国立国語研究所学術情報リポジトリ
語の長さとアクセント変化 : 『東京語アクセント 資料』の分析
著者 相澤 正夫
雑誌名 国立国語研究所研究報告集
巻 17
ページ 181‑237
発行年 1996‑03
URL http://doi.org/10.15084/00001366
国立国語研究所研究報告集17(1996)
語の長さとアクセント変化
『東京語アクセント資料』の分析一
相澤正夫
AIZAWA Masae: Word Length and Accent Change : An Analysis of A Dictionai3, of Tone一一accent on }Vords in the Todyo Dialect 1 , II
一181一
要旨:東京語で現在進行中のアクセント変化において,語の長さが変化の進行度に 関与的であることを,大蚤の調査資料によって実証する。分析対象とする事例は,
名詞の尾高型アクセントの衰退動向である。陳京語アクセント資料 上・下渥から
採集した名詞832語(3狛303語,4拍428語,5拍101語)を計量的に分析した
結果,拍数の多い長い名調ほど変化が先行していることが確認された。話者による 違い,譜による違いはあるが,全体的な変化の流れが平板化に向かっている確証も 得られた。キーワー一・ F:東京語アクセント,尾高型アクセント,語の長さ,アクセント変化,
アクセントの平板化,陳京語アクセント資料 上・下」
Abstract : Through the quantitative analysis of a }arge amount of research data , this paper makes it clear that word length has been playing a relevant role in the process of accent change in the Tokyo dialect. Here, l concentrate upon the trend toward disappearaRce of the word−final accent in the accent pattern system of nouns. From the exaraination of the accent patterns of 832 different norms (3e3 three−mora nouns, 428 four−mora nouRs, and lel five−rnora nouns),
Iconc韮犠de癒at the longer words have疑ndergo益e宅蓋e change much f疑rther than the shorter ones, and that the change itself, with some variatioR due to differences among speakers or the features of words, obviously reflects the global transition of the noun accent patterns from accented to unaccented. The data were obtained from A Dictiona71y of Tone−accent on vrords in the Todyo Dialect 1,II.
Key words:accent in the Tol〈yo dialect, word final accent, word length,
accent change, accent change from accented to unaccented, A Dictionanyy of
Tone−accent on肋燃勿伽Tokyo∠)刎臨L王1
1.はじめに
東京語の複合動詞のアクセント変化において,語の長さが変化の進行度に 関与的であることは,留学(1992)ですでに報告した。そこでは,平板式か ら起伏式へと移行する変化が,拍数の多い,長い語ほど先に進んでいること
が確認された。tSl)本稿では,東京語の名詞アクセントについて,同様の観点から分析を試み る。事例としては,尾高型アクセントの衰退動向をとりあげる。尾高型が,
東京語の名詞アクセント体系にあって,拍数にかかわらず総じて所属語数の 少ない劣勢の型であり,また,他の型との間でゆれをみせることのきわめて
多い型であると判断されるからである。注2)分析の対象とするデータは,前稿と同様に陳京語アクセント資料上・
下』(1985)(以下『東京ア毒と略称)から採集する。分析は,まず,尾高型 が確かに平野傾向にあることを確認したうえで,次の四つの観点にそって進
める。
①変化の進行度は,語の長さによってどのように違うのか。長V・語ほ ど変化が先に進んでいると予想されるが,実態はどうか。
②変化の進行度は,話者によってどのように違うのか。年齢差はみら
れるか。③変化の進行度は,語(特に語構成)によってどのように違うのか。
複剰語アクセント規則の関与はみられるか。
④変化は,全体としてどのような方向へと進行しているのか。平板化 の進行度はどうか。複合動詞アクセントの場合と比較してどうか。
なお,本稿は,語の長さに注聴することによって,四脚(1996)の内容を 補完する関係にあり,また,具体的な資料提示を目的とするものでもある。
2.分析対象とするデーータの収集
2.1. 陳禅語アクセント資料』本稿の論述にとって重要と思われる『東京ア!の特徴は,次の4点である。
一183一
①現代東京語でアクセントのゆれが予想される12,803語を収録。
②年齢差,地域差(山の手と下町),男女差に配慮して選定した19名 の話者について,個人別に情報を記載。謡者はアルファベットで識別。
大文字は男性,小文字は女性,「山」は山の手,「下」は下町,数字は 生年(西暦)の下2桁。例えば,A氏は男性・下町出身・1962年生ま
れ。以下同様。A下62,b山59, C下58, d山58, E下53, F下50,9下47,
H山43,1下43,J山39, K:下39,1山35, m山35, N山30,
0山30,P下29, q山29, r山20, s山11
③既刊の辞書4種に記載されているアクセント型と対照。辞書は以下
のように略称で表示。il新学解』:il新明解国語辞典 第3版叢(三省堂)
『NHK毒:『日本語発音アクセント辞典』(日本放送出版協会)
『閣解ア毒:『閣解日本語アクセント辞典 第2版』(三省堂)
開国ア」:興国アクセント辞典』(東京堂出版)
④準備段階でアクセントをチェックした2名のアクセントを併載。2
名の属性は次のとおり。X山55,y下20
ここで,①②は,本稿の目的にとって有利な条件である。①によって語数 の多さ,したがって語ごとの特徴(語構成,品詞,語種など)の多様性が,
また,②によって話者の属性の多様性が確保されるからである。③④は,劇 次的ではあるが有用な情報を提供する。例えば,③からは4種の辞書それぞ れの個性(アクセントのゆれに対して記述的か規範的かなど)を知ることが できる。また,④からは試掘的な調査が妥当であったかどうか,調査法を反
省・検討する際の手がかりが得られる。2.2.データ採集の条件
分析対象とするデータは,
『東京ア』から次の3点を全て満たすことを条件
に採集した。
①4種の辞書が,全て尾高型アクセントを登録していること。
②語形が一定していること。
③19名分の情報が全て揃っていること。
ここで,①は,その語が確かに尾高型で発音されていたことを保証するた めに設定した条件である。勿論1種でも尾高型を登録していれば可しとする 立場もありうるが,ここでは最も厳しい立場をとることにした。②は,語音 の違いによる影響を排除するための条件である。これによって,例えば,連
濁の有無(「客引き」の「キャクヒキ」とFキャクビキ」など)や母音交替(「胸 当て」の「ムネアテ」と「ムナアテ」など)の関わる語が除外された。③は,計量的・統計的な処理をするために必要な条件である。
以上のような手続きで採集された該当語は,3拍語303例,4拍語428例,
5倒語101例の,総計832語である。注3}
3.結果とその分析 3.1.全体の傾向の概観
既刊の辞書4種が,揃って尾高型アクセントを登録していることを条件に,
総計832語のデータを得た。これをもって4種の辞書情報に関するかぎり尾 高型が100%保持されているとみなすことにして,『東京ア』の19名の話者に おける尾高型の保持状況を概観する。圃
まず,尾高型の保持(と平板型の出現)という観点を中心に,全体のリス トを一覧表の形で示したのが,本稿の末尾に付した別表である。劉表は,拍 判別に3拍語,4柏語,5拍語の順にまとめてある。表の見方は,以下に述
べる通りである。(1)表は見開きになっており,左ページは,一語(あるいは一用法)に ついて,情報を左から順に次のように配列する。
(a)通し番号。
(b)語形。
一185一
(c)表記(意味・用法の注記を含む)。
(d)拍数。
(e)後部成素の拍数(単純語の場合は「O」と表示)。
(f)語種(前・後部成素それぞれについて表示)。
(9)4種の辞書におけるアクセント。『新明解聾NHK珂明解ア鐸全
国ア』の順。(h)Xとyのアクセント。
(2)右ページは,左ページに対応して,情報を左から順に次のように配
列する。(i) 通し番号(=a)。
(1)A(若)からs(高)までの19名のアクセント。
㈹ 19名のうち,起伏式の轡型(アクセント核が語頭から何拍めにあ るかにより「1」「2」のように数字で表示)で発音する人の合計(0
一19)o
(1)19名のうち,平板式(型)で発音する人の舎計(0〜19)。
(m)起伏式で発音する人の合計(=(k)の各項の合計。併用があるため 数値は19を超えることがある)。
③ (9)(h)(1)のアクセントは,以下の原則によって記号で表示する。
(d)まず,尾高型と平板型の出現状況に注國し,次の3種の記号で示
す。⑲:尾高型,O冨平板型,◎ 尾高型・平板型の併用 (ロ)尾高型も平板型も現われない場合,空欄とせず,次のようにそれ
以外の型を一括して示す。血 =eg高型を除く起伏式のみ
したがって,(/)の原則が優先されることから,「⑳,O,◎」で表示
される場合でも,実際にはそこに併用として「尾高型を除く起伏式」
が現われていることもありうる点に注意されたい。
(4)表の縦方向の配列は,(a>w(i>の通し番号の若い方から順に,次のよ
うなルールを(K)〜㈲の順序でかけていった結果である。
(d)まず,(k)のうち,尾高型で発音する人の合計が多い順に配列。
㈲ (d)で同点のとき,(Dの平板型で発音する人の合計が少ない順に配 列。
の (ロ)で同点のとき,(m)の起新式で発音する人の合計が多い願に配列。
したがって,概略,通し番号の若い方が,尾高型が比較的よく保持 され,平板化が進んでいないことになる。記号の分布模様としては,
上位の語ほど「囎」が多いことから黒っぽい印象を与え,下位にいく ほど自つぼくなると予想される。但し,一部の語では,下位にいって も「《」が現われうるので,黒っぽい部分は縞状に残ることになろう。
概観して分かるように,大多数の話者が尾高型を保持している語から,次 第に保持する人数が減少していき,やがて一人も保持していない語に至ると いう連続的な分布を示している。ここから,語によって大きな違いはあるも のの,尾高型の総体的な衰退傾向は確実に見てとることができよう。
試みに,全体(19入×832語)の尾高型保持率と平板型出現率を,次の計
算式で求めてみる。尾高型保持率=尾高型の全出現度数/全体の度数 :(⑳十◎)/(⑭十◎十〇十A)
平板型出現率=平板型の全出現度数/全体の度数
== (o÷@)/ (tw十@十〇十&)結果は,尾高健保工率が30.0%(4,746/15,808),平板型出現率が60.6%
(9,572/15,808)となる。これを全19人のうちの何人という形で示せば,尾
高型が19人中すでに6人程度にしか保持されていないのに対して,平板型は li人以上に現われていることになる。
3.2。拍数別の比較
3.1。の概観をうけて,ここでは語の長さ(=tw数)の違いによって,尾高 型の保持と平板型(およびその他の型)の出現の傾向にどのような違いがあ
一 187 一
るかを調べる。
まず,人数ごとの分布の偏りを晃るために,人数(19人〜0人)を横軸に,
それぞれの所属語数を縦軸にとってグラフ化したのが,図1(3拍),図2(4
拍),図3(5拍)である。図1,図2,図3を比較すると,グラフの山のでき方とその位置に違いが 認められる。3拍語では,グラフが台地状をなし分布の偏りがほとんどみら れないが,4拍語と5拍語では,尾高型の保持は右寄りに,平板型の出現は
左寄りに大きな峰ができている。尾高型の衰退と平板型の伸張という変化が,3拍語では徐々に進行中であるのに対して,4拍語と5拍語ではすでにかな り先まで進行していることをうかがわせる結果となっている。
次に,拍数別にそれぞれのアクセント型の出現率を示したのが,図4(3 拍),図5(4拍),図6(5拍)である。また,参考までに4種の辞書におけ
る非尾高型の登録状況を,pa 7(3拍),図8(4拍),図9(5狛)に示した(尾
高型は100%とみなして省略)。アクセントの型は,アクセント核が語頭から 何拍めにあるか,その数字で衰示する。平板型は,「0」で表示する。また,
必要に応じて,語末から一拍めにあるか,その数字をマイナス記号を付して 表示(いわゆる逆算指定)することがある。二つの表示法における型の対応
関係は,次の通りである。尾高 一2 −3 −4 −5 平板
3才白 : 3 2 1 一 一 〇
5才白 : 5 4 3 2 1 0
図4,図5,図6によって,尾高型の衰退と非尾高型(特に平板型)の伸
張という大きな変化の流れが改めて確認される。拍数男ijにたどると,3拍,娃拍,5拍の順に尾高型保持率が低下し(44%>22.8%>18.8%),平板型出
現率が上昇していく(55.8%〈62.9%〈65%)ことが分かる。4拍と5拍と
の差はいずれも微妙であるが,ひとまず長い語ほど変化が先行しているとみ
なすことができよう。この点は,図7,図8,ee 9の辞書情報とも符合する。
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5拍語 図9
一191一
例えば,平板型の「o」を見ると,4種の辞書のいずれにおいても,拍数が 多くなるほど出現率が高くなっている(3拍く4拍く5拍)。醐
ここで平板型を除く非尾高型の捧の伸び方をみると,拍数によって特徴的 な違いのあることに気付く。特に,4拍の「3」と5丁目「3」が,尾高型 と肩を並べるほどの伸びである点が注目される。4拍の「3」については話 者の属性が,また,5拍の「3」については語構成が関与していると考えら れる。詳細については,次節以下で言及する。
3.3.話者による違い
3.1.と3.2.では,『東京ア2全体の平均的な姿を見た。ここでは個々の話者
による違い,すなわち『東京ア』内部の多様性に注扇する。
まず,19人の話者それぞれの「尾高型のみ」「尾高型と非尾高型の併用」「非
尾高型のみ」の割合を,拍数別にして図10(3拍),図11(4拍),図12(5 拍)に示す。グラフは,上から下へと話者の年齢が若くなる。
併用も含めた尾高型の保持率をみると,3抽,4拍,5拍とも話者によっ て大きな差のあることが分かる。すなわち,尾高型を比較的よく保持する人
と,すでに相当程度失ってしまった人とが混在している模様である。保持率 の最高と最低およびその較差は,次の通りである。
最高 最低 較差 3拍 : 9氏竺69.3% q氏w19.8% 49.5%
4拍 : s氏=61.7% q氏=4.7% 57.0%
5拍 : s氏=66.3% q氏=2.0% 64.3%
ここで明らかな年齢差は認められないが,高年層寄りに尾高型を保持する 人がやや霞立つようだ(s,P, o, Nの各氏)。また,高年層寄りでも保持 率の低いr,q, mの各氏が,いずれも山の手出身の女性であることが注目 される。なお,4拍,5拍で,S氏の併用の割合が他と比べて異様に高いこ
とも目をひく。t「・ 6)
一方,併用も含めた罪尾高型の出現率をみると,話者による差は尾高型の
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図12 5三三
193
保持率の場合ほど大きくはない。出現率の最高と最低およびその較差は,次
の通りである。最高 最低 較差 3拍 :q氏 =84.2% 9氏=41.3% 42.9%
4拍 :r氏,i氏=・97.7% o氏=61.7% 36.0%
5拍
: q氏 =98.0% o氏=77.2% 20.8%こちらもはっきりとした年齢差は認めにくいが,若年層寄りの方がやや高 い出現率を示しているようだ(特に4拙と5拍)。また,上で言及した高年層 寄りの山の手出身の女性r,q, mの各氏が,ここでは揃って高い非尾高型 の出現率を示していることが分かる。この人たちは,陳京ア』の話者構成で は高年層寄りに位置するものの,尾高型から非尾高型への移行という局面に おいては,むしろ変化の先駆け的存在であると雷えそうである。
次に,個々の話者ごとの尾高型保持率が,3拍,4拍,5拍とどのような
パタ・一一一ンで推移するかをグラフに描いて比較してみる。19人全体の平均を基準にして分類すると,図13−aから図13−eまでの五つのパターンに大き
く分類できる。各グループの特徴は,次の通りである。
図13−a:3拍,4拍,5記すべてが,平均を上回る。(s,P, o, N,
1氏)
ec 13−b:3拍以外が,平均を上回る。(H, d, b氏)
厩13−c:3拍,4拍,5拍すべてが,ほぼ平均と一致する。(K,E氏)
図.13−d:3拍以外(特に4拍)が,平均を下圏る。(1,9,A氏)
図13−e:3拍,4拍,5拍すべてが,平均を下圏る。(r,q,m, J,
F,C氏)
このように,尾高型保持率は個人のレベルにおいても,およそ図13−a,一 b,一。,一d,一eのように,拍数の多い語から順に徐々に低下していくも のと推定される。変化の段階という観点から言えば,s氏や。氏が最も古い 段階を,q氏が最も新しい段階を示していると言えよう。
さて,ここで注意をひかれるのは,図13−dにみるように,i,9, Aの
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図14
各氏における4拍の保持率の際立った低下である。グラフでは,4拍のとこ ろに明らかな闘みがある。おそらく,これは次に取り上げる事象と密接に関 係しているものと推定される。すなわち,3.2.で触れた4拍の中高型「3」
の勢いに関わる問題である。
4拍の中高型「3」は,非尾高型の中では平板型「0」との競合もあって,
それ自,身が微妙な地位にあると考えられる。ここでは,その前毅にある尾高 型「4」との競合関係を確認しておくことにしよう。図14は,話者男弓に「4」
の保持率(グラフの左側)と「3」の出現率(同じく右側)を示したもので
ある。注7)
図14をみると,「4」だけでなく「3」もまた,若年層に向かってわずか ながら衰退傾向をみせていることに気付く。これは,おそらく平板型の伸張 の煽りをうけてのことであろう。さらに注目すべきは,話者によって「4」
と「3」の棒の伸びが左右に大きく出入りすることである。「4」と「3」の
優勢・劣勢によって話者を3群に分けてみると,次のようになる。
A群(「4」〉「3」):o,N, H, d, b氏
B群(「4」〈F3」):r, q, m,」, i,9, F, C, A氏 C君羊(「4」≒「3」):s,P, 玉,K, E氏
これを図13と対照させると,B群は図13−d,図13−eの話者と一致す ることが分かる。すなわち,B群の話者は,尾高型の衰退の進んだ話者であ ると同時に,4拍において中高型「3」の優勢な話者でもあるということに なる。話者の属性を考慮すると,ここにはA群が山の手でB群が下町という,
出身地域の違いが関与している可能性も考えられるが,話半数が十分に多く はないうえ,優劣のみられないC群の話者も存在するので,断定は控えるこ
とにしたい。注8)
3.4.語による違い
3.2.で,5拍の「3」の出現率が比較的目立つことを指摘した。ここでは,
その理由を説明することも含めて,語構成の側面から複合語アクセント規則
の関与の可能性について検討する。語構成タイプ別の所属語数は,次の通りである。ここで,例えば[x+1]
は任意の拍数の前部成素に1拍の後部成素が複合していることを表わす。し たがって,3拍なら[2+1],4抽なら[3十1]の意である。
単純語 x十1 x牽2 x十3 x十4 計
3拍 94 126 83 一 一 303
4拍 60 14 334 20 − 428
5挙白41158271101
語数の偏りは問題であるが,一応の分析を試みる。拍数別に,上のような 語構成タイプごとのアクセント型の割合を示したのが,図15(3拍),図
16(4拍),図17(5拍)である。比較のために,「全体」の数値も図4,ec 5,図6から引いて示した。
図15の3捲では,特に目立った特徴は認められない。一方,図16の4拍 では,[1十3コタイプの「2」が35.3%,[3十!]タイプの「4」が40.2%
一 197 一
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と際立って高い。また,図17の5拍では,[2十3]タイプの「3」が61%,
[4+1]タイプの「5」が64.1%とやはり際立って高い。そこで,これら 四つの共通点を求めれば,いずれも「前・後部成素の切れ目の直後の拍にア クセント核がある」ことに気付く。記号で示せば,次のようになる(但し,
「 」=:切れ霞,「⑰=有核拍)。
[1十3]タイプの「2」(繍L3」) → ○・㈱○○
[2十3]タイプの「3」(=L3」) → ○○・⑭00 [3÷1]タイプの「4」(=「一l」) → 000・囎 [4÷1]タイプの「5」(:「一1」) → ○○○○・翻
これをさらに一般化すれば,次のようになろう。
(…○)○・⑳(○…) 但し,()内は任意要素。
おそらく,これらは複合名詞のアクセント付与に際して適用される一つの 有力な規則,すなわち「成素の切れ目の直後の拍にアクセント核をおく」の 支持をうけて,このような高い出現率を示しているものと考えられる。結果 として,逆算指定で「一3」の方は中高型の安定に,また「一1」の方は尾 高型の安定に幾分かの寄与をしているものと推灘される。
4。変化の動き
前節までの分析で,東京語アクセントにおいて,尾高型が衰邊する一一方で 非尾高型(特に平板型)が伸張していく様子が明らかになった。最後に,や や巨視的な立場から変化の動きをまとめておく。
まず,尾高型の衰退の一方で,現在大きく伸張しつつあるのが平板型であ り,それ以外の非尾高型ではないことを図18,図19によって示す。
図18は,総計832語について,横軸に尾高型保持率,縦軸に平板型出現率 をとり,話者ごとにプロットした散布図である。ここで,両者には明らかに 負の相関関係が認められる。右下に分布する話者ほどこの変化において保守 的であり,左上に分布する話者ほど革新的であると解釈することが許されよ う。これに対して,図19は,横軸に尾高型保持率,縦軸に平板型以外の燈影
一 199 一
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一2el一
高岡の出現率をとり,同様にプUットした散布図である。しかし,こちらに は相関関係は認められない。二つの図は,このアクセント変化における尾高 型からの移行先が,起伏式の範囲内(=平板型以外の非尾高型)ではすでに
なく,平板式へと大きく傾斜していることを示すものと考えられる。注9)次に,さらに一段広い見地から変化の動きを眺望してみよう。栢澤(1992)
では,複合動詞アクセントにおいて,平板式から起伏式への変化が進行中で あることを実証した。図20は,複合動詞について,横軸に平板式保持率,縦 軸に起伏式出現率をとり,話者ごとにプロットした散布図である。言うまで もなく,両者には負の相関関係が認められ,この変化において右下に分布す る話者ほど保守的であり,左上に分布する話者ほど革新的であると解釈され
る。
それでは,この複合動詞のアクセント変化と,本稿で扱った名詞のアクセ ント変化とを関連付けて把握することはできないか。図18と図20とを対比 させてみると,比較的右下方面に分布する話者(s,P, Nの各氏)と,左 上方面に分布する話者(r,q, m,」, F, C, Aの各氏)とが,二つの
図で一致していることに気付く。そこで,横軸に名詞の場合の尾高型保持率,縦軸に複合動詞の場合の平板式保持率をとり,話者ごとにプロットした散布 図が図21である。
ee 21を見ると, o氏, K氏のような例外的な話者もいるが,ほぼ右上がり
の正の相関関係を示していることが分かる。すなわち,名詞における尾高型 の保持率の高さは,複合動詞における平板式の保持率の高さと並行している のである。これは,名詞におけるアクセント変化と動詞におけるアクセント 変化とが無関係な現象ではなく,むしろ連動していることを示唆する事例と
して注目に値する。筆者は,仮説ではあるが,これを東京語アクセントにお
ける「名詞の平板化(無核化)と動詞の起伏化(有核化)」という大規模な変
化の流れの一一つの現われとみる。東京語アクセントについて,しばしば直感
的にその「平板化」が言われるが,実は背後にこのような変化の潮流が存在
することを認識し,そのさらなる解明に当るべきであろう。
5.おわりに
本稿では,幾つかの前提に立って陳京ア』の分析をおこなった。最後に,
それらの前提に関わる問題点を指摘し,今後の課題を述べる。
まず,『東京ア』がゆれの予想される語のみに的を絞って収録している点に,
留意する必要がある。『東京ア』には,調査の準備段階でアクセントがゆれて いないとみなされた語についての情報が記載されていない。したがって,今 回の分析も変化のより進んだ局面にスポットを当てている可能性がある。尾 高型アクセントだけで安定している語がどの程度存在するのか,調査して
データの補正をする必要があろう。次に,4種の辞書が揃って尾高型アクセントを記載することを条件に語例 を採集しだが,それが妥当であったかどうか検証する必要がある。辞書にお ける尾高型の記載について,①3種が記載する語,②2種が記載する語,③ 1種が記載する語,④4種目辞書は尾高型を記載しないが,19人の話者に尾 高型が現われる語,以上四つの観点から再度語例を採集し,今回の結果と突
き禽わせながら異同を評価する必要があろう。
本稿の目的は,語の長さがアクセント変化に関与的であることを, 陳京 ア』からの新規の事例によって実証することであった。今後に残された課題 はいずれも重要であるが,その見通しが得られたことは大きな収穫であった
と考える。注
1)複合動詞の拍数男彗にみた起伏式化率は,次の通りである。
6拍(66語)>5拍(402語)>4拍(381語)>3拍(34語)
(89.5%) (850/o) (71.1%) (59.30/o)
2)東京語アクセントにはいわゆるA型B型の問題があり,罷高型とそれ以外の非 尾高型との閥にみられるゆれについて,様々に議論がなされてきた経緯がある。
相澤(1984)では,これを尾高型から非尾高型への移行の問題(すなわち現在の 動態)として鍵えなおすことを提案している。
3)総数には,形容動詞語幹ともとれるものが若干禽まれている。
一 203 一
4)これは,4種の辞書をあたかも欄人のようにみなして,その4種が揃って尾高 型をもつという意味での100%である。現実の辞書情報は,縫会での使用状況を ふまえ,それに何らかの規範意識を加味した結果として提供されているはずであ る。ここで100%というのは一つの仮構にすぎず,露安以上の意味をもつもので はない。
5)罷高型以外のそれぞれの型の出現状況について,陳京ア幽と4種の辞書とを対 比させると(pa 4と図7,図5と図8,図6と図9),型の間の勢力関係のあり方
(棒グラフの伸び具合)がよく似ていることに気付く。ここから,辞書情報はそれ なりに実態を反映しているものとみられる。4種の辞書では,勲HK』『明解ア」
栓国ア聾新明辮の順にゆれに対する許容度が下がり,その分だけ規範的な姿 i勢がみえてくるようである。
6)s氏の併絹の割合の高さについては,アクセントについての知識が関与した可 能性がある。この点については,相澤(1996)も参照。
7)図14とそれに関する議論は,相澤(1996)と重:罪するところがある。
8)従来,A型B型がなぜ4拍を中心に議論されてきたかについての解答がここに あると考えられる。
9)複合動詞の場合は:項対立的だが,名詞の場合は多項対立的である点に違いが ある。名詞の方が変化のプロセスが複雑である。
参考文献
相澤正夫(1984)「東京方言アクセントにおける尾高型から非罵高型への移行一い
わゆるA型B型のゆれをどう捉えるか一」細本方言研究会第38國研究発表会
発表原稿集雲(1991)「生きているアクセント規則の検討一東京語の単純動詞とその転 成名詞の場合一」置研究報告集12渥(国立国語研究所報告103)
(1992)「進行中のアクセント変化一東京語の複合勤詞の場合一」『研究報 告集13蓋(国立国語研=究所報告104)
(1996)「階高型アクセントの現在位置一陳京語アクセント資糊の分
析一」疇語学林1995−1996S(柴田武先生喜寿記念論文集)三省堂附記]
本稿は,国立国語研究所研究部会議(1995年11月1日)における研究発表の内容 をもとにしている。同僚諸氏の指摘により,内容を改蕎することができた。記して 感謝の意を表する。また,ほぼ同じ内容について曝本音声学会第292回研究例会
(1995年12月2H)で発表する機会を得た。当日ご意見をいただいた方々に感謝申 し上げる。データの採集と入力・校正に際して補助をうけた阿左美淳子氏にも,感 謝の意を表したい。
一205一
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:拍:後:語種:
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3漫語
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場(芸)
〜を削る)
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粉 やし(植)
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(〜を聞き入れる)
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別表
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拍=後:語種 表記
語形
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蹴(〜にする)
臼(金に〜をつけない)
込め
げ し 弩居れり捲りれ 子壷提 一鞭目けり子切先え熱意憎匿 着問足碁手総立密画駿控乾鼓欲長汚折手藩士俵海基面火好難覚脇麗蟹筋筋手読表干秘戯契拍輪舳醜名手懸跡憲含合土名色黛深伏
思え
邑(〜も振らない)え 物
(親の〜)
紛
け
をつ
〜
︵営ち手着
時 み味 付き み 儀(〜を)
え(〜がめでたい)
曇
り
(身に〜がない)
け
煮
(〜を継ぐ)
折れ 利き 立て
み(〜にはまる)
し9
シ シゲメメナバエナメエノミメイレメチテギラミミミ亭ミギェミコミコメゲリーシメケリーリキエギケ無二サギマギレキテミメシトゴタチナンキカモズクガガリモリレワキゴクツノンボキリボジジサマヨボクワギヨギサボ︻ツソトクイイルオキタカシァイテカタソカワヒヒッヨナケオテナハタッスドピコナオワトッスステナヒヒモタチヒワヘオメテミアイアアツナメメフフ
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拍:後;語種:
記
表
語形
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和和和相漢和和和縮麹秘和漢和漢漢和和和和漢和和相和和和漢和和相租 租租穂棚漢漢秘和
和和和漢和漢縮相穂和和和和和和憩漢粕租漢和漢和和穂和和漢漢和和和和和和和和漢和和和和和和和和和和和和和漢漢和漢210121201010212112010122020210210221210222020011101112王 3333333333333333333333333333333333333333333333333333333
み盛子っ場抜事摺べ着 ちぐ投り逃み購分汁儀つ牙先下 先 摘化押張して噛泣辺立義き方切切く頃 ど屋養辺じ霞事味方根霞櫻あ宿篭大手夕肌襖打と輪折夜読笠根苦難げ象出屋僕穂翻茶道長霞挿累懲夜岸巣講裁見木叢と見暇比部産海け二大風毘性 り(勝負なし)
サ(〜 こ取られ,る)
き
(〜にi至らない)
(〜につかまる)
身
ろ(〜を巻く)
げ(遊)
目(〜が正しい人)げ 手
け
(〜だ)
ぷ(=おくび)
(自kと〜)
の
璽 効 ︵り木しみき ち の 悪 ︶ が︶〜 〜植の ︵︵桜れれさ︵
め(〜を剥す)
着
め(=区別)
(〜と見られぬ)
(〜が起こる)
(相手の〜を見る)
バ ミ ネリコケクキジリベギマミロゲメゲテフケリギプゲ亭タベキキツケシリキシミキベチギキタレレサロマメギギベメメジミタ﹇モイッ晶ヌイス︸ダスチグナリニミ︻ワガンツ一サシモサスヤ︸ゲバシテガナシダ︸バカギギクゴトドヤブミジタイ皿カヨメアアシケダテユハフウトワオヨヨトネニナゲゾデメシホタチドナメサハハヨキスコサミキハトミイトヘウウケフダフデシ
肇玉 − 圭 i 1 1 1 1 1 1 1 霊よ 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1■ 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 霊よ 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 111剌オ1415161718欝20212223242526272829303132333435363738394041銘銘4445妬邸銘4950515253545556575859606162636465