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自治体議会改革の成果と構造 : 基礎自治体パネル データからの分析

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(1)

自治体議会改革の成果と構造 : 基礎自治体パネル データからの分析

著者 長野 基

出版者 法学志林協会

雑誌名 法学志林

巻 116

号 1

ページ 110(31)‑73(68)

発行年 2019‑01‑31

URL http://doi.org/10.15002/00023105

(2)

自治体議会改革の成果と構造

──基礎自治体パネルデータからの分析(1)──

長 野   基

1.研究の背景と目的

 本研究は 2000 年代以降に展開された市町村議会(政令市・特別区を除く)

における議会改革(2)が自治体の政策パフォーマンスへどのような成果を如何なる 構造のもとでもたらしたのかを,議員任期 2 期分に渡って毎年度実施された全 市町村議会対象質問紙調査と国勢調査等の社会経済統計データとを統合して分 析を行うものである。

⑴ 自治体議会改革を巡る外部環境の変化

 「2000 年代以降」という時期区分を設けた理由は,少なくとも,1970 年代以 降,研究者・実務者双方で議会改革が問題として捉えられてきたからである

(新川 2006)。例えば,1973 年には都道府県議会議長会「議会制度研究会」か

一一〇

(1) 本研究は JSPS 科研費 JP26285033「日本の基礎自治体における議会改革の固有性と普遍性の 解明」の助成を受けたものです。様々なご助言・ご支援を賜った法政大学ボアソナード記念現代 法研究所自治体議会プロジェクトの皆様(敬称略)[廣瀬克哉(法政大学),細井保(法政大学),

西田幸介(法政大学),土山希美枝(龍谷大学),野口暢子(長野県立大学),正木寛也(衆議院 法制局),岡﨑加奈子(法政大学)]に厚く御礼申し上げます。また,研究の基礎となる調査資料 利用へ様々に便宜を図って下さいました「自治体議会改革フォーラム」事務局様に深く御礼申し 上げます。なお,本稿は長野(2016b,2017bc)を基に作成したものです。

(2) ここでの改革には自治体議会内での審議・政策決定プロセスの変革と,議会・首長・住民の 間での関係性の変革の 2 つの領域が相互応答的に存在すると言えよう。これらの取組みを新川

(2013)は「議会のガバナンス」と「ローカル・ガバナンス」の改革として整理している。

(3)

一〇九

ら『都道府県議会の改革についての意見(3)』が提起されている。ここでは,当時 の住民運動の盛り上がりに対する議会としての対応を主たる関心事項として議 会・議員のあり方が議論された。したがって,自治体議会改革の研究は対象時 期が論点となるが,次に見る外部環境の変化を踏まえ,本研究では 2000 年代 以降に焦点を絞ることとする。

 その第 1 の変化は,1990 年代末の地方分権推進委員会勧告と 2000 年分権一 括法以降の法改正の中で実現されてきた,①議員定数への規制廃止や参考人招 致を本会議で行うことを可能とする制度改正等を通じた「組織編成と審議手続 きの自由化」,②法定受託事務の議決対象化や議長への臨時会招集権付与など を通じた「政策決定領域と首長への統制権限拡大」,という法制度環境の変化 である(長野 2017a)。

 第 2 の変化は改革の争点の変化である。廣瀬(2016)は自治体議会改革の展 開を「2000 年の分権一括法施行に向かっていく時期」と,2000 年代後半から の「議会基本条例時代」とに区分し,後者で普及したものとして「議会報告会 や議会と市民の対話の場」を指摘する。1997 年に出された地方分権推進委員 会『第 2 次勧告』では,「住民の理解を深める」ため,「住民と議会とが直接意 見を交換する場」の設定が自治体側の努力義務とされた(4)。「議会報告会」(意見 交換会の場)の拡大(5)は,結果として,地方分権推進委員会から 20 年を経て,

その勧告の趣旨が実現されてきたともいえる。

 第 3 の理由は競争の可視化の進展である。そのひとつが“順位付け調査”の 充実である。『日経グローカル』(日本経済新聞社産業地域研究所)による「議 会改革度ランキング」(市区議会対象)や早稲田大学マニフェスト研究所議会 改革調査部会による「議会改革度調査(6)」(全都道府県市区町村対象)が議会関

(3) http://www.gichokai.gr.jp/kenkyu/pdf/report_481114.pdf(最終アクセス:2018.7.11)

(4) 田口(2008:240)は「第 2 次勧告は議員の意識という政策の規定する環境に変容を訴えるこ とによって議会というメタ政策システムの変化を促した」と指摘している。

(5) 早川(2014)ではハーバーマスの議論から,代表制を機能させるうえで,議会と議会外での ダブルトラック(二重構造)の必要性が提起されるが,議会報告会が議会と議会外とを制度的に つなぐことを担いうるのか,は政治思想領域から投げかけられる研究課題の一つ言えよう。

(4)

一〇八

係者注目の主な全国ランキングである。また,早稲田大学マニフェスト研究所 が実行委員会形式で共催する「マニフェスト大賞(7)」の受賞も“ブランド価値”

を高めるものとして認知されているといえよう。

 そして,第 4 の変化が自治体議会改革への国政政党の態度であり,注目され るのは統一地方選挙直前にあたる 2011 年 1 月の時点で提起された「公明党の めざす地方議会改革への提言─地域主権の確立のために─」(2011 年 1 月 12

(8)日

)である。ここでは,議会基本条例の制定推進や「議会報告会」実施推進が 謳われている。大選挙区制度という選挙制度の要素から政党による組織化がな かなか進みえない市町村議会であっても政党として組織力を持つ公明党(9)が議会 改革へ党として方針を出したことは,各自治体での所属議員の行動を方向付け るものである(10)

⑵ 定点観測調査の発展とデータセットの選択

 個別議会単位での行動選択を記録する大規模な定点観測調査が,議長会組織,

研究機関に加え,民間アドボカシー組織によっても行われてきたことも 2000 年代以降の特徴である。

 市区町村議会の行動を継続的に記録する“自治体議会版国勢調査”とも呼べ る公的調査が全国市議会議長会「市議会の活動に関する実態調査(11)」および全国

(6) http://www.waseda-manifesto.jp/gikaikaikaku(最終アクセス:2018.11.25)

(7) http://www.local-manifesto.jp/manifestoaward/(最終アクセス:2018.11.25)

(8) https://www.komei.or.jp/policy/various_policies/pdf/20110117chihogikai.pdf(最終アクセ ス:2018.7.11)

(9) 平成 28 年末時点の市区町村議会議員(政令指定都市を含む)は全体で 307,334 人である。こ こでは無所属が 21,465 人(70.8%)と大半を占めるのではあるが,これを除くと,所属党派別で は公明党が 2,708 人(8.9%)と最大の割合を占めている。出所:総務省「地方公共団体の議会の 議員及び長の所属党派別人員調等(平成 28 年 12 月 31 日現在)」(http: //www.soumu.go.jp/

senkyo/senkyo_s/data/syozoku/h27_00001.html 最終アクセス:2018.7.11)

(10) 公明党がこのような政策決定を行った理由については重要な研究課題である。

(11) 全国市議会議長会 Web サイト「市議会の活動に関する実態調査結果」(http://www.si- gichokai.jp/research/jittai/index.html 最終アクセス:2018.8.10)

(5)

一〇七

町村議会議長会「町村議会実態調査(12)」である。両悉皆調査では,毎年度,少し ずつ設問項目を変えながら市町村議会の動向が観測されている(13)。しかし,町村 議会議長会調査での議員報酬と議員定数に関する項目を除き,個票データは公 開されていない(14)。また,ランキング形式で刊行される先述の早稲田大学マニフ ェスト研究所調査も全自治体議会対象に毎年度実施されている貴重なデータセ ットであるが,こちらも本稿執筆時点では個票データは公開されていない。

 そこで本研究では法政大学ボアソナード記念現代法研究所自治体議会プロジ ェクトが議会改革へのアドボカシー活動を行っている「自治体議会改革フォー ラム(15)」と実施してきた「全国自治体議会の運営に関する実態調査(16)」(全自治体 議会対象郵送自記式調査。以下,「全国調査」と略記。)のデータ(表 1)を用 いることとする。その理由は調査対象年毎の各市町村議会の行動及び状況が

『議会改革白書(各年版)』として刊行され(2015 年の活動状況まで(17)),その巻

(12) 全国町村議会議長会 Web サイト「町村議会実態調査結果の概要」(http://www.nactva.

gr.jp/html/research/index.html 最終アクセス:2018.8.10)

(13) たとえば,町村議会議長会調査では,2006 年の第 52 回調査より,議会基本条例と議会報告 会(住民懇談会)を調査項目として採用している。北海道栗山町議会基本条例が 2005 年制定の ため,その翌年から計測が開始されたことになる。一方,市議会議長会調査では,2007 年中を 対象にした調査より議会基本条例を掲載しているが,議会報告会(意見交換会)の実施状況を独 立した調査項目としたのは,2011 年中を対象にした調査からである。両調査での設問項目の変 化は各議長会の調査部門の認識の変化を現すものともいえる。

(14) 2017 年 7 月 1 日現在での町村別議員定数・議員報酬は全国町村議会議長会 Web サイト「町 村議会実態調査結果の概要」(脚注 12)にて公開されている。

(15) 「自治体議会改革フォーラム」(http://gikai-kaikaku.net/index.html 最終アクセス:2018.

11.23)は市民や議員,研究者,自治体行政職員・議会事務局職員らで構成する「市民と議員の 条例づくり交流会議」(http://jourei.jp/ 最終アクセス:2018.11.23)から派生した活動である。

同交流会議の活動経緯については「市民自治体(citizen municipality)」の観点から Tsubogo

(2014)が分析を行っている。

(16) 2014 年 1 月実施の調査から 2017 年調査までが法政大学ボアソナード記念現代法研究所自治 体議会プロジェクトと共同で実施されたものである。2009 年・2010 年・2011 年の調査は,財団 法人トヨタ財団研究助成プログラム「くらしといのちの豊かさをもとめて」より研究助成(「『自 由討議』『市民参加』『情報公開』『政策立案』に着目した自治体議会改革についての実践的研究」

代表者:長野基)を受けて自治体議会改革フォーラムが実施したものである。調査にご協力いた だいた各自治体議会事務局の皆様に厚く御礼申し上げたい。

(6)

一〇六

末資料で各議会の個別回答結果が公開されているからである(18)。個票データが公 開されていることにより,分析の反証可能性が担保されている。

 分析にあたっては 2008 年から 2015 年までの各年中の活動を対象とし,その 全年次の調査に回答した市町村議会であって,かつ,活動調査対象期間前後に 当たる 2007 年度と 2016 年度の決算資料が総務省のインターネット公開データ より得られた 906 市町村議会(政令指定都市・特別区を除く)を対象とする(19)。  政令指定都市・特別区を除いた理由は,自治体議会の行動を規定する基本的 制度の条件を統制するためである。その代表が選挙制度であり,もう一つは各 種の政策立案行動の前提となる財政制度である。前者より本研究では小(中)

選挙区制度を採る政令指定都市を対象外とする(20)。後者の点からは,都区財政調

(17) 2016 年の 1 年間の活動を対象とする 2017 年調査の結果は長野(2018)にまとめられている。

(18) 『議会改革白書』発行元の生活社より各年度版調査回答一覧データセット DVD(Excel デー タ形式)も実費頒布されている。なお,筆者は調査スタッフとして同「全国調査」および『議会 改革白書』刊行に参加しているが,本論文での見解はあくまでも筆者個人によるものである。

(19) 市町村合併の関係で決算データが総務省統計より入手できない自治体を除外している。加え て,原発事故の被害を受けた福島県浪江町についても 2015 年国勢調査人口がゼロ人のため,人 口数で各種数値を除する操作ができず,分析から除外している。

(20) 市町村合併後の経過措置として例外的に編入した旧町村単位で小(中)選挙区を用いている 自治体も存在するが,そこから選出される議員数は当該議会議員に占める比率が低いため,一括 して大選挙区制度と見なし,対象に含めることとする。一方,調査対象期間内に政令市に移行し た岡山県岡山市(2009 年 4 月 1 日移行),神奈川県相模原市(2010 年 4 月 1 日移行),熊本県熊

表 1:自治体議会改革フォーラム「全国自治体議会の運営に関する実態調査」概要

番号 調査対象期間 調査実施時期 対象市町村数 回答数 回収率

1 2008 年 1 月 1 日~12 月 31 日 2009 年 1 月 1764 1424 80.7%

2 2009 年 1 月 1 日~12 月 31 日 2010 年 1 月 1743 1439 82.6%

3 2010 年 1 月 1 日~12 月 31 日 2011 年 1 月 1708 1603 93.9%

4 2011 年 1 月 1 日~12 月 31 日 2012 年 1 月 1700 1407 82.8%

5 2012 年 1 月 1 日~12 月 31 日 2013 年 1 月 1699 1476 86.9%

6 2013 年 1 月 1 日~12 月 31 日 2014 年 1 月 1699 1493 87.9%

7 2014 年 1 月 1 日~12 月 31 日 2015 年 1 月 1698 1467 86.4%

8 2015 年 1 月 1 日~12 月 31 日 2016 年 1 月 1698 1463 86.2%

9 2016 年 1 月 1 日~12 月 31 日 2017 年 1 月 1698 1396 82.2%

 出所:廣瀬ほか編著『議会改革白書』各年度及び全国調査 2017 年版より筆者作成

(7)

一〇五

整制度での財源再配分を行う特別区を対象外とする。

⑶ 研究の概要

 本研究では,データセットとする自治体議会改革フォーラム「全国調査」か ら明らかにされる,①議会報告会実施など,種々の取り組みを“入力”として の改革の基本項目,②産業振興や環境保護等の各政策分野での自治体の行動を 定める条例を議員(委員会)提案で制定することなどで現れる議会としての政 策的意思の行使を“政策出力”とする。そして,③「地方公共団体の財政の健 全化に関する法律」(以下,健全化法と略記)で導入された実質公債費比率の 変化値にみる財政改善を“政策パフォーマンス”指標とし,合わせて,④国勢 調査等からの社会経済変数のこれら①~④の関係性を見ることで自治体議会改 革の成果と構造を分析する。

 以下,第 2 章では既往研究の検討から本研究の位置づけを整理する。第 3 章 では議会改革と自治体議会の政策出力を巡る言説の検討を踏まえ,「全国調査」

データから自治体議会の現状を概観し,そこから,研究上のパズルを抽出する。

続く,第 4 章で分析モデルの設定を行い,第 5 章にてパス解析からの分析結果 を示す。そして,第 6 章で析出されたモデルへの考察を行い,第 7 章にて研究 全体のまとめを示す。

2.既往研究の検討

 自治体議会のガバナンス改革を巡る分析では,事例研究から議会内リーダー シップ行使の様態や首長側選挙公約への議会側の応答という要素(佐々木 2016)が指摘されてきた。また,実務者の観点では,議長のリーダーシップ

(相川 2017)に加えて,「議会局『軍師』論」(清水 2015)のように議会事務局

(議会官僚制)の活動に注目する議論も行われてきた。しかし,市町村議会の

本市(2012 年 4 月 1 日移行)は調査期間全体を通じて政令市と見なして分析から除外している。

(8)

一〇四

ガバナンス変化を計量的に分析した研究は少ない。

 そうした中にあって,筑波大学大学院人文社会科学研究科文部科学省特別推 進研究グループ(代表:辻中豊・筑波大学教授(当時))による「行政サービ スと市民参加に関する全国自治体調査(JIGS-LG)」(2007 年 8~12 月。全市 区町村対象)(辻中・伊藤編 2010)は,議会を含む自治体の制度パフォーマン スへの包括的な実証研究として貴重な成果である。

 JIGS-LG 調査では自治体議会のガバナンス変化として,ア)本会議議事録 のウェブ公開,イ)委員会傍聴制度,ウ)委員会議事録の公開,エ)全員協議 会議事録の公開の 4 項目が測定された。そして,人口規模が大きいほどこれら 4 項目で見る「透明性」が進むことから「開かれた議会改革への改革は項目に よって異なるものの,都市部が先行する形で進んでいることが分かった」(濱 本 2010:141─142)とされた(21)

 次に,本研究と同じく自治体議会改革フォーラム「全国調査」を活用した研 究では,木下・加藤(2017)による市町村議会における議員定数・報酬削減と 議会改革の関係を考察したものがある。ここでは『議会改革白書 2014 年版』

掲載個票データから,議会改革のための「特別委員会の設置」及び「常設の議 会改革推進組織」が定数削減の有無へ有意に影響を与える一方,報酬削減の有 無へは「調査会・検討会での検討」並びに「常設の議会改革推進組織」が有意 な影響があることが析出されている。また,議会費の大きさが定数・報酬削減 の有無に有意に影響を与えていることも示されている。

 一方,自治体議会の「政策出力」のひとつである議員提案条例を巡る計量分 析では,都道府県議会を対象とする研究で様々な知見が蓄積されてきた(22)。その

(21) しかし,ア)ウ)エ)は実施を担う議会事務局の職員数と外部委託で処理するにしてもその ための費用が希少な町村議会で完全に遂行されることは難しい。町村議会での議会事務局職員数 は 1 議会あたり平均 2.5 人である。出所:全国町村議長会「第 62 回町村議会実態調査結果の概 要」(http://www.nactva.gr.jp/html/research/pdf/62_2.pdf)(最終アクセス:2018.07.11)

(22) 市議会を対象とした研究では増田(2007)による群馬県内 11 市議会の調査がある。ここで は常任委員会開催日数と議員提出案件数に高い相関関係が確認されるが「議員提出案を処理する ために常任委員会が開催されている」と解釈されている。

(9)

一〇三

第 1 の視点は首長・議会関係での党派性およびそれに立脚した対立構造に着目 する研究である(辻 2006a・2006b,曽我・待鳥 2007,馬渡 2010,築山 2014)。

 第 2 の視点は議会あるいは議員が持つ政治文化からの分析である。都道府県 議会議員を対象にした中谷(2009)・小林(2010)では,アンケート調査から 政治文化を析出し,その回答結果と議員提案条例数との関係が分析されている。

 第 3 の視点は議会の補佐機構の大きさ(充実度)に注目する視点である。中 谷(2008)は全都道府県議会議員を対象にした調査から議会事務局の体制に満 足している議員ほど政策立案活動に積極的であり,かつ実際に議員立法を行っ ていると指摘する。

 そして第 4 が議会の行動と社会経済的条件との関係からの分析である。築山

(2014)では Fukumoto(2008)による「立法生産性(23)」の議論に依拠して,課 税対象所得で観測される自治体経済の状況変化と都道府県議会の立法行動との 関係が分析されている。

 最後に,本研究が注目する自治体の財政状況と議会の様態との関係について は,日本の市議会における女性議員比率に着目した Suzuki & Avellaneda

(2018)がある。ここでは,女性議員の比率(24)が高まると,公債発行額と公社・

公団・公営企業体への投資額が低くなること,すなわち,「リスク回避型の財 政判断」が行われることを発見している。しかし,議会改革の取組みと財政状 況との関係性は分析の焦点とはされていない。

 以上で見たように自治体議会のガバナンス改革と,議会による政策出力(議

(23) “合理的主体としての議会が立法を行うのは社会経済的及び政治的環境変動への対応のため である”という前提に立つ。環境変動がなければ立法による限界便益はない(即ち,コストをか けて効用を得る価値がないと判断される)ため,立法を行う動機が働かないという構図である。

なお,Fukumoto(2008)では,社会経済的変動はインフレーション率,GDP/GNP 変化率,

人口変化率で観測され,政治的変動の要素は直近の総選挙からの経過年数および現在の首長(首 相,大統領)が与党トップとなってからの経過年数で観測されている。政権交代(あるいは選挙 後)は選挙公約で用意したものなどを一気に立法化するが,年数が経過すると,その当初準備さ れていたアイデアが徐々に尽きるので立法する案件が減少するというのが基本的枠組みである。

(24) 市川房枝記念会女性と政治センター出版部『全地方議会女性議員の現状─女性参政資料集』

2007 年版と同 2011 年版から女性議員比率データが採録されている。

(10)

一〇二

員提案政策条例)については,それぞれ,一定の蓄積がある。しかし,市町村 議会を対象にした議会改革の内容と政策出力,そして,政策パフォーマンスの 変化との間の関係性を長期的な観察を踏まえて解析する研究の蓄積はほとんど ない(25)。こうした研究上の空白を埋めることに本研究の意義があるといえよう。

3.統計データにみる自治体議会改革の動向

⑴ 自治体議会のガバナンス改革と政策出力を巡る言説の検討(26)

 議会改革として取り組まれるどの側面に着目し,何をもって,自治体議会改 革の成果として測定するのか,は規範的認識とも連動する問題である(27)。  2000 年代半ばの時点で唱道された代表的な提言を振り返れば,第 1 に一問 一答方式により論点を明確にして傍聴者へも分かりやすい質疑を行い,審査・

監視力を高めること,第 2 に政策審議が行われる委員会を公開し,表決での各 議員の賛否も議会報等で住民に分かりやすく伝えて透明性を担保すること,そ して,第 3 に議員間の討議,即ち,熟議により議会意思の形成を図ることと整 理される(第 2 次地方(町村)議会活性化研究会 2006,自治体議会改革フォ ーラム編 2007)。

 こうした改革言説へは前提としている議員像・有権者像に問題があるとの批 判が行われている。その代表例がヒジノ(2015:152─153)によるものである。

(25) 長野(2012)も自治体議会改革フォーラムによる「全国調査」を活用した研究であり,議会 改革の内容と議会による議員立法及び議案修正との関係に対して計量分析を行っている。しかし,

独立変数とする議会改革の項目は 2010 年中の活動実績値のみを対象とし,また,社会経済変動 との関係性は分析されていない。

(26) 本節は長野(2017b)の成果を基に整理している。

(27) 例えば,議会基本条例の制定を巡っては,森(2011)が議会基本条例と自治基本条例とは本 来的には一体化して整備すべきという観点から「栗山町の議会基本条例の出現によって,実に安 直な議会基本条例の独り歩きが大流行になって全国に広がっているのである。栗山町の制定方式 が「良いモデル」のように流行するのは異常である。それを推奨するがごとき言説は誤りであ る。」と批判を行っている。

(11)

一〇一

ここでは,「代表,応答,参加,説明責任の間のトレードオフ関係についての 認識がないため,特定の民主主義モデルを目指すような動きがなく,分裂症的 で効果的でない改革が行われている」という認識のもと,「現行の議会基本条 例などは多分に地方政治家の動機について性善説に立ち過ぎている」のであり,

同時に「採用が唱えられている議員の採決の賛否記録公開が実現しても,有権 者は個々の議員の記録を精査しなければならない。有権者の大多数はそのよう な時間のかかる複雑な監視業務を引き受けるだろうか」と,有権者に対しても 過大な量の議会への監視業務や参加活動が期待されていると批判する(28)。そこか ら,「必要なことは,明確な選択ができるシステムであり,必要な情報へのア クセスの容易さであり,公約を破った場合,議会と個々の議員が責任をとるし くみである」として,大選挙区制からの選挙制度改革,そして,政党組織によ る規律化を中心とした改革案が提案されている(29)

 一方,議会による政策的出力の側面では,第 2 章で触れたことと重複するが,

そのメルクマールを「議員立法」(議員または委員会提案による条例)とする 研究が多いことが指摘されてきた(中谷 2009)。こうした言説に対しては,立 法を通じた政策決定より世論表出機能及びそれによる情報機能と討議機能こそ が重視されなければならないとする主張(村松・伊藤 1986)や,自治体議会 の権限・資金・支援人員の 3 つの不足から,議会を行政機関に対する監視機関 に特化すべきとすると批判(中邨 2011・2016)が行われきた。

 このようなある特定の機能に焦点を当てる主張に対して,江藤(2017)は

(28) 英国における代議制機関の活性化を巡る代表的な研究である Stoker(2006=2013)も「決 定過程に関する情報を提供するための,いわゆる「サンシャイン」法が過度に推進されるべきで はない」「いつでもどこでも決定の過程を公表させることを目指すような「サンシャイン法」は,

現実的でもなく,望ましくもない」と指摘する。

(29) 一定以上の人口規模を持つ自治体を対象に選挙区や比例代表制の導入を検討することは,

2010 年代に総務省が設置した一連の検討組織からの報告(地方議会のあり方に関する研究会 2014,地方議会に関する研究会 2015,地方議会・議員に関する研究会 2017)でも提起されてい る事項である。なお,地方議会・議員に関する研究会(2017)による選挙制度改革提言へは木寺

(2018)が詳細な批判を行っている。

(12)

一〇〇

「議会からの政策サイクル」の作動として,一連のプロセスとしての議会活動 が年単位及び任期単位で実施されることが重要だと提起する。この「サイク ル」は,①起点としての住民との意見交換会(議会報告会),②住民の意見を 参考にして議会として取り組む課題・調査研究事項の抽出と,それらを踏まえ た決算・予算審議(議会による行政評価実施を通じた決算審査の充実を含む),

③抽出された課題に対する委員会等の所管事務調査による調査研究と政策提言,

を主たる局面とし,それを貫くものとして④自治体総合計画を意識した議会

(議員)活動を行う,とするものである。

 次に,自治体議会による立法を通じた政策決定という点では,議員提案条例 の制定だけではなく,首長側提出議案に対する自治体議会による議案修正も議 会の政策意思を行使する手段である。ここでは議会(議員)側が立案・合意形 成費用を負担して修正案を作成し,可決に至るもの(30)に加え,首長側に修正を図 るように影響力を行使するもの,即ち,議会側が問題点を指摘することで首長 部局側に議案を取り下げさせ,首長部局側での再度の検討・修正を経て再上程 されたものを可決することも該当する(31)。プレジデンシャルシステムにある日本 の基礎自治体で議会が「拒否権プレイヤー」(ツェベリス 2009)としてのポジ ションを持つことがその影響力の源泉ということになる。

 自治体議会研究では行政部局側との水面下での交渉や,行政部局側に「予測 的対応」(C. フリードリッヒ)を引き起こさせることでの議会・議員側の影響 力行使が注目されてきた(村松・伊藤 1986,馬渡 2010,ヒジノ 2015,中邨 2016)。原案可決の場合となった場合でも,議会・議員側の意思が反映されて いないという訳ではなく,当該議案が上程されるまでの過程で,こうした作用 がなされているという指摘である。これは自治体政治の動態を理解する上で重

(30) 国会を対象とした比較政治研究では,執政部門から提出される議案に対し,審議を通じて修 正を図ることで政策的影響力を行使する議会が多数派であることが指摘されている(Heywood 2013)。

(31) 立法専門家が作成する政策案を“よき常識人”の立場から議会が拒否あるいは修正するとい うことは J.S. ミルの議会政治論(ミル 1997)にもみられる一つの議会像である。

(13)

九九

要な視角であるが,質問紙調査からアプローチする本研究では探究が難しく,

過程追跡法による事例分析などによって相補されるべき課題である。

⑵ 自治体議会改革と政策出力の概況

 以上の議論を踏まえ,“入力”たる「改革の基本項目」として,①議会基本 条例の制定,②議会報告会や意見交換会による「市民との対話の場」の実施,

③首長提出議案への議員間討議の実施,次に「議会による政策制御」として,

④基本構想(総合計画)策定・議決関係条例の制定(32),⑤議会としての事業・施 策・計画の評価・点検の実施(33),そして,議会の「政策出力」として,⑥議会・

議員自身の活動を規定するもの(議員定数など)ではない,福祉や産業振興等 の個別政策領域における議員(及び委員会)立法による条例制定,⑦首長提出 議案(直接請求を除く)に対する議会による修正案可決,⑧首長提出議案への

“「取り下げ→出直し→可決」による議案修正”可決,の計 8 項目について,

「全国調査」から市町村議会(政令市・特別区を除く)における当該 1 年間で の状況を年次別に整理したものが表 2 である。

 「改革の基本項目」では,①議会基本条例を制定する議会は 2008 年では約 3% であったものが 2015 年には 4 割を超え,同じく②「市民との対話の場」

を実施する議会は半数を超えるまでになっている。また,③首長議案に対する 議員間討議を行う議会も調査期間内で倍増し,およそ 4 分の 1 にまで拡充して いる。

 次に,「議会による政策制御」では,基本構想策定義務の廃止(規制緩和)

を受けて④基本構想(総合計画)策定・議決関係条例を制定する議会が,2013 年では 3 分の 1 であったものが,2015 年には過半数に達する。そして,⑤議

(32) 基本構想(総合計画)の議決を実際に行ったか否かの実績を問うべきともいえるが,「全国 調査」質問項目に含まれていないため,代替として議決することを定めた条例の有無を問う設問 項目を採用することとする。なお,議決条例の存在は,議会での一般質問での根拠ともなり,そ の意味でも,議会による政策的監視を促すものといえる。

(33) ここでの評価・点検には,議員が一般質問で触れるという場合は含めないものとする。

(14)

九八 2:自治体議会改革の取り組みと政策出力(2008~2015年) 項  目20082009201020112012201320142015 調査回答議会 710 100% 736 100% 764 100% 751 100% 762 100% 751 100% 751 100% 746 100% 町村 714 100% 703 100% 839 100% 656 100% 714 100% 742 100% 716 100% 717 100% 合計1424 100%1439 100%1603 100%1407 100%1476 100%1493 100%1467 100%1463 100% 議会基本条例 (制定済み議会) 28 3.9% 47 6.4% 9111.9% 15220.2% 21428.1% 30340.3% 37650.1% 41455.5% 町村 17 2.4% 26 3.7% 54 6.4% 7711.7% 11716.4% 14920.1% 18525.8% 20628.7% 合計 45 3.2% 73 5.1% 145 9.0% 22916.3% 33122.4% 45230.3% 56138.2% 62042.4% 市民との対話の場 (当該1年間での実施あり議会) 9012.7% 13818.8% 18824.6% 23831.7% 33043.3% 39552.6% 43457.8% 43257.9% 町村 12217.1% 15421.9% 21025.0% 19830.2% 27438.4% 28338.1% 29841.6% 30642.7% 合計 21214.9% 29220.3% 39824.8% 43631.0% 60440.9% 67845.4% 73249.9% 73850.4% 議員間討議 首長提出議案への当該1年間での実施あり 議会)

7410.1% 8210.7% 10614.1% 13718.0% 17323.0% 18324.4% 19926.7% 町村 12517.8% 13616.2% 10516.0% 10915.3% 13117.7% 13518.9% 14620.4% 合計 19913.8% 21813.6% 21115.0% 24616.7% 30420.4% 31821.7% 34523.6% 基本構想(総合計画)策定・議決条例 (制定済み議会) 28638.1% 37750.2% 43758.6% 町村 21529.0% 27838.8% 29741.4% 合計 50133.6% 65544.6% 73450.2% 点検 (当該1年間での実施あり議会)

8 1.1% 12 1.6% 20 2.7% 36 4.7% 35 4.7% 40 5.3% 71 9.5% 町村 1 0.1% 3 0.4% 6 0.9% 13 1.8% 21 2.8% 37 5.2% 41 5.7% 合計 9 0.6% 15 0.9% 26 1.8% 49 3.3% 56 3.8% 77 5.2% 112 7.7% 議員提案条例可決 委員会提出の場合を含む当該1年間での実 施あり議会)

22 3.1% 31 4.2% 27 3.5% 32 4.3% 41 5.4% 57 7.6% 60 8.0% 47 6.3% 町村 12 1.7% 10 1.4% 11 1.3% 10 1.5% 13 1.8% 17 2.3% 20 2.8% 12 1.7% 合計 34 2.4% 41 2.8% 38 2.4% 42 3.0% 54 3.7% 74 5.0% 80 5.5% 59 4.0% 議会修正案可決 首長提出議案における当該1年間での実施 あり議会)

7710.8% 11515.6% 12115.8% 9712.9% 9512.5% 9412.5% 8711.6% 8211.0% 町村 40 5.6% 8512.1% 67 8.0% 54 8.2% 54 7.6% 52 7.0% 46 6.4% 42 5.9% 合計 117 8.2% 20013.9% 18811.7% 15110.7% 14910.1% 146 9.8% 133 9.1% 124 8.5% 取下再提出可決 首長提出議案における当該1年間での実施 あり議会)

29 4.1% 53 7.1% 31 4.1% 48 6.4% 31 4.1% 24 3.2% 町村 40 5.6% 35 5.3% 33 4.6% 46 6.2% 37 5.2% 36 5.0% 合計 69 4.8% 88 6.3% 64 4.3% 94 6.3% 68 4.6% 60 4.1%  注1:表中の西暦表記は当該1年間での活動状況を示す。  注2:表中の「─」は「全国調査」に該当する設問項目が含まれていなかったことを示す。  出所:廣瀬ほか編著『議会改革白書』2009年版から2016年版より筆者作成

(15)

九七

会による事務・施策・計画評価の取り組みは 2015 年段階では約 8% と該当率 は低いものの,2009 年では 1% 以下であったことをみると,その拡充度合い

(変化率)は大きい。

 一方,「政策出力」とした⑥~⑧の項目は,①~⑤の取り組みとは異なり,

右肩上がりの単線的な変化をしているわけではない。まず,⑥議員提案政策条 例を可決した議会については,2011 年までの 2% 台から,2013 年以降は 4%

~5% での推移へと若干だが水準が向上している。次に,⑦首長側提出議案

(直接請求を除く)に対する修正案可決を行った議会は,2009 年をピークに,

その後,一貫して減少している。そして,⑧首長提出議案への“「取り下げ→

出直し→可決」による議案修正”を各年次で経験した議会の割合は,2009 年 と 2010 年を対象にした調査には設問が含まれておらず,測定されていないが,

2008 年以降,おおよそ 4% 台から 6% 台の間で変動を繰り返している。

⑶ 研究上のパズル

 議員提案条例可決などの「政策出力」は,議会報告会のように毎年必ず行う ことができるというものではなく,また,規範的観点からしても毎年すべきと いうものでもない。しかし,全国政党レベルでの動きなどの“追い風”及び観 察されたマクロレベルでの“盛り上がり”(取り組み①~⑤)に対して,「政策 出力」(取り組み⑥~⑧)の定常化というギャップは,研究上のパズルとなる ものである。このようなギャップは,どのような構造から生じるのであろうか。

 これに対しては,集計レベルで観察したがゆえに真の関係性が見えていない 可能性や,各自治体議会がおかれた観測されていない立地条件からの影響も指 摘されよう。そこで,以下,「全国調査」で得られた個票データを用いて,議 会ガバナンスの改革と議会による政策制御,政策出力,そして,自治体の政策 パフォーマンスの変化の各項目はどのような関係にあり,それらに社会経済変 数たる立地条件はどのように作用しているのかを探求してゆく。

(16)

九六

4.分析モデルの設定

⑴ 社会変動

 「立法生産性」(Fukumoto 2008,築山 2014)の議論を踏まえると,市町村 議会による政策条例の立法活動へはその直前の時期に生じた社会変動が作用す るという仮説が導かれる。また,同じく直前期の社会変動が議会改革の動向に 有意に作用しているならば,自治体議会改革はそうした社会変動への応答であ ったという含意が導かれる。そこで,本研究では,実施時期の問題から議会改 革計測期間と 2 年間重複するが,2000 年から 2010 年の国勢調査人口における 変動率(34)を直前期の社会変動を示す変数とする(35)

⑵ 社会経済変数(立地条件)

 本研究では,ア)財政力,イ)アクティブな市民セクター組織の厚さ,を立

(34) 2000 年から 2010 年の間での国勢人口増減率は,総務省『平成 19 年度市町村別決算状況調』

に掲載されている「国勢調査人口(平 17.10.1)」についての「対平 12 増減率」,そして,2005 年 と 2010 年の国勢調査人口は総務省統計局『統計で見る市区町村のすがた 2007』及び『統計で見 る市区町村のすがた 2012』を出典として得られた実数値上の 2010 年国勢調査人口についての

「対平 17 増減率」を用いて計算した(「2000 年-2010 年国勢人口増減率」=「(1+対平 12 増減 率)(1+対平 17 増減率)-1」)。ただし,「対平 12 増減率」は小数点以下 2 桁のみの記載のため,

実数値からは一定の誤差が含まざるを得ない。「平成の大合併」が進んだ 1990 年代後半から 2000 年代半ばにあって,市町村合併による人口変化が調整されたデータを採用する必要があり,

その意味で総務省統計局『統計で見る市区町村のすがた』は適したデータソースである。しかし,

インターネット上では 2005 年国勢調査人口から Excel ファイル形式で公開となっているため,

2000 年国勢調査人口データを得ることが出来なかった。そこで,代替として同じく Excel ファ イル形式で公開されている総務省『平成 19 年度市町村別決算状況調』にある「対平 12 増減率」

を用いている。

(35) 2000 年から 2010 年の国勢調査人口変動率と 2005 年から 2010 年における課税対象所得の変 化率との間には高い相関が認められた(r=.791, p<.01)。人口変動率は当該市町村の経済的繁 栄度の代理変数とすることが可能と言える。

(17)

九五

地条件観測の社会経済変数に設定する。第 1 に財政力は政策立案・採択行動の 基礎的条件を規定する(伊藤 2002)。本研究では財政力指数(2008 年と 2015 年度決算の平均値)を観測変数として採用する。議会の立法活動には,それを 支える人的・資金的資源の大きさを考える必要がある。前者は議会事務局人員

(数),後者は政務活動費(金額(36))であり,それらは議会費(2008 年と 2015 年 度決算の平均値)の大きさに反映されるであろう。

 次に,有権者の投票行動や,それに作用する政治文化を考える上で都市化の 度合いも無視できない要素である。本研究が対象とする市町村議会(n=906)

での都市化度合いを全人口に対する DID 人口比(2015 年国勢調査値)で見た ところ,財政力指数(2008 年と 2015 年度決算の平均値)との間に高い相関が 認められた(r=.657, p<.01)。多重共線性への対応から財政力を都市化の代 理変数としても観察することとする。

 第 2 に,「アクティブな市民セクター組織の厚さ」を取り上げるのは,市民 社会組織からの圧力と自治体議会改革との関係を見るためである。公共利益団 体研究の文脈では社会福祉活動団体や環境保護団体は,「政策受益団体」「価値 促進団体」(村松・伊藤・辻中 1986)あるいは,「社会サービスセクター(団 体)」「アドボカシーセクター(団体)」(辻中編 2002)という区分から分析さ れてきた。自らが志向するサービス供給や価値目標実現のために,政府・自治 体による財政的支援や政策的介入を志向するという点で,市民社会組織の大き さは財政支出削減へのブレーキ役となることが予想される。

 一方,市民社会組織と自治体の政策パフォーマンスの関係はソーシャル・キ ャピタル研究において,Putnam(1993=2001)以降,重要な研究テーマとな った。日本における代表的な研究が,“アクティブな市民社会組織の豊富さが

(36) 十分な額の政務活動費があれば,それを活用して民間シンクタンクを政党・会派による政策 立案に参与させることが可能となる。本研究では対象外としているが,議員立法で制定された

「横浜市中小企業振興基本条例」等で中核を担った自民党横浜市連の鈴木太郎横浜市会議員(政 務調査会長・当時)は条例検討のプロジェクトチームに政務活動費を利用して外部のシンクタン クを加えたと報告している(「横浜市会における議員提案条例の取り組みについて」,市民と議員 の条例づくり交流会議 2015,2015 年 7 月 26 日,法政大学市ヶ谷キャンパス)。

(18)

九四

自治体の政策パフォーマンスを決める”というモデルに対する批判から,都道 府県レベルで整理・刊行されている環境団体と消費者団体の名簿を用いた計量 分析と,弁護士らによる「市民オンブズマン」活動の事例分析を用いて「市民 エリートによるシビック・パワー」仮説を提起した坂本(2010)である。

 「政策受益団体/価値促進団体」の視角に立てば,歳出拡大という政策志向 に加えて,社会的ロビイングの機会となる市民と議会との「対話の場」の設定 が希求されることが予想される。一方,「シビック・パワー」の視角に立てば,

議会そして自治体に対して,情報公開による規律化の圧力と「無駄な支出はさ せない」という支出削減圧力となることが予想される。

 こうした対立点の分析に対して,市町村の政策決定過程と NPO 法人の行動 とを具体的に測定したデータセットとして JIGS-LG(辻中・伊藤編 2010)が ある。しかし,ここでは回答個票に市町村名が公開されていないため,「全国 調査」データセットとの突合ができない。

 そこで,本研究では日本を代表するインフラストラクチャー組織である日本 NPO センターが呼びかけるデータベースに自ら登録した NPO 法人を見るこ とで市町村レベルでのアクティブな市民セクターを代替的に測定するものとす る。具体的には政令市・特別区を除いた市町村における人口千人当たりでみる 日本 NPO センター「NPO 法人データベース NPO ヒロバ(37)」に登録する NPO 法人数(2017 年 4 月 17 日現在)を観測変数とする(38)

(37) 日本 NPO センター「NPO 法人データベース NPO ヒロバ」(www.npo-hiroba.or.jp)(最 終アクセス:2017.4.17)。「NPO ヒロバ」は自治体ごとに NPO 法人が情報登録されている。そ こで,市町村合併による自治体名の変更を調整した上で,2017 年 4 月 17 日現在の市町村当たり の登録団体数を 2015 年国勢調査値でみる人口総数で除したものを観測変数とした。

(38) NPO 法人の地域的分布を規定する最大の要因が人口分布であること,そして,経済中枢性 も規定要因となっていることを 2004 年時点での全 NPO 法人を対象にした西出・埴淵(2005)

は指摘する。この研究では,全人口の 6.4% を占める東京都(特別区)に NPO 法人の 20.7% が 集中し,同様の集中の構図が各県の県庁所在地と他市町村との間で確認されている。経済中枢性 バイアスを低減させるためには“外れ値”である県庁所在地市をデータセットから除外する必要 があるが,大選挙区制における議会の行動を見るという目的を優先したため,本研究では除外は していない。このバイアス処理は今後の課題である。

(19)

九三

⑶ 政策パフォーマンス

 本研究では自治体としての財政規律に注目し,議会改革計測期間(2008 年 から 2015 年)直前・直後での実質公債費比率の改善値(2007 年度決算値から 2016 年度決算値を減じた変化量)を政策パフォーマンス指標として測定する(39)。 江藤(2017)が示す「議会の政策サイクル」モデルが作動していると言える場 合には,議会への市民参加による支持調達を基盤としつつ,首長部局の事業・

施策に対する議会としての議決や評価活動を行い,政策的制御・監視を行うと いう議会像となる。その帰結の一つに財政規律改善がある,という想定である。

 ここで,「事業・施策の評価」は,首長部局におけるものでは,経済低成長 下での歳出削減を実現するものとして期待されてきた面がある(新世紀自治研 究会 2000)。そのため,議会による評価・点検の実施年数が実質公債費比率の 改善に正の因果効果を持つならば,首長部局による評価と同じベクトルで行わ れているということが言える。しかし,議会による「事業・施策に対する評 価」は,予算削減を志向するものとはかぎらない。支持調達のために積極的な 財政支出を志向するものとなる場合もあり得る。このことは,自治体の政策運 営の基本的枠組みとなる総合計画の議決を巡るものにも当てはまる。その理由 は,自治体議会の制度配置からの誘因構造にある。

 政治学における合理的選択制度論の視角からは,日本の市町村における首 長・議会関係は,首長が自治体全体を単一選挙区とする独任ポストであるがゆ えに「地方政府全体に関するマクロで集合財的な政策課題への関心」をもち,

「議会は個々の議員の選挙区や支持者などに関係するミクロで個別財的な施策

(39) 健全化法により自治体の各種会計ならびに出資した団体の財務状況を包括する指標として将 来負担比率が導入された。しかし,将来負担比率は,ある一定値以下の場合は「-」として総務 省が取りまとめる『決算カード』に表示されるため,変化が追跡できない。そこで次善の策とし て実質公債費比率を採用している。なお,実質公債費比率は総務省統計局発刊『統計で見る市区 町村のすがた』の 2011 年版から従来の公債費比率に代わって自治体財政を示す項目として採用 されている。2016 年度決算値は『統計で見る市区町村のすがた』(2018 年度版)より収集し,

2007 年度決算値は総務省『市町村別決算状況調査(平成 19 年度版)』より収集している。

(20)

九二

課題への関心を持つ」(曽我・待鳥 2007)。その結果として「現状維持(sta- tus quo)志向」(砂原 2011)になるとされる。議会(議員)側は個別利益の 代表・配分を追求し,首長側が集合的利益の増進を図る分業関係である(待鳥 2009)。

 「議会基本条例時代」(廣瀬 2016)の 10 年間においても,基幹的政治制度で ある執政制度と選挙制度は変化していないため,議員とその集合体としての議 会の行動を規定する誘因構造は変化していないといえる(待鳥 2015)。そのた め,議会による評価・点検も,計画議決による制御も,議員立法等による議会 による政策出力も,歳出拡大,即ち,実質公債費比率の改善には負の効果をも たらすと予想される。議会改革の進展から財政規律改善に対して統計的に有意 な負の因果関係が確認されれば,砂原(2011)が提示する自治体議会の利益配 分・「現状維持(status quo)志向」仮説がより強く支持されるといえる。

 一方,政治文化研究では,クラーク・小林(2001)が提示する“社会的には リベラルだが,財政的にはコンサーベティブ”と要約される「ニューポリティ カル・カルチャー(NPC)」のインパクトが注目されてきた。この NPC 研究 は主には首長に対する分析から行われてきたが(40),政治文化の変容は議員そして 議会においても生じているかは重要な研究課題である。とりわけ,議会に対す る市民参加の拡充の項目と財政規律改善とに有意な正の関係が析出されれば,

市町村議会における NPC の浸透ということが示されよう。このことは,合理 的選択制度論から予想される議会行動の不変性に異議を唱えるものであり,制 度配置からの拘束を覆す政治文化変容からの影響の大きさを示すものとなる。

⑷ 分析の基本モデル

 以上を踏まえ,本分析での基本モデル(図 1)として,「改革の基本項目」

となる取り組みが直接的に政策パフォーマンスの変化へ影響を与えるだけでな

(40) 代表的研究が中谷(2005)である。ここでは「日本で「NPC」に類型化される市長は,

NPC 的市民が多いとされる専門職従事者比率が高い自治体において存在する傾向」(中谷・前掲 書;222)が明らかにされている。

(21)

九一

く,「議会による政策制御」,並びに,「政策出力」を経由する 2 つのルートを 通じても,間接的に政策パフォーマンスへ影響を与える,というものを設定す る。一方,組織資源としての議会費の大きさは「改革の基本項目」,「議会によ る政策制御」の活動,そして,「政策出力」へ直接に影響を与えると想定し,

また,社会変動並びに立地条件はこれらの変数すべてに影響を与えるものとす る。

 分析に当たっては,まず,第 3 章で整理した「改革の基本項目」と「議会に よる政策制御」については,「全国調査」データから,ア)議会基本条例を制 定してからの経過年数(41),イ)議会報告会等の「議会と市民との対話の場」の実 施累計数(42),ウ)首長側提出議案に対する議員間討議を実施したことがある調査

図 1:分析の基本モデル

 注:図内の矢印は変数群間での正または負の因果効果を示す。

 出所:筆者作成

【改革の基本項目】

①議会基本条例の制定

②市民との対話の場の実施

③議員間討議の実施

【政策パフォーマンス】

議会改革計測期間前後での 財政規律(実質公債費比率)の改善

【組織資源】

議会費の大きさ

【議会による政策制御】

④基本構想(総合計画)

策定・議決条例の制定

⑤事業・計画等の評価・

点検の実施

【社会変動】

議会改革計測 期間直前期の 人口変化

【立地条件】

①財政力の高さ

②アクティブな 市民セクター 組織の厚さ

①議員提案政策条例の制定

②首長側議案への議案修正

③首長側議案の取下げ再提出

【政策出力】

(41) 設問「議会基本条例の制定を予定していますか?(単数回答:1 つお選びください)」に対 して選択肢

   「議会基本条例を制定済み(改正は行っていない)」

   「議会基本条例を制定済みであり,改正も行っている」

のいずれかが選択された場合に「制定あり」として「1」とし,各年次の回答の結果を合算するこ とで析出される値を「議会基本条例の運用経験年数」とする。

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