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表面形状の計測技術と標準に関する調査研究

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1. はじめに

 「平面度」は重要な幾何学量の一つであり,近年,フォ トマスクやシリコンウエハ,液晶基板,光学素子,工業 用平面基準器(オプティカルフラット)など高精度な平 面が要求されている.

 半導体産業においては半導体素子の微細化,高密度化 が進んでおり,急速な回路寸法の縮小に向けたリソグ ラフィ技術の開発が要求されている.図 1 は,国際半 導体技術ロードマップ(ITRS: International Technology Roadmap for Semiconductors)2009 年 版1)に 記 載 さ れ ているリソグラフィ技術ロードマップである.32 nm ノード以降の次世代リソグラフィ技術としては,EUV

(Extreme Ultraviolet)リソグラフィが有望視されている.

その一方,EUVリソグラフィ技術における光源,レジ スト,マスクなどに対する多くの技術課題がある.例え ば,EUV光は物質による吸収が高いため透過光学系で 構築することはできず反射光学系で構築しなければなら ない.また,従来の波長 193 nmの液浸リソグラフィと 比べてEUV光は一桁以上波長が短くなるため,使用さ れる光学素子には非常に高い形状精度,その形状計測技

術が要求される.表 1 は,マスクの平面度測定不確かさ に関するロードマップ1)である.現状,要求精度を満た す平面度の標準供給に関する報告はない.

 産業技術総合研究所計量標準総合センター(National Metrology Institute of Japan: NMIJ)ではフィゾー干渉計 を用い,300 mmの範囲に対して測定不確かさ 10 nm(k

= 2)の精度で平面度の標準供給を行っている.次世代 半導体産業の要求精度を満たした標準供給を行うために は,新たな計測技術の開発が必要である.平面度計測技 術の高度化に加えて,次世代ウエハサイズ 450 mm(18 inch)へ対応するための標準供給の範囲拡大も大きな課 題である.

 一方,表面形状に関する標準供給に対する要求は平面 度に限らない.産業界からは,球面,非球面形状に関す る標準供給が要望されている.例えば,シンクロトロン 放射光施設では平面,楕円面形状などのX線集光用ミ ラーが使用されている.X線が数mradの角度で斜入射 されるミラーは,光軸方向に 100 mmから 1000 mm 度の細長い形状であり,この範囲にわたって数nmの測 定精度が要求される.ピックアップレンズなどの微小 部品に対する非球面形状計測に関する多くの報告があ 2)-10).一方,前述に示したような広範囲にわたり超高 精度が要求される表面形状計測に対する標準供給に対す

表面形状の計測技術と標準に関する調査研究

近藤余範

(平成22年12月14日受理)

A survey on surface metrology for flatness standard

Yohan KONDO

Abstract

There is strong demand to ensure that the measurement uncertainty of flatness is a few nanometers with respect to the measurement range of 300 mm or more; however, the measurement range and measurement uncertainty of flatness at the National Metrology Institute of Japan (NMIJ) are 300 mm and 10 nm, respectively.

This paper reports the results of survey about approaches for the surface form metrology. In particularly, the deflectometory which obtains the form by measuring the local inclination angle on the surface is described.

計測標準研究部門 長さ計測科幾何標準研究室

(2)

る実績は世界中で報告されていない.

 本報告では平面度の高度化,範囲拡大に向けた新たな 計測技術動向について調査するとともに,球面・非球面 形状計測への展開についても調査を行った.

2. 平面度計測

 産業界で平面度測定に用いられている主な干渉計につ いて述べる.

2. 1 フィゾー干渉計

 図 2 にフィゾー干渉計の概略図を示す.被検面とコリ メータレンズの中間に,高精度に研磨された参照用基準

平面が配置される.コリメータレンズを通過した平行光 の一部は参照面で反射し,参照面を透過した光は被検面 で反射する.参照面と被検面からの反射光が干渉し,撮 影素子によって干渉縞が検出される.参照用基準平面を 球面レンズとすることで,球面形状を測定することも可 能である.干渉するそれぞれの光波がほぼ同光路となる ため振動などの外乱に強く,実用的な干渉計として多く 使用されている.

2. 2 マイケルソン干渉計

 図 3 にマイケルソン干渉計の概略図を示す.コリメー タレンズを通過した平行光は,ハーフミラーによって測 定光と参照光に分割する.測定光と参照光は,それぞれ 図 1 リソグラフィ技術ロードマップ1)

表 1 マスク平面度の測定不確かさロードマップ1)

(3)

被検面と参照面で反射し,ハーフミラーを透過する.反 射した光は干渉し,撮影素子によって干渉縞が検出され る.マイケルソン干渉計は,測定光と参照光の光路を波 長オーダで一致させることで,白色光や低コヒーレント 光を用いた干渉計を構築することができる.可干渉距離 は短く被検面の位置の調整が必要となるが,透明な平行 平面ガラスなど,フィゾー干渉計では裏面反射の影響を 受けて測定できない表面形状を測定できる利点がある.

2. 3 斜入射干渉計

 被検面に対して光波が斜めに入射する干渉計である.

図 4 に回折格子を使用した斜入射干渉計の一例を示す.

このほかにプリズムを使用した斜入射干渉計などもあ

る.

 コリメータレンズを通過した平行光は第 1 回折格子

(入射側)に入射後,透過光(0 次光)と回折光(1 次光)

の 2 光束に分割される.回折光は被検面に斜めに入射し,

反射光は第 2 回折格子(出射側)に入射する.透過光の 第 2 回折格子による回折光と被検面からの反射光(第 2 回折格子を透過する)が干渉し,撮影素子によって干渉 縞が検出される.

 多くの干渉計測においては被検面に対して直角に入射 し,反射光の位相変化を測定する.これに対し,被検面 への入射角が大きくなれば,縞感度を低下することがで きる.このため,フィゾー干渉計では測定できない比較 的大きな形状偏差を測定できるため,ウエハのエッジ ロールオフを含めた平面度測定などには有効である.

3. NMIJ における平面度校正

 NMIJでは,図 5 に示すフィゾー干渉計によって平面 度の標準供給を実施している.フリンジスキャン法より 干渉縞の位相分布を算出し,参照平面との差分を算出す る(3.1 節参照).参照平面の形状R(x,y)は三枚合わせ 法によって求める(3.2 節参照).校正されたレーザ光 源の波長をλとし,被検面の表面形状をF(x,y)とすると

(1)

となる.

3. 1 フリンジスキャン法

 得られた干渉縞から表面形状を算出する方法とし ては,一般的にフリンジスキャン法12)やフーリエ変換 13)が用いられる.NMIJでは,5 ステップのフリンジ スキャン法を適用し,平面度の測定を行っている.

 図 6 にフリンジスキャン法の概念図を示す.ピエゾ素 子(PZT)を用いて被検面を微動させ,測定光の位相を 図 2 フィゾー干渉計の概略図

図 3 マイケルソン干渉計の概略図

図 4 回折格子を用いた斜入射干渉計11)

(4)

変化させる.検出される干渉縞強度分布は,各位置にて 正弦的に変化する.π/2 位相のシフトした 5 枚の干渉 縞画像を測定したとき,m番目の強度分布Imは次式で 表される.

(2)

ここで,a(x,y)は背景強度分布,b(x,y)はコントラスト

むら,φ(x,y)は被検面の形状に相当する位相分布である.

得られた 5 枚の干渉縞画像より位相分布は,次式で表さ れる14)

(3)

3. 2 三枚合わせ法

 フィゾー干渉計は,参照平面と被検面との比較によっ て平面度を測定する.したがって,参照平面と被検面の それぞれの表面形状が加算された結果が測定される.参 照平面の平面度はできるだけよいことが望まれるが,理 想的な平面は存在しない.そこで,自己校正法15)の一つ である三枚合わせ法16),17)を適用して参照面の形状データ を求める.

 同一形状の参照平面(オプティカルフラット)を三枚 用意する.それぞれの平面形状をA(x,y),B(x,y),C(x,y) とする.図 7 に示すようにAB,BC,CA 組み合わせについてそれぞれ比較測定を行う.A,C ある軸を中心として反転した参照平面形状を表し,y を反転軸とする.ここでは,式を簡略化するため参照平 面は平行に設置されているとする.このとき,各組み合 わせの出力結果をMi(x,y)(i=1,2,3)とすると,

(4)

となる.式(4)の連立方程式を解くと,各参照平面の 反転軸上の形状が以下として得られる.

(a)光学系の概略図

図 6 5 ステップのフリンジスキャン法 図 5 超高精度大口径平面度干渉計

(b)装置写真

図 7 三枚合わせ法

(5)

(5)

この結果より,1 次元の真直度形状を算出することがで きる.この手法は,NMIJの真直度の校正技術として用 いている.これに加えて面全体の絶対形状を得るために は,ACの測定に加えて参照平面Aを回転させるこ とにより得られる.

4. 平面度標準の現状

 多くの計量標準研究機関(NMI)でフィゾー干渉計 を用いた平面度標準供給を行っている.各国の平面度の 標準供給状況について報告するとともに,NMIJの測定 精度について検証し,フィゾー干渉計による平面度計測 の問題点について検討する.

4. 1 各国 NMI の平面度標準供給状況

 ドイツ物理工学研究所(PTB)では水銀液面を平面度 の基準としているが18),光学平面(オプティカルフラッ ト)が実用的であり,多くのNMIでは三枚合わせ法に よって,もしくは校正された光学平面を基準とした平面 度の校正を実施している.

  国 際 度 量 衡 局(Bureau International des Poids et

Mesures: BIPM)に報告されている各国NMIの平面

度校正測定能力19)について図 8 にまとめる.NMIJは,

300 mmの範囲に対して 10 nm(k= 2)の測定不確か

さであり,300 mmの測定範囲に対して世界最高精度の 平面度標準供給を実現している.しかし,次世代半導体 産業などの要求精度を満たすものではなく,新たな計測 技術の開発が必要である.まず,現状のNMIJにおける フィゾー干渉計による平面度計測に関する問題点につい て次節で検証する.

4. 2 測定不確かさの検証

 表 2 にNMIJにおける平面度の測定不確かさバジェッ ト表を示す.主な不確かさ要因として以下が挙げられる.

・環境ゆらぎによる不確かさ

・フリンジスキャン法における不確かさ

・参照平面の形状補正における不確かさ

・測定の再現性

図 8 各国NMIの平面度校正測定能力

表 2 NMIJの平面度測定不確かさバジェット

(6)

 参照平面の形状補正に伴う不確かさ要因と測定の再現 性は,特に大きな不確かさ要因となっている.測定の再 現性については,近年,測定装置および測定アルゴリズ ムの改良によりサブnmの安定性で測定可能であるとの 報告20)もあるが,参照平面の形状補正に伴う不確かさ 要因は,干渉計を用いる上では避けられない以下の大き な問題がある.

◇多項式近似による問題

 三枚合わせ法を適用することによって,参照平面と被 検面の表面形状を分離することができる.しかし,測定 毎に適用するには非常に時間がかかり現実的でない.三 枚合わせ法を適用して参照平面の形状マップを事前に取 得し,各測定結果から参照平面の形状マップを除去する ことが現実的である.三枚合わせ法によって得られる形 状マップは離散的であり,その間をZernike多項式に近 似した形状マップを適用する.参照平面として用いられ るオプティカルフラットは,高精度に研磨されたもので あり,低次のZernike多項式で十分よく表現できるが,

高次成分は除去されてしまうので不確かさ要因となる.

◇重力たわみの補正

 三枚合わせ法を用いて参照平面の形状マップを算出す るが,重力たわみの項は,三枚のオプティカルフラット で同一となるためすべてキャンセルされてしまう.図 9 は,重力たわみの測定結果への影響を示した図である.

この重力たわみによるひずみ量は,有限要素法を用いて 求めた結果,約 27 nmである.この結果より参照平面 の形状マップの補正を行う.この補正精度は,平面度測 定の大きな不確かさ要因となっている.重力たわみの影 響を避ける一つの方法は,水平方向に配置された参照平 面と被検面を垂直方向に配置することである.しかし,

実際に使用される姿勢で被検面の形状を知りたいという のが実情であり,また,今後より大きな口径を測定する 場合,被検面保持に伴う振動の影響などが問題になる.

5. 新たな測定手法への取り組み

 前章までにフィゾー干渉計を用いた表面形状計測にお いて,参照平面の形状補正が問題であることを示した.

そこで,産業界の要求精度を満たす新たな計測手法,動 向について調査した.測定手法としては,干渉計測と走 査式傾斜角計測について紹介する.特に,以下の観点に ついて調査を行った.

 ●大型化:300 mm以上の表面形状計測が可能であるか  ●測定精度:数nmの測定不確かさで計測できるか  ●非球面化:球面・非球面形状への展開は可能か

5. 1 干渉計測

 表面形状を干渉計測する場合,被検面の測定範囲が大 きくなるにつれて参照平面の重力たわみの影響はますま す増大し,測定精度は低下する.また,広い範囲で高精 度に参照平面を研磨することは困難で,コストも向上す る.この問題を解決する一つの方法として,スティッチ ング手法がある.測定領域を区分し,各領域で測定した 結果を繋ぎ合わせることによって測定領域を広げる方法 である.参照平面のサイズが小さくなることにより,高 精度な参照平面を使用できるだけでなく,重力たわみの 影響も小さくなる.測定結果の横分解能は,撮影素子の ピクセル数に依存するが,測定領域を区分することで全 領域におけるピクセル数が増大するため,水平方向の分 解能も向上する.

 測定データを繋ぎ合わせる場合,通常,各区分領域に おいてオーバーラップする領域を設ける.各測定結果の オーバーラップ領域が一致する(例えば,オーバーラッ プ領域における 2 つの測定データの偏差が最小となる)

ように測定データを繋ぎ合わせる.このとき,繋ぎ合わ せに伴う誤差が累積することに留意しなければならな い.

  湯 本 ら は,Microstitching Interferometry(MSI)21)

Relative Angle Determinable Stitching Interfeometry

(RADSI)22)の概念を組み合わせたスティッチング干渉計 を開発した23).図 10 に開発装置の構成を示す.マイケ ルソン型顕微干渉計(ZYGO New View300)と大型フィ ゾー干渉計(ZYGO GPI-XP HR)からなる.約 10 mm の測定領域に対してマイケルソン型顕微干渉計を用いて 区分した被検面の表面形状を測定する.区分測定毎の形 状間の相対角を決定するために,フィゾー干渉計を用い る.基準平面ミラーを測定することで干渉計の参照面に 対する傾きを測定する.被検面を測定し,その後逆向き に置き直して再度測定した結果を比較した時,Peak-to- 図 9 重力たわみの影響

(7)

Valley(PV)で 3 nmの結果が報告されている.表面形 状の短波長成分を顕微干渉計によって高精度に測定し,

表面形状の長波長成分(区分測定毎の相対角)をフィゾー 干渉計によって測定することによって,スティッチング による累積誤差を低減させて高精度に表面形状計測を実 現している.

 スティッチング手法が適用される表面形状は平面だ けに限定されない.図 11 にQED Technologies社が開 発したSubaperture stitching interferometry of aspheres

(SSI-A)装置24)を示す.部分領域(サブアパチャー)毎 に測定し,スティッチング技術により非球面測定を可 能としている.また,参照面と被検面の間にVariable optical null device(VON)25)を挿入し,球面波を非球面 波に変換する(図 12 参照)ことで,測定可能な非球面 量を増大するとともにサブアパチャー数を減少させて 短時間で測定できるAspheric Stitching Interferometer

(ASI)装置も開発されている.

 図 13 にZYGO社が干渉縞ゾーンスキャン法を適用し て開発したVeriFireAsphere装置を示す26).球面を参照 面としたフィゾー干渉計で球面形状を計測した場合,ヌ ル干渉縞が全面に得られる.一方,軸対象非球面では,

中心と曲率に合致した輪帯上のみにしかヌル干渉縞が得 られない.この曲率の合致するヌル干渉縞領域を一つの ゾーンとして,光軸方向に走査することで全領域にわ たって非球面形状計測を可能としている.

 これまでに示したように,装置全体を単純に大型化す るのではなく,測定領域を区分することにより,大平面 だけでなく,球面,非球面形状を計測することができる.

また,各区分領域における測定精度は非常に高い.後述 する,走査式計測手法に比べて測定時間が短いことも,

産業界においては大きな利点である.しかし,数nm 測定不確かさで表面形状を得るためには,参照面の形状 精度が影響する問題,区分データの繋ぎ合わせに伴う誤 差は技術課題である.

図 11 SSI-A装置24)

図 12 VON光学素子による非球面波変換の概念図25)

図 10 相対角度決定型スティッチング干渉計23)

(a)装置構成図

(b)装置概略図

(8)

5. 2 走査式傾斜角計測

 参照面を用いずに直接表面形状を測定する方法とし て,変位センサを用いた計測手法が多く行われてい る. 図 14 は, パ ナ ソ ニ ッ ク 社 が 開 発 し たUltra-high Accuracy 3-D Profilometer (UA3P) 装 置 で あ る27). こ の装置は原子間力プローブと名付けられたプローブがZ 軸ステージに取り付けられている超高精度三次元測定機 である.被検面とプローブ間に働く原子間斥力が一定と なるようにZ軸を制御し,被検面を走査する.測定可 能な被検面の最大傾斜角度は 75 °であり,非球面レンズ

をはじめ,複雑な自由曲面を高精度に測定できることか ら産業界で広く使用されている装置の一つである.

 各国のNMIでも超高精度三次元測定機の開発が報告 されている10).しかし,プロービング誤差やプローブ走 査に伴う運動誤差の影響から,要求される数nmの測定 不確かさを満たす装置は開発されていない.特に,運動 誤差が要求精度以下のステージを用意することは現実的 でない.そこで,複数のセンサを用いた測定結果から表 面形状と運動誤差を分離する二点法や三点法が開発され

てきた29),30).特に,Deflectometry(傾斜角計測)は,近年,

注目されている計測手法であり,各国のシンクロトロン 放射光施設において,X線集光用ミラーの計測装置とし て開発されている31)-35).傾斜角計測の特徴について以下 に示す.

 図 15 に示すように角度センサを用いて表面上を走査 する.得られた傾斜角データを積分することにより,表 面形状が得られる.角度センサを用いて表面形状の傾斜 角(一階微分値)を測定することにより,センサ走査に 伴う並進誤差に影響されない.しかし,ピッチング誤差 図 13 VeriFire Asphere装置26)

図 14 超高精度三次元測定機(UA3 P)の原子間力プ ローブ28)

図 15 表面形状の傾斜角計測(一階微分値)

(a)装置外観

(b)干渉縞ゾーンスキャン法

(9)

の影響を受ける.

 次に,図 16 に示すように 2 個の角度センサを用いて 表面上を走査する.表面形状の二階微分値を測定するこ とにより,並進誤差とピッチング誤差の影響を受けない.

ただし,2 個のセンサを用いることは,各センサ特性の 違いなどから誤差要因となる.

 この問題を解決する方法として,ペンタプリズムの特 性を利用する.1 つの角度センサで,走査に伴う運動誤 差の影響を受けずに表面形状の傾斜角を測定することが できる.図 17 にペンタプリズムを用いた表面形状計測 システムの例を示す.角度センサとしてオートコリメー タを用いる.ペンタプリズムを用いて測定光を直角に曲 げ,被検面に照射する.ペンタプリズムを走査すること により,被検面の全長にわたって傾斜角を測定する.図 18 に示すようにピッチング誤差によってペンタプリズ ムへの入射角誤差θがある場合,入射光に対して 90 度 で曲げられる出射光の 90 度からのズレϕは次式で表さ れ,

(6)

式(6)を用いてピッチング誤差の影響を解析したPTB の結果が報告されている36).実際にPTBで開発した 装置に用いられたペンタプリズムの諸元は,δ= 1.6 arcsec, ψ= 1.2 arcsec,n2= 1.5 である.いま,要求

される傾斜角の測定精度を± 5 nrad(0.001 arcsec)と すると(これは,サンプリング間隔Dを 1 mmとした時,

5 pmの表面形状の高さΔh変位に相当する.),許容さ れるピッチング誤差θは,約± 7100 arcsec(± 2 deg)

である.エアベアリングステージを用いれば,容易に数

arcsec以下のピッチング誤差でペンタプリズムを走査す

ることができる.よって,ペンタプリズムを用いること により,走査に伴う運動誤差にほとんど影響されずに表 面形状を計測することができる.

 角度センサの測定精度について検討する.例えば,オー トコリメータを用いた場合,0.1 arcsec以下の精度を持 つオートコリメータが市販されている.これは,サンプ リング間隔 1 mmに対して 0.5 nmの測定精度に相当 する.一方で,高精度なオートコリメータの測定範囲は,

±数十秒から±数百秒程度であり,測定対象となる表面 形状は,平面もしくは緩やかな曲面になる.測定範囲を 拡大することは,傾斜角計測の課題の一つであるが,参 照面を用いずに非常に高い精度で表面形状を測定できる 手法と考える.

6. トレーサビリティ戦略

 表面形状を走査式傾斜角計測する場合のトレーサビリ ティ体系について以下に示す.

●光の真直性

 ペンタプリズムを使用することにより,被検面を走査 するときの運動誤差の影響をほとんど受けない.このた め,走査式傾斜角計測は測定光の真直性が基準となる.

干渉計と異なり,いかなる基準参照面を必要としない走 査式傾斜角計測の大きな利点である.

●トレーサブルな角度計測

 角度センサの一つであるオートコリメータは,多くの 図 16 表面形状の傾斜角計測(二階微分値)

図 17 ペンタプリズムを用いた傾斜角計測36)

図 18 ペンタプリズムへの入射光と出射光の関係36)

(10)

NMIでトレーサビリティが確保できる.NMIJにおい ても,角度の国家標準である自己校正型角度測定装置37)

に直接トレーサビリティが確保でき,その校正精度は 0.1 arcsec(k= 2)である.

●トレーサブルな長さ計測

 走査位置を測定するために用いられる光学式リニアエ ンコーダやレーザ干渉計は,長さの国家標準にトレーサ ビリティを確保できる.また,走査位置を測定するため だけに用いるため,その測定精度はさほど重要ではなく,

要求精度に対して十分確保できる.

7. まとめ

 表面形状計測技術動向について調査を行った.NMIJ では,300 mmの範囲に対して 10 nmの測定不確かさ で平面度の標準供給を実施している.しかし,次世代半 導体産業などでは,300 mm以上の測定領域に対して数 nmの測定不確かさで表面形状を得ることが求められて いる.現状の計測手法の問題点としては,干渉計に用い られる参照面の形状補正が大きな不確かさ要因となって いることを示した.そこで,参照面を用いずに表面形状 を計測できるDeflectometory(傾斜角計測)が有用であ る.角度センサを用いて表面形状の傾斜角を測定する手 法である.得られた傾斜角を積分することによって,表 面形状を算出する.オートコリメータは,サブnmの表 面形状を測定できる角度センサであり,また,ペンタプ リズムを用いて測定光を 90 度に曲げて被検面に照射す ることにより,走査に伴う運動誤差の影響をほとんど受 けないことを示した.ペンタプリズムを用いた傾斜角計 測は,いかなる参照面も必要としない測定光の真直性を 基準とした計測手法である.

 NMIJでは走査型傾斜角測定装置を開発中である.図 19 に外観図を示す.1000 mmの測定領域を持つ装置で ある.本調査研究をもとに,表面形状計測に関する今後 の研究展望を以下に示す.

1)真直度の標準供給

 走査型傾斜角計測装置は,一次元の表面形状(真直度)

ついて測定することができる.現在,三枚合わせ法を適 用し接触式変位プローブを用いた真直度の標準供給を 行っている.1000 mmの測定範囲に対して,120 nm 測定不確かさで実現している.開発中の装置により大幅 な測定精度向上が期待され,具体的には,同領域におい て 5 nmの測定不確かさでの標準供給を目指す.

2)参照平面の重量たわみの補正

 干渉計の大きな不確かさ要因の一つが参照面の形状補 正であり,特に重力のたわみの補正は大きな技術課題で ある.現在,平面度標準供給に用いているフィゾー干渉 計の参照平面の重力たわみを開発装置によって測定する ことにより,平面度校正精度の向上を目指す.

3)走査型傾斜角計測の不確かさ解析

 走査型傾斜角計測は,各測定位置の傾斜角を積分する ことによって表面形状を算出する.そのため,誤差が累 積することが欠点である.ペンタプリズムを用いること で走査に伴う運動誤差を無視することができるが,例え ば,角度センサとして用いるオートコリメータのドリフ トなど,その誤差要因が累積する.このような問題を解 決する方法としては,表面形状の二階微分値を測定する ことが有効と考えられる.誤差要因の積分による誤差伝 播について解析を進める.

4)二次元面への拡張

 走査型傾斜角計測は,一次元形状の計測となっている.

二次元面への拡張には,表面形状を各ラインで計測した 結果を繋ぎ合わせる技術開発が必要である.干渉計のス ティッチング手法に示したようにデータ間の相対関係を 測定する方法は一つの考えであり,二次面への拡張アル ゴリズムの開発に取り組む.

5)球面,非球面への拡張

 走査型傾斜角測定装置に用いられる角度センサ(オー トコリメータ)には測定可能範囲がある.オートコリメー タもしくは被検面の調整機能を付加し,表面形状の各測 定位置での傾斜角に追随することで測定可能傾斜角範囲 の拡大を行うことは一つの方法として考えられる.

 現在,標準供給を行っている真直度,平面度の標準供 給の精度向上および範囲拡大,また,新たな球面,非球 面形状の標準供給を早急な課題と捉え,上記の研究課題 に取り組んで行く.

図 19 走査型傾斜角測定装置

(11)

謝辞

 本調査研究を行うにあたり,高辻利之計測標準研究部 門副研究部門長兼長さ計測科長ならびに権太聡幾何標準 研究室長,尾藤洋一長さ標準研究室長,幾何標準研究室 の皆様に多くのご助言を頂きました.深くお礼申し上げ ます.

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参照

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