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日立グループのR&D戦略

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(1)

日立グループの

R&D

戦略

イノベイテ

R&D

レポート

2014

社会イノベーション事業を支える

R&D

日立グループは,

2015

年までの中期経 営計画で,社会イノベーション事業の強化 を進めている。社会イノベーション事業と は,顧客が抱える課題を共に見いだし, 日立グループが持つ技術,プロダクト, サービス,人材などの経営リソースを総動 員してその課題に対するソリューションを 提供し,社会イノベーションを顧客と共に 進める事業であると言える。顧客はグロー バルであり,社会イノベーションは地球規 模で興したいと考えている。その実現に向 け,日立グループが持つ力を総動員できる よう,トランスフォーメーションを実行し ている。 これを牽(けん)引するために,日立グ ループの

R&D

Research and Development

研究開発)は,以下の

4

つの重点戦略を中 期経営計画に合わせて推進している。 まず,海外

R&D

拠点の拡充である。特 に,新興地域における

R&D

の新規展開を 進めている。また,既存の海外拠点におい ても,その地域の社会イノベーション事業 にとって,特に強化が必要となる研究テー マのラボ(

Laboratory

)を新設している。 さらに,各地域における現地採用研究リー ダーの比率を高めることにより,地域への 密着を一段と進めている。 第二に,社会イノベーション事業にとっ て,より重要なテーマに

R&D

資源をシフ トしている。プロダクト,サービス,およ びクラウドコンピューティングをはじめと す る

IT

Information Technology

)の 各 研 究について,上述の趣旨による重点化を実 施している。 第三に,日立グループの経営基盤を社会 イノベーション事業に適した形に変革する ために,必要となる

R&D

テーマを推進し ている。特に製品コスト構造を改革するた めの

R&D

を強化している。 最後に,オープンイノベーションであ る。社会イノベーション事業の起点は顧客 との連携であり,

R&D

部門では,拡充す る海外

R&D

拠点を通じるなどしてグロー バルな顧客との連携を強化する。また,そ の多様なニーズに応えるために,技術パー トナーとの連携を併せて強化していく。地 球規模でイノベーションを興していくため には,日本を筆頭とする国家レベルでの連 携が不可欠であり,

R&D

部門はその強化 に努めている。 以下では,日立グループの

R&D

体制を 概説したのち,これらに基づく

2014

年度 の重点施策を述べる。続いて,本特集に掲 載したイノベイティブな

R&D

に関する各 論文について,

R&D

戦略実行における位 置づけを説明する。 日立グループの

R&D

体制 日立グループの事業の主体を担う事業グ ループは,現時点で,インフラシステムグ ループ,情報・通信システムグループ,電

武田

晴夫

Takeda Haruo

Overview

(2)

Ov er vie w 力システムグループ,建設機械グループ, 高機能材料グループ,オートモティブシス テムグループと,新設したヘルスケアグルー プの

7

つで構成される。グループの分類は 市場セグメントに基づくものであり,例え ば,インフラシステムグループは,主とし て製造,公共,都市インフラ,交通などの 市場とその顧客に対応し,情報・通信シス テムグループは,主として金融,公共,産 業,流通,通信などの市場とその顧客に対 応している。新設のヘルスケアグループ は,健康長寿社会の実現に向け,予防・健 診,検査・診断,治療,予後といったケア サイクルを通して,

IT

と医療技術で多様 化したニーズに対応していく。 日立グループの

R&D

への年間投資金額 は,合計約

3,500

億円である。その過半を 大きく超える金額は,

7

つの事業グループ が中短期に,関連市場とその顧客の要請と 考える

R&D

テーマに対して直接投じるも のである。他方,日立グループはこれらの 事業グループとは独立の研究開発組織を保 有する。この組織は,研究開発グループの 名の下に,現在,中央研究所,日立研究所, 横浜研究所,デザイン本部の国内

4

研究拠 点と,米国,欧州,中国,アジア,インド, ブラジルの海外

6

拠点で構成されており, 約

3,300

人の研究開発人員を擁している。 その

R&D

戦略全体をマネージするため に,研究開発グループの中に技術戦略室を 設置している(図1参照)。 研究開発グループの主な役割は,以下の

3

点である。 個別の事業グループ内では解決困難な 技術の開発 研究開発を専門としていることにより, 人的/物的に,あるいは有形/無形に研究 開発に適した経営リソースを保有できる。 また,事業グループの枠組みを越えた広範 な市場分野と技術分野に長年取り組んでき たことから,研究ベストプラクティスの集 合としての方法論や,普遍的な共通基礎技 術を保有できる。さらに,研究リソースを, 課題の緊急度に応じて柔軟に振り向け,選 択と集中ができる。これらを利用すること によって,事業グループや事業グループを 通じた市場からのテーマ要請に応じ,高度 な問題の解決にあたっている。 複数の事業グループにまたがる技術の開発 日立グループの事業グループは,前述し たように市場セグメントに対応しているた め,共通技術の開発が二重,三重にならな いよう注意を払う必要がある。また,ある 事業グループで開発した技術が,そのま ま,あるいは改変開発で他の事業グループ に適用できるケースも少なくない。コスト 構造変革など経営の基盤を確立するための

R&D

も必要である。さらに経営効率の観 点を超えて,広範なかつ異なる市場セグメ ントの技術を一元的に開発・蓄積すること により,技術を他に類のない深淵(えん) なものに昇華できるケースが少なからず存 在する。これが上述した研究開発グループ の重要な未来リソースにもなると同時に, 次に述べる新しい市場を開拓する原動力に もなっている。 現行事業が対応しない市場への参入, または将来市場の創生に向けた研究開発 社会,顧客,および日立グループの飛躍 的な発展に向けて最も重要であるこの命題 社長 研究開発グループ 技術戦略室 中央研究所 日立研究所 横浜研究所 デザイン本部 海外研究所 技術戦略策定 事業領域拡大, 将来の社会ニーズを先取りする新分野 エネルギー,社会産業/生活インフラ, 材料・キーデバイス 情報基盤技術,モノづくり技術 ビジョンデザイン,エクスペリエンスデザイン 現地事業の拡大への貢献, 先進顧客との連携 2014年7月時点 ヘルスケアグループ 電力システムグループ インフラシステムグループ 建設機械グループ 高機能材料グループ 情報・通信システム グループ オートモティブシステム グループ 図1│日立グループの主な事業グループと研究開発体制 研究開発グループは,7つの事業グループの枠組みを越えた観点から,共通基礎技術の開発や将来 市場の創生のための方法論研究などに取り組んでいる。

(3)

への対応について,以下の基本戦略に基づ いて

R&D

に取り組んでいる。 (

1

)広範な事業領域を抱えるからこそ獲得 できる広範な市場情報に精通すること (

2

)そのような事業領域を支える広範な技 術領域で

R&D

を行うがために獲得でき る,広範な先端科学情報に精通すること (

3

)これらの情報(ビッグデータ)から社 会変革の兆しを捉えるための人文科学やシ ステム科学を含めた方法論を研究すること これら

3

つはいずれも,後述するオープ ンイノベーションが重要な伴を握る。 以上を技術戦略室が主導する形で技術長 期計画を策定し,中長期にマネージして いる。 日立グループの

R&D

中期計画 海外R&D拠点の拡充 海外の市場における社会イノベーション 事 業 を 抜 本 的 に 拡 大 す る た め に, 海 外

R&D

拠点を拡充し,地域密着型の

R&D

を強化している(図2参照)。海外

R&D

拠 点の拡充は,地理的,量的,質的という

3

つ の側面から進めている。 地理的拡充としては,

2013

6

月にブ ラジル・サンパウロに研究拠点を新設した。 ここでは,ブラジルが世界的に優位にある 農業や鉱業などの先進市場において,日立 グループが優位にある情報通信に関する技 術を融合した研究開発を行うとともに,同 国の交通や電力供給などの社会インフラの 課題を分析し,社会イノベーションにつな がるソリューションの研究開発を行う。同 国での新たなビジネス領域の探索のため, カンピーナス大学と共同でブラジルにおけ る将来の「潮流(きざし)」を予測する「き ざしプロジェクト(a) 」を

2013

年度に開始 した。 また,量的拡充としては,海外

R&D

拠 点 人 員 を,

2011

年 時 点 の 約

150

名 か ら,

2015

年には約

400

名に増強する計画であ る。特に拡大の枠組みとして,

2013

年度 以降,

4

つのラボを新設した。

1

つ目は中 国

R&D

拠 点 へ の 材 料 技 術 創 新 セ ン タ [日立(中国)研究開発有限公司,材料技術 創新中心]の設置(

2013

4

月)である。 ここでは上海交通大学の材料科学与工程学 院との中国製材料の高度解析技術に関する 共同研究をベースに,中国製材料の日立グ ループ製品への適用に向けた製造技術開発 お よ び 設 計 支 援 を 行 う。

2

つ 目 は 米 国

R&D

拠点へのビッグデータラボの設置 (同年

4

月),

3

つ目は欧州

R&D

拠点への ビッグデータラボの設置(同年

6

月)であ る。ここでは大量データの解析と解析結果 英国ビッグデータラボ(2013年6月設置) 原子力研究センタ(2014年9月設置) ・中央研究所 ・日立研究所 ・横浜研究所 ・デザイン本部 材料技術創新センタ (2013年4月設置) 米国ビッグデータラボ(2013年4月設置) ブラジル研究所(2013年6月設置) 欧州 インド 中国 北米 アジア 日本 図2│グローバルR&D拠点の拡充

地域密着型のR&D(Research and Development)を強化するため,地理的,量的,質的な面から海外拠点の拡充を図っている。

a)きざしプロジェクト 生活者による将来の価値観変化を捉えて 社会潮流を予測することにより,新たな ビジネス領域を探る「きざし手法」を用い て,その国の将来像を導き出すプロジェ クト。政治,経済,社会,技術の視点で 文献やWebを中心としたデスクトップリ サーチを行い,それらの時間的変化によ る相互の影響を考察して将来像を導き 出す。

(4)

Ov er vie w に基づくソリューション提供の技術開発 を,日本をはじめとするグローバルな研究 チームとの密な連携によって推進する。

4

つ 目 は 欧 州

R&D

拠 点 へ の 原 子 力 研 究 センタ(

European Nuclear Research Centre,

Hitachi Europe Ltd.

)の設置(

2014

9

月) である。ここでは欧州の先進的なプラント の予防保全技術や実績のある原子力施設の 廃炉技術を取り入れ,安全で高効率な原子 力技術の開発を行う。 質的拡充として,従来は,海外の拠点 リーダーやラボのリーダーは日本から派遣 した人材が中心であったものを,今後ロー カル人材を多く登用する。これにより,海 外拠点における

R&D

活動をより地域に密 着した形へと変革し,グローバル市場にお ける社会イノベーション事業の抜本的拡大 を図る。

2014

4

月にローカル人材が拠 点リーダーに新たに就任した。同時に,海 外拠点と研究開発グループの技術戦略連携 をより緊密化する施策を多数設け,グロー バル

R&D

全体としての戦略の実行を加速 している。 R&Dテーマのシフト 社会イノベーション事業にとってより重 要なテーマに

R&D

資源をシフトさせるべ く,以下に述べる重点化を実施している。 インフラシステムグループが対応する市 場に関しては,交通,水処理などの革新技 術開発を重点的に推進する。これらはいず れも,社会インフラの語源である古代ロー マのインフラの要素に符合している。例え ば,交通分野では,欧州鉄道事業の拡大に 向け,鉄道信号システムの欧州安全性規格 における最高安全レベルSIL4(b) の取得や, 欧州規格に準拠した鉄道車両の横風走行安 全性評価など,規格認証獲得を中心とした 技術開発に取り組んでいる。 情報・通信システムグループが対応する 市場に関しては,クラウドコンピューティ ング,ネットワーク,ビッグデータなどの 革新技術開発を重点的に推進する。特にク ラウドコンピューティングに関しては,例 えば,クラウドシステムの高信頼化,超高 速化,低コスト化に向けた先端技術とし て,世界最高速クラスのミッドレンジスト レージ,フラッシュメモリの制御技術,仮 想サーバ配備時間を抜本的に高速化するス トレージ・サーバ・ネットワーク・運用管 理ソフトウェアの統合技術,データセン ターの情報処理ノードの分散化技術などの 研究開発に取り組んでいる。ビッグデータ に関しては,顧客の経営課題を解決するた めの人間行動データ(ヒューマンビッグ データ)の解析,処理サービスや,超高速 データベースエンジンなどの研究開発に取 り組んでいる。 電力システムグループが対応する市場に 関しては,例えば,東京電力株式会社福島 第一原子力発電所への対応として,放射性 物質の検出とその吸着剤,狭隘(あい)部 調査用の水中・形状変形ロボット,また, 再生可能エネルギー大量導入時にも電力系 統を安定させるための制御技術,再生可能 エネルギーを用いた発電所に併設する大容 量蓄電システム,これに用いる大容量のリ チウムイオン電池,鉛電池などの革新技術 開発を推進している。 ヘルスケアシステムグループが対応する 市場に関しては,ケアサイクルを通した ニーズに応えるべく,ヘルスケア

IT

,疾 病別対応医療機器,病院向けソリューショ ンなどの革新技術開発を重点的に推進す る。予防・健診分野では,ビッグデータ解 析技術を用いた生活習慣病の予防サービス の研究開発に取り組んでいる。検査・診断 分野では,例えば,心疾患の早期診断を可 能とする超音波診断装置とその診断アプリ ケーションや,脳疾患初期での識別診断に よる神経変性疾患の治療支援を行う

MRI

Magnetic Resonance Imaging

)装置とその 計測アプリケーションなどに取り組んでい る。治療分野では,例えば,粒子線による がん治療装置や,再生医療に向けた細胞自 動培養装置などの研究開発に早くから取り 組んでいる。 日立グループ経営基盤のR&D 日立グループの経営基盤をグローバルな (bSIL4

SILはSafety Integrity Levelの略称。機能 安全の国際規格IEC 61508において,プ ラントやシステムのリスクの大きさを基に した安全度水準を表す尺度。SIL1からSIL4

まで4段階が定められ,SIL4が最高水準と なる。

(5)

社会イノベーション事業の推進に最適な

形に変革するために

Hitachi Smart

Trans-formation Project

と呼ぶ活動を全社で推進 中である。この中で

R&D

部門は,自身の 改革とともに,全社規模で経営に効果を発 揮する技術開発に取り組んでいく。 例えば,製品コストの過半を占める直接 材のコスト改革のために,レアメタルレス を実現する代替材料の開発に取り組んでい る。すでに高性能モータについては,アモ ルファス(c)固定子と永久磁石回転子から成 る新しい電磁・機械構造や,角度センサー 不要の回転制御技術により,レアメタルを 使わずに同等の性能を達成した。また,電 気電子回路の接合については,金−スズは んだと同等接着温度でコストを約15とする バナジウム系低融点ガラスなどの新材料を 開発した。 次に大きな割合を占める生産コストの改 革のためには,例えば,グローバルサプラ イチェーンの最適化に関する研究開発に取 り組んでいる。ここでは特に製造ラインの 構成の特徴から通過国の関税などさまざま な要素を考慮し,サプライヤー,輸送経路 やその手段,グローバルな倉庫・拠点配置 までを最適化する研究開発を推進してい る。また,製品試作回数を抜本的に低減す るための高度な計算機シミュレーション技 術の開発を推進している。先進情報処理を 駆使したシミュレーションは,特に両吸込 み渦巻ポンプや空調用スクロール圧縮機・ ファンなどの流体機械の生産コスト改革に おいて,すでに顕著な成果を上げている。 オープンイノベーション 日立グループの

R&D

戦略では,オープ ンイノベーションとして,社外の顧客,社 外の技術パートナー,社会との連携を強化 していく。 冒頭で述べたように,社会イノベーショ ン事業の起点は顧客との連携である。例え ば,欧州

R&D

拠点に設置した鉄道研究開 発センタでは,欧州鉄道の顧客の日本とは 異なる課題を,技術開発に早い段階で反映 させている。また,サウジアラビアのキン グ・アブドラアジズ大学とは,同国水質モ ニタリングの共同実験を実施した。欧州の 自動車メーカーなど

13

機関とは,電気自動

車向け高度

ICT

Information and

Communi-cation Technology

)連携基盤の研究を行っ ている。 顧客が抱えるさまざまな課題に応えるた めには,自社技術の開発のみならず技術 パートナーとの連携が重要になる。例え ば,欧州

R&D

拠点は,英国ケンブリッジ 大学のキャベンディッシュ研究所との連携 により,基礎研究を強化している。粒子線 によるがん治療装置では北海道大学,原子 分解能のホログラフィ電子顕微鏡(d)では 独立行政法人理化学研究所との連携が行わ れている。 このような個別の連携に加え,内閣府の 総合科学技術・イノベーション会議に関す る諸活動などを通じて,社会の大きなイノ ベーションを興すための努力を,国のイノ ベーション施策との連携の下で続けている。 日立グループでは,日立製作所の創業か ら

8

年後の

1918

年に,初の独立研究組織 として「研究係」が創設され,同時に本誌 『日立評論』が創刊された。その創刊第

1

号 に,日立評論の発刊理念として,「製作家 と需要家の貫徹せる意見統一」に向けての オープンな情報発信によるイノベーション がうたわれている。この理念は,

96

年を 経た今なお,日立評論の根本理念である。 さらに雑誌の理念を越えて,日立グループ の最新の中期計画を支える重要な企業理念 となっている。「製作家」の最上流を担う

R&D

は,「需要家」との「貫徹せる意見統 一」に向けた施策を,その戦略の中心に据 えている。

2014

年度の

R&D

重点施策 以 上 の 中 期 計 画 を 達 成 す る た め に,

2014

年度は特に以下の

4

点の重点方針を 掲げている。 顧客起点による研究アプローチへの変革 社会イノベーション事業の根幹である顧 (d)ホログラフィ電子顕微鏡 電子干渉型電子顕微鏡とも呼ばれる。電 子線の干渉性を利用して,物体の位相変 化を計測する顕微鏡。物体を透過した電 子波と,電子源から直接放射された電子 波による干渉縞をイメージセンサーなど に記録して画像処理することにより,物質 表面の三次元形状だけでなく,原子レベ ルでの電場,磁場の計測などが可能である。 (c)アモルファス 液体のように周期的な構造を持たない物 質を非晶質,アモルファスと呼ぶ。ある 種の合金は液体状態から急冷凝固させる ことにより,液体のように結晶構造を持た ない固体を形成することができ,そのよう な金属をアモルファス金属と呼ぶ。アモ ルファス金属は,従来のモータに使用さ れている電磁鋼板よりもエネルギーの損 失が低く,モータの鉄心に用いると効率 を大幅に向上させることが可能となる。

(6)

Ov er vie w 客起点を

R&D

部門で牽引するため,特に

3

つのアプローチを深める(図3参照)。 第一はエスノグラフィ(e)調査である。こ れは調査者が実際の業務を観察し,顧客の 潜在ニーズや本質的課題を抽出するための 手法である。すでに英国鉄道車両保守業務 において,現場作業効率化の施策を導出し た。北米では,データセンターや粒子線治 療装置の建設現場,オーストラリアや南ア フリカでは建設機械保守作業,中国ではソ フトウェア開発現場などでこの手法を適用 したアプローチがすでにとられている。 第二はExアプローチ(f) である。これは システム開発の企画段階で,開発関係者が 業務やサービスの問題,解決策を理解・共 有し,最適なシステム要求開発を行うもの である。これまで,顧客の外販営業,販売 代理店,受付窓口,コールセンター,保守 運用などで数十件以上の適用実績を積んで いるが,これをさらに拡充する。 第三はビジョンデザインである。将来の 社会課題を把握し,それらが解決された社 会の姿を生活者の視点で詳しく描く手法で あ る。「き ざ し プ ロ ジ ェ ク ト」と 名 づ け, 日本,インドネシアに続き,直近では上述 のようにカンピーナス大学と共同でブラジ ルにおける将来の潮流を予測する活動を実 施している。 サービス事業の拡大 顧客起点で抽出された課題やニーズから イノベーションを早期に興すために,日立 グループはサービス事業の拡大をめざして いる。これを先導するため,日立グループ の

R&D

はクラウドやビッグデータを活用 したサービス基盤の構築と,この基盤上で 運用する以下のような具体サービスを支え る研究開発を加速している。 ヘルスケア事業では,生活習慣病などの 病態遷移を日立健保

11

万人のビッグデー タで検証し,外部健康保険組合向けの健康 マネジメントサービス事業を先導してい る。鉱山会社向けには建設機械の運用およ び保守のサービス,情報通信事業ではサイ バーセキュリティや物理セキュリティの サービスを先導する研究開発を強化して いる。 ナンバーワンプロダクト事業の強化 独自ソリューションの基盤となるプロダ クト事業について,特にナンバーワンプロ ダクトのさらなる技術革新と,新規のナン バーワンプロダクトの創出を以下のような 分野で強化している。 ヘルスケア事業に向けては,高磁場の超 電導

MRI

,粒子線によるがん治療装置の 開発を強化している。特に後者について は,内閣府の総合科学技術会議(

2009

年 当時)によって推進された最先端研究開発 支援プログラムを通じ,北海道大学医学研 究科との共同開発などを実施し,動体追 跡(g)とスポットスキャニング照射(h)とい う高精度の治療技術を開発済みであり,さ らなる技術深化を進めている。このほか, 電力システム事業に向けては原子力多核種 除去技術や大型洋上風力発電,インフラシ ステム事業に向けては欧州鉄道信号対応技 術や国内最高速風洞設備の開発,情報・通 信システム事業に向けてはフラッシュモ ジュール,高速データアクセス基盤など, 建設機械事業に向けてはハイブリッドショ ベル,高機能材料事業に向けてはジスプロ シウム添加レス磁石,オートモーティブシ 顧客課題の発掘と共有 顧客の本質的課題や潜在的なニーズを発掘・シェアする。 エスノグラフィ調査 Exアプローチ ビジョンデザイン 顧客との持続的な協創 課題の発見・解決サイクルの迅速な繰り返しにより, イノベーションを拡大する。 将来ビジョンからの革新技術開発 将来の社会課題とそれらが解決された姿を描き, それを可能とする破壊的技術を開発する。 図3│顧客起点による研究アプローチ 社会イノベーション事業の推進にあたっては,顧客と共に課題を見いだす姿勢が重要になるため, エスノグラフィ調査,Exアプローチ,ビジョンデザインという3つの研究アプローチを深めていく。 (h)スポットスキャニング照射 粒子線ビームを細かく点状に切り,移動 させながらピンポイントに照射する技術。 腫瘍の複雑な形状に合わせて高い精度で 粒子線を照射できる。 (g)動体追跡 腫瘍の近くに金マーカーを置き,2台のX 線透視装置でその位置を検出して三次元 位置を計算することにより,金マーカーが 計画位置から数ミリメートルの範囲にある 瞬間だけ粒子線ビームを照射する同期照 射技術。 (fExアプローチ

Experience Oriented Approachの略称。

ITを利用する顧客と共にエクスペリエンス (うれしさ・感動・知的喜びといった人間 が味わう経験価値)をつくり出し,「感動」 を共有しながらプロジェクトを進める,日 立グループ独自の新しいシステム開発 手法。 (e)エスノグラフィ もともとは文化人類学や社会学などにお いて,フィールドワークによって集団や社 会の行動様式を調査し,記録する手法や その調査書を意味する。近年では,企業 が消費者の分析に活用することが増えて いる。アンケートなどの統計的・定量的 な分析とは異なり,インタビューや観察を 通じた定性的な分析を特徴とする。

(7)

ステム事業に向けては自動運転に関する技 術などを強化している。 海外事業拡大への貢献 日立グループの海外事業を拡大するため の

R&D

の主要施策は以下の

3

つである。 第一はグローバルな研究ネットワークの 構築である。特にビッグデータについて は,米国のビッグデータラボを中核とし, 日本,欧州,アジア,インド,ブラジルな どの研究拠点が連携する体制が構築されて いる(図4参照)。また,オートモティブ システムについては,エンジンやシャーシ の開発に関して,各国で異なる規制を踏ま えた研究開発を,米国,日本,欧州,中国 などの研究拠点が連携して行っている。 第二は現地バリューチェーンの構築であ る。例えば,欧州には鉄道研究開発センタ, 原子力研究センタ,マンチェスター大学イ ノベーションセンタ内のビッグデータラボ などを設立し,現地バリューチェーン全体 を担う体制をめざしている。 第三は業務のグローバル標準化である。 設計業務については,クラウドコンピュー ティングを活用して世界の拠点から日本の スーパーコンピュータを自在に活用できる 環境を実現している。また,材料調達につ いては,現地材料の調達率を高めるための 材料解析,製造技術などを

R&D

が担って いく。 イノベイティブ

R&D

の実例 本特集の主題はイノベイティブな

R&D

である。その実例として,以下の

9

編の論 文を掲載した。これら各論文は,上述の

2014

年度

R&D

重点各施策に対応している。 最初の

3

編は顧客起点による研究アプ ローチへの変革に対応している。「社会イ ノベーション事業のための社会科学的デザ インアプローチ」は,顧客起点研究の重点 施策として述べたエスノグラフィ調査,

Ex

アプローチ,およびビジョンデザイン

を 詳 述 す る。「

Concept of Energy Effi

cient

Datacenter in ASEAN Region

」は,日本と は異なる亜熱帯気候における顧客を起点と し,そのような気候においてデータセン ターのエネルギー消費効率を最大化する技 術を紹介する。「次世代エンジンシステム 開発を支える燃焼解析技術」は,エンジン 内で起こっているさまざまな物理現象を詳 細に解析するものであり,顧客にとって最 適な部品や制御方法を設計するための技術 である。 北米 南米 欧州

Global Big Data Innovation Laboratory(GBDIL)

Hitachi Global Center for Innovative Analytics(HGC-IA)

(Hitachi Data Systems, Hitachi Consulting,日立製作所情報・通信システムグループ)

日本 デンマークビッグデータラボ設立(∼2014年9月) ・環境・エネルギー,トランスポート,ヘルスケア 英国ビッグデータラボ(2013年10月) ・ヘルスケア ブラジル研究所(2013年6月) ・農業 ・マイニング ・中央研究所 ・日立研究所 ・横浜研究所 ・デザイン本部 米国ビッグデータラボ(2013年4月) ・ストレージソリューション ・ビッグデータ解析 図4│ビッグデータの海外研究拠点 今後の拡大が見込まれるビッグデータ関連の研究開発については,米国のラボを中核に,各拠点が連携する体制を構築 している。

(8)

Ov er vie w これに続く

3

編は,サービス事業の拡大 に対応している。「安全なビッグデータ分 析をクラウド上で実現する秘匿分析技術」 は,顧客データを暗号のまま分析するため の技術である。ビッグデータ解析サービス において,データの中身をそのまま開示す ることなく,特定の統計処理を外部委託で きるようにする。「環境放射線による電子 装置のソフトエラー・障害対策の現状と取 り組み」は,深刻化する地上の環境中性子 線起因の半導体デバイス・電子装置のソフ トエラー・障害に関する研究である。電子 装置の障害からの復旧や再発防止のサービ スに活用される。「超音波診断装置向け高 品位三次元映像処理技術―

4Dshading

―」 は,産科で使用される超音波診断装置にお いて,胎児の三次元映像を,妊婦やその家 族へ提供するサービスの起点となる技術で ある。 最後の

3

編はナンバーワンプロダクト事 業の強化に対応している。「第一原理材料 シミュレーション」は,物質の電子状態を 高精度に解析し,機能性材料の開発を先 導・支援する技術である。現在,光・電子 融合素子用光源,高温動作可能な磁石材料 などの新材料開発に貢献している。「核廃 棄物の環境負荷を低減する軽水炉システ ム」は,原子力発電で発生する長寿命の核 廃棄物を燃料として燃やすことができる原 子炉である。長寿命の核廃棄物を抜本的に 低減できる。「非順序型実行原理に基づく 超高速データベースエンジンの詳細分析処 理における性能評価―内閣府最先端研究開 発支援プログラムによる産学連携研究成果 ―」は,データベースの検索処理を抜本的 に高速化する情報処理技術である。 以上

9

編は,いずれも直接・間接に海外 事業拡大に貢献するものである。 未来への布石 以上,

2015

年までの日立グループの中 期経営計画を先導する

R&D

を中心に述べ たが,研究開発の最大ミッションは,さら に長期にわたる日立グループの未来の成長 を先導することである。日立グループのさ らなる成長に向け,新たなパラダイムシフ トを起こす基礎研究として,特に人間中心 科学,ライフサイエンス,情報科学,極限 物理を中心に取り組んできた。人間中心科 学は,脳活動や人間行動の解析と,人工知 能やロボットによる実世界へのアクション の両方向からアプローチしている1)。ライ フサイエンスでは,再生医療や単一細胞の 遺伝子解析などを継続している。情報科学 では,量子コンピュータの核となる量子 ビットをシリコン素子で実現する研究や, 情報ストレージ,情報通信の先端研究を 行っている。極限物理では原子分解能の電 子顕微鏡や,物理現象の高度なシミュレー ション技術,そのための理論開発などを 行っている。 1) 武田:人間を指向した研究開発,日立評論,91,4,349∼353(2009.4) 参考文献 武田晴夫 日立製作所研究開発グループ技術戦略室所属 システム開発研究所,研究開発本部研究戦略統括センタ長,基礎研 究所所長,技師長を経て,現在,研究開発グループ技術戦略室室長 専門は数理科学,視覚情報処理,戦略論など 工学博士 執筆者紹介

参照

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