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社会的企業と当事者参加 : 日伊における実践の質 的データ分析から

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(1)

社会的企業と当事者参加 : 日伊における実践の質 的データ分析から

著者 南 友二郎

雑誌名 評論・社会科学

号 112

ページ 35‑62

発行年 2015‑03‑20

権利 同志社大学社会学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013990

(2)

要約:本研究の目的は,社会的企業における当事者参加の現状と課題を調査から明らかに し,参加の促進方策に関し考察することである。日伊にて半構造化面接を実施し,面接と 分析時には,Victor Pestoffによる参加の考え方を用いた。結果として,①既存制度,資源 の活用,②経営参加の乏しい状況,③日本での当事者間支援の実態,④参加の高い日常 性・継続性,があった。当事者参加促進のため,事業体内部で,①経営分節化による,当 事者の経営参加の促進,②定期的リ・アセスメントの仕組み構築,③学びと情報蓄積をす る仕組み構築が必要であり,事業体外では,①連携と協働の仕組み構築,②連携・協働を 行政がいかに支援するのかの明確化が必要であった。

キーワード:社会的企業,当事者参加,Victor Pestoff,質的データ

目次

1.問題の所在と研究の目的 1−1.参加する場所の欠如

1−2.政策展開に向けた,社会的企業への期待 1−3.社会的企業研究の歴史的展開

1−4.当事者参加の重要性 1−5.研究の目的 2.研究の方法

2−1.調査の対象(イタリア,日本)

2−2.調査の方法

2−3.分析時の考え方と分析の方法 2−4.倫理的配慮

3.イタリア調査の結果 3−1.調査結果

3−2.当事者参加の課題と対応策 4.日本調査の結果

4−1.調査結果

4−2.当事者参加の課題と対応策 5.考察

5−1.社会的企業への当事者参加の実態

────────────

同志社大学大学院社会学研究科博士後期課程

201515日受付,201515日掲載決定

論文

社会的企業と当事者参加

──日伊における実践の質的データ分析から──

南友二郎

35

(3)

5−2.当事者参加の促進に向け必要なこと 6.本研究の意義と限界

1.問題の所在と研究の目的

1−1.参加する場所

(1)の欠如

筆者は,介護福祉士として障害児者支援に携わっている。その中で,とりわけ問題だ と感じたことは,特別支援学校高等部を卒業する障害児が,参加できる場所の少なさで あった。統計でみても,平成

26

3

月に特別支援学校高等部を卒業した生徒のうち,

就職したのは

28.4% である。大学等および専修学校に進学した生徒が 2.4% であり,2

つの数字を足しても

30% 強である。単純な比較はできないが,特別支援学校以外の高

等学校などを卒業した生徒の場合には,就職率と進学率をあわせた数字は,70% 強と なっており,倍以上の開きがある(文部科学省

2014)。

日本において,特別支援学校卒業生を含めた障害者の雇用には,一般就労と福祉的就 労がある。しかし,現在双方が異なる課題を抱えている状況にある。一般就労の場にお いては,利益を追求する場所である前提から,障害者の就労状況を質的に向上させるこ とに困難が生じている。一方,福祉的就労の場においては,障害者の参加という社会性 に重きが置かれ,事業性との両立に困難が生じている。公的な財源の確保が困難な中,

事業性と社会性を両立させながら,障害者含めた「生きづらさを抱えた人」が参加でき る場所づくりが,実践の現場で求められている。

1−2.政策展開に向けた,社会的企業への期待

そうした場として期待されているのが,社会的企業である。社会的企業は,社会的な 課題の解決をビジネスの手法で行おうとする事業体である。その社会的企業に,一般就 労と福祉的就労の架け橋である中間的就労の,中核的提供主体としての期待が高まって いる(社会保障審議会

2013)。少子超高齢社会が進展する中,①生活困窮者などの増大

による急速なニーズの変化があり,②その対応に向けての法制度整備に関する研究が着 手され,③改正生活保護法,生活困窮者自立支援法,障害者差別解消法,改正障害者雇 用促進法などが整備され,④地域における包括ケアシステムの実現が切望されている。

その実現の一翼を担う主体として,社会的企業には期待が集まっているのである。

1−3.社会的企業研究の歴史的展開

日本において,実践の現場だけでなく,政策的にも期待が寄せられている社会的企業 だが,その研究は,1990年前後から欧米で始まったとされる。日本では

1990

年代末か

社会的企業と当事者参加 36

(4)

ら開始されたと言われている。社会学,社会福祉学,政治学,経済学などの隣接し合う 領域が,相互に影響を及ぼし合いながら,社会的企業研究は進展を見せてきた。欧米の 議論は,当初それぞれの文脈の中で別個に行われていた(Defourny・Nyssens 2012)。し かし,2005−6年頃から

Kerlin(2006)らによって,国際比較研究がなされるようにな

り,議論の交錯が生まれた。

2012

年からは,ヨーロッパの議論を牽引してきた

EMES

(2)主導による

The International Comparative Social Enterprise Models(以下 ICSEM:国際比較による社会的企業のモデ

ル化プロジェクト)が,世界

40

か国以上から

150

名以上の研究者が参加し進行してい る。ICSEMでは,社会的企業のモデル化に向け,その在り様を捉えるために,EMES が提唱するアプローチが採用されている。それは,経済的,社会的,政治的という

3

つ の次元からなる(Defourny・Nyssens 2014)。

その中で,政治的な次元は,Participatory Governance(参加型ガバナンス,筆者訳)

と称され,EMESアプローチの

Trademark

(トレードマーク) であるとされる(Nyssens

2014)。2013

年に開催された第

4

EMES international conference

では,この政治的次 元に関する数多くの発表がなされ,Participatory Governanceが

EMES

メンバーによる研 究の主な焦点となっている(Pestoff 2014)。Participatory Governanceは,「高度な自律 性」,「資本所有に基づかない意思決定」,「活動によって影響を受ける人びとの参加」を その構成要素とする(Defourny・Nyssens 2012)。様々な関係者(マルチ・ステークホル ダー)が,社会的企業にいかに参加をし,協働をするのか,その促進要因(あるいは阻 害要因)を明らかにすることが,現在の社会的企業研究において,大きな潮流となって いると言える。

1−4.当事者参加の重要性

そうした状況の下,Pestoff(2014)は,Participatory Governanceという研究領域に,

注目が集まっている理由をまとめている。彼は,社会的企業の社会的活動に沿った形で の,経済活動の維持の必要性をまずあげる。そして,事業体の中で起こり得るミッショ ンの揺らぎを防止する,あるいはミッションの揺らぎを避ける方策を探求する必要性が あることを強調する。換言すれば,前者は,社会的企業自身が,民営化,市場化という 流れの中で,民間企業との同質化圧力に抗し,持続性を確保するためのツールを手に入 れるための試みといえる。

一方で,後者は,社会的企業の本質的ミッションである,課題を抱えた人びと,つま り当事者による,主体的な課題の解決という視点の欠落への警鐘ともいえる。EMES は,EMES conferences selected paper seriesと題し,2009年,2011年に開催された第

2

回,第

3

EMES international conference

にて発表されたものの中から,学術委員会

社会的企業と当事者参加 37

(5)

(academic committee)が選抜した学術論文を公開している(http : //www.emes.net.)。筆 者は,48の論文のレビューを行ったが,当事者参加の実態や課題,あるいは社会的企 業に参加した当事者の変容などに焦点を当てたものは,皆無であった。ケアと結びつい た「中間的就労」(牧里

2013)の場とも言われる,社会的企業に当事者が参加すること

は,議論の出発点である。そして,周囲との協働プロセスの中で,当事者が主体性を回 復し,自身の人生の主人公に戻ることが,目指されなければならない。それこそが,本 質的に課題が解決されるということであり,社会的企業の本質的ミッションでもあろ う。よって,当事者参加という視点から,社会的企業を捉えることには意義があるとい える。

1−5.研究の目的

以上のような問題から,本研究では①社会的企業における当事者参加の現状と課題を 調査から明らかにしたうえで,②参加の促進に向けた方策について考察すること,を目 的とする。

2.研究の方法

2−1.調査の対象(イタリア,日本)

2−1−

(a).イタリア

B

型社会的協同組合(3)調査

調査は

2013

2

月末から

3

月初旬にかけて,イタリアのトスカーナ州フィレンツェ 県に所在する

3

か所(以下,C, D, E協同組合)の

B

型社会的協同組合において行っ た。C, D, E協同組合の概要は,以下表

1

に示す。なお,E協同組合の概要に関しては,

協同組合全体の概要ではなく,訪問した部門の概要である。対象者としては,C, E協 同組合では各

1

人(理事長,部門長),D協同組合では

3

人(理事長,副理事長,緑化 部門長)であった。

1 イタリア社会的協同組合調査先概要

C協同組合 D協同組合 E協同組合

フィレンツェ中心部からの距離 9キロ 11キロ 23キロ 人口(20132月現在) 48,000 20,000 8,000 形態 B型(元はA型) B型(但し4協同組合

でグループを形成)

B

設立 2009 2002 1994

従業員 86人(2011年末)

無期契約55

見習15・参入1610

(27−46歳)

189人(2011年)

見習・参入12

12人(20132月末)

社会的企業と当事者参加 38

(6)

2−1−

(b).日本における社会的企業実践調査

調査は,2013年

7

月末から

8

月頭にかけて,2つの社会的企業実践(以下,F法人,

G

法人)に対して行った。対象者は,F 法人の労働支援部の部長であり,法人の理事で もある

1

名,G法人では,代表理事

1

名であった。表

2

は,両法人の概要である。

労働統合率 32人(2011年末)

平均37%(2011年)

70人(2011年)

34.8%(2011年)

11人(20132月末)

91%(20132月末)

業種 クリーニング(28%)

アート(24%)

清掃など

公園管理,食堂運営,

清掃,ごみの分別など

主に贈答品のパッキン

売上 1,628,000ユーロ

≒約2.1億 円(2011年,1

!=128円)

15億 円(グ ル ー プ 合計)

不明

(出所)各協同組合資料を基に筆者作成

2 日本の社会的企業実践調査先概要

F法人 G法人

人口 367,000人(20121231日現在) 220,000人(2013111日現在)

形態 社会福祉法人

障害者分野:就労継続支援事業A型・B型,生 活介護事業,生活支援センター事業,障害児者サ ポートセンター事業,障害者就業支援センター事 業,居宅介護事業,訪問看護事業,共同生活介護 事業,他障害児分野,高齢分野,不登校・社会的 ひきこもり者分野

NPO法人

就労継続支援事業A

設立 1977年無認可作業所設立 19892月社会福祉法人認可

20099月設立総会 2010120日認証 2010122日登記 従業員 就労支援事業213

就労継続支援事業所A型・B型利用者 合計173人(2012年度)

障害のない職員18

(身体障害1人,ひきこもり等3人,難病 1人)

障害者手帳保有職員17

(知的障害8人,精神障害7人,身体・全 身性2人)(20138月)

労働統合率 81.2% 48.5%

業種 クリーニング(1988年〜)

印刷(19916月〜)

食品加工製造(19989月〜)

農産物直売所(2011年〜)

ウエス製造(1991年〜)

飲食店(2001年〜)

ビル管理(清掃20104月〜,駐車場管 20105月〜)

食事サービス(レストラン20106月〜,

他事業所向け給食20104月〜)

市場(野菜,米など,20106月〜)

パソコン家電修理(201210月〜)

売上 258,000,000円(2012年度,就労支援事業のみ)

クリーニング 約95,000,000 印刷 約60,000,000 食品加工製造 65,650,000 農産物直売所 5,860,000 ウエス製造 17,700,000 飲食店 6,350,000

75,999,000円(2012年度決算より)

ビル管理 15,101,000 食事サービス 18,683,000 市場 4,507,000

自立支援給付 24,220,000 補助金その他 11,795,000

(出所)F法人,G法人資料を基に筆者作成

社会的企業と当事者参加 39

(7)

2−2.調査の方法

調査方法としては,半構造化面接を採用した。理由は,2つある。実践の現場で起こ っている事実を描き出す必要があり,質的研究法がより妥当と考えたことが,1つであ る。さらにはインタビューアーである筆者が,予め詳細に質問の用意をした構造化面接 よりも,より自由に「ありのまま」を語ったもらうほうがよかろう,と判断をしたこと が,2つである。調査項目は,微細には取り決めず,後述する

Pestoff

の参加の

3

段階 を軸にして,対象者との面接を行った。

調査時間は,イタリア調査ではそれぞれ

1〜1.5

時間行った。日本調査においては,F 法人にて約

6

時間,G法人では約

4

時間行った。なお,イタリア調査で面接時に使用 した言語は,イタリア語である。通訳を介さず,筆者がイタリア語にて,面接を行っ た。

2−3.分析時の考え方と分析の方法 2−3−

(a).Pestoffの参加の考え方

本研究では,調査で得られた質的データの分析に際し,スウェーデンの政治学者で,

福祉トライアングルが有名な

Victor Pestoff

が提唱する,Co-Production概念における参 加の考え方を用いた。その考え方は,ノーベル経済学賞を授賞した

Ostrom

らにより生 み出された

Co-Production(共同生産,筆者訳) 概念に依拠しつつ, Co-Production

Co-Management Co-Governance

の重層的な概念として拡大提示されている(Pestoff

2009)。また,その考え方が,社会的企業における,より具体的な「いかに解決に近づ

くか」という方法を論じたものであり,実践を分析するうえで有用であることが,明ら かにされている(南

2013 a ; 2013 b)。

その中で展開される参加の考え方は,3段階ある。「参加の入口」,「参加の内容」,そ して「参加の日常性・継続性」である。詳細については,南(2013 a ; 2013 b)を参照 されたい。以下に,その概要を述べる。

2−3−

(b).参加の入口

入口における参加の促進要件として,アクセシビリティの高さと,参加することが生 活に及ぼす影響の大きさの組み合わせで捉えるべきであり,それら両方が揃ったとき,

住民は社会サービス供給における能動的共同生産者となるとする(Pestoff 2012 b :

367)。Pestoff

による参加の入口における促進要因をまとめたものが,表

3

である。

社会的企業と当事者参加 40

(8)

2−3−

(c).参加の内容

次の段階として

Pestoff

は,参加の内容を示す。Pestoffは,①政治的側面への参加,

②経済的側面への参加,③社会的側面への参加といった要素をあげた上で,さらに④サ ービスの側面への参加,という

4

つの側面すべてにおける参加が,重要であるとする。

保育サービスを例にとると,①議論や意思決定への関与,②事業体の運営あるいは維持 への時間や物質的貢献,③ウィンターパーティなど,様々な行事の企画や運営,④事業 体の運営維持,職員の体調不良あるいは研修の際の代替といったことから,保育施設で の常勤ベースでの実際の労働までの範囲をさす(Pestoff 2012 b : 369)。

2−3−

(d).参加の日常性・継続性

3

つ目の段階は,参加のレベルを規定する要素であり,2つの次元が設定されている。

第一は,供給者と住民との間の関係性の濃さともいうべき「参加の継続性」である。

関係性が,短期的か,それとも永続的か,あるいは直接的,日常的に反復性をもったや り取りがあるものか,といった要素を基準としてあげている。直接的,日常的,反復的 なやりとりが,より長い期間なされることを,Pestoffは濃度の高い関係性とし,低い,

中間,高いという

3

つのレベルを想定している。

第二には,公的サービス供給における住民参加が,日常的に行われているかという軸 を設定している。低い,中間,高いという

3

つのレベルがあるとする。先にあげた

4

側 面への参加が日常的なものかどうか,つまり「参加の日常性」と理解することができ る。

参加の日常性が高く,その関係性が継続するとき,

Co-Production

は促進されると する。これら

2

つの次元を表したものが,表

4

である。網掛けした部分が理想的な状況 ということができ,Pestoffの掲げる個人レベルにおける参加の到達点ともいえる。し かし,表

4

の内容に関し

Pestoff

は,各セルごとの詳細について明らかにしていない。

本来各セルの詳細を埋めるべきであろうが,本研究では分析の際に,「日常性が高いか どうか」「継続性が高いかどうか」という大枠の捉え方をすることとする。

3 社会サービスの共同生産に向けた参加の入口 アクセシビリティ

生活に及ぼす影響

低い

(参加型ではない)

高い

(参加型)

より大きい

(動機づけが高い)

能動的消費者 選択はする

能動的共同生産者 理想的なタイプ より小さい

(動機づけが低い)

受動的クライアント 伝統的公的統治のタイプ

その場限りの参加者

重要事項のみに関する時のみ参加

(出所)Pestoff 2012 b : 25を基に筆者作成

社会的企業と当事者参加 41

(9)

2−3−

(e).分析の方法

本研究では,分析に際して,それぞれの面接録音記録から日本語による逐語録を作成 し,佐藤(2008)による質的データ分析法を参考にしつつ,上述の

Pestoff

による参加 の考え方に焦点を当て,分析を行った。なお,イタリア調査の面接録音記録の翻訳は,

筆者自身にて行った。また,各協同組合,あるいは法人から入手した資料やホームペー ジの情報も,一部活用した。

2−4.倫理的配慮

本研究は,『同志社大学「人を対象とする研究」倫理規準』および「日本社会福祉学 会研究倫理指針」の内容を順守し,行った。面接時に,研究目的,意義,方法,参加協 力の自由意志と拒否権,プライバシーの保護,発表方法などを口頭にて説明し,書面に て了承を得た。また,分析終了後,調査結果をとりまとめたものを送付し,研究内容公 開承諾書に署名を得た。

3.イタリア調査の結果

3−1.調査結果

イタリア調査における,参加の入口,参加の内容,参加の日常性・継続性のそれぞれ における当事者参加の実態を述べたうえで,見えてきた課題とその対応策について,以 下述べる。

3−1−

(a).参加の入口

参加の入口では,【強固な理念基盤】のもとで,【潤沢な制度の有効活用(直接/間 接)】がなされていた。その反面,【市場が求める品質の維持・向上】のために,【制度 に乗る人を優先せざるを得ない状況】にあることが明らかになった。表

5

は,得られた データを分析する中で導きだされた,カテゴリー,コード,およびその根拠となったデ ータの抜粋である。

1991

年社会的協同組合法制定時から,優先条項や社会保障費等における財政優遇と いった間接的な制度は,存在した。さらに,2003年の法改正により見習労働制度(4)

4 公的社会サービス供給におけるCo-Production2つの次元 継続性

日常性 低い 中間 高い

高い 中間 低い

(出所)Pestoff 2012 b : 373−374を基に筆者作成

社会的企業と当事者参加 42

(10)

び参入労働制度(5)対象者が拡大された。今回調査した

3

つの協同組合すべてが,そうし た【潤沢な制度の有効活用(直接/間接)】を当然のこととして行い,当事者の参加を 促進していた。

次に,そうした制度の有効活用の基盤には,【強固な理念基盤】があった。「理念」

(労働市場への包摂,社会的役割の付与など),「ビジョン」(持続可能な協同組合など),

「ミッション」(当事者の人間性,関係性の回復など),「考え方」(ともに前に進む,仕 事をツールとした回復など)についての発言が,多くみられた。【強固な理念基盤】が,

【潤沢な制度の有効活用(直接/間接)】を支えていることが分かった。

しかし,実際の事業運営において,【市場が求める品質の維持・向上】に迫られてい た。民間企業が競合相手であるとの認識を,調査対象先ではもっていた。そのため,

「品質に対する高い意識」(ISO取得など)を持ちながら,事業体の有する「資源のマネ ジメント」(資源の開拓も含め)を行うことが,不可避な状態になっていることが,明 らかになった。

そうした状態が,協同組合の安定性確保のため,【制度に乗る人を優先せざるを得な い状況】を招いてしまっている可能性があった。D協同組合には,毎日

10

人前後の人 が仕事を求めてやってくる。しかし,そこには「プライオリティ」に関する決め事が存 在する。それは,①既に

D

協同組合でプロセスを経た人(法の対象者に該当する人),

②当局から認められた人,治療的プロセスを経た人,依存症や服役からの回復プロセス を経た人,そして③法に当てはまらないけれど,当局から認められた人,というもので あった。

なお,ボランティアとの関係性をうかがえる発言は,今回の調査では出てこなかっ た。地域の社会資源の活用がなされていない可能性が示唆された。

5 「参加の入口」におけるカテゴリー,コード,データ

参加の段階 カテゴリー コード データの抜粋

参加の入口 潤沢な制度 の有効活用

(直 接/間 接)

制度(参加 の入口)

●見習い.依存症,服役者,精神障害とか.保健局からの仕事で生き づらさを抱えた人の包摂プロジェクト(D協同組合).●今15人くら いの見習いのプロセスを行っている.彼らは行政から支払われる.

我々は包摂を可能にするサービスを提供する.機会を提供する.でも 能力を図る機会でもある(D協同組合).●地元の保健局から.コン ペがある.当局により決められた給料があってここに来る,生産能力 によって(E協同組合).●私のコストの1部はカバーされている.補 助金がなければ無理.間接経費含めコストの1部は,国によって軽減 され,州にそして最終的には保健局から(E協同組合).

制度(優先 事項)

●協同組合においては,法的に生きづらさを抱えた人に向けた200,000 ユーロ以下のプロジェクトに関しては,民間より優先権がある(D 同組合).

制度(コス トの低さ)

●(生きづらい人を)30% 以上雇用すると,例えば10かかるとする 3しかかからない(D協同組合).

社会的企業と当事者参加 43

(11)

3−1−

(b).参加の内容

参加の内容に関しては,【経済的側面】,【政治的側面】,【社会的側面】,【サービスの 側面】を全体として見た,当事者参加のレベルは低かった。今回調査を行った

3

つの協 同組合では,現業への参加にとどまっていた。しかし,同時に多様な意思決定手法を試 行,あるいは採用することで,当事者の参加の維持,さらには促進が図られていた。表

6

は,得られたデータを分析する中で導きだされた,カテゴリー(Pestoffの

4

つの側面 を使用した),コード,およびその根拠となったデータの抜粋である。

【政治的側面】については,「垂直方向の参加」は,法律で定められた,年に一度の組 合員総会への参加以外にはなされていない可能性があり,日常的な現場における議論へ の参加といった「水平方向への参加」が中心であった。ただし,E協同組合では,保健 局スタッフも交えた,2週間に

1

度のミーティングで,支援の進捗と今後の方策が,当 事者交え議論されていた。セミフォーマルな場の創出という意味で,示唆に富むもので

強固な理念 基盤

理念 ●生きづらさを抱える人を労働市場に包摂していくこと.彼らの能力 をいかす.そうした社会的協同組合の意味とともに回答をだしてく

(D協同組合).●地域から存在を知ってもらい,彼らの能力が活用さ れたりといった,社会的な役割を果たす(E協同組合).

ビジョン ●将来に向けて商売としても持続可能で自立可能だ(C協同組合).●

現実をみるに,民間企業を閉じるより協同組合を閉じるということは 二重の負荷を課す.生きにくさを抱えた人たちがいるから.一度仕事 を失うとすぐに次の仕事を見つけることは難しいからね(C協同組 合).

ミッション ●労働者としてのアイデンティティを失った人たちの関係性の回復

(D協同組合).●労働市場への統合は経済的な部分だけでなく,人間 的な成長も含むから(C協同組合).

考え方 ●仕事を薬のように活用する.プロジェクト自体が薬であり仕事なの で,科学的な薬に代わる仕事という薬.彼らも薬の量を減らし,経済 的にもコストがすごく下がる(E協同組合).●健常者が寄り添い一緒 に仕事をする.一緒に働きながら生きづらさを抱えた人に労働性を再 獲得してもらう(D協同組合).

制度に乗る 人を優先せ ざるを得な い状況

プライオリ ティ

●我々にとってのプライオリティは,毎日10人前後が仕事を求めてく るけれど,一番目に我々のもとでプロセスを経た人(法の対象者に該 当する人),二番目に当局から認められた人,治療的プロセスを経た 人,依存症や服役からの回復プロセスを経た人,そして三番目に法に 当てはまらないけれど,当局から認められた人(D協同組合).

市場が求め る品質の維 持・向上

民間との競

●競合は営利企業(C協同組合).●競合相手に勝つこと(C協同組 合).●A型よりB型には競争力がいる(E協同組合).

品質への高 い意識

●品質の保持については,ワーカーは生きづらさを抱えているわけだ から不利だし,そこが難しさともいえる(C協同組合).●品質の保証 に注力した.ISOも取得した(C協同組合).●我々も仕事の品質をあ げる(D協同組合).●市場が求めるレベルとのバランスを取るのは 難しい(E協同組合).

資源マネジ メント

●運営面では食堂を見つけたり,新しい仕事を見つけたり,フレキシ ブルで早い回答を出したり,サービスのオーガナイズ,人的資源の確 保など複雑(D協同組合).●オーガナイズ面の難しさ.仕事を課し すぎてもいけないし,前もって伝えておくなどは必要(E協同組合).

(出所)筆者作成

社会的企業と当事者参加 44

(12)

あった。

次に【経済的側面】では,「業務への従事」に関する発言のみがあがった。具体的に は,C協同組合では,28% の人がクリーニング業務に従事し,次いで装飾品の製作(24

%),清掃(17%),インターネットポイント店員(9%),他業務(22%)に携わっていた。

【社会的側面】について,今回具体的発言はなかった。最後の【サービスの側面】に ついては,D協同組合でのみ発言があり,量的人員を擁することで,多様なチーム編 成が容易になっていた。つまり,当事者による「仕事の相互補完」によって,事業体の 運営を支えている可能性が示唆された。

3−1−

(c).参加の日常性・継続性

参加の日常性・継続性は,高いことが明らかになった。

まず日常性に関してみる。具体的な数値のある発言は

E

協同組合のみであった。そ の発言は次のとおりである;

「多くが週に

5

日午前に働く。平均して

7−8

人が一日働いていると思う。働き始め の人は

3

日くらいから。午後は今は

3

人が働いている。仕事の量にもよるけれど,

保健局が週に

3

日のみ働くことを求めることもある。その代わり他の人に働いても らったり。」

E

協同組合には

11

人の当事者が働いているが,平均してその半数以上が一日参加し

6 「参加の内容」におけるカテゴリー,コード,データ

参加の段階 カテゴリー コード データの抜粋

参加の内容 経済的側面 業務への従

●クリーニング28%,アート(装飾品製作)24%,清掃17%,インタ ーネットポイント店員9%,資料室7%,スーパー店員5%,コピーセ

ンター5%,門衛5%(C協同組合)

政治的側面 水平方向の 参加

●意見が現場の責任者にあがり,そこからさらにディレクターに.厳 格にということではない(C協同組合).●フォーマルな場面はあるけ れど,ディナーとかも.同僚の話はいつもするし,問題があれば上の レベルと話す.意見の交換はできるけれど「ルールのあるコンテナー」

(D協同組合).●2週間に1度,木曜日にミーティングをする.彼ら がしていることに関する意見,組織に関する意見やリクエストを聞く.

プロジェクトのスーパーヴィジョンもある.保健局の人も.彼ら+職 員で.彼らがきちんと保持されているのかを見る(E協同組合).

垂直方向の 参加

●生きづらさを抱えた人の参加は,レベルとしては低い(C協同組 合).●(年に1度の組合員総会は)組合全体のね.18回目(E協同 組合).

社会的側面 発言なし.

サービスの 側面

仕事の相互 補完

●我々の強さとしては仕事があれば,翌日にはチームを組む.250 がいるから,ほとんどパートだけれど,だからこそこうした仕事がで きる(D協同組合).

(出所)筆者作成

社会的企業と当事者参加 45

(13)

ている。働き始めの人など多様な働き方は存在する。C協同組合の社会的バランスシー トをみると,まず見習い・参入契約の当事者で週

10−15

時間(2011年度)の労働となっ ている。参加当初は,週

3

日,計

15

時間程度からはじまっていることがうかがえる。

パートタイム契約の人びとは,平均

22

時間(2011年度,2009年度平均

20.7

時間,2010 年度平均

20.6

時間)労働しており,フルタイム契約の人の

58.97% となっている。週 5

日毎日働くことが平均値としてあり,参加の日常性は高いといえる。

次に,高い継続性である。当事者の在職期間の長さに関する発言はなかった。しか し,それを示唆する発言が

C

協同組合であった。その発言は次のようなものである;

「現実をみるに,民間企業を閉じるより協同組合を閉じるということは,二重の負 荷を課す。生きづらさを抱えた人びとがいるから。一度仕事を失うと,すぐに次の 仕事を見つけることは難しいから。」

「二重の負荷」という言葉は,事業継続及び当事者にあった仕事への参加の継続性保 持に対する強い意志表明と取れる。それを裏付けるのが,C協同組合バランスシート上 に記載された,2011年の

1

月〜12月の従業員数である。表

7

は,各月の従業員数の変 化をまとめたものである;

人数増加の要因として,有期契約による請負仕事の増加があげられている。したがっ て,組合員ではない従業員のみが,2011年

1

月末段階と

12

31

日段階とを比較する と,23人増加している。一方で,組合員の数は

2009

48

人,2010年

50

人,2011年

50

人とほぼ固定されている。つまり,C協同組合では数字の上では定着率が高い,継 続性が高いということができる。

3−2.当事者参加の課題と対応策 3−2−

(a).参加の入口

課題としては

2

点あり,「結果として排除された人をいかにつなぎとめるのか」とい う点と,「ボランティアの参加をどのように促進するか」という点であった。

「結果として排除された人をいかにつなぎとめるのか」という課題の克服には,「つな ぐために,予めつながっておく」ことが肝要であろう。具体的には,行政,他協同組

7 2011C協同組合従業員数の変化

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 人数 63 67 67 68 70 72 74 74 80 84 86 86

(出所)C協同組合社会的バランスシートを基に筆者作成 社会的企業と当事者参加 46

(14)

合,地域の一般企業など,地域に存在する多様なアクターとのネットワークの構築が,

今後求められる。

2

点目の「ボランティアの参加をどのように促進するか」という課題については,地 域における当事者の可視化,及び経営にもっともインパクトを与える人件費という観点 からも,克服が必要であろう。法制上は,総人員の

50% までボランティアを迎え入れ

ることは可能であり,積極的なアウトリーチが求められよう。

3−2−

(b).参加の内容

課題としては,「いかに定期的なリ・アセスメントの仕組みを構築するか」というこ とが,浮かび上がった。法で定められた,年に

1

度の組合員総会と,日々の水平的なコ ミュニケーションとの間を埋める仕組みづくりが求められる。その具体策として示唆に 富むのが,E協同組合で

2

週間に

1

度行われていた,当事者,事業体,行政という,3 者によるミーティングである。2週間に

1

度と仕組みにすることで,当事者に,「逃げ 場」あるいは「声をあげてもいい場所」を,提供することとなる。同時に,事業体の掲 げる社会的課題の解決という目的に,事業体運営そのものを向かわせる可能性をも含ん でいる。定期的なリ・アセスメントを仕組みとして,事業体運営の中に埋め込むことが 必要といえよう。

3−2−

(c).参加の日常性・継続性

参加の日常性・継続性は高いという実態があった。しかし,課題として,「事業体が 存亡の危機に立った時,いかに行政が補完すべきなのか」という点と,「それぞれの当 事者に適合する仕事が存在しない場合の対策」といった点が考えられる。

課題の

1

点目に関し,調査のなかで出た発言に「二重の負荷」というものがあった。

協同組合を閉じるという負荷と,そのことによる当事者参加の場の確保という負荷,の

2

つを指す。事業体と行政が常に連携し,つなぎなおすことのできるスキームを,あら かじめ構築することが求められよう。行政には,地域の経営という視点が求められる。

課題の

2

点目に関し,適合する仕事を,事業体内部で作りだす創意工夫が重要であ る。しかし同時に,当事者に適合する仕事を展開する,別の事業体につなぎなおすこと も肝要である。よって,予め事業体同士が連携し,情報を共有しておくことも,不可欠 となってくる。

4.日本調査の結果

4−1.調査結果

日本調査における,参加の入口,参加の内容,参加の日常性・継続性のそれぞれにお ける当事者参加の実態を述べたうえで,見えてきた課題とその対応策について,以下述

社会的企業と当事者参加 47

(15)

べる。

4−1−

(a).参加の入口

参加の入口において,【事業体へのアクセシビリティ向上方策】と【仕事へのアクセ シビリティ向上方策】の

2

段階構えがとられていた。しかし,そうした方策にもかかわ らず,【必ず生まれるズレ】の存在が明らかとなった。表

8

は,得られたデータを分析 する中で導き出されたカテゴリー,コード,およびその根拠となったデータの抜粋であ る。

【事業体へのアクセシビリティ向上方策】としては,まず「物理的距離の近さ」が,

当事者と事業体との間に担保されていた。そのうえで,「水平的な連携」をし,対象者 の「間口の拡大」を行い,さらには「つなぎなおし機能」を発揮することで,事業体へ のアクセシビリティを向上させようとしていた。

「物理的距離の近さ」は,今回調査した両法人を利用している当事者が,公共交通機 関によって通勤ができる圏内に居住していたことによるものである。「水平的な連携」

の具体例としては,F法人とひきこもり支援事業所との連携や,G法人が所在する同じ 場所にある,就労継続支援

B

型事業所との連携があげられる。また,両法人とも,障 害者だけでなく,ひきこもりやニートなどといった制度に乗らない対象者へと「間口の 拡大」をはかっていた。さらには,一般就労の継続に失敗した当事者を法人に迎え入れ たり(F法人),賃金に不満を持っていた当事者に対し,最低賃金を保証し他事業所か らの移行を促したり(G法人)することで,「つなぎなおし機能」を発揮していた。

【仕事へのアクセシビリティ向上方策】としては,「マニュアル作成」,「詳細なアセス メント」の実施,「個別性」への配慮および「できることへの焦点」,そのうえでの,

「多様な職場の準備」とともに,「ボランティアの参加」の促進があった。

その中で,F法人では,とりわけ個別に「詳細なアセスメント」を行うとともに,就 労支援に関する「マニュアル作成」をおこない,当事者と支援者がその情報を共有して いた。一方

G

法人では,「多様な職場の準備」をすることで,仕事とのミスマッチを防 ぎ,他の職場につなぎなおす,あるいは「ボランティアの参加」を受け入れることで,

多様な職場提供の基盤を構築するとともに,当事者の「個別性」への対応を図っていた。

こうした両法人によるアクセシビリティ向上方策にもかかわらず,【必ず生まれるズ レ】が存在することが明らかとなった。それは

2

つあり,一つには「事業配置のズレ」

であり,もう一つは「視点のズレ」であった。

「事業配置のズレ」は,F法人で見られたもので,大きな組織が新たな事業に取り組 み際の課題といえる。F法人は設立から

36

年を経過している。様々な事業(6)を行い,

従業員数も就労支援事業だけでも

213

人という大変な数となっており,組織運営には効 率性の観点から一定の汎用性が求められることが,このズレの原因ともいえる。

社会的企業と当事者参加 48

(16)

「視 点 の ズ レ」は,G法 人 で 見 ら れ た。医 学 モ デ ル(7)で は な く,ICF(International

Classification of Functioning, disability and health:国際生活機能分類)

(8)をベースとした 環境要因にも配慮する視点の共有が,必要であることが示唆された。

8 「参加の入口」におけるカテゴリー,コード,データ

参加の段階 カテゴリー コード データの抜粋

参加の入口 事業体への アクセシビ リティ向上 方策

物理的距離 の近さ

●電車で通勤の人も多いです.一応,県内です.遠方の人はグループ ホームとかに入っているのですが,ほとんどの人が通勤圏内から来て います(F法人).●すべての当事者が,電車あるいはバスで通える圏 内に居住している(G法人).

水平的な連

●1つは,ひきこもりの方がたを支援する事業所が1つあるのです.

そこで居場所だけになっていたら話にならないので,そこで1−2年み んなと集い合い,仲間ができ,若干社会参加しようかな,働こうかな という意欲の出てきた人を私は去年5人お預かりして就労訓練をした わけです(F法人).●同じ敷地内に,就労継続支援B型事業所が存 在し,G法人に在籍している数名の当事者は,そこから移ってきた

(G法人).

間口の拡大 ●やはりその制度に乗らない人,引きこもり,ニート,それから顔に ものすごくあざがある人,福祉の制度に乗らない人,こういう人たち を本格的に支援を始めたのは昨年からですね.この人たちに関して,

福祉事業収入は入ってきませんので,法人の余力内でやっていくしか ないですね(F法人).●20107月に開催された祭りの際に,不登 校生徒支援の親の会から要請を受け,4人の不登校生徒が参加した.

そのうちの1人を,同年10月に採用した(G法人).●近親者からの 暴力から逃れてくる,特に母子を対象としたシェルターを完備してい る(G法人).

つなぎなお し機能

●先ほど見ていただいた職員,10年前にこの近くにある食品加工場を 作ったんですね.その時分は,養護学校今の支援学校を出た生徒さん は,すぐ福祉に来たので,いったん社会に出て,企業に勤めてそこで 随分つらい目にあってからうちに来た人も多かったです.二次障害,

精神障害をおこしそうな感じで,その職場をやめて,逃げるような感 じでやめてね,すぐにうちに来ました(F法人).●最低賃金が保証さ れない就労継続支援B型事業所から,最低賃金が保証されるG法人 に移った方がいる(G法人).

仕事へのア クセシビリ ティ向上方

マニュアル 作成

●就労準備支援として,企業が新入社員を対象にしている内容を参考 にして,必要と考える部分を生活困窮者,引きこもり,ニート用に作 成しました.また,作業支援については企業がパート,アルバイトの 作業訓練で使用しているものを応用しました.これは私が企業時代に 使っていたものを応用しました.計数管理についても実際に職場で日 常的に使われているものをまとめました.どのような業種につくにし ても基本的な事項と考えています.メンバーが就労準備支援期間中に 修得し地域社会に飛び出すということを考えています(F法人).

詳細なアセ スメント

●ヒアリングの内容のところが,ヒアリング資料とあって,プロフィ ールであるとか性格,学歴,職歴とかどこでも聞きますが,中身は,

その人の好きなこと嫌いなこと,得意なこと苦手なこと,今までに経 験したことのある業務,将来やりたいと思っている仕事,それを実現 するために何を学ばなければいけないか,うちで何を学びたいか,う ちで実習したい業務,取得したい技術や資格,苦手な環境,人,モノ,

接客苦手,運転苦手,高齢者相手が苦手とか,集中可能な時間,勤務 時間を考慮するために集中可能な時間,ひきこもりニートの人は精神 に近い障害を持っている人が多いので長時間勤務はしんどいとか,こ ういうようなことを,他にもいっぱいあるのですが聞いて,一つはま とめるのと,一つはヒアリングした内容にそってその人に対応してい くと(F法人).

社会的企業と当事者参加 49

(17)

4−1−

(b).参加の内容

参加の内容において,「当事者間支援」という社会的企業実践における

1

つの到達点 といえる可能性のある実態があった。事業体の運営への参加を軸とする【経済的側面】

における参加の高まりが,【政治的側面】や【社会的側面】における参加レベルの向上 をもたらす。さらに,【サービスの側面】における参加のレベルをも押し上げ,「当事者 間支援」に結びついている可能性を示唆するものである。表

9

は,得られたデータを分 析する中で導きだされた,カテゴリー(Pestoffの

4

つの側面を使用した),コード,お よびその根拠となったデータの抜粋である。

その「当事者間支援」は,2つの調査先いずれにおいても見ることができた。【経済 的側面】において,1つの部署の責任者(F法人)や市場の主任(G法人)となる,つ まり「役割レベルの向上」の中で,「業務の上では主役」となっていた。そうなること で,必然的に【政治的側面】における,「ゆるやかな合意形成」がなされる「多様な議 論への参加」が高まる。また,【社会的側面】においても,両法人での研修や夏祭り,

余暇活動といった「イベントへの参加」だけでなく,G法人における社員旅行そのも のを当事者が牽引するという「イベント企画」にまで,参加のレベルが向上する。そう

個別性 ●厨房の方は11で基本的にスタートしました.マンツーマンがい いのではと.これがなかなか難しい(G法人).

多様な職場 の準備

●5月にA型事業所の指定を受けます.その時に障害のある方13名,

10名と3名です.4月から隣の施設の給食を受託して,6月にこのレ ストランを始めました.9月に市場,野菜を始めて,1年がたちました

(G法人).

ボランティ アの参加

●200912月に例のおせち料理.これは大きなスプリングボードに なりました.社協から200食注文をもらって.厨房もないのに,レス トランの厨房を借りて.ほとんどボランティアさんで.当時障害者だ け時間給払って.あと一人,シェフですね,当時は板場さんですね,

それ以外は全部ボランティアで(G法人).

できること への焦点

●私も確信を持っています.最初は,その人の持っている強み,スト レングスというかアビリティ,ケイパビリティをいかに見ていくか,

ウイークネスよりストレングスを優先しようと(G法人).

必ず生まれ るズレ

事業配置の ズレ

●一度刑務所を出た方の就労支援をやろうとしたのですが,担当者が 途中であきらめたのです,できないと(F法人).●うちが取り組む場 合,今持ってる仕事の範囲がかなり一杯なので,それ以上のことがで きない状況で.それに1人ではできないですしね(F法人).

視点のズレ ●現場にまかせて失敗したのですが,従来の福祉の職業リハというの は本人の能力向上させることにばかり着目してきました.家でさんざ ん躾られて,養護学校で10何年もさんざん算数させられてできなかっ たことを,1事業所ができるわけがない.しかも半年,1年で.やめさ せました.数をしっかりさせないといけないのであれば,もっと環境 的にできることを考えてくれと,環境改善のほうにいきました.しか しマンツーマンはうまくいきませんでした.結果,障害のない方の職 員のストレスがまずはありました.利用者,障害者にもストレスにな って,2人を入れ替えました.だめでした.そういう失敗はしました

(G法人).

(出所)筆者作成

社会的企業と当事者参加 50

(18)

したプロセスに呼応するように,【サービスの側面】において,事業所が入る建物の清 掃(G法人)といった「運営維持」や野菜売り場での売り子としても「代替」的に活 躍(G法人)するだけでなく,部署の責任者や市場の主任として,部下である他の当 事者を支援,つまり「当事者間支援」をおこなっていた。

しかし,【政治的側面】において,「十分ではない経営参加」の状態にあり,G法人 では理事会への当事者職員の参加や全体集会の開催など,「経営参加の方法論提示」を 当事者に示していっている状態であった。また,【経済的側面】において,当事者の参 加を高めるために配慮すべき,「適性というリスク」,「危険性というリスク」,「限界と いうリスク」の存在も明らかになった。掃除の仕事は,知的障害の人びとにとっては貴 重なものだが,発達障害の人にとっては心理的な壁がある(「適性というリスク」)。ま た,バーンアウトする危険性があったり,仕事に対して不安な思いを抱えていたりもす る(「危険性というリスク」)。さらに,当事者の限界を見極める必要性もあった(「限界 というリスク」)。

9 「参加の内容」におけるカテゴリー,コード,データ

参加の段階 カテゴリー コード データの抜粋

参加の内容 経済的側面 役割レベル の向上

●この10年間で今納豆,デリ,せんべいを一つの部署でいろいろなも のを作っているのですが,せんべいの部署の,障害者でありながら,

責任者になっています.最初は月給1万円くらいから出発して,今4 万くらいになっているんです.5万まであと一息です(F法人).●障 害者の方の中には,法人の責任者とはいかないですが,1つの部署の 責任者となっている人はいますね(F法人).●(Nさんは市場の)主 任で.みんなあそこで手伝いしながらね.彼が戻るとみんな台車をも ってきてという関係が出来上がっています(G法人).●最近あった のは,かなりシビアな状態にあったひきこもりと発達障害,及び精神 の障害がある人がいて,うちに始めてきたのがまだ倉庫でやっている 頃です.最初週15時間で,数字が強かったので経理をやってもらった んです.順調にきて週35時間までいって,経理を任せていたんです

(G法人).

業務の上で は主役

●昼からはまた納豆デリ作ってるところにいきますが,そこは働くと いう感じで,作業所というよりは本格的に働いている,かといって障 害程度は軽くないのですが(F法人).●個別現場では主体的にやって いただいており,むしろ主役のようになっています(G法人).●当 事者職員でレストランで働いてくれているOさんも想像以上に能力高 くて,薬を使ってコントロールできているので,職場ではほんとは支 援が必要なのですが全く必要ない(G法人).

適性という リスク

●発達障害の人たちは,心理的にお掃除には入れない.障害を受容す るように,仕事を受容するという課題があります(G法人).●知的 障害の人にとって,掃除の仕事は非常に貴重です.厨房で働くのは大 変難しいです(G法人).

危険性とい うリスク

●当事者職員のうち,レストランで働いてくれているOさんも想像以 上に能力が高くて,薬を使ってコントロールできているので,職場で はほんとは支援が必要なのですが,全く必要ない.バーンアウトする 危険性があるので.そこだけちょっとね(G法人).●市場のNさん は,仕入れに関しては不安を持っています.一時期G法人を辞めよう となったり(G法人).

社会的企業と当事者参加 51

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