1.目 的
現在,日本の高齢者は,総人口の 21.5 % で ある2,746万人で,その内14.9 % にあたる410万 人の高齢者が,一人暮らしの生活を送ってい る1 ).平成18年度内閣府の世帯別型に応じた高 齢者の生活実態などに関する意識調査では,一 人暮らしの高齢者の34.9 % が「病気がちであっ たり介護を必要としている」,30.7 % が「頼れ る人がいなく一人きりである」といった日常生 活下での不安要素を報告している2 ).さらに, 平成 19 年東京都において2,361 人の一人暮らし の高齢者が自宅で亡くなっており,孤独死が問A Wearable Bioinformation Recording System
Hiromichi Maki*, Hidekuni Ogawa*, Yoshiharu Yonezawa*, Junichi Iwamoto*1, Ishio Ninomiya*2and Kouji Sada*3
* Hiroshima Institute of Technology *1 Sanyo Women's College
*2 Hiroshima International University
*3 Shakaihoken Shimonoseki Kousei Hospital
Abstract
A wearable bioinformation recording system has been developed for monitoring health conditions, daily living activities and heart function of elderly person. A tri-axis accelerometer attached to the eld-erly person can simultaneously measure dynamic and static acceleration forces. The heart rate, respira-tion rate, activity, posture and behavior are detected from the measured accelerarespira-tion forces. These data are automatically transmitted to the host computer every hour, via a Personal Handy Phone (PHS). The host computer makes a graphic chart from these data. The elderly person's immediate family, caregiver or doctor can download the graphic chart to an internet mobile phone. When a heart discom-fort is felt, the elderly person pushes the transmission switch on a wearable sensor, which sends the phonocardiogram (PCG) waveforms derived from the dynamic acceleration force of the prior two minutes and the waveforms for two minutes after the switch is pushed, directly to the host computer. The PCG is stored to the host computer. The doctor can download the PCG to the smart phone and monitor graphically.
The developed system is not only applicable to at-home solitary elderly people, but could also be useful for monitoring hospital patients.
ウ ェ ア ラ ブ ル 生 体 情 報 記 録 シ ス テ ム
槇
弘 倫
*0小 川 英 邦
*0米 沢 良 治
*10岩 本 純 一
*1二 宮 石 雄
*2佐 田 孝 治
*30 * 広島工業大学 *1山陽女子短期大学 *2広島国際大学 *3社会保険下関厚生病院 (原稿受付:2009年 6 月 1 日)題となっている3 ).そこで,一人暮らしの高齢 者の健康に対する不安や孤独死を低減するに は,高齢者の日常生活下における身体状態や活 動状態を高齢者本人のみならず,遠隔の家族, 介護者および医師などによりモニタリングする ことが望まれる.日常生活下における身体状態 や活動状態のモニタリングをおこなうには,身 体状態に関した心電図,心拍数,呼吸数や, 活動状態に関した姿勢,行動などの測定が必 要である.現在,心電図は,イベント心電計 やホルター心電計で測定され,心拍数は,心電 図や橈骨動脈上の皮膚へ装着した光センサ4 ) または圧電センサ5 )で測定した脈波から検出 している.呼吸数は,胸部の皮膚インピーダン ス測定6 )や胸部の周囲に取り付けたベルトへ 装着したピエゾ抵抗センサ6 )または圧電セン サ7 )で測定された波形から求めている.一方, 姿勢は加速度センサ8 )の静的加速度から求め, 行動は動的加速度から求めている.これら各種 の測定法は,それぞれ特定の身体状態や活動状 態を測定しており,日常生活下における身体状 態と活動状態の測定する場合には,複数の測定 法を組み合わせる必要がある6 ,8 ∼10).測定法の 組み合わせは,測定対象に応じた複数の測定装 置を高齢者に装着することを意味し,高齢者に とって健康不安に加え,大きな肉体的・精神的 ストレスを与える結果となる.さらに,測定や 遠隔へのデータ送信に対する装置が大掛かりと なることから,高齢者による簡便な取り扱いが 困難である点やデータの収集と管理の点など解 決すべき多くの問題が生じる. 本研究では,これらの問題を解決するウェア ラブル生体情報記録システムを開発した.シス テムは,1 個の 3 軸加速度センサのみを使用し, 日常生活下おける最も重要な身体状態として心 拍数と呼吸数,活動状態として姿勢,行動およ び体動量の生体情報を測定すると共に,高齢者 が日常生活下において心臓に違和感を感じた前 後 2 分間の心音図記録をおこない,公衆電話回 線を介してホストコンピュータへ自動送信す る.家族や介護者は,インターネット接続可能 な携帯電話でホストコンピュータにアクセス し,高齢者の生体情報をダウンロードすること で身体状態と活動状態の遠隔把握が可能であ る.心音図が記録された場合,ホストコンピュ ータは,登録された医師,家族および介護者の 携帯電話へメールで通報をおこない,高齢者の 早期介護を求める.医師は,心音図をホストコ ンピュータからスマートフォンにダウンロード することで高齢者の心機能状態が把握でき,救 命救急処置をおこなうことができる.
2.システム構成
開発したウェアラブル生体情報記録システム の構成図を図 1 に示す.システムは,高齢者の 胸部の衣服上に装着する 3 軸加速度センサと低 消費電力 PHS モジュールを内蔵したウェアラ ブルセンサ,高齢者の家に設置するホストコン ピュータ,家族や介護者が使用するインターネ ット接続可能な携帯電話および医師が使用する Windows Mobile ベースのスマートフォンで構 成した. ウェアラブルセンサは,日常生活下における 胸部前壁の前後(X 軸),左右(Y 軸),上下 (Z 軸)の 3 軸の静的,動的加速度を 24 時間連 続測定し,身体状態として 1 分間の心拍数と呼 吸数,活動状態として 5 秒ごとの体動量と姿勢 および行動を求め SD メモリカードに保存す る.PHS モジュールは,保存されたこれらの 生体情報を 1 時間ごとに公衆電話回線を介して ホストコンピュータへ送信する.さらに,ウェ 図1 シ ス テ ム 構 成 図 3 )アラブルセンサには,ループ式イベント心電計 と同様に日常生活下において高齢者が心臓に 違和感を感じた時,心音図を記録し,異常を 医師,家族および介護者に通報するスイッチ を設置している.高齢者が通報スイッチを押す と,その前後 2 分間の心音図をウェアラブルセ ンサの SD メモリカードに保存する.心機能評 価には,一般的に心電図が用いられるが,心電 図測定において皮膚上に粘着する電極が,皮膚 炎症の原因となることから長期間の測定をおこ なうことができない問題がある.本システムで は,この心電図のかわりに,衣服上に装着した 3 軸加速度センサで心臓の弁の動きを反映する 心音図を動的加速度として検出する.ホストコ ンピュータは受信した生体情報をハードディス クに格納すると同時に,受信時までの 24 時間 の生体情報をグラフ化し,保存する.家族や介 護者は,このグラフをホストコンピュータから 携帯電話にダウンロードし,高齢者の生体情報 を遠隔把握することができる.高齢者が心臓 に違和感を感じ,通報スイッチを押した前後 2 分間の心音図は,ホストコンピュータへ送 信され,保存される.ホストコンピュータは, 登録された医師,家族および介護者の携帯電話 へ電子メールで通報をおこない,高齢者の早期 介護を求める.医師は,心音図をホストコンピ ュータからスマートフォンにダウンロードし, 高齢者の心機能状態を把握することができる.
3.方 法
ウェアラブルセンサのブロック図を図 2(a) に 示 す . 記 録 装 置 は , 3 軸 加 速 度 セ ン サ (Kionix,KXM 52-1050),低消費電力型フィル タ,低消費電力型増幅器,通報スイッチ,低消 費 電 力 型 8 ビ ッ ト マ イ ク ロ コ ン ト ロ ー ラ (Microchip,PIC 18 F 4525),SD メモリカード (SanDisk,SDSDQ - 1024)および PHS モジュ ール(WILLCOM,W-SIM RX 420 IN)で構成 した.3 軸加速度センサは,差動容量型のセン サでセンサの傾斜に対して容量が変化し,その 変化を電圧として出力する.3 軸加速度センサ の特性を表 1 に示す.高齢者の胸部に装着した 加速度センサは,前後(X 軸),左右(Y 軸), 上下(Z 軸)方向の静的,動的加速度を同時測 定する.心音図は,20 Hz∼100 Hz のバンド パ スフィルタで取り出した X 軸の動的加速度 から得られ,46 dB の増幅器で増幅した.呼吸 信号は,0.1 Hz∼0.7 Hz のバンドパスフィルタ で 取 り 出 し た X , Z 軸 の 動 的 加 速 度 で 得 ら れ , 40 dB の増幅器で増幅した.姿勢に関した 身体傾斜角度は,0.5 Hz のローパスフィルタで 取り出した X,Y 軸の静的加速度で得られる. 体動は,1 Hz のハイパスフィルタで取り出し た Z 軸の動的加速度で得られ,20 dB の増幅器 で増幅した.得られた心音図,呼吸,身体傾斜 図2 ウ ェ ア ラ ブ ル セ ン サ 表1 3軸加速度センサの特性角度および体動は,マイクロコントローラ内蔵 の 8 ビット AD 変換器へ入力した.サンプリン グ周波数は,心音図信号を200 Hz,その他信号 を 50 Hz とした.マイクロコントローラは,心 音図,呼吸から 1 分間の心拍数,呼吸数をそれ ぞれ求め,体動と身体傾斜角度より 5 秒ごとの 体動量と姿勢および行動を求め,SD メモリカ ードへ保存する.PHS モジュールは,保存し たデータを 1 時間ごとに公衆電話回線を介して ホストコンピュータへ送信する.高齢者が心臓 に違和感を感じ,通報スイッチを押した場合, スイッチを押した前後 2 分間の計 4 分間分の心 音図がホストコンピュータへ送信される.ウェ アラブルセンサは,電圧 3.7 V,700 mA・h のリ チウムポリマー電池 1 個(E-Tec,ET-700-7C) で駆動した. ウェアラブルセンサを図 2(b)に示す.ウ ェ ア ラ ブ ル セ ン サ は , 加 速 度 セ ン サ 部 (3.5 cm× 4 cm×0.8 cm),SD カード・PHS モ ジュール部(3.5 cm× 5 cm×0.9 cm)およびバ ッテリー部( 6 cm×3.4 cm×0.6 cm)で構成し, 幅 5 cm,長さ 82 cm の伸縮ベルト(アイメデ ィア,細型骨盤ベルト)内に設置した.重量は 伸縮ベルトを除き46 g である. ウェアラブルセンサのフローチャートを図 3 (a)に示す.マイクロコントローラは,内蔵の AD 変換器により心音図,呼吸,身体傾斜角度 および体動をデジタルデータに変換し取り込 む.体動量は,全波整流処理した体動を 5 秒間 加算して求める.安静状態か活動状態かの行動 は,求めた体動量で判断する.安静状態は,著 しい体動の混入がなく,心拍数,呼吸数および 姿勢を SN 比良く検出できる0.4 G 未満の体動量 とし,活動状態を 0.4 G 以上の体動量として判 断する.したがって,心拍数,呼吸数および姿 勢は,安静状態下で測定した心音図,呼吸,身 体傾斜角度から求める.姿勢は,5 秒ごとに X , Y 軸から求めた身体傾斜角度が 60 度以上で臥 位と判断する8 ).心拍数の検出は,心音図のⅠ 音とⅡ音の 1 分ごとの回数より求める.Ⅰ音と Ⅱ音は,全波整流した心音図を時定数0.08秒で 積分処理し,その積分波形のピーク点および時 間間隔で検出する(図 4 ).1 分間の心拍数は, ピーク点が 1 心拍につきⅠ音とⅡ音の 2 回 カ ウントされることから,カウントした回数 の半分で求める.1 分間の呼吸数は,臥位の 場合に Z 軸の呼吸のピーク,臥位以外の場合に X 軸の呼吸のピークを検出して求める.求めた , , , , , , , , 図3 ウェアラブル生体情報記録システムのフローチャート
心拍数,呼吸数,体動量,姿勢,行動の生体情 報と通報スイッチが押された場合の心音図は, SD メモリカードに保存される.PHS モジュー ルは,1 時間ごとにホストコンピュータへ 1 時 間分の生体情報を送信し,通報スイッチが押さ れた場合,前後 2 分間の心音図をホストコンピ ュータへ送信する. ホストコンピュータのフローチャートを図 3 (b)に示す.ホストコンピュータは,ウェア ラブルセンサから送信されたデータが心音図の 場合,通報スイッチが押された前後 2 分間分の 心音図データを受信,保存すると同時に,通報 スイッチが押されたことを家族,介護者および 医師へ電子メールで通報をおこなう.データが 心音図でない場合,1 時間分の生体情報を受信, 保存した後,最新の 24 時間の生体情報をグラ フ化し,保存する.ホストコンピュータは,家 族や介護者の携帯電話からアクセスがあった場 合,グラフ化された最新の 24 時間生体情報を 送信し,医師のスマートフォンからアクセスが あった場合,通報スイッチが押された前後 2 分 間 分 の 心 音 図 を 送 信 す る . 医 師 が 使 用 す る Windows Mobile ベースの心音図表示用スマー トフォンは,リモートアクセス心電図モニタリ ングシステム11)で開発した心電図波形表示プ ログラムを使用し,心音図データファイルを受 信,保存し,心音図をスマートフォンのディス プレイへ表示する. 実験は,あらかじめ被験者になることを承諾 した健康な 35 歳から 62 歳の男性 5 名でおこな った.開発したウェアラブルセンサは,日常生 活下において伸縮ベルトがずれない程度の強さ でアンダーウェア上から胸部に装着し,装着を できるだけ意識させることがないようにした. 心音図と呼吸の信頼性評価は,3 個の心電図 記 録 用 デ ィ ス ポ ー ザ ブ ル 電 極 ( 日 本 光 電 , Vitrode K)を胸部へ,呼吸温度測定用のサー ミスタ温度センサ(石韶電子,503 ET-1)を鼻 腔下へ装着して同時記録した心電図と呼吸波形 でおこなった. 実験は,以下の 4 項目についておこなった. 1)安静,座位状態における心音図と心電図の 同時測定 2)安静,座位状態における X 軸動的加速度 と呼吸気温度の同時測定 3)24時間の生体情報測定 4)通報スイッチによる前後 2 分間の心音図記録
4.結 果
1)安静,座位状態における心電図と心音図 の同時測定 安静,座位状態の 62 歳男性から 5 秒間同時 図4 心 拍 数 検 出 法 図5 安静座位時に本システムおよび心電計で 測定した心音図と心電図測定した心音図と心電図の一例を図 5(a)に示 す.心音図Ⅰ音とⅡ音は,心電図の 7 個の R 波 に対応して 1 対 1 の関係で出現し,7 個のⅠ音 とⅡ音が発生している.すべての測定時間にお ける任意の時点において,単位時間当たりの心 電図 R 波の出現頻度から求めた毎分心拍数は, 心音図Ⅰ音とⅡ音の出現頻度から求めた毎分心 拍数と同じであった.同様の結果を他 4 人の被 験者でも得ることができた.心電図の R−R イ ンターバルと心音図のⅡ音−Ⅱ音インターバル とから求めた拍動ごとの心拍周期の関係を図5 (b)に示す.RーRインターバルとⅡ音−Ⅱ音 インターバルの相関係数は 0.99 で,RーRイン ターバルに対するⅡ音−Ⅱ音インターバルの最 大誤差は 1.1 % であった.他 4 人の被験者でも 両心拍周期の間の相関係数と最大誤差は,同様 の値を示した. 2)安静,座位状態における X 軸動的加速 度と呼吸気温度の同時測定 安静,座位状態で胸壁の前後方向の動きを 0.1 Hz∼0.7 Hz のバンドパスフィルタで取り出 した X 軸動的加速度波形と鼻孔下の温度セン サで測定した呼吸気温度波形の一例を図 6 に示 す.吸気時には,胸部の体積が増加し,前胸壁 を前上方に動かせることから X 軸動的加速度 が増加する.この時,呼吸気温度は,冷たい空 気が鼻孔から肺に向けて流れるため呼吸気温度 が低下する.一方,呼気時には,胸部の体積が 減少し,前胸壁を後下方に動かせることから, X 軸加速度が減少する.呼気時には,肺の温か い空気が鼻孔から出てくるため呼吸気温度が上 昇する.同様の結果を残りの 4 人でも得ること ができた.これらの結果から 0.1 Hz∼0.7 Hz の 動的加速度波形は,温度センサで記録した呼吸 気温度波形と同期して変動しており,呼吸波形 を反映している. 3)24時間の生体情報測定 (1)安静状態での生体情報記録 35 歳男性で 24 時間測定した生体情報と行動 の一例を図 7 に示す.生体情報として心音図, 呼吸,姿勢(X 軸身体傾斜角度),姿勢(Y 軸 身体傾斜角度)および体動量を,3 時間ごとに 体動量が 0.4 G 未満の安静時における 6 秒間の データを取り出した.心音図のⅠ音,Ⅱ音の 振幅は変動しているが,出現頻度を正確に求め ることができ,9 時,12時および15時に 6 秒当 たり最高 7 回,0 時と 3 時に最低 5 回の心拍数 を示した.安静状態でも時刻により呼吸の振幅 および周期は変動していることが示された.呼 図6 安静座位時に本システムと温度センサで 測定した呼吸波形と鼻孔下呼吸気温度 図7 3時間ごとの心音,呼吸,姿勢 X 軸,姿勢 Y 軸および体動波形
吸周期は,3 時の最長 4.3 秒から 9 時と 12 時の 最短 2.8 秒を示し,1 分間当たりの呼吸数に換 算すると 14 回と 21 回に相当する.姿勢を示す X 軸,Y 軸身体傾斜角度は,睡眠中の 0 時から 6時において 60 度以上の身体傾斜角度が測定 され,体位が仰臥位,左側臥位および右側臥位 と変動している.起床 9 時から就眠 21 時まで の時間帯では,安静時の身体傾斜角度が 60 度 以下で臥位状態を示さなかった.以上の所見 は,本ウェアラブルセンサが姿勢変化にもかか わらず安静時の心音図および呼吸を正確かつ安 定して記録していることを示している. (2)24時間連続生体情報記録 開発したシステムを用いて日常生活における 生体情報を 24 時間記録し,家族や介護者のイ ンターネット接続可能な携帯電話(WILL-COM, WX 330 K)に表示した体動量,呼吸数, 心拍数,姿勢および行動の一例を図 8 に示す. 体動量は 5 秒間での体動の積分値(G),呼吸 数は 1 分間での呼吸数(回/分),心拍数は 1 分 間での心拍数(回/分)を示す.なお,入浴時 で示す 22 時から 23 時の 1 時間は,ウェアラブ ルセンサを外し,生体情報の記録を中断した (図 8 ).体動量は,睡眠中低い値を示したが, 7 時∼22時の覚醒時には活動状態に応じて大き く変動した.呼吸数は,睡眠時の平均 17 回/分 から起床後の活動状態で平均 22 回/分まで増加 し,心拍数は睡眠時の平均 53 回/分から起床後 の活動状態で平均 62 回/分に増加している.活 動時で示す 10 時 45 分から 12 時 15 分の 1.5 時間 は,体動量が 0.4 G 以上となり呼吸数や心拍数 の記録が困難であった(図 8 ).他 4 人の被験 者でも体動量が 0.4 G 以上で同様の結果を得た. 以上の所見は,本システムが激しい活動状態を 除き,体動量 0.4 G 未満の安静状態下で心拍数, 呼吸数,体動量,姿勢,安静および活動を24時 間記録できることを示している. 4)通報スイッチによる前後2分間の心音図 記録 実験は,24 時間の生体情報記録実験中に通 報スイッチを押して前後 2 分間の心音図記録を おこなった.Windows Mobile ベースのスマー トフォン(WILLCOM,WS 020 SH)に 3 心拍 分表示した心音図を図 9 に示す.結果は,心臓 の違和感を感じた場合,通報スイッチによりい つでも必要に応じて図 4 や図 5 の心音図波形と 同様の心音図波形を記録送信できることを示し ている.
5.考 察
本研究の新しい点は,1 個の 3 軸加速度セン サのみを使用し,“生きているか否か”を判定 する最も重要な生体情報である心拍数や呼吸数 と共に姿勢,行動および体動量の同時測定を可 能にし,開発したウェアラブル生体情報記録シ ステムによる正確な生体情報の記録送信ができ ることを 5 人の被験者で実験して確認したこと である. 1)安静,座位状態における心電図と心音図 の同時測定 従来,心拍数は,直接心室収縮を測定するか 図8 インターネット携帯電話に表示した24時間 体動量,呼吸数,心拍数,姿勢,行動 図9 Windows Mobile ベースのスマート フォンに表示した心音図わりに先行して起こる心室の電気的興奮を示す 心電図の R 波を測定するか,或いは心室収縮の 後に遅れて起こる撓骨動脈の圧脈波を測定して 求めている.しかし,高齢者は,特に不整脈や 収縮力の減弱など心臓機能の異常が多く,直接 法と代用法で求めた心拍数が異なることがある. そこで,本研究では,心拍数を測定時間の先 行や遅れがなく直接心臓のポンプ機能の機械的 指標である心音図を測定して求めた.心音図に は周期的に発生しているⅠ音とⅡ音の大きい振 動波がある(図 4 ).心音図のⅠ音およびⅡ音 が,心電図の R 波とどのような時間関係にある かを調べるために両者を同時記録し比較した. Ⅰ音は,心電図の R 波のすぐ後に,次いでⅡ音 が規則正しい時間間隔で連続して発生している (図 5(a)).Ⅰ音は,心収縮期音と大動脈弁が 開く時に発生する音であり,そのピークの時点 で大動脈弁が最大に開き,血液を左心室から大 動脈基部へ急激に加速し拍出していることを示 している.Ⅱ音は,大動脈弁が瞬間的に閉じた 時に発生しており,この時点で左心室から大動 脈基部への拍出がなくなると同時に,大動脈基 部の血液が左心室へ逆流することを防いでいる ことを示している.すなわち,Ⅱ音−Ⅱ音イン ターバルは,大動脈弁閉鎖開始時点の周期であ り,同時に心室ポンプ作用終了時点の周期を示 している.さらに,左心室ポンプ作用は,Ⅰ音 とⅡ音の間の短い時間内でおこなわれているこ とを示している.X 軸の20∼100 Hz 動的加速度 で求めた心音図のⅠ音とⅡ音は,心電図 R 波に 同期して一定時間内に規則正しく発生してお り,心電図の R 波と同様に心音図のⅡ音を用い て心拍数を測定することができる.心音図の測 定は,より直接的な心臓ポンプ機能の評価を可 能にする. 2)安静,座位状態における X 軸動的加速 度と呼吸気温度の同時測定 本研究では,3 軸加速度センサを前胸壁に装 着し,安静座位における呼吸を前胸壁が吸気時 の前上方向から呼気時の後下方向への呼吸運動 として,X 軸の0.1∼0.7Hz 動的加速度で検出す ることができた.しかし,呼吸波形の振幅は, 呼吸様式や姿勢により異なる.例えば,座位か ら臥位になると,加速度センサの X 軸が大地 に対して垂直となり,呼吸波形の振幅は,減少 し呼吸検出感度が著明に低下した.そこで,臥 位では,加速度センサの Z 軸が大地に対して平 行になることから,X 軸,Y 軸身体傾斜角度で 臥位状態が検出されると,X 軸のかわりに Z 軸 の0.1∼0.7 Hz 動的加速度を用いて呼吸運動を測 定した.本研究で開発したシステムは,姿勢に 応じた呼吸運動の波形と呼吸周期,呼吸数の測 定を可能にした. 3)24時間の生体情報測定 開発したウェアラブル生体情報記録システム は,体動量が 0.4 G 未満の安静状態下の異なる 姿勢(図 7 )において,心音図,呼吸(前胸壁 運動),姿勢(X 軸,Y 軸身体傾斜角度)およ び体動を容易に測定でき,これらの波形から心 拍数,呼吸数,体動量,姿勢,安静,活動状態 の24時間記録を可能にした. 本 シ ス テ ム の 制 限 事 項 と し て , 体 動 量 が 0.4 G 以上になると 3 軸加速度センサで測定さ れる加速度が体動で大きく変動することから連 続記録がしばしば中断し,心拍数,呼吸数およ び姿勢を正確に検出できない点が挙げられる. しかし,個人差はあるが,一般的に高齢になる に従い覚醒時における活動は次第に低下し,体 動量も減少すると考えられ,比較的長時間安静 状態が継続すると推測される.この場合,正確 な心音図や呼吸波形の記録がおこなわれ,開発 したシステムで中断なく連続して“生きている か否か”を判定する心臓機能と呼吸機能の情 報が記録でき,家族,介護者および医師へ知 らせることができる.特に,医師は,心音図 のⅠ音やⅡ音の振幅変化,心拍リズムの異常 (不整脈),心拍数の異常(頻脈,徐脈),呼吸 リズムや呼吸数の異常を早期に見出すことがで き,病気の悪化や孤独死を防ぐことができる. 4)通報スイッチによる前後2分間の心音図 記録 在宅介護或いは在宅治療中の高齢者が本シス テムを利用し,24 時間の生体情報記録時に心 臓の違和感を感じた場合,通報スイッチを押す ことで,その前後 2 分間,計 4 分間の心音図を 記録することができる.4 分間の時間は,正常
心拍数(70 回/分)の場合 280 心拍の心音図を 記録でき,解析に十分なデータとなる.スマー トフォンに表示した 3 心拍の心音図(図 9 )の SN 比はよく,Ⅰ音とⅡ音を十分弁別できる時 間分解能がある.Ⅱ音−Ⅱ音インターバルは, 画面上でⅡ音−Ⅱ音間の長さと表示された1秒 の時間の長さとの比で求めると 861 ms となり, 瞬時心拍数が70回/分となった(図 9 ).大動脈 弁が開き心室ポンプ作用が継続した時間はⅠ 音−Ⅱ音間で求められ,276 ms となった.本 システムでの心音図記録は,医師による心音図 の解読分析で,高齢者の心臓ポンプ機能に異常 が有るか否かを診断し適切な救命処置を可能に する.
6.結 論
本研究では,心拍数,呼吸数,姿勢,行動お よび体動量の 24 時間連続記録と共に,高齢者 が日常生活下において心臓の違和感を感じた前 後 2 分間の心音図を記録するウェアラブルセン サを開発した.センサは,被験者の皮膚へ直接 装着することなく 1 個の 3 軸加速度センサを衣 服上に装着する小型装置であり,高齢者への肉 体的,精神的負担を軽減し,高齢者自身が簡単 に装着することができる.本研究では,ウェア ラブルセンサを伸縮ベルトに装着したが,伸縮 性のあるアンダーウェアに内蔵させることで, センサを意識させることなく身体状態や活動状 態の遠隔監視を可能にする.本システムの適用 対象として在宅医療や在宅介護を受けている患 者や高齢者は勿論,病院や介護施設を利用して いる患者や高齢者も考えられる. 文 献 1)内閣府. 平成20年版高齢社会白書. 2008, p. 2 - 7, p. 16-23. 2)内閣府. 世帯別に応じた高齢者の生活実態等に 関する意識調査結果. 2006, p. 25-34. 3)東京都監察医務院.“平成20年版統計表及び統 計図表”. http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/ka nsatsu/database/:2008.4)Mikio Aritomo.; Yoshiharu Yonezawa.; W.
Morton Caldwell. A Wrist-mounted Activity and Pulse Recording system. Proceedings of the 21th Annual International Conference of the IEEE EMBS. 1999, Vol. 2, p. 693.
5)Fumiteru Sakyou.; Yoshiharu Yonezawa.; Hiromichi Maki. et al. A wrist-mounted arteri-al pulse intervarteri-al and movement recording sys-tem. Proceedings of the 39th Annual Rocky Mountain Bioengineering Symposium & 39th International ISA Biomedical Sciences. 2003, Vol. 39, p. 183-186.
6)Loriga G.; Taccini N.; De Rossi D. et al. Textile Sensing Interfaces for Cardiopulmonary Signs Monitoring. Proceedings of 27th Annual International Conference of the IEEE EMBS. 2005, p. 7,349-7,352.
7)Ishida R.; Yonezawa Y.; Maki H. et al. A Wearable, Mobile Phone-Based Respiration Monitoring System for Sleep Apnea Syndrome Detection. Proceedings of the 41th Annual Rocky Mountain Bioengineering Symposium & 41th International ISA Biomedical Sciences. 2005, Vol. 41, p. 289-293. 8)槇 弘倫, 米沢良治, 松岡伸吾ほか. 高齢者日常
生 活 活 動 記 録 シ ス テ ム . 医 科 器 械 学 . 2003, Vol. 73, No. 11, p. 669-676.
9)M. Pacelli.; G. Loriga.; N. Taccini. et al. Sensing Fabrics for Monitoring Physiological and Biomechanical Variables. E-textile solutions. Proceedings of the 3rd IEEE EMBS Inter-national Summer School and Symposium on Medical Devices and Biosensors. 2006, p. 1-4. 10)Paolo Castiglioni.; Andrea Faini.; Gianfranco
Parati.; Di Rienzo. Wearable Seismocardiogra-phy. Proceedings of the 29th Annual Inter-national Conference of the IEEE EMBS. 2007, p. 3,954-3,957.
11) Hidekuni Ogawa.; Yoshiharu Yonezawa.; Hiromichi Maki. et al. A Remote Access ECG Monitoring System. Proceedings of the 46th Annual Rocky Mountain Bioengineering Symposium & 46th International ISA Biomedi-cal Sciences. 2009, Vol. 45, p. 430-435.