財務会計の概念フレームワークと2つの会計目的観 : ステュワードシップ会計と意思決定有用性会計の 相剋と相互交渉
著者 古賀 智敏
雑誌名 同志社商学
巻 65
号 6
ページ 877‑892
発行年 2014‑03‑15
権利 同志社大学商学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013466
財務会計の概念フレームワークと 2 つの会計目的観
──ステュワードシップ会計と意思決定有用性会計の相剋と相互交渉──
古 賀 智 敏
Ⅰ プロローグ
Ⅱ 概念フレームワーク構築の2つの視点
Ⅲ アメリカ会計理論構築の系譜
−ステュワードシップ会計指向から意思決定有用性会計指向へ
Ⅳ わが国制度会計における会計目的観の相剋と妥協
Ⅴ IFRS概念フレームワークと代替的フレームワークの相剋
Ⅵ IFRS導入と配当可能利益計算
Ⅶ エピローグ
Ⅰ プロローグ
近年,概念フレームワークの議論が注目されるようになったのは,一方では,国際会 計基準審議会(IASB)とアメリカ財務会計基準審議会(FASB)との高品質の統一的フ レームワーク構築に向けてのプロジェクトの中間報告として,討議資料「財務報告の概 念フレームワークのレビュー」(2013)が公表され,その検討成果の中間報告によって 会計プロフェッションの関心が高まってきたこと,また,他方では,会計の目的や認 識・測定問題などが企業会計の最重要な研究課題の
1
つをなすものとして常に研究者や 実務家の興味を呼んできたことによるものであろう。とくに財務報告の目的観に関する「投資意思決定有用性」対「ステュワードシップ/アカウンタビリティ」をめぐる議論 は,IFRS導入に伴う企業会計の制度構築にあたってコアの検討課題をなすとともに,
両者の関係をめぐる「実質一元論」対「分離二元論」の議論は,わが国「商法会計」対
「証券取引法会計」の論争など,古くて新しい論点として提示されてきた。
本稿では,とくに
2
つの会計目的観について,アメリカ,日本および国際会計基準の歴 史的展開を探り,その特徴と論点を浮き彫りにすることによって,この2
つの会計目的 観が本来的に2
つの異質のものとして理解すべきであるとの認識を示すことにしたい。Ⅱ 概念フレームワーク構築の 2 つの視点
社会科学の理論体系は,その背後に存在する社会的,経済的および法的・政策的要因
(877)77
によって著しく影響され,変容してきた。会計理論もまた同様である。1960年代〜70 年代にかけてインフレ経済のもとでは,物価変動会計やカレント・コストなど時価会計 に関する理論研究が,会計研究の中心課題をなすものであった。その後
1980
年にかけ ての金融商品の拡充化に伴い,公正価値(売却時価)会計の理論的解明とバリュー・レ リバンスの実証研究が大きく台頭し1
た。また,21世紀のイノベーションの時代では,R
&D
や無形資産会計の理論的・実証的研究が台頭し,その後の会計基準のグローバル化の展開とともに,IFRSの理論的・制度的研究と併せて,会計基準のコンバージェンス や導入をめぐる実証研究が大いに注目されるようになった。
一般に理論を構成する場合,ある特定の「目的」が設定され,それに基づき「対象ー 手段ー結果」という一連の組み合わせによって整合的に体系づけられたときに,精緻な 論理体系をもった理論が構築されたといえ
2
る。「第
1
図」に示されるように,まず,一 定の「目的」に適合する「対象」が特定化され,その目的を達成するために必要とされ る「手段」が選定される。それを対象に適用することによって,何らかの「結果」が得 られる。それが当初の目的を満足するときに,会計情報の「真実性」なり「有用性」が 達成されることになる。このような会計研究の認識基点に立って,「目的−対象−手段−結果」の一連の拠って立つ「フレーム・オブ・レファレンス(準拠枠)」を提供する のが会計基準であり,その概念的基礎となるのが「概念フレームワーク」である。つま り,概念フレームワークは,会計の認識・測定のあり方を規定し,開示の内容・範囲を
────────────
1 たとえば,次を参照されたい。古賀[5](近刊予定)。
2 武田[9]65−66ページ;古賀[5](近刊予定)。
第1図 会計理論構築の方法論的基礎
参考文献:武田フレームワーク(1993)を参考に筆者が作成
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78(878)
画定する会計の拠って立つ基盤をなすものである。
概念フレームワーク構築の視点として,大きく次の
2
つがあ3
る。
(1)「投資者保護−意思決定有用性」パースペクティブ(意思決定有用性の会計)
(2)「現在株主保護−ステュワードシップ」パースペクティブ(ステュワードシップの 会計)
両者は,会計の依拠する法的基盤を異とし,「目的−対象ー手段ー結果」の各側面に おいて,次のように特徴づけられる。
第
1
に,「目的」について,意思決定有用性会計では,現在・将来の投資者や債権者 を対象として,投資者保護の観点から資本市場の公正性と透明性を確保することを目指 すのに対して,ステュワードシップ会計では,経営者と株主との委託・受託関係に立 ち,経営者の過年度の実績評価・モニタリングと株主総会での報告責任(アカウンタビ リティ)など広くステークホルダーの利害調整が重視される。第
2
に,「対象」について,両者ともに会計の対象としてプロダクト(有形財),ファ イナンス(金融財),およびナレッジ(無形財)を対象とする点では共通であるが,経 済基盤の変化とともに3
つの財貨の構成割合は変化する。一般にファイナンスのグロー バル化が拡大するとともに,投資意思決定のための会計情報の重要性が増大するであろ う。第
3
に,「手段」の側面から,求められる情報の質的特性として,意思決定有用性会 計では,情報ニーズに対する「目的適合性(レリバンス)」が最優先され,併せて一定 レベルの「表示の忠実性」が主要な情報特性をなすのに対して,ステュワードシップ会 計では情報の信頼性ないし写像の検証可能性や計算の正確性が重視される。それを受けて,認識・測定基準として,意思決定有用性会計では,合理的資源配分に 向けて厳格な取引概念に拘束されない拡大した認識アプローチ(未履行契約の認識な ど)に立ち,公正価値ないし時価測定がより重要なウェイトを占めるのに対して,ステ ュワードシップ会計では,本来的に取引アプローチに依拠した認識と取得原価測定が重 視される。
最後に,第
4
に,計算の「結果」に関して,意思決定有用性アプローチでは,将来の キャッシュ・フローの前取りによる「公正価値−ストック計算」が重視され,包括利益 概念に焦点が置かれる。それに対して,ステュワードシップ会計では,「原価配分−フ ロー計算」による純利益概念が重視される。このように,概念フレームワークを形成する
2
つの会計目的観は,本源的に会計基準 設定に対する相異なった見方を提示するものであるが,両者は企業を取り巻くビジネス 環境の変化に対応しつつ,ときには相互にコンフリクトし合い,ときには依拠しつつ,────────────
3 Whittington[10]pp.141−143;古賀[4]149−152ページ。
財務会計の概念フレームワークと2つの会計目的観(古賀) (879)79
展開されてきた。以下,両者の相剋と妥協の展開をアメリカ,日本および国際会計基準 について論ずることにしよう。
Ⅲ アメリカ会計理論構築の系譜
−ステュワードシップ会計指向から意思決定有用性会計指向へ
1
分析視角20
世紀以降のアメリカ会計理論の生成・発展の歴史は,ステュワードシップ会計と 意思決定有用性会計との2
つの会計目的観が混在しつつも,大きくステュワードシップ 会計指向から意思決定有用性会計指向へのトレンドの中で把握することができるであろ4
う。ここでは,とくに
2
つの会計目的観の変化の歴史について,その特徴的な一端を提 示することによって,2つの概念,なかんづくステュワードシップ概念の多義性と曖昧 さを指摘することにしたい。分析にあたって,まず,Zeffに倣って次の
2
つの概念的区分アプローチを考えてみ よ5
う。
(a)機能主義アプローチ(機能主義者:functionalist)
(b)表示の忠実主義アプローチ(表示忠実主義者:representationalist)
機能主義アプローチは,会計目的を一定の行為(利用者の利用目的など)の側面から 規定し,それを達成するような情報の属性を特定化する方法である。このアプローチは 想定する利用者が想定する行為をもたらす情報であれば,いかなる情報でも受容できる という点で,自由開放型(open-ended)アプローチであ
6
る。大部分の意思決定有用性ア プローチは機能主義に立つ。
それに対して,表示の忠実主義アプローチは,ある周知の経済事象を表示する立場か ら会計目的を表示し,1つ,または複数の変数(利益や財政状況など)に関する情報を 提供しようとする。この場合,情報が適合性をもつかどうか,また,それを利用するか どうかは情報利用者が決定することになる。このアプローチは,しばしば「真実かつ公 正な概観」ないし「ア・プリオリ」または「真実な利益」理論として特徴づけられるア プローチであ
7
る。
以上の分析視角を踏まえて,アメリカの
2
つの会計目的観について4
つの代表理論を 抽出し,類型化したのが,「第1
表」である。────────────
4 たとえば,G. O. Mayの議論等を参照されたい(Zeff[11]pp.9−12)。
5 Zeff[11]p.3.
6 Zeff[11]p.3.
7 Zeff[11]p.3.
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以下では,とくにステュワードシップ目的観をめぐる
Littleton
理論と井尻理論,ま た,意思決定有用性理論の先駆者としてStaubus
理論に焦点を置き,アメリカ会計にお ける会計目的観の特徴的局面を見てみたい。2
ステュワードシップ概念の2
つの見方−Littleton理論と井尻理論ステュワードシップと意思決定有用性をめぐるアメリカ会計理論の展開は,両者が明 確に峻別されることなく,ステュワードシップ会計観を保持しつつも,徐々に意思決定 への役立ちを強めつつ発展してきたと言えよう。そこではステュワードシップが単なる 受託財産の誠実な管理保管機能を越えて,経営者の経営効率性の評価,更にはそれに対 する株主の評価の表明としての投資の保持・処分決定など意思決定目的観が強く反映さ れている。このように,会計目的観をめぐる議論を複雑にしている要因の
1
つは,ステ ュワードシップ概念の多義性と曖昧さが指摘されよう。その一例をなすのが,Littleton と井尻理論に見ることができる。まず,Littletonにおいて,アカウンタビリティとしての会計報告書の意義について,
次の引用を参照されたい。
「会計報告書は,第三者から管理を委託された財産に対する会社経営者の会計処 理,負債としての借り入れられた資金の適切な使用に対する経営者の責任,および発 生した諸費用および公表された配当に対する責任について報告するものであ
8
る。」。
このような財産の委託・受託関係に基づいた経営者の会計責任は,より端的に経営委 託責任(stewardship)として特徴づけられ,財務諸表はしばしば経営者の委託責任報告 書(report of managerial stewardship)と称され
9
る。この場合,受託責任とは,その管理 下に委ねられた財産を単に保護するだけではなく,財産を事業サイクルにおいて効率的 に運用することによって,それを増加させることが経営者に期待される。経営者の受託 責任の中心は,このような事業サイクルを通じて企業投資のフローを促進することであ
────────────
8 Littleton[8]p.15(大塚訳,[7]22ページ)。
9 Littleton[8]p.80.
第1表 会計目的観の分析視点
ステュワードシップ会計 意思決定有用性会計 表示の忠実性アプローチ Littleton, A. C.(1953) −
機能主義アプローチ Ijiri, Y.(1983) Staubus, G. J.(1977)
参考文献:Zelf, S.(2013)ドラフトを参考に筆者が作成
財務会計の概念フレームワークと2つの会計目的観(古賀) (881)81
り,そのための経営者の努力と成果とを最も精密に示すものが損益計算書であ
10
る。貸借 対照表がスナップショットの写像をなすのに対して,損益計算書こそが経営者の受託責 任に関する最重要な報告書であるというのが
Littleton
の主張である。同理論では「会 計の中心目的は,企業がその用役を提供する際におけるその成果について,計算的判断 を行うことを可能ならしめるものであ11
る。」。会計の役割は成果としての利益の実態を正 しく反映することであって,それ以上ではない。それゆえ,Littleton の受託責任は,忠 実的表示として区分され
12
る。
それに対して,井尻理論は会計情報の提供者(アカウンター)と受領者(アカウンテ ィー)とのアカウンタビリティ関係に立つステュワード機能に焦点を置
13
く。すなわち,
会計の目的は両者間の情報フローのフェア・システムを提供することであり,そのため にはアカウンティーの「知る権利」とアカウンターの「機密保護の権利」とを満足する ものでなければならな
14
い。会計の記録と報告書とはアカウンターのステュワードシップ 機能を果たすように方向づけられるとともに,アカウンタビリティ関係に基づいて設定 された目標に対する業績評価に役立つものでなければならない。このような会計システ ムの公平性を確保するためには,会計情報は情報作成者から独立的であり(「客観性」),
かつ検証可能(「検証可能性」)でなければならず,歴史的原価会計が支持される。従っ て,会計システムの公平性・安定性を指向する井尻理論は,「機能主義的アプローチの 台頭」を示すものと言え
15
る。
3
意思決定有用性アプローチの台頭と発展文献上で意思決定有用性の会計目的観が,いつ初めて登場したかは,定かではない。
しかし,少なくとも
20
世紀初期のG. O. May
の著作(1934)には,ステュワードシッ プの目的観を保持しつつ,資本市場に向けた会計報告の重要性が高まりつつあったこと が示唆されている。それがその後の「株主デモクラシー」の潮流に徐々に組み込まれて いったと推定され16
る。
意思決定有用性アプローチの最初の明確な支持者として,Staubusが挙げられ
17
る。こ の目的観は,当初,彼の学位論文(1954)で論じられたものであり,その後,著書
(1961, 1977)となって公刊された。このアプローチでは,企業からの金銭の支払い能
────────────
10 Littleton[8]p.80.
11 Littleton[8]p.34(大塚,[7]22ページ)。
12 Zeff[11]p.19.
13 Ijiri[6]p.75.
14 Ijiri[6]p.75.
15 同様に,Zelfは井尻理論の「利害調整機能」に注目し,機能主義者として区分している。Zeff[11]
p.20.
16 Zeff[11]p.9.
17 Zeff[11]p.23.
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力を予測するのに関心があり,会計の主要な目的は投資意思決定に役立つ数量的経済的 情報を提供することであ
18
る。また,別の著書(1977)でも,「会計の主要な目的は意思 決定に利用するために,事業体の経済的事象に関して財務的情報を提供することであ
19
る。」として,意思決定有用性という機能的側面から,会計目的観の確認と,その展開 を図っている。これは,アメリカ会計学会(AAA)の委員会報告書
ASOBAT
となって 広く権威づけられ,その後のアメリカ会計基準の設定にあたって継承されていった。以上,20世紀以降のアメリカ会計の目的観について,ステュワードシップ会計観と 意思決定有用性の会計観とが混在し,未分化のまま,20世紀中期以降,Staubus 等の先 駆者によって意思決定有用性を主たる目的とする会計観が徐々に支配的となり,定着す るようになった点に留意されたい。また,ステュワードシップについても,Littleton等 の「トルーな利益」算定を求める利益計算の忠実表示アプローチと,井尻理論に代表さ れるような「利害調整と公平性の追求」機能を求める機能主義アプローチとが区別され ることが指摘される。
Ⅳ わが国制度会計における会計目的観の相剋と妥協
わが国制度会計における会計目的観は,背景となる経済基盤の環境変化に対応しつ つ,「証券取引法(金融商品取引法)会計−意思決定有用性」と「商法会計−ステュワ ードシップ」との
2
つの会計目的観の相剋と妥協の歴史であった。議論の詳細は別稿に 譲るとして,以下では,その要点を摘記するにとどめた20
い。
① 第Ⅰ期(1948年〜1973年)は,証券取引法(証取法)の法的基盤に立つ企業会計 原則が商法への歩み寄りをなすことによって証取法と商法との差異の解消が図られて いった点に特徴がある。1948年(昭和
23
年)に設定された企業会計原則は,1954 年(昭和29
年)および1963
年(昭和38
年)の2
度の一部修正を経て,商法の計算 規定との矛盾点を修正しつつ,企業会計原則が強行法規たる商法への歩み寄りの形で 商法会計と証取法会計との会計基準レベルでの一致が図られていった。「商法と企業 会計原則との調整について」報告書(昭和44
年(1969)12月)は,これを明文上で 示すものであった。② 第Ⅱ期(1974年〜1980年代)は,証取法監査と商法監査との実質的一元化を図る ことによって両者の会計基準の一元化を図ろうするものであった。1974年(昭和
49
年)の商法改正に伴い,「公正ナル会計慣行」の斟酌規定が創設され,これにより公────────────
18 Staubus[9]p.22.
19 Staubus[9]p.29.
20 詳細は,拙稿「投資者保護法制の展開と会計理論の変容」(古賀[4])を参照されたい。
財務会計の概念フレームワークと2つの会計目的観(古賀) (883)83
正なる会計慣行を要約した企業会計原則が商法計算規定の解釈指針としてその地位を 確立することになった。しかし,実際には,証取法と商法との理念の相違により,企 業会計原則・財務諸表等規則と会社法計算規定・計算書類規則との間の差異を完全に 払拭するには至らなかっ
21
た。
③ その後,第Ⅲ期(1990年代〜2000年代初頭)は,時価会計の導入を契機として,
商法と企業会計とが会計の「情報提供機能」を共通項として「証取法ー投資者保護指 向の会計」と「商法−債権者保護指向の会計」との調整・実質的一元化が試みられた 点で注目される。この画期的な試みを行ったのが,「商法と企業会計の調整に関する 研究会報告書」(平成
10
年(1998年)6月)であった。これは1990
年代半ば以降の 証券市場の公正化・透明化の動向の中,金融商品の時価評価や税効果会計の導入に伴 い,商法の取得原価主義並びに配当可能利益の限度額規定との関連をいかにすべきか との問題意識に立22
つ。結論的には,「商法の会計目的は,多数の株主が依存する公開 会社に関する投資者に対する証券取引法の情報提供機能と実質的に同一の役割を担っ ている。」(同報告書Ⅰ・1)との基本認識のもとで,証取法と商法との会計目的の実 質的一元化を提示しようとした。
④ 最後に,第Ⅳ期(2005年〜現在)は,会社法の創設と利益決定機能の一元化が図 られた時代である。改正前商法では,利益計算の決定機能と利益分配機能とが「債権 者保護」の法理念のもとで全一体として存続してきた。しかし,1990年代の会計制 度改革と時価会計等の利益計算の多元化・複雑化のもとで,平成
17
年(2005年)7 月,新たに会社法が創設された。そこでは,債権者保護の理念が放棄され,利益決定 計算は会計基準へ委譲され,利益計算を行う「会計の論理」と利益分配に係る「法の 論理」との分離・独立が確立し23
た。
このように,わが国では,意思決定有用性とステュワードシップとの会計観をめぐる 議論は,広く証取法会計(投資者保護)と商法会計(債権者保護)との実質的一元化を めぐる交錯と調整の展開として理解することができる。それは,具体的には証取法監査 と商法監査との実質的一元化を求める潮流となって展開されてきた。「第
2
表」は,以 上の議論を要約して示すものである。しかし,両者の法理念の相違に根ざした根源的差異は依然として払拭されないまま,
その後の会社法創設に伴う会計基準による会計計算機能の実質的一元化へと継承され た。この一元化された会計機能の中で,ステュワードシップ機能がどのように組み込ま れていったか,必ずしも明確ではない。この問題は,2005年以降,IFRS(国際財務報
────────────
21 たとえば,武田[7]98−99ページ。
22 江頭[1]79ページ。
23 武田[9]14ページ;松尾[6]23ページ。
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84(884)
告基準)の概念フレームワークをめぐる議論と関連して提起される。
Ⅴ IFRS 概念フレームワークと代替的フレームワークの相剋
1 2
つの概念フレームワーク2004
年10
月,国際会計基準審議会(IASB)とアメリカ財務会計基準審議会(FASB)は,共通の単一概念フレームワークの構築に向けてプロジェクトを開始することに合意 し
24
た。2010年,その最初の成果として,改訂概念フレームワークについて「一般目的 財務報告の目的(第
1
章)」と「有用な財務情報の質的特性(第3
章)」を公表した。以 下では,これらの改訂版を含むIASB/FASB
概念フレームワーク(以下,IASBモデル と略す。)の特徴について,その対立軸として提唱されたアメリカ会計学会財務会計基 準委員会(AAA’s Financial Accounting Standards Committee)の代替的モデル(2010)と 比較しつつ,特徴づけることにしたい。第
1
に,会計の目的について,IASBモデルでは,財務報告の目的は現在並びに潜在 的投資者,与信者その他債権者が企業への資源拠出の意思決定にあたって有用な財務的────────────
24 詳細は,次を参照されたい。古賀[3]30−31ページ。
第2表 わが国における2つの会計目的観の展開
時代区分 特徴 制度の構築・改訂
Ⅰ 企業会計原則の設 定 と 商 法 の 調 整 期
(1948年〜1973年)
・企業会計制度の制度的基盤の確立,企業会 計原則による商法への歩み寄りによる証取法 と商法との差異の解消
・株式会社における公認会計士監査の導入に 向けて,証取法監査と商法監査との実質的一 元化への整備(昭和44年「商法と企業会計 原則との調整について」(1969)の公表)
・企業会計原則の一部修正(1954 年:昭 和29年)−昭 和26年 商 法 改正に対応した用語・字句等の是 正;「注解」の補充公表
・同(1963年:昭 和38年)−昭 和37年商法改正に伴う商法の計 算規定との矛盾点の修正
Ⅱ 商法監査制度の創 設と企業会計原則の 確 立 期(1974年〜
1980年代)
・「公正ナル会計慣行の斟酌規定の創設によ り,商法計算規定の解釈指針としての企業会 計原則の地位の確立:証取法監査と商法監査 との一元化の促進
・企業会計原則の最終改正(1982 年:昭和57年)−利益留保性引当 金の計上禁止に伴い,特定引当金 の名称廃止
Ⅲ 時価会計の導入と 商法・企業会計の調 整期(1990年代)
・「情報提供機能」を媒介として,証取法会 計と商法会計の調整(平成10年「商法と企 業会計の調整に関する研究会報告書」(1988)
の公表)
・金融商品の時価や税効果会計の 導入に伴い,商法の取得原価 主 義・配当可能利益の限度額規定へ の対応
Ⅳ 会社法の創設と利 益決定機能の一元化
(2005年〜現在)
・1990年代後半以降の時価評価の導入と利 益決定計算の多様化・複 雑 化 に 対 応 し て,
「利益決定計算」と「利益分配計算」との分 離:債権者保護理念の放棄
・新 会 社 法 の 創 設(2005年:平 成17年)
参考文献:古賀2011, 152−156ページを参考に作成
財務会計の概念フレームワークと2つの会計目的観(古賀) (885)85
情報を提供することであるとして,広く「意思決定有用性」の立場に立
25
つ。そのために は,株主が拠出した経済的資源の保管とその効率的利用に対する経営者の管理責任の遂 行・解除といった「ステュワードシップ目的」は,意思決定目的の一部として包含され るものと見
26
る。
それに対して,AAA では,財務報告有用性の最大化なり企業の経済的実態の公平か つ客観的な表示の確保など誰もが異論をはさめない一般的・包括的ステートメントは不 要との認識に立って,明確かつ具体的な
5
つの原則を提示するにとどめてい27
る。しか し,後述するように,「取引アプローチー取得原価基準ー営業利益指向ー保守主義」の 原則に立つ
AAA
モデルは,明らかに意思決定有用性よりもステュワードシップ目的と の親近性が近いと推定されよう。第
2
に,情報の特性に関して,IASBモデルでは,表示の忠実性をレリバンスと並ん で最も根幹的な質的特性として位置づけている点が注目される。従来の概念フレームワ ークでは「レリバンスー信頼性」のトレードオフ関係のもとで,過去の取引・事象に焦 点を置き,情報の信頼性(検証可能性)が基本的特性をなすものであった。しかし,信 頼性の解釈は検証可能性,表示の忠実性,正確性など多様な解釈が含まれることから,改定案では信頼性に代わって表示の忠実性が提唱されることになった(IASB概念フレ ームワーク草案
2008)。これは測定値の検証可能性・正確性の点で制約をもつ公正価値
会計の拡大に向けて大きく門戸を開くものと思量され28
る。
他方,AAAモデルでは,取引ベースのアプローチによる認識・測定原則が提示され,
過去および現在事象に基づく情報の信頼性ないし検証可能性が求められ
29
る。
第
3
に,測定基準として,上述のように,IASBモデルでは,表示の忠実性の観点か ら,公正価値が取得原価よりも実際の経済事象の実態をより適切に反映するのであれ ば,公正価値が積極的に適用される。この場合,表示の忠実性とは,測定値そのもの正 確性ではなく,情報が完全網羅的であり,特定の方向へのバイアスなく中立的に,か つ,表示しようとする事象を誤謬や欠落が生じることなく情報として反映される場合に 得られる情報の質をい30
う。
「取引ベース・アプローチ−取得原価会計」に基礎づけられた
AAA
モデルでは,公 正価値評価は,市場が流動性を有し,信頼できる状況など限られた場合にのみ適用され るにすぎない。このような公正価値が適用される必要条件として,AAA モデルでは,────────────
25 IASB/FASB[4]OB 2.
26 IASB/FASB[4]OB 4.
27 AAA[1]p.473.
28 Whittington[10]p.147;古賀[3]36ページ。
29 AAA[1]p.476.
30 IASB/FASB[4]OC 12−OC 15.
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86(886)
金融活動が挙げられ,「事業活動と金融活動の区分」原則が提示されている点は重要で あ
31
る。
最後に,第
4
に,上記の表示の忠実性に関連して,IASBモデルでは,情報の「中立 性」が表示の忠実性も構成する要件の1
つをなし,保守主義的バイアスも情報のバイア スからの解放(不偏性)を要件とする中立性の要件に抵触する。他方,AAAモデルで は,「貸借対照表保守主義」の原則が会計フレームワークの1
つとして重視され32
る。こ こで意図される保守主義とは,「有形事業資産が合理的に測定された公正価値の金額を 越えない」ことを意味している。もし,簿価が公正価値を越える場合には,簿価の切り 下げ処理を行わなければならない。この場合,営業利益の平準化を図るために,評価損 は一括処理するよりも,数期にわたって費用処理すべきである。
以上,概念フレームワークについても,「投資意思決定有用性−公正価値会計指向」
を強く反映する
IASB
モデルと,それに対する代替的フレームワークとして「ステュワ ードシップ−取引ベース・アプローチ−取得原価会計−営業利益−損益計算書指向」に 立つAAA
モデルとのコントラストが浮き彫りにされる。2
意思決定有用性・ステュワードシップ会計の「実質一元化」対「分離二元化」そこで次の論点は,意思決定有用性の会計観に立つ
IFRS
概念フレームワークがステ ュワードシップ目的観を包摂した実質一元論に立つか,それとも分離・独立させてステ ュワードシップを考えるかである。財務報告は,本来的に経営者が会社の資源を効率的 かつ効率的に利用する責任をどのように解除するかという「ステュワードシップ(受託 責任)」を負い,「アカウンタビリティ(報告責任)」をもつ。このステュワードシップ という用語が改訂IASB
フレームワークから削除されたのは,単にそれを他の言葉に翻 訳することが難しかったとの理由によるものであり,ステュワードシップは依然として 財務報告の中心的な目標をなすというのがIASB
の見解であ33
る。
実際,新概念フレームワークでは,事業体の経営者や取締役会(governing board)が その資源を活用する責任をいかに効率的かつ友好的に遂行したかに関する情報も事業体 の将来の正味キャッシュ・フローの評価にあたって必要であるとして,広く意思決定有 用性の会計観の一部として,ステュワードシップ目的を包含す
34
る。これは意思決定有用 性を主たる目的とし,ステュワードシップをサブ目的とする「実質一元化論」に立つも のである。果たして,そうであろうか。
上述の代替的概念フレームワークの議論から示唆されるように,ステュワードシップ
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31 AAA[1]pp.476−477.
32 AAA[1]pp.477−478.
33 Hoogervorst[3](2013年4月9日付のスピーチより).
34 IASB[5]Appendix A, OB 4.
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を意思決定有用性から分離・独立させ,会計目的を「二元化」として位置づける視点も 可能であろう。IASB概念フレームワークの前段階で提示された
IASB
スタッフによる アジェンダ・ペーパー(2005年7
月)では,このステュワードシップ/アカウンタビ リティの取扱いをめぐる議論が詳細に紹介されている。その骨子は,およそ次のように 要約される。(1)財務報告は企業の財務業績に関する情報を提供し,企業の将来的見通しの評価に役 立つ。経営者はステュワードシップ/アカウンタビリティの解除にあたって企業の業 績ないし収益力を重視するので,財務報告は経営者のステュワード責任の履行につい ても有用な情報をな
35
す。
(2)しかしながら,企業の業績は経営者の能力や業績以外の多数の要素(一般的経済情 報等)を含むものであるので,企業の業績と経営者の業績とは区別されなければなら な
36
い。財務報告が提供するのは企業の業績に関する情報であって,経営者の業績評価 には制約がある。
(3)IASBフレームワークに示される財務報告(財務諸表)のステュワードシップ包含 規定は,財務報告がステュワードシップ評価に必要な情報のすべてを提供できること を示唆しているように見えるが,それが対象とする情報は財務情報であって,必ずし も非財務情報を提供しようとするものではな
37
い。
(4)したがって,財務報告が経営者のステュワードシップを評価するためのすべての情 報を提供するとの示唆を概念フレームワークがなすことを
IASB
は意図するものでは ない。しかし,意思決定有用性を主たる目的とする財務情報は経営者のステュワード シップ責任の履行具合を評価するのにも有用であると結論づけ38
た。
このように,IASB概念フレームワーク改訂の予備検討の段階でも,ステュワードシ ップ目的の分離・独立案が検討された結果,意思決定有用性とステュワードシップとで 求められる情報の範囲に差異があることは認識されるものの,その議論が非財務情報の 問題に限定されている。しかし,投資意思決定の会計とステュワードシップ会計とは,
次のように会計処理のレベルにおいても差異が生じ
39
る。
(a)取得コストの資産化処理について:資源配分アプローチ(意思決定有用性モデル)
では,被取得企業の価値は当初に公正価値で計上されるので,企業結合等における取 得コストは費用処理される。それに対して,ステュワードシップ・アプローチのもと では,経営者は取得年度並びにその後の年度にわたって,取得に付随したすべてのコ
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35 IASB/FASB[4]par.22・23.
36 FASB Concepts Statement 1(IASB/FASB[4]par.24).
37 IASB/FASB[4]par.27.
38 IASB/FASB[4]par.28, par.38.
39 ASB[2]pp.13−14.
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ストに対して報告責任を負い,したがって,取得コストの資産化処理が適切な処理と して行われる。
(b)資産の評価について:カストマー注文生産等の事業資産の評価の場合,ステュワー ドシップ・アプローチでは,企業の生産能力に対する潜在能力は,資産の使用価値や カレント取得原価などの測定値によって最もよく反映される。他方,資源配分アプロ ーチでは,マーケット・ベースの売却価値が市場参加者が関心をもつ測定値をなすで あろう。
これは,意思決定アプローチをとるか,ステュワードシップ・アプローチをとるかに よって,会計上の取扱いが必ずしもイコールとはならないケースを例示するものであ る。この
2
つのアプローチは,先のIASB
等の議論から理解されるように,提供される 情報内容の相当部分は,オーバーラップするものである。しかし,2つのアプローチ は,本来的に焦点を置く目的観も視点も異なるものであり,そこで求められる情報の範 囲・内容も必然的に相違するものと推察される。経営者のモニタリングという会社法会 計に根ざす「ステュワードシップ」会計が強くガ!バ!ナ!ン!ス!の!視!点!を反映するのに対し て,情報の有用性という証取法規制システムに根拠をおく「意思決定有用性」会計は,マ!ー!ケ!ッ!ト!の!視!点!に立つものと言え
40
る。
このステュワードシップの役割を基礎づけるのは,アカウンタ−とアカウンティーと のアカウンタビリティ関係の存在である。この関係は両者間の明示的並びに暗黙的な契 約関係によって成立するものであり,それゆえ強制的であ
41
る。それに対して,意思決定 有用性の関係では,このような関係は存在せず,したがって,基本的には情報開示は任 意的である。このように,2つの会計目的観は本来的にその出自を異にするものであ り,両者を無理に一元化して統合化させることが敢えて必要かどうか疑問である。異な る器には,異なった料理が分かりやすい。
Ⅵ IFRS 導入と配当可能利益計算
意思決定有用性目的とステュワードシップ目的とを分離して制度設計を行った例が,
EU
でのIFRS
導入に伴う配当可能利益計算に見られる。これは具体的には,「連結情報−IFRS−意思決定有用性目的」と「単体情報−会社法−ステュワードシップ目的」と を分離・独立させて,IFRS導入に対する制度設計を行おうとするものである。たとえ ば,ドイツでは分配可能利益はドイツ商法典に準拠して算定され,会計利益が配当可能
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40 Whittington[10]pp.144−145.
41 Ijiri[6]p.76.
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利益とイコールにな
42
る。そこでは,「慎重性の原則」が会計の支配的ルールをなし,「会 計利益=配当可能利益」は実現したものと見なされる。
他方,イギリスでは
IFRS
会計利益と配当可能利益とは分離されており,分配可能利 益を算定するためには,IFRS会計利益が単体の財務諸表において選択される場合には,未実現利益が排除されるように修正が加えられなければならな
43
い。イギリスでは,1985 年会社法に基づく利益分配に関して,実現利益・損失の決定のための指針(‘Guidance on
the determination of realised profits and losses in the context of distributions under the Companies Act 1985’)がイギリス・ウェールズ勅許会計士協会(ICAEW)から公表さ
れている。このように,単体財務諸表において配当可能利益を算定するためには,ドイツでは慎 重性が会計の基本的原則として重視されるので,会計の適用段階で実現利益が確保され る。それに対して,イギリスでは(IFRSが単体に選択適用される場合),会計利益を測 定した後に一定の実現テストの修正が加えられ,配当可能利益が計算される。いずれの 段階で「実現」した利益が確保されるかの相違はあるものの,ドイツ商法典や
UK
会 社法に基礎づけられた分配可能利益の決定には,IFRSの意思決定有用性とは異なった 情報の質が求められる点に注意された44
い。
Ⅶ エピローグ
本稿では,IFRS/FASBの「意思決定有用性」と「ステュワードシップ/アカウンタ ビリティ」の
2
つの会計フレームワークについて,それが相互にどのような関係を持っ て生成・発展してきたかをアメリカ,日本および国際会計基準の成果を訪ね,両者をい かに位置づけるか,その認識基点を明らかにしようとするものである。その結果,本稿 での主要な知見は,次のとおりである。(1)アメリカでの会計理論の展開は,20世紀前半ではステュワードシップ会計観と意 思決定有用性の会計観とが混在しつつ,20世紀中期以降,徐々に意思決定有用性の 会計が台頭するようになった。ステュワードシップ会計においても,利益計算の忠実 計算を求めるもの(Littleton 等)と利益調整機能を重視する機能主義の立場(Ijiri 等)など異なったフォーカスをもった会計観が存在する。
(2)わが国では,意思決定有用性とステュワードシップとの会計観をめぐる議論は,広 く証取法会計・監査と商法会計・監査との実質一元化をめぐる相剋と妥協の歩みとし
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42 KPMG[7]p.392.
43 KPMG[7]p.392.
44 KPMG[7]p.393.
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て把握される。しかし,両者の根元的差異は完全には払拭されないまま,会社法創設 に伴う会計基準による会計計算機能の実質一元化となって展開された。
(3)「意思決定有用性」の目的観に立つ
IFRS
フレームワークは,ステュワードシップ 目的を内包して位置づけられるのに対して,AAA の代替的フレームワークは,「取引 アプローチ−取得原価基準−営業利益計算指向−保守主義」の原則に立つものであ り,ステュワードシップ指向の会計フレームワークを提示するものである。意思決定 有用性の一部としてステュワードシップを解するIFRS
フレームワークについて,意 思決定有用性が本来的にマーケット指向であるのに対して,ステュワードシップはガ バナンス指向をなすなど,その本源的スタンスの相違が開示すべき情報の範囲・内容 に差異をもたらすことは推定できるところである。(4)その一例として,会計の制度設計として「連結情報−IFRS−意思決定有用性」と
「単体情報−会社法/配当可能利益計算−ステュワードシップ」の会計制度モデルが ある。ドイツとイギリスとでは,単体での配当可能利益の計算アプローチは異なるも のの,ともに実現利益を内容とする点で同質である。
IFRS/FASB
の基準セッターが指摘するように,意思決定有用性の会計とステュワードシップの会計による開示情報の相当部分はオーバーラップする点で,両者は「情報提 供機能」の共通項で一括して理解することができるかもしれない。しかし,その反面,
配当可能利益計算では,利益の処分性の側面から実現テストが強く求められるなど,2 つの会計フレームワークにおいて開示すべき情報の内容・質は必ずしもイコールではな い。本来的に異なった会計目的観を無理に拡張させることなく,それぞれの生成・発展 の特性を活かして分離・独立して把握することが望ましいとの認識を示しておきたい。
参考文献
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