博士(環境科学) 椎名佳の美
学 位 論 文 題 名
Cavity‑using bird community and nest web inamixed
forest
,
with special reference to cavity production by Japanese pygmy woodpeckers Dendrocopos kizu丘ゴ
(針広混交林の樹洞利用鳥類群集とネスト・ウェブ、特にコゲラによる樹洞生産)
学位論文内容の要旨
樹洞 を 巣や ねぐ ら 、隠 加場 所 、冬 眠な ど の活 動に 利 用す る森 材 嶺彊b物は 、」 き §類 を始 め 、哺 乳類 や 両 生 ・ 爬 虫 類 、 昆 虫 な ど 多 岐 に 渡 っ て い る 。 こ れ ら の 動 物 類 は 樹 洞 の 供 給 キ 利 用 を 通 し て 相 互 に 関 係 し 合 い 、 食 物 網 に 類 似 し た 構 造 の ネ ス ト ウ ェ ッ ブ を 構 築 し て い る 。 樹 洞 利 用 動 物 類 の な か で 営 巣 や ね ぐ ら の た め に 樹 洞 を 自 ら 生 産 で き る1次 樹 洞 生 産 者 ( キ ツ ツ キ 類 ) は 限 ら れ て お り 、 そ の 多 く は 既 存 の 椡 マ 同 を2次 的 に 利 用 す る2次 ホ 琳 同 利 用 者 で あ る 。 その ため ネ スト ウェ ッ ブに お い て キ ツ ツ キ 類 が 他 の 動 物 類 に 与 え る 影 響 は 大 き い 。1次 樹 洞 生 産 者 と2次 樹j秤l亅 用 者 の 相 互 関 係 は 環 境 に よ っ て 変 化 し 、 ま た 体 サ イ ズ と 樹 洞 サ イ ズ の 違 い に よ っ て 分 け ら れ る 。 北 海 道 の 針 広 混 交 林 で は 、 小 型 の キ ツ ツ キ ( コ ゲ ラ ) と2次 棲 隔I亅 用 者 ( カ ラ 類 ぬ ど ) や 中 型 キ ツ ツ キ ( ア カ ゲ ラ ) が 森 林 陸 鷽 頃 詳 集 の 主 要 な 構 成 メ ン バ ー で あ る 。 そ の た め 、 小 型 の 生 産 者 と 利 用 者 に よ っ て こ の 地 域 の ネ ス ト ウ ェ ッ ブ が 特 徴 付 け ら れ る 可 能 陸 が あ る 。 こ れ ま で の 研 究 で は ア カ ゲ ラ の 中 型 樹 洞 の2次 利 用 に つ い て 示 さ れ て い る が 、 ネ ス ト ウ ェ ブ の 全 体 的 な 構 造 を 示 す に は 至 っ て い な い 。 そ こ で 本 研 究 で は 、 特 に 小 型 の 樹 洞 を っ く る コ ゲ ラ の 樹 洞 生 産 に 注 目 し 、 北 海 道 の 針 広 混 交 林 に お け る 樹 洞 利 用 ー 島 類 の ネ ス ト ウ ェ ッ ブ 構 造 を 示 し1次 樹 洞 生 産 者 と2次 樹 洞 利 用 者 の 相 互 関 係 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た 。 そ の た め に 、 ま ず 樹 洞 利 用 ー ま瀬 のネ ス トウ ェッ ブ を示 し 小 型 樹 洞 の 利 用 を 評 価 し た 。 次 に 、 コ ゲ ラ の 樹 洞 生 産 に 関 わ る 生 活 史 や 営 巣 ・ ね ぐ ら 行 動 、 行 動 圏 の 分 布 を 明 ら か に し た 。 最 後 に 、 コ ゲ ラ が 営 巣 や ね ぐ ら の た め に 樹 洞 を 掘 っ た 樹 木 の 利 用 に つ い て選 好 陸を 明ら か にし た。
2006年 か ら2011年 ま で の6年 間 、 樹 洞 利 用 」 制 頃 の 繁 殖 期 と 非 繁 殖 期 に 調 査 を 行 っ た 。 調 査 地 の 北 海 道 杣 幌 市 羊 ケ 丘 の 針 広 混 交 林 は 、 シ ラ カ バ や ミ ズ ナ ラ 、 カ エ デ 類 が 優 占 し 、 林 床 は サ サ 類 で 密 に 覆 わ れ た 森 林 で あ る 。1次 樹 洞 生 産 者 で あ る キ ツ ツ キ 類5種 お よ び2次 樹 洞 利 用 者
( 鳥 類 )10種 が 生 皀 丶 し た 。 樹 洞 利 用 鳥 類 の 生 ー 皀 状 況 、 営 巣 樹 洞 、 営 巣 木 に つ い て 調 査 し た ま た 、 標 識 調 査 と ラ ジ オ テ レ メ ト リ ー を 用 い て コ ゲ ラ の 生 息 状 況 、 行 動 圏 を 調 査 し 、 営 巣 と ね ぐ ら 活 動を 記 録し た。
本 調 査 の 結 果 、 キ ツ ツ キ 類 と 木 材 腐 朽 に よ り 形 成 さ れ た 自 然 樹 洞 を185個 記 録 し 、 樹 洞 利 用 鳥 類 に よ る201回 の 営 巣 を 観 察 し た 。2次 樹 洞 利 用 者 は 、 コ ゲ ラ の 小 型 樹 洞 (13% ) 、 ア カ ゲ ラ の 中 型 樹 洞 (39% ) 、 自 然 樹 洞 (48% ) を そ れ ぞ れ 利 用 し た 。1次 樹 洞 生 産 者 の な か で
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コ ゲ ラ は よ り 多 く の 樹 種 に 樹 洞 を 掘 っ た ( コ ゲ ラ11種 、nニ ニ ニ26巣 に 対 し て ア カ ゲ ラ11種 、 n‑26巣 ) 。 ま た 、 コ ゲ ラ は 全 て の 営 巣 の た め の 樹 洞 を 毎 年 繁 殖 朗 の た び に 新 し く 掘 り 直 し 生 産 し た 。 小 型 の 樹 洞 を 最 も 強 く 利 用 し た の は ニ ュ ウ ナ イ ス ズ メ で あ る 。 ニ ュ ウ ナイ ス ズ メ は 乗っ 取 り 行 動 を 頻 繁 に 起 こ し 、 コ ゲ ラ の 新 し い 樹 洞 を 獲 得 し 営 巣 し た 。 ま た 、 コ ゲ ラの 樹 洞 を 利 用し な か っ た 鳥 類 で も ニ ュ ウ ナ イ ス ズ メ と の 競 争 や 乗 つ 取 り を 試 み た が 獲 得 に 失 敗 す る 例 を コ ガ ラ や ヤ マ ガ ラ な ど で 観 察 し た 。 中 型 の 樹 洞 は ゴ ジ ュ ウ カ ラ に よ っ て よ く 利 用 さ れ た。 ニ ュ ウ ナ イス ズ メ と 異 な ル ゴ ジ ュ ウ カ ラ は 、 生 産 さ れ て か ら1年 目 以 上 経 過 し た 中 型 キ ツ ツ キ 類 の 古 い 樹 洞 を 利 用 す る こ と が 多 か っ た 。 そ の 際 ゴ ジ ュ ウ カ ラ は 泥 を 用 い て 樹 洞 の サ イ ズ を り フオ ー ム し た 。ま た 、 オ オ ア カ ゲ ラ の 新 し い 樹 洞 を 乗 つ 取 り っ て 営 巣 し た 樹 洞 を ー 例 観 察 し た 。 ゴジ ュ ウ カ ラ によ っ て り フ オ ー ム さ れ た 樹 洞 は 、 さ ら に2次 的 に あ る い は 乗 っ 取 り に よ っ て ニ ュ ウ ナ イ ス ズ メ に 利 用 さ れ た 一 方 、 自 然 樹 洞 で は カ ラ 類 や キ バ シ リ 、 キ ビ タ キ が 様 々 な 形 状 の 樹 洞 ( 枝 折 れ 痕 の 樹 洞 、 幹 の 樹 洞 、 樹 皮 裏 の 裂 け 目 、Stump nest)で 営 巣 し た 。 こ れ ら 自 然 樹 洞 で 営 巣 し た 鳥 類 は コ ゲ ラ や ア カ ゲ ラ な ど キ ツ ツ キ 類 の 樹 洞 を ほ と ん ど 利 用 し な か っ た 。
本 調 査 地 に は 、 最 低44個 体 の コ ゲ ラ が 出 現 し 、29個 体 を 個 体 識 別 し た 。 調 査 林 で は 最 低9っ が い が 毎 年 確 認 さ れ た 。 各 っ が い は 、 消 失 す る ま で の 数 年 間 、 同 一 地 域 に 同 一 ペ ア で 出 現 し 、 隣 接 ペ ア と ほ と ん ど 重 複 し な い 行 動 圏 を 保 っ た 鰍6年 ) 。 各 っ が い の 行 動 圏 を 評 価 し た 結 果 、 平 均2. 95土2.20 (SD) haあ り 最 大 で7.3ha( テ レ メ ト リー ) あ っ た 。ま た2年 以 上生 息 し た ペ ア の 行 動 圏 は、 平 均4. 8+2. 30ha(最 大8.36ha)の 行動 圏 を 持 つ こと が 示 さ れ た。 営 巣 の た めの 樹 洞 は 毎 年 生 産 さ れ 、 ニ ュ ウ ナ イ ス ズ メ に 乗 つ 取 ら れ た 場 合 、2−3回 掘 り 直 し た 。 ね ぐ ら で 新 し く 掘 ら れ た の は1例 の み で 古 い 樹 洞 が 再 利 用 さ れ た 。 本 結 果 か ら 、1年 間 に 各 ペ ア の 行 動 圏 に 樹 洞 は1―3個 生 産 さ れ 、 ニ ュ ウ ナ イ ス ズ メ が 同 所 的 に 生 ー 息 す る 地 域 で は よ り 多 く の 樹 洞が 生 産 さ れ る こ と が 明 ら か と な っ た 。
コ ゲ ラ の 樹 洞 は 、 営 巣 と ね ぐ ら で 樹 木 の 大 き さ ( 樹 高 や 胸 高 直 径 ) や 、 樹 洞 の 高 さや 場 所 、 腐 朽 度 合 い に 違 い が な い こ と 示 さ れ た 。 利 用 し た11種 の 樹 種 の な か で ケ ヤ マ ハ ン ノ キ に 高い 選 好 性 が あ る こ と が わ か っ た 。 利 用 し た 樹 木 と 周 辺 の 利 用 し な か っ た 樹 木 の 特 徴 に つい て 一 般 化 線形 モ デ ル を 用 い て 比 較 し た 結 果 、 胸 高 直 径 の 太 い 木 や 腐 朽 し た 木 、 幹 折 れ し た 木 が利 用 さ れ や すい こ と が 示 さ れ た 。
本 研 究 か ら 北 海 道 の 針 広 混 交 林 に お け る ネ ス ト ウ ェ ッ ブ と1次 樹 洞 生 産 者 と2次 樹 洞 利 用 者 の 相 互 関 係 、 小 型 樹 洞 の 生 産 過 程 が 明ら か と な っ た。 本 地 域 で は特 定 の 」 農 顔 がキ ツ ツ キ 類 の樹 洞 を 利 用 す る こ と が わ か っ た 。 ネ ス ト ウ ェ ッ ブ の 特 徴 は 、 体 サ イ ズ と 樹 洞 サ イ ズに よ っ て 分 けら れ ず 、 乗 つ 取 り や り フ オ ー ム と い っ た 積 極 的 な 行 動 に よ っ て 特 徴 付 け ら れ る こ とが 示 さ れ た 。積 極 的 な 行 動 を と る ニ ュ ウ ナ イ ス ズ メ や ゴ ジ ュ ウ カ ラ は キ ツ ツ キ 類 の 樹 洞 を 頻 繁 に 和 用 す る 一 方 で 、 消 極 的 に 樹 洞 を 獲 得 し て い た 小 型 鳥 類 ( カ ラ 類 な ど ) は 自 然 樹 洞 で 多 く 営 巣し た 。 ま た りフ オ ー ム に よ っ て 、 中 型 キ ツ ツ キ 類 と ニ ュ ウ ナ イ ス ズ メ の 問 に 間 接 的 な 相 互 関 係 が生 じ る こ と が示 唆 さ れ た 。
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学位論文審査の要旨
主 査
特 任教 授 副 査
教 授 副 査
准 教 授 副 査
特 任助 教 副 査
教 授
東 露崎 野田 小泉 上田
学 位 論 文 題 名
正剛 史朗 隆史 逸郎
恵介(立教大学理学部)
Cavity‑using bird community and nest web inamixed foreSt
,WithSpeCialref ・erenCetOCaVityproduCtionby
JapaneSepygmyWOOdpeCkerSDe口d ケ〇C 〇.p 〇S 五むu ムゴ
(針広混交林の樹洞利用鳥類群集とネスト・ウェブ、特にコゲラによる樹洞生産)
樹洞 を 巣 や ね ぐら に利 用す る鳥 類は 、樹 洞と いう限 られ た営 巣場 所資 源の 利 用を 介して 相互 に関 わり 合う 。樹 洞で営巣する鳥類のなかで自ら樹洞を生産でき る樹 洞生産 者は キツ ツキ 類な どに 限られ、多くは既存の樹洞を二次的に利用する 樹洞 利用者 であ る。 樹洞 生産 者と 二次的利用者の相互関係は体サイズや樹洞サイ ズ等 の要因 によ って 制限 され 、環 境によっても異なることが欧米での研究で明ら かと なって いる 。北 海道 の針 広混 交林では、カラ類など小型の樹洞営巣性鳥類が 優占 してい る。 そこ で申 請者 は、 世界でも最も小さいキツツキの一種であり、ア カゲ ラなど に比 べる と研 究が 進ん でいないコゲラの生活史や樹洞生産に注目し、
2006
年から
2011年ま での
6年 間、 札幌市 羊が 丘の 針広 混交 林に おいて、その樹洞 利用 鳥類群 集と ネス 卜・ ウェ ブの 特徴を明らかにした。樹洞利用鳥類群集の長期 観察は、少なくともアジアでは初めての試みである。
ま ず、29 個体 のコ ゲラ に足 環を っけ て個 体追 跡を 続け たと ころ、6 年間観察さ れた 個体も おり 、他 の小 型鳥 類に 比べてかなり長寿で、生存率も高いことが示唆 され た。っ がい もパ ート ナー が死 亡などによっていなくなるまで同一行動圏内で 維持 され(最長4 年)、キツツキの中でも雌雄の結びっきが強い種であることが明 らかとなった。各っがいは、平均4.8 土SD 2.3 ha (最大8.36 ha) の行動圏内で、繁殖 期毎 に新し い樹 洞を 掘っ て営 巣し 、古い巣での営巣は観察されなかった。二ユウ ナイ スズメ が多 い林 分で は彼 らに よる乗っ取りがしばしば起り、その都度新しい
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樹洞が掘られ、1 繁殖シーズン中に3 つの樹洞を掘ったっがいもいた。他種による 乗っ取りがキツツキの樹洞生産を促進しているのではないかという断片的な観察 はこれまでもあったが、個体識別と長期観察によって確認したのは申請者が初め てである。
コゲラに利用された木と利用されなかった木を比較したところ、胸高直径の 太い木や腐朽した木、幹折れした木が利用されやすいことが明らかとなった。樹 種別では、ケヤマハンノキヘの選好性が強く、優占種であるシラカパやミズナラ、
カェデ類などへの選好性は低いことも示された。一般に中型や大型のキツツキは 樹種よりも木の大きさや硬さを選択すると考えられており、小型キツツキには樹 種選好性もあることが初めて示された。
最後に、申請者は、調査地における樹洞利用鳥類群集の特徴を解析している。
まず、樹洞生産者の巣を探索し、コゲラ26 巣に加え、アカゲラ26 巣、オオアカゲ ラ
5巣、ヤマゲラ2 巣を発見した。コゲラの樹洞が幹や枝に新しく造られたのに対 し、アカゲラの樹洞は、全て幹に造られ、古い樹洞が頻繁に再利用されていた。
さらに、自然洞を含む樹洞の二次利用者10 種を確認したが、この中には稀に自カ で樹洞を掘ることもできる「弱い樹洞生産者」であるコガラも含まれていた。こ れら二次利用者の巣を140 の樹洞で確認したが、主に自然樹洞(67 巣)、アカゲラ 樹洞
(39巣)、コゲラ樹洞(
18巣)が利用され、アカゲラ樹洞はゴジュウカラ、
コゲラ樹洞はニュウナイスズメ、自然樹洞はその他多くの鳥類が利用していた。
そこで、申請者は優占三種であるシジュウカラ(34 巣)、ゴジュウカラ(34 巣)、
二ユウナイスズメ
(28巣)の樹洞利用様式を比較している。まず、シジュウカラ は生木の比較的低い位置にある自然樹洞を利用するのに対し、ゴジュウカラは枯 死木の高い位置にあるアカゲラ樹洞や自然樹洞を利用する傾向が示された。その 際、ゴジュウカラは大きな樹洞の入口を土で埋め、直径3cm 程度の小さな入口に 改造して利用していた。これらのデータに基づいて描かれたネス卜・ウェブを北 米およびヨー□ッパで描かれたものと比較したところ、調査地では北米に比べて 自然樹洞利用者の多さが特徴となっていた。同様の傾向はヨー口ッパでも見られ るが、ゴジュウカラの樹洞改造とニュウナイスズメによる乗っ取りなどの間接的 影響は調査地の方が顕著であることが明らかとなった。
審査員一同は、これらの成果を評価し、研究者として誠実かつ熱心であり、大 学院博士課程における研鑽や修得単位などもあわせ、申請者が博士(環境科学)
の学位を受けるのに十分な資格を有するものと判定した。
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