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(1)

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未 然防止・再発防止に関する支援

著者 佐分 厚子

雑誌名 評論・社会科学

号 98

ページ 95‑124

発行年 2011‑12‑30

権利 同志社大学社会学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012759

(2)

要約:本稿の目的は,障害者や高齢者の消費者問題に関する報告書や文献から消費者被害 発生要因を抽出し,消費者被害に対する法的対応の側面と,消費者被害未然防止・再発防 止に関する障がい者の特性に応じた「消費者力」育成を中心とした支援の側面を構造化す ることである。

障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援構造は3層に分類され,

1層は「自立力」と「社会的支援活用力」からなる「消費者力」育成を中心とする本人 への直接的支援,第2層は本人の「消費者力」を支えるサポーターの養成,第3層はサポ ーターへの情報提供や相談窓口となりサポーターの支援活動を支える地域包括支援センタ ーのネットワークの構築となった。

キーワード:消費者被害未然防止,再発防止,社会的支援活用力,消費者力,支援構造

目次

1 地域生活における消費者被害発生の背景と現状 1−1 問題の背景

1−2 問題の現状

2 障がい者や高齢者の消費者被害発生の要因 2−1 障がい者や高齢者本人に関わる要因 2−2 福祉関係者に関わる要因

3 障がい者や高齢者に対する消費者被害への法的対応 3−1 民法による問題解決方法

3−2 消費者契約法による問題解決方法 3−3 特定商取引法による問題解決方法 3−4 割賦販売法

4 障がい者や高齢者に対する消費者被害防止・再発防止への3層の支援構造

4−1 障がい者や高齢者に対する消費者被害未然防止・再発防止に対する「支援」の意義 4−2 1層 消費者被害未然防止・再発防止のための本人への直接的「支援」

4−3 2層 消費者被害未然防止・再発防止のためのサポーターの養成 4−4 3層 消費者被害未然防止・再発防止のための地域のネットワーク構築 5 まとめと今後の課題

────────────

同志社大学社会学部嘱託講師

201198日受付,20111019日掲載決定

論文

地域生活における障がい者や高齢者の

消費者被害未然防止・再発防止に関する支援

佐分厚子

95

(3)

1 地域生活における消費者被害発生の背景と現状

1−1 問題の背景

現代の豊かな社会では,購買意欲は相対的には弱くなる傾向をもち,需要圧力は強く なく,事業者側の強引な販売が消費者問題の背景にあるといわれている。消費社会(1)に おけるマーケテイングは,売りの説得軸で消費者が捉えられることから始まり,製品 は,安いだけでは説得力がなく,「無料(フリー)」や「追加価値(プレミアム)」がう まく組み合わされ,消費者は悩みの理解者の提案を受け入れやすいことが売る側に知ら れている状況にある。売る側からすれば,販売のプロモーションの鍵は信頼を獲得でき る生活テーマの深堀であるといわれ,説得による選択の場が売りの現場であるといわれ

る(松田

2009)。さらに,そのような積極的ではあるが正当な業者だけでなく,悪質業

者が存在している。悪質業者のやり口は,人の不安に付け込み,お金をむしり取る卑劣 な犯行である。パチンコ必勝方や競馬必勝方などの例に加えて,家族が病気になったと きに「この水をのめば病気がなおる」など巧みな言葉で勧めてくる例が挙げられる。こ れは,冷静によく考えれば買わずにすむ人間の弱みにつけ込んだ悪質商法である。振込 み詐欺や悪徳商売などに騙される理由・メカニズムは誰にでもあり,人間の弱みや快楽 のつぼが存在することにある。「誰にでも」ということは,つまり,どれほど振り込め 詐欺などに知識をつけ対策をしていても,誰にでも騙される可能性が存在するというこ とである。しかも,そのツボ・弱みを悪質業者のネットワークに握られてしまうと逃れ ることができなくなる危険性もある。さらに,ATMで「騙されてもいいから,振込み をさせて!」という老婆がいたという例にみられる「マインド・コントロール」(洗脳 状態)という状況になることもある。このような「マインド・コントロールの罠」に対 して何も対策をせずに待つということではなく,友人や親近の人に相談する,自己主張 する,その場から離れる,一度家に帰ってよく考える,裁判に訴える,など幾つかの対 策心構えがあるといわれている(及川・森島

2000)。しかし,現代社会は,地域のつな

がりや家族とのつながりが希薄になり,「周りに相談する」ということも難しく,孤立 化が進み,ますます悪徳商法の被害にある可能性が高まっている。さらに,日本人の気 質として,騙されたかもしれないということを恥じるために,自分の中に隠す傾向があ り,相談することが難しいことも考えられる。冷静に客観的に対応するためには,発達 したインターネットを使い情報収集してみることや,「相談する」という行為が必要で あり,子どもから大人まで国民ひとりひとりが消費者である消費社会においてはこのよ うな「自己管理」が常に必要であるといわれている(及川・森島

2000)。

障害者福祉施策に目を向けると,2002年(平成

14

年)12月の国の障害福祉基本計画

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 96

(4)

に掲げられているように,「施設福祉」から「地域福祉」へという大きな流れとなった。

2003

年(平成

15

年)4月には,障がいのある人自らが必要な福祉サービスを選択する 利用者本位の支援費制度が始まり,さらに,2005年(平成

17

年)11月には,障がいの ある人たちの地域生活と就労を進め,自立を支援することを目的とした障害者自立支援 法が制定された。地方自治体では障害福祉計画に基づき,計画的に障がいのある人たち の地域生活と就労を進め,自立を支援していくこととなった。2006年(平成

18

年)4 月から施行された障害者自立支援法は,このような障害福祉制度の見直しの一環とし て,障害の種別(身体障害・知的障害・精神障害)にかかわらず,サービスを利用でき るよう制度を一元化し,施策・事業を再編するものである。同法は,障害者が入所

(院)施設から住み慣れた地域で生活できるよう「地域生活移行」を促進するものであ る。

1−2 問題の現状

このように「地域生活移行」が進展する中で,障がいのある人の消費者被害の相談件 数が増加しているという問題がある。独立行政法人国民生活センター「判断力が不十分 な消費者に係る契約トラブル」(2008)によれば,精神障害や知的障害,認知症などの 加齢に伴う疾病等の理由によって十分な判断ができない消費者に係る

PIO-NET(全国

消費生活情報ネットワーク・システム)に寄せられた相談件数は,2005年度には

1998

年度の

5

倍以上の

12607

件にまで達し,2006年度以降においても,年間

1

万件以上の

グラフ1 判断力が不十分な消費者に係る相談件数の推移(1998〜2007年度)

(注1)2007年までのPIO-NET 登録分より筆者作成。PIO-NET(パイオネット:全国消費生活情

報ネットワーク・システム)とは,国民生活センターと全国の消費生活センターをオンライ ンネットワークで結び,消費生活に関する情報を蓄積しているデータベースのこと。

(注2)「判断力が不十分な消費者に係る相談」とは,精神障害や知的障害,認知症などの加齢に伴

う疾病等の理由によって十分な判断ができない状態にある消費者の契約に係る相談をいう。

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 97

(5)

相談が寄せられている。障がいがあることを知った上で,読み書きや金銭管理が苦手な 人,断れない人に販売したり,同一販売員が何度も契約を強いたりしており,被害が深 刻で被害数も多いが,潜在化している被害が多く,表面化している被害はごく一部にす ぎないと考えられている。

国民生活センター「知的障害者,精神障害者,痴呆性高齢者の消費者被害と権利擁護 に関する調査研究」(2003年

3

月)および高齢消費者・障害消費者見守りネットワーク 連絡協議会に国民生活センターから提出された資料「高齢者と障害のある人の消費者相 談」(2007年

1

24

日)によれば,知的障がいのある人と精神障がいのある人の消費 者被害について,無条件解約となった以下のような事例が紹介されている。

ア 障がいのあることを知った上での取引

勧誘販売員が障がいのあることを知った上で取引勧誘を行っている場合がある。同一 販売員が何回も訪問,契約書に虚偽記載したり,職場が終わるのを待ち伏せして契約を させたり,次々販売をする,消費者金融に連れて行く等の勧誘がなされている。

イ 障がいの特性につけこんだ取引勧誘

障がいの特性につけこんで,断ることが困難な状況で取引勧誘を行う場合もある。

読み書きや話すことができない,多額であることや利子を理解できない,怖くて聞き返 せなかったり,理解や表現をすることが苦手,意味が理解できずにハイハイと言ってい たら契約したことにさせられ,書類は自ら捨ててしまった等の事例が指摘されている。

こうした障がいのある人に対する消費者被害に対して,国民生活センターは,解決に 向けて,施設職員やボランティアが気がつき,消費生活センターやケースワーカーや施 設職員が関与して,療育手帳等を所持している場合には,それを示すことで無効である ことを説明したり,センターが販売方法の問題点を指摘し,解約にいたったことを紹介 している。しかし,クーリング・オフ通知を出しても,解約を認めないと主張したり,

多額の商品を購入させ,職場にも取立に来て本人が退職を余儀なくされる場合なども報 告されている。また,グループホーム入居者を対象にした調査については,国民生活セ ンター「認知症高齢者,知的障害者,精神障害者のグループホームにおける消費者問題 と権利擁護に関する調査研究−グループホームの暮らしが快適であるために」(2005年

3

月)によれば,知的障害者ホームでは

5.7%,精神障害者ホームでは 7.7% が悪質商法

の被害にあった利用者がいると回答している。これによれば,知的障害者ホームでは携 帯サイトに身に覚えのない高額請求があったり,精神障害者ホームでは,グループホー ムの近くで

SF

商法(2)をしており,業者に誘われ,勧誘の手伝いをしているうちに脅さ れて病気が再発し入院した人がいる等の回答がされている。損害額については,知的障 害者ホームでは

63.7%,精神障害者ホームでは 51.7% が全額返金されているが,全く

返金されなかったという回答も知的障害者ホームで

20.9%,精神障害者ホームで 20.7%

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 98

(6)

もある。

福祉施設を中心とした利用者支援から施設・在宅を統合した「地域福祉」へという方 向性は,障がい者の地域での自立生活を促進する一方で,知的障がいのある人や精神障 がいのある人,認知症の高齢者など判断能力が不十分な障がい者が地域のなかでこのよ うな消費者被害すなわち,消費者としての権利侵害等を受ける可能性をも意味してい る。地域社会での生活は,消費が広い範囲で行われ,人々は消費に強い関心をもってい る消費社会でもある。子どもであっても,消費者としてのターゲットになり,消費者問 題をも生み出している(間々田

2000)。しかし,障がい者の「その人らしい暮らし」を

実現するためには,「地域生活移行」は不可避であり,障がい者の消費社会における権 利擁護に関する支援が求められる。

2005

年に制定された消費者基本法では,「消費者と事業者との間の情報の質及び量並 びに交渉力等の格差にかんがみ,消費者の利益の擁護及び増進」に関して,「消費者の 権利の尊重及びその自立の支援」が目指され,第

2

条には「消費者の年齢その他の特性 に配慮しなければならない」と明示されている。2005年

5

月策定された「消費者基本 計画」では消費者政策の重点目標のひとつに「学校や社会教育施設における消費者教育 の推進」が掲げられ,消費者教育によって,合理的な意思決定,自己決定が行うことが できる「自立した消費者」の育成が目指されることになった。2006年には,内閣府国 民生活局が作成した「高齢者の消費者トラブル 見守りガイドブック」(財団法人消費 者教育支援センター制作)では,消費者教育だけなく高齢者に対しては「見守り」の視 点が明確に示された。2007年には同ガイドブックをベースに「障害者の消費者トラブ ル見守りガイドブック」(内閣府国民生活局編

2007)が作成され,福祉関係者との連携

の必要性が指摘されている。そもそも消費者と事業者には商品に関する質,量ともに情 報の格差が存在しており,さらに消費者として,障がいをもつ人ともたない人には,情 報の選択や解釈,商品購入に際しての判断力に格差がある。地域で障がい者や高齢者が

「その人らしい暮らし」を送るためには,かれらの消費生活における消費者としての権 利が擁護されなければならない。

本稿は,地域生活における障がい者や高齢者の消費者としての権利を擁護することを ねらいとして,障がい者や高齢者の消費者問題に関する報告書や文献から消費者被害発 生要因を抽出し,消費者被害に対する法的対応の側面と,消費者被害未然防止・再発防 止に関する障がい者の特性に応じた「消費者力」育成を中心とした支援の側面を構造化 することである。

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 99

(7)

2 障がい者や高齢者の消費者被害発生の要因

2−1 障がい者や高齢者本人に関わる要因

国民生活センターによる「知的障害者,精神障害者,痴呆性高齢者の消費者被害と権 利擁護に関する調査研究」(2003)では,知的障害者,精神障害者,痴呆性高齢者の消 費者契約にかかわる被害の予防・救済に資することを目的とし,全国消費生活情報ネッ トワーク・システム(PIO-NET:国民生活センターと全国の消費生活センターを結ぶオ ンライン・ネットワーク・システム)に蓄積された相談を分析し,以下のような要因を 指摘している。

①消費生活センターに寄せられる相談の多くは,悪質商法にかかわるものである。こ の側面から捉えれば,全相談が

20

歳代をピークとして減少傾向を示すのは,生活 経験を積み重ね,消費者情報に接し学ぶ機会も増えれば,悪質商法による被害に遭 う人は減少することの現われといえよう。

②30歳代〜50歳代の相談件数に大差がみられない理由を知的障害者についてみるな らば,生活経験の積み重ねが難しく,利子などの意味を理解するのが苦手であり,

消費者教育も含め消費生活上の知識・経験を学ぶ機会が少なく,障害のない人から 理解できない言葉を使われたりすると聞き返すことができないこと。さらに,障害 者の人間関係の狭さによる情報量の少なさや支援体制の脆弱さ等の事情があるので はないか。

③70歳代の痴呆症等女性の

2001

年度相談は

1997

年度の

3.8

倍増であり,70歳代女 性の全相談(2.4倍)を上回る。PIO-NETによれば,被害に遭っている痴呆性高齢 者の大半は一人暮らしである。一人暮らしの高齢者が男女を問わず悪質商法に狙わ れているということは言える。訪問販売の被害に遭う知的障害者,精神障害者も一 人暮らしが多い傾向がみられる。

また,消費者被害に関する調査は,消費者関連の機関だけでなく,地域福祉権利擁護 事業を行っている社会福祉協議会も実施している。社会福祉法人京都市社会福祉協議会

(2007)『京都市における地域福祉権利擁護事業の現状に関する調査研究報告書』(平成

19

3

月)においては,京都市内における地域福祉権利擁護事業の現状と問題点が報 告されている。京都市における地域福祉権利擁護事業は平成

12

年から京都市社会福祉 協議会を基幹的社会福祉協議会として実施され,平成

15

10

月には延べ契約件数が

100

件となった。その後,京都市社会福祉協議会のみを拠点とした推進が困難となり,

平成

17

4

月から市内

6

区(上京区・左京区・山科区・南区・右京区・伏見区)に基 幹的社会福祉協議会を設置し,区社会福祉協議会を中心とした推進体制となった。京都

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 100

(8)

市においてはこの事業の理解は,「福祉サービスの利用援助」ではなく「日常的金銭管 理サービス」であり,この事業に期待するのもその部分であるということが,平成

17

年度に市社協が実施した「地域福祉権利擁護事業の支援のあり方に関する調査研究」に おいても明らかになっているとされている。このことは,京都市内の平成

12

4

月か ら平成

18

10

月までの延べ

382

件の契約件数に対して「日常的な金銭管理サービス」

370

件(96.9%)となっていることからも理解できる。この報告書においても問題発 生のリスク要因として,利用者の「抱えている問題」が指摘されている。

①利用者の

86.6% が「見通しを立てた家計管理が困難」な状態であることから,こ

のような問題に対処するために本事業による金銭管理支援を期待し,利用に至った と考えることが可能である。

②事業利用者は,判断能力が不十分であり,日常生活上の見守りを必要とし,加え て,独居,もしくは様々な問題を抱えている家族との同居世帯であるため,本事業 だけで利用者の生活全般を支援することは困難である。

③専門員は利用者の特徴を,訪問販売の被害に遭い易い,悪臭・騒音・問題行動等に より近隣住民とのトラブルを抱えている。関係が良好で支援が期待できる親族がい ない,他者との関わりを求めない,他者との関わりを拒否する,社会との繋がりが 希薄である等ではないかと実感していると報告している。

このような利用者の生活を支えていくためには,福祉事務所や福祉サービス提供機関 等の専門機関・専門職との連携に加え,インフォーマルな関係者とも連携しながら支援 することが求められる。しかし,一方で,個人情報に関する関係機関・関係者への共有 に対する問題があることや,利用者の抱えている問題が,金銭トラブルや依存等,個人 的な問題であるため,地域活動者を含む地域住民の介入が難しいと多く,過度の期待は するべきではないとしている。社協では今後は利用者の抱える問題を集約した上で類型 化し,専門機関で支援する部分と地域活動者を含む地域住民の支援を求める部分に整理 した上で,その連携を模索する必要があると報告されている。

さらに,司法関連団体の調査として,日本弁護士連合会 高齢者・障害者の権利に関 する委員会 消費者問題対策委員会(2008)『消費者・福祉部門の連携づくり〜高齢者

・障がいのある人の消費者被害の防止・救済のために』においては,「福祉分野と消費 者分野における課題」として,福祉分野と消費者分野における問題は別個のものではな いとされている。この報告書によれば,消費者被害発生要因として以下のことが指摘さ れている。

まず,高齢者の被害の特性として,

①健康上の不安につけ込まれる

②経済的不安を逆手にとられてしまう

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 101

(9)

③勧められるままに契約してしまう

④親切にされると信用し,情に訴えられると断れなくなる

⑤プライドやあきらめが被害を隠す,ということが言われている

⑥高齢者が現実の消費者被害に遭う場合,このような特性のために,通常の成人が被 害に遭った場合とは異なる行動をすることがある

また,障がいのある人の消費者被害の特性として,認知症高齢者,知的障がいのある 人,精神障がいのある人に共通する特性と被害の特徴として,

①被害を適切に訴えられないこと

②なかなか他人に相談しないこと

③何度も繰り返し被害に遭っていること

④家族・親族間の関係が希薄である

⑤近隣や地域から孤立していることなどを指摘している そのうえで,知的障がいのある人の場合には,

①物事を理解したり,記憶,推理したり,抽象的に考えることが苦手で,

②経験を役立てる能力も不十分な状態であること

③「No」といえないこと

④自分に関わる人は「良い人」とばかり思い込むこと

⑤対人関係に緊張が強いこと

⑥限られた人間関係の中で周囲に守られた状態で暮らしてきており,社会経験の乏し いこと

⑦自分にとって価値のあるものかどうかわからない

これらのことから,障がいの程度が軽度で,ある程度の収入がある人などに被害が集 中している。

また,精神障がいのある人の場合には,

①妄想,幻覚,幻聴,感情障がい,行動障がいなどの症状がある統合失調症などで は,自発性,自主性が低下したり,意欲を持続させることが難しい

②臨機応変に判断することや,一度の多くの課題,問題に対応するなど複雑なことや 対人関係がうまくいかない

③新しいことに対して不安が強い

④「NO」といえないこと

⑤あいまいなことや抽象的なことが苦手であること

⑥社会経験の少なさにつけ込まれることなどの特徴が指摘されている

身体障がいのある人の場合でも,同じ障がいを有する人どうしの強いつながりを巧み に利用したマルチ商法被害などが拡大している。内閣府国民生活局「障害者の消費者ト

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 102

(10)

ラブル見守りガイドブック」(2007)では,障がいのある人の消費者トラブルは,

①判断に必要な情報が不十分だったり,相談のために特別な支援を必要とするため未 然防止・問題解決が難しいこと

②判断に支援が必要な場合にはだまされたことに気づきにくいこと

全般に,被害に遭っても抱え込んでしまい,周囲に相談しないことなどの傾向があ り,深刻な被害拡大につながっており,家族や支援者が,本人の様子の変化に気づき,

相談につなげることの重要性を指摘している。

2−2 福祉関係者に関わる要因

次に,福祉分野における課題として,福祉関係者が持っている問題として以下のこと が指摘されている。福祉関係者は消費者問題についての知識が乏しく,また,消費者問 題の関係機関とどのように連携するかについても,直ちに対応できる仕組みができてい ない。福祉の現場に消費者問題が入ってきたときに,本人のみならず福祉関係者も無防 備な状態となっている。福祉関係を中心に活動している弁護士は,たとえばサラ金問題 であれば対応可能であるが,特定商取引法や消費者契約法,さらには先物取引,証券取 引などが関係する分野になると,法改正も最近は頻繁であり,必ずしも対応可能とはい えない(日本弁護士連合会 高齢者・障害者の権利に関する委員会 消費者問題対策委

員会

2008)。福祉関係者が消費者問題に直面した場合の問題点として以下のようなこと

が挙げられる。

(1)目の前に問題があっても,それが消費者問題であるという認識が持てないし,消 費者問題であると分かっても,どう対応していいか分からない。

①消費者被害と思われる事案に遭遇しても,業者から契約書が整っていると主張 されたり,何の権限があって言っているのかとすごまれるとそれ以上に福祉関 係者は反論することができない。

②本人がサラ金やヤミ金で借金していることが分かった場合,高金利の借金であ るとの認識が持てず,利息制限法により金利再計算をすることに考えが及ばず

(自ら再計算することもできない),むしろ,厳しい言葉での取立を前に途方に 暮れたり,何とかそのような取立を止める方法はないかと考えたり,サラ金業 者の言うままのお金をどう工面して支払おうかと考えてしまう。

(2)契約その他についての基本的な法律知識がない。

①福祉関係者は,消費者問題についてどのような救済の制度や仕組みがあり,ど のように対応すれば本人の救済が図れるのかについて知識,経験を有していな い。

②福祉の分野では,2000年

4

月の介護保険法実施以来,福祉の基礎構造改革の

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 103

(11)

「措置から契約へ」という標語に基づき,対等な当事者関係を形成する目的で 契約システムが導入され,福祉関係者は,契約の意義,重要性を繰り返し周知 させられている。このことは逆に契約至上主義に陥る危険性も有している。特 定商取引法(3)や消費者契約法(4)による取消権行使,割賦販売法(5)の支払停止の 抗弁主張その他消費者関係における対抗方法は,消費者問題の関係者にとって はごく当たり前のことであっても,福祉援助者にとっては,全く未知の世界で ある。悪徳業者から契約は契約だ,約束したものは守れ,契約当事者でない者 が口を差し挟むなと迫られれば,契約の有効性自体を疑うことなく,契約内容 を受け入れてしまうことにつながりやすい。豊田商事事件は,多くの高齢者に 空前の人数と金額の被害を生ぜしめ(勿論,障がいのある人も多く被害に遭っ ている),成年後見制度(6)を整備する遠因となった事件であるが,このような 大がかりな消費者事件が再び発生した場合,福祉関係者に連携している消費者 関係の組織はなく,対応できる法的知識もないため,当初の間は被害が潜行す るおそれがある。

③福祉関係者が本人名でクーリング・オフ通知を出すこともある。本人の判断能 力がほとんどない場合でも行っており,本人の意思能力の有無とは関係づけて 理解されていない。業者との交渉を行う場合もあるが,代理権の有無も検討は されていない状態にある。業者からも本人ではないので相手にできないとさ れ,クーリング・オフ通知自体が握りつぶされるおそれもある。

(3)相談をどこにすればいいか分からないし,相談に行っても求める対応をしてもら えない。

①福祉関係者は,消費者問題を発見した場合,どこにどのような方法で相談すれ ばいいかの情報を有しておらず,相談先の機関についての知識はない。消費者 問題が発生した場合,直接消費生活センターに相談する場合もあるかも知れな いが,多くの福祉関係者が真っ先に相談するのは,日常的に普段関係している ところであり,そこから順次辿って,最終的には地域包括支援センター,市町 村の窓口あるいは社会福祉協議会等に相談をすることになると考えられる。

社会福祉法人神奈川県社会福祉協議会かながわ権利擁護相談センターあしすと

(2010)『地域主体の権利擁護ネットワーク形成に向けて〜権利擁護相談事例集〜』で は,権利擁護に関する事例が分析されている。「かながわ権利擁護相談センター(愛 称:あしすと)」は,判断能力が十分でない,あるいは判断ができても障がい等のため に十分に権利行使できない障害者や高齢者を支援する機関として,平成

10

10

月に設 置され,権利擁護の専門相談窓口としてのシンボルとして,本人の自己決定を最大限に 尊重することを理念に権利擁護相談を行っている。平成

18

年度の法制度の見直しに伴

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 104

(12)

い,地域包括支援センターや障害者関係相談機関等,市町村における権利擁護相談体制 が整備されたことを契機に,弁護士等派遣相談事業(県委託)を創設し,市町村による 権利擁護ネットワークの構築に向けて新たな事業展開を進めてきた。平成

19

年度に県 内市町村の相談支援機関を対象に実施した「権利擁護ネットワーク形成状況調査」で は,ケース会議開催にあたり「専門的な立場でケース対応のアドバイスをする助言者が いない」「権利擁護に関する事業の知識,経験を持つ参加者がいない」という課題が多 くを占めており,専門的な立場からの助言が必要とされている状況が明らかになってい る。調査結果から,弁護士等派遣相談事業では,当事者の立場に立った権利擁護ネット ワーク構築をめざし,派遣者が専門的かつ第三者的立場から,ケースの優先課題の整理 や支援者の役割分担に関する助言を行っている。あしすとの相談事業は,当事者家族 会,地域相談機関,行政関係機関,弁護士,学識経験者で構成する委員会(現:相談事 業推進委員会)を設置し推進され,「身近な地域における権利擁護相談体制の充実」を 焦点に,県域相談機関の取り組みの方向性,あしすとの事業展開について検討されてい る。相談事業の実施や委員会での協議を通じて,地域において権利侵害が疑われる状況 でのネットワークによる支援,すなわち,支援課題や支援方針の整理,役割分担等が困 難であるという課題が示されている。

以上の報告書にまとめられているように,被害にあうリスク要因は障がい者本人だけ でなく,福祉関係者の対応,すなわち支援にも存在していることが明らかになってい る。これらのことから,障がい者本人がもつリスク要因をなるべく減らし,同時に,福 祉関係者の支援を構築することが被害を受けた場合にすみやかな問題解決につながるこ とが期待される。以下では,まず,消費者被害を受けた場合の法的対応を報告書より抜 粋し主な点を示す。次に,第

4

節では,消費者被害未然防止・再発防止に向けた支援を 抽出し,地域生活での安全な「その人らしい暮らし」の継続を目指した支援を再構築す る。

3 障がい者や高齢者に対する消費者被害への法的対応

日本弁護士連合会 高齢者・障害者の権利に関する委員会 消費者問題対策委員会

(2008)『消費者・福祉部門の連携づくり〜高齢者・障がいのある人の消費者被害の防止

・救済のために』によれば,障がい者や高齢者の消費者被害への法的な問題解決方法が 以下のようにまとめられている。

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 105

(13)

3−1 民法による問題解決方法

3−1−1

契約締結時における意思無能力の確認

高齢者・知的障がい者が締結した契約においては,まずこの点に問題がないかを検討 すべきである。言うまでもなく,契約締結時に意思無能力状態にあった者がなした契約 は無効だからである。その立証方法としては,医師の診断書・鑑定意見,当時生活をと もにしていた者の陳述書・証言等が考えられる。また身体障がい者が締結した契約にお いても,特に聴覚障がい者においては特別の配慮が必要である。即ち,聴覚障がい者が 事業者から説明を受ける際には手話による説明の伝達を基本とするが,そもそも聴覚障 がい者が事業者に対し,自らの意思を過不足なく手話又は筆談により伝達することは,

現実の取引現場において困難が予想されるし,手話による場合も,指による表現自体に は限界があるとされており,聴覚障がい者が複雑な契約約款・法的制度を理解できるか 否かは疑問だからである。意思無能力制度については,契約締結時に意思能力がなかっ たことを証明することが容易でない場合も存するが,後述の成年後見が開始していない 高齢者・障がい者が外形上行った契約の効力を否定する有力な手段であることに変わり はない。詐欺・強迫,消費者契約法に基づく取消しを主張するためには,当該勧誘行為 があったことを立証しなければならないが,それが困難な場合が存するからである。

3−1−2

成年後見制度による取消

判断能力が不十分で生活が困難な人への権利擁護をはかる制度として,成年後見制度 がある。この制度は,「民法の一部を改正する法律」「任意後見契約に関する法律」によ り,2000(平成

12)年 4

月より開始された,判断能力が不十分で生活が困難となった 人たちに,生活に必要な意思決定を代わりに行う又は支援する制度である。

3−1−3

意思表示の瑕疵 詐欺・錯誤・強迫について

この場合に契約を取り消しうること,あるいは契約が無効となることについては言う までもない。立証には困難を伴うことがあるが,本来的に高齢者・障がい者にとって不 必要な契約であったことを基礎付ける間接事実を積み上げることが肝要である。

3−1−4

不法行為

勧誘行為に違法性が認められれば,当該事業者等に対して損害賠償請求をなしうるこ とはいうまでもない。

3−2 消費者契約法による問題解決方法

3−2−1

不実告知(4条

1

1

号)

不実とは,客観的に事実と異なることをいい,勧誘する者が不実であることを認識し ていたか否かを問わない。不実告知は「重要事項」(4条

4

項)についてなされなけれ

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 106

(14)

ばならないが,重要事項とは,①消費者契約の目的となるものの質,用途その他の内 容,②消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件,をいう。

3−2−2

断定的判断の提供(4条

1

2

号)

事業者が消費者契約の締結に際し,当該消費者契約の目的となるものに関し,将来に おける変動が不確実な事項につき断定的な判断を提供し,これにより当該消費者が不確 実な事項につき確実であると誤信して契約を締結した場合には,当該消費者契約を取り 消すことができる。典型的には「A社の株価は絶対にあがる」という勧誘行為が該当 する。

3−2−3

不利益事実の不告知(4条

2

項)

事業者が消費者契約の締結に際して,当該消費者契約の重要事項又は当該重要事項に 関連する事項について当該消費者の利益になることを告げ,その際,その利益の告知に より消費者が通常存在しないと考える当該重要事項についての不利益となる事実を故意 に告げなかったために不利益が存在しないと誤信して契約を締結した場合には,当該消 費者契約を取り消すことができる。典型的には,近くにもっと高層のマンションが建つ ことを知りながら,眺望を当該マンションのセールスポイントとして宣伝し「眺望が抜 群であるからお買い得である」という勧誘行為が該当する。

3−2−4

不退去による困惑(4条

3

1

号)

事業者が消費者契約の締結に際して,当該消費者が事業者に対して,その住居又はそ の業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにも関わらず,事業者が当該 場所から退去しなかったために消費者が困惑して契約を締結した場合には,当該消費者 契約を取り消すことができる。ここで問題は「退去すべき旨の意思を示した」とは,ど ういう表示を言うのかが問題となるが,当該規定の趣旨からは,「帰って欲しい」とい う表示ではなくとも,社会通念上退去を促していると観念できる表示であれば良い。例 えば「出かけるので時間がない」「お客さんが来る」「結構です」「要らない」等がこれ に該当する。また言語のみではなく,身振り等で退去の意思を示したと評価できる場合 には該当する。

3−2−5

退去妨害による困惑(4条

3

2

号)

事業者が消費者契約の締結に際して,当該消費者が事業者に対して,勧誘されている 場所から退去すべき旨の意思を示したにも関わらず,事業者が当該場所から退去しなか ったために消費者が困惑して契約を締結した場合には,当該消費者契約を取り消すこと ができる。

「退去すべき旨の意思を示した」とは,「帰る」という表示ではなくとも,社会通念上 退去を望んでいると観念できる表示であれば良い。例えば「他に用事がある」「結構で す」「要らない」等がこれに該当する。また言語のみではなく,身振り等で退去の意思

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 107

(15)

を示したと評価できる場合に該当することも,不退去の場合と同様である。

3−2−6

事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効(8条)

「・・・について(事業者側は)一切責任を負いません」という免責条項はあらゆる 契約書について見られる条項であるが,消費者契約法

8

1

1

号,同項

3

号で,事業 者が本来負うべき損害賠償責任の全部を免除する条項は無効とされる。その結果,かか る免責条項はないものとされ,民法の原則通り,事業者に故意過失がある場合に損害賠 償を請求できる。次に消費者契約法

8

1

2

号,同項

4

号では,事業者が故意・重過 失によって負う責任の一部免除条項も無効であると定めている。

3−2−7

消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効(9条)

消費者契約法

9

1

号は「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し又は違 約金を定める条項であって,これらを合算した額を当該条項において設定された解除の 事由,時期等の区分に応じ,当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業 者に生ずべき平均的な損害の額を超える場合」には,その超える部分は無効となる。

3−2−8

消費者の利益を一方的に害する条項の無効(10条)

消費者契約法

10

条では,①公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費 者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって,②民法

1

2

項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害する条項,は無効である とされている。

3−3 特定商取引法による問題解決方法

3−3−1

活用の視点

(1)悪質商法による契約関係からの離脱の手段として活用できる。

手段として,クーリング・オフ,取消権がある(更に改正法によって過量販売につ いての解除権が認められた。適用の前提として,特定商取引(①訪問販売,②通信 販売,③電話勧誘販売,④連鎖販売取引,⑤特定継続的役務提供,⑥業務提供誘引 販売取引の

6

種類)のいずれかに該当する必要があるが,高齢者・障がいのある人 の被害例では①や③によるものも多く,活用できる場面は多い。

(2)また,業者の行為規制違反についての行政処分申立や刑事告訴,不法行為の違法 性の根拠としても活用できる。

(3)なお,特定商取引法は割賦販売法とともに大幅な改正案が提出されており,2008 年の通常国会にて可決成立した。

3−3−2

クーリング・オフ

(1)概説

特定商取引法で認められた無理由解除制度であり,行使期間内であれば,理由を問

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 108

(16)

わず契約の解除(あるいは申込の撤回)が自由にできる。契約関係からの離脱の手 段としては,要件具備の立証の容易性,行使方法の簡便性などから最も有効な手段 である。従って,契約関係からの離脱が必要な事件では,まずクーリング・オフの 要件具備を検討すべきである。

(2)「特定商取引」への該当性

①「特定商取引」に該当することが前提である。

特定商取引(ア 訪問販売,イ 通信販売,ウ 電話勧誘販売,エ 連鎖販売取 引,オ 特定継続的役務提供,カ 業務提供誘引販売取引の

6

種類)のうち,イ 通信販売のみクーリング・オフ制度が無い。但し,改正法によって通信販売におい ても解約返品制度が導入された(改正法

15

条の

2)。高齢者・障がいのある人の被

害例では,通常,アおよびウが問題となる。

②訪問販売(法

2

1

項)

「訪問販売」は下記要件の具備が必要。

典型的な訪問販売と「特定顧客」に対する販売(キャッチセールス,アポイントメ ントセールス)とがある。高齢者被害では後者は少ない。

3−3−3

取消権

(1)概説

2004

年の特定商取引法改正で新設された。消費者契約法による取消と並列的に使 用できる。消費者契約法より対象範囲が広いので,活用を検討すべきである。

(2)「特定商取引」への該当性/適用除外

クーリング・オフフと同様に,訪問販売・電話勧誘販売への該当性および適用除外 の非該当性が前提である。

3−3−4

過量販売についての解除権(改正法

9

2)

(1)概説

2008

年の改正法により新設。いわゆる次々販売などへの対処として,通常必要と される分量を著しく超える商品の売買契約について契約解除権(あるいは申込の撤 回)を認めた。

(2)訪問販売への該当性/適用除外

訪問販売のみで認められるので,訪問販売への該当性および適用除外の非該当性が 前提である。

3−3−5

行為規制

(1)概説

もともと特定商取引法は業法であり,業者に対する行為規制の定めが中心である

(これに対して,クーリング・オフや取消権はいわゆる民事ルールであり,現在の

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 109

(17)

特定商取引法は業法と民事ルールが混在する法律となっている)。悪質商法の業者 に対して,行為規制違反について行政処分の申立を行ったり,刑事告訴を行うこと が考えられる。また,悪質商法業者や取締役,従業員の不法行為責任を追及する場 合の違法性の根拠となりうる。

(2)業者に対する規制

訪問販売と電話勧誘販売でほぼ同じ規制がある。

3−3−6

通信販売の返品特約

(1)概説

特定商取引法は「通信販売」についても規定するが,現行法では,業者に対する行 為規制のみであり,クーリング・オフや取消権のような民事ルールを定めていな い。しかし,「返品特約」については間接的に定めており,実際の事件解決で活用 できる。改正法では解約返品制度を新設し(改正法

15

条の

2),この範囲で民事ル

ールが導入されたことになる。

(2)業者に対する規制

広告に対する規制が特徴的である。違反は行政処分。刑事罰に当たるものもある。

3−4 割賦販売法

3−4−1

問題となる場面

(1)悪質商法はクレジットと結びつき,消費者に高額な契約を締結させている場合が 多い。販売店との契約関係から離脱できても,クレジット会社からの請求が継続す るという事例が多い。クレジット会社への抗弁権の接続を行う場面で割賦販売法の 適用が問題となる。

(2)なお,割賦販売法上のクーリング・オフ制度も定められているが,特商法の適用 があれば特商法が優先するため,ほとんど利用場面がない。指定商品として特定商 取引法で指定されてないが割賦販売法で指定されているような場合での利用が考え られる。

3−4−2

改正法による問題の解決

(1)特定商取引法の部分で記載したとおり,割賦販売法についても大幅な改正案が提 出されており,2008年の通常国会にて可決成立した。

(2)現行法の割賦購入あっせんについては,カードなどを使った「包括信用購入あっ せん」(リボルビングも含む)(改正法

2

3

項)と「個別信用購入あっせん」に分 類され(改正法

2

4

項),支払方法について現行法の「2ヶ月以上かつ

3

回以上」

という要件が「2ヶ月以上」だけになり,1回払い・2回払いにも適用されること となった(改正法

2

3

項・4項)。

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 110

(18)

(3)また,信用購入あっせんについては,指定商品制が廃止され,適用除外も商行為 から「営業のためにもしくは営業として」に改正されたため(改正法

35

条の

3

60 1

1

号),割賦販売法における訪問販売の旧クーリング・オフ制度は特定商取 引法と重複することとなって不要となり,廃止された。

(4)一方,下記のとおり,重要な改正がなされている。

①販売契約調査義務(改正法

35

条の

3

5)と不当勧誘がある場合の契約締結禁止

(改正法

35

条の

3

7)

②既払金返還責任

ア 訪問販売業者等の不実告知・不告知があった場合の取消(改正法

35

条の

3

13〜同 16)

イ 過量販売における解除(改正法

35

条の

3

12)

③あっせん契約についてのクーリング・オフ

訪問販売等に伴う個別信用購入あっせん契約についてクーリング・オフ(改正法

35

条の

3

10〜同 11)

3−4−3

抗弁権の接続

(1)制度の内容

クレジット契約を利用して商品を購入した場合,販売業者との間で売買契約の債務 不履行や無効・取消・解除の問題が生じ,代金支払い義務が消滅する事情が生じた ときは,その事情(抗弁事由)をもって信販会社に対するクレジットの支払いを拒 絶することかできるという規定(割賦購入あっせんについて法

30

条の

4,ローン

提携販売について法

29

条の

4)。

さらに,金融商品取引に関する関連法があるが,被害救済の理論は基本的には民法

(不法行為・債務不履行・公序良俗違反など)による。具体的違法性としては,適合性 の原則違反,説明義務違反,断定的判断の提供,不当勧誘などがあげられる(日本弁護 士連合会・高齢者・障害者の権利に関する委員会・消費者問題対策委員会

2008 : 93)。

これら関連法律は,近年大幅な改正もあり,その詳細や具体的な判決例などは,上記 報告書や関連書籍を参照され,事例の法的解決は,各地の消費者センター,市町村相談 窓口,弁護士会に相談(コンサルテーション)されたい。

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 111

(19)

4 障がい者や高齢者に対する

消費者被害未然防止・再発防止への 3 層の支援

4−1 障がい者や高齢者に対する消費者被害未然防止・再発防止に対する「支援」の存 在意義

障がい者や高齢者が消費者被害を受けた場合には法的対応によって問題解決を図るこ とが必要となる。但し,知的障がい者や認知症高齢者の場合は,消費者被害にあったこ とを本人が消費者センターに電話をして対応を協議し本人が解決することが困難であ り,それ以前に,消費者被害を受けたかどうかを本人が認識していないこともあること が指摘されている。また,消費者被害を受けたことを認識していてもそれを他者に言う ことを恥じる場合もある(日本弁護士連合会・高齢者・障害者の権利に関する委員会・

消費者問題対策委員会:2008)。消費者被害を受けた場合,法的対応による問題解決を 図るためには,障がい者の障がい特性や認知症高齢者の認知状況に配慮して被害状況を 聞き取り,消費者センターや市町村行政窓口,弁護士会に被害状況を適切に連絡し代弁 するという障がい者や高齢者の消費者としての権利を擁護するための「支援」が必要で ある。

この「支援」という行為は,「何らかの意図を持った他者の行為に対する働きかけで あり,その意図を理解しつつ,行為の質を維持・改善する一連のアクションのことをい い,最終的に他者のエンパワーメントをはかる(ことがらをなす力をつける)ことであ る」とされている(脇田

2003)。つまり,支援とは他者への働きかけを前提として,支

援者と被支援者という双方の人間関係が存在することによって意味をなす行為であり,

さらに,支援される人(被支援者)の意図を理解すること,行為の質の維持・改善,及 びことがらをなす力をつけること(エンパワーメントすること)がポイントであるとさ れる。そして,支援者は,支援行為がどう受け止められているかを常にフィードバック して,被支援者の意図に沿うように自分の行為を変える必要がある。「支援」には,他 者への「配慮

care」とエンパワーメントが決定的に重要であり,支援は固定したシステ

ムや方法ではうまくいかないし,被支援者が置かれている状況変化にあわせてシステム や方法を変えていく必要がある。また,これらの支援システムや方法はあくまで被支援 者の置かれた状況に応じて,自在に変化できなければ,効果的ではない(脇田

2003)。

消費者被害を受けた場合に必要とされる「支援」も,障がい者や高齢者本人に「配慮

care」し,安心できる環境で契約の状況や意図を聞き取り,被害認識のない本人に説明

をし,本人が被害を消費者センター等関係機関に連絡をしようという認識をもつことを 力づける(エンパワーメント)行為であろう。この行為は,当事者のおかれた状況に合

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 112

(20)

わせて最も適切な方法やシステムを用いることが必要である。

このことは,消費者被害未然防止や再発防止においても必要とされる「支援」である と考えられる。消費者被害は法的対応に拠らなければならないが,消費者被害未然防止 や再発防止にむけた取り組みは,生活における「支援」がその役割を果たすことになる だろう。本節では,第

2

節でまとめた消費者被害発生要因をふまえて,これまでの先行 研究や報告書から「支援」の方法やシステムを抽出し,地域での「その人らしい暮ら し」の継続を目指す視点から,本人への直接的「支援」を第

1

層,本人への生活支援を 実施している日常生活支援事業などの支援者や家族などサポーター養成を第

2

層,本人 が居住している地域における包括的な支援システムである地域包括支援センターによる ネットワーク構築を第

3

層としてまとめた。

4−21層 消費者被害未然防止・再発防止のための本人への直接的「支援」

2

節で指摘されている障がい者や高齢者やの被害の特徴として,高齢者の場合は健 康や経済的「不安」につけこまれることや被害にあったことを隠すことといった点があ る。これらは,ひとり暮らしの高齢者が被害に遭っていることが多いことから想定され る高齢者の孤立した人間関係に関連しており,高齢者の不安の解消や以下に述べる高齢 者へのわかりやすい情報提供など教育によって被害を未然に予防する可能性があると考 えられる。

また,認知症高齢者,知的障がいのある人,精神障がいのある人に共通する被害の特 徴として,被害を他人に適切に訴えられないことや家族・親族・地域から孤立している ことが指摘されている。これも孤立した人間関係に関連することであり,消費者被害未

1 地域生活における障がい者の消費者被害未然防止・再発防止の3層の支援

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 113

(21)

然防止,再発防止という取り組みを目的として本人や家族や地域に働きかけることや,

消費者教育を実施することによって改善の可能性があると考えられる。これらの特徴に 加えて,知的障がいのある人の場合には,物事を理解したり,記憶,推理したり,抽象 的に考えることが苦手であることや,「No」といえないことなどが挙げられているが,

教育による行動変容可能性が指摘されている(名川・堀江・於保

2003;名川・堀江・

佐藤

2005)。また,精神障がいのある人の場合には,臨機応変な判断や対人関係に困難

があり,「NO」といえないことが挙げられている。しかし,情報提供や経験の蓄積によ って被害防止や再発防止策は可能であろう。身体障がいのある人の場合でも,同じ障が いを有する人どうしの強いつながりを巧みに利用したマルチ商法被害などが拡大してい る(内閣府国民生活局

2007)。全般的傾向として,被害を受けても抱え込んでしまい,

周囲に相談しないことが挙げられている。「被害を受ける」ことが,本人にとって「恥」

であったり,家族や支援者に「隠す」ようなことではなく,消費者被害を受けた場合 は,適切な法的対処によって問題解決すべきことを本人が認識できるよう支援し,対処 方法を情報提供やロールプレイーなどの教育によって身につけることができるような支 援活動が存在することが重要であろう。

具体的方法として,知的障がい者を対象とした消費者被害調査を実施した名川・堀江

・於保(2003)堀江らによれば,本人や支援者が金銭管理に関する習慣をつけることが 提案されている。知的障がい者の消費に関する被害の契機の多くは,他者からの契機に よるものである。例えばキャッチセールスの路上で買うように求められたり,ネガテイ ブオプションと呼ばれる商法のように買った覚えのないものが送られてくることなどが ある。これらの事例に対しては,「路上で何か声をかけられても通り過ぎるように」と 指導したり,「買った覚えのないものは送られてきても支払う必要がない」あるいは

「手を出さないように」「職員に連絡するように」と伝えることで被害を防止することは 可能である。しかし,本人以外の周囲には不利益と思われるものであっても,本人が購 入の意義を認めている場合があり,周囲や支援者が不利益を受けたと単純に判断するこ とはできず,指導による改善は困難である。さらに,本人と購入の是非をめぐって対立 関係になる可能性もある。このような状況に対して,名川らは本人の金銭感覚育成に対 する支援を提案している。名川らによれば,本人の被害者意識は,不利益を受けたとい う「不利益感」ではなく,不要なものを購入させられたという「不要感」から生じると している。生活していく上でどのような商品を購入することが生活に必要であり,かつ 不利益を受けないのかをいうことを本人が自己選択・自己決定をしていくためには,本 人が商品購入や金銭管理をしながら,支援者が本人の意思や商品購入や金銭管理に関す る習慣に応じた支援体制をとることによって消費生活を出来る可能性があるとしている

(名川・堀江・於保

2003)。また,本人と一緒に小遣い帳をみることや聞き取りを通し

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 114

(22)

て知的障がい者の金銭管理や消費感覚がどのように形成されてきたかを調べることによ って消費被害防止にむけた取り組みを行う可能性が指摘されている(名川・堀江・佐藤

2005)。そのような支援体制の中で,支援者が消費者被害にあっていることに「気づき」

を得た場合は本人に聞き取り,被害を受けたことを解決しようとするよう力づけをする 必要がある。

田中(2008)も知的障がい者や精神障がい者,生活保護受給者などの社会福祉対象者 に対する消費者教育の必要性を指摘している。子どもに対する健全な金銭管理の習慣の 育成や消費者教育の実施は,障がい害者や高齢者といった社会福祉対象者にも積極的に 行うことが肝要だとしている(田中

2008)。2002

年には政府・金融庁から「学校におけ る金銭教育のいっそうの推進について」という意見書が出され,高齢者や障がい者に対 する情報提供の機会を拡大することが盛り込まれていた。しかし,高齢者や障がい者に 対しては情報提供だけでなく,被害にあった場合の権利擁護の制度や高齢者や障がい者 の特性に配慮した消費者教育求められる。

東(2008)は,高齢者を対象に,契約や取引,情報などに関する知識を獲得し自立し た高齢者を目指す消費者教育の内容を提示している。2005年に制定された消費者基本 法では,「消費者の自立の支援」が目指され「消費者の権利」のひとつとして消費者教 育が位置づけられている。高齢者の消費者教育は「自立力」を育成することが必要であ るが,同時に「見守り」「見守られる」能力を含めて「高齢者の消費者力」ととらえる ことが必要であると指摘されている。すなわち,高齢の消費者は,心身や家族等の状況 に応じて,常に地域社会と積極的に結びつきを求める態度が必要であると述べている。

東はこの能力を「社会的連帯力」と呼び,高齢期における「社会的支援活用力」として とらえている。この「社会的支援活用力」は,消費に関するさまざまな知識や技能の習 得という「自立力」に対して,支援を利用しようとする態度を身につけることを課題と している。これら知識,技術の習得からなる「自立力」と「社会的支援活用力」を含め て「高齢者の消費者力」を高めることが必要とされるとしている。

東が示す「自立力」と「社会的支援活用力」からなる「消費力」の育成は,高齢者だ けでなく,障がい者の「消費力」育成に関しても援用できる点があると考えられる。消 費者被害未然防止・再発防止に対して,消費に関する知識や技術の獲得だけでなく,障 がい者本人の周りに存在する支援力を活用して自分の権利を守ろうとする認識をもつこ とを支援することも必要であろう。そのためには,消費者被害を受けたことが「恥ずか しい」という認識から,被害を受けたとしてもその経験を基に,再び受けないようにし ようという積極的な認識や消費生活における自分の権利を守ろうという認識を高めるよ う支援することが必要だと考えられる。

近年,契約や物品の購入といった消費行動について,消費者教育教材などを使い具体

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 115

(23)

的な例を示しながら「自立力」を高める取り組みが行われている。特別支援学校学生に 向けて,「特別支援学校高等部の学生向け消費者教育読本

WEB

版 ハカセといっしょ に消費者の時間へ

GO!」(東京都消費生活総合センター作成),同じく,東京都消費生

活総合センター作成の「断るチカラの磨き方−心の隙を狙う悪質商法−知的障害や発達 障害のある方へ」が作成されている。後者は,練習編があり,「どのように断るか」「だ れに何といって相談するか」を考え,実際に声に出すことにより断る力を磨いていくよ うにしている。このようなロールプレー等は本人が消費者被害にあった場合の相談経路 を意識化することができると指摘されている(名川・堀江・於保

2003)。さらに,NHK

厚生文化事業団が作った

3

巻の

DVD「知的障害や自閉症等のある人たちをトラブルか

ら守る」は障害者に加え支援者や相談員も対象にしている教材である。また,堀江がす すめるのが「相談する人自慢大会」というもので,家族やグループホームの世話人,仕 事場の上司など相談できる人の名前をあらかじめ挙げておき,困った時にすぐに思い出 せるようにするのだという。実際に,このワークショップに参加した知的障がいの男性 がキャッチセールスで契約させられた直後に「いま契約しちゃった」と周囲に助けを求 め,被害を食い止められた事例もあるという。しかし,本人がどれだけ気をつけても被 害に遭うことはあり,周囲の人たちが被害に気づく力を身につけることも大切と指摘し ている(毎日新聞

2011

2

9

日)。

消費者被害未然防止・再発防止のための当事者への直接的「支援」は,本人の消費生 活における権利を守るために,本人の意図を汲み取りながら,障がいの特性に配慮

(care)し,かつ本人をエンパワーするような働きかけが必要である。すなわち,上記 文献に示されているような教育などの具体的試みによって本人の消費に対する認識を高 める「自立力」の育成や,周囲に支援を求めることを意識化する「社会的支援活用力」

の育成によって,障がいのある消費者としての「消費者力」を高めることが求められ る。

4−32層 消費者被害未然防止・再発防止のためのサポーター

本人の「自立力」や「社会的支援活用力」を消費者被害未然防止・再発防止に生か し,支えるために,第

2

層としてそれらを支えるサポーターが必要となる。しかし,障 がい者や高齢者の消費者被害の特徴として,ひとり暮らしなどの孤立した人間関係が指 摘されている。障がい者が親から離れて自立生活を送るということは,「ひとり暮らし」

を始めるということでもある。また,高齢になれば,子どもが自立し,配偶者が死亡す るということにより「ひとり暮らし」となる。「ひとり暮らし」という生活状況であっ ても,孤立した人間関係の中で生活するのではなく,家族や友人,近隣の人々,福祉サ ービス関係者などとの関係がある生活が消費者被害未然防止・再発防止のためには望ま

地域生活における障がい者や高齢者の消費者被害未然防止・再発防止に関する支援 116

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