< 財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成 25 年第3号(通巻第 114 号)2013 年3月> - 77 -
日本株式市場の銘柄相関リスクとボラティリティ効果
*1坂巻敏史
*2 *1 本稿の作成に当たっては,論文検討会議などで倉澤資成先生から有益なコメントを頂いた。この場を借 りて深く感謝の意を表したい。もちろん,本稿で述べられた内容は全て筆者個人の見解であり,三菱 UFJ 信託銀行の見解を示すものではない。また,あり得べき誤りは全て筆者に属する。 *2 三菱 UFJ 信託銀行資産運用部運用企画グループ,グループマネージャー要 約
本稿では,市場ボラティリティを上方リスクと下方リスクについての個別銘柄分散成分と 相関成分に分解し,その成分に対応するサブファクターを定義し分析することで,プライシ ングとしてのボラティリティ・ファクターの性質を検討し,市場平均ボラティリティに対す る感応度とボラティリティ効果との関係も調べる。 先ず,ボラティリティの近似表現として4つの部分に分解する方法を提案する。この方法を, 日本の株式市場に当てはめたところ高い近似精度が得られていると分かった。 これらのサブファクターを用いて日本の株式市場を調べたところ,市場ボラティリティの 増減はプレミアムの評価を伴ったリスクファクターの可能性があり,また,ボラティリティ 効果とは整合的だった。これは市場ボラティリティ上昇に対するヘッジ需要を表すと考えら れ,程度は異なるが個別銘柄ボラティリティ水準の増減は上方リスク下方リスクともに評価 されていた。一方,相関水準の増減リスクはあまり評価されていなかったが,株価下落で相 関が高まる時期のヘッジ需要として評価する場合があり,この傾向は近年強まっていた。将 来リターンに関する分析ではこれらの性質を利用した戦略について考察する。ボラティリテ ィ効果で低リターンの傾向がある高ボラティリティ銘柄は市場上昇時には個別に上がり下落 時には多くの銘柄同様に下落しヘッジ効果の期待できる銘柄ではなかった。 キーワード: ボラティリティ効果,下方リスク,上方リスク,平均個別銘柄分散,平均相関 係数,ボラティリティ分解 JEL classification: G12日本株式市場の銘柄相関リスクとボラティリティ効果 - 78 -
Ⅰ.序 論
低ボラティリティ株が高ボラティリティ株に 比べて高リターンになる傾向が,世界各国の株 式市場で観察され,リスクに相応するリウォー ドを想定する標準的な評価理論に対するアノマ リーとして知られ,ボラティリティ効果と呼ば れている。石部・角田・坂巻 [2009] などに見 られるように,ボラティリティ効果は,株式リ ターンのボラティリティ分位ポートのリターン 格差を用いて示されることが多い。また,Ang et al.[2006, 2009] などでは,同様の方法でイディ オシンクラティック・ボラティリティのアノマ リーを報告している。これらの先行研究の示し ているのは高リスク低リターンであり,裏返せ ば相対的には低リスク高リターンであり資産運 用を行おうとする際には魅力的な性質である。 例えばリーマンショックや東日本大震災など の際に見られたように,市場全体の広範な銘柄 にわたってボラティリティが急激に高まる事象 が散見される近年の株式市場の環境では,過度 なリスクを抑制しようと試みることは投資家に とって重要性の増している課題と想像される。 この課題に対応して,資産運用業界からも従来 と比べてリスク抑制的な運用商品の提供を目指 す動きが進んでいる。特に,近年の傾向として, 低ボラティリティと高リターンが両立している ボラティリティ効果を活用した運用商品の提供 が目立ち始めている。これらの商品では選択す る銘柄やポートフォリオの構成ウェイトの決定 に当たって,例えば「大域最小分散ポートフォ リオ」,「リスクパリティ」や「等金額投資」な ど,統計的に低リスクが期待できる定量的な手 法を用いている。また,伝統的なアクティブ運 用を応用し,株式アナリストが個別銘柄のビジ ネスリスクを評価し,それが低いことから株式 価値のボラティリティも低いと考えられる銘柄 の中から投資先を選ぶことで低ボラティリティ 高リターンを目指すという方法もある。そこで 用いられている運用手法は,例えば内需やディ フェンシブと呼ばれる銘柄や圧倒的な技術を持 つなどの理由で業界内に安定した地位を築いて いる銘柄を選択するといったものである。いず れの運用手法においても裏付けとなっているの は,低ボラティリティの性質を持つ個別株式の リターンの性質や,個別企業の収益基盤の安定 といった株式の個別銘柄が単体で持つ特性だと 言える。 一方,運用商品は一般に複数の銘柄を組み入 れたポートフォリオである。つまり,最終的な リスクの抑制対象は個別銘柄でなくポートフォ リオのボラティリティである。現代投資理論で 良く知られているようにポートフォリオのリス クは個別証券の分散に加えそれらの相関によっ て決定される。しかし「リスクパリティ」や「等 金額投資」では相関を評価し利用しようとはし ていない。低ボラティリティの実現方法として, 低ボラティリティの銘柄を選ぶことを主眼とす るか,相関の低い銘柄を選択することで低ボラ ティリティを実現するかの差異が低ボラティリ ティ運用に与える影響について十分検討されて いるとは言えない。 加えて,銘柄の相関が時間とともに変動す る可能性についても検討が必要である。例え ば,個別銘柄としては低リスクでボラティリ ティ効果による収益が上がっても,銘柄間の相 関が変化し事後的に相関の高い銘柄を多く保有 していたのではポートフォリオとしてのリスク が高くなってしまい,リスク抑制という投資家 の目指した性質が満たされないことになる。特 に,市場関係者から「ショック」や「危機」と 呼ばれる時期には市場全体のボラティリティの< 財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成 25 年第3号(通巻第 114 号)2013 年3月> - 79 - 上昇や相関の上昇が見られポートフォリオのリ スクが高まっている可能性がある。だとすれば ボラティリティが低く相関が安定している銘柄 は,「ショック」や「危機」で市場全体の株価 が下落しリスクが上昇する際には,相対的にリ ターンが高くヘッジとして役立つので,市場の 広範に及ぶような相関構造の変動が起こった際 に発生する損失に対するヘッジ需要が生じても おかしくない。また,他の銘柄との相関が不安 定な銘柄は,相関が安定した銘柄に比べリスク コントロールが難しいため選好されにくいと考 えられる。つまり,ポートフォリオ運用にとっ て市場の相関構造の変化はリスク源泉の一つと なる可能性があり,定量的に分析することには 意味がある。ボラティリティ効果を示す際に先 行研究でしばしば用いられる分位ポートフォリ オは等金額投資ポートフォリオまたは時価加重 ポートフォリオによるリターンを用いている。 しかし,それらは相関を考慮せずに構成ウェイ トを決めておりリターン相関は考察されてはい ない。ボラティリティ効果に関する相関の影響 の理解を深めることは,「ショック」や「危機」 といった投資家のリスクコントロールニーズが 高まる期間の資産運用に対する示唆が見込まれ るので,魅力的な投資商品を設計する上で重要 と考えられる。ここもと,リスク抑制を意図し たニーズの高まりを踏まえると,市場全体のボ ラティリティや相関が高まる場合に,ボラティ リティ効果が意図したリターンを上げることが できるかの検討は急務であるとも考えられる。 更に,市場が急落するような期間に特に強い コントロールニーズがあると容易に想像でき る。だとするとヘッジ需要は正の収益と負の収 益に関して異なっていると考えられる,リスク 構造についても異なる可能性がある。石部・角 田・坂巻 [2011] では,ボラティリティを上方 リスクと下方リスクに分解してボラティリティ 効果を分析し上方リスクの高い銘柄の低収益性 による影響が大きいとし,リターンリバーサル 効果との関係も指摘している Ilmanen[2012] で は,投資家が正の歪度を選好するなら,収益率 分布は薄い左裾と厚い右裾を好むことになると し,正の収益と負の収益での分布の相違の可能 性を指摘している。これらの需要はいわば,左 裾はヘッジ需要として合理的にも説明できる保 険であり,右裾は合理的には説明が難しいロト と言えるものだとしている。これら先行研究の 観点を踏まえ,ボラティリティ効果の理解を深 めるために,相関の増減の影響についても上方 リスクと下方リスク分解し検討してみる。さら に,長期定常的な性質と近い将来の性質を比べ ることでリターンリバーサルとの関係も検討す る。 これらの動機から,本稿では以下のテーマを 検証する。 (1)相関構造は時系列に変化しているか。 (2 )市場ボラティリティの増減は投資家が プレミアムを要求するリスクファクター かどうか。 (3 )上方ボラティリティと下方ボラティリ ティのどちらがプレミアムを要求されて いるか。 (4 )市場ボラティリティの増減がリスクファ クターである場合,個別銘柄のボラティ リティ水準の増減と相関水準の増減はど ちらが評価されているか。 (5 )上方ボラティリティに関する個別銘柄 のボラティリティ水準は評価されている か。相関水準の増減は評価されているか。 (6 )下方ボラティリティに関する個別銘柄 のボラティリティ水準は評価されている か。相関水準の増減は評価されているか。 (7 )市場の平均ボラティリティ感応度に関 する定常的な性質と一時的な性質の差異 はあるか。 本稿の構成は以下の通りである。 Ⅱ章では,先行研究の振り返りと本稿のボラ ティリティ分解方法について述べ,上方リスク と下方リスクについての個別銘柄ボラティリ ティと相関の指標を実際に算出し統計的な性質 も確認する。Ⅲ章では,Ⅱ章で示すボラティリ ティ分解により得られた,ボラティリティの構
日本株式市場の銘柄相関リスクとボラティリティ効果 - 80 - 成要素(サブファクター)を用いてボラティリ ティリスクの市場評価の特徴を分析する。ここ では長期間のデータで推計したファクターロー ディング ( 感応度 ) に対するプレミアムとボラ ティリティ効果として算出される近い将来のリ ターンとの関係を確認しボラティリティ効果の 原因について考察する。Ⅳ章では,分位ポー トフォリオを用いてボラティリティ効果とボラ ティリティのサブファクターとの関係について 考察する。Ⅴ章は,結論である。 Ⅱ -1.市場全体分散に関する個別銘柄分散と 相関への分解 本稿では,市場全体のポートフォリオの分散 を個別銘柄の分散と相関に分解し,それに対す る感応度を用いて相関の影響を分析する。
Pollet and Wilson[2010] では,すべての個別銘 柄の分散が等しい場合に等しくなる様な近似を 用いて,ポートフォリオの分散 V を個別銘柄 の平均分散(以下,AV と表記)と時価加重平 均相関係数(以下,AC と表記)に分解し,米 国の大型株について調べたところ AC は株式の リターンと負の相関があり予測力があるが AV はそうではなく,AC はリスクプレミアムが高 く AV はゼロである可能性を示唆している。一 方,Chen and Petkova[2012] では対象を小型銘 柄まで広げて同様の分析を行いその結果,イ ディオシンクラティック・ボラティリティ効果 は AC でなく AV によっており,リスクプレミ アムについても AV の寄与が中心であったと報 告している。本研究でも,これらの方法に順 じて個別銘柄の平均分散と平均相関のファク ターを抽出する。但し,Pollet and Wilson[2010] では AV を単純平均として定義したが本研究で は,時価加重平均を用いる。これは市場全体の ボラティリティの増減を重視する本研究の立場 と整合的である。更に,石部・角田・坂巻 [2011] で示された上方リスクと下方リスクのプレミア ム差との関係を調べるために,上方リスクの平 均個別銘柄ボラティリティ(AV+)と平均相関 係数(AC+),下方リスクの平均個別銘柄ボラ ティリティ(AV-)と平均相関係数(AC-)と いうサブファクターの分解としての拡張を行 う。 この点はⅡ- 3 で示す。 ボラティリティ V をサブファクター AC と AV に分解する方法について述べる。銘柄 i(i=1, …, N)のポートフォリオ内構成ウェイトを 4 質も確認する。Ⅲ章では、Ⅱ章で示したボラティリティ分解により得られた、ボラティリティ のサブファクターを用いてボラティリティリスクの市場評価の特徴を分析する。ここでは長期 間のデータで推計したファクターローディング(感応度)に対するプレミアムとボラティリティ 効果として算出される近い将来のリターンとの関係を確認しボラティリティ効果の原因につ いて考察する。Ⅳ章では、分位ポートフォリオを用いてボラティリティ効果とボラティリティ の構成要素(サブファクター)との関係について考察する。Ⅴ章は、結論である。 II. ポートフォリオ分散に関するリスクのサブファクター II.1. 市場全体分散に関する個別銘柄分散と相関への分解 本論文では、市場全体のポートフォリオの分散を個別銘柄の分散と相関に分解し、そ れに対する感応度を用いて相関の影響を分析する。
Pollet and Wilson[2010]では、すべての個別銘柄の分散が等しい場合に等しくなる様な
近似を用いて、ポートフォリオの分散V を個別銘柄の平均分散(以下、AV と表記)と時価
加重平均相関(以下、AC と表記)に分解し、米国の大型株について調べたところ AC は
株式のリターンと負の相関があり予測力があるがAV はそうではなく、AC はリスクプレ
ミアムが高くAV はゼロである可能性を示唆している。一方、Chen and Petkova[2012]では
対象を小型銘柄まで広げて同様の分析を行いその結果、イディオシンクラティックボラテ
ィリティ効果はAC でなく AV によっており、リスクプレミアムについても AV の寄与が
中心であったと報告している。本研究でも、これらの方法に順じて個別銘柄の平均分散と
平均相関のファクターを抽出する。但し、Pollet and Wilson[2010]では AV を単純平均と
して定義したが本研究では、時価加重平均を用いる。これは市場全体のボラティリティの 増減を重視する本研究の立場と整合的である。更に、石部・角田・坂巻[2011]で示された 上方リスクと下方リスクのプレミアム差との関係を調べるために、上方リスクの平均個別 銘柄ボラティリティ(AV�)と平均相関( AC�)、下方リスクの平均個別銘柄ボラティリテ ィ(AV�)と平均相関( AC�)というサブファクターの分解としての拡張を行う。 この点 はⅡ-3 で示す。 ボラティリティV をサブファクターAC と AV に分解する方法について述べる。サブフ ァクター銘柄i(i=1, …, N)のポートフォリオ内構成ウェイトをw� と表す。ウェイトの 全銘柄の合計は1 である。銘柄 i と j の相関係数ρ��、銘柄i のボラティリティに当たる標 準偏差σ�を用いると標準的な仮定の下で、ポートフォリオの分散σ��は σ��� � � ����������� � ��� � ��� (1) である。個別銘柄の標準偏差について、時価加重平均分散σ� � ∑� ���� ��� まわりで平均と の差(ϵ�)で表した、 σ�� �� � �� (2) i と 表す。ウェイトの全銘柄の合計は 1 である。銘 柄 i と j の相関係数 ρij,銘柄 i のボラティリティ に当たる標準偏差 σiを用いると標準的な仮定 の下で,ポートフォリオの分散 V は V 4 質も確認する。Ⅲ章では、Ⅱ章で示したボラティリティ分解により得られた、ボラティリティ のサブファクターを用いてボラティリティリスクの市場評価の特徴を分析する。ここでは長期 間のデータで推計したファクターローディング(感応度)に対するプレミアムとボラティリティ 効果として算出される近い将来のリターンとの関係を確認しボラティリティ効果の原因につ いて考察する。Ⅳ章では、分位ポートフォリオを用いてボラティリティ効果とボラティリティ の構成要素(サブファクター)との関係について考察する。Ⅴ章は、結論である。 II. ポートフォリオ分散に関するリスクのサブファクター II.1. 市場全体分散に関する個別銘柄分散と相関への分解 本論文では、市場全体のポートフォリオの分散を個別銘柄の分散と相関に分解し、そ れに対する感応度を用いて相関の影響を分析する。
Pollet and Wilson[2010]では、すべての個別銘柄の分散が等しい場合に等しくなる様な
近似を用いて、ポートフォリオの分散V を個別銘柄の平均分散(以下、AV と表記)と時価
加重平均相関(以下、AC と表記)に分解し、米国の大型株について調べたところ AC は
株式のリターンと負の相関があり予測力があるがAV はそうではなく、AC はリスクプレ
ミアムが高くAV はゼロである可能性を示唆している。一方、Chen and Petkova[2012]では
対象を小型銘柄まで広げて同様の分析を行いその結果、イディオシンクラティックボラテ
ィリティ効果はAC でなく AV によっており、リスクプレミアムについても AV の寄与が
中心であったと報告している。本研究でも、これらの方法に順じて個別銘柄の平均分散と
平均相関のファクターを抽出する。但し、Pollet and Wilson[2010]では AV を単純平均と
して定義したが本研究では、時価加重平均を用いる。これは市場全体のボラティリティの 増減を重視する本研究の立場と整合的である。更に、石部・角田・坂巻[2011]で示された 上方リスクと下方リスクのプレミアム差との関係を調べるために、上方リスクの平均個別 銘柄ボラティリティ(AV�)と平均相関( AC�)、下方リスクの平均個別銘柄ボラティリテ ィ(AV�)と平均相関( AC�)というサブファクターの分解としての拡張を行う。 この点 はⅡ-3 で示す。 ボラティリティV をサブファクターAC と AV に分解する方法について述べる。サブフ ァクター銘柄i(i=1, …, N)のポートフォリオ内構成ウェイトをw� と表す。ウェイトの 全銘柄の合計は1 である。銘柄 i と j の相関係数ρ��、銘柄i のボラティリティに当たる標 準偏差σ�を用いると標準的な仮定の下で、ポートフォリオの分散σ��は σ��� � � ����������� � ��� � ��� (1) である。個別銘柄の標準偏差について、時価加重平均分散σ� � ∑��������まわりで平均と の差(ϵ�)で表した、 σ�� �� � �� (2) (1) である。個別銘柄の標準偏差について,時価加 重平均分散 4 質も確認する。Ⅲ章では、Ⅱ章で示したボラティリティ分解により得られた、ボラティリティ のサブファクターを用いてボラティリティリスクの市場評価の特徴を分析する。ここでは長期 間のデータで推計したファクターローディング(感応度)に対するプレミアムとボラティリティ 効果として算出される近い将来のリターンとの関係を確認しボラティリティ効果の原因につ いて考察する。Ⅳ章では、分位ポートフォリオを用いてボラティリティ効果とボラティリティ の構成要素(サブファクター)との関係について考察する。Ⅴ章は、結論である。 II. ポートフォリオ分散に関するリスクのサブファクター II.1. 市場全体分散に関する個別銘柄分散と相関への分解 本論文では、市場全体のポートフォリオの分散を個別銘柄の分散と相関に分解し、そ れに対する感応度を用いて相関の影響を分析する。
Pollet and Wilson[2010]では、すべての個別銘柄の分散が等しい場合に等しくなる様な
近似を用いて、ポートフォリオの分散V を個別銘柄の平均分散(以下、AV と表記)と時価
加重平均相関(以下、AC と表記)に分解し、米国の大型株について調べたところ AC は
株式のリターンと負の相関があり予測力があるがAV はそうではなく、AC はリスクプレ
ミアムが高くAV はゼロである可能性を示唆している。一方、Chen and Petkova[2012]では
対象を小型銘柄まで広げて同様の分析を行いその結果、イディオシンクラティックボラテ
ィリティ効果はAC でなく AV によっており、リスクプレミアムについても AV の寄与が
中心であったと報告している。本研究でも、これらの方法に順じて個別銘柄の平均分散と
平均相関のファクターを抽出する。但し、Pollet and Wilson[2010]では AV を単純平均と
して定義したが本研究では、時価加重平均を用いる。これは市場全体のボラティリティの 増減を重視する本研究の立場と整合的である。更に、石部・角田・坂巻[2011]で示された 上方リスクと下方リスクのプレミアム差との関係を調べるために、上方リスクの平均個別 銘柄ボラティリティ(AV�)と平均相関( AC�)、下方リスクの平均個別銘柄ボラティリテ ィ(AV�)と平均相関( AC�)というサブファクターの分解としての拡張を行う。 この点 はⅡ-3 で示す。 ボラティリティV をサブファクターAC と AV に分解する方法について述べる。サブフ ァクター銘柄i(i=1, …, N)のポートフォリオ内構成ウェイトをw� と表す。ウェイトの 全銘柄の合計は1 である。銘柄 i と j の相関係数ρ��、銘柄i のボラティリティに当たる標 準偏差σ�を用いると標準的な仮定の下で、ポートフォリオの分散σ��は σ��� � � ����������� � ��� � ��� (1) である。個別銘柄の標準偏差について、時価加重平均分散σ� � ∑��������まわりで平均と の差(ϵ�)で表した、 σ�� �� � �� (2) まわりで平均との差 (ϵi) で表した, 4 質も確認する。Ⅲ章では、Ⅱ章で示したボラティリティ分解により得られた、ボラティリティ のサブファクターを用いてボラティリティリスクの市場評価の特徴を分析する。ここでは長期 間のデータで推計したファクターローディング(感応度)に対するプレミアムとボラティリティ 効果として算出される近い将来のリターンとの関係を確認しボラティリティ効果の原因につ いて考察する。Ⅳ章では、分位ポートフォリオを用いてボラティリティ効果とボラティリティ の構成要素(サブファクター)との関係について考察する。Ⅴ章は、結論である。 II. ポートフォリオ分散に関するリスクのサブファクター II.1. 市場全体分散に関する個別銘柄分散と相関への分解 本論文では、市場全体のポートフォリオの分散を個別銘柄の分散と相関に分解し、そ れに対する感応度を用いて相関の影響を分析する。
Pollet and Wilson[2010]では、すべての個別銘柄の分散が等しい場合に等しくなる様な
近似を用いて、ポートフォリオの分散V を個別銘柄の平均分散(以下、AV と表記)と時価
加重平均相関(以下、AC と表記)に分解し、米国の大型株について調べたところ AC は
株式のリターンと負の相関があり予測力があるがAV はそうではなく、AC はリスクプレ
ミアムが高くAV はゼロである可能性を示唆している。一方、Chen and Petkova[2012]では
対象を小型銘柄まで広げて同様の分析を行いその結果、イディオシンクラティックボラテ
ィリティ効果はAC でなく AV によっており、リスクプレミアムについても AV の寄与が
中心であったと報告している。本研究でも、これらの方法に順じて個別銘柄の平均分散と
平均相関のファクターを抽出する。但し、Pollet and Wilson[2010]では AV を単純平均と
して定義したが本研究では、時価加重平均を用いる。これは市場全体のボラティリティの 増減を重視する本研究の立場と整合的である。更に、石部・角田・坂巻[2011]で示された 上方リスクと下方リスクのプレミアム差との関係を調べるために、上方リスクの平均個別 銘柄ボラティリティ(AV�)と平均相関( AC�)、下方リスクの平均個別銘柄ボラティリテ ィ(AV�)と平均相関( AC�)というサブファクターの分解としての拡張を行う。 この点 はⅡ-3 で示す。 ボラティリティV をサブファクターAC と AV に分解する方法について述べる。サブフ ァクター銘柄i(i=1, …, N)のポートフォリオ内構成ウェイトをw� と表す。ウェイトの 全銘柄の合計は1 である。銘柄 i と j の相関係数ρ��、銘柄i のボラティリティに当たる標 準偏差σ�を用いると標準的な仮定の下で、ポートフォリオの分散σ��は σ��� � � ����������� � ��� � ��� (1) である。個別銘柄の標準偏差について、時価加重平均分散σ� � ∑��������まわりで平均と の差(ϵ�)で表した、 σ�� �� � �� (2) (2) を用いると (1) 式は, V 5 を用いると(1)式は、 σ��� ���� � ������� � ��� � ��� � �� � � �������������� � ��� � ��� � � � ����������� � ��� � ��� (3) と表せる。左辺の近似として右辺第1項を用いV�と表記する。この近似は個別銘柄のボラテ ィリティが全て等しい場合、厳密に一致する。式(3)を見ると、その要素は時価加重平均分散 AV である���と時価加重平均相関係数 AC としての ∑ � ������ � ��� の積だと分かる。式(3)のウ ェイトを市場全体に適用すれば全市場分散V は、近似V�≜ AC×AV として表せることになる。 実証分析での具体的な算出について述べる、本研究では市場全体として東京証券取引所第一 部(東証1部)上場銘柄全体を用いることにする。先ず個別銘柄i と j の標準偏差����、����と相 関係数�����をt 月の月内日次リターンを標本として算出する。またウェイト����と����はt 月末 の市場の時価構成ウェイトである。従って、全市場分散V と個別銘柄の平均分散 AV と平均相 関AC は月次データとして算出される。算出に利用するデータは日経 NEEDS データサービス から日本株式の上場株式数とトータルリターンデータを利用した。対象期間は1992 年 1 月か ら2012 年 9 月である。算出した各月の V, AV, AC の時系列推移を図1に示す。縦軸は対数 目盛である。 図1.市場分散(V), 平均個別銘柄分散(AV), 平均相関係数(AC)の推移 図よりV, AV, AC のいずれも時系列で変動していると分かる。その水準を見ると、V, AV 5 を用いると(1)式は、 σ��� ���� � ������� � ��� � ��� � �� � � �������������� � ��� � ��� � � � ����������� � ��� � ��� (3) と表せる。左辺の近似として右辺第1項を用いV�と表記する。この近似は個別銘柄のボラテ ィリティが全て等しい場合、厳密に一致する。式(3)を見ると、その要素は時価加重平均分散 AV である���と時価加重平均相関係数 AC としての ∑����������� の積だと分かる。式(3)のウ ェイトを市場全体に適用すれば全市場分散V は、近似V�≜ AC×AV として表せることになる。 実証分析での具体的な算出について述べる、本研究では市場全体として東京証券取引所第一 部(東証1部)上場銘柄全体を用いることにする。先ず個別銘柄i と j の標準偏差����、����と相 関係数�����をt 月の月内日次リターンを標本として算出する。またウェイト����と����はt 月末 の市場の時価構成ウェイトである。従って、全市場分散V と個別銘柄の平均分散 AV と平均相 関AC は月次データとして算出される。算出に利用するデータは日経 NEEDS データサービス から日本株式の上場株式数とトータルリターンデータを利用した。対象期間は1992 年 1 月か ら2012 年 9 月である。算出した各月の V, AV, AC の時系列推移を図1に示す。縦軸は対数 目盛である。 図1.市場分散(V), 平均個別銘柄分散(AV), 平均相関係数(AC)の推移 図よりV, AV, AC のいずれも時系列で変動していると分かる。その水準を見ると、V, AV (3) と表せる。左辺の近似として右辺第1項を用い
Ⅱ.ポートフォリオ分散に関するリスクのサブファクター
< 財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成 25 年第3号(通巻第 114 号)2013 年3月> - 81 - Vaと表記する。この近似は個別銘柄のボラティ リティが全て等しい場合,厳密に一致する。式 (3) を見ると,その要素は時価加重平均分散 AV である 5 を用いると(1)式は、 σ��� ���� � ������� � ��� � ��� � �� � � �������������� � ��� � ��� � � � ����������� � ��� � ��� (3) と表せる。左辺の近似として右辺第1項を用いV�と表記する。この近似は個別銘柄のボラテ ィリティが全て等しい場合、厳密に一致する。式(3)を見ると、その要素は時価加重平均分散 AV である���と時価加重平均相関係数 AC としての ∑ � ������ � ��� の積だと分かる。式(3)のウ ェイトを市場全体に適用すれば全市場分散V は、近似V�≜ AC×AV として表せることになる。 実証分析での具体的な算出について述べる、本研究では市場全体として東京証券取引所第一 部(東証1部)上場銘柄全体を用いることにする。先ず個別銘柄i と j の標準偏差����、����と相 関係数�����をt 月の月内日次リターンを標本として算出する。またウェイト����と����はt 月末 の市場の時価構成ウェイトである。従って、全市場分散V と個別銘柄の平均分散 AV と平均相 関AC は月次データとして算出される。算出に利用するデータは日経 NEEDS データサービス から日本株式の上場株式数とトータルリターンデータを利用した。対象期間は1992 年 1 月か ら2012 年 9 月である。算出した各月の V, AV, AC の時系列推移を図1に示す。縦軸は対数 目盛である。 図1.市場分散(V), 平均個別銘柄分散(AV), 平均相関係数(AC)の推移 図よりV, AV, AC のいずれも時系列で変動していると分かる。その水準を見ると、V, AV と時価加重平均相関係数 AC として の 5 を用いると(1)式は、 σ��� ���� � ������� � ��� � ��� � �� � � �������������� � ��� � ��� � � � ����������� � ��� � ��� (3) と表せる。左辺の近似として右辺第1項を用いV�と表記する。この近似は個別銘柄のボラテ ィリティが全て等しい場合、厳密に一致する。式(3)を見ると、その要素は時価加重平均分散 AV である���と時価加重平均相関係数AC としての ∑ � ������ � ��� の積だと分かる。式(3)のウ ェイトを市場全体に適用すれば全市場分散V は、近似V�≜ AC×AV として表せることになる。 実証分析での具体的な算出について述べる、本研究では市場全体として東京証券取引所第一 部(東証1部)上場銘柄全体を用いることにする。先ず個別銘柄i と j の標準偏差����、����と相 関係数�����をt 月の月内日次リターンを標本として算出する。またウェイト����と����はt 月末 の市場の時価構成ウェイトである。従って、全市場分散V と個別銘柄の平均分散 AV と平均相 関AC は月次データとして算出される。算出に利用するデータは日経 NEEDS データサービス から日本株式の上場株式数とトータルリターンデータを利用した。対象期間は1992 年 1 月か ら2012 年 9 月である。算出した各月の V, AV, AC の時系列推移を図1に示す。縦軸は対数 目盛である。 図1.市場分散(V), 平均個別銘柄分散(AV), 平均相関係数(AC)の推移 図よりV, AV, AC のいずれも時系列で変動していると分かる。その水準を見ると、V, AV の積だと分かる。式 (3) のウェ イトを市場全体に適用すれば全市場分散 V は, 近似 5 を用いると(1)式は、 σ��� ���� � ������� � ��� � ��� � �� � � �������������� � ��� � ��� � � � ����������� � ��� � ��� (3) と表せる。左辺の近似として右辺第1項を用いV�と表記する。この近似は個別銘柄のボラテ ィリティが全て等しい場合、厳密に一致する。式(3)を見ると、その要素は時価加重平均分散 AV である���と時価加重平均相関係数AC としての ∑ � ������ � ��� の積だと分かる。式(3)のウ ェイトを市場全体に適用すれば全市場分散V は、近似V�≜ AC×AV として表せることになる。 実証分析での具体的な算出について述べる、本研究では市場全体として東京証券取引所第一 部(東証1部)上場銘柄全体を用いることにする。先ず個別銘柄i と j の標準偏差����、����と相 関係数�����をt 月の月内日次リターンを標本として算出する。またウェイト����と����はt 月末 の市場の時価構成ウェイトである。従って、全市場分散V と個別銘柄の平均分散 AV と平均相 関AC は月次データとして算出される。算出に利用するデータは日経 NEEDS データサービス から日本株式の上場株式数とトータルリターンデータを利用した。対象期間は1992 年 1 月か ら2012 年 9 月である。算出した各月の V, AV, AC の時系列推移を図1に示す。縦軸は対数 目盛である。 図1.市場分散(V), 平均個別銘柄分散(AV), 平均相関係数(AC)の推移 図よりV, AV, AC のいずれも時系列で変動していると分かる。その水準を見ると、V, AV として表せることになる。 実証分析での具体的な算出について述べる。 本研究では市場全体として東京証券取引所第一 部(東証1部)上場銘柄全体を用いることにす る。先ず個別銘柄 i と j の標準偏差 σi,t ,σj,tと相 関係数 ρij,tを t 月の月内日次リターンを標本と して算出する。またウェイト wi,tと wj,tは t 月末 の市場の時価構成ウェイトである。従って,全 市場分散 V と個別銘柄の平均分散 AV と平均相 関係数 AC は月次データとして算出される。算 出に利用するデータは日経 NEEDS データサー ビスから日本株式の上場株式数とトータルリ ターンデータを利用した。対象期間は 1992 年 1 月から 2012 年 9 月である。算出した各月の V, AV, AC の時系列推移を図1に示す。縦軸は対 数目盛である。 0.01 0.1 1 10 100 19 92 03 19 93 03 19 94 03 19 95 03 19 96 03 19 97 03 19 98 03 19 99 03 20 00 03 20 01 03 20 02 03 20 03 03 20 04 03 20 05 03 20 06 03 20 07 03 20 08 03 20 09 03 20 10 03 20 11 03 20 12 03 V, A V, A C ( 対 数 目 盛 ) V AV AC 東証1部上場銘柄 V AV AC V 1.000 AV 0.898 1.000 AC 0.516 0.285 1.000 相関係数 図1 市場分散 (V), 平均個別銘柄分散 (AV), 平均相関係数 (AC) の推移 図より V, AV, AC のいずれも時系列で変動 していると分かる。その水準を見ると,V, AV は低い時期には 0.1 程度だが高い時期には 10 を大きく超えており 100 倍以上の変動が見られ る。AC は相関係数なのでマイナス1から1の 間の値をとりうる。対象期間では全て正であっ たがその値は 0.1 程度から 0.9 程度まで変動し ていた。月次の増減の大まかな傾向としては, AV も AC も V の変動と同様の方向に変動して いる様子が観察できる。図の左上部分に表とし て相関係数を掲載した。特に AV は V との相関 が非常に高く,値の水準についてもグラフで分 かる通り V とほぼ一致している。しかし,相 関係数で分かる通り AV と AC の相関は大きく ない。例えば,良く知られた市場リスクの上昇 時期でも異なった動きをしている。2000 年前 後の IT バブルを挟んだ数年間は AC が低水準 の中 AV が上昇することで V が上昇しており,
日本株式市場の銘柄相関リスクとボラティリティ効果 - 82 - AV と AC の異なる動きとして目につく。これ は金融機関の不良債権問題の顕在化や IT バブ ルと呼ばれる様に特定の銘柄の選別が進んだた め,AV は上昇し AC は低下したと考えられる。 その後はマクロ的な景気拡大に伴って幅広い 銘柄で株価が安定的に推移したため AV はやや 低下したが AC が上昇し V は横ばいであった。 2005 年以降は米国でゴルディロックス経済と いわれた時期であるが AV の低下とともにVが 急激に低下した。その後,2008 年のリーマン ショック及び 2011 年の東日本大震災に伴って V は急上昇するが前者では AC の上昇はさほど ではないが,後者では AC が急上昇しているこ とが分かる。このように AC は変動しており, この意味で相関構造が時系列に変化しているこ とが確認できた。 Ⅱ-2.AC の変動と投資戦略の関係 前節で確認したように相関構造が時系列に変 動しており,V の変動は AV と AC それぞれの 異なる増減によっている。これは,市場リスク の増加が同水準の時期どうしであっても AC の 増加幅は異なっていることを示す。AC の大幅 な増加を伴う市場リスクの増加は,市場と個別 銘柄の相関が高まることを意味するので,多く の銘柄の市場感応度が上昇すると考えられる。 言い換えれば,このような時期には分散投資の 効果は下がることになる。この点を考慮した投 資戦略について考えてみる。リスク抑制的な運 用を志向する投資家を考える。このような投資 家はリスクを抑制するために分散投資を利用し たいと考えるだろう。従って,分散投資の効果 を享受するために相関の上昇は望ましくないリ スクであり,特に株価の下落時はこのリスクの ヘッジが強く望まれると考えられる。このこと をリスク感応度に対応させて説明する。 ここでは,絶対収益を高めたい投資家を想定 して戦略を検討する1)。また,ポートフォリオ 運用の立場に興味があるので,この投資家は分 散投資によるリスクヘッジを利用すると考え る。市場の株価の上昇局面・低下局面と個別銘 柄収益率の相関水準の上昇局面と低下局面に分 け,市場株価の収益率感応度 ( 市場 β ) と個別 銘柄収益率の相関の増減感応度 (ACβ ) につい て,分散投資効果の観点から望ましい感応度戦 略を検討してみる。表1は市場水準と AC 水準 の差異により4つの局面に分けて,望ましい感 応度戦略を検討した結果をまとめたものであ る。なお,高 ACβ が意味するのは AC 水準が 上昇する際にリターンがより高く,AC 水準が 低下する際にリターンがより低くなるという性 質である。 表1 高リターンとなる感応度戦略 7 高ACβが意味するのは AC 水準が上昇する際にリターンがより高く、AC 水準が低下する際 にリターンがより低くなるという性質である。 表1.高リターンとなる感応度戦略 市場の株価収益率 上昇 下落 A C 水 準 上 昇 分散投資の効果低下 個別銘柄の市場β上昇 市場β高、ACβ高 市場β低、ACβ高 低 下 分散投資の効果上昇 個別銘柄の市場β低下 市場β高、ACβ低 市場β低、ACβ低 この投資家にとって問題が大きいのは市場の株価水準が下落する局面のヘッジである。この 局面は表1の右端の列に当たり、低市場β戦略が好ましい。特に、AC 水準が下落する局面で は、分散投資が効果的なので銘柄分散を図ったポートフォリオで市場β低戦略を行えばよい。 一方、AC 水準が上昇する局面では分散投資の効果が低下し、個別銘柄の市場βが上昇してし まう。高 ACβ投資を実施できれば、この局面のヘッジに役立つと考えられる。従って、AC が変動する市場で安定した収益が期待できる絶対収益戦略を求める場合、「市場βが低く、AC βが高い戦略」が魅力的と考えられる。逆に「市場βが高く、ACβが低い戦略」は魅力が 低い。つまり、市場相関上昇に対するヘッジとは、それに伴う市場βの上昇に対するヘッジと もいえる。 一方、例えばACβが高い銘柄は需要に対してごく少数しかないとすると、割高となって しまっていて、AC 水準上昇局面以外での期待リターンが低く、じつは魅力がそれほど高 くない可能性もある。これは、高市場β銘柄は低コストでレバレッジのかかったリスクプ レミアムが期待できるので魅力的であるが、石部・角田・坂巻[2009]など多数の文献で示さ れているとおり実証的には低リターンで割高だったということと同じ考え方である。以下 の実証分析では、この点についても調べる。このために、株価の上昇と下落に分けて感応 度分析を行うことにする。特に市場下落局面の高ACβ( AC�の感応度が高い)銘柄が望ましい。 II.3. 上方リスクと下方リスクに関するサブファクター 市場の上昇局面と下落局面それぞれについてのAC に対する個別銘柄感応度を把握するため に、サブファクターあるAV と AC の定義について上方リスクと下方リスクについて定義でき る様に拡張する。表記を簡潔にするためにリスク指標を表す文字は変えずに、添え字(+)と (-) を付加することで上方リスクと下方リスクを表すことにする。 一般的に用いられる上方リスクや下方リスク指標は半分散の様な定義なので、算出に利用す るリターンの偏差の表現を拡張すれば上方リスクや下方リスク指標に対応したポートフォリ 1 )石部・角田・坂巻 [2011] では,機関投資家のベンチマーク運用に見られるような市場相対収益ではなく絶 対収益を求める投資家の存在を想定して,低ボラティリティ効果の説明を試みている。
< 財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」平成 25 年第3号(通巻第 114 号)2013 年3月> - 83 - この投資家にとって問題が大きいのは市場の 株価水準が下落する局面のヘッジである。この 局面は表1の右端の列に当たり,低市場β戦略 が好ましい。特に,AC 水準が下落する局面で は,分散投資が効果的なので銘柄分散を図った ポートフォリオで市場β低戦略を行えばよい。 一方,AC 水準が上昇する局面では分散投資の 効果が低下し,個別銘柄の市場βが上昇してし まう。高 ACβ 投資を実施できれば,この局面 のヘッジに役立つと考えられる。従って,AC が変動する市場で安定した収益が期待できる絶 対収益戦略を求める場合,「市場βが低く,AC βが高い戦略」が魅力的と考えられる。逆に「市 場βが高く,ACβ が低い戦略」は魅力が低い。 つまり,市場相関上昇に対するヘッジとは,そ れに伴う市場βの上昇に対するヘッジともいえる。 一方,例えば ACβ が高い銘柄は需要に対し てごく少数しかないとすると,割高となってし まっていて,AC 水準上昇局面以外での期待リ ターンが低く,じつは魅力がそれほど高くない 可能性もある。これは,高市場β銘柄は低コス トでレバレッジのかかったリスクプレミアムが 期待できるので魅力的であるが,石部・角田・ 坂巻 [2009] など多数の文献で示されていると おり実証的には低リターンで割高だったという ことと同じ考え方である。以下の実証分析では, この点についても調べる。このために,株価の 上昇と下落に分けて感応度分析を行うことにす る。特に市場下落局面の高 ACβ(AC-の感応度 が高い ) 銘柄が望ましい。 Ⅱ - 3.上方リスクと下方リスクに関するサブ ファクター 市場の上昇局面と下落局面それぞれについて の AC に対する個別銘柄感応度を把握するため に,サブファクターである AV と AC の定義に ついて上方リスクと下方リスクについて定義で きる様に拡張する。表記を簡潔にするためにリ スク指標を表す文字は変えずに,添え字 (+) と (-) を付加することで上方リスクと下方リスク を表すことにする。 一般的に用いられる上方リスクや下方リスク 指標は半分散タイプの定義なので,算出に利用 するリターンの偏差の表現を拡張すれば上方リ スクや下方リスク指標に対応したポートフォリ オの分散や相関係数がボラティリティと同様に 定義できる。個別銘柄 i のリターン Riに対す る偏差 di・を具体的に示すと, 8 オの分散や相関係数がボラティリティと同様の定義で定められる。個別銘柄iのリターン��に 対する偏差��・を具体的に示すと、 ���=� ��� �� � �� � ���� ������、 �� � � ���� ������、 �� � � : ボラティリティ : 上方リスク : 下方リスク である。ここで�� はリターンの期間平均、K は上方リスクと下方リスクの区分を定めるリタ� ーンの基準値である。石部・角田・坂巻[2011]では基準値を考察し、リスクとリターンの関係 に対する説明力の高さ、プロスペクト理論との整合性、直観的な理解のしやすさからこの基準 値にゼロを用いることが良いとしている。本論文でもこれに従う。 V、AC、AV の算出に用いた個別銘柄iのリターン偏差��の代わりに���と���を用いること で、V�、 AC�、 AV�、 V�、 AC�、 AV�の各指標を算出する。これらはボラティリティとしての リスクを分解することによって得られるので市場リスクの分解要素ともいえる。これらも含め て、本論文ではサブファクターと呼ぶ。なお、Ⅲ章以降の分析では株式のリターンを説明する リスクファクターとしてボラティリティと、これらのサブファクターを用いる。表2のパネル A に基本統計量を示す。原系列は分散指標なので市場危機と呼ばれる様なニュースが発生した 時期などに極端に大きくなるので歪度と尖度が非常に大きい分布を持つ。そこで対数変換する ことで、株式リターンの分布や正規分布に近いものに変換する4。代表的な株式分布の例とし て同期間の配当込TOPIX 指数の歪度( -0.082)及び尖度(0.578)や正規分布とも近くなり、以降 の株式リターンの線形分析には、この対数変換後の値を用いることにする。 サブファクターへの分解については、�� � � �� ��� �� �� � �� ��であることと、上方リスク と下方リスクの偏差の和についての線形性��� ���� ���� �� より V はV� �及びV�の線形に近い 関係があると考えられることから、 �� � � ��� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ��� とした近似を考える5。 表2のパネルB に、各サブファクターによる V の近似精度を切片なし単回帰の結果得られ た回帰係数と決定係数で示す。決定係数を見ると説明力の意味でかなり高いものであると分か る。但し、AV と AC による回帰の係数を見ると AV の係数が大きな正の値だが AC は負で符 号が異なる。図1で相関が正であったことやV には極端に大きな値もあることを考慮すると係 数が不安定な疑いがある。更に、下方リスク指標V-と上方リスク指標 V+の近似精度確認結果 も掲載する。 表2のパネル C に対数変換した指標への近似結果を切片ありの単回帰の結果得られた回帰 係数と決定係数で示す。対数変換後を区別するために小文字を使用する。決定係数を見るとほ ぼ完全に説明されていることが分かる。avとacの係数もともに正の値なので安定していると 4 相関 AC は負の可能性があり対数変換できないことが考えられるがサンプル期間について AC は全て正であった。 5 線形性について、K=� � � の場合には常に等号が成立する。 , , である。ここで 8 オの分散や相関係数がボラティリティと同様の定義で定められる。個別銘柄
i
のリターン��に 対する偏差��・を具体的に示すと、 ���=� ��� �� � �� � ���� ������、 �� � � ���� ������、 �� � � : ボラティリティ : 上方リスク : 下方リスク である。ここで�� はリターンの期間平均、K は上方リスクと下方リスクの区分を定めるリタ� ーンの基準値である。石部・角田・坂巻[2011]では基準値を考察し、リスクとリターンの関係 に対する説明力の高さ、プロスペクト理論との整合性、直観的な理解のしやすさからこの基準 値にゼロを用いることが良いとしている。本論文でもこれに従う。 V、AC、AV の算出に用いた個別銘柄i
のリターン偏差��の代わりに���と���を用いることで、V�、 AC�、 AV�、 V�、 AC�、 AV�の各指標を算出する。これらはボラティリティとしての
リスクを分解することによって得られるので市場リスクの分解要素ともいえる。これらも含め て、本論文ではサブファクターと呼ぶ。なお、Ⅲ章以降の分析では株式のリターンを説明する リスクファクターとしてボラティリティと、これらのサブファクターを用いる。表2のパネル A に基本統計量を示す。原系列は分散指標なので市場危機と呼ばれる様なニュースが発生した 時期などに極端に大きくなるので歪度と尖度が非常に大きい分布を持つ。そこで対数変換する ことで、株式リターンの分布や正規分布に近いものに変換する4。代表的な株式分布の例とし て同期間の配当込TOPIX 指数の歪度( -0.082)及び尖度(0.578)や正規分布とも近くなり、以降 の株式リターンの線形分析には、この対数変換後の値を用いることにする。 サブファクターへの分解については、�� � � �� ��� �� �� � �� ��であることと、上方リスク と下方リスクの偏差の和についての線形性��� ���� ���� �� より V はV� �及びV�の線形に近い 関係があると考えられることから、 �� � � ��� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ���� ��� とした近似を考える5。 表2のパネルB に、各サブファクターによる V の近似精度を切片なし単回帰の結果得られ た回帰係数と決定係数で示す。決定係数を見ると説明力の意味でかなり高いものであると分か る。但し、AV と AC による回帰の係数を見ると AV の係数が大きな正の値だが AC は負で符 号が異なる。図1で相関が正であったことやV には極端に大きな値もあることを考慮すると係 数が不安定な疑いがある。更に、下方リスク指標V-と上方リスク指標 V+の近似精度確認結果 も掲載する。 表2のパネル C に対数変換した指標への近似結果を切片ありの単回帰の結果得られた回帰 係数と決定係数で示す。対数変換後を区別するために小文字を使用する。決定係数を見るとほ ぼ完全に説明されていることが分かる。avとacの係数もともに正の値なので安定していると 4 相関 AC は負の可能性があり対数変換できないことが考えられるがサンプル期間について AC は全て正であった。 5 線形性について、K=�� の場合には常に等号が成立する。 � はリターンの期間平均,K は 上方リスクと下方リスクの区分を定めるリター ンの基準値である。石部・角田・坂巻 [2011] では基準値を考察し,リスクとリターンの関係 に対する説明力の高さ,プロスペクト理論との 整合性,直観的な理解のしやすさからこの基準 値にゼロを用いることが良いとしている。本稿 でもこれに従う。 V,AC,AV の算出に用いた個別銘柄 i のリ ターン偏差 diの代わりに di+と di-を用いるこ
とで,V+ ,AC+ , AV+ ,V- ,AC- ,AV-の各指
標を算出する。これらはボラティリティとして のリスクを分解することによって得られるので 市場リスクの分解要素ともいえる。これらも含 めて,本稿ではサブファクターと呼ぶ。なお, Ⅲ章以降の分析では株式のリターンを説明する リスクファクターとしてボラティリティと,こ れらのサブファクターを用いる。表2のパネル A に基本統計量を示す。原系列は分散指標なの で市場危機と呼ばれる様なニュースが発生した 時期などに極端に大きくなるので歪度と尖度が 非常に大きい分布を持つ。そこで対数変換する ことで,株式リターンの分布や正規分布に近い ものに変換する2)。代表的な株式分布の例とし 2 )相関 AC は負の可能性があり対数変換できないことが考えられるがサンプル期間について AC は全て正であった。