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新幹線鉄道保有機構の成立と沿革

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新幹線鉄道保有機構の成立と沿革

今橋 隆

題を本格的に取り上げた後のことである。この年 の7月に出された第1次の緊急答申では,3公社 について経営形態変更の可能性が示唆され,そこ には民営も含むものとされた。国鉄部内にも改革 の必要性は認識されはじめてはいたものの,いま だ表面に出るほどのものではなかった。ここでは 便宜上,昭和56年を起点として,昭和62年(1987 年)4月の分割民営化までの国鉄改革をめぐる議 論の中で,新幹線がどのように収り扱われたかを 論ずる゜

第二臨調は,上記の緊急答申を具体化したもの として,翌年2月に国鉄緊急対策10項目を発表し た。その中に,整備新幹線の建設凍結が盛り込ま れている。遊休資産の処分の必要性,地方交通線 の分離など,改革の方向性としていわれた他の事 項と考えあわせるなら,とりあえず,収益性をそ こなう恐れの大きい新規投資の抑制が,まず意識 されたものであろう。

昭和57年(1982年)7月の第二臨調答申では,

分割民営化(7ブロックの特殊会社),支払不可 能な長期債務の政府承継,再建監理委員会の設置 などが盛り込まれた。これを受けて,翌年5月に 国鉄改革の具体化をめざして国鉄再建監理委員会 (以下,監理委貝会)が設置された。以降,監理 委員会の資料に主としてよりながら,新幹線をめ

ぐる論議の展開を検証する。

当初の議題に,既設の新幹線は上がっていない。

新規のものとして,第7回において北陸新幹線が,

第11回において東北新幹線上野乗り入れ工事が取 り上げられている(いずれも昭和58年の開催で,

第7回が7月7日,第11回が8月2日)。後者の 位置づけは,国鉄改革における初期の重点の値き 方を明瞭に示している。すなわち,効率的な経営 形態の確立をめざし,昭和62年度までの期間につ はじめに

旧国鉄が民営化されてから10年が経過した。奇 しくも,清算事業団の債務処理をめぐって民営化 (privatization)への評価は多様なかたちで論議 の対象となっている。本稿はそうした検討の基礎 資料として,新幹線鉄道保有機構に関し,国鉄再 建監理委員会の資料に基づき,経過を論述したも のである。意見や評価は最小限にとどめ,事実の 発掘と整理につとめた。こうした資料へのアクセ スを認めていただいた岡野行秀創価大学教授(東 京大学名誉教授),杉山武彦一橋大学教授に謝意

を表したいc

1.国鉄改革過程における新幹線をめぐる状況 新幹線鉄道保有機構は,国鉄改革に関連する諸 組織のなかで特異な経過を辿っている。すなわち,

他とは異なり,平成2年(1990年)4月に本州JR 3社が新幹線に関係する設備を買い取ったため,

保有機構は消滅している。根拠法である新幹線鉄 道保有機構法が昭和61年(1986年)に成立し,組 織の発足が翌年4月なので,保有機構はわずか3 年間の命だったことになる。

国鉄の経営は,すでに1960年代から収支あい償 わなくなっていたが,本格的な改革の必要性が意 識されるには,さらに10年あまりを必要とした。

昭和54年(1979年)に国鉄は,「国鉄再建の基本 構想」をまとめた。2年後には運輸省と共同の

「国鉄経営改善計画」が発表されたものの,こう したプランは机上のものにとどまり,実行の気運 は希薄であった。

こうした状況が変化するのは,昭和56年(1981 年)に第二臨時行政調査会(第二臨調)が国鉄問

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き講じる緊急措置の内容が検討されていて,経営 管理の適正化,事業分野の整理縮小に続いて建て られた項目である「営業収支の改善及び債務増大 の抑Iljll」の中で,上野乗り入れ工事が登場してい る。つまり,設備投資は全体として抑制し,緊急 度の高いものに限って実施することにしているの だが,東北新幹線の上野乗り入れは,関連する通 勤別線工事と並んで,例外接いとなっている。同 時に整備新幹線計画の当面の見合わせも提示され ている。

第20回(昭和58年10月4日)までの監理委員会 の議題には,地方交通線,設備投資,要員問題,

職場規律,予算管理,貨物輸送などがよく登場し,

こうした諸側面についての状況把握と情勢分析に 比重がかかったことをうかがわせている。国鉄の 困難な経営状祝の原因として,全体的には労使関 係が指摘され,部門としては貨物,地方交通線,

調達業務が意識されている。彪大な累積債務と悪 化する収支状況が念頭にあり,その有効な解決に は,原因となる部門の確定とそれへの処方菱が必 要であるという(いってみれば当然の)アプロー チがなされたものであろう。

そのアプローチから考えて,新幹線という部分 は,相対的にあまり問題ではないとみなせよう。

新幹線は債務の原因を構成したとはいえ,営業的 な収支については健全であり,その悪化を防げば よいからである。整備新幹線の凍結はこの認識に 基づくものと推察され,東北新幹線の上野乗り入 れ工事も,それ自体として一時的には費用負担が 大きくても,長期的にはより大きな利用者の便益 と,その反映としての運賃料金収入を期待できる ものとして,設備投資抑制の例外扱いが実施され たはずである。

昭和58年から59年にかけ,国鉄をめぐる情勢は i転換点を迎える。もともと.国鉄再建の方策につ いて,分割民営化といういわば外科手術には,労 働界を中心に反発が強く,国鉄内部もそれと同意 見であった。監理委員会は,かならずしも「はじ めに分割民営化ありき」で一致していたわけでは なかったかも知れないが,国鉄内での改革に協力 的な人々に対する冷遇,具体的方策に閏する国鉄 との意見の食い違いなどを経て,徐々に分割民常 化へと舵を切ったようにみられる。こうした情勢

のあらわれとして,昭和59年5月に出された2度 目の緊急提言があり,そこでは,関連事業の活性 化や用地売却などとならび,要員縮減や余剰人員 対策など,いわば「血を流す」手法が膿i込まれ ている。この段階以降,監理委員会は分割民営化 を明瞭にめざすこととなる。

2.分割の具体案と新幹線

委貝会が回を重ねるにつれ,テーマは具体性を 帯びたものになってゆく。第20回から第50回にか けて,経営形態,長期債務,年金制度,採算性,

需要予測,適正要員数などという議題が目立ち,

経営形態変更をどう実行するかという問題意識が 読み取れる。このような方向性が新幹線に具体的 に向かうまでにはやや時間がかかり,第75,76, 78回(いずれも昭和59年10月)において.分割案 の中に新幹線が浮上する(注'1.

第78回の資料では,新幹線1社,在来線ブロッ クという分割案が資料を含めて検討されている。

その中で,新幹線会社は,関東・甲信越,近畿・

北陸の2社と並んで「高収益分割体」と位置づけ られ,経常損益の黒字基調を見越し,ある程度の 長期債務を承継する予定になっている。この段階 での収支見込みを第1表に示した。試算の前提は 次のように説明されている。

第1表新幹線会社(1社)の収支見込み

(単位億円)

96

出典:再建監理委員会資料

「高収益分割体については,各事業体の収益力 を勘案して資産再評価を行なうことにより承継す 62年 63年 64年 65年 営業収益 11,544 11,737 11,934 12,136 営業IMI用

①人件費

②物件饗

③租税公課

④減価償却費等

⑤営業桁償却lAI

(62年度期首16Ⅲ976)

61212 7132

朗釦肥朋別

7132 51699 52188 83311 7132 I99

油麺噸哩汕伽 0??

7132 0P0

師伽、町、剛

営業損益 3,849 3,977 4,079 4,159 営業外費用(利子)

経常損益 経常係数(百分比)

4,028 -179 102

31906 71 99

3,779 300 97

3,622 538 96

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る長期債務額を調整するものとする。その際,民 営化後なるべく早く配当可能となるよう,具体的 には運賃等が定常的な状態となると想定されてい る65年度頃には配当を行ない得る範囲で長期債務 を承継させることとする。

以上の前提のもとで,現在の鉄道事業用試算の 簿価は変更せずに.資産(簿価)見合いの長期債 務額(資本金相当額を減額)を承継した場合に見 込まれる超過収益額に見合った営業権を設定し,

それに等しい長期債務額を付加することで試算し てみた。」

こうした分制案の意義としては,経済圏に対応 しているため,地域の要望への対応と地元責任の 明確化が可能になること,会社の経営規模が管理 限界を超えないこと,内部補助の抑止と合理化イ

ンセンテイヴの存在によって効率的な交通体系が 形成できることの3点があげられている。反面,

問題点として,本州以外などの非採算分割体の経 営困難と,対応する補助のあり方,そうした地域 での長期的な設備更新などが指摘されている。分 割体の自立経営を基本に,交通ニーズヘ適切に対 応するという問題意識が看取できる。自立経営の 基盤となる収益力は,かなりの程度まで,新幹線 に期待せざるをえない。こうして,とくに本州内 の分割方法を決定する過程で,新幹線は分割体の 経営それ自体を大きく左右する分岐点としてクロー ズアップされることとなる。

新幹線に関し,中味の濃い議論が展開されたの は,この頃から第92回(昭和60年2月7日)まで の間であったものと推察される。第92回の議題に は新幹線一括保有方式がかかっており,これが結 論的な地位を与えられたからか,以降,そうした 議題はみられなくなる。こうした議論の鳥鰍図と なるのは,第91回に提出された「新幹線と在来線 の関係についての問題点整理」であるため,新幹 線と在来線を一体的に運営することが必要である かどうかについて,その要点を紹介する。

第一に,新幹線(とくに東海道新幹線)は中長 距離都市間輸送,在来線は地域内輸送を主に担当 している。在来線の有するフィーダー機能,在来 線夜行列車の長距離輸送など交錯する面もあるも のの,大勢として機能面からは分離,一体のいず れでもよい。

第二に,経営と交通政策の面から,分離の是非 が概観されている。一体的運営には,新幹線の高 収益を生かした分割体の経営安定効果,在来線の フィーダー効果活用といった利点がある一方,内 部補助が容易であることから不採算路線の整理難 航,あるいは新幹線分割による乗客流動の阻害な どの難点も存在する。両者の分離には,在来線に ついての強い合理化インセンテイヴの存在(これ は前記した最初の難点そのものでもある),近距 離都市間輸送における両者間の競争による利便性 向上などの長所が予想され,他方,在来線の低い 採算性,将来の新幹線整備についての経営判断の 総合性欠如(たとえば並行在来線の収支悪化対策)

といった短所が懸念される。

第三に,技術的には,軌間が異なることから固 定施設のほとんどが分離されていて,要員運用も 独立しており,接続ダイヤ調整などの比較的小さ な課題を除けば,分離による困難は発生しないも のとされる。

こうして,機能や技術の面での制約はそれほど 大きくないことが判明した。結論的には,経営お

よび交通政策の面からどちらが望ましいかであり,

そうした選択は「各々一長一短があり,結局は,

問題点のうちどの部分を重視して考えるか判断の 問題となるので,具体的な分割パターンに即して 総合的に考えざるを得ないもの」とされている。

本稿もこれに従い,分割についての諸提案を追っ てみよう。

分割案はこの時期の会議資料において実に多様 な様相を呈しているが,まず取り上げるべきは,

第91回で提示された4つの案(鯉)である。これら は,不採算線区のすべての内部補助,簿価に基づ く採算性の確保,規模格差の縮小という3つの目 標をめざしている。A:住田案,B:東北・上越 新幹線分離案,C:本州内都市間輸送分離案,D:

東日本幹線分離案と呼ばれ,その概要を第2表に 示した。新幹線という観点では,いずれも一体的 に迎営され,どの在来線を内部補助するかという 点が内容の相違となっている。

次に,同じ第91回には,新幹線の分割を前提と した資料も提出されている。これによると,4新 幹線をもとに本州を4つに分割する案が手始めに 検討され,東北と上越(上野~大宮間),東海道

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72

第2表内部補助を前提にした分割案

①旅落②採斜

②都市圏流動の分断が発上

③分割会社間の規模が不土

繍臓鰯|護繍蝋

出典:再建監理委員会資料

と山陽という,乗客流動の重複する部分において の技術的問題が取り上げられており,結論的には 対処可能という判断が下されている。在来線につ いても分割される予定で,最大の問題は,首都圏 の国電区間が東日本会社と甲信越会社に分離運営 されることであった。ただし,御茶ノ水と大宮と の2カ所で想定される両者の相互乗り入れは,本 数や旅客数からみて異例に規模が大きいわけでは なく,すでに実現している綾瀬(常磐線と営団千 代田線)や西船橋(総武線と営団東西線)などと 同じ程度であるため,技術的な難関とはならない という見込みが示されている。

こうした分割案の背景となったのは,新幹線各 線区の採算見通しである。これは第3表に示した

第3表新幹線の線区別収支予測

-1束海道新幹線(単位:億円,収支率は百分比)

-3東北新幹線

一4上越新幹線

566169C

64911684

△9181△9271△9351△9と

U雫

出典:再建監理委貝会資料

注1:第1表とは整合性があり,同一の前提に立脚 している。

注2:第1表の経常係数と当表の経常収支率は同義 であると推察される。

が,収支率でみて東海道と山陽がよく,東北と上 越は苦しい。こうした見通しのばらつきは,各分 割体の採算性を確保するという観点からすれば,

分割のパターンに大きな影響を与える。この時期 に作成された資料によれば,採算性確保につき,

設立当初から赤字が予想される会社を設立するか どうかが検討されている。方向として,本州につ いては採算`性の確保をめざしているものとおもわ れる。背景として,高収益分割体を単独で存在さ せれば多額の法人税を納付せねばならず,収益流

■面■■F両面祠■誼困

二-F・-

 ̄ ̄

-2山陽新幹線

900129

考え方 問題 DeG、

A・住田案 東海道新幹線で東北.

上越新幹線,

方を内部補助東北地

①旅客輸送の機能面が東西でかなり相違

②採算がアンバランス(東と中部は赤字)

③都市圏流動の分断が発生 (御茶ノ水,東京,大阪)

B・東北・上越 新幹線分離案

東海道新鷺i判りiで東北.

上越新幹線,東海地 方を内部補助

①機能面からの説明困難

②都市圏流動の分断が発生(秋葉原,東京)

③分割会社間の規模が不均衡 C・都市間輸送

分離案 新幹線と都市'111とを

あわせて分離 収支バランスを図るためには一部で不自然な分離が発生 D・東日本幹線

分離案

東海道新幹線で東日 本の都市間の幹線を 内部補助

①機能面からの説明はきわめて困難

②支線的な線区がかなり幹線会社に所属

62 63 64 65

営業収益営業費用 営業損益 利子

1,708 2,145

△437 2,113

11781 2,125

△344

20180

8469 5375 8122 L2△2

△211 1,938 2,149 2,340

経常損益 △2,550 △2,524 △2,535 △2,551 経常収支率 249 242 236 232

62 63 61 65

営業収益 営業費用 営業損益 利子

666 1,585

△918 110

690 1,617

△927 214

714 1,649

△935 327

739 1,684

△945

“9 経`階損益 △1,028 △1,141 △1,262 △1,394 経常収支率 2 戸、 265 277 228

62 63 64 65

営業収益営業費用 営業損益

利子

614 ■P●■●●

708 330 385

△136 4,533 6,399 1,867 △521 6,462 4,556 1,906 △940 6,525 4,569 1,956

経常損益 4,289 4,669 、ゥ077 5,509 経常収支率 32 29 27 26

62 63 64 65

営業収益 営業費用 営業損益 利子

2,833 1,287 1,545

513

211 ワ-7 6062 8354 6151 211 739 9353 0733 0182 211 ↑99 4964 3391 9352

経常損益 1,033 1,144 1,260 1,382 経常収支率 64 45 45 46

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出につながることが懸念されていたであろう。

以上のような思考の流れにそって諸提案を整理 するメモが存在している(“)。これによると次の4 項目が重要である。

①簿価によって資産評価をするかぎり,新幹線 のみ別会社案は,他の分割体の採算が成り立た ず難点がある。

②本州の分割は,地域性と機能性のどちらかが 基礎となる。地域性から東西2分割にすると東 が大きすぎ,これを分割するなら,収益源は東 海道新幹線と首都圏の国電である。ここでもし 東北,上越新幹線を東海道新幹線と抱き合わせ れば,地域`性は薄れる。首都圏の利益を分け合 うのがA案,首都圏を一体とするのがB案であ る。

③機能性からは,新幹線とそのフィーダーおよ び主要幹線でひとつ,首都圏と近畿圏において 採算のとれる範囲でそれぞれひとつの会社を作 り,残りは幹線会社に付随させる。こうすると 地域面からはきわめて説明のしにくいもの(C 案)となってしまう。

④2つの要素を折衷させて,束は機能性重視,

西は地域性中心としたのがD案であるが,こ うなると説明はますます困難である。

ここで興味を引かれるのは,後半の項目で繰り 返し登場する「説明」の実質的な意味である。一 般論としては「分割についての社会的な理解を得 ること」であろうが,それでは印象がやや希薄に なってしまい,こうした決定的なファクター(ど ちらの項目でも,それにより評価を決めている)

とするべき要素に乏しい。

「説明」の具体的な内容を特定することはでき ないが,参考になるのは,地方交通線などの(在 来線の)不採算部門をどのように取り扱うかが,

新幹線と並んで,分割方法をめぐる主要な項目に あがっていることである。当然,これに対する当 該地域の反発は予想されるところであり,内部補 助の程度が地域ごとに食い違ったり,分割体の規 模や採算性が相違したりすることは,この意味か らも避けたいという雰囲気があったはずである。

地域性や機能性が重視されるという議論の展開は,

そうした筋を通すことにより,結果として生ずる 可能性のある地方交通線の分離などの措置を納得

されるものとしたいという意図に裏打ちされてい たのではなかっただろうか。

第92回会議には,「新幹線一括保有方式につい ての検討」という資料が提出され,論議にひとつ の結末を与えるかたちとなった。分剖方法(本州 4分割),収益見込み(西日本会社の赤字計上)

など,その後の推移とは剛鶴を来した点もあるも のの,大筋において新幹線に関する処理の基礎を 固めた資料なので,内容を摘記する。

まず,一括保有方式の理由づけが示される。採 算性,地域性,機能性のバランスから見て本州は 東日本,甲信越,東海,西日本という4分割が望 ましいが,その場合,会社ごとの収益状況は大き く異なり,その原因は新幹線にある。収益調整を やるとしても,それが恒常的になれば民間会社に する意味が薄くなる。そこで,①新幹線が収益格 差の原因②資本費負担の差が明確③機能が同 質などの理由から,新幹線を一括して保有する主 体を設け運営を分割会社に委ねるという結論が出

されている(注`)。

保有主体については,特別会計,1日国鉄,特殊 法人,運行会社共同出資による株式会社の4案が 併記されている。国の事業とすることによる採算 意識の不足,新幹線の安易な建設の防止,債務承 継や借り換えのスムーズな実行などの観点から各 案について検討されているが,その優劣はつけら れていない。

設備の貸借関係は,分割体と保有主体の間の賃 貸借であり,リース料は施設の利用に対する対価 であると想定されている。維持更新,改良投資な どは分割体が行なうことになっている。料金の総 額は,耐用30年間,残存価額ゼロとし,62年度期 首の承継債務を30年半年賦元利均等方式によって 償還するものとして設定される。会社則の使用料 の割り振りは,利用の度合いを反映して決定する べきものとされ,車両キロベース,営業キロと輸 送人キロの相加平均ベースの2種が試算されてい る。車両キロベースの場合を第4表に示した。第 3表と比較すれば,東北,上越が黒字となる反面,

山陽は若干ではあるが赤字となっている。こうし た変化は,保有と運営の分離によって,資本費負 担を利用逓に比例させた結果といえ,一種の「新 幹線プール制」の効果とも考えられる。

(6)

74

第4表使用料金による調整後の線区別収支予測

(単位:億円) ぴ採算性の3つが同時には成り立たないことが判 明した。このため,主として東海道新幹線から東 北・上越新幹線への内部補助を実現するために,

保有と運営の分離という方法が案出され,それに より前述した3つの目標がかなりの程度まで実現 することになった。

第5表新幹線鉄道保有機栂の固定資産内訳 単位:100万円昭和62年4月1日現在 出典:再建監理委員会資料

以降,国鉄改革過程における新幹線の取り扱い は,ほぼこの資料の方向に沿っている。その本格 的な検討は次節に譲り,ここでは成案を得るまで の経緯を要約しておく。まず,監理委員会の議題 の流れとしては,分割民営化という筋道において,

具体的な分割方法を検討する中で,収益源として の新幹線が,自立経営を確保する大黒柱として浮 上してきている。次に,新幹線の分割方法につい ては,線区ごとの採算が大きく異なることから単 純に分割体に保有させると地域`性と機能性,およ

出典:再建監理委員会資料

第6表新幹線鉄道保有機栂の資産概要と負債一覧 1.資産

①線区別鉄道施設:東北,上越,東海道,山陽の各新幹線(営業キロ2,034キロ,53駅)

②運転区:仙台,新潟,上野,大阪,広島など19区所

③工場:仙台工場,浜松工場,博多総合車両部(①~③の土地面稚は3,300ha)

④流動資産:現金・預金

⑤繰延資産:新幹線保線管理システムの開発費など 2.債務

①短期負債:未払利子(保有機構が承継する長期憤務に係る未払利子)金額はNA

②民間借入金1,743億円

③資金運用部・簡易生命保険積立金からの借入金29,390億円

④鉄道債券18,336億円

⑤鉄道建設債券7,073億円 出典:再建監理委員会資料

東北 上越 東海道 山 陽 合計 収入

運営費 運営収支

1,708 835 873

666 520 146

6,337 1,648 4,689

2,883 894 1,939

137 □P●▽■ 468 494 586

使用料金 営業損益

628 245

241

△95

21

937 752 1,207 732

42

819 829

分割会社の

経常損益 583 267 1,610 △51 2,407

項目 帳簿価額

土地 建物 線路設備 電線路 工作物 自動単 機器 無形固定資産 建設仮勘定

459,618 264,605 3,141,025 232,097 73,357 251 220,617 33,166 265,871 合計 4,690,607

(7)

75

罎iiw嶢「聯Ei灘纂評≦

L鷺iE麟鱗鶴…

理事長

(1)

ための渉外と調整

雫w-F鱗鱗琿 L-----東北新幹線臨時工事対策室(5)

W「瀞--[二鱒騨鰯霧

管財部長

(1)

~E鱗蒸鱗…

出典:新幹線鉄道保有機櫛設立委員会資料

が再調達価格(いわば時価)に基づいていたこと である。当然,差額としての収入が生まれるわけ で,新幹線リース料として清算事業団に償還され るはずであった2兆9千億円は,これを財源とし ていた。この意1床で明文化されない目的とされる べきは,同一の経営体ならば資産の評価替えによ る利益であって実現できないものを,異なる経営 体の取引として計上し,債務補填に充当するとい うことである。つまり,新幹線は旧国鉄の資産の うちでもっとも優良なものであり,それなりの収 益力を有する。分離して取り出せば,長期債務の 一部を償還することは可能である。ただし,新幹 線の収益力を超えて債務を負担させれば,各旅客 会社の収益性を損なうことになる。したがって,

リース料は,無理のない範囲で債務を償還しつつ,

資本費の相違による収益`性の格差をならすための 手段として活用された。

こうした事`情から,保有機構の主要な機能は,

目的でもある3社間の経営基盤と運賃水準の均衡,

長期債務の償還という2つに大別される(経営基 盤と運賃水準は表裏の関係なので一括した)。副 次的な機能としては,3島旅客会社のための経営 安定資金(1兆3千億円)の財源確保,3社のた めの保険機能の両者が指摘される。経営安定資金 3.保有機構の概要とその後の評価

分割民営化に伴い,新幹線鉄道保有機構法が昭 和61年に成立した。これによると,保有機構は,

「我が国の基幹的輸送機関として国土の均衡ある 発展に果たしている」新幹線の役割に基礎を有し,

新幹線に関係する旅客鉄道会社の経営基盤均衡化 と利用者の負担の適正化とを主な目的とする。こ のため,新幹線施設の一括保有とその旅客鉄道会 社への貸し付けの2種の業務を行なう。

長期債務処理としては,昭和63年時点で,5兆 7千億円が新幹線保有機構に承継された。内訳は,

東北・上越・山陽新幹線の資産見合いで3兆9千 億円(簿価),上越新幹線の施設債務が1兆8千 億円である。

対応するリース料は,再調達価格と輸送量(直 近2年間の実績)に基づいて30年元利均等で計算 され,当初は,東海4,056億円,東日本1,979億円,

西日本1,032億円(以下これらの当事者を3社と 略祢)であった。この数字は,租税公課,管理費 その他を含んでいる。なお貸付期間終了後は,3 社に譲渡される(有償か無償かは明記されず)予 定であった。

注目すべきは,債務処理が簿価,リース料算定

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76

'よ,清算事業団が承継した形になっている。保険 機能とは,特定の新幹線だけの輸送量が落ち込ん でも,リース料も見合いで減少するため,みずか ら保有する場合に比べて収支への影響が軽減され ることを指す。

新幹線貸付制度は,期待された役割を具現する ほどの期間,在在しなかった。問題点として,次 の3点が指摘されている。

①貸付期間終了後の本州旅客3社への譲渡が有 償か無償か判明しない。

②貸付料の配分は,将来の変更が起こり得るの で,負担額が不明確。

③新幹線が自己資産ではないため,3社は減価 償却費を計上できない。

こうした点を踏まえて,3社への鉄道施設の譲 渡が決定され,新幹線譲渡法の成立(1991年4月)

となった。実際の譲渡は同年10月1日で,価格は,

東海5兆956億円,東日本3兆1,069億円,西日本 9,741億円で,シェアをみると,それぞれ55.5%,

3a996,10.6%となっている。譲渡代金総額は9 兆1,767億円に上り,保有機構の資産とリース料 の合計である8兆6千億円にかなり近いものであ る。

譲渡代金を引き当てとして,鉄道整備基金が設 立された。使途としては,今のところ,長期債務 の償還だけでなく,整備新幹線,主要幹線鉄道,

都市鉄道の整備助成の3者にも充当されている。

これらの助成には,一般会計および産業投資特別 会計(NTT-B貸付金,ただし整備新幹線に対

してのみ)からも支出されている。

3社にとっての利害は,①の条件をどのように 解釈するかによって,判断の異なる問題である。

当面,リース料は減価償却費十利子よりももちろ ん少額だが,無償で譲渡されない限り,2018年に はかなりの負担が発生する。買い取った場合の負 担は年を追って減少し,2001~2003年ごろにリー ス料を下回るものと予測される。

当面,差し迫った問題は,上場を控え,①②の 両面に由来する債務の不確定であっただろう。と くに東海のように,新幹線を収益の主要な拠り所 としていれば,こうした取り決めの帰趨は死活問 題であり,幅広い投資家から資金を集める上場会 社としてはかなり不利な要素となる。

③の減価償却については,維持・更新が旅客会 社の業務となっているために,一般的な理解とし ては理由となる。ただし50億円以上の大規模な災 害復旧投資については保有機構が行なうという取 り決めもあったので,榊想検討時にこうした問題 がなおざりにされていたわけではない。会計上,

保有機構はそうしたまとまった経費を収入から控 除できるはずだから機構解体のメリットはリース 料の平準化に帰着する。

他方,民営化以降の本州3社の業績が予想以上 に順調に推移したことから,会社間に発生する不 均衡の是正という,保有機構の当初の目的がおお むね不発状態で推移したことも見逃せないIiEs)。

折からの好景気で,各社とも,「法人税を負担す るよりは減価償却を」と考えたことも追い風の一 つとなったであろう。逆にいえば,今後,利益の 不均衡や減価償却費による収益圧迫などが顕在化 したとき,リースの方がよかったという感想が聞 かれるかどうかは興味深い。上場による主として 資金調達面の有利性は,そうしたデメリットを相 殺するものであったのだろうか。もちろん,民営 化を名実ともに達成するという意味では,設備買 い取りはかなり妥当な方向であっただろう。買い 取り価格自体に,ある程度まで不均衡是正の機能 が託されていたことも事実である。この意味にお いて「新幹線プール制]が完全に消滅したわけで はない。

同時に,俎上に上った多様な分割案と現実の本 州の分割方法(3分割で東北と上越の両新幹線は 東日本会社による一括運営)とを比較すれば,東 日本における在来線の経営成績が重要な役割をは たしているものと推察される。榊想段階では「新 幹線から在来線へ」という内部補助しか考えられ ていなかった。しかし買い取り実施以降の状況で は,東日本の在来線の経営成績は予想以上に好調 であり,「首都圏の在来線で東北・上越新幹線を 内部補助する」こともそれほど無理ではない。一 般に分割民営前の収支見通しはやや保守的なので,

とくにJRが独占的地位を享受しやすい首都圏の 場合,こうした内部補助はかなり安定性を有する。

いまひとつの主要機能である長期債務の償還に ついて,実質的には変化はないものとみられる。

譲渡代金総額と保有機構の資産とリース料の合計

(9)

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たこと,災害時の大規模なものを除き,設備投資 が3社に委ねられていたこと,買い取り後も新幹 線プール制が(買収価格を通じて)実質的には機 能していることなどから,上下分離自体の是非と 保有機構の消滅が,留保なしには因果関係で結べ ないようにみえる。保有機構の設立は,もともと 企業性を維持しつつ分割体間の規模と収益性を均 衡させようという目的に基づいており,一般的な 上下分離とはやや性格が異なるものではないだろ

うか。

こうした筋道を想定すれば,「なぜ分割民営化 時点で本州3社の保有する設備としなかったのか」

という疑問に対して,やや答えやすくなる。本来,

上下分離については`慎重な意見もあった監理委員 会が保有機構方式を選択したのは,新幹線の資本 費格差がもたらす収益性の不均衡是正の観点から,

各社の企業性を損なわずに東北・上越の両新幹線 を内部補助するためであった。ところが,景気回 復の効果もあってJR東日本の経営成績は好調で あり,買取りが可能となった。そうした可能性も 予測されなくはなかったにしても,監理委員会の 基本的な立場は,「分割体の採算性を確保するこ とによって分割民営化を円滑に実施する」ことに あったので,新幹線どうしの内部補助の方に魅力 を感じ,保有機構方式を選択したものとみられる。

鉄道システム全体を考えると,都市鉄道整備の 必要性,規制政策へのプライスキヤッブ導入の兆 しなどから,投資の決定と経営主体に関する政策 的分析の必要性は高まりつつある。本稿がその礎 石の一部となることを期待して欄筆する。

との差額(9.2兆-8.6兆=0.6兆円)は,保有機構 が存在した期間の金利程度である。保有機構がな くなっても3社から清算事業団への資金フローに よる長期債務の償還という構造は不変である。

副次的な機能については事情が異なる。3島会 社のための経営安定基金は,自立採算の可能性に 乏しい経営環境からは不可欠の存在である。しか し鉄道整備基金はその眼目を投資補助に置いてお り,運営費の補助はしにくい状況と推察される。

理論的には一般財源ないし地方自治体からの補助 投入が(受益者負担,内部補助抑止などの観点か ら)示唆されようが,財政事情,地方自治体の自 主財源などの制約から実行はそれほど容易とはお もわれない。鉄道整備基金の使途は,政治的・社 会的に必要度の高い投資対象が今のところは選択 されているが,将来にわたっては,より明確なルー ル設定が望ましいのではないだろうか。とくに損 失の発生が必至な投資対象に対しては,迎営費の 手当ても含めての見通しがつかない限り,実行の 決断を安易に下すべきではないだろう。

保険機能については,その効果に疑問も呈され ている'艦6'。すなわち,リース料が回避可能費用 となるため,リニアなどの新・新幹線がかりに敷 設されれば,並行する新幹線を保有する旅客会社 は運転回数減少の負担を保有機構に転嫁できる。

一歩を譲って保険機能を認めるとしても,シェア による配分はゼロサムゲームなので,全国的な旅 客数の落ち込みといったリスクには無力であり,

その意義は限定されたものである。

4.小括:保有機構の経緯が示すもの

わずか3年間で消滅した保有機構について,2 つのことがいい得るであろう。すなわち,当初か ら無理のある上下分離を行なったため,減価償却 による再投資がしにくいことを主な理由に,3社 による設備買い取りが行なわれたという見方と,

そうであるとしたら,なぜ分割民営化時点では,

保有機構が設立されたのか,という疑問である。

本論の検討を基礎に,こうした点をあらためて振 り返る。

第一の見方については,分割民営化の検討段階 での予測が,現実の決算よりも控え目なものであっ

注l:この時間的ずれにはいくつかの解釈が可能で ある。新幹線は数多くある課題のひとつなので,

取り上げるまでに時間がかかったともみられる。

私見では,昭和59年の夏から秋にかけ,監理委員 会の方針である分割民営化を世論に浸透させるた めの努力と,分割民営のマスタープランに肉付け するための資料収集とに主力が値かれ,後者の中 で新幹線をどう取り扱うかという意識が形成され たようにおもわれる。分割会社の収益性を確保す るために重要な分野が新幹線だからである。

注2:住田案については切り方を若干修正したA'

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案が併記され,以降の検討もそれが中心である。

ここでは本質的な共通性と煩雑さの防止とに意を 用い,両者を一体のものとみなしている。

注3:このメモの正確な日付は判然としない。901回1 から92回までの監理委員会の議題との関連が強い。

注4:この資料には「本来,鉄道事業の経営上,施 設の保有と運営を分離するのは望ましくない」と いう記述があり,3杜買い戻しの結末とあわせ考 えれば興味深い。

注5:中西(1985)では,この側面を評価し,3社 間の収益格差は新幹線の資本費の差に由来すると 述べている(286ページ)。

注6:藤井(19891180ページ参照。

参考文献(再建監理委員会資料を除く)

藤井弥太郎「鉄道」奥野正寛,篠原総一,金本良 嗣「交通政策の経済学」日本経済新聞社1989年 飯尾潤「民営化の政治過程」東京大学出版会

1993年

中西健一「戦後日本国有鉄道論」東洋経済新報社 1985年

土屋比呂幾「新幹線鉄道保有機柵の機能」『述輸と 経済」第48巻第10号,1988年

参照

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