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厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 令和 2 年度 分担研究報告書

HAM 診療ガイドラインの活用実態および内容の評価に関する全国アンケート調査

研究協力者 氏名 :佐藤知雄

所属機関:聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター 役職 :准教授

研究協力者 氏名 :八木下尚子

所属機関:聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター 役職 :講師

研究協力者 氏名 :山内淳司

所属機関:聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター 役職 :講師

研究要旨

HAMは深刻なQOL低下を来す神経難病で、一昨年はじめて「HAM診療ガイドライン2019」

が本研究班により作成された。しかし、質の高い医療が実践され、患者のQOL 向上へと結び つけるためには、ガイドラインを作成するだけでは不十分である。診療の質評価指標(Quality Indicator, QI)などを用いてエビデンス・プラクティスギャップを定量化し、普及活動による ギャップの解消を目指すことが求められる。また、日常診療で実践するにあたっての課題を抽 出し、ニーズを把握して、ガイドラインをさらによいものに改訂していくことも重要である。

そこで、本目的を達成するために必要な内容を盛り込んだ調査票を班員のコンセンサスを得て 策定し、その調査票を用いて全国の神経内科専門医 6080名を対象にアンケート調査を実施し た。

全国の神経内科専門医の 15%より回答が得られ、臨床経験 10 年以上の医師が 92%を占め た。しかし、HAMの診療未経験者が19%、経験例数「1-3例」が53%、また調査時点でHAM 患者を診察していたのは27%に留まり、神経内科専門医であってもHAMの診療経験は乏しい ことが判明した。また、HAM診療ガイドラインの認知度は47%、実際に活用していたのは12%

で、本診療ガイドラインがまだ十分活用されていない実態も明らかとなった。エビデンス・プ ラクティス・ギャップの定量化については、HAM は希少疾患で真の QI 測定は実施困難であ るため、我々はガイドラインが示す確定的な事項に関する実施率を代替QIとして定量化した。

調査した9つのうち実施率が低い項目として、HTLV-1感染の確認検査(47%)、判定保留例 に対するPCR検査(19%)、ATLスクリーニング検査(53%)、HAM診断時の髄液マーカー測 定(27%)、治療効果判定目的の髄液マーカー測定(18%)があった。中でもHTLV-1感染の診 断は一次検査陽性であっても約半数が偽陽性で確認検査が非常に重要であるが、神経内科専門 医の少なくとも25%は確認検査について知らなかったことが判明した。したがって、専門医で

あってもHTLV-1に関する知識は不十分であるため、一層の周知の必要性が認められた。また、

ガイドラインの治療アルゴリズムで示した7つの治療方針に関して、その妥当性を定量化し、

63%-95%の同意率が得られた。最も同意率が低かった治療方針は「疾患活動性が低いHAM患

(2)

2 A.研究目的

HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy:HAM)は、ヒトT 細胞白血病ウ イルス1 型(human T-cell leukemia virus type I: HTLV-1)の感染者の一部に発症する 慢性進行性の痙性脊髄麻痺を特徴とする希 少な免疫性神経疾患である。HAM 患者は主 に歩行障害、膀胱直腸障害、感覚障害を来た し、進行すると車いす生活や寝たきりとなる などQOLが非常に低下する。そのため、我々 は全国におけるHAMの診療の質の向上と均 てん化およびそれによる患者のQOL 向上を 目指して、H28-H30 難治性疾患政策研究班

(研究代表:山野嘉久)にて「HTLV-1関連 脊髄症(HAM)診療ガイドライン2019」を 作成した1)。このガイドラインでは、HAMの 疾患活動性を評価し活動性に応じた層別化 治療の実施やHAM確定診断後の成人T細胞 白血病/リンパ腫(ATL)のスクリーニング検 査の実施など、標準的な診療アルゴリズムを

専門家や患者会、関連学会の合意を得て示し た。しかしながら、質の高い医療が現場で実 践され、全国の患者のQOL向上へと結びつ けるためには、診療ガイドラインを作成し公 開するだけでは不十分で、ガイドラインと日 常診療におけるギャップ、いわゆるエビデン スプラクティスギャップを埋める必要があ る。具体的には診療の質評価指標(Quality Indicator, QI)などの指標によりギャップを 定量化し、普及活動によるギャップの解消を 目指すことが求められる。また、日常診療で 実践するにあたっての課題を抽出し、ニーズ を把握して、新規治療・検査の確立、新規エ ビデンスの創出、実施環境の改善を行い、ガ イドラインをさらによいものに改訂してい くことも重要である。

そこで本研究班は、昨年度に以下a)からd)

の4つの目的を達成するために必要な内容 を盛り込んだ調査票(資料1)を班員のコン センサスを得て策定した。

者に対してステロイド治療やインターフェロンα治療を実施しない」で、賛成しない理由は「疾 患活動性が低くても有効性が認められる(55%)」が最も多かった。その背景として、疾患活動 性の低いHAM患者に対する治療のリスク&ベネフェットに関するエビデンスの欠如や疾患活 動性の低いHAM患者を明確に決められていない現状があると考えられた。また、特記すべき は「HAM 患者の疾患活動性を評価し、それに応じて治療強度を決定する方針」に対する同意

率は91%と高く、患者毎の疾患活動性評価の実施率も72%あるものの、疾患活動性評価に有用

な髄液マーカー測定の実施率が27%と低かった点が挙げられる。実施しない主な理由は「検体 の提出先が分からない」、「髄液ネオプテリン, 髄液 CXCL10 について知らなかった」であっ た。したがって、髄液マーカー測定の重要性と測定先としての我々の活動(HAM 患者レジス トリ「HAMねっと」)についての周知が必要と考えられた。一方で、これら髄液マーカーの保 険承認への希望率は 91%と高く、保険承認されれば髄液マーカーの測定実施率は 27%から大 きく上昇することが期待される。

このように、本調査によりガイドラインの実践にあたっての課題の抽出やニーズの把握を達 成できた。また、普及活動によるギャップの解消も目的の1つであったが、今回の調査票自体 にガイドラインのエッセンスを盛り込んでいること、また、ガイドラインを本アンケートで知 り、今後診療の参考にしてみようと考えている回答者が52%いたことから、本調査自体が普及 活動となり、HAMの診療レベル向上の一助になることが期待される。

今後は、今回判明した課題やニーズに対応した新規治療・検査の確立、新規エビデンスの創 出、実施環境の改善を進め、ガイドラインの改訂・普及・実践を通して、患者のQOL向上へ と結びつけていくことが求められる。

(3)

3 a) 「HAM 診療ガイドライン 2019」の認知

度・普及度の把握

b) エビデンス・プラクティス・ギャップの定 量化

c) ガイドラインの実践にあたっての課題の 抽出・ニーズの把握

d) 普及活動によるギャップの解消

そこで今年度は、昨年度作成した調査票を 用いて、全国の神経内科専門医を対象にア ンケート調査を実施し、その結果の分析を 行った。

B. 研究方法 1.調査対象

国内の日本神経学会認定神経内科専門医 6080名(2020年12月18日時点)を調査対象 とした。

2.調査方法

無記名自記式質問紙(資料1)を作成 し、日本神経学会より購入した専門医宛名 ラベルを用いて調査対象の神経内科専門医 へ郵送して回答を依頼した。2020年1月27日 に一斉送付し、回収期限は2月29日とした。

3.調査内容

調査内容は以下の通りである(詳細は資料 1を参照)。

設問1. 基本情報

(ア) 調査結果の研究活用への同意の有無

(イ) 性別

(ウ) 診療経験年数

(エ) 診療に携わっている主な都道府県

(オ) 過去のHAM診療例数

(カ) 現在のHAM診療例数

(キ)「HAM診療ガイドライン2019」につい て「知っている・参考にしている」「知ってい る・参考にしたい」「知っている・参考にしな い」「知らなかった・参考にしたい」「知らな かった・参考にしない」の5択

設問2. 「HTLV-1感染の診断のためのフロ ーチャート」について

(ア) HTLV-1抗体確認検査の実施頻度 1.「全例実施」, 2.「よく実施」, 3.「時々実 施」, 4.「あまり実施しない」, 5.「全例実施 しない」の5択

副問:2.~5.を選択した場合、確認検査を実施 しない理由

(イ) 確認検査のWB法からLIA法への移行 を知っているか否か

(ウ)確認検査判定保留時のHTLV-1核酸検 出(PCR法)の実施頻度:5択

(エ)確認検査判定保留時のHTLV-1核酸検 出(PCR法)の保険承認の希望の程度 1.「希望」, 2.「どちらかといえば希望」, 3.

「どちらともいえない」, 4.「どちらかといえ ば希望しない」, 5.「希望しない」の5択

設問3. 「HAMの診断アルゴリズム」につい て

(ア) 痙性対麻痺を認め、HTLV-1感染が不 明である症例に対する血液HTLV-1抗体検査 の実施頻度:5択

(イ) 痙性対麻痺を認め、血液HTLV-1抗体 検査が陽性でHAMが疑われる症例に対する 髄液HTLV-1抗体検査の実施頻度:5択

(ウ)HAMが疑われる症例に対する鑑別疾 患のための脊髄MRI検査の実施頻度:5択

(エ) 「HAMの診断アルゴリズム」を実践 するにあたっての問題点などの意見:自由記 載

設問4. 「HAMの治療アルゴリズム」につい て

4-1 ATLのスクリーニング検査について

(ア) HAMと確定診断された症例に対する ATLスクリーニング検査の実施頻度

1.「全例実施」, 2.「よく実施」, 3.「時々実 施」, 4.「あまり実施しない」, 5.「全例実施

(4)

4 しない」の5択

副問:1.~4.を選択した場合、ATLスクリーニ ング検査の実施項目

副問:4.~5.を選択した場合、ATLスクリーニ ング検査を実施しない理由

4-2 HAMの疾患活動性の評価について

(ア) HAM患者の治療方針決定のための患 者ごとの疾患活動性評価の実施の有無 副問:1.「はい」を選択した場合、疾患活動 性の評価に利用する項目

副問:2.「いいえ」を選択した理由

(イ) HAMの診断目的の髄液検査実施時に、

髄液マーカー測定の実施の有無

副問:1.「はい」を選択した場合、測定項目 副問:2.「いいえ」を選択した理由

(ウ) HAM患者の治療効果判定目的の髄液 マーカー測定の実施の有無

副問:1.「はい」を選択した場合、測定項目 副問:2.「いいえ」を選択した理由

(エ) HAMに対する髄液ネオプテリンおよ

び髄液CXCL10測定の保険承認の希望の程

度:5択

(オ) HAMに対する末梢血HTLV-1プロウ イルス量定量検査の保険承認の希望の程度:

5択

4-3 HAMの治療について

(ア) HAM患者の疾患活動性に応じて治療 強度を決定するという方針への同意の程度 1.「賛成」, 2.「どちらかといえば賛成」, 3.

「どちらともいえない」, 4.「どちらかといえ ば反対」, 5.「反対」の5択

(イ) 疾患活動性の高いHAM患者に対する 初期治療としてステロイドパルス療法を実 施する方針への同意の程度:5択

副問:3.~5.を選択した場合、同意しない理由

(ウ) 疾患活動性の高いHAM患者に対する 初期治療としてステロイドパルス療法の保 険承認の希望の程度:5択

(エ) 疾患活動性の高いHAM患者に対する 初期治療としてステロイドパルス療法を実 施した後、ステロイド内服維持療法を実施す る方針への同意の程度:5択

副問:3.~5.を選択した場合、同意しない理由

(オ) 疾患活動性が中等度のHAM患者に対 する低用量のステロイド内服維持療法を実 施する方針への同意の程度:5択

副問:3.~5.を選択した場合、同意しない理由

(カ) 疾患活動性が中等度のHAM患者に対 する低用量のステロイド内服維持療法の保 険承認の希望の程度:5択

(キ)疾患活動性が中等度のHAM患者に対 するインターフェロンα治療を実施する方針 への同意の程度:5択

副問:3.~5.を選択した場合、同意しない理由

(ク)疾患活動性が低いHAM患者に対する ステロイド治療やインターフェロンα治療を 実施しない方針への同意の程度:5択

副問:3.~5.を選択した場合、同意しない理由

(ケ)HAM患者に対する運動療法を継続し て実施する方針への同意の程度:5択

副問:3.~5.を選択した場合、同意しない理由

(コ)HAM患者に対する運動療法が現在の 医療保険の算定日数以上に継続できるよう に保険制度等が変更されることへの希望の 程度:5択

(サ)「HAMの治療アルゴリズム」を実践 するにあたっての問題点などの意見:自由 記載

設問5. 「新HAMねっと」について

(ア)「新HAMねっと」への参加希望の有無

4.分析対象

2020年1月28日から3月31日までに返 送・回収された調査票のうち、「本アンケート結 果を研究活用することへの同意欄にチェックが ない」あるいは「無回答」の調査票を除いた全件 を分析対象とした。

(5)

5 5.分析方法

Microsoft Excel 2013を用いて、各設問の結 果の入力、単純集計、必要に応じてクロス集計 を行った。クロス集計から残差分析を行い、

調整済み残差を算出した。調整済み残差 は、1.96より大きい場合には期待度数より も大きく、-1.96より小さい場合には期待度 数よりも小さい、と読み取るための指標と してクロス集計の表中に掲載した。

無回答、不正回答、非該当の場合、集計から 除いた。分岐のある設問について、分岐後の設 問に回答があれば、分岐前の当該選択肢を選 択したものとして集計を行った。また、「その他」

などフリー記載に内容の記載があれば、当該の 選択肢を選択したものとして集計を行った。それ らの操作の結果、択一設問に対して複数の選択 肢が選択される場合、当該設問は不正回答とし て集計に含めなかった。特に断りのない場合、

分岐後の設問の集計は、分岐に該当する者を 対象に行った。

なお、単純集計の際、全体の集計に加え て、診療経験別の集計も行った。診療経験 別とは、設問1(オ)「診察したことはない」

および設問1(カ)「診察していない」の両方 を選択した「HAM診療経験なし」の回答者 と、それ以外の「HAM診療経験あり」の回 答者の2群を意味する。

<HAM 診療ガイドライン 2019 の認知度・

普及度の算出方法>

調査票の設問1.(キ)

本ガイドラインについて

1.「知っている・参考にしている」

2.「知っている・参考にしたい」

3.「知っている・参考にしない」

4.「知らなかった・参考にしたい」

5.「知らなかった・参考にしない」

の5択の回答から、認知度・普及度を以下の ように算出した。

認知度:全回答者に対する「知っている」(選 択肢1-3)とした回答者の割合

とした。

普及度:全回答者に対する「知っている・参 考にしている」(選択肢1)とした回答者の割 合

<エビデンス・プラクティス・ギャップの定 量化>

エビデンス・プラクティス・ギャップの定 量化には、一般的にガイドラインの中から 推奨グレードの高い”診療プロセスにおける 重要項目”の実践度を定量的に評価する診療 の質評価指標(Quality Indicator: QI)が用 いられる2)。希少疾患HAMにおいては、推 奨グレードの高いCQは存在せず、しかも全 国に散在するHAM患者に対して行われる特 定の診療行為の実践度を測定することは非 常に困難である。そこで我々は「HAM診療 ガイドライン2019」に記載した確定的な内 容(感染や診断のアルゴリズム)に関する 神経内科専門医による回答を元に実施率を 推計し、これをQIの代わりになると考え た。つまり、この値は真のQI同様、100%に 近づくほど望ましく、エビデンスプラクテ ィスギャップを反映した値と考えられるた めである。実施率【代替QI】は原則以下の ように算出した。

実施率【代替QI】= (「全例実施」または「よ く実施」を選択した回答者数)/全回答者数

× 100

ここで、真のQIにより近いものは「HAM診 療経験あり」と回答した医師による実施率で あるが、診療の有無に関わらず、必要な検査 は実施する方針であることが望ましいため、

対象者全体の実施率が重要で、この値を上昇 させることが真の目的と考えられる。したが って、本研究の解析では特に断りのない限り、

対象者全体の実施率を掲載した。

(6)

6

<ガイドラインの実践にあたっての課題の 抽出・ニーズの把握>

「HAM診療ガイドライン2019」で示した治 療方針は、推奨グレードの高いものではな いため、100%実施することが必ずしも望ま しいとは言えない。そこで、本ガイドライ ンで示した治療方針に対する同意率を測定 し、専門医がこの治療方針を妥当と考えて いるか調査した。同意率【妥当性調査】は 以下のように算出した。

同意率【妥当性調査】= (「賛成」または「ど ちらかといえば賛成」を選択した回答者数)

/全回答者数 × 100

ガイドラインの実践にあたっての課題を 抽出するために、【代替QI】項目の不実施や

【妥当性調査】項目の不同意は理由を調査 した。また、「HAMの診断アルゴリズム」および

「HAMの治療アルゴリズム」に対する問題点に ついての自由記載は、類似の回答を1つにまと め、記載内容とその件数を表として示した。さら に、保険未承認の検査や治療に対する保険承 認の希望率【ニーズ調査】を測定した。希 望率【ニーズ調査】は以下のように算出し た。

希望率【ニーズ調査】= (「希望」または「ど ちらかといえば希望」を選択した回答者数)

/全回答者数 × 100

(倫理面への配慮)

本研究は、患者情報を含まない医師を対象 とした匿名のアンケート調査であるため、聖 マリアンナ医科大学の生命倫理委員会で倫 理審査は不要と判断された。アンケートの最 初の質問で、本研究に参加することに対して同 意が得られた回答のみ解析に使用した。

C. 研究結果 1. 回答者基本情報

(A)基本情報

回収率15%:日本神経学会認定神経内科専門 医6080名へ調査票を郵送し、宛先不明等で 返却された24件を除くと6056名であった。

887 件 の 回 答 が あ り 、 回 収 率 は 15%

(887/6056)であった。

抽出率15%:887件のうち、研究活用の同意 欄にチェックのない3件と無回答4件を除い た880件(99%)を分析対象とした。分析対 象880名は全国の神経内科専門医6080名の 15%に相当する。

以下の解析は、HAM 患者を「診察したこ とはない」および「診察していない」の両方 選択したHAMの診療未経験者(166件, 19%)

と、それ以外のHAMの診療経験者(714件, 81%)を分けて解析した。

分析対象者の性別は、男性75%、女性25%

であった(表1)。臨床経験年数は10年以上 が92%(808/877)を占めた(表2)。回答者 の81%はHAMの診療経験があり、その割合 は臨床経験年数「20 年以上~30 年未満」で 89%(241/271)と最も高かった。

回答者が「現在、診療に携わっている主な 都道府県」は、専門医の数自体が多い東京都、

神奈川県、大阪府の順に多かった(表3)。し かし、北海道、福岡県、鹿児島県など一部の 都道府県は専門医の分布よりも高い割合の 回答者がいた。これらの都道府県を含む北海 道地方、九州・沖縄地方では「HAM の診療 経験あり」とした回答者の割合が95%以上と 他の地域よりも高かった(表4)。一方、関東 地方、中部地方、中国・四国地方はHAMの 診療経験者が相対的に少なかった。

「これまでに主治医として診療した HAM 患者のおおよその例数」を調べると、19%

(166/878)がHAMを診察したことがなく、

53%(461/878)は1-3例に留まった(表5)。

「現在、主治医として診療しているHAM患

(7)

7 者 の お お よ そ の 例 数 」 を 調 べ る と 、73%

(640/879)が現在 HAM 患者を診察してお らず、診療しているのは 27%(239/879)に 留まり、そのうち89%(212/239)は1-3例 であった(表6)。ただし、10例以上みてい る専門医が6名(1%)存在することも判明し た。この表6の情報から本アンケート回答者 の診察している HAM 患者数を概算すると、

407名―930名となった(21例以上は最大30 例とした)。さらに「現在、診療に携わってい る主な地域」と「現在の HAM 診療の例数」

のクロス集計結果(表7)より、「現在HAM を診察していない」とした回答者の割合が他 の地域よりも高かったのは関東地方、中部地 方で、現在HAMの診療に関わっている回答 者の割合が高かったのは、北海道地方、九州・

沖縄地方と判明した。診察しているHAM患 者の例数としては、北海道地方は1-3例、九 州・沖縄地方は1-3例、4-6例、7-9例とした 回答者の割合が高かった。興味深いことに、

東北地方に10-20例と多数例のHAM患者を 診察している回答者が2名いた。

(B)ガイドラインの認知度、普及度(表8)

認知度47%:「HAM診療ガイドライン2019」

が出版されていたことを知っていた回答者 は、877人中412人(47%)であった。本ガ イドラインについて、「このアンケートで知 り、今後、診療の参考にしてみようと思う」

とした回答者が 877 人中 457 人(52%)い た。

普及度12%;「HAM診療ガイドライン2019」

が出版されていたことを知っていて、診療の 参考にしている回答者は 877 人中 101 人

(12%)であった。一方、まだ診療に活用し ていないが、今後参考にしようと思っている 回答者が877名中757名(86%)いた。

「HAM診療経験例数」と「HAM診療ガイ ドラインの認知度」の関係性を調べたクロス 集計結果(表9)より、これまでにHAM患 者を主治医として診療した経験例数が多い

ほど「知っている・参考にしている」という 回答者が多く、一方、診察したことがないと

「知らなかった・参考にしたい」とする回答 者が多かった。また、「現在の HAM 診療例 数」と「HAM 診療ガイドラインの認知度」

のクロス集計結果(表10)より、現在HAM 患者を診療している症例がいると、本ガイド ラインを「知っている・参考にしている」と 回答した者が多く、一方、診察していないと

「知らなかった・参考にしたい」とする回答 者が多かった。

2. 「HTLV-1 感染の診断のためのフローチ ャート」について

(C)HTLV-1抗体の確認検査について

HTLV-1抗体の1次検査陽性例に対し、確

認検査を「全例実施していない」、「あまり実 施していない」とした回答者がそれぞれ36%、

21%で合計すると 57%に達した(表11)。

「HAM の診療経験あり」の回答者のみであ っても同様で55%に達した。

実施率47%【代替QI】(表12):HTLV-1抗 体の1次検査陽性例に対し、確認検査を「全 例」または「よく」実施している、もしくは 確認検査以外の検査にて陽性を判断してい るといた回答者は812人中378人(47%)で あった。

確認検査を実施しない理由として「確認検 査について知らなかった」が484人中216人

(45%)と最も多く、次に「他の検査(核酸 検出 PCR 法、プロウイルス量定量、髄液抗 体価)から陽性と判断した」が484人中130 人(27%)であった(表13)。したがって、

分析対象とした神経内科専門医 880 人のう ち、少なくとも216名(25%)はHTLV-1抗 体の確認検査を知らなかったことが判明し た。また当然ではあるが、HAM の診療経験 のある医師よりも、診療経験のない医師の方 が確認検査について知らない割合が高かっ た(41% vs 65%)。確認検査を実施しない理

(8)

8 由についての自由記載欄には、以下のような 記載があった。

・症例がいない(36件)

・専門の病院へ紹介する(12件)

・保険適応外のため(3件)(注:実際は保険 適応である)

・高抗体価のために実施しなかった(1件)

(D)確認検査WB法からLIA法への移行に 関する認知度

新規認知度 93%【普及目的】:HTLV-1 抗体 の確認検査が、WB法から、より判定保留が 少ない LIA 法へと移行したことについて知 っていた回答者は.7%で残り93%は「この調 査で初めて知った」と回答した。

(E)HAM を 疑 う 判 定 保 留 例 に 対 す る HTLV-1核酸検出PCR法について

HAM を疑う判定保留例に対し、HTLV-1 核 酸検出 PCR 検査を「全例実施していない」、

「あまり実施していない」とした回答者がそ れぞれ56%、19%で合計すると75%に達した

(表15)。「HAM の診療経験あり」と回答 した者であっても75%に達した。

実施率19%【代替QI】(表16):HAMを疑 う判定保留例に対し、HTLV-1核酸検出PCR 法を実施したのは814人中155人(19%)で あった。

希望率92%【ニーズ調査】(表17、表18): HAM を疑う判定保留例に対し、HTLV-1 核 酸検出 PCR 法の保険承認について、「希望」

または「どちらかといえば希望」と回答した のは850人中780人(92%)であった。

3. HAMの診断アルゴリズムについて

(F)痙性対麻痺所見を認めHTLV-1感染が 不明である症例に対する血液HTLV-1抗体検 査

実施率 83%【代替 QI】(表19、表22):

痙性対麻痺所見を認め、HTLV-1感染が不明

である症例に対し、血液HTLV-1抗体検査を

「全例実施」または「よく実施」とした回答 者は857人中715人(83%)であった。

(G)痙性対麻痺所見を認め血液HTLV-1抗 体検査が陽性でHAMが疑われる症例に対す る髄液HTLV-1抗体検査

実施率 66%【代替 QI】(表20、表22):

痙性対麻痺所見を認め血液HTLV-1抗体検査 が陽性でHAMが疑われる症例に対し、髄液

HTLV-1抗体検査を「全例実施」または「よ

く実施」とした回答者は833人中550人(66%)

であった。

(H)HAM が疑われる症例に対する鑑別診 断のための脊髄MRI検査

実施率 90%【代替 QI】(表21、表22):

HAM が疑われる症例に対し、鑑別診断のた めの脊髄MRI検査を「全例実施」または「よ く実施」とした回答者は850人中768人(90%)

であった。

(I)「HAM の診断アルゴリズム」を実践す るにあたっての問題点

本件に関する自由記載欄には、さまざまな記 載があったが、特に以下のようなガイドライ ン改訂時に検討すべき指摘事項がある(表2 3より抜粋)。

・侵襲度の低い MRI を髄液検査の先にする のはどうか(6件)

・鑑別疾患に副腎白質ジストロフィー(副腎 脊髄ニューロパチーを含む)、悪性リンパ 腫などの記載なし(2件)

・髄液検査、MRIが出来ない場合(検査ので きる医療機関への紹介)を含める(1件)

・MRI での画像診断で、~のような所見は HAM でもありうる、という追記があって よい(1件)

・一次検査に複数の検査法があるがどれが適 切か分からない(1件)

(9)

9 4. HAMの治療アルゴリズムについて

4-1 ATLのスクリーニング検査

(J)HAM と確定診断された症例に対する ATLのスクリーニング検査について

HAMと確定診断された症例に対し、ATLの スクリーニング検査を「全例実施していな い」、「あまり実施していない」とした回答者 がそれぞれ20%、17%で合計すると37%に達 した(表24)。「HAM の診療経験あり」の 回答者のみであっても同様で 34%に達した。

実施率66%【代替QI】(表25):「全例実施」

または「よく実施」とした回答者は817人中 435人(53%)であったが、自身で実施せず 血液内科に紹介する場合も実際は ATL のス クリーニング検査を実施していることにな ると考えると、下記の項目で「血液内科に紹 介 す る 」 を 選 択 し た 104 人 を 加 え た 435+104=539/817(66%)が代替QIとして 妥当と考えられた。

ATL スクリーニング検査を実施している とした回答者に、実施する項目を質問したと ころ、血算>一般生化学検査>内科的診察>

>末梢血HTLV-1プロウイルス量定量の順に

多かった(表26)。末梢血 HTLV-1 プロウ イルス量定量の検査依頼先としては、SRL (17件)、鹿児島大(5件)、聖マリアンナ医科大 学(3件)、関西医科大学(1件)、東京医科歯科 大学(1件)、神戸医学産業都市推進機構(1件)、

BML(1件)が挙げられた。

ATLスクリーニング検査を「あまり実施し ていない」または「全例実施していない」と した回答者に実施しない理由を質問すると、

「血液内科に紹介する」が 255 人中 104 人

(41%)と最も多く、次に「必要性はあると 思うが、実施すべき検査項目が分からない」

が255人中70人(28%)であった(表27)。

4-2 HAMの疾患活動性の評価

(K)HAM の治療方針決定における患者毎

の疾患活動性評価

実施率 72%【代替 QI】(表28、表29):

HAM 患者の治療方針を決める際、患者ごと に疾患活動性を評価しますかという問いに 対し、「はい」とした回答者は820 人中590 人(72%)であった。次に、患者毎に HAM の疾患活動性を評価しているとした回答者 に、実施する項目を質問したところ、臨床経 過>>画像検査>髄液検査>血液検査の順 に多かった(表30)。一方、患者毎にHAM の疾患活動性を評価していないとした回答 者に疾患活動性を評価しない理由を質問す ると、「必要性はあると思うが、評価すべき検 査項目が分からない」が83人中51人(61%)

と最も多く、次に「必要性はあると思うが、

検体の提出先が分からない」が83人中20人

(24%)であった(表31)。

(L)HAM診断目的の髄液検査時における髄 液マーカーの同時測定

実施率 27%【代替 QI】(表32、表33):

HAM の診断目的で髄液検査を行う際に、髄 液 マ ー カ ー ( 髄 液 ネ オ プ テ リ ン と 髄 液 CXCL10)の測定も同時に実施しますかとい う問いに対し、「はい」とした回答者は820人 中220人(27%)であった。そのうち「HAM 診療経験あり」では、678名中209名(31%)

と実施率がやや高かった。次に、HAM 診断 目的の髄液検査時に髄液マーカーを測定し ているとした回答者に、測定項目を質問した ところ、「髄液ネオプテリンのみ」が 66%を 占め、残りの34%が「髄液ネオプテリンと髄 液CXCL10両方」であった(表34)。一方、

診断時の髄液検査で髄液ネオプテリン、髄液

CXCL10 を測定していないとした回答者に

測定しない理由を質問すると、「測定の必要 性はあると思うが、検体の提出先が分からな い」が406人中169人(42%)と最も多く、

次に「髄液ネオプテリン・髄液CXCL10につ いて知らなかった」が406人中151人(37%)

(10)

10 と多かった(表35)。また、「その他」とし て、以下のような記載があった。

・保険未承認・費用のため(19件)

・診療所で腰椎穿刺できる環境にない(9件)

・紹介する(9件)

・その当時、情報なし(6件)

・患者なし・経験なし(4件)

・検査・発送が煩雑(3件)

(M)HAM の治療効果判定目的の髄液マー カーの測定

実施率 18%【代替 QI】(表36、表37):

HAM 患者の治療効果を判定する際に、髄液 マーカー(髄液ネオプテリンと髄液CXCL10)

の測定を実施しますかという問いに対し、

「はい」とした回答者は819人中147人(18%)

であった。そのうち「HAM 診療経験あり」

では、676名中142名(21%)と実施率がや や高かった。次に、HAM の治療効果判定を 目的として髄液マーカーを測定していると した回答者に、測定項目を質問したところ、

「髄液ネオプテリンのみ」が 63%を占め、

36%が「髄液ネオプテリンと髄液CXCL10両 方」であった(表38)。一方、治療効果判定 目的の髄液ネオプテリン、髄液 CXCL10 を 測定しない理由として、「髄液ネオプテリン・

髄液CXCL10について知らなかった」が456 人中151人(33%)と最も多く、次に「測定 の必要性はあると思うが、検体の提出先が分 からない」が456人中146人(32%)と多か った(表38)。また、「その他」として、以 下のような記載があった(表39)。

・保険未承認・費用のため(21件)

・紹介する(6件)

・患者なし・経験なし(5件)

・診療所で腰椎穿刺できる環境にない(5件)

・検査・発送が煩雑(2件)

(N)HAM の検査項目としての髄液ネオプ

テリンおよび髄液CXCL10の保険承認 希望率91%【ニーズ調査】(表40、表41): HAM の検査項目として髄液ネオプテリンお

よび髄液 CXCL10 が保険承認されることに

ついて、「希望」または「どちらかといえば希 望」とした回答者は858人中777人(91%)

であった。

(O)HAM の 検 査 項 目 と し て の 末 梢 血

HTLV-1プロウイルス量定量検査の保険承認

希望率93%【ニーズ調査】(表42、表43): HAM の検査項目として髄液ネオプテリンお

よび髄液 CXCL10 が保険承認されることに

ついて、「希望」または「どちらかといえば希 望」とした回答者は858人中794人(93%)

であった。

4-3 HAMの治療

(P)HAM患者の疾患活動性に応じて治療強 度を決定する方針への同意率

同意率91%【妥当性調査】(表44、表45): HAM 患者の疾患活動性に応じて治療強度を 決定する方針について、「賛成(62%)」と「ど ちらかといえば賛成(29%)」を合わせて91%

(781/861)であった。HAM の診療経験があ る 医 師 に お い て 、 同 意 率 が や や 高 か っ た

(92% vs 86%)。

(Q)疾患活動性の高いHAM患者に対する 初期治療としてステロイドパルス療法を行 うという方針について

同意率86%【妥当性調査】(表46、表47): 疾患活動性の高い(急速進行例などの)HAM 患者に対する初期治療として、ステロイドパ ルス療法(保険未承認)を行うという方針に ついて、「賛成 (54%)」と「どちらかといえば 賛成(32%)」を合わせて86% (740/860)であ った。HAMの診療経験がある医師において、

同意率がやや高かった(88% vs 79%)。同意 しなかった残りの 14%の回答者にその理由

(11)

11 を質問すると「有効性が明確ではない(62%)」

が最も多かった(表48)。

希望率90%【ニーズ調査】(表49、表50): 疾患活動性の高い(急速進行例などの)HAM 患者に対する初期治療として、ステロイドパ ルス療法の保険承認を「希望(68%)」または

「どちらかといえば希望(22%)」を合わせて 90% (775/863)であった。特にHAMの診療 経験がある医師において希望率が高かった

(91% vs 83%)。

(R)疾患活動性の高いHAM患者のステロ イドパルス療法後にステロイド内服維持療 法を行う方針について

同意率74%【妥当性調査】(表51、表52): 疾患活動性の高い(急速進行例などの)HAM 患者のステロイドパルス療法後に、ステロイ ド内服維持療法(保険未承認)を行う方針に ついて、「賛成 (41%)」と「どちらかといえば 賛成(34%)」を合わせて74% (637/858)であ った。HAMの診療経験がある医師において、

同意率がやや高かった(75% vs 71%)。同意 しなかった残りの 26%の回答者にその理由 を質問すると「有効性が明確ではない(64%)」

が最も多く、次に「副作用のリスクの方が有 効性よりも高いと考えられる(37%)」が多か った(表53)。「その他」の自由記載欄に「パ ルス療法を3-4か月毎繰り返す方が効果が高 い(1件)」、「その他の免疫抑制剤を検討した 方がよい(1件)」という意見があった。

(S)疾患活動性が中等度の HAM 患者に対 して低用量のステロイド内服維持療法を行 うという方針について

同意率71%【妥当性調査】(表54、表55): 疾患活動性が中等度の HAM 患者に対して、

低用量(3~10mg/日)のステロイド内服維持 療法(保険未承認)を実施するという方針に ついて、「賛成 (36%)」と「どちらかといえば 賛成(35%)」を合わせて71% (606/860)であ

った。HAMの診療経験がある医師において、

同意率がやや高かった(71% vs 67%)。同意 しなかった残りの 30%の回答者にその理由 を質問すると「有効性が明確ではない(69%)」

が最も多く、次に「副作用のリスクの方が有 効性よりも高いと考えられる(30%)」が多か った(表56)。「その他」の自由記載欄に「パ ルス療法をしてもよいのでは(1件)」、「経験 上、有効例がなかった(1件)」という意見が あった。

希望率90%【ニーズ調査】(表57、表58): 疾患活動性が中等度の HAM 患者に対して、

低用量(3~10mg/日)のステロイド内服維持 療法が保険承認されることについて、「希望 (50%)」または「どちらかといえば希望(27%)」

を合わせて77% (660/856)であった。HAM の診療経験がある医師において、希望率がや や高かった(78% vs 71%)。

(T)疾患活動性が中等度の HAM 患者に対 してインターフェロンα治療を行うという方 針について

同意率66%【妥当性調査】(表59、表60): 疾患活動性が中等度の HAM 患者に対して、

インターフェロンα治療(保険適用あり)を 実施するという方針について、「賛成 (29%)」

と「どちらかといえば賛成(37%)」を合わせて 66% (555/844)であった。他の項目と違い、

HAM の診療経験がある医師の方が経験のな い医師よりも同意率がわずかではあるが低 かった(66% vs 67%)。同意しなかった残り

の34%の回答者にその理由を質問すると「有

効性が明確ではない(68%)」が最も多く、次に

「副作用のリスクの方が有効性よりも高い と考えられる(28%)」が多かった(表61)。

「その他」の自由記載欄に「有効でなかった

(2 件)」、「患者負担が大きい(2 件)」とい う意見があった。

(U)疾患活動性が低いHAM患者に対して

(12)

12 ステロイド治療やインターフェロンα治療を 実施しないという方針について

同意率63%【妥当性調査】(表62、表63): 疾患活動性が中等度の HAM 患者に対して、

ステロイド治療やインターフェロンα治療を 実 施 し な い と い う 方 針 に つ い て 、「 賛 成 (25%)」と「どちらかといえば賛成(38%)」を 合わせて63% (534/855)であった。HAMの 診療経験がある医師の方が経験のない医師 よりも同意率が高かった(64% vs 56%)。同 意しなかった残りの 38%の回答者にその理 由を質問すると「疾患活動性が低くても有効 性が認められる (55%)」が最も多く、次に「そ の他 (35%)」が多かった(表64)。「その他」

の自由記載欄には

・エビデンスを知らない・分からない(31件)

・患者の希望・意向を考慮する(6件)

・ケースバイケース(2件)

・治療法がないと患者に言えない(1件)

という意見があった。

(V)HAM 患者に対して運動療法を継続し て実施するという方針について

同意率95%【妥当性調査】(表65、表66): HAM 患者に対して、運動療法(リハビリテ ーション)を継続して実施するという方針に ついて、「賛成 (73%)」と「どちらかといえば 賛成(22%)」を合わせて 95% (820/861)と、

どの治療法よりも同意率が高かった。HAM の診療経験がある医師において、同意率がや や高かった(96% vs 90%)。同意しなかった

残りの 5%の回答者にその理由を質問すると

「有効性が明確ではない(58%)」が最も多く、

次に「必要性はあると思うが、患者が継続を 望まないことが多い(23%)」が多かった(表6 7)。「その他」の自由記載欄に「経験なく分 からない(2件)」、「保険適応の問題(2件)」、

「継続の期間が分からない(1件)」という意 見があった。

希望率85%【ニーズ調査】(表68、表69):

HAM 患者に対して、運動療法(リハビリテ ーション)が、現在の医療保険の算定日数以 上に継続できるように保険制度等が変更さ れることについて、「希望(61%)」または「ど ちらかといえば希望(25%)」を合わせて85%

(732/861)であった。HAM の診療経験があ る医師において、希望率が高かった(87% vs 74%)。

(W)追加解析1---「HAM 診療経験例数」

と「7つの治療方針に対する同意の有無」の 関係性について(表70~表76)

妥当性調査を行った上記7つの治療方針に 対する同意の程度は、HAM の診療経験の有 無およびその例数が影響すると考え、両者の 関係を評価した。その結果、これまで HAM 患者の診察をしたことがない回答者は

・ 疾患活動性に応じて治療強度を決定す る方針

・ 疾患活動性の高いHAM患者に対する初 期治療としてのステロイドパルス療法 を行うという方針

・ HAM 患者に対して、運動療法を継続し て実施するという方針

に関しては同意しない割合が高かった。この 結果は、上記3項目は診療経験のある回答者 に同意が多い傾向があることを意味する。

(X)追加解析2---「現在のHAM診療例数」

と「7つの治療方針に対する同意の有無」の 関係性について(表77~表83)

妥当性調査を行った上記7つの治療方針に 対する同意の程度は、現在のHAM診療の有 無およびその例数が影響すると考え、両者の 関係を評価した。その結果、これまで HAM 患者の診察をしたことがない回答者は

・ 疾患活動性の高いHAM患者に対する初 期治療としてのステロイドパルス療法 を行うという方針

・ 疾患活動性の高いHAM患者のステロイ

(13)

13 ドパルス療法後にステロイド内服維持 療法を行うという方針

・ 疾患活動性が中等度のHAM患者に対し て低用量のステロイド内服維持療法を 行うという方針

に関しては同意しない割合が高かった。この 結果は、上記3項目は診療経験のある回答者 に同意が多い傾向があることを意味する。逆 に、HAM 患者の診療未経験者は7つの治療 方針のうち、

・ 疾患活動性が中等度のHAM患者に対し てインターフェロンα治療を行うとい う方針

については同意する割合が高かった。この結 果は、この項目が診療経験のある回答者には 同意が少ない傾向があることを意味する。

(Y)追加解析3---「HAM診療ガイドライン の認知度」と「7つの治療方針に対する同意 の有無」の関係性について(表84~表90)

妥当性調査を行った上記7つの治療方針に 対する同意の程度は、HAM 診療ガイドライ ンを認知度が影響すると考え、両者の関係を 評価した。その結果、「知っている・参考にし ている」という回答者は

・ 疾患活動性の高いHAM患者に対する初 期治療としてのステロイドパルス療法 を行うという方針

・ 疾患活動性の高いHAM患者のステロイ ドパルス療法後にステロイド内服維持 療法を行うという方針

に関して同意の割合が高かった。逆に、「知ら なかった・参考にしたい」とした回答者は上 記2項目と以下の1項目について同意しな い割合が高かった。

・ 疾患活動性が中等度のHAM患者に対し て低用量のステロイド内服維持療法を 行うという方針

(Z)「HAMの治療アルゴリズム」を実践す

るにあたっての問題点

問題点の自由記載欄には、さまざまな記載が あった(表91)。その中には、以下のような ガイドライン改訂時に検討すべき指摘があ った。

・保険診療でないと実施しづらい(3件)

・帯状疱疹発症予防のための水痘ワクチン接 種(1件)

・西日本、特に島嶼領域出身の症例には、ス テロイド治療の開始に先立ち、糞線虫の有無 をチェックすべき(1件)

・専門医と併診の場合、専門医に任せるとい うアルゴリズムがあってよいと思います。そ の他の症状に集中します(1件)

5. 「新HAMねっと」について

(AA)「新HAMねっと」への参加

髄液CXCL10 などHAM の診療において重 要な検査を無料で測定するHAM患者レジス トリ「新HAMねっと」への参加を調査した ところ、291人が参加を希望した(表92)。

D. 考案

今回、神経内科専門医を対象に「HAM 診 療ガイドライン 2019」の活用実態および内 容の評価に関するアンケート調査を実施し た。日本全国の神経内科専門医の15%より回 答が得られ、その内訳は男女比3:1で、臨 床経験10年以上の医師が92%を占めた。し かし、HAMの診療未経験者が19%、経験例 数「1-3例」が 53%、また調査時点でHAM 患者を診察していたのは27%に留まり、神経 内科専門医であってもHAMの診療経験は乏 しいことが判明した。

本研究の目的の1つは「HAM 診療ガイド

ライン2019」の認知度・普及度の把握であっ

た。その点、今回の調査により現時点の認知 度は47%、普及度は12%と判明した。つまり、

約半数の専門医はHAM診療ガイドラインが 出版されたことを知っていたが、実際に活用

(14)

14 していた方は1割強であった。この点、今回 の分析対象者は、神経内科専門医の中でも

「HAM 診療ガイドライン」に関する調査に 協力して回答した、という一定の選択バイア スがかかっている可能性がある。実際、北海 道地方や九州・沖縄地方の回答者の割合は専 門医の分布割合よりも高く、HAM の診療経 験のある医師の割合が 95%以上と他の地域 よりも高かった。したがって、その点を考慮 すると真の認知度・普及度は実際もう少し低 い可能性がある。

第二の目的は、エビデンス・プラクティス・

ギャップの定量化であった。定量化の指標に QIがあるが、希少疾患HAMでは真のQIは 測定困難であるため、代わりに我々はガイド ラインが示す確定的な事項に関するアンケ ート調査結果から推定される実施率を代替 QIとして定量化した。代替QIとみなした項 目は9つあったが、そのうちHAMが疑われ る症例に対する脊髄 MRI 検査のように実施 率90%と高いものがある一方で、HTLV-1感 染の確認検査(47%)、判定保留例に対する PCR検査(19%)、ATLスクリーニング検査

(53%)、HAM 診断時の髄液マーカー測定

(27%)、治療効果判定目的の髄液マーカー 測定(18%)など、実施率が低い項目が複数 あった。その中でHTLV-1感染の確認検査に ついては、一次検査陽性であっても約半数が 確認検査陰性と偽陽性が多いため 3)、その実 施は重要である。しかし、「確認検査について 知らなかった」とした回答者が 216 名おり、

回答した神経内科専門医の少なくとも 25%

は確認検査について知らなかったことが判 明した。したがって、神経内科専門医であっ

てもHTLV-1に関する知識は不十分であるた

め、一層の周知の必要性が認められた。

第三の目的は、ガイドラインの実践にあた っての課題の抽出・ニーズの把握であった。

そこでまず調査したことは、ガイドラインで 示した治療アルゴリズムの妥当性である。こ

れは7つの治療方針に関して同意率を調査 した。HAM 患者に対して運動療法を継続し て実施することについては同意率95%、疾患 活動性に応じて治療することについては同

意率92%と、非常に高かった。一方、同意率

が低い治療方針としては、疾患活動性が低い HAM 患者に対してステロイド治療やインタ ーフェロンα治療を実施しない(63%)があ った。賛成しない理由として「疾患活動性が 低くても有効性が認められる(55%)」を選択 した例が多かったが、その背景として、疾患 活動性の低いHAM患者に対してステロイド 治療やインターフェロンα治療を実施するこ とのリスク&ベネフェットについてのエビデ ンスが不足していることや、HAM 患者の疾 患活動性が低いことを明確に決められてい ない現状があると考えられた。もう1つ、同 意率が低い治療方針としては、疾患活動性が 中等度のHAM患者に対してインターフェロ ンα治療を行う(66%)があった。賛成しな い理由として「有効性が明確でない(68%)」

が最も多かった。この治療方針は他のものと 異なり、唯一、同意率が診療経験のある医師 で低かった。この背景としては、インターフ ェロンαが保険承認されているものの有効性 を評価していない医師が一定数いると考え られる。また、第三の目的の1つとして、

HAM の診断および治療アルゴリズムを実践 するにあたっての問題点を調査した。その自 由記載とした回答の中には、HAM の鑑別疾 患候補リストに副腎白質ジストロフィーを 含めることや、MRIや髄液検査のできない医 療機関の場合に「専門医へ紹介する」という 選択肢をアルゴリズムに加えることなど、ガ イドラインの改訂時に検討すべき重要な内 容が含まれていた。さらに、第三の目的の1 つとして、検査や治療の保険承認に対する希 望率という形でニーズ調査も実施した。その 結果、髄液マーカー(91%)、HTLV-1プロウ イルス量(93%)、ステロイドパルス療法(90%)

(15)

15 等、保険承認へのニーズが高いことが判明し た。

今回の調査結果で特記すべき点として、

「HAM 患者の疾患活動性を評価し、それに 応じて治療強度を決定する方針」に対する同

意率は91%と高く、実際、患者毎の疾患活動

性評価の実施率も72%あったが、疾患活動性 評価に有用な髄液マーカー測定の実施率が 27%と低かった点がある。実施しない主な理 由は「検体の提出先が分からない」、「髄液ネ オプテリン, 髄液 CXCL10 について知らな かった」であったことから、髄液マーカー測 定 の 重 要 性 と 測 定 先 と し て の 我 々 の 活 動

(HAM患者レジストリ「HAMねっと」)に ついての周知が必要と考えられた。一方で、

これら髄液マーカーの保険承認への希望率

は91%と高く、保険承認されれば髄液マーカ

ーの測定実施率は 27%から大きく上昇する ことが期待される。

第四の目的は、普及活動によるギャップの 解消であった。今回、本診療ガイドラインに ついて、本アンケートで知り、今後、診療の 参 考 に し て み よ う と 考 え て い る 回 答 者 が

52%いたことから、本調査がHAM診療ガイ

ドライン自体を知らしめる活動となってい ると考えられた。また、HTLV-1感染の確認 検査法が WB法から LIA 法に移行したこと

について93%が新たに知った点や、今回のア

ンケート調査票に「HAM 診療ガイドライン 2019」の3つのアルゴリズムが掲載し、その 重要ポイントを質問項目に設定している点 から、この調査自体がHAM診療ガイドライ ンで示す内容についての普及活動となった と考えている。数年後に、今回と同じ内容の 全国調査を実施し、今回の結果と比較するこ とでガイドライン自体の普及度、認知度およ びガイドラインの内容の実施率、同意率など がどの程度変化したのか、定量的に評価する ことが可能になるだろう。

E. 結論

今回の調査により①神経内科専門医であ ってもHAMの診療経験は乏しい、②「HAM 診療ガイドライン 2019」はまだ十分に活用 されていない、③エビデンス・プラクティス・

ギャップは実施率【代替QI】により定量化で きたが複数の項目で実施率が低い、といった 実 態 が 明 ら か と な っ た 。 こ れ ら の 点 か ら HAM 診療ガイドラインの普及を進める必要 性が高いことが判明したが、今回の調査自体 が普及活動となり、数年後再調査した場合に、

ガイドラインの普及が進み、実施率が上昇し ていることが期待される。

また今回の調査で、ガイドラインで示した 治療方針に関する同意率や同意しない理由、

検査や治療の保険承認への希望率や診療ア ルゴリズムの問題点など、さまざまな観点か らガイドラインの内容に関する評価を行い、

ガイドラインの実践にあたっての課題の抽 出・ニーズの把握を行うことができた。今後、

抽出された課題の解決や、ニーズの高い検 査・治療の保険承認を目指すなど実施環境の 改善を進める一方で、今回得られた知見を活 用してガイドラインをさらによいものに改 訂していくことが重要である。

F.総括報告書 1. 論文発表

(発表誌名巻号・頁・発行年等も記入)

Yamauchi J, Araya N, Yagishita N, Sata t, Yamano Y. An update on human T-cell leukemia virus type I (HTLV-1)-associated myelopathy/tropical spastic paraparesis (HAM/TSP) focusing on clinical and laboratory biomarkers. Pharmacol Ther, 218:107669, 2021.

Okuma K, Kuramitsu M, Niwa T, Taniguchi T, Masaki Y, Ueda G, Matsumoto C, Sobata R, Sagara Y,

(16)

16 Nakamura H, Satake M, Miura K, Fuchi N, Masuzaki H, Okayama A, Umeki K, Yamano Y, Sato T, Iwanaga M, Uchimaru K, Nakashima M, Utsunomiya A, Kubota R, Ishitsuka K, Hasegawa H, Sasaki D, Koh KR, Taki M, Nosaka K, Ogata M, Naruse I, Kaneko N, Okajima S, Tezuka K, Ikebe E, Matsuoka S, Itabashi K, Saito S, Watanabe T, Hamaguchi I.

Establishment of a novel diagnostic test algorithm for human T-cell leukemia virus type 1 infection with line immunoassay replacement of western blotting: a collaborative study for performance evaluation of diagnostic assays in Japan, Retrovirology, 17:26, 2020.

Yamakawa N, Yagishita N, Matsuo T, Yamauchi J, Ueno T, Inoue E, Takata A, Nagasaka M, Araya N, Hasegawa D, Coler-Reilly A, Tsutsumi S, Sato T, Araujo A, Casseb J, Gotuzzo E, Jacobson S, Martin F, Puccioni-Sohler M, Taylor GP, Yamano Y; Japan Clinical Research Group on HAM/TSP. Creation and validation of a bladder dysfunction symptom score for HTLV-1-associated myelopathy/tropical spastic paraparesis. Orphanet J Rare Dis, 15(1):175, 2020.

佐藤知雄, 山野嘉久. 免疫性神経疾患 update ―基礎・臨床研究の最新知見―

HAMに対する治療薬の現況と展望. 日本臨 床, 78(11):1939-1944, 2020.

山内淳司, 山野嘉久. HTLV-1関連脊髄症

(HAM)の発症メカニズム. 周産期医学, 50(10)1695-1698, 2020.

山内淳司, 山野嘉久. HTLV-1関連脊髄症.

CLINICAL NEUROSCIENCE, 38(10):1270-1271, 2020.

八木下尚子、山野嘉久. HTLV-1関連脊髄症.

生体の科学, 71(5):422-423, 2020.

2. 学会発表

佐藤知雄. リアルワールドエビデンスを活用 した「HAM診療ガイドライン2019」につ いて. 第61回日本神経学会学術大会, 2020 年8月31日~9月2日,岡山県.

佐藤知雄, 山内淳司, 新谷奈津美, 高橋克典, 國友康夫, 八木下尚子, 山野嘉久. HAM診察 ガイドラインの活用実態および内容の評価 に関する全国調査. 第32回日本神経免疫学 会学術集会2020年10月1日~2日, 国内 Web開催.

飯島直樹, 高田礼子, 八木下尚子, 田辺健一 郎, 井上永介, 新谷奈津美, 山内淳司, 佐藤 知雄, 山野嘉久. リアルワールドデータによ り示されたHAMの排尿障害に対するミラ ベクロンの有用性. 厚生労働省難治性疾患政 策研究班(神経免疫班)、AMED難治性疾 患実用化研究班令和2年度合同班会議, 2021 年1月15日, 東京.

G. 知的財産権の出願・登録状況(予定を含 む)

1. 特許取得 該当なし

2. 実用新案登録 該当なし

3. その他 該当なし H. 引用文献

(17)

17 1) 日本神経学会他監修,HTLV-1関連脊

髄症(HAM)診療ガイドライン2019

~HTLV-1陽性関節リウマチ&HTLV- 1陽性臓器移植診療の対応を含めて

~.南江堂,2019.

2) 高橋埋ら, IV. 診療ガイドライン 2.

Quality Indicators. 日 内 会 誌. 99:

3035-3041, 2010.

3) Okuma K et al., Establishment of a novel diagnostic test algorithm for human T-cell leukemia virus type 1 infection with line immunoassay replacement of western blotting: a collaborative study for performance evaluation of diagnostic assays in Japan. Retrovirology.17:26, 2020.

参照

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