<編集・発行>No.166 2018/5/16 発行 編集 : 一橋大学附属図書館
学術・図書部 学術情報課 電話 :042(580)8247
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— Universitas Litterarum の理想と共に—
図書館長就任によせて
附属図書館長
大月 康弘
この度、山部俊文先生の後任として館長に就任し ました。私で第30代だそうですから、広壮な館の佇 まいを仰ぎ見ながら、重厚な歴史に気の引き締まる 思いでいます。
現在の場所に図書館が建ったのは1930年のこと。
爾来88年、ここに集った先達、学生の皆さんの研鑽 の跡が、この建物に刻み込まれていると思うと、改 めて感慨を深くするばかりです。
一橋大学は、いうまでもなくわが国における社会 科学の殿堂です。大学の歴史が、そのまま近代日本 の社会科学の歴史であるとも言ってもよいでしょう。
錚々たる社会科学、人文学の研究者、また実業界の 人材がここから育ちました。そして今、この輝かし い歴史のうえに、蓼沼学長のもと、本学は21世紀の 世界のなかで国際的な知的ネットワークの一環とし てさらなる発展を遂げつつあります。
図書館もまた、この大学の歩みとともにありたい と思います。情報のデジタル化など、技術面での日 進月歩がめざましい昨今です。技術とコンテンツの 両面で日々アップデートに努めるべく、館を挙げて 微力を尽くしていきたいと思います。
大学図書館は、各々がそれ自体で情報の結節点、
つまり知のネクサスです。しかし他方で、情報技術 の革新により、今や世界中の大学図書館がひとつに 繋がっています。まさに大きなコネクサスco-nexas
(コネクション)が現前している現在です。世界中 の「言語の海」に存在するこの知的空間(情報と知 恵)を、皆さんも大いに活用してください。豊穣な 知の大海原に漕ぎ出せば、あっと驚く大きな獲物と 出会えることでしょう。もっとも、羅針盤(水先案 内)がないと、あるいは途中で遭難するかもしれま せん。先生方のご指導が指針となるでしょうから、
大いに胸をかりて研鑽に努めてください。
世界を洞察し、新しい地平を切り拓くことのでき る人材の養成。この一橋大学のミッションに加えて、
本学の図書館には、人類の歴史が積み上げてきた知 的遺産を次世代に伝える使命もまたあります。中世
ヨーロッパに源流をもつ「大学」は、「世界の叡 智」sophia universalisを集積する場所でもありま した。それは「書物」で伝えられる「知を総合する 場」でした。「書物」の歴史にも思いを馳せながら、
改めて図書館に足を運んでみてください。もとより 日本語に限りません。中国語をはじめとする東洋世 界。ギリシア語、ラテン語で思索された古代〜中世 のヨーロッパ世界。そして、近代諸語による種々の 専門的学知。それらを実際に手に取り、縦横に学べ る一橋の図書館は、まさに世界でも有数の存在とし て有名なのです。
ウニヴェルシタス・リテラールムUniversitas Litterarum。聞き慣れぬことばかもしれません。
Litterarumとは「書き物」litteraを示すラテン語の 複数属格形。つまり「書物の総て」という意味です。
それを「一つどころに」uni「転回させる=集め る」vertereのが、「大学」Universitasの本義でし た(versitasはvertereの一変化形)。
すべての書物litterae を集積し、人類の叡智 sophiaを究める。社会科学を総合するために中央図 書館を置いた先達の意気が、ひしひしと感じられて くるというものです。そのような理想のもとにある この館で、すべての一橋人が生涯を通じて研鑽に励 む姿は,誠に清々しいものです。そのお手伝いがで きることは、私にとってもこの上ない喜びです。関 係各位のさらなるご支援、ご助力をお願い申し上げ、
就任のご挨拶と致します。
― 新附属図書館長プロフィール ― 1985年本学経済学部卒、1990年同経済学研 究科修了。経済学部助手、成城大学助教授を 経て、1996年本学経済学部助教授。2006年 より経済学研究科教授。経済学研究科長を経 て、2018年4月より附属図書館長。
一橋大学附属図書館 Hitotsubashi University Library
@hito_lib
BELL No.166 2018/5/16 発行 出会いによってひとは道を教えられるものです。ひととの出会い、書物との出会い。ときどきの幸運な邂逅によって、ひとはその後の道筋 を見出すのではないか、と感じます。
恥ずかしながら大学に入るまで、私に読書習慣はほとんどありませんでした。それでも数 冊の書物との出会いによって、大いに励まされ、歩むべき道を見いだしたことを改めて有難 く思い出しています。一橋大学で経済史(西洋経済史)を勉強しようと思ったのも、そのよ うな書物との出会いがあったからでした。
増田四郎先生(1908〜1997年)の『大学でいかに学ぶか』との出会いは、決定的でした。
先生は、奈良(伊賀上野)のご出身。郷里の上野中学に山を2つ越えて通われたなど、今と なっては大変な時代のご苦労話しも印象的でしたが、一橋(東京商科大学教員養成所)に入 られて、大いに勉強なさったお姿にこそ、まさに感動を覚えたものでした。学問された内容も さることながら、当時の先生方と膝を交えて勉強なさった日々の生活ぶりに、いわば知的昂奮 を感じたものです。
本書をお書になった当時(1966年)、先生はこの大学の学長でした。時代は、学園紛争盛ん の頃。さまざまな主義主張が渦巻くなか、学生たちの心は千々に乱れていました。学内の混乱 に心を砕かれた先生は、敢えて火中の栗(学長職)を拾われました。
学則不固。まなべばすなわちかたくならず。当時の卒業アルバムに増田学長が書かれたこと ばです。すべての学生が何かを掴まえようとしている。そう考えられた先生は、自らが学ばれた 姿勢を率直に語られ、多くの読者(学生たち)に「求真の気構え」ともいうべき心持ちを示さ れたのでした。
増田先生の本と同様に、感銘深く読者に迫ってくる一書に、阿部謹也『自分のなかに歴史を読 む』があります。
阿部先生(1935〜2006年)は増田先生より一世代若い方です。やはり本学で、上原專祿先生
(1899〜1975年)、また増田先生から西洋史を学ばれました。ドイツ留学中に出会った「ハーメ ルンの笛吹き男」伝説を、史実と付き合わせて見事なドイツ社会像を鮮やかに描き出され、一世を 風靡した歴史家です。やがて中世ヨーロッパ社会の全体を見通す仕事をなさり、一連のお仕事に よって、「社会史」という分野が実に豊かな可能性をもつことを示されました。
阿部先生のこの書物は、若い人たちに、自身のなかにある問題の発見こそが大切と説いています。
とかく若いうちは、問題を漠然と感じてはいても、それを明晰に客観化することができないもので す。このことを先生は、ひととの出会い、書物との出会いを通して「自分のなかに発見」すること の大切さを伝えています。
私自身、阿部先生のご指導を受けたひとりですが、君はどういう経緯でここ(一橋大学)に来る ことになったのだね、何を、どうしたいのか、との問いかけに、いろいろと考えさせられました。
今ある自分が、なぜこうなったのか、たかだか18〜19歳の青年たちに気の利いた答えはなかなか 見いだせぬものでした。ところが先生は、私たちに真摯に向き合い、学生が感じている「問題」を コトバにする手助けをしてくださったものです。
感性を研ぎ澄まし、ことばを獲得し、問題を明晰に自覚化すること。それこそが勉強なのだよ、
とおっしゃっていました。先生ご自身の体験談は、上原專祿先生との交流、また種々の読書体験に 至るまでこの上なく具体的です。読者は、それらの経験が阿部先生というひとりの教養人をいかに 創り上げていったかを、感動をもって理解することができるでしょう。
皆さんが大いなる出会いをこのキャンパスで得られることを期待しています。
※一橋大学機関リポジトリでは、本学関係者の手稿類をpdf公開しています。
「増田四郎関係資料」(2018年3月公開)
https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/da/handle/123456789/16544