研究開発を促進する組織構造 : 知的創造の能力に よる競争優位と「場」の形成
著者 白石 弘幸
雑誌名 金沢大学経済学部論集
巻 27
号 1
ページ 171‑231
発行年 2007‑01‑10
URL http://hdl.handle.net/2297/6259
研究開発を促進 す る組織構造
‑ 知 的創 造 の能力 に よ る競 争 優 位 と 「 場」 の形 成
白 石 弘 幸
は じめに
企業におけるあらゆる業務の根底 には,それを遂行す るための知識がある。
業務の効率性を規定 しているのは,そのような知識の内容や質である。
このような経営基盤ないし経営資産 としての知識の重要性 に多 くの企業が 気づいたとき,企業間競争は知識をめ ぐるものとなり,また経済活動ではヒト, モノ,カネよりも知識が重視されるようになる。 このことを比較的早 い段階で 認識 していたのは ドラッカーであった。 すなわち, ドラ ッカー ( 1 9 9 3 ) は, 資本 主 義 社 会 の後 に この よ うな知 識 社 会 が到 来 す る こ とを 指 摘 した
(Dmcker, 1 9 9 3 , 7 ‑ 8 ;邦訳, 3 ト3 2 ) 0
フオス ( 2 0 0 5 ) によれば,この変化 は既 に進行 してお り現代経済 は知識が 本質的に重要な経済,知識ベースの経済 にな りつつある。そ して,社会ない し経済が知識中心 に動 く今 日,企業経営 における知識の創造 と活用 に関す る 研究 およびその実践 の必要性が高 ま っているとい う
(一oss, 2 0 0 5 , 1 ‑ 2 ) 。実 際,知識経済の出現 を受 けて,経済産業省 ・知的財産政策室 は持続的成長 を 実現す るための 「 知的資産経営」 というコンセプ トを打 ち出 し, 日本企業へ の浸透を図 っている。
資本ベースの企業 は資本ない し資源 に収益性を厳 しく規定 され,外部環境 の変化に翻弄 されていた。知識 に重点を置いて経営を行 うことによ り,資源 や環境の制約は絶対的ではな くな り,企業は自律性を高め うる。 そ して知識 ベースの経済では,企業間競争 は知識 に関す る組織能力を土台 に行われ る。
すなわち,知識 に関す る優れた組織能力を持つ企業 は,資源や環境の制約 を
克服 して,競争優位形成 につなが る知的アウ トプ ッ トを研究開発活動等 によ り有効 に創造す ることができる。知識 ベース競争時代が到来 した今, この組 織能力 に関す る研究が行 われなければな らない。
特 に, 日本 は少子高齢化社会 を迎 え,企業はます ます人員 を増やす ことが 難 しくな る。換言すれば,人員 に関 して企業の組織 は量的拡大を今後望めな い。 そのため, 日本企業 は存続す るために,現在の組織 あるいはよ りス リム 化 した組織 で競争優位性 を維持 ・向上 させ る必要がある。 さらに, そのため には 日本企業 は組織的な能力 を高 めなければな らない。 しか し組織能力の高 さが競争優位性 に結 びつ くことは推測で きて も,両者 にはかな りの距離があ るので, 間にある媒介要因 と因果関係が明 らかにされなければな らない。本 研究 は, このような企業の組織能力 と競争優位の間 にある媒介要因 と因果関 係 を解 き明かそ うとい うものである。
本研究 は,組織能力が企業 の競争優位 の形成 に機能す る際の媒介要因 と要 因間の因果関係を抽象化 したプロセスモデルをあ らか じめ明 らかにす る。端 的に述べ るな らば, これは次 のよ うに示 される。
組織能力 ‑ 知的創造活動 ‑ 知的アウ トプ ッ ト ‑ 競争優位性 研究戦 略 と しては,事例分析 を主 に,二次分析
(secondaryAn
alysis)杏 従 に,両者 を併用す る。すなわ ち前掲 のプロセスモデルの うち,表層部分の 因果関係 ( 知的アウ トプ ッ ト‑競争優位性)につ いては,統計的な手法 によ り公開データを分析 し, この因果関係 の強度につ いて検証す る。深層部分の 因果関係 ( 組織能力‑知的創造活動‑知 的アウ トプ ッ ト) については,企業 数社 に対す る事例分析 によ り研究 し, その実態 と本質を明 らかにす る。事例 分析 はイ ンタ ビュー と研究開発拠点の見学を中心 に進 める
。これ らの分析を 行 った後,前掲 プロセスモデルの妥 当性 を検討す る。
1
.先行研究の レビュー
(1)‑ 競争優位性 とその規定因
(1) 競争優位性
競争優位 とい うのは相対的な概念 であ り,何かに関 してある企業が他社 よ りも優れているとい う状態を さす。 その 「 何か」 とは何であろうか。言 い換
‑172‑
研究開発を促進する組織構造 (白石)
えれば,企業 は何をめ ぐって競争す るのであろうか。
企業は収益が得 られないと,やがて組織体 としての死すなわち倒産を迎 え る。 この意味で,収益の獲得は企業の究極的な 目標の一つ といえ る。ただ し, 収益の絶対額が大 きいか らとい って,効率的な事業経営が行われているとは 限 らない。規模の大きい企業が小企業 よ りも収益の絶対額が大 きいか らといっ て,前者が後者 よ りも合理的な事業経営を行 っているとは必ず しも限 らない のである。
つま り,ある資本や資産でどれだけ利益をあげ られるのかが重要であ り, これが経営の効率性 を表す。収益 の絶対額が小 さ くとも資本や資産 あた りの 収益性が高 ければその企業は効率的な経営がな されていると見なせ る し,売 上額 は大 き くとも利益率が低ければ, 当該企業の存続 は危 うくな る。事業規 模 は大き くとも,収益性がマイナスになれば, その企業の経営 は安定 してい るとはいえな
い。 この ことを考 え ると,「 収益」 もさることなが ら,組織体 としての企業の存続性を規定す る要因 として重要 なのはむ しろ 「 収益性」 と い うことにな る。 いわゆる財務分析 において,売上高利益率,ROA ( 総資 産利益率),ROE (自己資本利益率) とい った指標が重視 され るのはこのた めである。
'Y'1しか も, この収益性 は他社の事業行為 に強 い影響を受 ける。すなわち,企 業は存続 と成長を図 るために,環境 の一部 を 自社の生存領域 いわゆる ドメイ ンとし,そ こにおいて何 らかのポジシ ョンを占める。 しか し当該 ドメイ ン内 に他の企業が存在すれば,強弱や形態の差 はあれ,不可避的にその企業 との 間に競争が発生す る。前述 したように,企業の存続性を規定す る要因 として 特 に重要なのは収益性であるが, 当該他企業が魅力的な商品を市場 に投入 し て自社の顧客を奪えば, 自社の収益性 は低下す る。つま り自社 の収益性 は, 他社の事業行為 に大 きな影響を受 ける し,企業間の相対的な収益性 は,「 競 合他社以上の持続的競争優位性 を確立で きる能力をどの程度持 ち合わせてい るかで決まる 」 ( d e K l u ye r
良Pe a r c eⅡ , 2 0 0 3 ,邦訳, 9 4 ) 0
このことを考え ると,企業は存続 し成長す るために他社 との競争関係 にお
いて持続的優位を形成 しなければな らない し, また企業間競争 の最 も重要 な
側面 は収益性をめ ぐる競争であ り, そ こでは同業他社 よ りも利益率が高 く維
持 されていなければならない
(Ghemawat, 2 0 0 1 , 4 9 ;邦訳, 7 8 ,および
Besa止O, Dranove,
Shanley,
&Schaefer, 2 0 0 4 , 3 5 8 ‑ 3 6 0 ) 。逆 に言えば,「 長期間にわたっ て産業 内 (あるいは戦略 グループ内) で優れた収益性 を確保 してきた企業 に は,競合他社 に対 して競争優位 がある 」
(Ghemawat,
op cit., 4 9 ;邦訳, 7 8 , ( ) 内の補足 はゲマワ ッ トによる) と見なせ る。
このように,企業間競争 は結局 は収益性をめ ぐる争 いと見 ることができる。
もちろん,一般的にはこの収益性 をめ ぐる競争 は同 じ業界 内の他企業 との間 で行 われ る。 したが って,競争優位 とい うのは, ある業界 内で収益性が相対 的に高 い こと,すなわち当該企業 の収益性が同業他社 のそれよ りも高 い状態 を意味す る。競争優位 の典型的な メル クマールは, 同業界の他企業 よ りも収 益性が高 い とい うことなのである。 ポーター ( 1 9 8 5 ) の ことばを借 りるな ら ば,「その業 界の平均収益性 とは関係 な く,ある会社 が他 の会社 よ りもずば 抜 けた収益性 を誇示 している 」
(Porter, 1 9 8 5 , 1 ‑ 2 ;邦訳, 4) とい うような 現象が競争優位である。 「 長期 にわた って平均以上 の業績 をあげ られ る土台
●●●●●●●
とな るのか,持続力のあ る競争優位である」 し,持続的競争優位を形成 して いる場合 には,「 業界構造 が思 わ しくな く,そのために業界 の平均収益率が そ こそ この ものであ って も,会社 はかな り高い収益率 を享受す ることができ る 」
(Porter,
opci1., l l;邦訳, 1 5 ‑1 6 ,強調はポーターによる) 0
端的 に言 えば, ベサ ンコ らが述 べて いるように, 「 企業 (あるいは多角化 企業 内の事業単位)が同 じ市場 内で競争 している競合他社の平均的な利益率
●●
よ りも高 い利益率 を得ているとき, その企業は当該市場 において競争優位が ある
」(Besanko,
Dranove,
Shanley,
&Schaefer,
opcit., 3 6 0 , ( ) 内の補足 および強調 はベサ ンコ他 による) と言 え るのである。
競争優位性 をマーケ ッ ト・シェアの大 きさで捉え る立場 もあるが,収益性 の高 い事業 は存続できるものの, シェアの大きい事業がそ うとは限 らない。
む しろ,「 大 きなマーケ ッ ト・シェアを確保 したにもかかわ らず失敗 に終わ っ た例 は多
い」(deKluyver&Pearce Ⅱ,
op cit
.,邦訳, 9 4 ) 。
鞍2( 2 ) ポ ジション
収益性 は企業の存続性 を規定す る最 も重要な要因であ り, また企業間競争
研究開発を促進する組織構造 (白石)
の一つの重要 な側面 は収益性をめ ぐる争 いであるか ら,企業 には高 い収益性 を確保す るための何 らかの源泉がなければな らない。先行研究 によれば, そ のような源泉 の一つ に地位すなわちポ ジシ ョンがある。 これは,企業が何 も せず ともその企業の収益性を長期 にわた り高 く ( 低 く) しっづけるというファ クター,収益性 に影響を与える 「 慣性」的な要因である。 このようなポジシ ョ ンには,大 き く分 けて当該企業が属す る業界 ( セグメ ン ト) と, 当該業界 内 における相対的地位がある。
実際,有利 なポジシ ョンにいるとい うことで,極端な場合 その ことだけで 高い収益性 を示 している企業 も現実経済 には存在す る。すなわち特 に優位性 を持つ機能 ・部 門がな く,資源や能力 な どの内的 ファクターに一つ と して強 みがない場合 で も,企業 は有利なポジシ ョンを押 さえているとい うことによ り,高収益性 を保つ ことができる
(Saloner,
Shepard,&
Podohy, 2 0 0 1 , 4 2 ;邦 釈, 5 3 ) 。そのようなポジションにある企業 は,「 寝ていて もうか るわけで は ない」 と反論す るか もしれないが, どんな企業で もそ こそ この利益 をあげ ら れ る 「もうか る」業界 というのはあ る し,また業界 内部 における企業 間の利 益率 の差 は当該業界 におけるポ ジシ ョンによ りある程度説明 され る ( 青 島 ・
加藤,2 0 0 3
,7 7 ‑ 8 1 )
.鞍3このように, ポジシ ョンは当該企業 の収益性 に大 きな影響 を持つ とされて いるが, このポジシ ョンには前述 したよ うに,業界 ( セグメ ン ト) その もの と,当該業界内の相対的地位がある。競争優位性 とい うのは,前節で述べた ように, ある業界内で収益性が相対的 に高 い こと,すなわち当該企業 の収益 性が同業他社 のそれよ りも高い状態 を意味す るか ら,競争優位性 との関係 で 重要なポ ジシ ョンは後者 である。
もちろんポ ジシ ョンには収益性 を低 め るもの もあるので,企業 は収益性 が 高まるようなポジシ ョンの占有,言 い換 えればポ ジシ ョン優位 の構築 をめ ざ す必要がある。 したが って特 に後者 の観点で, 「ユニー クで価値 のあ るポ ジ ションを築 くこと 」
(porter, 1 9 9 6 , 6 8 ) が競争戦略の 目標 とな る。 た とえば, これを達成す るための具体的戦略 には,差別化, コス ト・リーダー シ ップ, フォーカスがある
(porter, 1 9 8 5 , l l;邦訳, 1 6 ) 。
前者 す な わ ちセ グ メ ン トが企 業 の収 益 性 に与 え る影 響 は, ポ ー ター
( 1 9 8 0 ) によれば次 の五つの フ ァクター,すなわ ち新規参入 の脅威,代替製 品の脅威,顧客の交渉力,供給業者 の交渉力,競争業者間の敵対関係 によっ て決 まる
(porter, 1 9 8 0 , 4 ‑ 2 8 ;邦訳, 1 8 ‑ 4 8 ) 。 た とえば一時期, ソフ トウェ ア業界の企業 は総 じて収益性 が高 か ったが, これは このような五要因によっ て決 ま るソフ ト業界 の産業魅力度
(attractivenessoftheindust r y) が高か っ たか らである
(deKlu叩er皮Pearce Ⅱ, 2 0 0 3 ,邦訳, 9 4 ) 0
収益性 にプラスに働 くセ グメ ン ト効果 は,サ ローナー らによれば 「 魅力 あ る業界構造か ら生 じるポ ジシ ョン優位 」
(saloner,
eta1 . ,
op cit., 4 3 ;邦訳, 5 5 ) と言 い換 え られ る。彼 らによれば, ある業界 に属す るすべての企業が当 該業界 の構造的特性か らベネ フィッ トを得ている場合が これにあたる。た と えば業界 内の企業数 が少 ない とい うことそれ自体が,収益性 を高める条件 と な る場合 がある。すなわち独 占市場 や複 占市場 における企業の収益性は多数 の企業 が競合す る市場 におけるそれ よ りも概 してよ く,そのような市場 にい るとい うその地位が高収益性の維持 に働 く。「 世界の大型民間航空機 メーカー, エアバ スとボーイ ングを考 えれば,両社 ともそのポ ジションの恩恵を受 けて いるのは明 らかである 」
(Saloner,
eta1 . ,
opci1., 4 4 ;邦訳, 5 5 ) 。
一方,セグメン ト内におけるポ ジシ ョン優位には,次のような ものがある。
すなわち,最初 にあるビジネスを始 めた先発者の収益性 は長期 にわた り高 い と一般 的 に言 われているが, これ は典型的なセグメ ン ト内のポジシ ョン優位 で あ る。実 際, このポ ジシ ョン優位, いわゆる 「先発者優位 」
(血st‑entrant advantage)の存在 は, 多 くの研 究 によ って指摘 されている。 た とえば ロ ビンソ ン‑ フ ォーネル ( 1 9 8 5 ) は,PI
MS (ProfitImpactofMarketStrategies)研 究 の デ ー タを用 いて多変 量 解 析 を行 い, 先発者 優位 の存在 を実証 した
(Robinson&Fomel
l , 1 9 8 5 , 3 0 9 ‑ 31 2 ) . また,ベサ ンコら ( 2 0 0 4 ) によれば, 先発者 とい う地位 は学習曲線,評判や安心感 とい った心理 的要因,買い手の
スイ ッチ ング ・コス トな どによ り,かな りの程度持続的に高利益率維持 に寄 与す るために, ポ ジシ ョン優位 とな るという
(Besanko,
Dranove,
Shanley,
&schaefer,
2 0 0 4
,4 3 8 ‑ 4 41 )
.#4このほか に, サ ローナ‑ らはセ グメ ン ト内のポ ジシ ョン優位,企業 に高 い
収益性 を もた らす業界内のポ ジシ ョンの具体例 と して,政府の許認可企業,
研究開発を促進す る組織構造 (白石)
一市場で一企業 しか存続できないような業界 における市場立地等をあげてい る。 より具体的には,競争が政府 の規制下で行われている業界では,政府の 保護や支援,助成を得 ることがポ ジシ ョン優位 につなが る
(Saloner,
eta1 . ,
opci1., 4 4 ‑ 4 5 ;邦訳, 5 6 ) 。政府 によ り新規参入が規制 されている業界では, 政府か ら許認可や免許を得 ることでポジシ ョン優位が もた らされ るのである。
また,一市場 に一企業 しか成立 しえない構造 を持つ業界では,地理 的立地が 優位性の源泉 とな りうる。たとえば,一般的にアメリカのディスカウントス ト ア業界では,地方の同 じ町村内で存続で善るのは 1 店舗だけである。 このよう な業界で地方町村 にチ ェーン展開 しているウォルマー トは,立地 によるポジ ション優位を有 していると言える
(Saloner,
eta1 . ,
opcit., 4 5 ;邦訳, 5 7 ) .
尚,ポジション ( セグメント)効果に関する代表的な実証研究には,マガー ン‑ポーター ( 1 9 9 7 ) がある。二人 は,所属す る産業 ・業界,多角化企業‑
の帰属に焦点を当てて事業の収益性 に対す るポジション効果を測定 している。
主 として取 りあげ られている独立変数 は,年度,所属産業,所属企業,業界 特性で,従属変数 は事業の利益率である。分析 の対象 とされた期間は 1 9 8 2 年 か ら 1 9 9 4 年,サ ンプルは農業 ・鉱業,製造業,運輸業,卸売 ・小売業,宿泊 ・ 娯楽業,サー ビス業 に属する事業で,サ ンプル数 は合計 5 8 , 1 3 2 事業であった。
データは主 として
Compustatデータベースか ら入手 された
(McGahan&Porter, 1 9 9 7
,2 1 ) 0
結果 として,利益率 の分散
(variance)の うち,年度が 2 . 3 9 % , 所属産業 が 1 8 . 6 8 % ,所属企業 ( 多角化企業へ の所属) が 4 . 3 3 % ,業界特性 が 3 1 . 7 1 % を説明す ることがわか った。年度 を除 く 3 変数 の分散合計か ら産業効果 と所 属企業効果の共分散 5 . 5 1 % を 引 いた 4 9 . 2 1 % がポジション効果, 4 変数の分散 合計か ら同共分散 を 引 いた 5
1. 6 0 % がモデルの説 明力 とな る。 ただ し,利益 率 に対す るポジション効果には産業毎 に相違があ り,農業 ・鉱業,製造業 よ りも,運輸業,卸売 ・小売業,宿泊 ・娯楽業,サー ビス業 においてその効果 が大 きいことが判明 した
(McGahan&Porter,
op cit.,
24).
(3)
資 源
一方, いわゆる資源ベースビュー ( 資源 アプローチ)の立場 を とる研究者
たちは,競争優位の源泉 としてある種の資源を重視す る。 ただ し,そこでは 企業の競争優位構築 に関す る資源 の重要性が指摘 されているものの,すべて の資源が競争優位形成 に貢献す ると考え られているわけではない。
ホール ( 1 9 9 2 ) は,資源 を資産
(assets)と技能 (skill)に分 けて考えた。前者 は組織や個人 によ り所有 され る有形物および無形物,後者 は個人 に体化 された技術 と能力をさす。彼 によれば,資源の戦略性 は企業 としての能力を どれだけ差別化す るか,すなわち企業 に能力差別性
(capabilitydifferentials)を もた らす程度 に規定 され る。 そ して資産 と技能 は,企業 にもた らす能力差 別性 のタイプは異なるものの,両方 とも企業の持続的競争優位 に貢献 しうる
(Hall,1 9 9 2 ,1 3 6 ) 0
グラ ン ト ( 1 9 9 1 ) の立場では,競争優位の持続性 は,資源 と能力の耐久性
(durability),他企業 か ら見 たそれ らの透 明性
(transparency),移転可能性
(transferability), 複製可能性
(replicabilit y) に依存 す る
(Grant, 1 9 9 1 , 1 2 4
‑1 2 7 ) 。 これは比較的初期 における資源 アプローチ研究者の代表的立場である と言 ってよい。ただ し,近年 はこれ らに加え,資源 の戦略的価値を規定す る 要因 として,模倣困難性 あるいは代替不可能性を重視す る研究者が多い。
'X'5た とえば,そのような近年の研究者の考え方は, 中橋 ( 2 0 0 1 ) に見て取れ る。すなわち彼 によれば,持続的競争優位の源泉 となる経営資源の属性 は次 の五つ,事業の土台 として他社 よ りも優れてお り自社 に高利益率を もた らす
「 有価値性」,市場を通 じて簡単 には入手できず他社が 自ら創 りだすの も難 し い 「 模倣困難性」,時間の経過 につれて 自然に減耗 しに くい 「 耐久性」,帰属 が個人 ではな く組織 にあるとい う 「 専有可能性」,別の資源 を用 いて同様の 商品を創 ることが難 しい 「 非代替可能性」 に整理 され るという ( 中橋, 2 0 01 , 1 5 ) 0
中橋 ( 前掲書)によれば, このような五つの属性を持つ資源 として,土地 ・ 生産設備等のモノ,員数で捉えた ヒ ト,資金つま りカネ等の有形資源 よ りも, 営葉力,技術力,研究開発力,経営管理能力,熟練技術者の技能,生産のノ ウハ ウ, 自社のブラン ド,知名度等の無形資源の方がより重要であることは, 比較的古 くよ り認識 されていた。資源ベースビューの重要な研究成果の一つ は, さ らに戦略的資源を追究 した結果,資源と能力を区別 し,持続的な競争
‑178‑
研究開発を促進す る組織構造 (白石)
優位の源泉 として 「 組織能力」,‑メルニブラ‑ ラー ドが言 うところのコア ・ コンピタンスを識別 した ところにある ( 中橋,前掲書,
16)0
バーニー ( 2 0 0 2 ) は,中橋 ( 前掲書) に見 られ る近年の資源 アプローチ研 究の立場を基本的には踏襲 しなが らも,持続的競争優位 に対す る資源の貢献 という観点で,資源の模倣 コス ト ( 模倣困難性)の高 さを特 に重視 している。
彼によれば,事業への利用価値があ り,かつ希少な経営資源 は,その企業 に 競争優位を もた らす。 ただ し,その模倣 コス トが低 いな らば, 当該資源 によ る競争優位は一時的に しか成 り立たない。つ ま り競争優位を持続的にす るの は,資源の模倣 コス トの大 きさなのである。
この点 について, バーニー ( 2 0 0 2 ) は次 の ように述べている。 「時間の経 過 とともに,競合企業が競争に必要な経営資源 を模倣す るにつれ,先行企業 が得たいかな る競争優位 も雲散霧消 して しま う。 (中略) もしも, その経営 資源かケイパ ビリテ ィが,価値があ り,希少性があ り, さらに模倣 コス トも 大 きい場合, これ らを用いることは持続的競争優位 と標準を上回 る経済的パ フォーマ ンスを生 み出す 」
(Bamey, 2 0 0 2 , 1 7 3 ‑ 1 7 4 ;邦訳上巻, 2 7 3 ) 。 した が って企業 に とって強 み とな り, 持続可能 で固有 な能力基盤
(sustainable distinctivecompetencies)とは,価値があ り, かつ希少性があ り, さらに模倣
コス トも大 きい経営資源,ケイパ ビリティなのである
(Bamey,
op cit, 1 7 4;
邦訳上巻, 2 7 3 ‑ 2 7 4 ) 。
先 に紹介 した中橋 ( 2 0 0 1 ) が指摘 していたように,無形資源 に比べて物的 資源等の有形資源 は,戦略的資源 とはな りに くいとこれまで考え られてきた が,その理 由はこのような模倣 コス トが小 さいことによる。小川 ( 2 0 0 3 ) の ことばを借 りるな らば,「 優れた高性能 な設備 のような物的資源 は,資金調 達能力 さえあれば同様な ものを購入 した り,製作す ることができる
。このた め,単純 に高性能な設備を保有 しているだけでは,競争優位な能力を保有す ることにはな らない」 ( 小川, 2 0 0 3 , 1 5 ) のである。一方,「その設備を活用 して熟練技能者が高精度な製品や,機械技術だけでは不可能な加工を実現 し, 他社では模倣できない加工能力が顧客 に評価 されれば,優位な競争力を持っ ことができる 」 ( 小川,前掲書, 1 5 ) 。
ただ し,そのような加工能力 ( 無形資源) を持 った人材が外部か ら簡単 に
スカウ トできるな らば, その よ うな技能 も持続的競争優位 の形成には機能 し ない ( 遠 山, 2 0 0 3 , 2 6 ) 。要す るに,有形資源 よ りも無形資源の方が一般 的 には持続的競争優位への貢献 が大 き く, そうい う意味で戦略的価値が高 い も のの,無形資源だか らとい って戦略的資源であるとは必ず しも言えない。 む
しろ資源 の戦略性 は,稀少性,模倣困難性や代替不可能性 に規定 され るとい うのか,資源ベース ビューの立場 なのである。
(4)
組織能力
前節で述べたように,資源ベース ビューの重要な研究成果の一つ は,資源 と能力 を区別 し,持続 的競争優位 の源泉 として 「 組織能力」,ハメル‑プラ ハ ラー ドの言 うコア ・コンピタ ンスを識別 した ところにある ( 中橋,前掲書,
1 6 ) 。 ただ し,持続 的競争優位 の源泉 と して組織能力 が極 めて重要であるこ とは, それ以前 に, ワイズマ ン ( 1 9 8 8 ) によって指摘 されていた。
ワイズマ ンによれば,企業 の競争優位 は当該企業が有す る能力によって も た らされ る。すなわち彼 によれば, 「 『A において, Ⅹ は Y に対 して競争優位
にあ る
』(Aは競争 の舞台,
Ⅹと
Yは競争者) とい う表現 の意味は,
Ⅹは
Yにない能力 もしくは能力 の組合せを保有 してお り, その能力 もしくは能力の 組合せのおかげで,
Ⅹは
Aにおける戦闘を支配す ることができるということ であ る 」
(Wiseman, 1 9 8 8 , 1 0 9 ;邦訳, 1 0 1 , ( ) 内の補足 はワイズマ ンに よる)。
前述 したように,企業 は 自己の存続 と成長を図るために収益性をめ ぐって 他社 と競争す る。 そのよ うな収益性 をめ ぐる競争 において,企業は持続的優 位を構築 しなければな らない。 そ して企業 には,持続 的競争優位を構築す る ための何 らかの土台がなければな らない。 そのような土台 と して極 めて重要 なのは当該企業が有す る 「 能力」 だ とい うのが, ワイズマ ンの見解である。
しか し,彼 の研究では能力 その ものに関す る詳細な考察 は行われていない。
エイベル ( 1 9 9 3 ) によれば,資源 は 「 顧客満足活動 のために活用可能なな
ん らかの手段」で資金や物理 的有形物,その他の形態を とるのに対 し, コン
ピタ ンスは人 間を離 れて は存在 しない 「実行能力 ない しノウハ ウ」 であ る
(Abell , 1 9 9 3 , 1 1 7 ‑ 1 1 8 ;邦訳, 1 4 3 ‑ 1 4 4 ) 。 コンピタ ンスは人間に付随 してい
研究開発を促進す る組織構造 (白石)
るか ら,従業員が退職す るとその人の コンピタ ンスは企業か ら離れ る。 ただ し,個 々のメ ンバーに独立 して存在す るコンピタ ンス以外 に,企業 には複数 のメ ンバーにまたが って存在す る組織的な コ ンピタ ンス,企業 としての能力
もある。
エイベルによれば, コンピタ ンスは実行能力やスキル等 によって多元 的 に 構成 されている。 た とえば,「 数学 に関 して素 晴 らしい能力 を持つ個人 がそ の能力を発揮す るとき, さまざまな才能, スキル,以前の経験 を動員 してい
●●
る。企業の能力 とい うのは,一般 に実行能力 と特定のスキル と経験 との集合
●
体である 」
(Abell ,
opcit., 1 1 8 ;邦訳, 1 4 4 ,強調 はエイベルによる)0 そ してエイベルは,企業 としての能力 の独 自性 と中核性 について言及 して いる。彼 によれば,「 独 自能力
(distinctivecompetence)は当該企業 を競争相手か ら区別す るよ うな能力のことである。独 自能力 は特定の組織 に固有 の も のである。 中核能力
(corecompetence)は企業 の成功 の鍵 となる能力 の こと である 」
(Abell ,
op cit., 1 1 8; 邦訳, 1 4 4 ) 。
ハ メル‑プラハ ラー ド ( 1 9 9 4 ) の立場 では, コア ・コンピタ ンス (中核能 力) に独 自性 の概念が含 まれている。すなわち彼 らによれば, コア ・コンピ タ ンスは顧客 に高 い付加価値を提供 し,独 自性が強 く,新製品市場への参入 の基礎を形づ くる ものでなければな らない
(Hamel&
Prahalad, 1 9 9 4 , 2 0 4 ‑ 2 0 6 ;邦訳, 2 6 0 ‑ 2 6 4 ) 0
前節で取 り上 げたホール ( 1 9 9 2 ) ,先 に取 り上 げたエイベル ( 1 9 9 3 ) の研 究 においては,資源 と能力が区別 されつつ も, この二つが どのような関係 に あるのかは必ず しも明示的ではない。両方 の研究 とも,資源 ( 資産) と異 な る概念 として個 々人 の持つ能力 ( 技能) を示 している し, さらに企業 には こ れを超える企業 と しての能力,組織能力があ ると している。 しか し資源 と能 力がいかなる関係 にあるのかは,明確 には語 られていない。
この関係に比較的早期 にはっき り言及 したのは, グラン ト ( 1 9 91 ) である。
すなわち彼 は,「 企業の組織能力 とは,資源 を総体 と して動 かす能力であ る」
(Grant
, 1 9 91 , 1 2 0 ) としている。 ここでは, 資源 を活用す るのが能力 ( 特 に 組織能力) とい う位置
づけがな されているのである。
削小川 ( 2 0 0 3 ) はバーニー ( 2 0 0 2 ) の分類概念 に依拠 して資源 を区分 して い
るが,ケイパ ビリテ ィ ( 能力) については特別な位置づ けを している。具体 的 には,「さまざまな資源 を相互 に結 びつ けて,製品やサー ビスを有効 に産 出 してい く力が実行力であるケイパ ビリティである 」 ( 小川, 2 0 0 3 , 1 4 ‑ 1 5 )
とい う。言 い換 えれば, ケイパ ビリテ ィは資源 に包摂 され るのではな く,
「 事業概念 と業務 プロセス,組織 そ して資源 とを結 びつ けるものであ り, ビ ジネス ・システムの根幹 とな っている 」 ( 小川,前掲書, 1 5 ) とい うのが, 彼の見方である
。端的に言 えば, ここでは資源 とケイパ ビリティは明確 に区 別 され,前者 を結合 して有効 にアウ トプ ットを生み出す ものが後者であると 定義 されている。 これは,先 に紹介 したグラン ト ( 1 9 9 1 ) の立場に近 い。
そ して,ケイパ ビリテ ィはこのように製品やサー ビスを有効 に産出す る組 織 の能力一般 という含意 を有す るのに対 し, コア ・コンピタ ンスは特 に技術 的な能力をさす とい う。具体的 には,「‑ メルやプラハ ラ ッ ドのい うコア ・ コンピタ ンス
(corecompetence)は,製品やサー ビスを創出す る技術的な能 力を指 している。 このため,それはケイパ ビリテ ィに含 まれた概念 といえる」
( 小川,前掲書, 1 5 ) としている。
前述 したように,企業間競争 は収益性をめ ぐって行 われ,競争優位 は高い 収益性 に現れ る。 このため,企業の組織能力は一般的には 「 収益力」 と同一 視 されがちである。
しか し藤本 ( 2 0 0 3 ) によれば,収益力は企業が有す る能力の うち表層的な 部分 に過 ぎないという。彼 によると,企業の能力は,深 く掘 り下げてい くと 収益力,表の競争力,裏の競争力,組織能力 というように重層的にな ってい る。 ここで競争力 とは,「 既存の顧客 ( すでに買 った人) を満足 させ,かつ 潜在的な顧客 (まだ買 っていない人)を購買へ と誘引す る力のことである」
( 藤本, 2 0 0 3 , 3 4 , ( ) 内の補足 は藤本 による) 。 た とえば, メーカーの場 令,価格や納期,製品内容の訴求 に関す る表層の競争力が,収益性の差を も た らす。そ ういう意味で,表層の競争力は収益力を規定す るのである。一方, このような表層の競争力 は生産性,生産 リー ドタイム,品質,開発 リー ドタ イムに関す る深層の競争力 に大 き く影響 される。 さらにこの土台には,その 企業が有す る組織能力がある。
すなわち,企業の能力の最 も根底 にあるのは組織能力で,藤本 ( 前掲書)
研究開発を促進す る組織構造 (白石)
によればこれは 「 ( 丑ある経済主体 が持つ経営資源 ・知識 ・組織 ルーチ ンな ど の体系であ り,② その企業独特 の ものであ り,③他者 がそ う簡単 には真似で きない ( 優位性が長 もちする) ものであ り,④結果 としてその組織の競争力 ・ 生存能力を高 めるもの, と定義 で きる 」 ( 藤本,前掲書, 2 8 , ( ) 内の補足
は藤本 による) .
K'7これまで,企業間競争 は ドメイ ンを設定 した うえで, ポ ジシ ョン,収益 に 影響 を及ぼすその他の競争上の関係 をめ ぐって争 われ る ものであると考え ら れて 喜た し,現象的には確かにそのよ うにな っている
。しか しなが ら, ‑ メル‑プラハ ラー ド ( 1 9 9 4 ) によれば, 「企業間の競争 は市場でのポ ジシ ョンや関係をめ ぐる争 いであると同様 に,企業力の習得 を め ぐる競争 で もあ る 」 ( Ha me l
&Pr a h a l a d , 1 9 9 4 , 2 0 3 ;邦訳, 2 5 9 ) 。 しか も この企業力 は,表層の収益力だ けに限定 されない。企業間競争 は,深層 にあ る組織能力,た とえば知識を創造 し,活用す る能力をめ ぐって も争 われ るの であ る。換言すれ ば,「 価格競争 の よ うな,顧客 に見え る表層 レベルの競争 の水面下では, このように,相手 よ りも早 く, よ り高 い組織能力 を構築 し, それが もた らす 『深層の競争力』 で ライバルに優 ろうとす る競争 が営 々と展 開 されている 」 ( 藤本, 2 0 0 3 , 4 2 ) 。 また, そのよ うな視点がない企業, 「終 わ りなき能力構築」 の重要性を認識 していない企業が長期的 に存続 し成長す ることは難 しい ( 藤本, 2 0 0 4 , 3 0 0 ‑ 3 0 1 ) 0
2. 先行研究のレビュー ( 2 ) ‑ 知識ベースビューと組織的知識創造理論
(1) 知識ベース ビュー
野 中 ・竹 内 ( 1 9 9 5 ) によれば, イノベー シ ョンを生 み出す組織 は,単 に既 存の問題を解決 し,環境の変化 に適応す るために外部か らの情報 を処理す る だけでな く,組織 内部か ら新 しい知識 を創 出 している ( No n a k a & Ta k e u c h i ,
1 9 9 5 , 5 6 ;邦訳, 8 3 ) 0
そ して,豊かな知識を創造 し, これを活用す る能力を企業が保有 していれ ば, 当該企業 は環境や資源の制約 を克服 し,場合 によって これを成長の機会 とす ることさえで きる。 その よ うに考 え る と, 制 限つ き合理性 ( b o u n d e d
‑183‑
rationali
t y) の克服 や資源蓄積 よ りも, 知識,特 に移転 や模倣 の難 しい暗黙 知の取得能力 を高めることが企業 にとって本質的課題であると見 ることもで
きる
(Nelson良Winter,1 9 8 2
,7 3 ) 0
知識の創造 と活用 に優れた企業 は,環境変化に翻弄 されるのではな く,む しろ環境 に大 きな影響 を及ぼす。野 中 ( 2 0 0 5 ) の ことばを借 りれば,「 絶え 間ない知識 の集積 と活用 によ り,企業 は ビジョン,対話,実践を再定義でき るようにな り,そ して今度 は企業が新 しく創造 した, あるいは改善 したサー ビスや製品によって環境 に影響 を与 え る 」
(Nonaka, 2 0 0 5 , 3 8 2 ) のである
。経営基盤 ない し経営資産 としての このような知識の重要性 に多 くの企業が 気づいた とき,企業間競争 は知識 をめ ぐるものとな り,企業 にとって知識 に 関す る能力 を向上 させ ることが本質 的に重要 となる。 また,知識の重要性が 社会的に広 く認識 されるようになれば, あ らゆる経済活動で ヒ ト,モノ,カネ よりも知識が重視 されるようになる。 このような変化が起 こることを比較的早 期に予見 していたのは ドラッカーであった.すなわち, ドラッカー ( 1 9 9 3 ) は,
資本主義 はいずれ劣化 し, ポス ト資本主義社会 として このような知識社会が 成立す ることを指摘 した
(Dmcker, 1 9 9 3 , 7 ‑ 8 ;邦訳, 3 1 ‑ 3 2 ) 0
彼 によれば, ポス ト資本主義社会すなわち知識社会では,「基本的な経営 資源,すなわち経済用語で言 うところの 『 生産手段』 は, もはや資本で も, 天然資源 ( 経済学の 「 土地」)で も,『労働』で もない。 それは知識 となる」
(Drucker
,
op cit., 8 ;邦訳, 3 2 , ( ) 内の補足は ドラ ッカーによる). そ し て,生産活動 において資本 よ りも知識が重要 となるか ら, これを創造 し生産 へ活用す る能力を向上 させ ることが経営者,マネジャー,従業員 に求め られ るようになる。換言すれば, このような能力を持 った知識経営者,知識専門 家,知識従業員 の地位が上 が る。「知識 の生産的使用への配賦の方法を知 っ ているのは,知識経営者 であ り,知識専 門家であ り,知識従業員である」
(Drucker
,
op cit.,
8;邦訳, 3 2 ) ので,企業経営は彼 らを中心 に行 われ るよ うにな る。
同様の指摘 は, フオス ( 2 0 0 5 ) によって もなされている。彼 によれば,覗 代の経済 は知識が本質的に重要な経済,知識ベースの経済 にな りつつある。
そ して,社会ない し経済が知識 中心 に動 く今 日,企業経営 における知識をめ
研究開発を促進する組織構造 (白石)
ぐるプ ロセ スの研 究 とその成果 の実践 が急 務 とな って い る とい う
(戸oss, 2 0 0 5
,1 ‑ 2 )
.#8他方で,事業経営 に必要 な知識 は量的に年 々増大 し, かつ専門性 を増 して いる。 この傾向は今 に始 まった ことではな く,産業革命 を契機 に現れた現象 である。 しか し, 1 9 8 0 年代 より事業経営 に不可欠 な知識 は飛躍的に増大 した ( Mo 汀 O n i
,2 0 0 6
,5 1 ) 0
これには, いろいろな理 由があ る。第一 に,経済 の国際化 によ り国外 の潜 在的脅威,すなわち国際的な競争圧力が増大 し,企業 は高頻度で製品や工程 に関 してイノベー シ ョンを行わ ざるを得な くな った。 イ ノベー ションには, 知識が必要なので, この ことが企業 における知識 の必要度 を増大 させてい る ( Mo r r o n i ,
op cit
., 5 2 ) 。 第二 に, サー ビス業,特 にヘル スケア,教育等 を専 門 とす る事業分野が成長 している。 また既存産業 内で も,R&Dやマーケテ ィ
ングに従事す る人が増えている。 これ らの事業や業務 においては,他の事業 ・ 業務 に比べて,知識 の必要度が高 い。就業人 口上,必要 な知識 の多い事業 ・ 業務 に携わ る労働者 のウェイ トが増 しているために,企業や産業全体で見 て
も必要な知識が増大 している ( Mo
rr o n i ,
op cit., 5 2 ‑ 5 3 ) . 第三 に,先進 国で は標準大量生産品の比率が低下 し,製品の多様性,製 品差別化 の重要性, モ デルチ ェンジの頻度が増大 している。新製品開発 や製品差別化, モデルチ ェ ンジには知識が必要 なので, この ことが企業 における知識 の必要性 を高 めて いる ( Mo
rr o n i ,
opcit., 5 3 ) . 第 四に,新素材, 新 エ ネルギー,環境工学, 宇宙工学,情報技術 ( ネ ッ トワー クや通信)等 における技術革新が急速 にな っ ている。特 に,情報技術の活用 は どの産業で も重要 にな っているため, この 加 速 度 的 な発 展 が, 技 術 的, 専 門 的 な知 識 取 得 の必 要 性 を高 め て い る ( Mo
rr o n i
,opcit.,5 4 ) .
このほかに,複数 の技術で生産す るマルチテ クノロジー型製品が増え, か つそれぞれの技術 の進歩が急速 であるとい うことが,企業 に複数 の技術領域 に お け る知 識 の継 続 的 蓄 積 を 強 い て い る と い う指 摘 もあ る
(Bmsoni ,
prencipe,
皮 Pavitt , 2 0 0 1 , 5 9 7 ) 。 すべてを内製 しな いで,複数 の コンポーネ
ンツを組みあわせて このような製品を生産す るよ うな場合 で も,異分野 の知
識 を保有す るコンポーネ ンツ ・サプライヤーを コーデ ィネー トした り,異 な
る知識の固ま りであるコンポ‑ネ ンツを 自社工場 内で結合す るためには,多 方面の知識が必要 とな る。 このようなことか ら,事業活動 に必要な知識 は種 類 ・多様性 の点で も, 深 さ ・専門度の点で も増大 しているという
(Bmsoni,
eta1.,op cit.,5 9 7 ‑ 5 9 8 ) .
先 に紹介 した ドラ ッカーによれば,生産手段 として知識が資本よ りも重要 になるだけでな く,経済活動の分業 ・専門化,生産 の自動化 ・高度化が進 む につれて,知識 のなかで も一般的知識 ( 教養)ではな く専門知識が経済およ び企業内部で ウェイ トを増 してい く。 このような ことか ら,釆たるべ き知識 社会 は,「 専門化 された知識 と,専門家 たる知識人 を基礎 として構成 され る
ことになる 」
(Drucker,
op cit., 4 6 ‑ 4 7 ;邦訳, 9 5 ) 。
それでは,知識社会 において,組織 はどのような役割を果たすのだろうか。
ドラ ッカーによれば,知識社会では,「組織の機能 は,専門知識 に生産機能 を果た させ ることである 」
(Drucker,
op cit., 4 9 ;邦訳, 9 9 ) 。知識 のなかで も特 に専門知識が重要性 を増す一方,個 々の専門知識がば らば らに存在 して いて も, これが大 きな価値 を創出す ることはない。 したが って, これを連携 させて,総体 と して生産活動 に動員す る組織の機能が今後大切 となる。 この 点 について,彼 は次 のよ うに述べている。「 個 々の専門知識 は,それだけで は不毛である。統合 されては じめて生産的 となる。 そ してこれを可能 とす る ことが組織 の役割であ り,存在理 由であ り,機能である 」
(Drucker,
op cit., 5 0 ;邦訳, 1 0 0 ) 0
(2) SEClモデル
企業 にとって,保有知識 を増やすためには,組織 メ ンバー各人の知識を基 礎 に新たな知識 を創造す ることが重要 となる。つま り,知識 は他の知識 と出 会 い,相互作用す ることによ り,増幅 した り新たな知識を創発す る可能性を 秘 めている。 そ うい う意味では知識 は自己増殖的なのである。組織 はこのよ うな知識の 自己増殖 プロセスを活性化す ることで,価値ある知識を蓄積す る ことができる し, また問題解決や商品創造の能力を高めて変動す る環境 に対 応す るためには, そ うしなければな らない。
この点 に関 し, デ ィクソン ( 2 0 0 0 ) は次のように述べている。「 革新的な
研究開発を促進する組織構造 (白石)
アイデアの多 くは,一人の手で創造 され るわけではない。高い目標の達成 に は,複数 の人間の頭脳 とそこか ら生 じるアイデアの相互作用を必要 とす る」
(Dixon
, 2 0 0 0 , 1 5 7 ;邦訳, 2 3 2 ) 。 すなわち, 「組織 の知 は,異な ったタイプ の知識 ( 暗黙知 と形式知)そ して異な った内容の知識 を持 った個人が相互 に 作用 し合 うことによって創 られ る 」 ( 梅本 ・妹尾, 1 9 9 6 , 6 9 , ( )内の補足 は梅本 ・妹尾 による)。組織は単 な る情報 プロセ シングシステムではな く, 存続 し成長 している組織ではメ ンバー間のコ ミュニケー シ ョンと知的触発 を 通 じて組織的知識創造が活発 に行われているのである。
野 中 ・竹内 ( 1 9 9 5 ) ,野中 ( 1 9 9 6 ) ,野中 ・佐 々木 ( 1 9 9 6 ) は, このような 組織的知識創造を暗黙知 と形式知 の相互補完 ・循環 プロセスと捉え,その重 要性 を指摘 している。彼 らによると, この二つの知識 が個人 と組織の間でダ イナ ミックに循環すればす るほど,組織内で知識 は増幅す る。彼 ら自身の こ とばを引用す ると, このような 「ダイナ ミックな知識創造 モデルは,人間の 知識 が暗黙知 と形式知 の社会的相互作用を通 じて創造 され拡大 され る, とい うきわめて重要な前提 に基づいている 」
(Nonaka&
Takeuchi, 1 9 9 5 , 6 1 ;邦 釈, 9 0 ) 0
そ して, このような暗黙知 と形式知の相互補完 ・循環関係 は 「 知識変換」
(knowledgeconversion)
という概念で捉え ることがで き, これには四つの形 態が ある。第一 のモー ドは個人 の暗黙知か らグループの暗黙知 を創造す る
「 共 同化 」
(socialization),第二 のモー ドは暗黙知 か ら形式知 を創造す る 「表 出化 」
(extemalization),第三のモー ドは個別の形式知か ら体系的な形式知 を 創造す る 「 連結化 」
(combbation),第四のモー ドは形式知か ら暗黙知 を創造 す る 「内面化 」
(intemalization)である
。四つのモー ドは独立 に行 われ るの で はな く, スパ イ ラル に作用 し合 うことによ って知識 の増 幅 を もた らす
(Nonaka良 Takeuchi,op°it, 6 1 ‑ 7 3 ;邦訳, 9 ト1 0 9 ,および野 中, 1 9 9 6 , 7 7 ‑ 7 8 , および野中 ・佐 々木, 1 9 9 6 , 3 2 ) 0
よ り具体的には, 四つのモー ドは次 のように説明 され る.共 同化 は,経験 を共有す ることによってメンタル ・モデルや技能な どの暗黙知 をグループ全 体で獲得す るプロセスである
。言 い換えれば, ことばによ らず,観察,模倣, 練習 によって技能 を学ぶ プロセスで,典型的には
OJTが これに当た る。 表‑187‑
出化 は,暗黙知 を明確 な コンセプ トに表す プロセス,すなわち暗黙知が メタ ファー, アナ ロジー, コンセプ ト,仮説,モデルな どの形をとりなが ら, し だいに形式知 と して明示的にな ってい くプロセスである。 この表出化 は,典 型的にはコンセプ ト創造 に見 られ,対話すなわち共 同思考 によってひき起 こ され る。 そ して連結化 は, コンセプ トを組み合わせて一つの知識体系 を創 り 出す プロセス,既存 の形式知 を整理 ・分類 して組み替 えることによ って新 し い形式知が生 み出 され るプロセスである。最後 に内面化 は,形式知 を行動 に よる学習
(leaningby doing)で暗黙知へ体化す るプロセスである。換言す れば, これは言語化 された個 々人 の体験 が, メ ンタル ・モデルや技術的 ノウ
‑ ウ とい う形 で暗黙 知 ベ ー スへ 内面化 され るプ ロセ スで あ る
(Nonaka &Takeuchi
,
opcit., 6 2 ‑ 6 9 ;邦訳, 9 2 ‑ 1 0 3 ) 。
涼9(3) SECl
プ ロセスと 「 場」
どのような組織的な知識 も元 々は個人 の経験 とそ こか ら生み出された知識 に基づ く一方,個人的な知識が共有共用 され, よ り価値の高い知識 に発展す るためにはそのための 「 場」が必要 とな る。
伊丹 ( 2 0 0 0 ) の ことばを借 りるな らば, 「 場」 は駆 け引きや交渉,競争 が 行われ る空間であるだけでな く,知識創造がなされ る空間で もある。すなわ ち 「 『場』 は企業組織 の中の 『関係 の場』 として,企業のマネ ジメ ン トや知 識創造 に も深 い関わ りを持 っている。人 々は,関係 の中で生 きている
。その 関係の中で さまざまな メ ッセー ジの意味を解釈 し,刺激を受 け,知識が創造 されてい く 」 ( 伊丹, 2 0 0 0 ,
2)0
知識 は個人が環境 との関係か ら情報 を入手 し, これを処理 して洞察 を得 る
とい う論理的 プロセスによって も創造 され る。 このような 「 個人 と環境の関
係」が成立 し持続す るためにも,「 場」 は必要である。 しか し,企業 にとって
より重要 なのは,
SECIプロセスにより知識が組織 的,創発的に形成 されるた
めの 「 場」 である。価値 の高 い知識 は
SECIプロセス,すなわち対話 と相互
作用,知的触発,実践 によ り組織的に創造 され るか らである。野 中 ・遠 山 ・
紺野 ( 2 0 0 4 ) は, 「 対話 と実践 を通 した知識創造 には実存す る人間の関与 が
不可欠であ り, そのため時間的 ・空 間的なスペース,つま り 『 「 場
(place)」
研究開発を促進す る組織構造 (白石)
が必要である
』( 野中 ・遠 山 ・紺野, 2 0 0 4 , 8 8 ) と述べている。本研究が注 目したいのはこのような組織的な知識創発の 「 場」,すなわち 「 知識創造 の ための共有 されたコンテクス ト 」 ( 野中 ・梅本, 2 0 0 1 , 5) である
。組織 メ ンバーは 「 相互作用を通 じて他者 とコンテクス トを共有 し,その コンテクス トを変化 させることによ り意味を創 出す る 」 ( 野 中 ・遠 山 ・紺野,前掲論文,
8 8 ) のである。※
10言 い換えれば,「 場」 とは知的相互作用の 「 枠組み」 であ り, また 「 容れ もの」で もある
。すなわち, 「 『 場』 とは,人 々が参加 し,意識 ・無意識の う ちに相互 に観察 し, コ ミュニケー シ ョンを行 い,相互 に理解を し,相互 に働 きか けあい,共通の経験 をす る, その状況の枠組みの ことである 」 ( 伊丹, 前掲論文, 4‑5) 。そ こでは, メ ンバーがさまざまな様式で知識を交換 しあ い,SECI プロセスを通 じてメ ンバーの知識が変化 した り増幅 した りす る。
「 場」 とはいわば, このような知 的相互作用,知識増幅 プロセスの 「 容れ も の」 であると言える
。た とえば稲永 ( 1 9 9 8 ) は,「 情報機能を有す る時空間」 としてのオフィス を重視 し,その知的生産性を向上 させ るためには,人間の知的創造活動 に対 す る情報 システムの支援が重要 とな るとして いる。 すなわち彼 によれば,
「オ フィスにおける本質的活動 は,人 と人 との結 び付 きによる人間の知的情 報の創造的活動であ り, これ らのオ フィスの機能を支援す る手段 として,悼 報処理,情報通信の各支援 システムが存在す ると喜,人間の知的情報の創造 的活動範囲が広がる 」 ( 稲永, 1 9 9 8 , 3 9 ‑ 4 0 ) 。
ただ し, このような 「 場」は,必ず しも物理的空間だけを意味す るわけで はない。 もちろんオフィス,作業場 といったような物理的空間 も重要である が,組織的知識創造 との関連で重要性を持つ場 は, メンバーに相互作用を生 むメンタルな意味での共有スペースである。すなわち, 「 『 場』 という言葉 は, 物理的な場所だけでな く,特定の時間 と空間, あるいは 『関係の空間』を意 味 している 」 ( 野中 ・遠 山 ・紺野, 1 9 9 9 , 3 9 ) 。換言すれば,場 とは 「 人間の 存在の基盤となる時空間を含む場所性の概念である 」 ( 遠 山 ・野中, 2 0 0 0 , 5) 0
た とえば,青島 ・延岡 ( 1 9 9 7 ) および米倉 ・青 島 ( 2 0 0 1 ) は,組織的知識
創造の場 として新製品開発のためのプロジェク トチーム, タスクフォースを
重視 しているが, これ らは物理的な空間ではな く,非物理的な 「 共有 コンテ クス ト」ない しは 「関係 の空間」である。 これ らの特別な組織 は,青島 ・延 岡 ( 1 9 9 7 ) によれば,知識が移転 ・蓄積 されてい く継続的な組織学習活動の 結節点 と見なせ る ( 青 島 ・延 岡, 1 9 9 7 , 2 3 ) 。 また,米倉 ・青島 ( 2 0 0 1 ) に よれば, これ らは異分野のメンバーの有す る暗黙知が直接的に相互作用す る 場,それによ り形式知が製品革新 とい う形で生 まれ る場 と見 ることができる ( 米倉 ・青 島, 2 0 0 1 , 1 2 ) 0
3. 本研究のプ ロセスモデル
資源ベース ビューが登場す るまでの経営戦略論 では,競争優位 の源泉 は
「 市場」 サイ ドにあ り, それを他者 に先駆 けて発見 し,事業活動 に活用す る ことが重要であると考 え られていた。 もちろん これは全 く誤 りとい うわけで はないが, 1 章 ( 4 ) で も述べたように,企業の有す る組織能力が競争優位の土 台 として非常 に重要 なの も事実である。 そういう意味では,競争優位性 に関 す る議論 においては,市場か ら組織へ と焦点を内向的にシフ トさせ ることが 重要なのである ( 高橋, 2 0 0 5 , 1 3 6 ) 。 そ こで本研究では,競争優位性の規定 要因 として組織能力 を取 りあげる。 もっとも,組織能力だけが競争優位性 を 規定す ると考え るわけではな く,先行研究が重視 してきた競争優位性 に対す
るポジシ ョンや資源 の効果 も否定 しない。
ところで,組織 における多 くの活動 は,意思決定 をともな う。た とえば, ドラ ッカー ( 1 9 5 4 ) によれば,「 経営管理者はあ らゆることを意思決定を通 して行 う
」(Dmcker, 1 9 5 4 , 3 5 1 ;邦訳下巻, 2 5 4 ) 。 このような意思決定の根 底 にあるのは, 当該意思決定者の知識である
。すなわち意思決定者 は保有知 識を土台 に,情報 を前提 に して,意思決定を行 う。
'x'11また営利組織である企業では,商品の創造 ・生産 ・販売が欠かせないが, 知識はこれ らに関 して も重要な役割を果たす.すなわち新商品は顧客ニーズ, 技術的 シーズに関す る知識 のいわば結晶である し, これを生産 し販売す るプ
ロセスで も各 々の部門の知識が主体的な役割を担 う。 また企業において戦略
策定を行 うの も トップマネ ジャー と戦略 スタッフの知識であ り,策定 した戦
研究開発を促進す る組織構造 (白石)
略を実際の業務 にブ レー クダウンす るの も現場の知識である。 このように, 知識 は組織,特に企業 において極 めて重要な機能を果た している。そのよ う なことか ら,知識は最 も根幹的な経営資産であると言 ってよかろう。
したが って,組織能力を競争優位の基盤 として取 りあげると前述 したが, その中で も特 に重要なのは,知識 に関す る組織能力である。すなわち知識 を 創造 し,活用す る組織能力は,企業の競争優位性 を規定す る最 も本質的な要 因であると考え られ る。戦略の良 し悪 Lが競争優位性 を規定す るかのように これまで一部では言われてきたが,競争優位性 を根本的に規定す るのは当該 企業が有す る組織能力であ り,知識 に関す る組織能力 は特 にその中で も重要 性を持つ。ただ し,両者 の間には知的創造活動,知的アウ トプ ッ トとい う媒 介要因がある ( 図表 1) 0
このモデルにおける 「 知的創造活動」 とは,顧客知識や技術的知識をは じ めとす る知識その ものの創造 と, それに もとづ く戦略体系や新技術,新商 品 とい った知的アウ トプ ッ トの創造 を意味 している。後 に焦点をあてる研究 開 発 はこの両方を含む。
組織 において知識 は個 々のメンバーによ り環境か ら獲得 されるとともに, メンバー間の相互作用 によってよ り価値 の高 い新 しい知識が組織的に創造 さ れ る。 よ り具体的には,知識は個 々のメンバーによる知識獲得 によ り外部環 境か ら取 り込 まれ る。 こ. れは 「 個人 と環境 の間の相互作用 」 ( 野 中 ・梅本,
2 0 0 1 , 6) による知識 の個人的創造 といえる。 ここでは,情報を処理 し洞察 を得 るという論理的プロセスによる知識創造が中心 とな る。 このような個人 的知識が個 々のメンバーにより個人的なまま保持 され る場合 もあるが,他 の 知識 と出会 い,相互作用 によって価値の高 い新 しい知識 を生 む こともあ る。
すなわち,「 個人間の相互作用 」 ( 野 中 ・梅本,前掲論文, 6) による知識 の 組織的創造,前章で述べた 「 場」 における
SECIプロセスによって,組織 内
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図表
1組織能力が競争優位性を規定するプ ロセスモデル
の知識 は高度化 し豊富 になる。 ここでは,主 として創発的に知識が創造 され る。
さらに営利組織 である企業 は,知識を創造す る,すなわち 「 知 る」 ことだ けでは不十分であ り,知識 ( 知 ったこと)を活用 して,戦略体系や新技術, 新商品 (コンセプ トおよび設計図) とい ったアウ トプ ッ トを産み出さなけれ ばな らない。 これ らの知的アウ トプ ッ トの質が企業 の収益性 に大 きな影響看 与える ( 知的アウ トプ ッ ト‑競争優位性)0
すなわち,企業の収益性 に大き く影響す る戦略体系や新技術,新商品といっ た知的アウ トプ ッ トは知的創造活動 によ り形成 され る。 したが って,知的創 造活動のあ り方 や有効性が, このような知的アウ トプ ッ トを媒介 して企業の 競争優位性を規定 していると言える ( 知的創造活動‑知的アウ トプ ッ ト‑戟 争優位性)0
企業 には, このような知的創造活動 を行 うための組織能力があ り, これが 知的創造活動 のあ り方,有効性 を規定す る ( 組織能力‑知的創造活動)。能 力の本質 は知識 と考 え られるため
(Leonard‑Barton,1992,113),知識 に関す るこのような組織能力 は,知識 に関する知識,「メタ知識」 と位置づけられる。
尚, これ らの規定関係 には,逆方向の フィー ドバ ックがあると考え られる。
つま り,知的創造活動 を行 う過程で組織能力が向上 した り,競争優位性 ( 収 益性)が高 まることによ り知的創造活動 が活性化 されるという側面 もある。
4. 統計的サーベイ
前章で示 したプロセスモデルにおける表層部分の因果関係 ( 知的アウ トプ ッ ト‑競争優位性)を検証す るために,公開データに対 して統計的分析を行 い, 変数間の関係 をサーベイす ることに した。サ ンプル企業は, 日本経済新聞社
と一橋大学大学院が共 同で実施 している 「コーポ レー トブラン ド価値調査」
結果 ( 2 0 0 6 年 4 月発表) に掲載 されている 2 0 0 社か ら無作為抽出 した 5 0 社で ある.
削 2ここでは,
1章 で紹介 した先行研究 にのっとって,競争優位性 ( 収益性)
に対す る資源, ポ ジシ ョンの効果 も考慮 に入れ る。すなわち,本論文の関心
研究開発を促進す る組織構造 (白石)