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症 例

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Academic year: 2021

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(1)

はじめに

肺アスペルギルス症は組織侵入型・菌球型・アレル ギー型の3系に分類され,組織侵入型は急性アスペルギ ルス肺炎および慢性壊死性肺アスペルギルス症(Chronic Necrotizing Pulmonary Aspergillosis 以下 CNPA)にさ ら に 分 け て 扱 わ れ る こ と も あ る.後 者 は 1982 年 に Binder ら1)によって提唱された概念であり,稀ではある が近年軽・中等度の免疫不全患者の合併症として注目さ れている.今回我々は各種抗真菌薬に対して抵抗性で肺 部分切除にて治癒しえた CNPA の一例を経験したので 若干の文献的考察をふまえ報告する.

症例:46 歳,男性.

主訴:発熱,体重減少.

既往歴:25 歳時,肺結核(左肺上葉切除).43 歳時,

右脛骨骨折.

生活歴:職業―電気工,喫煙歴―30 本 日(26 年間), 飲酒歴―日本酒2合(26 年間),粉塵吸入歴―なし,ペ ット飼育歴―なし.

家族歴:父,脳血管障害.

現病歴:1995 年4月人間ドックにて心房細動・心肥 大を指摘され,同年 6 月 15 日当院第2内科へ入院となっ た.拡張型心筋症を疑われ精査中,発熱・体重減少およ び CRP 上昇が出現し,同時に胸部 X 線写真にて左上肺 野異常陰影を指摘されたため,精査目的で当科転科と なった.

入院時現症:身長 169 cm,体重 46 kg,体温 37.6℃,

脈拍 88 分(不整).手指・足趾にバチ指を認める.チ アノーゼなし.眼結膜に貧血・黄疸なし.表在リンパ節 を触知せず.胸部聴診にて左上肺野背側に湿性ラ音を聴 取した.

入院時検査所見(Table 1):白血球数・白血球分画 に異常を認めなかったが,RBC 330 万 mm3,Hb 11.1 g dl,Ht 34.0% と軽度の貧血を認めた.CRP 3.3 mg dl と中等度の炎症所見を認めた.生化学検査では,アルブ ミンとコリンエステラーゼの軽度低下を認めた.免疫グ ロブリン(IgG・IgA・IgM・IgE)異常なし.腫瘍マー カー正常.ツベルクリン反応陽性.結核菌喀痰及び胃液 塗沫培養陰性.真菌喀痰培養陰性.Aspergillus 沈降抗 体陽性.検尿異常なし.動脈血ガス分析では軽度の低炭 酸ガス血症を認めた.

画像所見:

転科時胸部レントゲン写真(Fig. 1 a)―左肺尖部に 浸潤影と内部に均等な円形陰影を伴う空洞を認め,両側

●症

肺部分切除にて治癒しえた薬物療法抵抗性の慢性壊死性 肺アスペルギルス症の 1 例

高川 順也

1)

丸山 宗治

1)

吉田 良昌

1)

荒井 信貴

1)

松井 祥子

1)

山下 直宏

1)

杉山 茂樹

2)

小林 正

1)

要旨:肺結核による左上葉切除の既往がある 46 歳男性.心房細動・拡張型心筋症にて入院中発熱・体重減 少を認めた.胸部 X 線写真上認められた左上肺野の浸潤影を伴う空洞及び空洞内腫瘤を原因と考え,経皮 肺生検を行いアスペルギルス症と診断した.フルコナゾール局所注入にて一時的な軽快がえられ,同薬剤の 内服を継続したが,経過観察中,CRP の再上昇・空洞拡大をきたし再入院となった.臨床経過から慢性壊 死性肺アスペルギルス症と診断した.フルシトシン・イトラコナゾールの内服,アンホテリシン B 局所注 入および全身投与,ミコナゾールの全身投与など種々の薬剤の投与にても十分な効果はえられなかった.心 房細動・拡張型心筋症による心機能低下が手術時のリスクと考えられたが,左肺部分切除術を施行し,空洞 及び腫瘤を完全に切除しえた.術後経過は良好で炎症所見は消失した.

キーワード:慢性壊死性肺アスペルギルス症,拡張型心筋症,肺部分切除

Chronic necrotizing pulmonary aspergillosis,Dilated cardiomyopathy,Partial pulmonary re- section

〒930―0194 富山市杉谷 2630

1)富山医科薬科大学医学部第1内科

2)富山医科薬科大学医学部第1外科

(受付日平成9年5月 23 日)

(2)

Table  1 Laboratory data on admission

 mm 0 × 0/10 × 10  IU/l PPD

233 ALP

 /μl 5,700 WBC

 + Aspergillus Ab.

Δ pH 0.61 ChE

 % 65.8 Neut

Culture  mg/dl

144 T-Chol

 % 2.1 Eos

 −  − M. tuberculosis

Gastric Juice Sputum  mg/dl

 mEq/l  mEq/l 68 136 4.1 TG

Na K  %

 %  % 0.5 22.2 7.6 Baso

Lym Mono

 −  n.p.

Sputum Asp.

Urinalysis  mEq/l

 mg/dl 99

9 Cl

BUN  /μl

 g/dl 330 × 104

11.1 RBC

Hb

 %  %  % 80.2 42.9 42.9 1.0 CD3

CD4 CD8 CD4/CD8  mg/dl

 mg/dl  IU/ml  mg/dl 0.6 104 6 1,441 Cre

Glucose RF IgG  %

 /μl  mg/dl  mm/hr 34.0 31.0 × 104 3.3 57 Ht

Plt CRP ESR

Blood gas analysis  mg/dl

481 IgA

 g/dl 6.6 TP

 Torr  Torr 7.428

36.9 86.8 pH

PaCO2

PaO2

 mg/dl  U/ml  ng/ml  ng/ml  ng/ml 58.7

33 1.8 5.2

< 1.0 IgM

IgE-RIST CEA NSE SCC  g/dl

 IU/l  KU  KU  IU/l 3.4 142 17 13 43 Alb

LDH GOT GPT GGT

肺野には石灰化を伴う小粒状陰影の散布像が見られた.

胸部 CT(Fig. 1 b)―左肺尖部に不整形で内部に腫 瘤を伴う空洞を認める.空洞背側に胸膜肥厚およびひき つれ像を認める.

経皮肺生検(Fig. 2):1995 年7月 26 日に前胸壁より 左肺尖部腫瘤陰影に対して X 線透視下で経皮肺生検を 施行した.組織像では Aspergillus fumigatus の菌塊を 認めた.

臨床経過:経皮肺生検の際に空洞内にカテーテルを留 置し,フルコナゾール(FCZ)12〜20 mg 日の局所注 入 を 39 日 間(1995 年7月 26 日〜9月2日)行 っ た.

Fig. 1 a Chest X-ray film obtained on July 24, 1995, showing a round mass inside a cavity and neighboring infiltrative shadow in the left upper lung field.

Fig. 1 b Chest CT scan obtained on June 23, 1995, showing an irregularly-shaped mass inside a cavity, and pleural thickening and indentation.

Fig. 2 Photomicrograph of a specimen obtained by transcutaneous needle biopsy(H & E, ×400), showing an aggregate ofAspergillus fumigatushyphae.

(3)

AMPH 5/10 mg div ITCZ 150 mg p.o

MCZ 800 mg div FLCZ 400 mg p.o

FLCZ 8 mg i.c

AMPH 10-20 mg i.c 5-FC 6 g p.o Temperature

   (℃) 38 37 36 CRP (mg/dl)

15

10

5

0

BW

CRP

95.7 8 9 96.5 6 7 8 9 10 11

Cavity Volume  (cc) 

99.1 118.5

operation 45 50 Weight (kg)

37.3

これにより菌球および空洞の大きさに変化を認めなかっ たが,CRP は 1.2 mg dl まで低下し,FCZ 400 mg 内服 に変更し同年 9 月 5 日に退院した.外来でも FCZ 400 mg 日内服にて経過観察していたが,CRP の再上昇・

胸部レントゲン写真にて空洞の下方への拡大(Fig. 3)

を 認 め た た め,1996 年 5 月 21 日 当 科 2 回 目 の 入 院 と なった.臨床経過(Fig. 4)に示すようにフルシトシン

(5-FC)6 g 日,イトラコナゾール(ITCZ)200 mg 日 の内服およびアンホテリシン B(AMPH)10 mg 空洞内 注入の併用により,CRP の改善を認めたが,発熱が出 現したため原疾患の増悪の可能性も考慮し,AMPH の 全身投与も開始した.CRP はその後も低下傾向であっ たが,発熱はおさまらず,原因を薬剤性と考え,可能性 のある薬剤から中止し,最終的に 5-FC が原因であるこ とがわかった.また,ITCZ にて白血球・血小板の減少 をきたすことも確認した.全薬剤を中止し経過観察して いたが,再度 CRP の上昇を認めたため,ミコナゾール

(MCZ)800 mg 日の全身投与を開始した.MCZ 単独で は効果が得られないため,さらに AMPH 10 mg 日の全 身投与・20 mg 日の吸入を 3 週間にわたって併用した が CRP は上昇傾向であり,内科的治療に対して抵抗性 であると考えられた.左上葉切除の既往および拡張型心 筋症による低心肺機能を伴っており外科的治療の危険性 は高いと考えられたが,左肺部分切除にふみきった.空 洞切除後,発熱は認められなくなり,CRP は陰性化し た.

切除肺病理所見(Fig. 5):空洞壁には炎症細胞浸潤 が著しく,内壁には気道上皮が一部残存していた.空洞 内にはアスペルギルスの菌塊を認めたが,肺実質への直 接浸潤像は確認されなかった.

Fig. 3 Changes in the findings on chest X-ray films.

They were obtained on October 23, 1992, June 23, 1995, January 11, 1996, and May 21, 1996, and the se- ries shows expansion of the cavity and downward movement of the fungus ball.

Fig. 4 Clinical course.

(4)

肺アスペルギルス症の組織侵入型のうち,糖尿病・膠 原病・低栄養状態・ステロイド療法などの軽・中等度の 免疫機能低下が存在する場合や過去の肺手術や結核の既 往など肺の局所的な防御能の低下が存在する場合に,慢 性の経過で真菌が肺実質に浸潤し組織の破壊を引き起こ してくる病型に対して,1982 年に Binder ら1)は慢性壊 死性肺アスペルギルス症(CNPA)という概念を提唱し た.これは Gefter ら2)が述べている Semi-invasive type と同等であると考えられる.診断確定のためには生検に て,菌の肺組織への浸潤を証明する必要があるが,これ が不可能な場合には臨床経過(症状及び画像診断),培 養検査,他の原因菌の除外を行い診断する.本症例にお いては,組織学的にアスペルギルスの肺組織への直接浸 潤像を認めなかったものの,1 年以上の慢性の経過での 空洞拡大,生検でのアスペルギルスの分離,アスペルギ ルス沈降抗体陽性などの所見から臨床的に CNPA と診 断した.本症例においては細胞性免疫および液性免疫に 異常は認められず,肺結核治療のため行われた左上葉切 除による肺局所の防御能の低下が CNPA 発症に寄与し ているものと考えられた.

Binder ら1)は,CNPA の最初の報告のなかでアスペル ギルスの組織浸潤の病理学的証明の必要性を説いている が,彼らの自験例 4 例中明らかな肺へのアスペルギルス 浸潤像を証明しているのは 1 例のみである.また,Gefter ら2)の報告の組織学的に検討可能であった4例について も,肺の破壊像を認めたがアスペルギルスの組織浸潤は なかったとし,空洞形成のメカニズムとして血管閉塞,

アレルギー性気管支肺アスペルギルス症と同様のアレル ギー反応,気管支病変によるチェックバルブ等を想定し

ている.したがって,本症例における空洞形成も,真菌 の肺への直接浸潤によるものではなく,Gefter らの想 定した種々のメカニズムが関与していた可能性がある.

永井3)は,非侵襲性といわれる腐生性肺アスペルギルス 症でも長期間観察していれば,経過中に増悪が起こり,

CNPA と同様の臨床所見を呈することを指摘しており,

CNPA の疾患概念の独立性と定義についてはさらに充 分な臨床的・病理学的検討が必要と考えられる.

CNPA の薬物治療に関して種々の報告がなされてい る.これらの報告の中には AMPH の全身投与,局所注 入および吸入療法,ITCZ と AMPH の併用療法,ITCZ の単独投与,MCZ 吸入療法などがある1)2)4〜8).以上のよ うに CNPA に対する標準的な薬物治療はないが,一般 的には AMPH の投与がまず考慮されることが多い.し かし効果が不十分であったり,腎毒性などの副作用の問 題から他剤への変更や併用を行うことも多い.中には同 一薬剤においても全身投与では効果がなく,吸入療法で 奏功したとの報告例もあり8),CNPA の薬物治療では投 与方法の工夫が必要であると考えられる.本症例では,

FCZ 局所注入により当初効果が得られ,同剤の内服で 外来経過観察となったが再燃した.2 回目の入院では 5- FC,AMPH の局所注入および全身投与,ITCZ の併用 を 行 い,CRP の 改 善 が え ら れ た も の の,ITCZ・5-FC の副作用として発熱,発疹,リンパ節腫脹が出現し投与 を中止した.その後 MCZ 全身投与および吸入療法,

AMPH 全身投与の併用で治療を再開したが,CRP の上 昇傾向および微熱の継続が認められ,薬物治療に対して 抵抗性と考えられた.以上,本症例は種々の抗真菌薬に 対して薬剤耐性であるか,アレルギー反応等の副作用を 呈し内科的治療に抵抗性であると判断し,外科治療にふ みきった.

CNPA に対する外科治療に関しては,Binder ら1)の報 告を認め,全 26 例のうち 10 例に肺切除術が施行され 1 例のみ術後死亡している.ただし,生存例 9 例中 4 例に 膿胸等の術後合併症を併発している.しかしながら,本 症例のような著明な心機能低下を伴う症例に対する外科 治療の報告は見あたらなかった.本症例では現在のとこ ろ,アスペルギルス症再発の徴候なく,術後合併症も認 められず,経過は順調である.

今回種々の抗真菌薬の使用にても炎症所見が改善せ ず,最終的に外科治療にて良好な結果を得た症例を経験 した.今後 CNPA に対する従来の薬物療法が奏功しな い場合,外科治療も早期より考慮すべきであると考えら れた.

Fig. 5 Photomicrograph of resected lung specimen.

Many mononuclear cells had infiltrated the wall of the cavity. However, whetherAspergillus fumigatushad in- vaded the pulmonary parenchyma was unclear.

(5)

1)Binder RE, Faling LJ, Pugatch RD, et al : Chronic ne- crotizing pulmonary aspergillosis : A discrete clini- cal entity. Medicine 1982 ; 61 : 109―124.

2)Gefter WB, Weingrad TR, Epstein DM, et al : "Semi- invasive" pulmonary aspergillosis. Radiology 1981 ; 140 : 313―321.

3)永井英明:腐生性・侵襲性肺アスペルギルス症の臨 床.結核 1997 ; 72 : 99―107.

4)多部田弘士,森谷哲郎:アンホテリシン B が奏功 した慢性壊死性肺アスペルギルス症の一例.日胸疾 会誌 1995 ; 33 : 342―347.

5)幸村克喜,江部達夫:慢性壊死性肺アスペルギルス 症の一例.日胸疾会誌 1993 ; 30 : 1303―1307.

6)寺嶋 毅,仲村秀俊,猶木克彦,他:イトラコナゾー

ルが奏功した慢性壊死性肺アスペルギルス症の一 例.日胸疾会誌 1993 ; 31 : 1180―1183.

7)佐藤敦夫,中谷光一,松下葉子,他:アンホテリシ ン吸入とイトラコナゾールで軽快した慢性壊死性肺 アスペルギルス症の一例.日胸疾会誌 1995 ; 33 : 1141―1145.

8)前田晃男:ミコナゾール吸入が奏功した慢性壊死性 肺アスペルギルス症の一例.日胸疾会誌 1995 ; 33 : 168―173.

Abstract

Chronic Necrotizing Pulmonary Aspergillosis Resistant to Antimycotic Drugs and Treated by Partial Pulmonary Resection

Junya Takagawa

1)

, Muneharu Maruyama

1)

, Yoshimasa Yoshida

1)

, Nobuki Arai

1)

, Shoko Matsui

1)

, Naohiro Yamashita

1)

,

Shigeki Sugiyama

2)

and Masashi Kobayashi

1)

1)The First Department of Internal Medicine,

2)The First Department of Surgery,

Faculty of Medicine, Toyama Medical and Pharmaceutical University, 2630 Sugitani, Toyama 930-0194, Japan

A 46-year-old man with a history of left upper lobectomy for pulmonary tuberculosis was admitted to our hos- pital because of dilated cardiomyopathy. During hospitalization, fever and weight loss developed. The cause was suspected to be a round mass inside a cavity and a neighboring infiltrative shadow in the left upper lung field as seen on chest radiography. A percutaneous needle biopsy was done, and examination of the specimen showed an aggregate of Aspergillus fumigatus hyphae. Fluconazole (FCZ) was injected through an intracavitary catheter every day, and was then given by mouth. Treatment with FCZ was effective temporarily. However, he was again admitted to our hospital because of lower extension of the cavity and deteriorated inflammatory findings. From the clinical course, chronic necrotizing pulmonary aspergillosis was diagnosed. Treatment with all available anti- fungal agents did not improve his condition. Although he had decreased cardiac function due to dilated cardio- myopathy, partial pulmonary resection was done. The cavity with the fungus ball was resected completely. As of the time of this writing, he remains free of aspergillosis.

Table  1 Laboratory data on admission  mm0 × 0/10 × 10  IU/l PPD233ALP /μl5,700WBC  +Aspergillus Ab.Δ pH0.61ChE %65.8Neut Culture mg/dl144T-Chol %2.1Eos  −  −M
Fig. 4 Clinical course.
Fig. 5 Photomicrograph of resected lung specimen.

参照

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