 舞2区l風向・風速分布図(45.2.17) まず,1月20日の観測日における天気概況ほ,北海道の西方龍低気圧があり,西日本ほ割合おだやかな天気となっ 七おり,一・方大陸の揚子江下流域には高気圧があ・つて東支那海から九州方面にはり出し晴れ時々曇りの天気で,高松 における最大風速は5m/S,同風向ほ西であった。そして同日の昼間紅観測した風向,風速分布の実態ほ儲1図のよ うである。すなわち,本地域における最多風向の分布ほ.,乃生岬(No.15)から北負加(No.12)に.至る半島部でほ海岸線 の山系に沿う方向の北風で,そこでは風向変化の巾もせまく,風速もー定で,これは海岸線の山系と風向が−・致Lた
香川大学農学部学術報償 ものと思われる。さらに.南方陸地内の各測点でほ最多風 向は何れも北寄り(西偏)になっており,北須加(No“11) ≡ から中須加(No・9)紅かけての風速が幾分増大している。 1. なお大屋富(No小針では最多風向は西である0 18 次に2月17日に.ほ,高気圧は親支那海濫.あって/西日本 を掩い,西日本は各地とも晴れで日本は暖かい快晴の天 気で,高松の最大風速は5.7m/S,同風向は西であった。 当日の観測結果は第2図のようである。すなわち,太地 域の乃生岬(No.16)から北須加(No.12)の半島部では, 海上から西風をまともにうけ相模坊(Ⅳ0.14)あたりから 海岸線に/沿うて二,南北にわかれですすむようである0ま た,南方の陸地内の各測点では何れも西寄りの季節風を うけて:いることがわかる。そして風速は.半島部より何れ も大きいが,それは各測点と束方の山麓との間が地形的 にかなり開けて:いたためと思われる。 最後に3月18日把.は,四国地方は高気圧の圏内に・あっ て.晴れの天気となっでいるが,黄海紅ほ気圧の谷があり 東進していて:,高松の最大風速は10.7m/S,同風向は西 であった。同日の観測結果を示した第3図をみると,本 地域紅おける風向,風速の分布ほ,2月17日における状 態を示した第2図と似ていることがわかる。 つぎに植物葉汁pH値および電導度についてみると, 繹4図(1∼3)よりみかん生薬の葉汁pH値は飽水試料 5.6∼6.3,木沢試料5.8∼6.1,相模妨試料5.8∼6.3,北 第3図 風向・風速分布図(45.3.18) (1)み か ん 亀水 木沢 相模妨 北須加 大屋雷 管 海
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6ノノ0 ;・ ・i・・ ・:・・−・・ t・−・・・・・ ・・、こ こ・ ∴ご仁一・:;「 第4図(1)菓 汁 の pH第22巻発1号(1971) 19 (2)び わ 北須加 官 権 木 沢 相模功
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60 一・−一一−−■■■■■■■−・■・−、.・ ・ ∴・、.・・、・ −▲ 、、
欝4図(2)巽 汁 の pH 調査月日 (3〕ひさかき (4)ま き (5)のげし 魚 水 青 海 亀 水 木 沢・ノ
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ノ・へ.\\・
・.・.J・・・・ご、丁、 !・・ご1・ヽ −・・・:一丁、−、・ ・ニ・‥fさi::1 第4図(31柴 汁 の pH 須加試料5.8∼6リ5,大屋富試料と青海試料は5.9∼6.2であった。これらの数値に閲し2月17日測定のpH値はいずれの 地点においても6.0以下の値を示している。又飽水,相模坊,北須加の3地点において3月18日に採取した生薬のpH値 は6.3∼6.5とより高い値であったことは前報(町紅おいて認めたように海風紅よる影響が考えられる。ぴわ生業の兼汁 dH偲は木沢試料5.4∼5.7,相模坊試料5。4∼5.6,北須加試料5.4∼5.9そして青海試料5.5∼6.3であり,3月18日に採 取した青海試料の生業を除き他ほいずれも6.0以下の値を示した。又北須加,青海両地点において3月18日に採取した 生薬のpH砥がそれぞれ5.9,6.3とより高い値であったことは上述した3地点のみかん生薬の場合同様海風の影響が考 えられる。ひさかきのpH億は飽水試料5.3∼5.6,木沢試料5.2∼5小7であり,いずれも6.0以下の値を示した。そして今 回の調査の結果では生薬が海風あるいは海霧の影響を受けたようには考え難い。まきほ,青海試料のみであり,他の香川大学農学部学術報告 20 地点と比較することはできないが,測定した値はいずれも6.0以下を示した。のげしは亀水試料のみであり,まき同様 他の地点の試料と比較できない。得られた数値は2月17日の測定を除き1月20日,3月18日の場合いずれも6・−0以上で あった。 以上のように飽水,相模坊,北須加の各地点で採取したみかんの生業と北須加,青海の各地点で採取したびわの生 薬では築汁pH砥がより高く,前報(2)において飽水地点のほざ,相模坊地点のあれちのぎく,つゆくさ,に・れ,みかんそ して青海地点のまきなどの生薬葉汁pH値紅おいて認められたことと同様な傾向を示したことはこれらの試料採取地点 の存在する位層が瀬戸内海の気象的な要因哺に上述した風向,風速などがこの地域の植物に密接な関係をもっている ことを示すものである。 比電導度 (ミクロモ・−・) (1)み か ん 亀 水 木 沢 相椀妨 北墳加 大屋竃 層 海
\へハ\し\、
100 l...・・.・l・...、 ・ ∴.・、・.’1 ∴上㍉= 寛5図(1)生来水浸液の比電導度 彿5図(1「}3)よりみかん生薬水浸出液の比電導度は飽水試料45′・膚112,木沢試料33∼75,相模坊試料53∼75,北須 加試料41∼74,大屋富試料43∼100,青海試料32∼56ミクロ・モーと100ミクロ・モ」−あるいはそれ以下の値を示した。 寛4図(1)の生薬葉汁pH砥が各地点とも2月17日採取試料において最低値を示したことをこの時期の比電導度値と比較 するとき;後者の櫨は−・定の傾向を示さないことよりpH値の低いことは大気中の汚染物質に由来するものでないこと が考えられる。びわ生薬水浸出液の比電導度は木沢試料120∼240,相模坊試料263∼430,北須加試料75∼110,青海試 料55ん208ミクロ・モ−で各地点に.より数値紅差異が著しい。これを第4図(2)の生薬葉汁のpH値と比較するとき相模 坊,青海両地点より得られた試料の数億紅ついてpF借の低下ほ比電導度の増大を示す傾向が認められるが,これは海 風以外に大気汚染物質の影響が加わっているものであろう。しかし木沢,北須加両地点よりの試料についてはこの関 係を認め難い。ひさかき生薬水浸出液の此電導度は飽水試料38∼91,木沢試料24∼87ミクロ・モ・−を示した。まき生菓 水浸出液の比電導度は青海試料41∼183ミクロ・モーr,のげしのそれは飽水試料26∼580ミ.クロ・モ−であり,これら の値と生葉菜汁p掛値との間紅ほ一・定の傾向を認め難い。寛22巻碍1葛(1971) 21 (2)び わ ㌧・;・、・ ㌧ニー・、− ‥.・・ご.ト ー・・∴.て .j・ご・詫・二こj 第5区l(2)生薬水浸液の比電導度 (3)ひかさき (4)ま き (5)のげし 比電導度 (ミクロモー) 1ノ£ ヲ1i31さ tふ ご1丁 コ1; lふ ご1;つ危 1ム ヲ1丁 モイさ 鎗5図(3」生柴水浸液の比電導度 調査月日
香川大学農学部学術報卓 22 以上のように相模坊,膏濁両地点のびわの生薬水浸出液の比竃導度値は生薬真打のpH値と閑適をもつもののようで ある。このことは前報(2)で得られた結果とは趣を異にしてこいるが,これは今回の風向,風速の測定結果からも知られ るように本調査の期間ほ冬季であり,前報の夏季の場合より,海上より吹ききたる風がより優勢であったことに関連 しているものと考えられる。 前報(2叱おいて生業水浸出液を得る場合の浸出時間について生黄白体の作用に・より汚染物質の植物への影響が打ち 消されぬ範囲内での水浸出が好ましいことをのぺたが,本報払おいては浸出時間を30分と60月に.定め,水浸出時間に よる此電導度の変化を調査した。 策1表 水浸時間差紅よる比電導度の増大 (ミクロモー・,200C) 鴇1表より生薬の水投出時間を 30分より60分紅延長した場合の水 浸出液の比電導度の変化ほ飽水 地点ののげし生共に.おいて1月20 日採取試料が170ミクロ・モ′−, 相模坊地点のびわ生薬2月17日採 取試瀾が70ミクロ・モーー増大した ことを除く他の試料紅ついてこほ0 ないし40ミクロ・モ−と増加程度 が著しくない。これを前報(2)紅 おいて300分水浸出を行った結果 に.比較すると浸出時間紅よる変動 が少なく,しかも植物の種凝匪よ る差もー雇傾向を認め難い。この ことより生薬の水浸出時間が長時 間紅わたることは生薬表面紅何者 した水路性汚染物資による影響を 判定する上紅誤差の庶因になるこ とが理解される。 又海風は海水の.エ・一口ゾルを運 び来るであろうことは想像される ところで,これに含まれるNaCl その他の塩類の影響紅ついてはつ ぎの点も留意すべきであろう。す なわちAmduI(1)がチッ汐クネ ズミをSO2とNaClのエー・ロゾル を含む空気中で飼育した試験では 呼吸器に対するエーーロゾルの意影 このことは植物に対しても考えら 響がSO2を単独に含む空気中で飼育した場合よりも大きいことが認められている。 れるところである。 すなわち本地域湛.おける若干の地点より採取した植物の生薬ほ海風の影響をうけているいとが知られたが,今後本 地域の西方約5‰に位置している番の州工業地帯の建設が進展するとともに.大気中のSO2その他の汚染物質の増加が ある程度予想されることより,植物の薬に対するその影響は断風の影響と相乗的にほたらき,場合紅よってほAmduI のテンジクネズミ.を用いたSO2とNaClの実験同様植生に不利な影響を与えるであろうことが考えられる。このこと ほ既に福島県紅おいて海岸に近い水田の水稲庭・対する大気汚染物贋濫よる被害の発現様相で我々の1人(玉置)が感 知したところである。
第22巻発1号(1971) 23 Ⅵ 摘 要 前報(2)に・ひきつづき香川県坂出市東部に.位置す畠五色台台地の北辺および西部山麓地帯に.おいて1970年1月から 3月紅かけて風向,風速ならび紅植物糞汁のpH,植物菓水浸出液の比竃導度を測定し,実態調査を行ない次の結果 を得た。 1・調査期間における本地域の風向ほ,何れも冬期の季節風に.支配されて西寄りの風が卓越し,風速ほ夏期に.おけ るより何れも大きい。しかし,沿岸地帯の半島部では海岸線の山系紅沿う流れとなり,風速も小さい。 2・飽水,相模坊,北須加の各地点より採取したみかんの生薬および北須加,青海両地点より採取したびわの生薬 中3月に採取した試料の菜汁pH値は他の試料より,より高い値を示し,海風の影響をうけていることが知られた。 3・相模坊,青海両地点より2月に採取したびわの生薬の水浸出液の比竃導度借ほより大きく,生業葉汁pH値がよ り低いこととの関連で海風以外の大気汚染物質の影響が考え.られる。 4.生葉の比電導度を測定する場合,水による浸出時間ほ長時間にわたることを避けることが好ましい。 引 用 文 献 (1)STERN,A.C.:Air・Pollution,2nd ed.,507, (3)和達晴夫監修:日本の気候,362,東京,東京堂 New・York,Academic Press(1968). (1958). (2)玉置鷹彦,上原勝樹,梅田 裕:本誌21,74,(1970)
STUDIES ON THE EFFECTS OF AIR POLLUTANTS TO THE PLANTS
ⅡInvestigation of the Effects of Sea Windin
Winter Season to Plant Leaves at,the Western
Part of Goshikidaion the SetouchiCoast
Yutaka UMEDA,MasakiUEHARA,
and Takahiko TAMAKI
SⅥmmaryContinueing the previous work,fromJanuary to March,1970,five species of plantleaves were COllected at the western part of Goshikidai,Kagawa−ken,Japan.The deteIminations ofthe pH values
Of the cellsap obtairled from ground plantleaf tissue were performed at the fieldinsitu by the
portable pH−meter With the specialelectrode and the electric conductivities of the water extracts of
the same plantleaves were determined by the portable electric conductometerinthelaboratory.On the
Other hand,the winddirection and thewind velocity at the eighteen observation stationsinthis district
Were meaSured by Mori,s apparatus.The pIIvaluesand the specific electric conductivites of above・
described plantleaf cellsap were studied to the direction and the velocities of the wind at each ob−
SerVation stations especially notingtheeffects of the sea wind.It was recoginzed that the seawind vel−
OCitiesof some observationstationsat thenorthem andnorthwestern partsof thisdistIict predominated
than the otherpart windvelocities andtheplant cellsapsamples obtained from theleavesof the citrus
and euryawhich are plantedin these parts had higher pH values than the otheェsn The specific electric