日本企業のサプライチェーン構築の課題
‑ものづ くりの復興に向けて‑
田 中 則 仁
要 旨
東 日本大震災は、 日本企業のみならず、世界経済へ も多大な影響 と、
多 くの教訓 を残 した。特 に、 ものづ くりの仕組み として撤密に構築 さ れた 日本企業のサプライチェーンは、東北地方の生産拠点が影響 を受 けたことで、多 くの企業が生産体制の影響を受け、機能不全 に陥った0 日本企業の製品にはこれまで 日本国内のみな らず世界中の顧客か ら、
高い信頼が寄せ られてきた。信頼性の基本 は、品質におけるブラン ド カ、価格 は高いが納期 は守 るな ど、その信頼 に応 える努力が結実 した
ものであった。 さらには製造業 における組み立てメーカー と部品や部 材の納入を担当す るサプライヤーの関係が、 この震災を機 に再考 され ることになった。すなわち組み立てメーカーは 1次サ プライヤーを複 数持ち、 また 1次サ プライヤーは複数の
2
次サプライヤーを持つ こと で危機管理を行い、危険の分散を図 らなければならない と考えるに至っ た。さらにサプライヤー相互で、基幹部品の共通化 を図 るな ど、実際 に不測の事態が生 じて も、必ず部品の供給をバ ックアップし、サポー トできる体制を考 えることが重要 になった。 これ らの課題 について本 稿では具体的な方策 を考察 した。キー ワー ド :サ プライチェーン、 ものづ くり、部品供給、共通化、
国際経営、効率性
国際経営 フォー ラムNo.22
1
はじめに2011年3月11日の東 日本大震災では、多 くの貴重な人命が失われ、各地に甚 大な被害が及んだ。二万人を超 える亡 くな られた方々や行方不明の方々には、
心か らの御冥福 を祈 りたい。また地震 と津波に加 えて、東京電力福島第一原子 力発電所での被災による放射能漏れ事故は、今後の収束の見通 しが未だっかな い とい う点で、震災か ら
3
ケ月後の現在 も進行中の事案である。避難対象地域 の人々のみな らず、 日本全国さらには世界各国の人々や企業 にも、 この事案は 直接間接の深刻な影響を与えている。当該地域のおける社会生活の混乱、子供 たちの教育問題、お年寄 りの生活再建や地域社会の崩壊 な ど、非常に多岐にわ たる問題 を引き起 こしている。 とりわけ政治家の果たすべ きリーダシップにつ いては、今後の政局 を巡 るかけ引きに絡めた動 きがあ り、事故の対応策 につい て も議論が百出 している状態である。1 9 2 3
年9
月1
日の関東大震災は、首都直下型の震災 として未曾有の規模の災 害であった。 しか し当時の政府 は、震災か ら3週間余の 9月27日に帝都復興院 を創設 し、震災復興 に関する全ての権限を集中する政府機関を設立 した。後藤 新平内務大臣を総裁 として本格的な復興に取 り組み、その後の首都圏の基礎が 再建 されていった。1 9 9 5
年の阪神淡路大震災において も、お よそ1
ケ月後 には 震災復興の基本法が成立 し、復興の体制が整 っていった。それに引きかえ現政 権下では、震災か ら3カ月を経てもなお復興基本法が成立せず、財源 となるべ き関連法案 もその方法論が検討 されている段階である。地震 と津波 は天災であ るが、その後 の遅々 として進まない震災対応で生 じた問題 は、 まさに人災であ るといわざるを得ない。政治における政策決定は、時 として一般的な合理性を 欠 くことが しば しばある。国家の将来 を見据 えて、100年後 の社会 を先見 して のビジ ョンであれば納得はできるが、震災特需を期待す る企業や団体が水面下 で践屈 し、 この機 に乗 じた余剰利益 を得 ようとす る行動 には、ただ私利私欲に 依 るのみ という他 はない。 またそうした行動に走 る企業や団体 を牽制す る指導 力 も、現在の政治状況では到底望むべ くもない。政治の問題 と迷走ぶ りは深刻 であるが、その論評 については別稿で展開 したい。本稿では、今回改めて東北 地方が ものづ くりにおける部品部材の重要な生産拠点であることを再認識 し、企業経営における協働のあ り方を主眼 とし、震災後の日本企業の復興 に向けた 課題 をものづ くりの供給体制 とい う視点か ら考察 していきたい。
2
サプライチェーンの現状震災直後の東北地方沿岸地域では、入江や山間 とい う地理的な条件があ り、
道路が寸断 されて町や村あるいは集落が孤立 し、物資や人の往来ができな くな る事態が生 じた。一方、首都圏では鉄道が運行ダイヤを削減 し、道路が大渋滞 す ることで、 こちらでは物流の問題が生 じていた。都市生活では物流がさまざ
まな製品の輸送 と流通 を担い、物資の大動脈 としての大 きな役割 を果た してい る。首都圏や近郊の都市生活を営む人々に とって、食料等の自給 自足 な ど到底 できることではない。家庭内における必需品の備蓄な ども、準備の良い家庭で す らせいぜい数 日であろう。電気ガス水道のライフラインの停止 自体が、都市 生活の機能中断であ り、社会生活の全身麻疹 を引き起 こしていた。現在ではガ スを使用 した場合の万一の爆発事故 を回避す るために、オール電化の家屋やマ ンシ ョンが少な くない。 このような住居の場合 は、停電で住居の全ての機能が 停止て しまうことになる。 また電気ガス併用 のマンシ ョンや家屋で も、給水塔 が屋上にあってモーターにより水 を くみ上げている場合な どは、屋上給水塔内 の水 を使用 しきれば、水が流れな くなって しまう。今一度、現代の生活の仕組 みを考えてみると、平常時では相当撤密にうま く出来上がっていた構造が、ひ とたびライフラインが停止 した段階で、全 く機能 しな くなることに改めて気付 かされ る。
2.1 物流の仕組み
市民生活では、毎 日当然のようにスパーマーケ ットや コンビニエンスス トア の店頭に並んでいるさまざまな生活物資 も、店 ごとに日々何便 もの配送 トラッ クが届 けに来 ることで、商品が途切れ ることな く品出 しが行われている。震災 後の買いだめで商品が店頭か ら姿を消 した事態に直面 して、 このような正確で 確実な物資の供給体制いわゆるサプライチェーンが、今 日の社会生活 を構築 し ていた ことに改めて気付かされた といって もよかろう。
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現代の社会生活が このサプライチェーンに頼 り過 ぎていた ことが明 らかであ り、その弱点 も大 き くクローズ アップされたのである。下記の図 1は、サプラ イチェーンの概念 を簡単に図式化 している。サプライチェーンの重要な要素は、
単なる原材料供給に始 まる生産、物流、小売 という川上か ら川下へ とい う縦の 流れだけではない。小売段階で消費者 に販売 された時の販売情報が、一つ前の 段階に向けて次々に伝達 されてい く。欠品を補 う物流部門への配送指示、生産 部門への増産計画指示や原材料の追加調達を促す逆の流れ、情報のフィー ドバ ッ
クとしての役割 も持っていることが分かる。
図1 サプライ ・チェーンの概念図
原材料
三≡
物 流
態》
#‑@x333
癖夢鞠と
情報のフィードバック
(出典 :筆者作成)
改めて震災の影響で生 じた出来事を、サプライチェーンにあてはめて振 り返っ てみよう。消費者が 日常生活で最低限必要な生活物資の買いだめに走 り、通常 の購入量の何倍 もの需要増が生 じたため、小売店での品切れが首都圏でも起 こっ た ことは記憶 に新 しい。水や食料 はもとより乾電池に至 るまで、多 くの品物が 短期間に売 り切れて しまい、生産が追い付かない状態になって小売店での欠品 が続いた。震災の被災地で物資が無 くなったのであればやむをえないものの、
首都圏のように現実の社会生活が数 日後 には復旧 していた地域で起 こった現象 である。市民の先行 きに対する不安な心理が増幅 し、その結果発生 したパニ ッ クによる買いだめ行動が、サプライチェーンに影響 を与 えた ものである。 また 被災地だけでな く、関東圏や首都圏で もガソリンや灯油な どの石油製品の買い だめによる品薄状態が響 き、物資を運ぶ トラックが運行で きずに物流が停滞す る事態になった。メーカーや卸問屋の倉庫 には十分な在庫があったにもかかわ らず、それを運搬する手段が運行できなかったために、店頭か ら商品が消えて いった。
サプライチェーンの課題 は、 この仕組みが精微 に組み立て られているために、
生産体制や物流能力を超 える超過需要が短時間に発生 した場合 は、ほ とん ど無 力であることを示 している。 コンビニエンスス トア大手のローソンが、全社を 挙 げて被災地‑の物資 を支援 した ことは特筆 に値する。全国に店舗展開 してい る同社 は、激甚被災地 に向けて、最 も近い関東圏か ら物資 を支援 し、その関東 圏に向けて東海地区か ら、 さらには東海地区へ向けて関西地区か ら不足物資を 送 り届 けたのである。被災地で必要な支援物資や各地区で不足 した商品を、駅 伝のたすきリレーのように西か ら順 に東に向けて送 っていった ことは、危機管 理対応策 として大変適切な対処 といえよう。 この事例では、東北地区に向けて、
関東地区、東海地区、 さらには関西地区が後方支援拠点 として機能 した ことに なる。 コンビニエンスス トアでは、集中配送の仕組みを とっている。各配送セ ンターは所管範囲の店舗 に向けて、欠品補充の情報 をもとに必要な数量を次の 配送便で届 けている。 しか しこの仕組みでは、集中配送セ ンターをエ リアの中 心に置いた場合の一つ単位 ごとに自己完結す る仕組みである。平常時であれば それで十分回ることが、今回の大震災のような場合、他のエ リアや地区か らの 緊急配送が不足分を助 け、支援す ることになった。すなわち物資や製品の配送 が滞 った り不足 した場合、他のエ リアや地域か ら後方支援のように必要な物資 を間違いな く届 ける体制 を常に考 えかつ迅速 に実施できるようにす ることであ る。 この点か らもローソンの対応 は、 日本 におけるサ プライチェーン管理に大 きな示唆を与 えている。
都市型災害を想定 した とき、 自治体や企業 に求め られ る役割 も明 らかになっ た。 自治体 は正確な被災状況や物資の支援情報 を、迅速かつ正確 に繰 り返 し発
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信することが求められ る。企業は各社の在庫状況を正確 に示 し、物資の不足 は 生 じないことを繰 り返 し映像を含めて伝 えてい くことが重要である。ガ ソリン を求めての長時間の車列は、それ 自体が正常な判断を欠いた行為である。ガソ リンの備蓄量を正確 に示す ことで、不要不急の買いだめに走 らない ことが必要 であると情報発信すべ きであった。
1 9 7 3
年1 0
月の第一次石油危機では、OPEC
(石油輸出国機構)の段階的な原 油価格引き上げが行われた。1 当時の標準油種 アラビアンライ トの原油価格 は1
バ レル (約1 5 9
リッ トル)米 ドルで2
ドル7 0
セ ン ト程度であった ものが、結 果的には約一年半 くらいの期間で11ドルへ と4倍 に高騰 した。 日本国内ではガ ソリン価格の引き上げと買いだめ石油元売 りによる売 り惜 しみが起 こった。現 実には石油の備蓄が十分 にあ り、また石油元売 り各社が石油 を買い付 けてきた ので、需要を満たすには十分な供給量が確保 されていた。 さらには石油 との因 果関係が少ない トイレッ トペーパーの買いだめな どにも波及 して、小売店での 混乱が社会問題 になった。 このような噂が引き起 こす疑心暗鬼を打ち消すよう な対処 も、政府や 自治体、そして企業が正確 な情報提供 を通 じて行わなければ な らないであろう。 また市民一人ひ とりは、決 してパニ ックに陥 ることな く、生活物資の購入において も冷静に対処 して、必要なものを必要なだけいつ も通 り買 うことに徹すべきであろう。首都圏での品不足 は、 こうした買いだめがな ければ、ほ とん ど起 こり得なかった現象である。防災訓練 と同時に、生活物資 の買いだめは控 えること、必要なもの こそみんなで分 け合い、助 け合 うことを 認識 しなければならない。 こうした相互扶助の精神 を、市民一人ひ とりの倫理 観 として しっか り持つ ことを心掛 けることが必要である。社会心理学的な視点 か らも、サプライチェーンの体制を維持するための啓蒙的な示唆や提言が今 こ
そ求められている。
2. 2
水産加工業の課題東北地方の沿岸被災地の復興を、図1のサプライチェーンをもとに考 えてみ る。宮城県の石巻や気仙沼港は、震災 と津波の影響が甚大であった。 これ らは
1参考文献 (14)田中則仁、p.57でその経過 を詳述 している。
カツオやふかひれの水揚 げで全国的にも有数の漁港である。気仙沼港で加工 さ れたふかひれは、中華料理の高級食材 として珍重 され、中国や香港の専門料理 店か らも買い付 けるほ どの品質である。カツオは旬の食材 として食卓には欠か せないものである。
水産品は単に捕獲 された魚を氷漬 けにして、東京築地な どに出荷す るだけが 全てではない。現地で隣接 した冷蔵倉庫、一次加工あるOは二次加工す る加工 工場 を備 えていてはじめて全体 としての水産拠点を形成 している。すなわち漁 港 としての機能 を回復すべ く、湾内に堆横 した瓦磯 を撤去 し、汲深す ることは 不可欠であるが、水揚 げした鮮魚を入れる冷蔵倉庫や冷凍倉庫、 さらには加工 工場の設備が全て回復 しないことには、そもそも水揚 げす らで きない ことにな る。鮮魚の捕獲 と水揚げ という原材料調達 は、その次の保冷倉庫や加工工場 と い う水産加工製品の生産設備を伴 っていてはじめて動 き出す ことである。すな わち港湾内におけるサプライチェーンが整備 されてはじめて港 としての機能を 全 うで きるのである。水揚げした魚を新鮮な状態で リレー競技のバ トンのよう
に、正確かつ迅速 に次か ら次へ と受 け渡 してい くことが大切である。
また今回の震災対応が遅滞 していることで、回遊魚の北上 という自然の生態 系相手の機会 に、正確 に対応できるか どうかが重要な論点になっている。漁船 の整備や燃料の確保だけでな く、上記のような陸上設備の修復 と稼働があって はじめて出港で きるのである。 今回の震災を受 けて、被害が軽微で復 旧できた 千葉県銚子漁港 と、宮城や福島の漁港 との連携協力が報道で紹介 されてはいる。
しか し銚子港で も母港漁船の漁獲量に対応 した設備等に限界があ り、その何倍 もの水揚げが到着 した場合には、心情 としては協力 した くとも、現実 にはで き る範囲は限 られているであろう。工業製品の製造現場での課題 は次節で論 じる が、農業や水産業な どの一次産業の場合、季節や天候 とい う歳時 と、時間 とい
う要素を勘案 しなが らの正確かつ迅速な対応が不可欠である。
3
組み立てメーカー とサプライヤーの関係日本のものづ くりにおいて、東北地方にある生産企業の存在が非常に大 きかっ た ことは、主要各企業の製造 ラインが震災後 に完全 に停止 した ことをもって し
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て も明 らかである。一例 としては、 トヨタ自動車の豊田章男社長 は6月13日の 記者発表で、同社の生産水準は
2 0
11年6
月で震災前の9 0%
、7
月以降ほぼ従前 の段階に復 し、2 01
1年1
1月頃にはグローバル (世界規模)で完全回復 を図 るべ く挽回に努めると述べている。 また半導体のルネサスエ レク トロニクスは、主 力の茨城県那珂工場 における震災前水準の生産体制回復時期を1 0
月末 と発表 し た。半導体 は製造業特 に情報通信 はじめ として、デジタル家電やその他のあら ゆるものづ くりに とって産業の米 と言 うべ き基幹部品である。その生産体制の 遅れ と影響は、 さまざま分野に計 り知れない影響 を与 えている。その実態をさらに詳 しく考察 していきたい。
3.1 ワンセ ッ ト主義の時代
ものづ くりの企業 において、使用する部品や部材いわゆるパーツや コンポー ネン トの全てを自社で内製化 している企業 は殆 どない といってよいであろう。
かつて
1 9 6 0
年代では、原材料か ら完成品に至 るまでの川上か ら川下 までを、 自 社内で製造する一貫生産主義、いわゆるワンセ ット主義が支配的な考え方であっ た時期がある。その理由の1つ として、国内で部品や部材 を製造で きる中小中 堅企業が十分育っていなかったことがある。欧米各国か らの先端技術製品を輸 入 し、それ らを分解精査 し、真似 して学ぶ とい うことが1 9 6 0
年代の企業の姿で あった。戦前か ら日本企業 には多 くの技術蓄積や職人芸があった ことは事実で ある。 しか し敗戦後のおよそ10年間で、欧米企業の技術進歩に後れを とり、素 材の開発 もままな らなかったのである。 また当時の日本の中小企業では、欧米 企業の先端技術製品を目にする機会 も少なかった。原材料 として使用す る金属 等の素材の研究開発力が不十分で、似て非なる物 しか作れなかった。試作品を 作っても、それが十分な設計強度をもっているかを検証す る試験設備や公設試 験機関 も不足 していた。現在で こそ企業の試験実験設備が充実 してきた し、国 や 自治体の工業試験場 も拡充 してきた。2 言式作 した製品の強度 を中立的な機関 で検証す ることで、製品化 に向けての品質 を裏付 けることができるようになっZ生糸検査所が1896年横浜 と神戸 に設置 され、 品質保持 と輸 出振興が行 われた。参考文献 (ll)田中則仁2010年10月を参照。
てきた。
またワンセ ット主義の第2の理由 として、 日本経済の高度成長期 にあって、
部品の一部を外部企業に依存するよりは、 自社で責任 をもって製造することが、
ものづ くりの信頼性 を維持するためにも不可欠であるとの認識 と自負があった であろう。 自社製品に関 して自信 を持って顧客に提供す るためには、た とえ一 部の工程であろうと他人任せ にはしない、 とい うものづ くりの衿持がその仕組 みを支 えてきたのである。工業製品ではその部品点数が多 くなればなるほ ど、
どの部品の どの個所で不具合が生 じたかを突 き止めることが難 しくなる。 ワン セ ッ ト主義の最大の利点は、製品の川上か ら完成段階 まで、 自社で責任 をもっ て対応することであった。 この努力の積み重ねが 目本製品のブラン ドカになっ てきた。ブラン ドとはそこに内包 された品質への信頼であ り、 また消費者 に対 す る企業か らの約束である。約束 を守 ることについては、全社 を挙げて真剣 に 対応す るとい う企業の姿勢が、今 日の信用 を築いてきた といって も過言ではな
い 。
3.2 アウ トソーシングの増加
しか し1980年代か らの急激な円高や、景気の上昇下降を繰 り返す企業経営に とっての困難な局面 において、経営者 は無理、無駄、ムラを極力排除 して、葉 肉を削ぎ落 とした企業経営の体質改善を図ってきたのである。高度成長期か ら 十余年 を経て、多 くの企業 は巨大 に膨れ上がった設備の整理縮小 を開始 した。
高度成長期であれば、 自社設備が常にフル稼働 して、生産計画の柔軟 な変更 も 意のままであった。 しか し1970年代の二度 にわた る石油危機やニクソンシ ョッ クな どの外部か らの企業環境の要因を受 け、ひ とたび低成長期 に入 ると経営戦 略の大 きな方針転換 をす る必要が生 じた。重厚長大型の大型機械設備 は、稼働 率を維持できて こそ、減価償却が可能 になるが、過剰生産能力を維持す るだけ の需要 は最早見込めな くなっていった。 自社の生産能力を適正規模 まで圧縮す ると同時に、部品や部材の一部を外部委託するいわゆるアウ トソーシングを増 や していった。工業部品の場合 には、高度な加工 と仕上げを要求され る工程が 必ずある。一部 は専門の機械 と職人を擁す る中小中堅のサプライヤーの協力が 必要な場面が出て くるものである。本来は組み立てメーカー とサプライヤーが、
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少 しで も良いものを作 りたい、作っていこうとい う同じ目標 を共有できてはじ めて緊密な連携が出来上が り、優れた製品に仕上がるものである。
ところが時がたち、人が異動で入れ替わってい く中で、次第にプライヤー と の関係が希薄になってい く。企業間での関係では、組み立てメーカー とサプラ イヤー との連携強化 を継続 してはいるものの、 自社 による内製化割合 を極力切
り詰め、設備投資を必要最低限にす る生産の仕組みを作 り上げてきた。 さらに コス ト削減や調達費用 を切 り詰めるといった、組み立てメーカー側の方針が強 まると、本来底流 に流れていた両社の信頼関係や情報共有 といった重要な要素 が、次第に欠落 して しまうことになる。図2で示すように、組み立てメーカー
とサプライヤーの関係 には重層的な構造が出来上がっている。 図2 組み立てメーカーとサプライヤーの関 係
/ † \
1次サプライヤー
2次サプライヤー
H H H
部品al .部品aヽ 2 部品b2
(出典 :筆者作成)
いまや 自動車企業 はもとより、家電、IT関連産業 の主要企業 は、 いずれ も 製造業 とい うよりは、サプライヤーか ら納入 された部品や部材の組み立てメー カー とい う方がふさわ しい。 これ らのサプライヤー との密接な関係があっては じめて消費者が 目にする製品が完成 し、出来上がってきているのである。見方 を変えれば、完成品の品質 はサプライヤーが担っているといって も過言ではな
い。 したがって現在の製造業ではその背景に、組み立てメーカー とサプライヤー との密接不可分な連携が存在する。それは単なる部品納入企業 と得意先 とい う 上下の関係ではな く、新製品を設計段階か ら意見交換 してつ くり上げてい くと い う、協力関係 に進化 したパー トナーの位置付 けになっているともいえよう。
1次サプライヤーの企業のもとには、そこに部品を納入する
2
次サプライヤー が存在する。 自動車産業であれば、 さらに3
次サプライヤーまで組織 され、そ れぞれが構成部品を製造 し、上位のサプライヤーに納入 しているのが現状であ る。 ものづ くりにおける組み立てメーカー とサプライヤー問の、緊密で高い相 互依存性 を基礎 としたサプライチェーンこそが、今 日の日本の製造業の特徴であるといってよい。
3. 3
サプライチェーンの問題点今回の震災を契機 に、 これほど精微 に構築 されたサプライチェーンの問題点 が明 らかになった。製造業に関わる人々の基本書 ともい うべ き 『トヨタ生産方 式』を著 した大野耐‑氏は、生産現場 に密着 して常にム リ、ムダ、ムラを無 く す ことを説 いてきた。同様なことはサプライヤーにも向けられ、サプライヤー 各社 自身 も、ムダ とりを意識 した行動 を心掛 けるよう訴 えている。
そこで震災によって提示 されたサプライチェーンの問題点を改めて検証 して みよう。サ プライヤーか ら組み立てメーカーの各現場で、余剰部品在庫 を持た ず、必要なモノを、必要な時に、必要な (数量)だけ組み立てラインに納入す ることが無駄 を削ぎ落 とした仕組みであった。作 り過 ぎや過剰な在庫 は、明 ら かに無駄な在庫費用の積み増 しである。 しか し組み立てラインが停止する事は、
もっ と深刻な機会損失である。 ここで提案 していることは、無駄 と知 りつつ余 剰な在庫 を持つべきとい うことではない。む しろ適性在庫数量を厳密に定義 し
た上で、特 に基幹部品についての危機管理 としてバ ックアップやサポー トでき る体制を作 ることが重要であると提示 している。
ものづ くりの現場 において、震災による部品や部材の滞 りの影響 は、 日本国 内の企業 に とどまらず、世界の主要企業の生産体制 にも影響 した。 日本か ら部 品や中間製品を輸入 していた各国の企業 は、 日本か らの部品供給が滞った こと を教訓 にして、調達システムの危機管理を強化 している。その結果、部品や部
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材の一部を中国やアジアのサプライヤーに求め、部品調達の多角化 と危険分散 を模索 している。 この動 きが一度加速 して くると、各国主要企業の日本か らの 部品調達離れが進み、 日本企業への発注が戻 ることがな くなる非可逆的な動 き
になることが懸念 されている。
サイプライチェーンの再構築 は供給体制の単なるダイエ ッ トとは本質的に異 なる。人は無知なダイエ ッ トを続 け、ム リな運動で体脂肪 を減 らし続 けると、
筋肉や臓器を覆っている保護膜が少な くな り、わずかな気温の変化で も風邪 を ひきやす くなるという。企業経営においてムダを削ぎ落 とす リーン経営 とい う 概念が提唱されて久 しい。現実の企業や組織 において、必要な緩衝材の部分が
どこにどのようにあるべ きなのかを考えてみる必要がある。
4
部品共通化による リスク分散現代のものづ くりで最 も精微 に組み立て られているのが、 自動車産業 におけ る部品調達の仕組みである。 しか しこの精微な仕組みであるか らこその問題点 が顕在化 し、いまや再考 を迫 られている。改めて震災に伴 う生産現場の問題点 を単純 に考えると、部品の供給が止 まった ことである。 自動車一台はおよそ2 万点か ら3万点の構成部品でできている。それ らの部品を合わせて部材 を作 り、
実際に自動車組み立てメーカーが調達す る点数は、それで も4千点以上 になる。
これ らに中には、一つた りとも無 くて支障のない部品は存在 しない。
4.1 部品未着による組み立てライン停止の事例
日本が誇 る自動車産業 において、部品が届かなかった理由での組み立てライ ン停止事例が これまでに何件かある。 さまざま要因が重なって起 こった事故で あ り、原因究明や再発防止に向けた対応はなされているが、 ここでは特 にもの づ くりとの関係で これ らの事例の影響 を考えていきたい。以下、新聞等で報 じ
られた大規模な事故を振 り返ってみる。
4.1.1 日本坂 トンネル火災の事例
1 9 7 9
年7月、東名高速道路の静岡県内日本坂 トンネル下 り車線で発生 した車 両事故が引き金 にな り、 トンネル内で1 7 3
台の車両が追突炎上 した事故である。鎮火後 も現場検証や片付けが等が行われ、
1
週間後 に無事であった上 り車線で 片側通行が開始 された。 しか し並走す る一般国道や中央 自動車道の渋滞がひ どく、物資の供給 には相当影響が生 じた。静岡県内か ら東京方面、名古屋方面‑
の輸送 はもとよ り、東京圏か ら中部圏への輸送 にも渋滞で多大な影響がでた。
東名高速道路が全面復旧す るのは
2
カ月後の ことであった。 この時 トヨタ自動 車の愛知県内工場で も組み立てラインが停止 した。4.1.2 アイシン精機刈谷第一工場火災の事例
トヨタグループの大規模サプライヤーであるアイシン精機刈谷工場の第一工 場で、1997年2月に火災が発生 した。 この火災で自動車のブレーキ油圧 を前後 に分 けるプロポーシ ョニ ングバル ブ (PV)の出荷がで きな くな り、 トヨタ自 動車だけで
7
万台の減産 になった。 トヨタ自動車では上記の 日本坂 トンネル事 故やその後 の1995年阪神淡路大震災を教訓 に、部品調達先 の複線化 を図ってき た。 この時のPVについて も、サプライヤーで構成す る トヨタ協豊会の企業数 社が担当 していた。 しか し現実 には内部の小部品で、高い加工精度を要求され る部品があ り、 また車種 ごとに異なる形状 に対応するため、 アイシン精機が基 幹部品の殆 どを生産 していた。 このため、火災後 アイシン精機 グループ企業だ けでな く、他社の協力を仰いで生産体制を整えたが、生産再開は1週間後 になっ た。4,1.3 ブ リジス トン栃木工場火災の事例
タイヤ製造企業大手のブリジス トン栃木工場で起 こった火災により、タイヤ の生産が滞 り、 自動車組み立て各社の生産 ラインに影響が生 じた。工場での溶 接火花がタイヤに引火 した火災であった。 この火災では鎮火に
6 0
数時間を要 し、タイヤの供給が滞った。 この工場の復 旧には
1 2
日間を要 した。 タイヤは一見す るとどこの企業か らで も調達可能なようにみえるが、実際には各車種のモデル ごとに仕様、スペシフィケーシ ョンが決 まっている。装着す る自動車のエ ンジ ン出力性能、その事の用途 と特性 により、 タイヤ接地面の溝である トレッ ドパ ターンも重要な設計要素である。そのため同業他社であって も、本来の設計仕 様 に合 ったサイズ、扇平率、デザインのタイヤでなければ、供給す ることも装 着することもで きないのである。国際経営 フォー ラムNo.22 4.2 部品の標準化を考える
上記の各事例で明 らかになった ことは、供給体制の過度な効率化 は、組み立 て ラインにおける操業停止 とい うリスクを高めるとい う事実である。各社 とも 事故等の リスク回避のために、複数企業での生産体制 を整 えてはいるようであ るが、アイシン精機 の事例のように、重要な部品が一つで も欠ければ、部材 に はな らないのである。その部品を1社が独 占的に製造 していれば、決定的な リ スクを負 っているといわざるを得ない。そこで必要な事 は、基幹部品に関す る 製造 ライ ンや技術的な面でのバ ックアップとサポー ト体制 を構築す ることに他
な らない。図
3
では、サプライヤーごとに基幹部品の共通化 をはか ることをイ メージ した図を示 している。図3 部品共通化のイメージ図
/
† \1次サプライヤー
2次サプライヤー
部 品 A
共通部品a*
部品B IllqIIII
‑ ‑ ‑ ‑ 一 l
共通部品
b *
部品C
l
共通 部 品C*
■t
7
…"ト 十十千
日‑l T
部 品 b 2
共 通 部 品 a *
共通部品b* 共通部品C*(出典 :筆者作成)
部品の2次サ プライヤーが2社で部品alとa2を製造 して 1次サ プライヤーに 供給 し、 それ らを組み合わせて部品Aがで きてい るとす る。従来であれば、各 サ プライヤーはジャス トインタイムで発注部品を正確 に作 り込むのであるが、
共通部品a*を製造で きる技術 と生産体制 を常 に保持 してお くことが必要であ る。大野耐‑
( 1 9 7 8 )
『トヨタ生産方式』 (参考文献3)
で も、 「後工程 はお客様」、 「バ トン ・タッチ方式」、チームワークを 「助 け合い運動」 と捉 える考 え 方が示 されている。
「後の工程の人が もたついて遅れていた場合 には、その人の持ち分 と思われ る機械 の取 り外 しをやってや りなさい」 (同書p.48)
組み立てラインの作業者 を部品サプライヤーに見立てれば、上記の概念図で の
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次サプライ‑各社 と 1次サプライヤーが、いわば多能工 としての役割 を果 たす ことと考 えられ る。多能工が組み立て ラインの前後の作業を修得す ることと、企業が共通部品や基幹部品の製造や加工 までできることとは、その要求度 において格段 に違 うことは事実であろう。 しか しこのような発想で部品の微細 加工 まで もバ トン ・リレー方式で行 えることこそが、今 自動車産業 に限 らず部 品のサプライヤーを多 く持つ組み立てメーカーに とって、何 より必要 なことで はなかろうか。
そのためにはこれ までの長年 にわたる限 られた範囲のサプライヤー間だけで な く、 より広い視野か ら、十分なコミュニケーシ ョンが とれ るサプライヤー企 業 を世界市場の中で確保で きるかを考 える必要がある。
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サプライチェーン構築の課題組み立てメーカー と部品サプライヤーの関係 を、共通部品の設計思想共有 と い う視点か ら考 えてきた。現実 に震災以降、諸外国の製造企業 は、 日本のサプ ライヤーだけでな く、 アジアや他地域か らも積極的に部品供給企業模索す る方 向に動 きだ している。 日本企業 に とってはまさに正念場の状況である。ただ し 安易な提携拡大 には、た とえ国内企業であって も慎重になる必要がある。今後
のサプライチェーン構築 を万全なものにす るには、 どのような課題が残 るであ ろうかを考案 してみよう。
5.1 ものづ くりにおける 「す りあわせ」思考
自動車産業 のみな らず、ITデジタル家電で も白物家電で も、試作か ら量産 体制 に移行する過程では、組み立てメーカー とサプライヤー との技術の 「す り
あわせ」常に行われてきた。時には新製品の企画設計段階か ら、有力な部品サ
国際経営 フォー ラムNo.22
プライヤー との共同作業が展開され、部品づ くりのプロ集団であるサプライヤー が、新製品を具現化す る部品を考案す ることもしばしばある。 このようなす り あわせ の思考過程 を共有で きるサプライヤーがいて こそ、 ものづ くりのパー ト ナー といえるのであろう。
部品サプライヤーの役割は、単に部材のAやBを仕上げて納品す る、モジュー ル型の役割分担ではな くなっている。モジュール部材の品質管理体制 を確立 し、
その作 り込みす ることは当然の ことなが ら、完成品の全体的な調和のために、
どの ような微調整 と改良が必要かを常に提案 し、工夫 してい くカイゼ ンの意識 を持 っていなければな らない。
5.2 技術者の熟練度 と技術移転
日本企業が戦後60有余年を経て、生産現場では団塊世代の大量退職があった。
その結果、退職 していった技術者 に体化 された熟練度 と経験知 も失われていっ たのではなか ろうか。 また職人気質の技術者 にしか判 らない暗黙知が、一体 ど れほ ど継承 されているのであろうか。 これ らの経験知や暗黙知 を、なん とか継 承可能 になるようにす る形式知化の努力 も必要である。
特 に、今後 とも日本企業 による生産拠点の海外移転 は、進 み こそすれ減少す ることはないであろう。そ うであればなおの こと、生産現場での技術者 の熟練 度 を高める とともに、生産性の維持 と向上 にむけたあ らゆ る努力 をす ることが 必要 になる。職人技の形式知化 に取 り組み、 自動車産業やデジタル家電産業な どでの ものづ くり技術の経験、勘、 コツを見 える形 に してい く 「知識基盤化」
こそ急務である。
日本企業 のサプライチェーンは、現在大 きな岐路 に立 っている。現在 内包 し ているさまざまな問題が、 この大震災を機 に顕在化 してきた。サ プライチェー ンの構築 は、損なわれた り無理があった仕組みを、外見だけ単純 に元 に戻す と い う復 旧で終わってはな らない。新たなシステム構築 は、精巧だが脆弱なガ ラ ス細工ではな く、漆塗 りのような椀 の ように、美 しくかつ実用性 を兼ね備 え、
しか も100年以上長持ちす るような要素 をこの機会 に取 り入れなければな らな い。 日本企業 に求められているのは、従来か らの枠 に縛 られ ることな く、世界 を視野 にした意欲 ある企業 との連携である。その前向きな活動 こそが、閉塞感
がある現在の 日本経済 を、新たな方向に展開 してい く最良の起爆剤 になるであ ろう。
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