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アーキテクト2.0 : 進化型設計プロセス論とその応用 利用統計を見る

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アーキテクト2.0 : 進化型設計プロセス論とその応

著者名(日)

藤村 龍至

雑誌名

工業技術 : 東洋大学工業技術研究所報告

34

ページ

15-18

発行年

2012

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00002096/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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Architect 2.0−The Evolutionary Design Process and its Utilization 藤村 龍至*          1.はじめに  2000年代に入り、東京都心部の風景は林立するオフ ィスビルやタワーマンション、ショッピングモールとい った巨大建築物によって急速に再構成されつつある。こ うした建築物の設計プロセスは、法規的な形態制限のな かで最大限の専有面積を確保し、マーケティング・リサ ーチに基づいたノウハウによって方法論が半ば固定さ れ、あまりにも短期間のうちに設計されるため、あたか も特定のアルゴリズムに基づいて自動生成しているかの ように見える。  また、今日の成熟社会ではニーズそのものが多様であ るために、何のためにその建築物を建築するか、という 目的がそもそも自明ではないことが多い。例えば、賃貸 目的の建築物を設計する場合においても、土地活用とい う目的だけが決まっており、何を建築するかは不明であ る場合にはとりあえず建築可能な面積の大きさなど決ま っているところから漸進的に決定していく。あるいは公 共建築においても、限られた予算のなかで、住民が主体 となってニーズを把握しながら実現するべき建築物のイ メージを協議する場合など、意見の拡散した状況で特定 の方向へ向けて意思決定を計らなければならない今日の 政治的状況では目的を探す調査段階と、そこで定まった 目的に向けて案を定めていく設計段階の間で断絶が起こ る。調査段階では可能性を最大限に開くために選択肢が できるだけ開放されている必要があり、設計段階では設 計案を限られたコストや期間のなかで確実に構築してい くために、選択肢を徐々に絞り込んでいく必要があるか らである。  本論では、このように商業的な効率を最大化すること や、目的を設定せずに設計を進める必要のある今日的な 状況における建築設計の方法論を再検討する。  一般的に建築の設計は法規的条件や、構造・設備など の条件に基づき、外形と面積の調整からスタートして、 構造や設備、サッシや建具、仕上げやそれらの取り合い など、ミリ単位の細部が決定されていく。それらの過程 で、クライアントから間取りや仕上げに関する要望があ り、役所や近隣との調整があり、現場では監督や職人と のやり取りがある。設計が進むにつれ使用者施工者など 関係者が増えていき、設計者はこれらの関係者とコミュ ニケーションを図りながら意思決定を繰り返す。  しかし、量やスピードが求められたり、設計プロセス の透明性が求められる今日の状況下では、外観と内観、 周辺との関係、内部空間どうしの関係、スケールやプロ ポーションなど、多くの与条件と建築形態を結びつけよ うとすることは、設計期間も工期も伸び、建設コストも 掛かるとされ、敬遠されることが多い。そのため分業化 が進み、全体の統合性を欠いた均質な空間が量産されて しまっている。  そのような形式化した合理主義を回避し、都市にもう 一度濃密さや複雑さを取り戻すために、多様で複雑で曖 昧な現代都市の環境を合理的に観測し、均質化、単純化 することなく建築の形態を抽出し、社会の要求に応答す る、プラクティカルな方法論が求められる。       2.進化型設計プロセス論 2.1.3つの大原則  一般的に設計作業のプロセスには「飛躍があり」「い くつも案が派生し」ときには「以前の段階へ戻って再検 討する」が、ここではそれらを禁じ「ジャンプしない」 「枝分かれしない」「後戻りしない」という3つの大原則 を定める。最初にゴールイメージを抱かず、漸進的な改 良を行いながら設計を進め、関係者によって暗黙的に了 解されている設計に関する知を、誰にでも理解・応用可 能な形式的な知へと転換していく。そのような設計方法 論をここではひとまず「進化型設計プロセス論」と呼ぶ ことにする。  同論では建築模型を主要な記録ツールとして用いる。 一般的に建築模型は、プレゼンテーション用に制作され るものとスタディ(検討)用の2種類があり、いくつかの *理工学部建築学科

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アーキテクト2.0−一進化型設計プロセス論とその応用 段階を経て、ある程度案が変化したら確認のために制作 する、という場合が多い。ここでは記録を厳密にするた めに「検討案を変更するたびに必ず」模型を作成・保存 する。また、検討案を更新するときには、2カ所以上同 時に変更すると何を変更したのかわからなくなってしま うため「更新するポイントは1ヵ所に絞る」ようにする。 一般的にはジャンプや枝分かれ、後戻り等をランダムに 繰り返すために設計の手続きは事後的にはトレース不可 能になるが、それらを意図的に禁じると、設計履歴の全 体がひとつの流れとして記録されるため、卵から魚が発 生していくかのように、複雑な建築の形態が発生する過 程の連続性が模型の並びとして可視化される(fig.1)。        3.実施設計への応用

3.1.応用例1「UTSUWA」

 ここでは応用例として、10坪のテーブルウェア・ショ ップのインテリア「UTSUWA」(設計:藤村龍至, 2005) と、店舗と25戸の共同住宅からなる400坪の複合ビル 「BUILDING K」(設計:藤村龍至+大野博史,2008)の 設計プロセスを振り返る。

 「UTSUWA」の設計プロセスは、棚の奥行き

(300㎜)と醐の幅(600mm)の寸法だけが反映された ごく単純な形態からスタートした(fig.2_001)。模型に すると、中央に余剰のスペースがみられたので、左右か ら突起を出した(009)。しばらくいろいろな突起のリズ ムを試した(010−013)後で、縦板をランダムに入れてみ ると(014)、カーブのピークと縦板の位置は揃えたほう が自然であることに気がつき、カーブの波長とグリッド のスパンを揃えた(015)。続いてカーブの緩急、グリッ ドの大きさ、入り口から見たときのカーブの重なりなど、 徐々に決定ルールを付加し、最終案に至った(023)。 OOI 009 013 014      015      023(実施案)  Fig.2 UTSUWIAの設計プロセス(詳細)  このように、店舗のオーナーと共に単純な判断を繰り 返し、フィードバックしていくことで、設計者もオーナ ーも最初は気がつかなかったような詳細な条件を扱うこ とができ、当初の想像を超えた独特な形態が短い設計期 間の間に生成されることとなった。 3.2.応用例2「BUILDING K」  より規模が大きく、機能も複雑な複合ビル「BUILDING K」の設計プロセスでもまた、同じ手法が適用された。 必要な面積(400坪)だけによって定義された単純な形態 からスタートし(fig.3_oo1)、まず周辺の建物とのスケ ールの比較、避難ルートや設備スペースの確保等、現実 的な問題への対応を重ねた(002−006)。途中で上層部の 用途を住宅とし(007)、屋上の活用法を検討したことか ら最上階のヴォリュームが細分化し(009)、さらに商店 街との関係を考慮した結果(010)、垂直性が強調された 建築のイメージが生まれ(018)、最終的には基壇の上に 細いタワーの並んだような外観の建築が実現した(040)。 001 009 007 010 018         040(実施案) Fig.3 BUILDING Kの設計プロセス(詳細) 3.3.検索過程と比較過程  「BUILDING K」の設計プロセスでは、半年ほどの 設計期間内に、約40個の模型が制作され、21個の設計 条件がピックアップされた。  模型の段階と対応させてみると(fig.4)、最初は法規、 構造に関わる「容積」「外形」など、より全体に関わる 強い制約条件からスタートし、次第に、設備、プランニ ング、部材の寸法など、個別的な条件へと絞り込んでい 東洋大学工業技術研究所報告

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く。設計条件を段階的にピックアップし、形態に置き換 えつつ設計関数を見いだす前半のプロセス=「検索過程」 (fig.5_1,6_1)と、設計条件の洗い出しが終わり検索過程 において設定された設計関数に、比較過程において異な る変数を代入し複数の解を比較する後半のプロセス= 「比較過程」(fig.6_1,6_2)に分節されている。 一●ノ加 r r 婚 ’ ■ ? ● 紮 ■ 1、1よ,, ト41s 、 ‘71■「■●さ1稔Z3 習ξ5孫∼,禰 ■ 衿 ,、菜ヨ● ”1ら房 ,ア掲 ■ 匂 1■ ●●●●●● ●●●●●●● ●■●●● ●●■●●●●● ●● ● ●●●● ●●● ●● ● ● ξ   唖 ●●●●● ●●●●●●● ■●● ●●●●●●●●●● ●● ● ●●●■ ●●● ●● ●● ■一い、・●唆仙 ●● ●●●●● ●● ●●●■● ■ ■● ● ● ■●● ●■■ ●● ●●●●● ●● ●● 白   u蜘⊥■垣一‘ ● ●●●●●●● ●●■ ●●● ■ ●●■●◆● ● ● ● ●●●●●●● ■● ●● 6備\定タワリ∋“白 ●●●●● ■●● ■■●■■●●■■● ●●● ■●●●●■● ●● ●● ‘    ●駒呂亨一助 ●●●●●●● ●●●●●■●●●●●●● ●●●■●●● ■■●●

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1,検索過程       2.比較過程  Fig.5 UTSUWAの設計プロセス(部分)

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1.検索過程

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2.比較過程 Fig.6 BUILDING Kの設計プロセス(部分) 凸 Fig.7 BUILDING Kと周辺環境

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Fig.8 一般的なビルとBUILDING Kの屋上  このような設計プロセスにおいては、例えば法規、構 造、事業収支など必要な条件を満たしつつ近隣住民の要 望に従って建物の高さを調整する、というように現実的 な対応を柔軟かつ効率的に行うことができる。       4.考察 4.1.与条件と建築形態の関係  一般的な賃貸マンションが片廊下、羊葵型プラン(南 北方向に平行に分割され、北側に廊下が接続する平面形 式)という慣習的なパタンを形式的に反復し、敷地の細 かな条件の違いを無視しがちなのに対し、「進化型設計 プロセス」によって設計された「BUILDING K」は敷 地のサイズと外形の関係、設備と構造などシステム間の 関係など与条件と建築形態の関係に対してより精度の高 い応答関係を実現させている(fig.7)。  例えば、空調室外機、給湯器、排気口、吸気口などの 設備機器は4カ所ある設備シャフトの内部にまとめら れ、外部に露出しない。また、このシャフトは空調室外 機による排気を排出するダクトとしても機能するため、 バルコニーに設置された空調室外機が手すりの内側でシ ョートサーキットを起こす事態もなく、効率的である。 さらにこの設備シャフトは、隣接する建築物に比較して 大きな立面を細かく分節する役割を持ち、周辺環境のス ケールにより適合しているうえに構造コアも兼ね、メガ ストラクチャーの一部となっている、というようにひと つの形態にいくつもの意味が重ねられている。 4.2.複雑さとスピードの両立  一般的なビルが単純な箱型のヴォリュームに事後的に 設備機器を付加し続けた結果、街並との調和を乱し、外 壁や屋上が設備機器だらけになってしまうのと対称的 に、「BUILDING K」では屋上や外構に設備機器が一切 現れず、これらの場所が生活のための空間として取り戻 されている(fig.8)。これは「進化型設計プロセス」が、 建築設計者や施主のみならず、構造、設備などの設計パ ートナーや、施工者、近隣住民、入居者等、プロジェク トに関わる多くの人々のアイディアを設計当初より蓄積

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アーキテクト2.0−一進化型設計プロセス論とその応用 し、統合することを容易にするので、集団的な想像力を スムーズに構築することができ、かつ環境の条件を最大 限読み込み、特徴を活かすことができたからであると考 えられる2)。  このように、設計履歴を残しながら設計条件を建築の 形態に段階的に合成していく「進化型設計プロセス」は、 設計条件をひとつずつ定義しながら進行するので(1) 「周辺環境の固有性を正確に読み込むこと」ができ、各 段階の読み込みの差分を履歴として保存し、情報を蓄積 していくことができるので(2)「意味を重層化し、複雑 で濃密な形態を構築する」ことを可能にし、後戻りがな いので(3)「スピードがある」という特徴を持つ。  これらは決して特殊な技術ではなく、建築設計者の日 常的な作業を洗い直し、単純化することで形式化した設 計論である。しかし、複雑さとスピードを両立するとい う今日の建築設計者の社会的課題を考慮するならば、単 純化によって複雑さにアプローチする同論のあり方は今 日の建築設計者にとって批評的な方法論足りうるのでは ないかと考える。 4.3.教育的効果  筆者は2008年より、非常勤講師を務めた首都大学東 京建築学科、東京理科大理工学部建築学科、日本女子 大家政学部住居学科、東洋大学理工学部建築学科など で拙論に類似した課題を出題してきた。一般的に、大 学や専門学校等で展開される建築設計の課題では敷地と 要求される面積やプログラムなどが提示されるのみであ り、進め方については学生の各自の裁量に委ねられてい ることが多い。しかし、そのような出題の仕方は特に初 学者にとっては戸惑いの原因となることもある。  そこで筆者の担当したこれらの授業では「進め方」 に厳密にパタンを適用した。例えば、最初の週は敷地 形状と面積、高さの関係についてのみ検討し、それ以 外は検討しないように指示した。次の週は「プランニ ング」、次は「開口」そして「屋根」というように、検 討項目を段階的に増やしていくように指示した。  そして、設計者によって異なる検討用模型の制作頻 度を、ここでは案が更新されるたびに同一縮尺で作成 するように統一するよう指示をした。このことで、前 回の模型と今回の模型を比較することが可能となり、 常に変更の履歴を確認し、設計プロセスを可視化する ことができた。  また、一般的には学生は教員に報告した内容と別に、 案を独自に発展させてもいいことになっているため、学 生はしばしば一度進めてきた案を白紙に戻し、まったく 違う案を作成することがあるが、ここでは教員との打合 せは報告の場というよりも意思決定の場であると設定し た。授業では前回から今回までに検討したことを報告し、 今回から次回へ検討することを一緒にその場で決定する ように指示した。  以上のように(1)作業の手順にパタンを適用すること (2)作業のフォーマットを揃えること(3)エスキスを意 思決定の場として捉えること、によって建築設計の手順 を初学者に明快に伝えることができ、到達度が明快にな ることで評価もしやすくなった。       5.まとめ  このように本稿では(1)現状の提案を肯定(修正・変 更)し(2)その問題点を一挙に解決しようとせず(漸近 的解決)(3)実現可能ないくつかの選択肢から最適なも のを選択(限定合理的な選択)するという作業パタンの 整理を行ない「論理的飛躍の禁止」「単線化」「漸進主義」 というルールを設定することによって与条件と形態の関 係をより適合させ、効率を高め、教育や協働作業がより 円滑になる可能性を提示した。今後のさらなる実践の展 開とフィードバックによって、方法論のさらなる検証と 更新作業を続けていきたい。 註1)詳細は下記論文を参照されたい。  藤村龍至:批判的工学主義から「設計」を考える,設計の  設計,藤村龍至ほか,P−, INAX出版,2011 2)一般的には、複雑さを求めれば設計期間も工期も伸び、コ  ストも掛かると考えられるが「BUILDING K」では、同  規模のビルと同等の汎用的な素材と工法を用い、同等の設  計期間と工事期間によって建設され、通常以下のコストで  建築が実現した。 3)情報社会論の濱野智史は筆者の方法論がプログラム開発の  方法論「アジャイルソフトウェア開発」に類似していると  指摘し、それゆえに限界があるとする。濱野は具体的なコ  ミュニケーションの相手がいなければ設計プロセスそのも  のが発動しえず、それゆえ都市設計のような巨大なスケー  ルの設計には適用できない、という。これについて筆者は  集団設計の協働作業などへの応用も試みており、より大き  なスケールでのコミュニケーションも実現していきたいと  考えている。 東洋大学工業技術研究所報告

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