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スポット研 究 なぜ今再びフィリピンか 日本のVIP Very Important Partner と なり得る国 第 2 編 民間に期待されるインフラ整備 国際協力銀行 マニラ駐在員事務所 首席駐在員 石川 岩崎 純生 浩美 えん はじめに 延した汚職と決別し 国民の政治に対する信頼を回復 させた

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はじめに

年間7%近い経済成長率を達成し、海外の投資家か ら見直されているフィリピン経済であるが、いったい 何が変わったのか。本誌3月号において、その変化は、 まずはマクロ経済の安定性の定着にあると述べた。ア ロヨ政権下から継続された財政健全化、海外労働者送 金の増加を背景とした国際収支状況の改善、健全な金 融政策によるインフレ低下の定着などを大きな変化と してあげた。さらにアキノ政権が長年フィリピンで蔓 まん 延 えん した汚職と決別し、国民の政治に対する信頼を回復 させたことが、投資家の投資意欲を高揚させ経済の改 善に拍車をかけたことを指摘した。 ただ、経済成長率は高くても、失業者と準失業者が 労働人口の4割もいることから、高成長を中長期的に 持続させ雇用を拡大させていくことが必要である。お おまかにみて、雇用を現在の約1.7倍に増大させなけ れば完全雇用にはならない。コールセンターや観光業 などが注目を浴びているが、これだけの規模の雇用増 大を行うためには農業、農産品加工業、製造業をさら に伸ばしていくことが必 要である。そのためには 電力、道路、鉄道などの インフラの整備が不可欠 である。 インフラの中でも電 力に関しては、この10 年間民営化が推し進めら れてきた。また道路、鉄 道 な ど で も B O T 方 式 ( Build, Operate and Transfer)で民活によ って整備されたものも多 い。アキノ政権はPPP (Public Private Part-nership)によるインフ ラ整備を目指している。 インフラ整備における最

なぜ今再びフィリピンか

――日本のVIP

(Very Important Partner)

なり得る国――

第 2 編:民間に期待されるインフラ整備

国際協力銀行 マニラ駐在員事務所 首席駐在員 

石川 純生

岩崎 浩美

スアル石炭火力発電所(スポンサー:丸紅・東京電力、IPPA:サンミゲル) (写真提供:TeaM Energy社)

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近の変化は、地場の財閥がインフラ事業に積極的に進 出してきたことである。本稿ではこうした動きについ て、電力、その他のインフラに分けて議論してみたい。

自由化された電力セクター

フィリピンの電力セクターでは2001年に自由化に 向けた改革が開始された。この改革が開始された背景 には、発電・送電事業を行っていた国営のNPC(国 家電力公社)の経営が悪化し、政府債務が拡大してい たことがある。1990年代前半に深刻な電力不足に陥 っていたフィリピンでは主に海外からのIPP(卸電力 事業者)の導入が積極的に推し進められ、NPCとIPP の間に締結されたPPA(電力購入契約)によって、 固定価格での電力買い取り、燃料供給義務、為替リス クなどがNPCに負わされていた。一方でNPCは消費 者には低い価格で電力を供給することが求められてお り、また1997年のアジア通貨危機でペソが減価した こともあり、その財務状況は悪化し債務は拡大した。 フィリピンの電力自由化は2001年にEPIRA(電力 産業改革法)が施行されたことに始まる。EPIRAの 目的は、①NPCの発電・送電事業を民営化すること、 ②卸売市場の創設によって市場メカニズムを機能させ ること、③小売市場の自由化(オープン・アクセスの 解禁)によって需給双方間で健全な競争が行われるよ うにすること、の3点にある(図表1)。改革以前は NPCが投資決定を行っており、必ずしも実際の需要 の動きが適切に反映されておらず、そのうえ効率的な メンテナンスが行われていなかったことから、常に停 電が発生していた。また電力価格についても、NPC によって政策的にコスト割れの水準に設定されてお り、市場メカニズムを反映した水準ではなかった。 NPC所有の発電所の民営化は、2000年代中ごろか ら開始され、2012年末で約91%が民営化されている。 NPCがIPPとPPAを通じて保有していた権利義務関 係も、2000年代末から新たに設立された民間のIPPA (IPP Administrator)への移管が開始されたが注1 、 2012年末で約59%について完了している注2 。PPAで は期間終了後に発電所の所有権はNPCに移転される ことになっていたが、上記の民営化によってIPP資産 の最終的な所有権はIPPAに与えられることになった。 送電事業についても、NPCの送電部門がTRANSCO として分社化され、2 0 0 9 年に事業権が民間企業 (National Grid Corporation of the Philippines)に 譲渡された。卸売市場に関しては、ルソン地域、ビサ ヤ地域にそれぞれ2006年、2010年にWESM(Whole-sale Electricity Spot Market)が設立された。当初 はNPCがWESM価格に影響を与えているとの批判も あったが、最近はNPCは卸売業からほぼ撤退してお り、NPCの影響に対する懸念はなくなった。 【スポット研究】なぜ今再びフィリピンか 出所:筆者作成 図表1 自由化による電力セクターの変化

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電力はIPPAによって販売される。 注2:NPCの資産負債を管理する政府機関として、PSALM(ピーサルム と呼ばれる)が創設され、発電所やIPPとの間の権利義務関係の民 営化が進められた。 フィリピンの電力セクターの民営化の過程で大きな 役割を果たしたのは地場の財閥企業である。NPC保 有の発電所の民営化においてアボイティス、サンミゲ ル、コンスンヒ(DMCI)、ロペスは主要なプレイヤ ーであった(図表2)。アボイティス、サンミゲルは IPPAとしても名を連ねている(図表3)。新規の発電 所の建設では、メトログループ、アボイティス、メラ ルコなどが積極的に投資活動を行っている(図表4)。 1990年代の電力危機の際にはIPPというかたちで外資 に新規発電所の建設を依存していたことを考えると、 大きな変化と考えられる。地場の財閥企業が力をつけ、 インフラへの投資を積極化させたことが、電力セクタ ー改革を進展させたと考えられる。

電力の小売り自由化への動き

小売に関しては、送電・配電網へのオープン・アク セスが解禁(2013年6月予定)されることで、自由 化が進められていく。これまでは、消費者は居住する 地域のフランチャイズを与えられている配電事業者 (配電会社、電力組合)が調達した電力をそのまま購 入していた。発電価格は原則消費者に転嫁され、消費 者は低価格で電力を供給する発電事業者を選択するこ とができなかった。オープン・アクセスが導入される と、消費者にどの発電事業者から電力を購入するかと いう選択権が与えられる。具体的には、消費者は新た に設立されたRES(Retail Electricity Supplier)と 呼ばれる民間のトレーダーを通じて電力を購入するこ とになる注3 。消費者がRESを選択することで消費者の 競争力を強化し、これによって電力価格の適正化を目 指すことが狙いである。オープン・アクセスは3段階 に分けて進められる予定で、第1段階では1MW以上 の消費者、第2段階では0.75MW以上の消費者、第3 段階ではそれ以外のすべての消費者に広げていく。 注3:配電網は既存の配電会社のものを使い、配電会社には配電料金のみ を支払う(これまでは発電料金も配電会社に支払っていた)。

電力セクターの今後

電力セクターにおける今後の注目点は、まず第一に、 民間に電源開発が託された今、市場メカニズムが十分 発電所名 スアル石炭火力 (1,000MW) パグビラオ石炭火力 (700MW) サンロケ水力 (345MW) イリハン・ガス火力 (1,200MW) IPPA San Miguel Energy Corp. (サンミゲル)

Therma Luzon Inc. (アボイティス)

Strategic Power Devt. Corp. (サンミゲル)

San Miguel Corp. (サンミゲル) 設立年 2009 2009 2010 2010 図表3 主要IPPのIPPA マガット水力 (360MW) マシンロック石炭火 力(600MW) ティウイ・マクバン 地熱(748MW) カラカ石炭火力 (600MW) リマイ・ディーゼル (620MW) パリンピノン・トン ゴナン地熱(305MW) 落札企業 年 発電所名 SN Aboitiz Power (アボイティス)

Masinloc Power Partners Co. (米国AES)

AP Renewable (アボイティス)

DMCI (コンスンヒ)

San Miguel Energy Co. (サンミゲル)

Green Core Geothermal (ロペス) 2006 2007 2008 2009 2009 2009 図表2 主要NPC発電所の民営化 発電所名 セブ・トレド石炭火 力(246 MW) パナイ・イロイロ市 石炭火力(164MW) セブ・ナガ市石炭火 力(200 MW) バタアン石炭火力 (600MW) マシンロック石炭火 力(拡張)(600MW) パグビラオ石炭火力 (拡張)(400MW) レドンド石炭火力 (600MW) スポンサー Cebu Energy Development Corporation(メトログルー プ、アボイティス) Panay Energy Development Corporation(メトログループ) KEPCO-Salcon

(韓国、シンガポール) GN Power(米国Sithe Global) Masinloc Power Partners Co. (米国AES)

Pagbilao Energy Corporation (TeaM Energy Corp.、アボイ

ティス)

Redondo Peninsula Energy Inc.(メラルコ、アボイティ ス、台湾コージェン) 稼働年 2011 2011 2011 2013* 2015** 2018** 2017 2016 図表4 主要な新規発電所(拡張を含む) 注:*は、予定。 **は、第一フェーズ(300MW)、第二フェーズ(300MW)に分 けて稼働予定。

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に機能し需給がタイトに なることなく供給力がス ムーズに拡大していくか という点である。発電所 の建設には環境やグリッ ドとの連結の問題なども あることから、想定以上 に時間がかかることが多 い。また中長期の需要見 通しには不確実性があ り、実際の投資決定は需 要に後追いのかたちでな されることが多い。もち ろん、需給の不確実性に は、予備力注4 を確保する ことで対応することにな っている。しかし、予備 力市場が成立しておら ず、予備力に対して適正 な対価が払われないこと から、十分な予備力の確保は困難と指摘されている。 電力価格がすでに高く消費者がこれ以上のコストを負 担できないことが、予備力の確保を難しくさせている。 第二に電力市場に健全な競争環境が確保されていく かという点も今後の注目点である。発電事業において は市場占有率の上限がグリッドごとおよび全国レベル で設定されているものの、実際のプレイヤーはサンミ ゲル、アボイティス、ロペス、メトログループ等の数 社のみである。またマニラ首都圏およびその周辺の配 電会社であるメラルコは、ルソン島の75%の配電を行 っているうえ、最近発電事業にも進出し、小売市場に もローカルRESとして進出している。電力市場が寡占 状態であるなか、オープン・アクセスによって消費者 の競争力が強化されたあとに、市場が健全な競争状態 で機能するかが注目される。 今後電力価格が下がるか否かも注目点であるが、そ のためには、十分な供給量・競争環境の確保が重要な ことはいうまでもない。しかし、ほかのいくつかの ASEAN諸国と異なり燃料などへの補助金がないこと から、消費者が支払う電力価格が補助金のある国より 高くなることはやむを得ない。またルソン地域だけで は1万MW程度の規模のマーケットであり、電力セク ターが効率的になるためにはマーケット規模がさらに 拡大する必要がある。したがって、民営化による効率 の改善などはあるものの、電力価格が大幅に下がるか どうかについては効率性の改善がどの程度進むかに依 存する。 一方、電力セクター改革が財政面に与えた影響は大 きい。2000年代初頭はNPCの赤字および債務によっ て財政状況は苦しい状況にあった。しかし、民営化を 通じて財政支出の拡大および公的債務の増加には歯止 めがかかっている。事実、財政赤字はGDP比で2% 前後に縮小しているし、公的債務も2004年のGDP比 74%から2012年には同51%に減少している。財政状 況の改善が評価され、本年4月にはフィッチが、同年 5月にはスタンダート・アンド・プアーズがフィリピ ン政府の信用格付けをBBB−に引き上げた。電力セ クター改革はフィリピンのマクロ経済の安定に寄与し たと評価できる。 注4:予備力とは需給の突発的な変化に対応するために発電所をフル出力 にせず余裕のある状態にしていることをいう。秒単位の超短期の周 波数変動に対応するためのものと、発電設備の故障やより長い期間 の需要変動に対応するためのものとある。

電力以外のインフラ整備

電力以外のインフラについては、アキノ大統領は PPPによって整備することを謳 うた っている。財政に余裕 【スポット研究】なぜ今再びフィリピンか サンロケ多目的ダム(スポンサー:丸紅・関西電力、IPPA:サンミゲル) (写真提供:SRPC社)

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のないフィリピンがインフラを整備するには民間の協 力を得る必要があるとの考えがその背景にある。ただ し、民間によるインフラ整備は現政権に始まったこと ではない。フィリピンは1990年にBOT法を制定して おり、アジアで最初にBOT手法を法制化した国であ る。電力でもIPPにはこれまでBOT手法が用いられ、 電力以外ですでにBOT手法が活用されたものもある。 たとえば1999年に開通したMRT3号線(マニラ首都 圏の都市交通)、2008年に開通したSTAR(Southern Tagalog Arterial Road:バタンガス州の高速道路)、 2011年に開通したMetro Manila Skyway(マニラ首 都圏の高速道路)、2011年に開通したManila-Cavite Expressway、2013年5月に開通が予定されている TPLEX(Tarlac-Pangasinan-La Union Express-way)などはBOT手法が用いられた。 汚職撲滅を目指す現政権がPPPを活用するうえで 特に重要視している点は、透明性の高いかたちでプロ ジェクト実施主体を選定することである。そのため、 民間提案型(unsolicit)の案件でなく、政府要請型 (solicit)の案件に重点をおくことにしている。政府 要請型の場合は、政府が入札によってプロジェクト実 施主体を選定するため、より透明性が確保できると考 えている。民間提案型で活用されるスイスチャレンジ 方式では十分な競争環境が整わず、透明性の確保が難 しいとみているようである。2012年7月にBOT法の Implementing Rules and Regulations(IRR)が改

正されたが、民間提案型には財政補助金は出されない ことになった。 また、政府のPPP案件に対する財政支援について は、プロジェクトごとにバイアビリティーを精査して バンカブルでないときにのみ財政資金を一定額投入す ることになっている(原則政府要請型の案件のみ)。 一方、需要リスク(交通量リスクなど)や為替リスク に対する保証については、政府は原則行わない方針で ある。現在入札参加者の審査が行われているマニラ首 都圏のLRT1号線の南伸プロジェクトについては、 政府は車両部分を日本の政府開発援助(ODA)を活 用して資金支援する予定であり、O&Mおよび鉄道土 木をPPPプロジェクトとし、プロジェクト実施主体に 対して交通量リスクを負うことを要請している。 アキノ政権は2010年11月に投資家を集めてインフ ラ・フォーラムを開催し、PPPの取組方針および2011 年に入札にかけるインフラ10案件につき説明を行っ た。しかし、実際に同年中に入札にかけられたインフ ラ案件はダンハリ・SLEX連結道路のみであり、案件 の進捗が遅いとの批判が出た。その後、2012年7月 にインフラ以外のPPPプロジェクトとして、学校校舎 建設フェーズⅠの落札が行われ、本年4月にはインフ ラ第2号案件としてNAIA Expresswayの入札・落 札が行われた。また、入札には至らないものの、近い 段階に進んだものがいくつか出てきている。PPPプロ ジェクトは、基本スキームのNEDA Board注5 による ダンハリ・SLEX連結道路 1.96 2011年6月 2011年8月 2011年11月 2012年1月(アヤラ) NAIA ExpresswayフェーズⅡ 15.86 2012年5月 2012年10月 2013年4月 2013年4月(サンミゲル) CALA Expressway 35.5 2013年1月 (2013年6月) (2013年10月) (2013年11月) NLEX―SLEX連結道路 25.56 2013年1月 (2013年5月) (2013年8月) (2013年12月) LRT1号線 南伸およびO&M 59.20 2012年3月 2012年11月 (2013年6月) (2013年7月) 自動料金徴収システム(LRT/MRT) 1.7 2012年11月 2013年4月 (2013年   (2013年7月) 第3四半期) マクタン・セブ国際空港ターミナル建設 17.5 2012年11月 2013年4月 (2013年8月) (2013年9月) アンガット水力発電 O&M 1.2 2012年11月 2013年3月 (2013年7月) (2013年9月) 学校校舎建設フェーズⅠ 16.42 2011年12月 2012年4月 2012年7月 2012年10月 (Megawide Construction Corp等のコンソーシアム) 学校校舎建設フェーズⅡ 13.14 2012年11月 2013年2月 (2013年6月) (2013年8月) フィリピン整形外科センター近代化 5.7 2012年9月 2013年3月 (2013年5月) (2013年6月) 注:( )は予定。 出所:PPPセンター等

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承認→入札企業の事前資格審 査(Prequalification)→入札 (Bidding)→落札(Award) とのプロセスで進んでいく。 入札企業の事前審査の段階に きているものは6件(うちイ ンフラ案件は4件)あり、そ れ以外にNEDA Boardだけ を通ったものが2件(ともに インフラ案件)ある。これま での案件進捗スピードから推 察すると、事前資格審査段階 にある6件は本年中に入札が 行われる可能性が十分ある。 政府要請型のプロジェクトの 場合、基本スキームの策定、実施主体の選定など、政 府の事務負担も大きくなる。そのようななか本年中に これらのインフラ案件をスムーズに動かすことができ れば、現政権のPPPについても一定の評価が与えられ ることになろう。 PPPのインフラ案件の推進力になっているのもやは り地場の財閥である。ダンハリ・SLEX連結道路はア ヤラが落札しており、NAIA Expresswayもサンミ ゲルが落札した。事前資格審査段階の案件をみても、 アヤラ、サンミゲル、メトロ・パシフィック・インベ ストメント、シューアート、コンスンヒ(DMCI)、 アボイティス等の地場の財閥が名を連ねている。以前 のBOT型の高速道路プロジェクトはインドネシアや マレーシアなどの外資が入っていたことを考えると、 地場の財閥がインフラに大きな役割を果たすようにな ってきた。この変化は大きいといえよう。 注5:国家経済開発庁の理事会のこと。持続的経済成長と公平な所得分配 を達成すべく、国家の開発計画および政策策定の調整を行う。議長 は大統領で、閣僚で構成。

おわりに

以上みてきたとおり、電力においてもその他のイン フラにおいても、フィリピンにおいては民間の果たす 役割が大きくなっており、特に最近は地場の財閥が積 極的にインフラ事業に進出していることは大きな変化 と考えられる。マクロ経済が安定し、現政権の汚職撲 滅の姿勢もあって、信用格付けも上昇傾向にあり、イ ンフラ事業に対する投資意欲が拡大してきている。こ うした地場の財閥の動きを地場の銀行も積極的に支え ている。過剰流動性を背景に地場の銀行は積極的にイ ンフラ事業に貸付を行っており、この点も最近の大き な変化である。 しかし、一方でインフラ事業に対する財政支援は削 減され、需要リスクや為替リスクに対する政府の保証 はなくなる方向にある。特にMRT/LRT、高速道 路、空港等の交通案件については、プロジェクトごと の需要予測を正確に立てるのが困難であり、また需要 が予測から大幅に乖離した場合、資本コストの回収に 十分な水準の収入を確保することが難しくなる。政府 の保証がないことから、そのような事態が発生した場 合、プロジェクト実施主体あるいはレンダーに与える 影響は大きい。需要が予測通りに増大していくように、 政府のほかの交通手段に対する政策が整合的で運営さ れていく必要がある。また十分な収入が確保されない 場合の運賃設定の柔軟化も必要となる。 いずれにせよ、電力にせよ、PPPにせよ、インフ ラ・プロジェクトが成功するためには、インフラ・サ ービスに対する需要が喚起される必要がある。そのた めには、産業振興が同時になされ、経済活動がいっそ う活発になり、国民の所得が上昇し、実際の利用者が 増える必要がある。フィリピンの国内資本は不動産な どのサービスに傾斜しており、今後は製造業等の雇用 創出効果のある産業の振興にいっそうの力を入れる必 要がある。製造業が活発になるためには外資、特に日 本に期待される役割が依然として大きい。次号では今 後期待される日比のパートナーシップについて論じる ことにする。 【スポット研究】なぜ今再びフィリピンか エドサ通りを走るMRT3号線(建設:三菱重工・住友商事) (筆者撮影)

参照

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