企業の政治献金と株主保護
著者 川口 恭弘
雑誌名 同志社法學
巻 64
号 7
ページ 2415‑2437
発行年 2013‑03‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014489
( )企業の政治献金と株主保護同志社法学 六四巻七号三八九
企 業 の 政 治 献 金 と 株 主 保 護
川 口 恭 弘
一 はじめに
わが国では、会社、労働組合、職員団体その他の団体は、政党および政治資金団体以外の者に対して、政治活動に関する寄付 )1
(をすることが禁止されている(政資法二一条一項) )2
(。政治活動に関する寄付が許容される場合でも、会社の資本の規模に応じてその額が制限されている(政資法二一条の三第一項二号) )3
(。さらに、国から補助金等の交付を受けた会社および三事業年度以上にわたり継続して欠損を生じている会社は、政治活動に関する寄付をすることができない(政資法二二条の三・二二条の四)。以上の規制に違反した場合には、刑事罰が科せられる(政資法二六条乃至二六条の三) )4
(。 このように、わが国の政治資金規正法は、会社が特定の政治家個人への政治献金を行うことを禁止するものの、政治
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( )同志社法学 六四巻七号三九〇企業の政治献金と株主保護
家が所属する政党(政党支部)へ政治献金をすることは可能である。 政治献金は、特定の政策を支持、推進するための手段であり、政治活動の一つである。日本国憲法は、国民に参政権ならびに思想および良心の自由を認め(憲法一五条・一九条)、表現の自由を保障している(憲法二一条一項)。社会的実在やその機能に照らし、法人に憲法上の人権享有主体性を承認するのが憲法学の通説のようである )5
(。もっとも、法人に対して人権保障が及ぶとしても、政治的行為の自由が自然人と同様に認められるべきかについては議論があ
)7
)(6
(る。自然人は、それぞれの政治的思想や信条に基づき、自ら所有する財産をもって政治献金を行う。法人である会社も、会社が所有する財産を用いて政治献金を行う。しかし、会社の財産は、会社の実質的所有者である株主が拠出する資金をもとに形成されるものである。株主のなかには多様な政治的意見の持ち主が存在することは否定できず、会社の政治献金は、個人的な政治信条と異なる政治的支援を株主に強制するといった問題がある
)8
(。さらに、会社は多額の政治献金が可能なため、それを通じて、強力に政治意思の形成に参画することができる。このことは、国民の参政権を侵害するのではないかといった点が論じられてい )₁₀
)(9
(る。 かかる憲法論のほか、企業の政治献金については、会社法上の論点もある。会社は定款を作成し、定款には会社の目的を記載・記録しなければならない(会社法二六条・二七条一号)。株式会社は営利を目的とする会社であり、慈善事業や政治献金といった寄付を行うことは定款に記載・記録されない。そのため、このような定款所定の目的にない行為を会社が行うことができるかが論じられてきた。この点について、判例・多数説は、会社が政治献金を行うことは、定款所定の目的に反しないと解している )₁₁
(。もっとも、政治献金が会社の定款所定の目的との関係で問題がないとされる場合でも、無制限にそれを行うことはできない。会社の政治献金は、取締役の善管注意義務(会社法三三〇条、民法六四四条)または忠実義務(会社法三五五条)に違反しない範囲で許容されることとなる。 二四一六
( )企業の政治献金と株主保護同志社法学 六四巻七号三九一 会社法のもと、会社の政治献金に関する特別の規制は存在しない。そのため、その決定は、通常の業務執行の一環として行われる。一般的に、政治献金は会社の利益の実現に合致する方向で行われると考えられる。会社の利益の判断については取締役に一定の裁量が認められる。他方で、前述の憲法論でも明らかなように、政治献金を政治活動の一手段として見た場合、取締役と株主の間に深刻な利益相反が生じ得る。この場合、会社法において、何らかの株主保護のための手当てが必要か否かが検討されなければならない。 本稿では、このような取締役と株主の間の利益相反に着目して、政治献金に関する会社法上の課題について若干の検討を行うこととしたい。
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( )同志社法学 六四巻七号三九二企業の政治献金と株主保護
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( )企業の政治献金と株主保護同志社法学 六四巻七号三九三 守してその制限内で政治献金を行った場合には、間接的にも、国民による参政権の自由な行使を不当に制約し、これを侵害するものとは評価されないとしている。日本生命政治献金事件判決(前掲注(8))、住友生命事件判決(前掲注(8))。(
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二 政治献金をめぐる取締役と株主の利益相反
会社法は、会社実務に密接に関係する法律である。そのため、経済状況の変化に伴い頻繁に改正が行われる。このなかで、特に、近年、会社経営の機動性や柔軟性を向上させるための法改正が行われてきた。かかる改正には、株主の利益に重大な影響を及ぼすものも少なくない。たとえば、種類株式の多様化の一環として導入された全部取得条項付株式は、少数株主の締出しに利用されている )1
(。さらに、大株主が総株主の議決権の一定割合を保有する場合に、少数株主にすべての株式を売り渡すことを請求できる制度(キャッシュ・アウト)も検討されている )2
(。これらの制度は、一〇〇パーセント子会社の創設という会社の利益実現に適したものである反面、株主としての地位を強制的に奪うものであることから、締め出される株主にとっての不利益は大きい。他方で、株主の利益を向上させる立法であっても、会社の取締役にとって積極的に賛成しがたいものもある。たとえば、親会社等の株主に子会社の取締役の責任追及を認める多重代表訴訟制度がその例として挙げられる )3
(。
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このように、会社法の改正には、株主(特に、少数株主)や取締役の利益に直接かつ重大な影響を及ぼすものもある。かかる立法の実現(あるいは実現回避)を目的として、会社が、株主の関与なく、政治献金を行うことの是非が議論の対象となる
)4
(。 さらに、株式会社は法人である(会社法三条)。その事業や財産は法人である会社に帰属する。他方で、伝統的に、株主は会社の実質的所有者と言われてきた
)5
(。会社事業や財産は法律的には法人の所有に属するが、経済的には社員全体の共同の所有に属するとの見解もある )6
(。このような立場にある株主の意向に反する政治献金が、会社の行為として許容されるかが問題となる。株主は会社の実質的所有者であるものの、自らその経営を行うわけではない。会社の経営に関しては、株主総会における議決権行使という形で株主総会を介した関与が認められる。株主は株主総会で取締役を選任し(会社法三二九条一項)、日常の会社の業務執行を当該取締役に委ねる。しかし、株主は自らの政治信条と異なる政治献金を行うことまで取締役に権限を委ねているとは考えにくい。
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