資
料
産褥早期における直接授乳前後の乳腺組織の厚さの変化
―超音波画像を用いて―
The change of thickness of mammary gland tissue before and after
breastfeeding in early postpartum: An ultrasonographic study
手 島 美 聡(Misato TESHIMA)
*1大 石 和 代(Kazuyo OISHI)
*2永 橋 美 幸(Miyuki NAGAHASHI)
*2中 尾 優 子(Yuko NAKAO)
*3 抄 録 目 的 近年,乳房ケアに超音波画像診断が取り入れられてきている。本研究では産後の乳房状態をより正確 に評価していくために,超音波画像を用い,直接授乳前後の乳腺組織の厚さの変化について明らかにし た。さらに,その厚さの変化と授乳量との関連性について検討した。 方 法 2013年1月~9月,A大学病院産科で出産し,母児同室で直接授乳をしている褥婦51名。撮影時期は 産褥4~7日。撮影は1回の直接授乳前後に実施し,超音波画像にて乳腺の厚さを計測した。また,その 時の児の授乳量を測定した。 結 果 分析対象者は初産婦15名,経産婦33名の計48名,乳房数91であった。乳腺組織の厚さは,授乳前が 平均値33.6±8.86mm,授乳後が平均値32.0±8.47mmであり,授乳前後で有意に減少した(p<0.01)。乳 腺組織の厚さの差と授乳量で,弱い相関があった(r=0.27,p<0.01)。さらに初産婦では有意な相関を 示したが(r=0.40),経産婦では相関がなかった(r=0.17)。 結 論 今回の超音波画像を用いた産褥早期における乳腺組織の調査において,直接授乳前後の乳腺組織の厚 さの変化は,授乳前に比べ授乳後は乳腺組織の厚さが有意に減少した。また,授乳前後の乳腺組織の厚 さの差と授乳量の関連については,初産婦では有意な相関があり,経産婦は相関がなかった。産褥早期 に,超音波による乳腺の厚さを測定する時には,授乳の前後で厚さが変化することを知る必要がある。 キーワード:産褥早期,直接授乳,乳腺組織,超音波画像 2015年10月1日受付 2017年2月7日採用 *1元長崎大学大学院医歯薬学総合研究科修士課程(Former Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences Master Course) *2長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(Nagasaki University Graduate School of Biomedical Sciences)*3鹿児島大学大学院保健学研究科(Kagoshima University Graduate School of Health Sciences) 日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 31, No. 1, 71-77, 2017
Purpose
Ultrasonographic diagnostic imaging has recently been applied to breast care. The present study used ultra-sonography to define postpartum changes in the thickness of mammary gland tissue between before and after breast-feeding. We also aimed to determine the relationship between the thickness of mammary gland tissue and the volume of suckled milk.
Method
Fifty-one puerperal women were assessed by ultrasonography before and after breastfeeding at four to seven days after birth in a rooming-in system between January and September 2013. The thickness of mammary gland tissue in the left and right breasts and the volume suckled during each feed were measured.
Results
We analyzed 91 breasts in 15 primiparous and 33 multiparous women who continued breastfeeding after birth. The thickness of mammary gland tissue significantly decreased after breastfeeding (p<0.01). The mean thickness of the tissue before and after breastfeeding was 33.6±8.86 and 32.0±8.47 mm, respectively. The difference in thickness of the tissue weakly correlated with the amount of suckling (r=0.27, p<0.01). The correlation was significant in primiparous, but not in multiparous women (r=0.40 and r=0.17, respectively).
Conclusion
The ultrasonographic findings showed that the thickness of mammary gland tissue was significantly decreased after, compared with before breastfeeding during the early postpartum period. Furthermore, the relationship between the thickness of mammary gland tissue before and after breastfeeding and the amount of suckling suggested that either primiparous women were significantly correlated during the early postpartum period, but were not significantly cor-related for multiparous women. This study most importantly revealed that ultrasound images show changes in the thickness of mammary gland tissue before and after breastfeeding during the early postpartum period.
Key words: early postpartum, breastfeeding, mammary gland tissue, ultrasonography
Ⅰ.緒 言
産褥期の乳房トラブルには,おもに乳頭外傷,乳腺 炎,乳汁分泌不全があり(今中,2005,p.777),乳口 炎や亀裂の程度,乳房緊満や硬結の有無,乳汁分泌状 態など,助産師は乳房診断を主に視診や触診で行って いる。近年では,超音波検査は,レントゲン検査と異 なり,非侵襲的で母体に苦痛を与えることがなく妊婦 や褥婦に対する使用を制限することはないと言われて おり(竹下,2005,pp.10-15),乳房の内部の状態を客 観的かつ科学的に評価できるため,乳瘤や線維線種や がんなどの,しこりの鑑別(中村,2012,pp.38-40)と して,乳腺外科や産婦人科領域の医師が,用いてい る。浜らは,乳房ケアに関してほとんどが助産師に委 ねられ,異常の発見から治療の分野まで踏み込まざる を得ない状況であり,より診断を確実にするために超 音 波 検 査 が 必 要 と 述 べ て い る(浜 ・ 西 嶋, 2005 , p.1152)。しかし,積極的に助産師が超音波画像診断 を取り入れ,乳房ケアに活かしている施設の報告は少 なく,特に,産褥期に助産師が多く関わる乳汁分泌不 全や乳汁分泌過多の母親において,乳房内の客観的評 価の情報も少ない。その中で,母乳が非常に少ない母 親での乳腺組織の比率,または分泌過多状態にある母 親の乳腺組織の比率など,乳腺の形成状態を数値化す ることで母乳分泌の状況が機能的なものなのか器質的 な原因なのか判断することが可能となる。つまり,分 泌不足に悩む母親に対しては,分泌を期待できるか否 か,分泌過多になる可能性のある母親に対しては,乳 腺炎に注意などとより具体的に支援計画の方向性を見 出すことができる。そのためにも基礎的データとして の乳腺組織の厚さの研究蓄積が急がれる。 これまで乳腺組織の超音波所見と乳汁分泌に関連し た先行研究では,乳汁分泌のための乳腺組織の構造は 妊娠前半期にはすでに決定されており,妊娠期に乳房 エコーを実施することは産褥期の乳汁分泌状態の予測 を可能にする(葛西・須藤・鈴木他,1999,pp.893-897),乳房や乳腺の大きさは分泌に関連し,乳腺肥厚 度や密度は乳汁分泌量と相関する(渡邉・石川・釜村 他,1992,pp.147-150),ということが報告されてい る。また,乳房の形態のみで乳汁分泌の良否は判断で きないが,超音波画像で乳腺発達の程度を診断するこ とで乳汁分泌の良否の予測が可能であることが報告されている(堀井・石田・長谷川他,1998,pp.89-96)。 これらのことから妊娠期の超音波画像の情報より,構 造的側面から産後の乳汁分泌の予測が可能となってき た。さらに,今後は,妊娠期の形態上の性質である器 質的予測に加え,ホルモン動態の変化などによる生理 機能的予測を考慮した産褥期の超音波画像の情報を得 ていくことが重要である。 産褥早期は,生理的緊満が出現し,乳汁分泌が開始 され,乳房状態の変化が著しい時期であることから, 乳腺組織の厚さに授乳が影響することが考えられた。 産褥期に焦点を当てた研究では,授乳前後で乳腺組織 の厚さが減少した(Geddes, 2009)という報告が行わ れているが産褥日数は不明であり,事例の紹介にとど まっている。また,産褥期の乳腺組織の厚みを経日的 に調査し,乳房や乳腺組織の厚さが乳汁分泌に強く関 連することを示唆する(加藤・宮市・大石他,1996, pp.253-256)報告は,授乳の前か後にいつ撮影された かの記載はない。今後,産褥早期の乳腺組織の厚さと 乳汁分泌の予測,あるいは乳腺組織の厚さの変化と乳 汁分泌の推移など産褥早期の乳腺組織の厚さに関連し た研究を進めていくには,乳腺組織の厚さに及ぼす授 乳の影響を考えておくことが必要である。そこで,本 研究では産褥早期における直接授乳前後の乳腺組織の 厚さの変化を明らかにすることを目的とした。
Ⅱ.研 究 方 法
1.研究期間 2013年1月から2013年9月 2.研究対象者 A大学病院産婦人科病棟で出産し,母児同室で直接 授乳を実施している産褥 4~7 日の褥婦 51 名とした。 研究施設では,妊娠期には必ず助産師が一度は乳房・ 乳頭チェックを行い,妊娠 36 週以降には乳頭のオ リーブ湿布を勧めている。産褥は基本的に母児同室と し,産後の状態が問題なければ出産後より概ね3時間 毎に直接授乳を実施している。その中で対象の選定条 件は,産褥経過において離床ができており,児は奇形 などで哺乳障害がなく直接授乳できる児とした。母親 の乳頭の形態や乳頭トラブルで直接授乳できない場合 は除外した。また,対象日は乳汁分泌が急激に増加 し,児の授乳の増加が見込まれる乳汁生成 II 期(水 野,2008,pp.26-33)の産褥4~7日とした。 3.研究場所 A大学病院 産婦人科病棟 4.データの収集と手順 褥婦や児の背景はカルテより年齢,分娩歴,分娩方 法,妊娠週数,出生児数,産褥日数,児の出生体重の 情報収集を行った。尚,この研究では1回の授乳時に おける乳腺組織の厚さの変化と児の授乳量を分析対象 とするため,児の出生体重や増加率の変動は分析から 除外している。 乳腺組織は超音波診断装置(TAITAN)を用い,撮 影した。プローブは,リニアプローブ 7.5MHzを使用 した。 乳腺組織の超音波撮影の手順は,左右それぞれの乳 房の乳腺組織の厚さを直接授乳の直前に撮影,その後 はじめに撮影した側の乳房より直接授乳を実施しても らい,各々に授乳量測定を行った。さらに授乳後,再 度授乳前と同じ順序で同一部位の乳腺組織の厚さを撮 影した。超音波のプローブの位置は,右乳房では乳頭 真横から9時方向と11時方向に,左乳房では乳頭真横 から3時方向と1時方向にそれぞれプローブを当てて 撮影を行い(図1参照),乳腺組織の厚さは,乳腺の超 音波検査の専門家の指示を受け,4ヵ所とも乳頭真横 の部分を計測した。乳房超音波検査の手技は,乳房超 音波診断ガイドライン(日本乳腺甲状腺超音波診断会 議,2008,pp.2-5)に従った。尚,乳腺組織の厚さの 信頼性については,本研究は乳腺組織の厚さの撮影 時,撮影方法や手技に誤差が生じないよう研究者1名 で実施した。また,超音波画像の計測はエコーの専門 家と検討を行った。 超音波撮影は,仰臥位で実施し,乳房が外側に垂れ ている場合は,乳房が水平になるようにクッションを 用いて調整を行った。撮影は一人の対象者に対して1 <プローブの位置> 右乳房は①9時方向と②11時方向,左乳房は③3時方向と ④1時方向にそれぞれプローブを当て撮影。 画像では,乳頭真横(矢印)の乳腺組織の厚さを計測。 <例> ① ② ③ ④ 右乳房 左乳房 図1 プローブの位置 産褥早期における直接授乳前後の乳腺組織の厚さの変化超音波画像は,それぞれ大胸筋まで明瞭に描写され るように対象者の乳房の大きさによって超音波画像診 断装置の深さの調整を行った。それぞれの撮影時の深 さの設定は 45mm,55mm,65mm とし,撮影した画 像を印刷後,乳腺組織の厚さを計測したうえで乳腺組 織の厚さの標準化を図るため,エクセルにて実測値を 算出した。さらに,乳腺組織の厚さの計測について は,研究者の他,乳腺エコーの専門家とともに検討を 行うことで,より計測値に信頼性を持たせた。 5.データ分析方法 授乳前後の乳腺組織の厚さの変化に関しては, ウィルコクソン符号付順位和検定を用いた。また,乳 腺組織の厚さの変化と授乳量との関連に関してはスピ アマン順位相関係数検定を用いた。さらに,撮影の正 確性を確認するために,右乳房 9 時と 11 時(図 1 の① と②)左乳房の 3 時と 1 時(図 1 の③と④)についてそ れぞれ相関係数を調べた。 6.倫理的配慮 本研究は,長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健 学専攻倫理委員会による審査を受け,承認された(承 認番号:12121367)。研究対象者には,研究目的と倫 理的配慮について明記された依頼書をもとに,研究へ の協力は自由参加であり,体調の変化や研究参加への 意思の変化があった際はいつでも中止可能であるこ と,それにより入院中の診療や看護ケアでの不利益は 生じないことを説明した。さらに,プライバシーの保 護,データは研究以外では使用しないことを保証し, 協力の同意は同意書にサインを得た。乳房の超音波撮 影におけるプライバシーの保護については,個室で行 い,部屋の温度やエコー用ゼリーの保温に配慮すると ともに肌の露出を避けるようタオルを使用しながら撮 影を行った。
Ⅲ.結 果
1.対象者の属性 対象者は初産婦15名,経産婦36名の計51名,乳房 数は102であった。その中で,授乳前に計測したが児 が全く吸啜しなかったものやデータ収集の手順が途中 で中断してしまったもの,撮影画像で計測が不可能で あったものなどは除外し,最終的な分析対象者は初産 婦 15 名,経産婦 33 名の計 48 名,乳房数は 91 であっ た。表 1 に示す通り,褥婦の年齢は平均 33.1±4.99 歳 であった。分娩方法は経腟分娩 21 名,帝王切開術 27 名であった。また,超音波画像の撮影時期の産褥日数 は平均4.77±0.83日であった。 2.直接授乳前後の乳腺組織の厚さの変化 乳腺組織の厚さは,右乳房9時,左乳房3時(図1の ①, ③)の 測 定 部 位 で は 授 乳 前 が 平 均 値 33.6± 8.86mm,授乳後が平均値 32.0±8.47mm であり,授乳 前に比べ授乳後は有意に乳腺の厚さが減少した(p< 0.01)。また,分娩歴別では初産婦(p=0.01),経産婦 (p<0.01)ともに有意であった。また,右乳房 11 時, 左乳房1時(図1の②,④)の測定部位では,授乳前が 平均値 33.7±8.23mm,授乳後が 32.1±7.90mm となり 授乳前に比べ授乳後は有意に乳腺の厚さが減少した (p<0.01)(図2)。 項目 人数 % 年齢 21~25歳 3 6.3 26~29歳 7 14.6 30~35歳 22 45.8 36~39歳 12 25.0 40歳~ 4 8.3 分娩歴 初産婦 15 31.2 経産婦 33 68.8 分娩方法 経腟分娩 21 43.8 帝王切開術 27 56.3 産褥日数 4日 22 45.8 5日 16 33.3 6日 9 18.8 7日 1 2.1 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 授乳前 授乳後 右乳房9時,左乳房3時 方向(図1の①,③) 右乳房11時,左乳房1時 方向(図1の②,④) (mm) *P<0.01 * * 図2 直接授乳前後の乳腺組織の厚さの変化右乳房 9 時,左乳房 3 時と右乳房 11 時,左乳房 1 時 の 2 か所は,乳腺組織のほぼ同一部位を計測してお り,授乳前後の乳腺組織の厚さの変化はともに1.6mm の減少を示した。また,それらの相関係数は授乳前 r=0.88,授乳後r=0.91であった。 3.直接授乳前後の乳腺組織の厚さの差と授乳量の関 連 乳腺組織の計測位置である右乳房9 時,左乳房3時 (図1参照)の直接授乳前後の乳腺組織の厚さの差は平 均 1.65±2.48mm であり,授乳前後の乳腺組織の厚さ の差と授乳量では,相関係数 r=0.27 と弱い相関が あった(p<0.01)(図 3)。さらに,乳腺組織の厚さを 初産婦と経産婦で比べたところ,初産婦の授乳前後の 乳腺組織の厚さの差は平均 1.31±2.47mm であった。 経産婦の授乳前後の乳腺組織の厚さの差は平均1.80± 2.49mmであり,初産婦と経産婦での授乳前後の乳腺 組織の厚さの差と授乳量との関連は,初産婦で相関係 数 r=0.40(p<0.05)と有意な相関を示したが,経産婦 ではr=0.17(p=0.18)と相関がなかった(図4,5)。
Ⅳ.考 察
1.乳腺組織の厚さ 本研究での乳腺組織の厚さは平均 32.0~33.0mm 前 後であり,渡邉らの研究での乳腺組織の厚さの平均約 24~27mm(渡邉・石川・釜村他,1992,pp.147-150), や加藤らの 21mm 前後(加藤・宮市・大石他,1996, pp.253-256)より大きい値であった。乳腺組織の厚さ が他の先行研究より大きくなった理由は,これまでの 先行研究では乳頭上にプローブを当て乳頭直下の乳腺 組織の画像が撮影されている(渡邉・石川・釜村他, 1992, pp.147-150; 加 藤 ・ 宮 市 ・ 大 石 他, 1996 , pp.253-256)が,乳頭直下にプローブを当て撮影して いる場合,乳頭直下には乳頭による陰影が映し出さ れ,乳腺組織が不明瞭となり,正確な計測が行えな い。そのため,今回は乳頭の陰影に影響を受けること がなく,またプローブの位置にも誤差が生じにくい乳 頭真横の乳腺組織の厚さを計測した。つまり,乳頭真 横はほぼ乳房の中央であり,仰臥位での撮影では最も 高さがあるところであるため,本研究の乳腺組織の厚 さは大きい値として結果が出たものと考えられる。 乳腺組織の厚さの計測の信頼性においては,右乳 房,左乳房とそれぞれ2ヵ所ずつの乳腺組織の厚さの 計測を行い,それぞれの計測値の高い相関や授乳前後 の乳腺組織の同等の減少率を得ることにより,実証さ れた。 2.直接授乳前後での乳腺組織の厚さの変化 直接授乳前後の乳腺組織の厚さは,図2で示すよう に授乳前後で有意に減少した。厚さの減少として考え られることは体積の減少であり,一つには乳汁の排出 ともう一つには血液循環の促進が考えられる。根津 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 -5.0 0.0 5.0 10.0 15.0 授乳前後の厚さの差(mm) r=0.27(p<0.01) n=91 授乳量 (g) 図3 乳腺組織の厚さの差と授乳量との関連 0 20 40 60 80 100 -5.0 0.0 5.0 10.0 15.0 初産婦の乳腺組織の厚さの差(mm) (g) r=0.40(p<0.05) n=29 授乳量 図4 初産婦の乳腺組織の厚さと授乳量との関連 0 20 40 60 80 100 -5.0 0.0 5.0 10.0 15.0 経産婦の乳腺組織の厚さの差(mm) (g) n=62 授乳量 図5 経産婦の乳腺組織の厚さと授乳量との関連 産褥早期における直接授乳前後の乳腺組織の厚さの変化(2001,p.653)は,直接授乳で排乳されると乳房の実 質体積が減少し,乳房の血液循環が促され,乳房に 「ゆとり」をもたらす。その結果,臥位では外側下方へ 垂 れ 下 が る と 報 告 し て い る。 ま た, 細 野(2009 , p.187)は帝王切開術後に効果的な直接授乳または乳房 マッサージを1日4回実施することにより,直接授乳を 妨げるような乳房鬱積は出現しないと報告している。 このことは,オキシトシンにより作用する腺房腔周囲 にある筋上皮細胞が収縮すること(立岡,2013,p.53) で, 乳汁の排出の有無に関わらず乳房間質の隙間が生 じているのではないかと考えられた。今回の対象者も 直接授乳を行うことにより,イメージ図6のように体 積の減少が起こり,乳房全体がゆるんだ結果,乳腺組 織の厚さに影響があったのではないかと推察した。 3.授乳前後の乳腺組織の厚さの差と授乳量の関連 授乳前後の乳腺組織の厚さの差と授乳量との関連を みたところ,弱い相関が認められた(図3)。初産婦と 経産婦の比較検討(図4,5)では,初産婦において有 意な相関を認めた。初産婦では乳腺組織の厚さが増加 しているものや変化のないものもあったが,概ね授乳 量が増えるとともに乳腺組織の厚さが減少しているこ とが示された。その反面,経産婦では初産婦と比べ授 乳量は多いが乳腺組織の厚さの減少率が低いものや変 化のないものが初産婦より多く占めていることが明ら かとなった。この状況より,産褥早期の乳腺組織の厚 さと授乳量の関係において,初産婦と経産婦では違い があることが示唆された。 1)初産婦の乳腺組織の厚さと授乳量の関係 乳腺組織は脂肪組織に取り囲まれ,乳腺葉の集合体 となっている。それらが乳管へと連なり,乳管は乳頭 下で集合し乳頭へと開口している(水野,2008,pp.20-23)。Ramsayらは,乳頭から外側に向かったいくつか の地点において乳腺組織や内部脂肪組織,皮下脂肪や 後方脂肪組織の総計量を測定しており,その結果,乳 腺組織量は乳頭から離れるほど減少する(Ramsay, Kent, Hartmann, et al., 2005, pp.525-534)と報告してい
り,最も乳管が集合している位置と考えられた。この ことから,乳頭近傍の乳管は,乳汁貯留により拡張す る(菊谷・土橋・篠原,2007,pp.522-528)ため,貯留 された乳汁が児の授乳により排出され,それぞれの乳 管の縮小が起こり乳腺組織の厚さの減少につながった と推察された。初産婦はすべての腺房細胞での乳汁生 成がまだ十分には成立しておらず,ほぼ乳管内に貯留 された乳汁のみを授乳していることが考えられる。そ して乳管が集中している乳腺横の乳腺組織の厚さを測 定していることから授乳前後の乳腺組織の厚さの差と 授乳量に関連が認められたと推察された。 2)経産婦の乳腺組織の厚さと授乳量の関係 経産婦の場合,前回も母乳育児の経験があればすで に乳腺組織の発達が認められ,腺房細胞での乳汁生成 能力がすでに高まっていることが予想される。実際, 明らかな乳腺組織の発達は腺房細胞の増加が低エ コー像として認められる(Haku, Takeuchi, Morimoto, et al., 2004, pp.16-20)と言われており,乳汁分泌良好 な状態を示す乳腺組織の超音波画像は,妊娠期より低 エコー域の腺房部分が多く占め,そのパターンは経産 婦 に 多 く 認 め ら れ て い る(葛 西 ・ 須 藤 ・ 鈴 木 他, 1999,pp.893-897)とも述べられている。乳汁分泌と しては,経産婦は初産婦と比べ早い時期に乳汁分泌状 況がよくなり(根津,2009,p.306),児が哺乳を始め て射乳反射が起こるともう一方の乳房から乳汁が漏れ る不随意の乳汁流出がある(米国小児学会,2006/ 2007,p.110)。実際に初産婦に比べ経産婦は授乳前の 超音波撮影時にも乳汁が滴ってくる症例があり,また 児が授乳中も片側の乳房から乳汁が滴ることがあっ た。これらのことから,児が乳腺のあらゆる部分の乳 汁を哺乳していると同時に,多くの乳腺細胞で次々と 乳汁生成が行われ,授乳前後の乳腺組織の厚さの差と 授乳量には関連を認めなかったのではないかと考えら れた。 4.研究の限界と今後の課題 今回の研究では,左右の乳房を区別せずに平均して 分析したことから,産褥早期とは言え,授乳中のタイ ムラグが少なからず影響している結果と言える。しか し,直接授乳前後の乳腺組織の厚さの減少から,産褥 早期の乳房の生理的緊満状態が児の授乳により解除さ れたことを数値として明らかにできたことは,意義が あると考える。加えて,今回は各対象の乳汁分泌状況 側面 図6 直接授乳前後の乳房の変化(イメージ)
の条件を分析に使用していないことを含め,今後は, 対象者の背景や分泌状況を具体的に分析していくとと もに片方のみの授乳測定を行うなど,より詳細な調査 を進めていく必要がある。乳腺組織の変化を知ること は硬結ができる前に乳口のつまりを推測できるなど異 常の早期発見とともに早期のケアにもつながると考え る。そのためにも,乳汁分泌不全や乳汁分泌過多が予 想される乳腺組織の厚さの値や厚さの変化を知ること は,今後の研究の課題である。
Ⅴ.結 論
今回の調査において,以下のことが明らかとなっ た。 1.直接授乳前後の乳腺組織の厚さは,授乳前に比 べ授乳後は有意に減少した。 2.授乳前後の乳腺組織の厚さの差と授乳量の関連 については,初産婦において相関があったが,経産婦 では相関を認めなかった。 以上より,産褥早期の乳腺組織の厚さは,授乳の前 後で変化することが明らかとなり,厚さを測定する時 には,授乳が影響するため,授乳前か後の表示が必要 であり,継時的に測定する時には授乳前か後に時間を 一定させることが必要である。 謝 辞 本研究に同意し快くご協力いただきました褥婦の皆 様,研究実施にご協力いただきました施設の皆様に心 からの感謝とお礼を申し上げます。 本研究の内容の一部は第 11 回 ICM アジア太平洋地 域会議・助産学術集会(2015)において発表した。 文 献 米国小児科学会(2006)/平林円,笠松堅實監訳(2007).医 師のための母乳育児ハンドブック(第 1 版),p.110, 大阪:メディカ出版.Geddes, D.T. (2009). Ultrasound imaging of the lactating breast. Methodology and application. International Breastfeeding Journal, 4(4), 1-17.
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