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地球温暖化の漁業および海洋生物への影響 Effects of global warming on fisheries and marine organisms * 高柳和史 Kazufumi TAKAYANAGI * 独立行政法人水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所 National Resea

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1.はじめに 漁業には天然資源を獲る漁業、稚魚・稚貝を放流 して大きくしてから獲る漁業、家畜のように飼育す る養殖漁業がある。これらほとんどは海の生産力に 依存している。水産対象魚種は食物連鎖の上部に位 置することが多く、植物プランクトンから高次捕食 者へエネルギーが伝わることが大事である。温暖化 等環境変化の影響を考える場合は、注目する魚種だ けでなく、魚を取り巻く物理的・化学的環境、餌生物、 捕食生物等の動向を総合的に解析する必要がある。 2007年に発表された IPCC 第 4 次評価報告書で は海洋については精力的にまとめられているが、海 洋生物への影響に関する記述は第 2 作業部会の報告 書のいくつかの章のなかに単発的に僅かに記述され ているだけである1),2)。これは、とりもなおさず海 洋生物の現状を把握すること、将来予測をすること の難しさの表れである。 本稿では温暖化の漁業および海洋生物への影響評 価を正しく行うために、現在の状況を既往文献をも とにレビューする。まず、海洋生物の生活の場であ る海洋および海洋生態系への影響の概略を示し、次 に個々の生物について日本周辺海域の水産有用種を 中心にしてとりまとめ、最後に今後の課題について 論じる。 2.海洋、海洋生態系への影響の概略 大気中の二酸化炭素濃度が増え、気温が上昇する と、単に海が熱を吸収し、水温が上昇するだけでな く、様々な変化が生じる。図 1 に示すように、海 水面の上昇、海水の上下混合の阻害、海流の変化、 陸域からの流入物質の変化、海洋の炭酸システムの 変化等が生じ、海の構造そのものが変わってくる可 能性がある。その結果として海洋における食物連鎖 網の出発点である植物プランクトンを含む藻類の 量、分布様式が変化して、最終的には食物連鎖の高 位にある魚の資源量にまで影響を及ぼす。水温上昇 による海洋生物の生理的応答だけでなく、海洋の変 化が引き起こす海洋生物への影響を軽視してはいけ ない。 温暖化による氷河の融解、降雨パターンの変化等 に伴う陸域からの淡水の流入や海氷の融解が進めば 海水の塩分が低下する。実際 1955 年と 1998 年を比 較すると、インド洋では表層の塩分は増加している が、大西洋と太平洋の広い海域で表層塩分は僅かで 受付;2009 年 1 月 19 日,受理:2009 年 4 月 27 日 * 〒 739-0452 広島県廿日市市丸石 2-17-5,e-mail:[email protected]

地球温暖化の漁業および海洋生物への影響

Effects of global warming on fisheries and marine organisms

高柳 和史

Kazufumi TAKAYANAGI*

独立行政法人 水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所

National Research Institute of Fisheries and Environment of Inland Sea, Fisheries Research Agency 摘  要 温暖化の漁業および海洋生物への影響評価を正しく行うために、日本周辺海域の水 産有用種を中心に、現在の状況について既往文献にもとづきレビューを行い、今後の 課題を論じた。温暖化は、水温上昇として直接的に海洋生物に影響を与えるだけでな く、海洋構造を変化させ、海洋生態系の変化、食物連鎖網を通して生物に影響を及ぼ している。多くの変化が日本周辺海域で生じており、サケ類、スケトウダラ、スルメ イカの変化はその代表であろう。また、植物プランクトンブルームのピークの早期化 等が生じ魚介類の餌生物である動物プランクトンにも影響が生じている。沿岸域での 変化は顕著のようであり、水産有用種以外にもナルトビエイ、クラゲ類の増加が見ら れ漁業に影響を与えている。しかしながら、海洋は十~数十年単位で自然変動がある こと、沿岸域では他の人為的影響との区別が難しいこと等により、温暖化影響と言い 切れない場合もある。今後も質の高い観測を続け、温暖化影響を正しく評価していく 必要がある。 キーワード: 温暖化、海洋生態系、漁業、さかな

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あるが減少している4)。東シナ海でも表層塩分低下 の現象が夏季について報告されている5) 海流に関しては、黒潮について、北限位置はあま り変わらないが、流速が 100 年後には 30%ほど大 きくなるという報告がある6)。しかしながら、気象 庁が観測している東シナ海および北太平洋東経 137 度では、流量に周期的な変動はあるものの長期的な トレンドは見いだせない7) 海水面の上昇に関しては、IPCC は海面水位は 1961~ 2003 年の間に世界平均で 1.8 ± 0.5 mm/ year上昇と報告している1)。しかしながら、日本周 辺海域では過去 100 年で比較すると明瞭な上昇傾向 は見られない7)。この海域の海水面には約 20 年周 期の変動があり、1950 年ころに極大が見られ、 1980 年代半ば以降(1985 ~ 2007 年)に限れば 3.2 mm/yearの上昇となる7)。海面水位上昇への対 策に関しては三村・横木8)にまとめられているので 参照されたい。 基礎生産と魚の資源量の関係は古くから研究がな され、魚の資源量の動向を考える上で食物連鎖の出 発点である植物プランクトンの現存量、生産量の重 要性が認識されている9)。全球レベルでの古いデー タが無く、長期のトレンドの解析はできないが、衛 星によるクロロフィルが測定できるようになった 1980年代前半(1979 ~ 1986 年の平均)と 20 世紀末 (1997 ~ 2002 年の平均)を比較すると、20 世紀末に はクロロフィル量が全海洋平均で 6%ほど減少して いる。北太平洋は全海洋平均と比較し減少割合が高 く、特に北緯 40 度以北では夏季に 30%以上の減少 が見られる10)。人為起源か自然変動に起因するかの 区別は難しいが、1997 ~ 2006 年の解析では海面気 圧、海面水温、表層風の風向等を総合的に取り込ん だ気候インデックスのひとつ、 MEI(Multivariate ENSO Index)とは強い相関が得られており11)、気候 の変化が基礎生産に強い影響を及ぼすことが示唆さ れている。植物プランクトンのブルーム時期の変化 についても研究が進んでいる。北海における 1958 ~ 2002 年までの解析結果からは、珪藻については 長期的トレンドは明瞭でないが、鞭毛藻類では 23 日もブルームのピークが早まっている12)。ブルーム 時期の変化により高次捕食者が餌に遭遇する時期が ずれることになり、成長、再生産にまで影響を及ぼ す可能性がある。 北太平洋では暖かい時期と寒い時期が周期的に繰 り返すことが知られており13)、この現象は温暖化後 の海洋生態系を予測する上での貴重な材料となるた め、過去のデータを解析する研究が進んでいる。低 次生態系の応答は Chiba et al.14)にまとめられており、 海域により応答の度合いが異なるが、気候の変化に 伴い、混合層の厚さの変化、植物プランクトン種組 成の変化、ブルームのタイミングの変化、動物プラ ンクトン生物量ピークの変化等が報告されている。 その他、海洋生態系全般に関する詳細な温暖化影 響については田所ら15)の総説を参照されたい。 3.水産有用種への影響 3.1 北海道、三陸沖合域の代表魚類 北 海 道 南 部 、 本 州 北 部 に 回 帰 す る シ ロ ザ ケ (Oncorhynchus keta)は生残率が減少傾向を示してい るとの報告がある16)。シロザケ(O. keta)とベニザケ (Oncorhynchus nerka)の北太平洋の分布を 1972 ~ 2000年の 7 月で比較すると、10℃の等温線が上昇 するにつれ、分布域もベーリング海に多くなるよう な傾向が見受けられ17)、生息域が北上しているよう である。シロザケはオホーツク海から北太平洋を広 図 1  大気中二酸化炭素濃度上昇が引き起こす水産生物への様々な影響. 陸域からの影響は沿岸域に強くでるが,ダストの飛来等により外洋域の プランクトン分布へも影響を及ぼす可能性がある.(高柳ら3)より転載) 陸域での変化 ・集中豪雨、砂漠化 ・氷河の融解 ・植生の変化 ・農業形態の変化 ・ダストの飛来 ・その他様々な人間活動 陸域からの流入物質の変化 熱の吸収 ,海水温の上昇 海水面の上昇 炭酸カルシウムを作る生物への影響 (貝, サンゴ, プランクトン等) 栄養塩分布の変化 炭酸系の変化 (海水pHの低下) ・藻場・干潟の減少 ・内湾水と外洋水の混合の変化 地球温暖化・気温の上昇 プランクトン 分布の変化 ・産卵場の変化 ・索餌場の変化 ・回遊経路の変化 ・漁場の変化 二酸化炭素濃度の上昇 ・水柱の成層化 ・海流の変化 ・海洋循環の変化 沿岸生物分布の変化 陸域からの 響影

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く回遊するため、それぞれの海域で温暖化の影響を 受ける。オホーツク海は幼魚にとって摂餌、成長に 欠かせない海域で、その後の生残率を大きく左右す る。そのオホーツク海はこの 50 年間長期的に水温 が上昇傾向を示しているが18)、オホーツク海でのサ ケの成長は良好な傾向を示し19)、今のところオホー ツク海での水温上昇は有利に働いているように見受 けられる。 ゴマサバ(Scomber australasicus)はマサバと比較し て暖水性であるが20)、1 才魚が 2000 年以降三陸北部 海域まで索餌回遊するようになってきている21) 底魚にも変化の兆しが見られる。最近漁獲量が減 少しているスケトウダラ(Theragra chalcogramma) だが、漁獲量と産卵場の水温とには負の相関があ り22)、親潮の勢力が強い時に三陸沖合域での 0 才魚 の加入量が多い23)ことから温暖化は不利に働いてい るようである。一方マダラ(Gadus macrocephalus) は、1996 ~ 2007 年の解析によると、三陸沖の表層 水温が高いと 0 才魚、1 才魚の加入量が低い傾向と 報告されている24) 3.2 日本海の代表魚介類 日本海ではウラジオストック沖の海水が冬季に冷 却され、海底に沈み込むことにより深層水が形成さ れるのだが、1990 年代半ば以降、日本海の中深層 を占める日本海固有水のポテンシャル水温の上昇、 溶存酸素濃度の低下が見られ、新たな深層水が形成 されていないようである25),26)。日本海は日本周辺海 域の中では海面水温の上昇が顕著であり、過去 100 年間で 1.7℃上昇しており27)、日本周辺の他海域よ り温暖化の影響を受けやすい海域のようである。日 本海では 1980 年代後半に温暖レジームに変化し、 カタクチイワシ(Engraulis japonicus)、マアジ(Tra-churus japonicus)、スルメイカ(Todarodes paci-ficus)

等の暖水性浮魚類が増加している28)

スルメイカについては資源水準が中長期的な海洋 環境と共に変化することがよく知られており、海洋 環境が寒冷であった 1970 年代後半~ 1980 年代に減 少し、温暖な環境に変化した 1990 年代以降は増加 している29)。Kidokoro and Sakurai 30)は東シナ海陸 棚域の調査において、海面水温が 15℃~ 18℃で捕 獲されたメスは成熟していたが、15℃未満では未成 熟の個体が多かったと報告しており、冬季の水温上 昇はスルメイカに有利に働くであろう。 これら浮魚の餌の指標となる植物プランクトンは、 1980年代の寒冷レジームの際は現存量が比較的低 く、ブルーム時期が早まっており31)、その原因とし て表層への栄養塩供給の減少、珪藻の種組成の変化 等があげられている32)。寒冷期には上下混合が進み、 表層への栄養塩供給が増加すると一般的には考えら れるが、日本海では深層水の形成が強化され、表層 の暖かい対馬暖流の下に沈み込むため成層構造が発 達し、栄養塩供給が減少すると考えられている31) 日本海北部のスケトウダラについては、産卵場の 形成は冬の高水温により阻害され、より深い低水温 の水塊に形成されるようになっていると考えられて いる33)。太平洋側でも産卵場の水温変化が影響して いるようであり、温暖化の負の影響が強く現れる魚 種であろう。 3.3 北大西洋のマダラ 北大西洋では大西洋マダラ(Gadus morhua)に関 する調査研究が進んでおり、食物連鎖に関しての研 究は参考になるので簡単に紹介する。北大西洋では 1960年以降大西洋マダラの資源量が減少し、漁獲 規制を設けても資源量が回復せず問題となっている が34),35)、これは単に人為的な漁獲圧によるものだけ ではなく、温暖化影響を含む海洋環境の変化ともリ ンクしているようである。Richardson and Schoeman36) は北大西洋北東部での 1958 年から 45 年間連続的に 採取されたプランクトン試料(植物プランクトン、 植食性動物プランクトン、肉食性動物プランクト ン)を解析し、植物プランクトンバイオマスの北方 域での増加、南方域での減少、それに呼応した動物 プランクトンバイオマスの変化を明らかにした。種 組成の変化も顕著であり、暖水性のカイアシ類の増 加が指摘されている37)。さらに大西洋マダラの餌生 物であり、漁業対象種としても重要なシシャモ (Mallotus villosus)資源量も減少しており38)、食物連 鎖網の出発点である植物プランクトンのバイオマス の変化、ブルーム時期変化が動物プランクトンの優 占種を変化させ、高次捕食者である大西洋マダラの 資源量にまで影響を及ぼすボトムアップコントロー ルがきいていると考えられている39)。なお、今後の 温暖化の進行に伴い、分布域が北上し、絶滅する海 域もでてくるが、水温上昇により成長が促進され、 資源量全体としては増加するという予測もある40) 3.4 南極海のオキアミ 南極海ではオキアミ(Euphausia superba)が 1970 年代以降減少し、サルパ(Salpa thompsoni)が増加し ており、水温上昇に伴う海氷面積の縮小が原因でな いかと疑われている41)。オキアミは海氷藻類(アイ スアルジー)を餌とするため、海氷の多寡がオキア ミの生産に重要であることが知られている42)。オキ アミは漁業対象種としてだけでなく、南極に生息す るペンギン、アザラシ、クジラ等の餌生物でもあり、 オキアミの減少はこれらの生物にも影響を与える。 3.5 海洋生物の病気に関して 気候の変化による海洋生物の病気の増加も指摘さ れている43)- 45)。特にサンゴ、軟体動物等に関する 報告が近年増加している46)。サンゴに関しては海水 温の上昇による影響、海洋酸性化による今後の影響 等は IPCC2)でも指摘され、その後も継続的に将来予 測等が報告されているが47),48)、その他に、セラチア

菌(Serratia marcescens)、ビブリオ菌(Vibrio shiloi)、 土壌菌(Aspergillus sydowii)等によるサンゴの病気も

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顕著になってきており49)、海水温の上昇との関係が 指摘されている50)。サンゴ礁海域での漁業は熱帯、 亜熱帯に位置する開発途上国にとっては産業として 非常に重要であり51)、今後対策が必要となってくる であろう。 軟体動物に関しては、カキ等二枚貝の成育不良や 死亡を引き起こす寄生虫パーキンサス(Perkinsus marinus)の分布域が北米大西洋岸は北上しており、 海水温の上昇との関係が示唆されている52)。また、 アメリカガキ(Crassostrea virginica)に MSX 病を引き 起こす寄生虫ハプロスポリジウム(Haplos-poridium nelsoni)の増殖は温度依存性が強く53)、沿岸水温の上 昇により北米大西洋岸北東域へ分布が拡大している ようである54)。また、麻痺性貝毒の原因植物プラン クトンであるアレキサンドリウム・タミヤバニッチ (Alexandrium tamiyavanichii)は水温 27.5℃~ 30℃ でもっともよく増殖し、15℃以下では死滅すると言 われているが、瀬戸内海では 1999 年以降ほぼ毎年 出現が確認されており55),56)、麻痺性貝毒の増加も懸 念される。 また参考として、内水面関係では 2008 年夏、エ ドワジエラ・イクタルリ(Edwardsiella ictaluri)によ るアユ(Plecoglossus altivelis altivelis)の感染症が、わ

が国でははじめていくつかの河川で確認された57) この細菌による感染症は夏季の高水温期に発生しや すいことから、高水温期が長期化すれば感染症が増 加する可能性がある。 4.その他沿岸の生物 陸上の生物を主に約 1,700 種の生物について調査 したところ、気温の上昇につれ生息域が極方向に 10年あたり 6.1 km 移動しているという報告があ る58)。また、新天地での環境に適応していく昆虫が いることも知られている59) 沿岸の生物について調査した例は少ないが、イギ リス海峡周辺に生息する潮間帯生物と動物プランク トンでは 1920 年代からの 70 年間に約 192 km 生息 域が北上し、その間の平均水温の上昇は 0.5℃との 報告がある60)。また、大西洋沿岸の岩礁域潮間帯に 生息する巻き貝、二枚貝、ヒトデ等を調査した結果 では、生息域が最大で 10 年あたり 50 km も極方向 に移動61)、北海では底生魚類 15 種が 25 年間で平均 172 km生息域が移動しており62)、これらは陸上の 生物よりも速い。日本周辺海域を例にとると、舞鶴 湾では 30 年前と比較すると、平均海面水温は 0.4℃ 上昇し、暖水性の魚が優位に増加し、出現種ごとの 分布域の中央緯度を比較すると 30 年間で約 270 km 分布域が北上しているとの報告がある63)。瀬戸内海 ではソウシハギ(Aluterus scriptus)等暖水性の魚種を 見かける機会が多くなっている64)。九州沿岸の海藻 類では、図 2 にイメージを示すとおり、これまで 分布が九州南岸(主に鹿児島県)に限られていた南方 系ホンダワラ類の藻場が西岸(長崎県)や東岸(宮崎 県)でも普通に見られるようになり65)、1960 ~ 1970 年代と比較して分布域が拡大している66)。また、九 州西岸天草周辺ではエンタクミドリイシ(Acropora solitaryensis)の稚サンゴが見られる北限が北上して いるようであり、冬季水温の上昇との関連が指摘さ れている67) 熱 帯 ・ 亜 熱 帯 性 エ イ で あ る ナ ル ト ビ エ イ (Aetobatus flagellum)が有明海、瀬戸内海では近年 増加傾向のようである。ナルトビエイは二枚貝を捕 食することが知られており、問題となっている68),69) その他、漁業にマイナスの影響を与える生物として クラゲがあげられる。東シナ海、日本海では近年大 型クラゲ(Nemopilema Nomurai)の出現が多発し漁 業被害もでている 70)。瀬戸内海ではミズクラゲ (Aurelia aurita)の出現が多発し、水温上昇との関 係も疑われている71)。室内実験等では水温上昇が増 殖に有利に働くが72)、上・上田71)も指摘するように 沿岸域はその他の人為的影響が強く、温暖化、水温 上昇との因果関係に結論はでていない。一方、東ベー リング海におけるアカクラゲ(Chrysaora melanaster) については、Brodeur et al.73)が 1978 ~ 2005 年まで の解析結果をもとに、水温が上昇することは、海氷 面積が縮小し、植物プランクトンのブルームが遅れ、 餌生物の動物プランクトン量が減少してアカクラゲ に不利になると報告している。 また、水温が上昇することにより、有害物質への 感受性が高くなる生物がでてくる可能性もある。珪 藻の一種タラシオシラ(Thalassiosira nordenskio-eldii)

九州

広域で

顕在化

北上

図 2  南方系ホンダワラ類藻場の九州東西両岸に おける分布域変化のイメージ. (独立行政法人 水産総合研究センター65)より転載)

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による室内実験では、カドミウムに対する感受性が 水温上昇に伴い高くなったとの報告がある74) 5.今後の課題 資源の減少を養殖で補おうという考え方もあり、 畜産生物が食用のために野生(自然の生態系)から切 り離され飼育されているように、魚についても人間 の管理下で飼育することは可能である。実際、図 3 に示したように、野生生物を捕獲する「獲る」漁業 生産は頭打ちだが、養殖生産は増加し続けている。 しかし、養殖魚に与える餌は魚粉が中心であり、獲 る漁業での生産量が増加し魚粉を増産できなけれ ば、養殖生産にも限度がある。それでは結局獲られ た魚が人間の口に入るか、養殖魚の餌になるかの違 いだけとなるので、養殖を増加させるには、代替タ ンパク質、サプリメントなどで栄養価を補った餌の 開発を進めていく必要がある。 生物自身による適応、進化についてはほとんど不 明であり、今後の予測が難しい。速い進化の一例と してはアフリカ大陸ビクトリア湖のシクリッド類が あげられる。ビクトリア湖が 14,700 年前に干上が った後、その後に進入した 1 ~数種の祖先種から急 激な種変化が生じたと考えられている。しかしそれ でも種分化には数百年かかっているようである76),77) 海洋生物には水温上昇が直接的に影響を及ぼすだ けでなく、海洋および海洋生態系の中の複雑な経路 を経て影響が及ぶことが多く、水温だけに注目する と相反する結果もでてくる。将来への対策、適応策 を考案するためには、現状を正確に把握し、複雑な 影響経路を解きほぐし、最重要のプロセスを明らか にしていかなければならない。海洋自体が温暖化と は別のメカニズムで自然変動を周期的に繰り返して きたことも明らかとなり、なお一層温暖化の影響評 価を難しくしている。海洋生物に関しては長期の継 続したデータが少ないことが影響評価のハンデとな っており、質の高い観測の継続が必要である。また、 将来予測を行うためのモデルに組み込む水温応答以 外の精度の高い生物環境応答情報(pH、餌、捕食者、 遊泳能力等)も必要である。 本研究は農林水産省プロジェクト研究「地球温暖 化が農林水産業に及ぼす影響評価と緩和及び適応技 術の開発」の支援を受けて行った。 引 用 文 献

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海の環境問題に取り組んでいま す。海の中は見えないが故にあま りにも長い間ほったらかしにされ てきたような気がします。海の環 境変化は人間ばかりでなく海に生 息する生物にとっても一大事で す。海の中にもたくさんの生物が 生活をしており、この生物たちが海の浄化、物質の循環に重 要な役割を果たすとともに、貴重なタンパク源としての水産 資源を供給しています。海の生物の立場も考えながら、環境 問題を解決していきたいと思っています。Old Dominion University (アメリカ、バージニア州)博士課程卒、Ph.D(化 学海洋学専攻)。現在、(独)水産総合研究センター瀬戸内海 区水産研究所長。

高柳 和史

Kazufumi TAKAYANAGI

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