1.
諸 言 近年,多くの女性が会話の中で「かわいい」という表現を 多用するようになった.ひとえに「かわいい」といっても, 「ゆるかわいい」や「レトロかわいい」など,様々なイメージ と融合した使われ方や,さらに「キモかわいい」や「グロかわ いい」など本来ネガティブな印象の言葉と合わさり,両義性の ある表現も出現している.客観的には複雑で理解しにくい表 現も多いが,あくまで「かわいい」が基調となっており,そこ にネガティブな評価は含まれていないように思われる.これ らのように,「かわいい」に潜む意味やニュアンスの幅は広 がっており,曖昧さを残しながら多様化していると言えよう. 「かわいい」という価値観を文化論的にみると,枕草子の 「うつくしきもの」が起源と言われており,その歴史は古い ことがわかる[1
].1974
年には「ハローキティ」が誕生し, かわいいキャラクタとして現在も愛され続けている[2
].2010
年くらいからはご当地キャラクタが注目され始め, ゆるキャラとも言われるこれらは今では全国各地に数多く存 在している[3
].2011
年にデビューした「きゃりーぱみゅぱ みゅ」は,その独特なファッションや歌の世界観が「かわい い」と評価され,今やかわいいアイドルのアイコン的存在と なっており,国内外で注目されている[4
].福岡市は地元の 魅力を「カワイイ」というコンセプトで発信し,交流人口の拡 大や産業の振興などにつなげる目的で,2012
年8
月29
日に8
つ目の区となる「カワイイ区」を設置した[5
].2013
年4
月 に は, 最 新 の か わ い い 音 楽 や フ ァ ッ シ ョ ン が 融 合 し た 「KAWAii!!
」の祭典として「KAWAii!! MATSURi
」が開催されている[
6
].これらのように,日本における「かわいい」 は長い歴史の中で育まれ,浸透してきた.さらに,対象をキャ ラクタ,アイドル,イベントなどに広げ,近年では「かわい い」という言葉がより身近なものになっている.それと共に 口にする機会も増え,表現する意味合いは拡大を続けている. 著者はこの多様化する「かわいい」の価値観と,「かわい い色」に着目した.「かわいい」感性が多様化している状況 に も か か わ ら ず, プ ロ ダ ク ト デ ザ イ ン な ど の 現 場 で は 「かわいい色と言えばピンク」と固定化されているケースが 多いように感じられる.「かわいい」には様々な感情が込め られており,個人によって何をかわいいと感じるかは異な るはずである.そこで「かわいい色」の定量的な把握と, そのクラスタリングに関する研究に取り組むことにした.2.
研 究 背 景 プロダクトやグラフィックなどをデザインする際,「色」 は非常に重要な要素である.生活者の心に響く価値を考える に当たり,色の嗜好性を考慮することはもちろん,商品の イメージや世界観を伝えるために色を計画的に利用すること が大切である.福岡市カワイイ区の宣伝効果は広告費換算で2
億5
千万円と言われ[7
],また,入戸野らの実験により, かわいい動物の写真を見ることで注意力を要する作業の成績 が向上することが明らかとなっている[8
].これらのことか らも「かわいい」はこれからも注目されるだろう感性である ことがうかがえる.このような状況下において,「かわいい 色」について研究を深めることは様々な商品の色彩設計を考 える上でも有意義であると考える. 「かわいい色」に関しては大倉らの報告がある.これによ り,かわいい色は明度や彩度が高いほど選択されやすく,かわいい色の調査結果に基づく評価者のクラスター分類とその嗜好特性
清澤 雄
株式会社日本カラーデザイン研究所Classification of Test Subjects and its Taste Characteristic
based on Experimental Results of “Kawaii” Color
Takeshi KIYOSAWA
Nippon Color & Design Research Institute Inc, 3-5-2 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan
Abstract : Recently, the word “kawaii” is getting familiar to many people. They have greater opportunities to use “kawaii” in their
conversations, and so, the meaning contained in “kawaii” have become diverse with confusion. In despite of this situation, it seems like there are a lot of cases that pink is the typical color representative of “kawaii” on product planning. In this study, it is intended to classify the test subjects and clarify the taste characteristic of each cluster from the aspect of “kawaii”. We conducted the survey to 360 women in their students to 30’s by using the panel of 48 colors. As a result, six clusters of “kawaii” color were obtained. We found out that there are variations of “kawaii”, and the point where people feel “kawaii”, including colors, images and values differs from one type to another.
特に明度でその傾向が顕著であることが明らかとなってい る.しかし,
5
色相という限られた色相,少ない被験者での 実験であり,「かわいい色」のパターンをクラスタリングす るという結果には至っていない[9
].また,真壁らによると, 「かわいい色」は特定の色相というより,トーンがポイント であり,ピンクに関しては無条件にカワイイ特定色であると しているが,デザインの定量化は極めて難しいとも述べてお り,定性的な考察にとどまっている[10
]. そこで本研究では,女性を対象としたアンケート調査によ る実験を行い,「かわいい色」について定量的に探ることと する.「かわいいと感じる色」を切り口にして被験者をクラ スタリングし,「かわいい色」のバリエーションを顕在化す ると共に,分類したそれぞれのタイプの嗜好性や「かわい い」の世界観,かわいい志向の強さなどについて明らかにす ることを目的とする.3.
実 験3.1
調査方法と調査対象 調査は嗜好やかわいいと感じるものを判定するための, ビジュアルを用いた設問と,嗜好テイストやかわいい観を探 るための文章による選択肢の設問から成るWEB
調査による もので,2012
年2
月に実施した. 被験者は首都圏(東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県)及び, 京阪神地区(大阪府,京都府,兵庫県,奈良県,和歌山県) に住む,18
歳以上の学生,20
代,30
代の女性で各セル120
名, 計360
名を対象に分析を行った.3.2
イメージスケールについて 本研究では,調査に用いるビジュアル試料や設問項目を 選定するにあたり,株式会社日本カラーデザイン研究所の ノウハウであるイメージスケールを利用している.ここで 単色のイメージスケール,配色のイメージスケール,言語 のイメージスケールについて簡単に説明をしておく. 図1
に示す単色のイメージスケールは,130
色(10
色相,12
トーンの120
色の有彩色と10
色の無彩色)の単色につい てSD
法によるイメージ調査と因子分析を行った結果から構 築された.因子分析の結果から得られたウォーム−クール 軸,ソフト−ハード軸の二次元上で130
色をプロットしたも のであり,単色のイメージの広がりを可視化したものである. 単色ではハード方向の色ほど,人が感じるイメージの広が りが小さいことが明らかになった.そこで次に,より微妙な イメージの違いを配色により捉える研究を行った.あらかじ め定められたワードのイメージを表現する配色を作成し, イメージ調査を基に上記と同様のウォーム−クール軸,ソフ ト−ハード軸の二次元上にプロットしたのが図2
に示す配色 のイメージスケールである. 次に,配色を作成する際に定めてあったイメージワードを, プロットした配色と同位置に位置付け,ワードのマップに変 換,体系化したものが図3
に示す言語のイメージスケールで 図1 単色イメージスケール 図2 配色イメージスケール 図3 言語イメージスケールある.配色における感性語が投影された意味空間としての機 能を持つといえる.さらにワードの散らばりをグルーピング し,イメージのかたまりとして
16
イメージの概念も構築した. イメージスケールは,このウォーム−クール,ソフト−ハー ドの二次元空間上でイメージの広がりを網羅的に捉えること ができるツールとして昇華させたものと言える.いろいろな モノや言葉,事象などをこの二次元空間にプロットすること で,分野を越えて把握,関連付けることができ,相対的な位 置づけやパターン化により,イメージを総合的に評価分析す ることができる[11
].3.3
ビジュアル試料 嗜好判定用のビジュアルには48
色の単色と30
パターンの 配 色 を 採 用 し た.48
色 の 単 色 の 選 定 は, 小 林 ら に よ るHUE&TONE
カラーシステムをベースに検討している[12
]. これは図4
に示すように,10
色相,12
トーンの120
色の有彩 色と10
色の無彩色の計130
色の単色を,色相×色調によって 整理したものである.このカラーシステムを参照し,色相と トーン,さらにイメージのばらつきを考慮して46
色を選定し, ゴールド,シルバーの2
色を加えて48
色とした.ここで言う 「ばらつきを考慮して」とは,例えば彩度の高い色は色相に よってイメージが大きく変化するので幅広く色相を採用し, 一方明度や彩度が低いトーンでは色相によるイメージの変化 が小さいので,色相を絞って選択するといったことである (図1
参照).また,ファッション及びインテリアといった生 活環境でよく使われている色(アイボリー,ベージュ,ブラ ウンなどの慣用色)を採用している.ゴールド,シルバーは 質感を伴うため純粋な色とは言えないが,ファッションやプロ ダクトの分野で慣用的に使われる色であるため加えている. 調査に用いた単色パネルを図5
に示す.V
(ビビッド)トー ン9
色,S
(ストロング)トーン1
色,B
(ブライト)トーン5
色,P
(ペール)トーン3
色,Vp
(ベリーペール)トーン4
色,Lgr
(ラ イトグレイッシュ)トーン4
色,L
(ライト)トーン4
色,Gr
(グ レイッシュ)トーン3
色,Dl
(ダル)トーン1
色,Dp
(ディープ) トーン3
色,Dk
(ダーク)トーン3
色,Dgr
(ダークグレイッ シュ)トーン2
色,無彩色4
色,メタリック調2
色といった構 成になっており,カラーパネルをWEB
調査用に作成した. 図5 単色パネル(48色) 図6 配色パネル(30パターン) 図4 HUE&TONEカラーシステム30
パターンの配色の選定は図2
に示すような,小林らによ る配色のイメージスケールをベースに,イメージを網羅する ように選定した[13
].調査に用いた配色パネルを図6
に示す. 今回の調査はWEB
調査であるため,被験者によってモニ ターなどの調査環境を統一することが難しい.そこで,調査 画面上で各色に色名を併記し,相対的に判断してもらえるよ う提示するビジュアルを一画面で見せるようにするなど, 調査環境の違いによる影響が極力小さくなるよう配慮した.3.4
調査項目 ビジュアルを利用した調査は,48
色の単色については,「か わいいと感じる色」,「好きな色」,「携帯電話として使いたい 色」の3
項目についてマルチアンサー形式で答えてもらっ た.30
パターンの配色については,「好きなイメージのもの」 について同じくマルチアンサー形式で答えてもらった. また,ビジュアル項目と共に嗜好性やかわいい観を探るた め,60
ワードの「好きなイメージ」,40
タイプの「どのような 人と言われるとうれしいか」,24
タイプの「共感できるかわいさ」を設問項目として設け,いずれもマルチアンサー形式で 答えてもらった.それぞれの設問項目を以下の図
7
∼9
に示す. 「好きなイメージ」に関しては図3
に示した言語のイメー ジスケールから,イメージの偏りや漏れのないよう選定し た.他の選択肢の検討については,まず雑誌やWEB
からワー ドを収集し,「共感できるかわいさ」については一部ワード を作り,図3
に示す言語イメージスケールを参照しながら イメージスケール上にマッピングした.それを基に検討し, 同様に極力イメージに偏りや漏れがないよう配慮して選定 した.このようにして未知の各クラスターにおける特性把 握に対応できるような選定を心掛けた.3.5
分析手順,方法 取得したデータより以下の手順,方法で分析を行った.1
)年代別に「かわいいと感じる色」と「好きな色」におけ るクロス集計を行い,女性全体の傾向と各年代の傾向を 把握する.2
)「かわいいと感じる色」の全体結果における上位3
色(ベ ビーピンク,ピンク,コーラルのピンク群)と4
位以降 の色で大きな差がみられたため,上位3
色のピンク群か らしか選択していない被験者40
名を特徴的な1
つのクラ スターとみなし,先に除外する.3
)残りの320
名を対象とし,「かわいいと感じる色」のデー タをもとに数量化Ⅲ類を利用して分析し,特徴軸の抽出 を行う.4
)抽出した軸の解釈を行い,サンプルスコアよりクラスター 分析を行う.5
)先に除外した40
名も上位のピンクのみを選ぶクラスター として採用し,調査項目とクロス集計した結果から各ク ラスターの特徴を分析する.4.
結 果4.1
全体,年代別にみたかわいい色と好きな色48
色の中から「かわいいと感じる色」として選んでもらっ た色の結果を図10
に示す.全体の結果で降順にソートし, 上位12
位の単色についてグラフ化している. 「かわいいと感じる色」としての評価では,全体でみると 上位のベビーピンク,ピンク,コーラルの3
色の選択率が5
割を超えており,非常に高い結果となっている.この3
色 はどの年代でも上位3
色に入っており,年代に関わらず 「かわいい色」と言えばやはり,まずピンク系であることが わかる.年代別にみると学生ではコーラルやクリームといっ た,やわらかい暖色系の色が,20
代でマゼンタやオレンジ といったやや彩度の高く目を引く色が,30
代ではペパーミ ントやベビーブルーなど,明るくさわやかな寒色系の色が全 体と比較すると高い. また,「好きな色」との関係について図11
に示す.女性全 体,学生女性,20
代女性,30
代女性について,「かわいいと 感じる色」と「好きな色」のどちらかで選択率が25%
以上 ある色をピックアップし,「好きな色」で降順にソートし, グラフ化している. 全体の結果では,「好きな色」も「かわいいと感じる色」 の結果と同様に,ピンク系が上位に並んでいる.しかし, 図7 好きなイメージ 図8 どのような人と言われるとうれしいか 図9 共感できるかわいさ 図10 全体における「かわいいと感じる色」の上位12色と 各年代の選択率その選択率をみてみると「かわいいと感じる色」では
5
割を 超えているのに対し,「好きな色」では3
割程度である.また, 「かわいいと感じる色」では上位の3
色と4
位以降の色の選 択率の差が大きく,回答がピンク系に集中していたのに対 し,「好きな色」では差が小さく,回答にバラツキがある, つまり嗜好の多様性がうかがえる.また,「好きな色」では ピンク系の次に,スカイブルーやターコイズといったブルー 系や,赤,黒といった比較的彩度の高い,目を引く色が挙がっ ている.これらは「かわいいと感じる色」と比較すると選択 率が10
ポイント以上高く,特に商品色のスタンダードカラー でもある赤や黒では差が大きい結果となっている.逆に, ペパーミント,アプリコット,ベビーブルーのように彩度が 低く明度が高いトーンの色は「かわいいと感じる色」として の評価の方が高くなっている. 以上のことより,ピンク系はかわいいと感じられていると 共に好かれる色と言える.また,彩度の高いブルー系や, 赤や黒は「好き」の評価の方が高く,ブルー系や暖色系の明 るくやわらかい印象の色は「かわいい」の評価の方が高い. 年代別に「好きな色」をみると,学生ではスカイブルー, ターコイズ,青といった彩度の高いブルー系が上位に並ん でいる.20
代ではピンク系が上位を占め,パープルやマゼ ンタといったエレガントで女性らしい色も上位に挙がって いる.30
代ではピンクやコーラルが「かわいいと感じる色」 に対して順位を下げ,スカイブルーやラベンダーなどのGY
∼P
系の色が上位に並び,白も上位に挙がっている. どの年代でも彩度の高いブルー系や赤や黒,白のようなス タンダードなカラーでは「かわいいと感じる色」と「好き な色」の選択率に大きな差がみられ,「好きな色」としては 上位に並ぶ色である.4.2
「かわいいと感じる色」の特徴軸の抽出と解釈 前節の結果では,女性全体でベビーピンク,ピンク,コー ラルの上位3
色のピンク系カラーが5
割を超え,4
位以降が4
割未満であることから,この3
色を中心とした特徴的なク ラスターが抽出されることが予測できる.そこで本研究で は,多様なバリエーションのクラスターを抽出するべく, 上位3
色の中からしか選んでない被験者40
名を1
つのクラス ターとしてあらかじめ除外して調整した.残りの320
名を対 象に,上位3
色の色を除いた45
色のデータから数量化Ⅲ類 を行い,図12
に示す3
軸の抽出,解釈を行った. (A)全体 (B)学生 (C)20代 (D)30代 図11 「好きな色」と「かわいいと感じる色」の関係 図12 非階層クラスター分析によるクラスター中心カテゴリスコアと色の関係から,Ⅰ軸は明るさややわらか さを表わす「高明度←→低明度」,Ⅱ軸は鮮やかさを表わす 「高彩度←→低彩度」,Ⅲ軸は色相やトーンから受ける印象か ら「
Y
∼G
系の色相(自然・天然さをイメージさせる)←→ ニュートラル系(人工感をイメージさせる)」と解釈した.4.3
クラスター分析結果 抽出した3
軸に対応するサンプルスコアを利用して, 「かわいいと感じる色」に関して非階層的クラスター分析を 行い,5
つのクラスター解を採用した.用いた3
軸の変数に おけるクラスター中心を図12
に示す.また,各クラスター の構成比を図13
に示す.人数の多い順にクラスター1
∼5
ま で番号をつけ,最初に除外していた40
名のクラスターを6
番目のクラスターとしている. クラスター別にみた「かわいいと感じる色」の上位8
色 の結果を図14
に示す.図12
のクラスター中心と併せて各ク ラスターにおける「かわいいと感じる色」の特徴を以下に 示す. [クラスター1
] 全体の約4
割を占める.クラスター中心は高明度方向に位置 しており,ベビーピンクやペパーミントなどの明るいトーン のソフトでロマンチックなカラーをかわいいと感じている. [クラスター2
] 全体の22.2%
を占める.クラスター中心はどの軸において 図13 クラスター構成比 図14 クラスター別にみたかわいいと感じる色上位8色も中心近くに位置しており,コーラルやアプリコット,ラベ ンダーをはじめターコイズやスカイブルーといったブルー系 も全体と比較すると高い.クラスター
1
と比べると彩度が高 く,やや明度が低いトーンのプリティでポップなカラーが上 位に並んでいる. [クラスター3
] 全体の11.4%
を占める.クラスター中心は低明度で高彩度, 人工的なカラーを示しているが,マゼンタが特徴的に高く, コーラル,ピンクと続いており,比較的彩度の高いピンク系 バリエーションのウォームカラーをかわいいと感じる特徴が ある. [クラスター4
] 全体の10.6%
を占める.クラスター中心は高彩度で自然の 方向に位置しており,オレンジ,黄,赤といった彩度の高い トーンの中から暖色系を中心に選んでいる.黄緑も特徴的 で,健康的でカジュアルなビタミンカラーをかわいいと評価 している. [クラスター5
] 全体の3.6%
と少数派ながら,低明度で低彩度なカラーをか わいいと感じる注目すべきクラスターである.グレイッシュ でレトロ,クラシックな印象のカラーである,オールドロー ズやライラックなどが上位に並ぶ. [クラスター6
] 前節で述べた通り,ベビーピンク,ピンク,コーラルの中か らしか選んでない40
名を1
つのクラスターとして抽出した もので,全体の11.1%
を占める.プリティな印象のピンク, ベビーピンクが8
割を超える.本研究では「かわいい色と言っ たらピンク」というような,かわいい色クラスターの中心的 クラスターと位置付けることとする.女性全体ではベビーピ ンクが1
位だったが,このクラスターではピンクの方が高い 結果となっているのが特徴的である.6
タイプのクラスターを抽出したが,特定のトーンとピン ク系の色相でかわいい色の世界観を分けられるようである. かわいいと感じる色として,クラスター1
はP
(ペール)トーン のような高明度のトーン,クラスター2
はB
(ブライトトーン) のような1
と比較するとやや彩度の高いトーン,
クラスター3
はピンクを中心とする色相のバリエーション,クラスター4
は彩度の高い暖色系の色相,クラスター5
は中明度中彩度の 地味なトーン,クラスター6
はピンク系の色相がそれぞれポ イントであることがうかがえる. 同様に「好きな色」,「携帯電話として使いたい色」「好き なイメージの配色」と,ワードによる設問の「好きなイメー ジ」,「どのような人と言われるとうれしいか」,「共感でき るかわいさ」についてもクロス集計を行った.一覧表にま とめた結果を表1
に示す.全体と比較して5
ポイント以上で かつ選択率が20%
以上の項目をそのクラスターの特徴的な 項目とみなしてピックアップしている(ビジュアル項目は 最大5
つ,ワード項目は最大3
つ).表中括弧付きで掲載し ている項目は,全体と比較して5
ポイント以上の差はないも のの,そのクラスターで1
位の項目を意味している. 各クラスターにおける「かわいいと感じる色」については 上述したが,表1
より他の項目の結果と併せてみてみると以 下の傾向が得られた.「かわいいと感じる色」を媒介にして クラスタリングしたが,嗜好性やかわいい観もそれぞれ特徴 的なものとして表れている. [好きな色について] クラスター毎に色相やトーンの特徴をみてみると,「かわ いいと感じる色」と概ね似た傾向である. ただし,クラスター5
では相違がみられ,どちらもグレイッ シュな地味なトーンではあるが,「かわいいと感じる色」の 方が,明度が高い.明るくやわらかい印象の色の方が「かわ 表1 クラスター別にみた特徴的な項目一覧いい」の評価は高いと本章
1
節で述べたが,この特徴がクラ スター5
に当てはまっている.明度の低い色を好む場合はこ のような傾向となるように思われる. [使いたい携帯電話の色について] クラスター2
,3
,6
では「かわいいと感じる色」の特徴と 概ね似ている. クラスター1
では白が挙がっているが,明るいトーンをか わいい,または好きだとするこのクラスターらしい結果と なっている. クラスター4
では黒が挙がっており,「かわいいには共感で きない/かわいいは好きではない」という回答率が全体と比 較すると高いこのクラスターでは,必ずしも「かわいいと感 じる色」と連動していない.携帯電話のように携帯し,毎日使 うようなものには,かわいいと感じる要素ではなく,無難で 飽きのこないということを重視していることも推察できる. クラスター5
でも「かわいいと感じる色」との連動は見られ ず,どちらかというと「好きな色」の傾向に近い.ゴールド が挙がっているが,このクラスターも「かわいさ」ではなく, 他のイメージ,例えば「個性的な」といったイメージを表現 したいタイプと思われる. [好きな配色について] 配色中の全ての色ではないが,「かわいいと感じる色」に 非常に近い色を使って構成された配色が挙がっている.特に クラスター1
,2
,6
では,かわいいと感じる色をベースに, 白や明るいトーンの色を組み合わせた配色であり,トーン感 覚やイメージの世界観は「かわいいと感じる色」の傾向と似 ている. クラスター3
では,「かわいいと感じる色」であるピンク の濃淡に,黒や暗いトーンのパープルが合わさった配色で, よりゴージャスなイメージが強まった配色を選んでいる. クラスター4
では,ブルー系やグリーン系などの色も配さ れた,多色相の配色が1
位となっており,より活気のあるカ ジュアルなイメージのものを好んでいる. クラスター5
では,「かわいいと感じる色」に近い印象の 配色も挙がっているが,グレイッシュなトーンのベージュな どによるナチュラルな印象のものや,「好きな色」に近いよ うなハードで渋いイメージのものも特徴的である. [その他の項目について] クラスター1
は,30
代が多く,「かわいいと感じる色」の もつイメージと「好きなイメージ」が近い傾向にある. クラスター2
は,学生が多い.かわいい人と言われたい傾 向が強く,「共感できるかわいさ」では,上位のものが全体 と比較して10
ポイント以上高いことから,かわいいに対し て感度が高いことが推察される. クラスター4
は「共感できるかわいさ」で「かわいいには 共感できない/
かわいいは好きではない」が挙がっている. グレイッシュなトーンの色をかわいい色,好きな色として 挙げているクラスター5
は,30
代が多く,「素朴でくつろい だ」イメージを好み,「レトロかわいい」に共感している.4.4
クラスター別にみた「共感できるかわいさ」の選択数 とかわいい志向の強さとの関係 次に各クラスターにおける別の特性として「かわいい志向 の強さ」について考えてみる. 各クラスターの特徴的な項目をピックアップする過程で, クラスター2
における「共感できるかわいさ」の反応率の高 さが注目された.ここで「共感できるかわいさ」に注目し, クラスターごとに比較した結果を図15
に示す.なお,項目 の並びは全体の結果でソートしたものである. 図15
からわかるように,クラスター2
における反応率は ほとんどの項目でどのクラスターより高く,様々なかわいさ に共感していることがわかる.逆に,表1
でもあったように 「かわいいには共感できない/かわいいは好きではない」が 挙がっていたクラスター4
は全体的に低い傾向にあり, 「かわいい」への関心は低いように思われる.これは各クラ スターの被験者における選択数(1
つ以上,いくつでも,と いう設問であり,被験者によって選択数は異なる)によるも のであり,クラスター2
は他のクラスターと比較し選択数が 多いことがわかる. ここで著者は,この「共感できるかわいさ」の選択数と, かわいい志向の強さに関係があると考えた.各クラスターで 「共感できるかわいさ」の選択数の平均値を比較した結果を 図16
に示す.クラスター2
は8.50
と選択数が最も多く, クラスター1
が6.29
,クラスター3
が5.56
と続き,クラスター4
が3.08
と最も少ない結果となっている. 図15 クラスター別にみた「共感できるかわいさ」 図16 各クラスターにおける「共感できるかわいさ」の 選択数の平均値(A)好きなイメージ「かわいい」 (B)どのような人といわれるとうれしいか「かわいい人」 図17 選択数と「かわいい」関心度の関係 次に,選択数と「かわいい」への関心の関係を探るために, 選択数と図
7
に示した「好きなイメージ」の中の「かわいい」, 図8
に示した「どのような人といわれるとうれしいか」の中 の「かわいい人」の二つの項目の反応率との関係を調べた. その結果を図17
に示す.横軸を選択数の平均値,縦軸を各 項目の選択率としている.この図よりどちらの項目において も概ね線形の関係にあることがわかる. なお,少数ながら特徴的なクラスターとして抽出したクラ スター5
(n
=13
)は平均選択数が5.15
であるが,どちらの項 目についても回帰直線より低めの選択率となっており,かわ いい志向の強さが弱い傾向にある.様々なかわいさには共感 しているものの,かわいい志向は弱いということを意味して おり,例えば『客観的には「かわいい」ものをかわいいと思 えるが,自分にとっては似合わない,自分のものとしては積 極的には持ちたくない』といったような意識の持ち主である ことが想像できる.このことを踏まえ,クラスター5
のよう なギャップのあるタイプを少数で特徴的とみなし,除外して 考えると,決定係数は(A
)0.8306
,(B
)0.9530
となった. また,選択数について分散分析とTukey-Kramer
法による 多重比較を行い,クラスター間の有意差を調べた.分散分析 の結果を表2
に示し,多重比較の結果を表3
に示す.表2
の 分散分析表から,選択数はクラスター間において1%
で有意 な差があることがわかった.表3
中の数字はペアごとのp
値 であり,同時に有意差判定を示している(**
:1%
有意). クラスター2
はクラスター5
以外のクラスターと,クラスター1
はクラスター3
,5
以外のクラスターとの間に1%
で有意な 差があることがわかった.学生が多く,センスのある人と思 われたいクラスター2
の女性は,最もかわいい志向が強く, この結果と連動するようにポップでキュートな色をかわいい 色として選んでいる.クラスター5
はn
数が小さいため, 他のクラスターと有意な差がみられなかった. これらの結果より,かわいいと感じる色を切り口にクラス タリングを行ったが,選択数にも特徴的な差があることがわ かった.以上のことから,クラスター特性としてのかわいい 志向の強さを,平均選択数から精度よく推定できる可能性が 示唆された.5.
総 括 女性がかわいいと感じる色は,全体でベビーピンク,ピン ク,コーラルが50%
を超え,ピンク系がかわいいと感じる 色であることが明らかとなった.また,ピンク系の中でも, より明るく,ソフトな印象のベビーピンクが最もかわいいと 評価される結果であった. また,「かわいいと感じる色」において6
タイプのクラス ターを抽出することができた.これにより「かわいい色」に もバリエーションがあることが明らかとなった.図18
は 数量化Ⅲ類で導出したⅠ,Ⅱ軸空間上で,クラスター分析に 表2 「共感できるかわいさ」の選択数の分散分析表 要因 平方和偏差 自由度 平均平方 F値 P値 F 境界値 クラスター間 1114.037 5 222.8075 11.90197 1.17E-10 3.069255 クラスター内 6626.956 354 18.72023 全体 7740.997 359 表3 選択数の多重比較結果 CL1 CL2 CL3 CL4 CL5 CL6 CL1 0.0036** 0.9315 0.0008** 0.9443 0.0036** CL2 0.0061** 0.0000** 0.1033 0.0000** CL3 0.1134 0.9997 0.2425 CL4 0.6693 0.999 CL5 0.8202 CL6 図18 かわいいと感じる色の相対的な広がりより抽出した
5
つのクラスターの中心位置を示したものであ る.なお,直感的な把握を促すよう,便宜的にスコアの正負 を逆転させ,Ⅰ軸をY
軸に,Ⅱ軸をX
軸としている. 高明度方向のクラスターが最も大きなボリュームとなって おり,「ピンク」という色相より,「明るいトーン」の色を 「かわいい」と感じる女性が最も多いことがわかった.また, 高彩度方向に位置する二つのクラスターのうち,クラスター3
はピンク系のバリエーションを,クラスター4
は高彩度のR
∼GY
系の色相を中心とするカジュアルカラーをかわいい と感じるなど,クラスター毎に「トーン」や「色相」など, かわいさのポイントになっている要素が異なることが明らか となった. さらに,各クラスターの特徴についてまとめた結果を表1
に示した.今回は色を媒介にしてかわいいタイプを分類した が,タイプごとにかわいい観も異なり,嗜好イメージや選択 する商品色にも違いがあることがわかった.図18
で高明度 方向に位置するクラスター1
,2
と最初に除外していたクラ スター6
の嗜好イメージは,かわいいと感じる色のイメージ と似ていることがわかった.これに対し,高彩度方向に位置 するクラスター3
,4
や低明度方向に位置するクラスター5
の嗜好イメージは,必ずしもかわいいと感じる色のイメージ と重なるものではなかった. また,「共感できるかわいさ」の選択数からかわいい志向 の強さを推定できる可能性があることもわかった.これは, 様々なかわいさに共感している人ほどかわいい志向が強いと いうことを意味し,「かわいい」と「共感」の関係性を示唆 する結果である.生活に浸透してきたSNS
なども含め, コミュニケーションの中で様々な「かわいい」を発信し, 受け入れる素地が整ってきた.このような状況下で「かわい い」の価値観,表現はますます多様化している.このように 考えると,共感性の高さがかわいい志向の強さと大きく関係 していることはうなずける結果である. ただし,クラスター5
は選択数に対して,かわいい志向が 弱かった.「かわいい」を客観的な立場でみる場合と,主観 的な立場でみる場合で,かわいい志向への意識にギャップが ある女性も存在することが考えられた.6.
結 言 今回はかわいい色の定量的な把握と,そのバリエーション の顕在化を目的とし,48
色のビジュアルパネルを利用して, 調査,分析を行った. 「かわいいと感じる色」について年代別の傾向を把握する と共に,クラスター分析により「かわいい色」のパターンを 抽出することができた.比較的明るいトーンの色をかわいい と感じるクラスターでは嗜好イメージとの共通性がみられ, 彩度が高いまたは明度が低いトーンの色をかわいいと感じる クラスターでは嗜好イメージとの乖離がみられた.それに加 えて,かわいい志向の強さには共感性の高さが関係している ことがわかった. 今回は「かわいい」への感度が高く,「かわいい」感性を 肯定的に受け入れていると思われる学生から30
代の女性を 対象に分析を行った.今回の分析結果は限定された年代で の,かつ女性における結果であり,「かわいい」の世界観の 一部分を垣間見たにすぎないと言えよう.「かわいい」感性 に注目が集まる今,より広い層での分析,把握や,共感性と かわいい志向の強さの関係,「かわいい」と「欲しい」の関係 の把握などが重要であり,今後の課題と考える.また, 「かわいい色」と具体的な形状や素材感など,他のデザイン 要素と組み合わさった際の印象などについても検討を行うこ とで,企画やデザインの現場でより有意義な研究となること と考える. 参 考 文 献 [1]四方田犬彦:「かわいい」論,ちくま書房,2006. [2]サンリオハローキティ: http://www.sanrio.co.jp/characters/detail/hellokitty/ [3]ゆるキャラグランプリ2012: http://www.yurugp.jp/ [4]きゃりーぱみゅぱみゅのウェイウェイブログ: http://ameblo.jp/kyarypamyupamyu/ [5]福岡市カワイイ区: http://kawaiiku.jp/ [6] KAWAii!! MATSURi: http://kawaii-matsuri.jp/ [7] MSN産経ニュース: http://sankei.jp.msn.com/life/news/130222/ trd13022211530007-n1.htm[8] Nittono, H., Fukushima, M., Yano, A., and Moriya, H.: The power of kawaii: Viewing cute images promotes a careful behavior and narrows attentional focus, PLoS ONE, 7(9), e46362, 2012. [9]大倉典子,後藤さやか,村井秀聡,青砥哲朗:バーチャル オブジェクトを利用した「かわいい」色の検討,日本感性 工学会論文誌,Vol.8,No.3,pp.535-542,2009. [10]真壁智治:カワイイパラダイムデザイン研究,平凡社, 2009. [11]小林重順:カラーイメージスケール 改訂版,2001. [12]小林重順:カラーシステム,講談社,1999. [13]小林重順:配色イメージワーク,1995. 清澤 雄(正会員) 2006年 信州大学大学院工学系研究科修了. 2007年より株式会社日本カラーデザイン研究 所に勤務.かわいい感性に関する研究をはじ め,生活者の嗜好や価値観,デザインとイメー ジの関係に関する研究やトレンド提案,プロ ダクトや衣料商品のカラーディレクションなどを行う.