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〈論 説 〉
東 アジア多国間安保 枠組み と日本外交
小 出 稔
目 次 は じめ に
日本 の 東 ア ジ ア地域 構 想 の 展 開
東 ア ジア地 域 の 多 国 間安 保 体 制 の発 展 に影 響 を与 え る四 つ の展 開 東 ア ジア の多 国 間安 保 体 制 と 日本:影 響 を与 え る二 つ の変 数
結 論
は じめ に
冷 戦 後 の 大 き な 国 際 環 境 の変 化 に もか か わ らず 日本 は 冷 戦1時代 に締 結 され た E1米 安 保 条 約 を そ の 安 全 保 障政 策 の 基 盤 と し続 け て い る。 冷 戦 時 代 の ソ連 の 脅 威 に対 抗 す る こ とが第 一 の 目 的で あ った 日米 安 保 体制 は 、 ソ連 の脅 威 が無 くな っ た 冷 戦 後 に 、 返 っ て 日本 の 具 体 的 な軍 事 的 コ ミ ッ トメ ン トを増 す 方 向 に 発 展 し て きて い る。 なぜ 日本 は変 化 す る国 際 情 勢 の 中 で も頑 な な ま で に、 日米 安 保 体 制 を堅 持 す る の か 。 冷 戦 後 の 国 際 情 勢 の 変 化 は、 日本 に対 して 、 日米 安 保 体 制 に代 わ る選 択 肢 を与 えて い な い の か。 この よ うな 問 題 意 識 を持 ち つ つ本 稿 で は、
東 ア ジ アの 多 国 間安 保 枠 組 み の 形 成 が 、 日本 に とっ て どの程 度 現 実 的 な 安 保 政 策 な の か を考 察 す る。
ま ず初 め に 日本 が 東 ア ジ アの 多 国 間枠 組 み に対 して どの よ うな政 策 を と り続
け て きた の か を歴 史 的 に概 観 す る。1960年 代 以 来 、 東 ア ジ ア の多 国 間 枠 組 み の
形 成 に政 策 的 関 心 を示 して き た 日本 は 、 そ の 一 方 で 、 その よ うな 日本 の 動 きが 、
東 ア ジ ア近 隣 諸 国 とア メ リカ の 警 戒 感 を 呼 ぶ こ とを 懸 念 して きた 。 特 に近 年 、
東 ア ジ アの 多 国 間 枠 組 み が 具 体 的 な 制 度 的 発 展 を 遂 げ る 中 で 、 そ の よ う な動 き
が 「 ア メ リカ 外 し」 に 見 えか ね な い こ とが 、 日本 外 交 に ジ レ ン マ を もた ら して 来 て い る。
次 に 、 東 ア ジ ア の 多 国 間 安 保 体 制 の 展 開 に影 響 を与 え る と思 わ れ る四 つ の 要 素 を取 り上 げ 、今 後 の 多 国 間 安 保 体 制 発 展 の シ ナ リオ に つ い て考 察 を加 え る。
特 に こ こで 決 定 的 な影 響 力 を持 つ の は 米 国 と中 国 の 間 の パ ワ ーバ ラ ンス の調 整 で あ るが 、 こ の調 整 過 程 に 対 す る 日本 の 影 響 力 は 限 定 的 で あ る。 そ の 意 味 で 、 日本 外 交 に とっ て 東 ア ジ ア の 多 国 間 安 保 枠 組 み の展 開 は 、 自主 的 に 追 及 で き る 外 交 目標 と言 う よ りも、 外 的 な 条 件 と して 看 倣 す ほ うが 適 当 と思 わ れ る。
続 い て 、 そ の よ うな 認 識 を 前 提 と した 上 で 、 日本 が 東 ア ジ アの 多 国 間 安 保 体 制 を追 求 しよ う と した場 合 に障 害 とな り う る二 つ の 国 内的 要 因 、 す な わ ち、(1) 集 団 的 自衛 権 を め ぐ る議 論 、 と(2)歴 史 認 識 を め ぐ る議 論 につ い て 考 察 す る。
い ず れ の議 論 にお い て も、 現 在 の 日本 は 、 国 内 的 な議 論 を集 約 して コ ンセ ンサ ス を得 る の が 困 難 な状 況 に あ り、 日本 は安 全 保 障 分 野 に お け る東 ア ジ ア 地 域 の 多 国 間 枠 組 み形 成 を積 極 的 に推 進 して い け る状 況 に は な い。 つ ま り、 冷戦 後 の 国 際情 勢 の 変化 に もか か わ らず 、 当 面 の 日本 の 安 保 政 策 に とっ て は、 日米 安 保 体 制 しか 現 実 的 な 選 択 肢 は 無 く、東 ア ジ ア 多 国 間 安 保 体 制 は補 完 的 な役 割 を 果 た す 限 りに お い て 迫 求 可 能 な政 策 目標 と考 え られ る。
しか し、 そ の こ とは 、 冷 戦 時 代 の よ う に、 東 ア ジ ア に お け る多 国 間 安 保 体 制 が 単 な る夢 物 語 で あ る こ と を意 味 す るわ けで は な い。 現 に 、 経 済 分 野 に お い て は、 東 ア ジ ア の 多 国 間 協 力 は 制 度 的 な形 を急 速 に 整 えつ っ あ る。 また 、 北 朝 鮮 問 題 が 六 力 国 協 議 を通 じて平 和 的 解 決 に 成 功 した 場 合 、 同協 議 枠 組 み が そ の 後 の 東 ア ジ ア の多 国 間 安 保 枠 組 み と して継 続 的 に機 能 して い く可 能 性 は 十 分 に あ り うる。 そ の よ うな 可 能 性 を 認 識 しつ つ 、 日本 は 東 ア ジ ア に お け る国 民 レベ ル の 交 流 を促 進 し、 当 地 域 諸 国 間 に お け るナ シ ョナ リズ ム の 対 立 を抑 え 、 東 ア ジ ア意 識 の形 成 を促 進 す る こ とで 、 東 ア ジ ア多 国 間安 保 枠 組 み の 出 現 に 備 え て い
くべ き で あ る。
東 アジア多国間安保枠組み と日本外交 63
日本 の 東 ア ジ ア地 域 構 想 の 展 開
冷 戦 時代 か ら 日本 は ア ジ ア地 域 の 統 合 や 共 同 体 構 想 に対 して 積 極 的 な 関 心 を 寄 せ て い た 。 ヨー ロ ッパ に お け る統 合 が あ る程 度 の成 果 を収 め 、 国 際 関 係 論 研 究 に お い て地 域 統 合 論 が 脚 光 を 浴 び た1960年 代 、 日本 は ア ジ ア に お け る 自1韮i貿
の
易 地 域 構 想 と言 う形 で 、 一 つ の 政 策 構 想 を 提 示 し始 め た 。
憲 法 上 の 制 約 で 、 国 際 社 会 に お け る安 全 保 障 上 の 問題 につ い て 極 め て 限 られ た 役 割 しか 果 た せ な か っ た戦 後 日本 に とっ て 、 ア ジ ア地 域 の経 済 的 統 合 を 通 じ た 地 域 秩 序 の 安 定 化 促 進 は 、 日本 が 安 全 保 障 問 題 に 関 わ り う る限 られ た選 択 肢 の 一 つ で あ っ た 。 ま た 、1960年 代 に 国 論 を二 分 した 日米 安 保 体 制 を め ぐ る対 立 の 後 、 ア ジ ア地 域 との 絆 を深 め る共 同体 構 想 は、 日米安 保 反 対 を 唱 え る政 治 勢
z)
力 に も、受 け入 れ 可 能 な提 案 で あ っ た。
しか し、 日本 が ア ジ アの 地 域 構 想 を語 る とき、 二 つ の 困 難 さが 直 ち に 指 摘 さ れ た 。 一 つ は 、 そ の よ うな構 想 が 、 大 日本 帝 国 の大 東 亜 共 栄 圏 を 想 起 させ 、 日 本 軍 国 主 義 の 被 害 を受 けた 近 隣 ア ジ ア諸 国 に猜 疑 心 を 呼 び覚 ます と言 う点 で あ
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る。 も う一 つ は、 米 ソ両 陣 営 が 対 立 す る冷戦 下 で は 、 日米 安 保 体 制 と矛 盾 す る 地 域 構 想 は 、 現 実 的 な選 択 肢 で は あ りえ なか っ た 。 実 際 に ソ連 は 、1970年 代 前 半 か ら、米 国 の 同盟 網 に替 わ る体 制 と して 、 ア ジ ア地 域 の 多 国 間 安 保 体 制 を 日
4)
本 に呼 び か け て き た。
この よ うな 戦 後 日本 の 置 か れ た歴 史 的 ・国 際 的条 件 に照 らす と き、80年 代 に 追 及 さ れ た ア ジ ア ・太 平 洋 地 域 構 想 は、 これ らの 制 約 的 条 件 を 回 避 ま た は 緩 和 す る工 夫 で あ った 。 オ ー ス トラ リア ・NZ等 の大 洋 州 、 お よび 米 国 ・カ ナ ダ等 の 北 米 、 更 に は 中 南 米 諸 国 まで 包 含 す る ア ジ ア ・太 平 洋地 域 の 統 合 は、 日本 の 歴 史 問 題 の影 響 を薄 め る作用 が あ っ た 。 ま た 、 米 国 を地 域 統 合 のパ ー トナ ー と し
5)
て含 む こ とに よ っ て、 日米 安 保 体 制 との 矛 盾 を 回 避 した の で あ る。
80年 代 を通 じて 日本 は 、 ア ジ ア の地 域 構 想 自体 に 対 して は大 き な関 心 を 寄 せ
つ つ も、 実 際 の 外 交 政 策 レベ ル に お いて は慎 重 な姿 勢 を 保 っ た。 基 本 的 に ア ジ
ア地 域 構 想 に 対 す る政 府 レベ ル で の 明 確 な コ ミ ッ トメ ン トの 表 明 は 避 け、 非政
府 レベ ル で の地 域 経 済 統 合 を求 め るPECCを 通 じて地 域 構 想 を 推 進 した 。 ま
た 、地 域 構 想 の 探 求 過 程 に お い て も、 日本 が 主 導 的 な役 割 を果 た して い る と見
られ る こ とを極 力 避 け た 。 こ の よ うな 姿 勢 は 、89年1月 の 韓 国 とオ ー ス トラ リ ア に よ る共 同提 案 を受 け て初 め て 、政 府 レベ ル の機 構 とな るAPEC創 設 に 、 日
G)
本 が 本 格 的 に 参 画 した 点 に端 的 に現 れ て い る。
ひ とた びAPECが 成 立 し、 ア ジ ア 太 平 洋 地 域 構 想 が 具 体 的 な制 度 的 枠 組 み の 形 を取 り始 め た90年 代 前 半 にお い て も、 その よ うな動 きが 、 同地 域 に お け る米 国 の リー ダ ー シ ップ と矛 盾 す る場 合 、 日本 は非 常 に慎 重 に米 国 に配 慮 し、 日本 の 安 全 保 障 は ア ジ ア の 多 国 間 枠 組 み で は な く日米 安 保 体 制 に依 存 す る こ とを明
ア
確 に して きた 。1992年 末 に終 了 が予 定 され て いたGATTの ウル グ ァイ ラ ウ ン ド が 、 農業 補 助 金政 策 をめ ぐるEUと 米 国 との 対 立 で 暗 礁 に乗 り上 げ た際 、 マ レー シ アの マハ テ ィ ー ル 首 相(当 時)は 、 米 国 抜 き の東 ア ジ ア グ ル ー プ構 想 を提 案 し、 グル ー プ 内 で の先 行 的 な 貿 易 自 由化 を 求 め た。 この マ ハ テ ィ ー ル の提 案 は、
貿 易 自 由化 の た め の 「 議 論 」 の 推 進 を求 め た の で あ り、 米 国 抜 き の差 別 的 な地 域 経 済 圏 を謳 っ た わ けで は な か っ左 が 、 に もか か わ らず 、 米 国 は ヒス テ リ ック な まで に反 対 し、 い か な る米 国 はず しの意 見 に も反 対 す る 態 度 を表 明 した 。 こ の とき 日本 は、 マハ テ ィ ー ル か ら、 東 ア ジ ア グ ル ー プ に加 わ る こ とを 強 く求 め られ た が 、 終 始 消 極 的 な 反 応 を 見 せ た。 この よ うな 日本 の反 応 は、 日米 安 保 体
制 とア ジ ア の 多 国 間地 域 構 想 に 対 す る 日本 の 外 交 姿 勢 を端 的 に 表 して い た 。 日米 安 保体 制 へ の依 存 が 日本 の地 域 安 保 構 想 に対 す る消極 的 態度 の理 由 で あ っ た とす る な らば 、90年 代 の 冷 戦 終 了 に伴 う東 西 対 立 構 造 の 解 消 に よっ て 、 日本 外 交 は 日米 安 保 体 制 へ の 依 存 度 を弱 め、 地 域 的 な 多 国 間 安 保 体 制 の構 築 へ と向 か う こ と も、 理 論 的 に は可 能 で あ っ た。 しか し、 実 際 の 日本 外 交 は 、 冷 戦 後 の 不 確 定 な安 全 へ の脅 威 に対 し、 日米 安 保 が よ り機 動 的 に対 処 で き る よ うに再 定 義 を進 め 、ARF等 の 地 域 的 な 安 保 枠 組 み に対 して は、 首 脳 や 閣 僚 間 の 対 話 を
ラ
通 じた 信 頼 醸 成 等 、 副 次 的 な機 能 を求 め るに 留 ま っ た。97年 の ア ジ ア 通 貨 危 機 克 服 の 過 程 を通 じて 、92年 末 に マ ハ テ ィ ー ル が 主 張 したEAEGと 同 じ国 々 が ASEANプ ラ ス3と して 結 集 した 時 、92年 時 点 に見 られ た ア メ リカ の ヒス テ
io)
リッ ク な反 対 は無 か った 。 そ れ に も拘 らず 、 同時 期 に安 全 保 障 の 面 に お い て 、
しの
日本 は 日米 安 保 へ の 依 存 を更 に 明 確 に して い っ た の は皮 肉 な 現 象 で あ った 。
更 に 、 も う一 っ の 皮 肉 は、 先 のASEANプ ラス3を 通 じて 、 徐 々 に東 ア ジ
ア グル ー プが 国 際 社 会 に お い て 認 知 され る集 団 とな る一 方 で 、 ア ジ ア 諸 国 、特
東 ア ジア 多国 間 安保 枠 組 み と 日本 外 交 6S
に 中 国 と韓 国 と言 う 日本 の 隣 国 に お い て、歴 史認識 問題 が突 きつ け られ 、反 日 感 情 が 高 まっ た 点 で あ ろ う。80年 代 か ら90年 代 に か け て の 地 域 構 想 の 議 論 が 、
ア ジ ア 太 平 洋 と言 う枠 組 み で 進 め られ た 結 果 、 当 初 日本 の 地 域 構 想 の 議 論 の 中 で 見 られ た 歴 史 問 題 に よ るた め らい が安 易 に忘 れ 去 られ た こ とが 一 つ の 理rl̲tで
あ る。 そ の 一 方 で 、 冷 戦 時 代 に強 烈 な イ デ オ ロ ギ ー に よ っ て 国 民 統 合 と国 家 統 治 を進 め て きた 中 国 と韓 国 に お い て、 冷 戦 後 の 脱 イ デ オ ロギ ー の下 で は、 ナシ ョ ナ リズ ム に よ る新 た な 国 民 統 合 と国 家 統 治 が 進 め られ た 結 果 、歴 史問題 を巡 る
の
反 日感 情 が 市 民 レベ ル で 高 ま っ た とも い え よ う。
も し、 日本 が 成 熟 した 自 由主 義 的 民 主 国家 で あ る こ と を 自任 し、 自国 と価値 観 を共 有 す る 国 家 を近 隣 に 増 や す こ と に よ っ て 自国 の安 全 を 高 め よ う とい う戦 略 を取 るな ら ば 、2000年 代 の 日本 は、 中 国 と韓 国 に お け る高 ま るナ シ ョナ リズ ム に対 して 、 政 府 の 公 式 レベ ル の み な らず 、 その非公式 チ ャンネ ル、 更 には民 間 レベ ル まで 含 ん だ あ らゆ る レベ ル で の コ ミュ ニ ケ ー シ ョン の 拡 大 に よ り対 抗 す べ き で あ った 。 そ の よ うな コ ミュ ニ ケ ー シ ョン の拡 大 に よ っ て 、東 アジ ア近 隣 諸 国 と 日本 との 友 好 関 係 を象 徴 す る シ ンボ ル を見 出 し、 東 ア ジ アの ア イ デ ン テ ィテ ィ形 成 に 寄 与 す る こ と こそ 、 独 自 の軍 事 的 なハ ー ドパ ワ ー に 欠 け る 日本 に とっ て 望 ま しい 選 択 肢 で あ っ た と言 って よ い。
13)しか し、2001年9月ll日 の 米 国 に お け る同 時 多 発 テ ロ薯 件 を契 機 に、 テ ロと の 戦 争 に お け る米 国 との 共 闘 を 進 め た 日本 は、新 たな 日本 の安 保政策 ・役割 を 国 民 に納 得 させ る た め に、 国益 概 念 を強 調 し、 そ の過 程 で 日本 社 会 の ナ シ ョナ リズ ム も高 揚 す る こ とに な っ た。 テ ロ との戦 争 を通 じて 高 め られ た 安 全 保 障 に 対 す る意 識 は 、 アル カ イ ー ダ の よ う なテ ロ リス トが もた らす 抽 象 的 な 危 険 よ り も、 中 国 の 軍 備 増 強 や 北 朝 鮮 の核 開 発 と言 っ た 、 具 体 的 か つ 個 別 的 な 脅 威 を 、 よ り深 刻 な 問 題 と して 意 識 させ る こ と と な っ た。 特 に北 朝 鮮 に よ る 日本 人 拉 致 衷 件 や 、 日本 の 領 海 に お け る 「 不 審 船 」 事 件 は、 安 全 保 障 の 問 題 に つ い て の 国 民 の 意 識 を 先 鋭 化 さ せ 、 海 上 警 備 の 増 強 や 北 朝 鮮 へ の 制 裁 に よ る圧 力 と言 った ハ ー ドパ ワ ー に よ る 外 交 へ と 日本 を駆 り立 て る こ と とな っ た
w)。
また 同 じ時 期 、 日本 の 経 済 社 会 も、 失 わ れ た10年 と呼 ば れ る長 期 不 況 に 苦 し
み 、 そ の 克 服 の た め に求 め られ た様 々 なEi本 の 経 済 社 会 構 造 の 改 革 は、個 々の
改 革 策 へ の 不 満 を 抑 え る た め に、 よ り抽 象 的 な 国益 概 念 を必 要 と した 。 そのよ
う な 国 内 改 革 を進 め る 中 で 、 自民 党 自体 の改 革 を訴 え 、 自身 の 政 治 的 基 盤 を国 民 的 人 気 と支 持 に 求 め た 小 泉 首 相 は 、 そ の ナ ル シ ス ト的 歴 史 観 か ら靖 国神 社 参 拝 を 強 行 し、 中 国 と韓 国 の 反 日 ナ シ ョナ リズ ム を大 い に刺 激 した 。 そ の 結 果 、 特 に小 泉 政 権 の後 半 とな っ た2004年 以 降 、 東 ア ジ ア の 多 国 間 協力 は 、 その 経 済
15)
面 で の 進 展 とは裏 腹 に、 政 治 面 で は完 全 に停 滞 す る こ とに な った 。
小 泉 政 権 下 の 冷 え 込 ん だ政 治 的 関 係 に あ っ て も、 趨 勢 的 に 経 済 的相 互 依 存 の 規 模 と度 合 いが 日中 韓 の 間 で 深 ま った こ とは 明 らか で あ る。2000年 の 日本 は輸 出 入 と も最 大 の 貿 易 相 手 国 は 米 国 で あ り そ の シ ェ ア は輸 出 で29.7%、 輸 入 で
19.0%で あ っ た 。 一 方 、 同 年 の 中 国 は 、 日本 の輸 出 の6.3%、 輸 入 の14.5%を 占 め 、韓 国 は輸 出 の6.4%、 輸 入 の5.4%を 占 め て い た。 この数 字 が2007年 に な る と、 日本 の 輸 出入 に 占 め る米 国 の シ ェ ア は、 それ ぞ れ20.1%とll.4%に 下 が り、 一 方 中 国 は15.3%と20.6%を 、 そ して韓 国 は7.6%と4.4%を 占 め る よ う に な る。 日本 に とっ て 中国 は 、 既 に 米 国 を凌 い で 最 大 の 貿 易 相 手 国 と な り、 し か もそ の シ ェ ア は 拡 大 しつ つ あ る。 この 中国 に 、 貿 易 統 計 上 区別 して 扱 わ れ る 香 港 を加 え、 さ らに韓 国 を足 せ ば 、 これ らの 国 ・地 域 で2007年 の 日本 の輸 出 入 の それ ぞれ28.4%と25.0%を 占め る。単 純 に貿 易 の 規模 だ け で比 較 す る と、2000 年 時 点 と2007年 時 点 で 、 日本 の 輸 出入 に お け る米 国 と中 国 ・韓 国 の地 位 が ほ ぼ
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入 れ 替 わ っ た と もい え よ う。
この よ うな 経 済 的相 互 依 存 の 深 化 の下 で 、 冷 却 した 政 治 的 関 係 が継 続 す る こ
とが 望 ま し くな い 点 につ い て は、 日中韓 それ ぞ れ の 指 導 層 で 共 通 認 識 とな っ て
い た と思 わ れ る。 小 泉 政 権 下 で の 日本 との 関 係 改 善 に見 切 りを つ け て い た 中 国
と韓 国 は 、2006年9月 に 日本 で 安 倍 新 内 閣 が 成 立 す る と、 相 互 の 接 触 を再 開 し
た。 まず 首 相 就 任 直 後 に安 部 総 理 は、 韓 国 の ノ ム ヒ ョ ン大 統 領(当 時)と 電 話
会 談 を行 い、 続 い て10月 に は 首 相 と して の 最 初 の外 遊 先 と して 韓 国 と中 国 を選
び 、 両 国 重 視 の 姿 勢 を明 確 に した 。 更 にll月 に ベ トナ ム ・ハ ノ イ で 開 催 され た
APEC首 脳 会 談 の 折 に も、 日中 首 脳 会談 と 日韓 首 脳 会 談 を持 っ た 。 そ して 、
翌 年1月 に フ ィ リ ピ ン で 開催 され た 第 二 回 東 ア ジ ア サ ミ ッ トの 折 に は、 日中 韓
首 脳 会談 を持 ち 、 共 同 プ レス 声 明 に お いて 日中 韓 の三 国 は 「 東 ア ジ ア協 力 を拡
充 させ 、 関 連 す る制 度 作 りを強 化 し、ASEAN+1、ASEAN+3、 東 ア
ジ ア首 脳 会 議 及 び 東 ア ジ ア 共 同体 構 築 の 推 進 にお い て 積 極 的 な役 割 を 果 た す 」
東アジア多国間安保枠組み と日本外交 67
こ とを謳 った 。
安 部 政 権 の 急 速 な 対 中 、対 韓 関 係 の 改 善 と東 ア ジ ア重 視 政 策 の 打 ち 出 しに も か か わ らず 、 米 国政 府 は以 前 の よ うな東 ア ジ ア グ ル ー プ に 対 す る あ か ら さ ま な 警 戒 心 は示 さ なか っ た 。1997年 の ア ジ ア通 貨 危 機 の 際 に米 国 政 府 は 、 日本 に よ る ア ジ ア通 貨 基 金 の形 成 に反 対 し、 米 国 の 支 配 権 が 強 く及 ぶIMFに よ る管 理 を 強 く求 め た 。 ア ジ ア に お け る多 国 間 金 融 協 力 に対 す る米 国 の圧 力 に接 し、 日 本 政 府 は宮 沢 イ ニ シ ア チ ブ を発 表 して 二 国 間 の 協 定 を通 じ て、 金 融 危 機 に 陥 っ た 国 に対 す る資 金 援 助 を構 想 した 。 この宮 沢 イ ニ シ アチ ブ を踏 まえ 、2000年5 月 に は 、ASEAN+3蔵 相 会 議 に お いて 、通 貨 危 機 の再 発 防 止 の た め の二 国 間 通 過 ス ワ ッ プ取 極 の ネ ッ トワ ー クの 構 築 を 内 容 とす るチ ェ ン マ イ ・イ ニ シ ア チ ブ が合 意 さ れ る。 そ の後 、 チ ェ ンマ イ ・イ ニ シ ア チ ブ は 、 日本 を含 む8力 国 の 間 の ネ ッ トワ ー ク に拡 大 し、2007年5月 に は 、 現 在 の 多 くの 二 国 間 協 定 を 、 段 階 的 な ア プ ロ ー チ を踏 み な が ら、 一 本 の 契 約 の下 で 各 国 が 外 貨 準 備 を プ ー ル
しあ う こ とが 適 当 で あ る と言 う原 則 が 合 意 され た。 この よ うな 、 実 質 的 に ア ジ ア 通 貨 基 金 の 形 成 と同 じ意 味 を 持 つ 東 ア ジ ア諸 国 に よ る多 国 間 通 貨 バ ス ケ ッ ト 協 定 へ の 動 き に対 し、 今 の と こ ろ米 国 政 府 は 反 対 の 意 を示 して い な い。
n)参議 院 選 挙 の与 党 大 敗 を受 け2007年9月 末 に安 部 政 権 が 崩 壊 す る と、次 に 総 理 とな っ た福 田 首 相 は 、初 の訪 問先 と して米 国 を選 び 、 対 ア ジ ア 政 策 に傾 い た 日本 外 交 の バ ラ ンス を取 っ た 。 比 較 的高 齢 の 福 田首 相 が 、ll月 に シ ンガ ポ ー ル で 開催 され た東 ア ジ ア首 脳 会 議 の直 前 に敢 え て ワ シ ン トンDCを 訪 問 した こ と は、 福 田政 権 の 日米 同 盟 重 視 の姿 勢 を米 国政 府 に印 象 付 け る もの で あ る。 また 、 福 田首 相 の 父 の 福 田赴 夫 首 相 は、 そ の在 任 時 で あ る1978年 に 日中平 和 友 好 条 約
を締 結 して お り、 そ の た め福 田 首 相 自身 も中 国 か ら特 別 な期 待 と信 頼 を 寄 せ ら
れ た 存 在 で あ っ た。 そ の よ うな 福 田 首 相 の 持 つ 個 人 的 な 中 国 との パ イ プ が 、逆
に 日中 関 係 を 緊 張 させ ず に米 国 重 視 の姿 勢 を 打 ち 出 す こ とを可 能 に した と も い
え よ う。 ホ ワイ トハ ウス に お け る ブ ッ シ ュ大 統 領 との共 同 記 者 会 見 で 、 福 田 首
相 は 、 強 固 な 日米 同盟 は ア ジ ア の 平 和 と繁 栄 の 基 盤 で あ り、 「 日米 同盟 を よ りど
ころ に して ア ジ ア諸 国 との 関 係 を一 層 深 化 させ 、 安 定 的 で 開 か れ た 、 そ して繁
栄 し発 展 す る ア ジ ア を実 現 す る」 こ と を強 調 した 。 この こ と は、 当面 の 日本 の
対 ア ジ ア 外 交 は 、依 然 と して 日米 安 保 体 制 に軸 足 を 置 き つ つ 、 慎 蚕 に 同 地 域 の
多 国間枠組 みの形成 を通 じた地域 秩序 の安 定 を図 る と言 う従 来 の路線 の踏襲 を 確認 した もの と理解 で きる。
東 ア ジア 地 域 の 多 国 間 安保 体 制 の 発 展 に影 響 を与 え る 四 つ の展 開
今 後 の 日本 の 対 東 ア ジ ア地 域 外 交 は 、 同地 域 の 多 国 間安 保 体 制 が ど の よ う に 発 展 す るか に よ って 左 右 され る。 こ こで は 、分 析 の 便 宜 上 、 東 ア ジ ア の 多 国 間 安 保 枠 組 み の 展 開 を、 日本 外交 に とって の 所 与 の条 件 とみ な して 議 論 を進 め る。
もち ろん 、現 実 の 国 際 政 治 に お い て は、 日本 の 外 交 政 策 自体 が 東 ア ジ ア 地 域 の 国 際 関 係 に影 響 を与 え 、 東 ア ジ ア の 多 国 間 安 保 体 制 の 帰 趨 を も決 定 付 け て い く が 、 そ の よ うな 相 互 に依 存 しあ う過 程 に つ い て は 、 結 語 の 部 分 で 分 析 を加 え る こ とに す る。
東 ア ジ ァ 地 域 に お け る多 国 間 安 保 体 制 の 発 展 に は 、 以 下 の 四 つ の展 開 が 影 響 を与 え る と思 わ れ る。 まず 、 第 一 に米 中 間 の 戦 略 的 パ ワ ー バ ラ ン ス の 変 化 、次 に東 ア ジ ア地 域 の 多 国 間 経 済 協 力 枠 組 み の 発 展 、 第3に 北 朝 鮮 の核 問 題 の平 和 的 解 決 を 目指 す 六 力 国 協 議 の 進 展 、 そ して 最 後 に 東 ア ジ ア 各 国 に お け る ナ シ ョ ナ リズ ムの 制 御 の 成 否 で あ る。
G)米 中 間 の戦 略 的 パ ワ ー バ ラ ン ス の 変 化 と調 整
まず 、 米 国 と中 国 の 間 の パ ワー バ ラ ン ス の変 化 が 、 東 ア ジ ア地 域 の み な らず 、 21世 紀 の 国 際 政 治 全 体 に お いて 決 定 的 な 重 要 性 を 持 つ こ とは 論 を待 た な い で あ
ろ う。 中 国 の 経 済 成 長 が 現 在 の ペ ー ス の 拡 大 を続 けた 場 合 、2020年 にE1本 を 凌 駕 し、2030年 に は米 国 を 追 い抜 く こ とが 予 想 され る。20世 紀 の米 ソ対 立 が 、 結 局 は終 始 ソ連 の 劣 勢 で終 った こ とを考 え る時 、21世 紀 の 中 国 の 台 頭 は、19世 紀 後 半 に米 国 が イ ギ リス のGDPを 凌 駕 して 以 来 、 実 に1世 紀 半 ぶ りに経 験 す る 最 大 規 模 の 経 済 大 国 の 交 代 を 意 味 す る。10億 を越 え る人 口 を要 す る大 国 が本 格 的 に経 済 的 ・社 会 的 な近 代 化 を開 始 した 現 在 、 国 際 政 治 シス テ ム にお け る中 国
ie)
のパ ワー と影 響 力 の 拡 大 は 、 止 め よ うも無 く進 む 勢 い を 示 して い る。
しか し、 中 国 の 経 済 規 模 の 拡 大 は 、 直 ち に 国 際 政 治 の リー ダ ー の 交 代 を意 味
す る もの で は な い。 第 一 に、 国 家 の 経 済 的 パ ワ ー は 、 そ の経 済 活 動 の フ ロ ー の
東 アジア多国間安保枠組 みと日本外交 69
規 模 だ け で は な く、 蓄 積 され た 資 本 の ス トッ ク量 や 、 一 国 の 有 す る 科学 技 術 の 水 準 、 更 に は戦 略 的 な 原 材 料 の 外 国市 場 へ の 依 存 度 等 に よ っ て 多 面 的 に 規 定 さ れ る。 これ ら の面 を 勘 案 す れ ば 、 中 国 の 台 頭 が もっ と も目覚 しい経 済 的 パ ワ ー の側 面 に お い て も、 中 国 が 米 国 を凌 駕 す る の は 、 簡 単 な こ とで は な い。 第 二 に 、 戦 略 的 核 兵 器 の保 有 量 等 に見 る軍 事 力 の面 に お い て 、 米 国 は 、 依 然 と して 唯 一 の超 大 国 の地 位 に あ る。 そ して 、 第 三 に 、 む しろ この 点 こ そ が 米 国 の 国 際 政 治 上 の 地 位 に と って 最 も重 要 と思 わ れ るが 、 自国 の価 値 を世 界 に発 信 す る ソ フ ト パ ワー の リ ソー ス に お い て 、 米 国 は他 の 国 家 を圧 倒 して い る。 国 家 の パ ワー の 多 面 性 を鑑 み て 、 た とえ 米 国 の経 済 規 模 が 中 国 の そ れ に 凌 駕 さ れ て も、 米 国 は
ゆ
国際 政 治 上 の リー ダ ー で あ り続 け る との 議 論 も多 い。
さ ら に、 中 国 の 台頭 が 止 め よ うの 無 い もの で あ り、近 い 将 来 、米 国 に 匹敵 す る リー ダ ー シ ッ プの 役 割 を 国 際 政 治 に お い て果 た す よ うに な る と して も、 そ の よ うな プ ロセ ス が 平 和 的 に進 行 す る こ とは保 障 され て い な い。19世 紀 末 ま で に は世 界 最 大 の 経 済 規 模 を達 成 し、 潜 在 的 に は世 界 最 強 国 で あ る こ とが 自他 共 に 認 識 さ れ た 米 国 が 、 国 際 政 治 の 場 で実 際 に最 強 国 と して の リー ダ ー シ ッ プ を発 揮 し始 め るの は20世 紀 も半 ば に な ろ う と して い る時 だ った 。 そ の 間 、 覇 権 国 と
して の能 力 を失 っ た 英 国 と、 覇 権 国 と して の 意 思 を 持 た な い 米 国 の 下 で 、 国 際 政 治 経 済 秩 序 は不 安 定 化 す る。 結 局 、 米 国 は二 度 の 世 界 大 戦 を 経 た 後 に 、 そ の 伝 統 的 な 外交 に お け る孤 立 主 義 を 克 服 し、 覇 権 国 と して の意 思 と責 任 を 自覚 す
ね ラ
る。 この こ と は、 そ の 国 際 政 治 上 の パ ワー の 拡 大 に伴 い 中国 が 責 任 あ る大 国 と して 振 舞 う よ うに な る に は、 タイ ム ラ グ が あ り う る こ とを示 して い る。
日本 外 交 の 視 点 か ら米 中 間 の パ ワ ーバ ラ ン ス の戦 略 的 調 整 過 程 を眺 め る とき 、
あ る種 の 矛 盾 した 困 難 さ に直 面 す る。 す な わ ち 、 一 面 で は、 米 中 間 の 調 整 は 、
国 際政 治 シ ス テ ム の覇 権 国 家 の交 代 プ ロセ ス で あ り、 リー ジ ョナ ル パ ワ ー で あ
るE1本 の 能 力 が及 ば な い レベ ル で進 行 す る プ ロセ ス で あ る。 そ の 一 方 で 、東 ア
ジ ア地 域 に お け る米 中 間 の バ ラ ン ス と言 う側 面 にお い て は 、 日本 の ポ ジ シ ョ ン
は、 決 定 的 な重 要 性 を もた らす 。 要 す る に、 米 中 関 係 は 、 その 展 開 に 日本 外 交
が 主 体 的 に影 響 を 与 え よ う とす る に は 重 す ぎ る課 題 で あ る一 方 、 所 与 の 条 件 と
み な して 受 動 的 な 対応 だ け で は 不 十 分 と言 う、 きわ めて 対 処 の 難 しい 課 題 とな
る。 こ の よ う な状 況 を 鑑 み る と き、 米 中 の 戦 略 的パ ワー バ ラ ンス を 、 束 ア ジ ァ
の 多 国 間 枠 組 み形 成 とい う地 域 秩 序 の 視 座 か ら眺 め る こ とは 、E1本 外 交 が 取 り 得 る ひ とつ の 方 向 性 で あ ろ う。
(2)東 ア ジ ア 地 域 の 多 国 間 経 済 機 構 の 発 展
二 番 目 の重 要 な要 素 は 、 東 ア ジ ア地 域 の 多 国 間 経 済機 構 の発 展 の ペ ー ス で あ ろ う。 現 時 点 に お い て 、 東 ア ジ ア を国 際 政 治 上 意 味 の あ る地 域 と して認 識 せ し め て い る もの は、 同地 域 の 急 速 な 経 済 発 展 と それ に伴 う同地 域 内 諸 国 間 の 経 済 的相 互 依 存 の 深 化 で あ る。 未 だ存 在 しな い 東 ア ジ ア 地 域 の 多 国 間 安 保 機 構 に 関 して 活 発 な議 論 が な され て い るの は、 継 続 的 な経 済 発 展 の前 提 条 件 で あ る安 定 的 な 地域 秩 序 の維 持 に 、地 域 諸 国 が 共 通 の利 益 を 見 出 して い るか ら こ そで あ る。
近 年 は、 東 ア ジ ア共 同 体 と言 う言 葉 がASEAN+3や 東 ア ジ ア首 脳 会 談 の 際 に発 表 さ れ る声 明 文 に頻 繁 に含 まれ る よ う に な っ て い るが 、 そ の ア イ デ ア は 常 に、1997年 の ア ジ ア 金 融 危 機 以 降 に進 展 し、 深 化 して きた 東 ア ジ ア 地 域 諸 国 間
'LI)
の 経 済 的 協 力 の 延 長 線 上 に位 置 づ け ら れ て い る。 同 じ 時 に 開 催 さ れ た 日 ・ ASEAN首 脳 会 談 で も、福 田 首 相 は 、 東 ア ジ ア 経 済 統 合 の 推 進 へ の 日本 の 協 力 を表 明 して い る。
この よ う な東 ア ジ ア多 国 間 協 力 に お け る経 済 協 力 問 題 へ の 集 中 は 、 協 力 可 能 な分 野 で の 実 績 を 積 み重 ね る こ とに よ って 信 頼 関 係 築 き、 協 力 分 野 を拡 大 す る 機 能 主 義 的 ア プ ロー チ と理 解 で き る。 しか し、 そ の機 能 主 義 的 ア プ ロ ー チ は ま た、 複 雑 な安 全 保 障 問 題 を地 域 対 話 に持 ち込 め ば 、 た ち ま ち 、 進 展 が 可 能 な経 済 社 会 的 問 題 分 野 に お け る東 ア ジ ア諸 国 間 の協 力 も困 難 に な る と言 う現 実 を も 示 して い る。 同 地 域 に お け る多 国 間 安 保 機 構 の 実 現 が 短 日 月 の 間 に は期 待 しに くい 現 状 を見 れ ば、 今 後 も 同地 域 の 安 保 構 想 は、 現 に 進 む通 貨 ・金 融 市 場 安 定 化 の 試 み や 自由 貿 易 協 定 の 増 加 等 を通 じた 多 国 間 経 済 協 力 の発 展 に 付 随 して展
開 され て い く と思 わ れ る。
(3)北 朝 鮮 問 題 の平 和 的 解 決 プ ロセ ス
安 全 保 障 問 題 を避 けて き て い る東 ア ジ アの 多 国 間 枠 組 み の 発 展 過 程 に お い て
ほぼ 唯 一 の 例 外 が 、 朝 鮮 民 主 主 義 共 和 国(以 下 、 北 朝 鮮)の 核 ・ミサ イ ル 問題
で あ る。 この 問 題 が 六 力 国協 議 と言 う北 朝 鮮 を含 む 周 辺 諸 国 の 多 国 間 枠 組 み で
東 アジア多国間安保枠組み と日本外交 7!
扱 わ れ て きた の は 、 三 つ の理 由 に よ る。 第 一 に、 北 朝 鮮 の核 開 発 は核 不 拡 散 体 制 と言 う グ ロ ーバ ル な 安 全 保 障 メ カ ニ ズ ム へ の 挑 戦 で あ り、 東 ア ジ ア の 金 融 危 機 に 端 を発 す る他 の東 アジ ア多 国 間 枠 組 み とは 異 な る脈 絡 で 発 展 して きて い る。
第 二 に、 核 不 拡 散 体 制 の 維 持 と言 う戦 略 的 必 要 性 か ら も、 ま た 北 朝 鮮 外 交 の 戦 略 ・戦 術 的 必 要 性 か ら も、 当初 か ら米 国 が 不 可 欠 な 参 加 国 で あ り、 「 米 国 外 し」
の 印 象 に神 経 を使 う東 ア ジ ア の 経 済 協力 枠 組 み とは 異 な る。 そ して 第 三 に 、 日 本 ・韓 国 ・中 国 の 三 国 に とっ て 北 朝 鮮 の核 開 発 は放 置 で き な い 深 刻 な安 全 保 障
上 の 懸 念 を もた ら して い る点 で あ る。
六 力 国 協議 は、 結 局2006年10月 の 北 朝 鮮 の 核 爆 発 実 験 を 防 げ ず 、 そ の 後再 開 され た 交 渉過 程 で も、 北 朝 鮮 の 既 存 の 核 施 設 と兵 器 の 申 告 の不 十 分 さが 指摘 さ れ 、 交 渉 の行 方 は予 断 を許 さ な い 。 しか し、 困 難 な 交 渉 過 程 を通 じて 、 六 力 国 協 議 は、 核 不 拡 散 を担 保 し、 更 に イ ラ ク攻 撃 後 の 米 国 の 二 正 而 作 戦 を避 け る と 言 う当 初 の 目的 を超 え て 、 将 来 的 な 東 ア ジ ア地 域 の 多 国 間 安 保 機 構 の 制 度 的 基
ゆ
礎 と して 期 待 を集 め つ つ あ る。 中 国 を議 長 国 と し、 地 域 の 主 要 国 が 全 て 参 加 す る6力 国 協議 は、 朝 鮮 半 島 の安 全 保 障 問 題 の み な らず 、 将 来 的 に 東 ア ジ ァ地 域 の平 和 と安 全 の 維 持 に 関 わ るあ らゆ る問 題 を取 り上 げ る機 構 と して 機 能 し うる。
た だ し、 その た め に は、 現 下 の 北 朝 鮮 の 核 問 題 の平 和 的解 決 と言 う重 い宿 題 を 、 同 協議 枠 組 み が 果 た す こ とが 前 提 とな る。 更 に 北 朝 鮮 政 府 に よ る 日本 人 拉 致 問 題 は 、 六 力 国協 議 の枠 組 み の 中 でE1本 政 府 が取 り う る外 交 の 選 択 肢 を狭 め て い る。 日本 に と って は、 六 力 国 協 議 が 進 展 して 、 朝 鮮 半 鵬 の 非 核 化 の 進 展 の可 能 性 が 高 ま るに つ れ て 、 米 ・中 ・韓 と足 並 み を そ ろ え る こ とが 圏難 に な る と言 う 矛 盾 した 状 態 に 置 か れ て い る。
(4)東 ア ジ ア 各 国 で 高 ま る ナ シ ョナ リズ ム
最 後 に 、 東 ア ジ ア各 国 に お け て 、 高 ま る ナ シ ョナ リズ ム を 如 何 に制 御 して行 け るか が 、 同地 域 の 多 国 間安 保 機 構 形 成 の 成 否 を左 右 して い くこ とに な る。2004 年8月 の サ ッカ ー ア ジ ア カ ッ プが 開 催 され た 中 国 で は、 日本 チ ー ム へ の ブ ー イ
ン グ に止 ま らず 、 日本 の 在 外 公 館 に 対 す る暴 動 へ と発 展 した。2005年2月 に は、
島 根 県 条 例 が 「 竹 島 の 日」 を 制 定 した こ と を契 機 と して 、竹 島 ・独 島 問 題 で 韓
国 の反 日世 論 は沸 騰 した 。 さ ら に、 近 年 は 中 国 と韓 国 の 間 に も、 古 代 史 の 解 釈
済 発 展 に伴 い 政 治 的 要 求 を活 発 化 させ る人 口の 増 加 が 予 想 され る。 ま た 、 急 速 に進 む経 済 の グ ロ ー バ ル 化 は 、 国 際 的 な投 機 に よ る原 材 料 価 格 の高 騰 や 貧 窩 の 格 差 の拡 大 を 通 じて 、 国 内的 な政 治 問 題 や 対 立 を深 刻 化 させ る傾 向 に あ る。
その よ うな 国 内 的政 治 問 題 に 対 す る フ ラス トレー シ ョン が 、 国 内 的 な レベ ル に 留 ま らず 、 対 外 的 な ナ シ ョナ リズ ム に転 化 した 場 合 、 東 ア ジ ア地 域 の 深 化 し た 経 済 的相 互 依 存 状 況 は、 返 っ て 国 際 的 な 摩 擦 や 対 立 を増 幅 させ うる。 地 域 の 経 済 的 発 展 を 支 え る安 定 的 秩 序 維 持 の必 要 と言 う実 利 的 な契 機 で 開 始 され た共 同体 形 成 の 動 き を、 如 何 に して 「 東 ア ジ ア 文 化 」 や 「 東 ア ジ ア 人 意 識 」 に 基 づ く共 同体 意 識 の 芽 生 え に 繋 げ て行 け る か が 、 今 後 の 同 地 域 の 多 国 間 安 保 機 構 形
Z1)
成 過 程 に お け る大 き な課 題 と して 指 摘 さ れ る所 以 で あ る。
長 引 く経 済 不 況 に あ え ぐ 日本 も、 抽 象 的 な ナ シ ョナ リズ ム の 議 論 や 、 浅 薄 な 国益 議 論 に よ っ て世 論 が 誘 導 され や す い状 況 に あ る と言 え よ う。 小 泉 首 相 の 靖 国 神 社 参 拝 に 対 す る 中 国 と韓 国 の 批 判 の高 ま りの 中 で 、 ナ ル シ ス ト的 な 歴 史 解 釈 を 開 陳 す る小 泉 首 相 へ の 支 持 が 高 ま っ た の は記 憶 に 新 しい。 また 、 安 部 前 首 相 の 掲 げた 「 美 しい 国 」 とい うス ロ ーガ ン も、 政 策 的 内 容 を充 実 させ る よ りも、
抽 象 的 な 国 家 意 識 、 国 民 意 識 に訴 えか け る手 法 で あ っ た 。 そ の よ うな政 治 的 ス タ ン ドプ レー を意 識 的 に避 け 、実 務 家 的 イ メ ー ジ を 打 ち 出 そ う と した福 田 首 相 の 支 持 率 は 、 就 任 後 の 経 済 的 苦境 の 深 刻 化 の 中で 急速 に下 が り、 回 復 の 目処 が ま った く立 た な い状 況 で あ る。
目覚 しい 経 済 成 長 の 下 で 貧 富 の 差 が 急速 に 拡 大 す る 中国 に お い て も、 ま た 日 本 と同 じ よ うに原 材 料 価 格 の高 騰 に苦 しむ 韓 国 にお い て も、経 済 的不 満 が ナ シ ョ ナ リズ ム と結 び つ い て 、 排 外 感情 に結 び つ きや す い 状 況 に あ る と言 え よ う。 中 国 は、 北 京 オ リ ン ピ ッ ク を迎 え て 、 ナ シ ョナ リズ ム の 高 ま りの 対 象 を得 て 、 排 外 感 情 は一 時 停 止 した 状 況 で あ るが 、 オ リン ピ ッ ク後 の 状 況 は 定 か で は な い。
韓 国 で は 、 狂 牛 病 の 恐 れ の あ る米 国 産 牛 肉 の 輸 入 反 対 を掲 げ て 、 米 韓 自 由貿 易 協 定 の再 協 議 を 求 め る大 規 模 な 示 威 運 動 が2008年4月 か ら2ヶ 月 以 上 も続 い て い る。 こ の動 き は 、 「 食 の 安 全 」 を 前 而 に出 して は い るが 、 韓 国 政 治 の 中の 反 米 的 感 情 や 、 経 済 不 況 の 中 で の 排 外 感 情 も無 視 で きな い要 因 と して 作用 して い る。
これ らの 感 情 は、 領 土 問 題 等 を契 機 に 、 い つ で も東 ア ジ ア域 内 諸 国 同 士 の 感 情
東アジア多国間安保枠組 み と日本外交 73
的 衝 突 へ と発 展 し うる と言 え よ う。
東 ア ジ アの 多国 間 安 保体 制 と 日本:影 響 を与 え る二 つ の変 数
前 項 で は、 東 ア ジ ア の多 国 間 安 保 枠 組 み の 展 開 に 影 響 を与 え る 同地 域 の 国 際 情 勢 の 中 で 四 つ の ポ イ ン トを あ げ て議 論 した 。 この 項 で は 、 東 ア ジ ア の 多 国 間 安 保 枠 組 み の 展 開 に 対 す る 日本 外 交 を 決 定 す る二 つ の 重 要 な 国 内 的要 因 につ い て 分 析 を加 え る。 す な わ ち 、 日本 国 内 に お け る集 団 的 自衛 権 に 関 す る議 論 の 展 開 と、 い わ ゆ る歴 史 認 識 問 題 に つ い て で あ る。
(1)集 団 的 自衛 権 を巡 る議 論
東 ア ジ ア の 多 国 間安 保 体 制 構 想 を 日本 の視 点 か ら眺 め る時 、 まず 問 題 とな る の は、 集 団 的 自衛 権 を 巡 る 日本 国 内 の議 論 の 行 方 で あ る。 多 国 間 安 保 体 制 が 爽 効 性 を持 っ た め に は、 平 和 と安 全 を維 持 す る最 終 的 な 手 段 と して 実 効 的 な 実 力 行 使 の 担 保 が 必 要 とな るが 、 そ の よ う な集 団 的 実 力 行 使 を法 的 に 支 え る原 理 が 集 団 的 自衛 権 で あ る。
日本 国 憲 法 は、 そ の1947年5月 の 実 施 以 来 、 常 に改 正 が 話 題 とな っ て きた 。 特 に戦 争 放 棄 と戦 力 不 保 持 を定 め る憲 法9条 は 、 そ の改 正 論 議 の核 心 を 占 め て
きた。 憲 法 改 正 をめ ぐる論議 は 、 国際 社 会 の冷 戦 構 造 の 対 立 を反 映 させ て 、1950 年 代 に は深 刻 な政 治 的 対 立 を 日本 に もた ら した 。 そ の 対 立 が 、1960年 の 日米 安 保 条 約 改 正 で一 つ の ピ ー ク を迎 え る と、 以 来 日本 の 歴 代 政 権 は、 正 面 か ら憲 法 改 正 問題 を取 り上 げ な くな った 。 冷 戦 下 に お け る多 分 に イ デ オ ロ ギ ー 的 な 日本 の 安 全 保 障 論 議 に つ い て多 大 な エ ネ ル ギ ー を費 や す よ り も、 米 国 の核 の 傘 の下 で 保 障 され た 自 由 貿 易 体 制 の 中 で 、 経 済 発 展 を 求 め た 方 が得 策 で あ る と言 う考 え に よ る もの で あ る。 そ の後 、 軽 武 装 ・経 済 中心 の 吉 田 ドク トリン は、 冷 戦 後 の 日本 外 交 を 指 導 す る原 則 と して 定 着 す る こ とに な る。
吉 田 ドク ト リン の 下 で の 憲 法9条 の解 釈 は、 お お よ そ次 の よ う に ま とめ られ
る。 す な わ ち、 日本 は 憲 法9条 にお い て戦 争 放 棄 と戦 力 不 保 持 を 謳 うが 、 自衛
隊 と言 う実 質 的 な戦 力 を合 法 化 す る た め に 、 日本 政 府 は 自衛 戦 争 とそ の た めの
戦 力保 持 は合 憲 と言 う解 釈 を した 。 さ らに 、 この 苦 しい 解 釈 を 、 国 民 に納 得 さ
際 機 構 の 一 員 と して 集 団 的 自衛 権 の 行 使 に参 加 す る こ とは 、 違 憲 で あ る とい う 解 釈 を確 立 して きた の で あ る。
この よ うな解 釈 は、 日本 の 固 有 の領 土 を越 え た 周 辺 地 域 に お い て 平 和 と安 全 を維 持 して くれ る 「 寛 大 な 」 同盟 や 国 際 機 構 の 存 在 を前 提 とす る。 戦 後 の 日米 安 保 条 約 は、 冷 戦 時 代 を 通 じ て この よ う な 「 寛 大 な」 安 全 をn本 に提 供 して く れ た の で あ るが 、 冷 戦 後 は多 様 で 不確 定 な脅 威 に効 率 的 に 対 処 す るた め 、 日米 間 の機 能 的 な協 力 が 求 め られ る よ う にな っ た 。 そ の結 果 、 日本 の領 土 を越 えた 周 辺 地 域 に お け る 自衛 隊 の 活 動 が 求 め られ る よ う な、 従 来 の 「 集 団 的 自衛 権 行 使 は 違 憲 」 と言 う解 釈 か ら見 る と限 界 事 例 と も言 うべ き例 が 現 わ れ て い る。
この よ うな 背 景 の下 、 先 の 安 倍 政 権 は、 自身 の 祖 父 で あ る岸 信 介 首 相 が 掲 げ て 以 来 、 歴 代 政 権 が 久 し く避 け て 来 た 憲 法 の 改 正 を 、 政 権 の公 約 に掲 げ て 首 相 に就 任 した 。特 に安 倍 は 、 戦 争 放 棄 を定 め た 憲 法9条 が 、 日本 の 集 団 的 自衛 権 の行 使 を禁 じて い る とす る従 来 の 日本 政 府 の 解 釈 に 異 を唱 え た 。 彼 は 、 そ の よ うな 日本 を 国 際 社 会 に お け る 「 禁 治 産 者 」 に な ぞ らえ 、 集 団 的 自衛 権 は保 持 し て い る けれ ど も行 使 で きな い とい うE体 の解 釈 は 、 国 際 社 会 で 通 用 しな い と し、
za)
従 来 の 政 府 解 釈 の変 更 、 更 に は 憲 法9条 改 正 の必 要 を 訴 え た の で あ っ た 。 2007布7月 末 の参 議 院 通 常 選 挙 に お け る連 立 与 党 の大 敗 は、 結 局 、 一 ヵ 月後 の 安 倍 政 権 の 退 陣 に つ な が っ た 。 安 部 の後 を継 い だ 福 田政 権 は、 野 党 が 過 半 数 を 占 め る参 議 院 の下 で 、 と もあ れ 野 党 に も同 意 して も らえ る政 権 運 営 を強 い ら れ て お り、 連 立 与 党 内で す ら意 見 対 立 の あ る憲 法9条 の 問 題 を議 論 で き る状 況
に は な い 。
安 倍 の 退 陣 と共 に 、 日本 の 集 団 的 自衛 権 行 使 を め ぐる積 極 的 な議 論 も、 一 旦 具 体 的 な 政 治 課 題 で は な くな っ た。 安 倍 自身 は 、 先 の 参 議 院 選 挙 で 、 憲 法 改 正 問 題 を 争 点 とす る こ とを公 言 して い た 。 しか し、 実 際 の選 挙 は、 年 金 制 度 をめ ぐ る議 論 が 圧 倒 的 な 争 点 とな り、 安 倍 の 訴 え た 改 憲 が 国 民 の 審 判 を受 け た と は 言 い難 い。 一 体 安 倍 の改 憲 論 議 は どの 程 度 国 民 の 意 識 を 変 え て い た の か は 、 選 挙 結 果 自体 よ りも、 日本 国憲 法 成 立60周 年 に 当 っ た2007年 に行 わ れ た 各種 の 憲 法 に 関 す る世 論 調 査 を見 た ほ うが わ か りや す い 。
そ れ ら各 種 の 世 論 調 査 が 示 す と こ ろ に よれ ば、 冷戦 後 の 日本 の 憲 法9条 を巡
東 アジア多国間安保枠組み と日本外交 75
る議 論 に は 三 つ の主 要 な 意 見 が形 成 され て きて い る。 一 つ は 改正 派 とで も呼 べ る意 見 で あ り、 憲 法9条 を改 正 し、 集 団 的 自衛 権 行 使 を可 能 にす る主 張 で あ る。
二 つ 目 は 、 現 状 の憲 法9条 は維 持 して、 国連 の 集 団 的 措 置 へ の積 極 的 協 力 を可 能 にす る新 た な条 項 を 加 え る修 正 派 と も呼 べ る議 論 で あ る。 そ して 三 つ 目 は、
従 来 どお りの 憲 法9条 を そ の ま ま維 持 す る こ とを主 張 す る維 持 派 と も呼 べ る立
25)
場 で あ ろ う。
冷 戦 後 の 国 際 社 会 の 変 化 の 中 で 、 冷 戦 期 と比 べ 維 持 派 は少 な くな っ て きて お り、 「 憲 法 改正 が 必 要 か 」 とい う二 者 択 一 の 世 論 調 査 で は、 改 正 を 求 め る意 見 が 多 く示 さ れ て い る。 しか し、 この 「 改 正 を 求 め る意 見 」 に は 、 上 の9条 を め ぐ る改 正 派 と修 正 派 だ け で は な く、他 の新 しい 人 権 を憲 法 に加 え る こ とを 求 め る 人 々 も含 まれ て い る。 今 日 の 日本 で は、 安 倍 の 訴 え た よ うな集 団 的 自衛 権 行 使 の 積 極 的 な 推 進 派 は 、依 然 と して 少 数 に 留 ま って い る。 先 の 参 議 院 選 挙 は 、 憲 法9条 が 争 点化 す る こ とは無 か っ た が 、 国 際 に重 大 な 影 響 を及 ぼ す 憲 法9条 の 議 論 に お い て 、 国 民 世 論 か ら大 き く離 れ た ス タ ン ス を と ろ う と した 安 倍 政 権 の 敗 北 は 、 当 然 の 帰 結 で あ っ た。
結 局 、 安 倍 政 権 の下 で の 憲 法 改正 の 歩 み は 、 憲 法 改 正 の た め の 国 民 投 票 法 案 を可 決 し、 憲 法 改 正 の 手 続 き を整 え た に止 ま った 。 憲 法9条 を巡 る 日本 の 各政 党 の 立 場 に鑑 み る時 、憲 法 改 正 の発 議 に必 要 な 国 会 議 員3分 の2の 賛 成 は 、相 当 ハ ー ドル が 高 い と思 わ れ る。 さ ら に、 国民 世 論 の動 向 も、 憲 法9条 の見 直 し に つ い て は 多分 に慎 重 で あ る。 日本 領 土 へ の 外 国 勢 力 に よ る直 接 的 な 武 力 行 使 な ど、 か な り衝 撃 的 な事 件 で もな い 限 り、 集 団 的 自衛 権 を巡 る 日本 の 国 内論 議 が 短E1月 の 間 に 集 約 して 一 つ の 国策 と して の結 論 に至 るの は、 困難 な 状 況 で あ
ろ う。
(2)東 ア ジ ア の ア イ デ ン テ ィテ ィ形 成 を 阻 む歴 史 認 識 問題
次 に 、 多 国 間安 保 体 制 を構 築 す る場 合 、 そ の構 成 国 の 間 に 政 治 的 な 共 通 利 益
と信 頼 関 係 が 存 在 す る こ とが 前 提 とな る。 そ して 、 東 ア ジ ア の 多 国 間 安 保 を論
じ る時 、 日本 と東 ア ジ ア の近 隣 諸 国 の 間 に そ の よ う な共 通 利 益 と信 頼 関 係 が 存
在 す る の か 否 か が 問 われ る こ とに な る。 その 問題 を大 き く左 右 す るの が 、 い わ
ゆ る歴 史 認 識 問 題 で あ る。 日本 が 東 ア ジ ア近 隣 諸 国 と多 国 間 安 保 体 制 を築 こ う
とす れ ば、 当然 、 日本 に お け る歴 史 認 識 が 、 日本 の近 隣 諸 国 に も受 け 入 れ られ う る もの とな る こ とが必 要 で あ ろ う。 そ れ は 必 ず し も東 ア ジ ア諸 国 の 間 で い わ ゆ る歴 史 認 識 が 完 全 に一 致 す る こ とを求 め る もの で は な い が 、 一 方 で 、 互 い が 正 義 と信 ず る認 識 が 正 反 対 で あ る よ うな場 合 、 多 国 間 安 保 体 制 の 構 築 は そ もそ
も不 可 能 とな る。
今 日 の 日本 とア ジ ア近 隣 諸 国 の 間 で 歴 史 問 題 と して しば しば 浮 上 す るの は、
首相 や 政 府 首 脳 に よ る靖 国 神 社 参 拝 、 従 軍 慰 安 婦 と強 制 連 行 勇 働 の問 題 、 そ し て 幾 つ か の領 土 問 題 で あ る。 そ して 、 い ず れ の 問 題 に お い て も 日本 政 府 の 立 場 は 、 日本 の ア ジ ア近 隣 諸 国 、 と りわ け 中 国 並 び に韓 国 と、 先 鋭 な 対 立 を も た ら
して き た。
この うち特 に靖 国 神 社 参 拝 問題 は 、2001年 か ら5年 間続 い た小 泉 政 権 下 に お い て 、 日本 と中 国 ・韓 国 との 外 交 関 係 を 完 全 に冷 却 させ る原 因 とな っ た 。 靖 国 神社 参 拝 問題 は 、他 の 歴 史 認 識 問 題 と異 な り、 歴 史 的 資 料 を つ き合 わ せ て 事 実 を検 証 す る様 な 作 業 は あ ま り必 要 な く、 ひ と え に1945年 以 前 の 日本 の ア ジ ア各 国 に対 す る侵 略 行 為 を い か に 評 価 す るか に掛 か る問 題 で あ るだ け に 、 国 家 間 の 異 な る歴 史 認 識 が そ の ま ま国 家 間 の厳 しい 対 立 に繋 が る。 「 極 東 軍 事 裁 判 で 裁 か れ たA級 戦 犯 が 合 祀 され て い る靖 国 神 社 を、 日本 の 首 相 が 参 拝 す るの は、 日本 が 先 の戦 争 を真 蟄 に 反 省 して い な い証 拠 」 とす る中 国 や 韓 国 の 主 張 に 対 し、小 泉 前 首 相 は 靖 国 神 社 を参 拝 す る こ とで 「 心 な らず も戦 争 に 行 っ た人 々 を参 り、
不 戦 の 決 意 を新 た に す る 」 と繰 り返 した 。 論 理 的 に は 中 国 や 韓 国 の 批 判 の ほ う が 簡 明 で あ り、 小 泉 の主 張 はい か に もわ か りに く く、 誰 弁 との諦 りを免 れ な い と思 わ れ る。 しか し、 度 重 な る 中 国 や 韓 国 の小 泉 首 相 に よ る靖 国 神 社 参 拝 へ の 批 判 は 、 返 っ て 日本 国民 か らの 感 情 的 な 反 発 も招 い た 。 結 局 、 そ の 破 綻 した 論 理 か ら期 待 さ れ る ほ どに は 、 小 泉 の 靖 国 神 社 参 拝 に対 す る 日本 国 民 の 反 対 は強
くな らな か っ た 。
従 軍 慰 安 婦 と強 制 連 行 の 問 題 は 、 日本 の植 民 地 支 配 の 不 当 性 を 個 人 的 な 体 験
を通 じて 訴 え るた め 、特 に 反 日感 情 を強 く招 くも の で あ る。 日本 政 府 は 法 的 な
見 地 か ら、 中 国 と韓 国 との請 求権 の 問題 は、 それ ぞれ1972年 と1965年 の 条 約 に
よ っ て 国 家 間 で 解 決 済 み で あ り、個 人 に対 す る補 償 は 行 わ な い とい う立場 で あ
る。 この 日本 の 見 解 は 、 法 律 論 と して は 妥 当 な もの で あ る。 さ ら に近 年 は外 交
東 アジア多国間安保枠組み と日本外交 77
資 料 の 公 開 に よ り、 特 に65年 の 日韓 基 本 条 約 締 結 時 に は 、 日本 政 府 は韓 国 人 個 人 へ の 補 償 を主 張 した の に対 し、 む しろ韓 国 政 府 が 国 家 レベ ル で の 補 償 を 要 求 した こ と も明 らか に な った 。 け れ ど も、 法 的 な責 任 とは 別 の 次 元 で 、 日本 の 植 民 地 支 配 に 対 す る道 義 的 責 任 は 存 在 し、 そ の よ うな道 義 的 責 任 が 問 題 と され て い る際 に 、 日本 が しば しば法 的 見 地 か らの 免 責 論 を 唱 え て き た こ とに よ り、 中
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国 や韓 国 に お け る反 日感 情 は近 年増 幅 して きた。 特 に従 軍 慰 安 婦 の 問 題 は、1965 年 の 日韓 基 本 条 約 締 結 時 に充 分 に 取 り上 げ られ て お らず 、 ま た 問 題 の 性 質 上 被 害 者 の 女 性 が 自分 達 の 被 害 を公 に しに くか っ た こ とへ の 同情 も集 ま っ て 、1990 年 代 以 降 、 韓 国 や 中 国 等 の 問 題 の 当 事 国 だ けで は な く、 広 く国 際 社 会 か ら糾 弾
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