挙国一致内閣を示唆したメイ首相
Brexit を巡る政府の決定には、何度も驚かされましたが、今週はその中でも特に驚く展開 がございました。 毎週 Brexit 関連の記事になってしまいますが、もう少しの辛抱だと思いますので、もうしば らくお付き合いください。今回も今週中に起きた出来事をお伝えし、ここからの動きについ て考えてみようと思います。2 度めの Indicative Vote(IV2)も全て否決
今週は、月曜日から重要決定が続きました。この日は 2 度めの Indicative Vote(以下、IV2) が実施されました。提出されたオプションは 8 個ありましたが、最終的にバーコウ議長は 4 つ選択しています。 オプションの提出者と内容、議会での採決結果は以下の通りです。 ① オプション C: 保守党クラーク議員【Withdrawal agreement ( 離脱条件に関する合意、以下 WA) 、Political declaration (将来 の EU/英国の関係についての政治的合意、以下 PD) ともに、英国は Brexit 後も、関税同 盟に残留することを保証する文言が含まれる】 3 月 27 日に実施された最初の Indicative Vote(以下、IV1)では、265vs271 の 6 票差で否 決されています。 そして、IV2 の採決結果は「賛成 273 vs 反対 276 となり、3 票差で否決」 ② オプション D: 保守党ボールズ議員と超党派 【コモンマーケット 2.0 メイ首相の Brexit 案の PD の部分の再交渉。ノルウェー式に似た関係を築く 移行期間が終わったら、EFTA を通じて、単一市場に残留する】 3 月 27 日の IV1 では、非常に似た案が採決されましたが、その時は、283vs189 の 94 票 差で否決されています。 そして、IV2 の採決結果は、「賛成 261 vs 反対 282 となり、22 票差で否決」 ③ オプション E: 労働党カイル議員と超党派 【新たな国民投票の実施
議会で Brexit 案が決定したら、それを国民投票にかける。そこで、国民が合意した案のみ を、英国議会は批准できる】 IV1 では、労働党ベケット議員がこれと同じ案を出し、268vs295 で否決されました。 IV2 の採決結果は、「賛成 280 vs 反対 292 となり、12 票差で否決」 ④ オプション G: SNP 党チェリー議員と超党派 【もし、英国が合意なき離脱を選択した場合、EU 離脱日の 2 日前に、英国政府は長期延 長を EU に要請する。もし、離脱日の前日にも延長が確認されなければ、政府は即刻、合 意なき離脱の是非の採決を実施。そこで否決となれば、EU 基本条約 50 条の一方的な破 棄を EU に連絡する。もし、EU が承認しない場合、英国議会はあらためて EU 基本条約 50 条の一方的な破棄か EU との再交渉のいずれかについて、国民投票を行なう】 IV1で、このオプションとほとんど同じ内容が採決され、184vs293 で否決されています。 そして、IV2 の採決結果は、「賛成 191 vs 反対 292 となり、101 票差で否決」 https://publications.parliament.uk/pa/cm201719/cmagenda/OP190401.pdf
メイ首相、驚きの発表
メイ首相は 4 月 2 日、驚きの発表をしました。 この前日までに、議会では MV(本採決)が 2 回。WA(離脱合意)の採決 1 回。IV (Indicative Vote)を 2 回。合計 5 回の採決が行なわれ、全て否決されました。 さすがに焦りを感じたメイ首相はこの日の朝から閣僚会議を招集。当初は 3 時間の予定で したが、最終的に 7 時間に及ぶものとなりました。 閣僚会議終了後のメイ首相スピーチ この日の夜遅く、メイ首相は急遽、首相官邸から国民に対しスピーチを行ないました。私は ちょうど遅い夕食を食べるところでしたが、その内容を聞いて本当に驚きました。メイ首相 は、このように語りかけたのです。 「合意なき離脱を避けるため、交渉期間の再延長の必要性を感じる。しかし、延長期間は できるだけ短くしたい。そこで、私は野党の党首と協力して、この難関を突破したいと考える。 しかし、話し合いのベースとなるのは、英国が昨年 11 月に EU と合意した Brexit 案となる。 我々が今後フォーカスすべきことは、将来の EU との関係である。コービン党首と私は、議 会で承認される案について合意しなければいけない。もし議会で何らかのオプションが決定されれば、それを Brexit 案に加えるよう法的措置を取る。これらの一連の作業は、5 月 22 日までに議会を通過する必要がある。それが出来れば、英国は欧州議会選挙に参加 する必要がないからだ。」 え?与党が野党と協力して乗り切る? 本気で首相はこう考えていらっしゃるのか? もしかしたら、政治家として、私などには理解できない隠れた作戦があるのかもしれません。 そして、英国が置かれている状況は「非常事態」に近いものがありますので、常識にとらわ れるべきではないのでしょうが、やはりこの段階で労働党にヘルプを求める行為は、私の 中では理解できませんでした。 しかし、4 月 4 日に実施された調査会社大手:YouGov 社の世論調査結果によると、「与野 党が一丸となって Brexit を解決することについて、賛成する人が 45%。反対する人は 22%」となっており、私の考えはマイノリティーであることがわかりました。 メイ首相のこの発表を受け、保守党からの離党議員が増えているのも事実です。 https://yougov.co.uk/topics/politics/articles-reports/2019/04/02/what-do-public-think-might-break-brexit-deadlock?utm_source=twitter&utm_medium=website_article&utm_campaign=national_government メイ首相の態度激変 この日のメイ首相の言動には、不可解なことが他にもありました。 2017 年解散総選挙で保守党は、ハード Brexit をマニフェストとして戦いました。具体的な 内容としては、関税同盟への残留は、あり得ない。交渉期間延長も、短期のみ認める。 2019 年 5 月の欧州議会選挙には参加しないなどというものでした。 この日に至るまで、メイ首相は一貫して「政府のデフォルト案は、合意なき離脱」と語ってい ました。つまり、2017 年総選挙でのマニフェストを順守する姿勢を崩さなかったということで す。 しかし、この日のスピーチでは一転して、「合意なき離脱は出来るだけ避け、延長が必要で あれば前向きに検討したい」と語り、180 度態度を転換したのです。 もしかしたら、保守党クラーク議員の「関税同盟残留」が可決されれば、ソフト Brexit となる リスクが党内でも無視出来ないほど高くなってきたので、2017 年総選挙のマニフェストを裏 切る形にはなるが、やむを得ないと腹を括ったのでしょうか?このあたりの態度の豹変も気 になりました。 7 時間続いた閣僚会議の様子 この日の閣議では、交渉期間の延長についてメインに話し合われた様子です。後日漏れた 噂によると、出席していた閣僚達の意見はこんな感じだったと報じられました。
・ 交渉期間の長期延長を希望 10 人 ・ 延長に反対。合意なき離脱でさっさと離脱したい 14 人 ・ 自分の意見を言わなかった閣僚 2 人 ・ 解散総選挙、または 2 度目の国民投票実施を提案 1 人 つまり、出席した閣僚の半数以上は、合意なき離脱でさっさと離脱を希望していたようです。 それにも関わらず、会議終了直後にスピーチをしたメイ首相は、労働党コービン党首に協 力を求め、合意なき離脱の可能性をなくすと呼びかけました。本当に不可解なことばかりで す。
ユンケル欧州委員会委員長の発言
4 月 3 日、欧州議会で演説をしたユンケル委員長。そこでの発言が話題になっています。 先週のコラム記事と重複してしまいますが、3 月 21 日の EU サミットでは、EU 側は 5 月 22 日まで交渉期間を延長したい場合、「遅くとも、3 月 29 日までにMV3 を実施し、Brexit 案を 可決すること」と条件をつけました。 https://data.consilium.europa.eu/doc/document/XT-20006-2019-INIT/en/pdf しかし、4 月 3 日の演説では、3 月 29 日という期限を 4 月 12 日に変更しています。 「英国議会が WA を 4 月 12 日までに可決できれば、EU は 5 月 22 日までの延長を承認す るだろう。繰り返すが、英国が WA を承認する最終期限は、4 月 12 日となる。 もしこれに失敗したら、それ以上の短期的な延長は不可能となる。4 月 12 日以降、EU は 5 月の欧州議会選挙を危険にさらすことになり、EU そのものも危険をかかえることになるだ ろう。4 月 12 日夜中 12 時時点での合意なき離脱の可能性は増えた。私はこういう結果に なることは望んでいない。しかし、EU はこういう事態に対し、準備を進めているとも確信し ている。これだけは分かって欲しいが、私は何があっても、英国の合意なき離脱を阻止す るために頑張るつもりだ。EU はいかなるメンバーであれ、放り出したりしない。私個人とし ても、全力で合意なき離脱を阻止する。そして、EU27 ヶ国のリーダー達と英国政府も、同 様の考えであると確信している。」 特に最後の部分についてですが、もし英国が合意なき離脱となれば、5 月の選挙では「欧 州懐疑派・ポピュリズム政党」が票を集めることになることに懸念を抱いており、是が非でも 阻止したいという決意が、この発言にあらわれていると思いました。クーパー議員法案採決
4 月 3 日の英議会では、労働党クーパー議員と超党派が提出した緊急動議に 5~6 時間 割当てられました。私は政治の専門家ではありませんので、動議提出後の審議/採決から法案化の工程にどのくらい時間をかけるのか知りませんが、いろいろな報道を読む限り、 短くても 数週間単位の時間が必要となるという記事を、目にしました。そのため、いくら緊 急時とは言え、わずか数時間という枠の中で行うことには、議員の間でも非常に抵抗があ ったようです。 クーパー議員が提出した法案内容は、「議会で何も決まらず合意なき離脱になることを避 けるため、メイ首相は EU に長期延長を要請することを義務付ける」というもの。 1 回目のリーディングでの採決では、賛成 312 対 反対 311 、1 票差で賛成 2度目のリーディングでの採決では、賛成 315 対 反対 310 、5 票差で賛成 そして、最後の 3 回目の結果は、賛成 313 反対 312、 1 票差で可決となりました。 そして、翌 4 日には上院で審議/採決が行なわれ、そこでも可決。 これらの結果を受け、(4 月 12 日までにメイ首相の Brexit 案が本採決で可決しない限り) EU に対し、正式に希望する離脱日を明記した交渉期間延長の要請に動くことになりました。 4 月 10 日の臨時 EU サミットで提出されるはずですが、果たして EU27 ヶ国は全会一致で 期間延長を承認するか? もし、承認したとしても、延長期間の長さについて修正を迫るか、 まだわからないことだらけです。