電気回路学Ⅱ
通信工学コース
5 セメ
山田 博仁
ひずみ波交
電気回路では、様々な要因 ( 素子の非線形性など
流
) によって信号波形が歪むことがある その歪み方は、基本周波数の波 ( 基本波 ) にその整数倍の周波数の波 ( 高調波 )が重畳されたものとなることが多い
周期 T の波に周期 T/3 の波 ( 第3 高調波 )が重畳された波形
そのような波形をひずみ波交流と呼ぶ
(基本波 )
� (�)=∑
�=0
∞
��sin(���+∅�)
: 直流成分
: 基本波
: 第 n 高調波 (n 次高調波 )
: n 次高調波の振幅 : n 次高調波の位相 ひずみ波交流の瞬時値
�3=1/3,∅3=�
ひずみ波交 流
周期 T の波に周期 T/3 の波 ( 第3 高調波 )が重畳された波形 基本波と n 次高調波の振幅 波形そのものを問題視する通信系や制御系では、高調波の位相関係も重要と
なる一方で、電力系や音声伝送系では位相関係はあまり重要ではなく、高調波 の振幅比のみに着目することが多い
高調波の振幅比のみを見れば、
前のスライドの波形も左の波形 も同じ
�3=1/3,∅3=0
エネル ギー
波のエネルギー
ある波の瞬時値を f(t) とすると、その絶対値の 2 乗積分は、その波のエネルギー
f(t) が電圧或いは電流であれば、単位抵抗 (1Ω の抵抗 ) で消費されるエネルギー
従って、 f(t) がある時間範囲だけ存在する波 ( 孤立波 ) でなければ、周期
的波動など、そのエネルギーは無限大となってしまう しかし、時間平均をとれば有限であり、
( 平均 ) 電力
周期 T の周期波 ( ひずみ波交流 ) の電力は、
電力
であり、 t はどの時刻であっても値は同じ
T t
正でかつ有限な平均電力を有する波形を、電力信号と呼ぶ
エネル ギー
ひずみ波交流の電圧 e(t) および電流 i(t) を、 n = 1, 2, 3, … として
�(�)=�0+∑
�=1
∞
√2���sin (���+∅�)
�(�)=�0+∑
�=1
∞
√2 ���sin(���+∅�−��)
と表すことにすれば、 Ene および Ine はそれぞれ第 n 高調波の電圧およ び電流の実効値
�= 1
� ∫
0
�
�(�)�(�)��=�0�0+∑
�=1
∞
������cos��
ひずみ波交流の電力は、各調波電力の和に等しい 1 周期 T についての平均電力 を求めれば、
実効値と力 率
��=
√
�1 ∫�0 �2(�)��=√�1�2+�2�2+⋯��=
√
�1 ∫�0 �2(�)��=√�1�2+ �2�2+⋯従って、ひずみ波交流の電圧および電流の実効値は、直流成分は 0 と して (0 で無い場合はそれを除いて ) 以下の様に表せる
電圧の実効値 電流の実効値
実効値とは、平均電力が等しくなる直流に相当する電圧或いは電流値のこと
また、ひずみ波交流の皮相電力は、
皮相電力
=�� ��=√ (
�=1∑∞ ���2)(
∑�=1∞ ���2)
となり、力率は
力率
ひずみ 率
本来は基本波成分のみの正弦波交流に対して、何らかの要因で高調波成分 が含まれるようになってしまった信号波形に対して、以下の量が用いられ
る ひ
波形率 (form factor)=( 実効値 )/( 絶対値の平均 )
波高率 (peak factor)=( 最大値 )/( 実効値 )
リップル率 (ripple factor)
ブリッジ構成による全波整流回路
E0
全波整流波形
E0 は直流成分
周期波
周期波 (periodic wave) とは、ある一定の時間間隔 T をもって同じ振動を繰り
返す波形
が全ての t に対して成り立ち、 T のうち最も小さい値をその波形の周期
(period) と呼ぶ。
� (� )=� (� +�� ),�=0,±1,±2⋯
様々な周期波の例
(a) 整流波形
(b) 鋸歯状波形
(c) パルス列
周期波のフーリエ級数展 開
我々が通常扱う周期波 f(t) は、以下の様にフーリエ級数に展開可能
� (�)=�0+∑
�=1
∞
(��cos���+��sin���)
�0= 1
� ∫
−�/2
�/2
� (�) ��
��= 2
� ∫
−�/2
�/2
� (�)cos��� �� (�=1, 2,⋯)
��= 2
� ∫
−�/2
�/2
� (�)sin ��� ��(�=1, 2,⋯)
}
フーリエ ( 三角 ) 級数
ここで、 b0, bn, an をフーリエ係数と呼ぶ
ただし f(t) は実関数で、任意の時刻 t に関してまでを 1 周期と考え
て、基本周期 T に対する基本角周波数とする。また、正の整数 n に より、書けば、
例題
3.2.1
より までを基本周期とする関数 f(x) を、
� (� )=�0+∑
�=1
∞
(�� cos��+�� sin ��) 式(1)
上式の両辺を から まで積分すると、
−∫�
�
� (�)��=�0 ∫
−�
�
��+∑
�=1
∞
(
��−∫��
cos����+��∫
−�
�
sin����
)
=2� �0∴�0= 1 2� ∫
−�
�
� (�)��
次に、式 (1) の両辺に (m は整数 ) を掛けて から まで積分すると、
例題
3.2.1
0
∴
例題
3.2.1
従って、 ��= 1
� ∫
−�
�
� (�)cos����
同様に、式 (1) の両辺に (m は整数 ) を掛けて から まで積分すると、
従って、 ��= �1 ∫
−�
�
� (�)sin����
ここで変数変換、 を行うと、 に対して で、これが半周期 に等しく、かつ であるから、基本周期 T の周期波 f(t) のフーリエ級数およびフーリエ係数 の式が導き出せる。
高調波成分の大き さ
ところで、 b0 は f(t) の時間平均で、直流成分の大きさを表す。
�=tan−1(��/��) また、
となるところから、第 n 高調波の大きさは、 によって与えられる。
複素フーリエ級 数
f(t) をフーリエ三角級数に展開する式
, cos���=1
2 (�� ���+�− � ���)
� (�)=�0+∑
�=1
∞
(��cos���+��sin���)
に、オイラーの式 を代入すると、
となり、 の n を負の整数にまで拡張して、
� (�)= ∑
�=− ∞
∞
������0�
�0=�0
複素フーリエ級 数
さらに、
とも表すことができ、これらを複素フーリエ級数或いはフーリエ指数級数という。
ここで、正の n に対する nω0 を正の角周波数、負の n に対する nω0 を負の角周波数とすれば、周波数の概念は負の領域にまで拡張される。
An を周波数スペクトル或いは単にスペクトル (spectrum) と呼ぶ。
An は一般的に複素数だが、その大きさ を n に対して高さが の線で描いた ものを線スペクトルと呼んでいる。
線スペクトルの例
|��|
0 1 n
-1 2
-2 3 4
-3 -4 周期波では、正負の整数の n に対してのみ線が描ける。
また、正負の n に対する の値は通常等しく、
の関係がある。
ここで、 ただし、 は A の複素共役を意味する。
スペクト ル
f(t) が電圧の場合、 An を電圧密度スペクトル、 を電力密度スペクトル呼ぶ。
⟨|�|2⟩=⟨ � �´ ⟩=
⟨
�=− ∞∑∞ ���� ����=− ∞∑∞ �´ ��−� ���⟩
=�=− ∞∑∞ |��|2⟨|�|2⟩=�02+1
2 ∑
�=1
∞
(��2+��2)
従って、 b02 は直流電力、 は第 n 高調波の電力であり、周期波の電力は、
各調波の電力の和に等しい。
平均電力を計算すれば、
⟨�� � �⟩={10,,��=≠ 00 ⟨� � �1�� � �´ 2�⟩=
{
10,,��11=�≠ �22 であるからまた、 √��2+��2=2|��|=2|�−�| であるから、
例
3.2.2
対称方形波のフーリエ級数展開
� (�)=
{
− �� ,, −0<��/<��0/<��<0 0
これに , を用いて
� (�)=4 �
� (sin�0�+13 sin 3 �0�+1
5 sin 5�0�+⋯)とフーリエ展開される。
0 E
−E
T/2
−T/2
−T T t
f(t)
�=2�
�0
正と負の波形が同じ対称方形波には、直流成分および偶数次の高調波成分はない
|��|
0 1 -1
-3 3 5 7
-7 -5 9
-9 n
周波数スペクトル 対称方形波
スペクトルの広が り
周期波のもつエネルギーの大部分は基本波および低次の高調波に含まれる。
従って、基本波と低次の高調波によって波形の大まかな形が再現でき るが、高次の高調波まで重ねていくと、次第にもとの波形に近付いて いく。
� (�)=4�
� (sin�0�+13 sin 3 �0�+1
5 sin 5�0�+⋯)
例 3.2.2 で求めたフーリエ級数展開式
は無限個の項を有するが、エネルギーの大部分は基本波 ( 約 80%) および 低次の高調波に含まれる。
Ⅰ: 基本波のみの場合
Ⅱ: 基本波と第三高調波を重ねた場合
Ⅲ: 基本波、第三高調波および第五高 調波を重ねた場合
スペクトルの広が り
25 次まで考慮 125 次まで考慮 ギブスの角
しかし、不連続に変化する波形では、いくら高次の高調波まで重ねて行ったと しても、不連続点においてギブス (Gibbs) の角と呼ばれる現象が現れる。
f(t) が不連続 → フーリエ係数は次数 n に対して 1/n の割合で小さくなっていく
f’(t) が不連続 → フーリエ係数は次数 n に対して 1/n2 の割合で小さくなっていく f(m)(t) が不連続 → フーリエ係数は次数 n に対して 1/n(m+1) の割合で小さくなっていく 一般にフーリエ係数の値は、 n が大きくなるに従って小さくなるが、
ギブスの角は、不連続点から離れると急速に消滅するので、事実上は無視できる。
なめらかな波形ほど高調波成分は小さく、変化の激しい波形ほど大きくなる。
ひずみ波交流回路の計算
ω0 0 2ω0 nω0 ひずみ波或いは周期波での線形回路の励振
励振波形を部分振動成分 ( 直流、基本波、高調波 ) に分 解し、それぞれに対する回路の定常解を求めて重ね合 わせる
�(�)= ∑
�=−∞
∞
����� �0�
回路の伝達関数を T(jω) とすれば、応答 ( 電流 ) は、
�(�)= ∑
�=− ∞
∞
������0�
ただし、
��=� ( �� �0)��
例
3.4.1
+-
e(t) C
R
vc RC 直列回路 ( 平滑回路 ) に全波整流電圧 e(t) を
印加した時、キャパシタの電圧 vc(t) は、
�(�)= 4 �
�
{
12−∑�=1∞ cos24���2−10�}
複素フーリエ級数で表すと、 an = 0 として
�(�)=− 2 �
� ∑
�=− ∞
∞ 1
4 �2−1 ��2� �0�
一方、伝達関数 T(jω) は、励振 Ee jωt に対する vc(t) = Vce jωt を求めて、
� ( � �)=��/�=1/(1+ � � ��)
直流入力電圧 2E/π に対しては、 T(0) =1 であるから、 2E/π が出力となり、
E
で与えられ、
2n 高調波入力電圧 に対しては、
−2�/� 4�2−1
1
1+ �2� �0�� が出力となる。従って、全ての出力を重ねて
��(�)=− 2�
� ∑
�=− ∞
∞ 1
4�2−1
1
1+ �2��0�� ��2��0� が得られる。
全波整流電圧波形
例
3.4.1
或いは、 bn = An + A-n, an = j(An − A-n) によって書き直せば、
�0=2�/�
�2�=− 2�/� 4 �2−1
2
1+(2� �0��)2
�2�=− 2�/� 4�2−1
4� �0��
1+(2� �0 ��)2 となるから、
tan∅=2��0��
RC 直列回路のコンデンサ電圧 (E = 1, ω0RC = 1 の時 )
元の波形 ( 全波整流波形 ) よ りも少し直流に近くなってい る