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A study on the strategy development of an international cooperation in the fi eld of health

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(1)

[はじめに]

開発途上国への医療協力の必要性は人道的支援の観 点、また、我が国の安定と発展を支える人間の安全保障

の観点

1

からも論を待たない。しかし、善意があるだけ で効果的な協力を行うことは不可能であり、充分に対象 を分析し、その結果に医学・公衆衛生学的知見を合わせ 考察し、方針を作成することが必要となる

24

。この方 針を活動に十分に反映させるためには、プロジェクトマ ネージメント能力を持つことも重要なコンピテンシーと して挙げられる。また、現地スタッフと共にプロジェク トを運営するためには、対象となる国の歴史的背景や文 化の理解も必要となる。

内戦終結後のカンボジア王国に対し、 我が国は、 日本開発援助を用いた医療協力活動として、 1995 年より 現在に至るまでカンボジア国立母子保健センター ( National Maternal and Child Health Center: NMCHC ) の 建設と医療技術支援を継続している。本研究では NMCHC を対象として、 診療と臨床検査室の活動を分析し、

今後の医療支援の方策を検討した。その結果、 ①一人あたりの国民総所得は 1998 年の 253 ( $US ) から 2012 年には 984 ( $US ) と 3 倍以上増加し、経済発展を背景として、妊産婦死亡率は 1998 年の 470 / 10 万人から

2012 年には 250 / 10 万人に減少しており、保健衛生環境の改善が示され、更なる医療の質の向上が期待され ている。② NMCHC での検査利用率は、 1999 年から 2011 年まで 20% 前後でほぼ横ばいであり、 診療科別で は外来妊婦管理初診で診療時に血算 ( RBC / WBC / Hb / Plt )、 尿検査、 梅毒検査、 HIV-Ab 検査がパッケージと して料金に組み込まれているため検査利用率が 100 %近くあったが、 入院を含む他科の臨床検査利用は低かっ た。③検査利用頻度の高い血算、 Ht 、尿検査、血液型、出血時間、 HIV-Ab 検査は医師からの信頼が高かっ たが、医師が検査室で行える検査を把握していないこともあり、臨床検査の利用を促すためには、臨床検査 室から検査値の信頼性とデータと病態の関係を医師側へ伝える努力が必要であること明らかとなった。この 結果より、 NMCHC における医療の質の向上のためには、 1 ) 検査値および検査サービスを医師に信頼しても らうための精度管理を導入し、 その結果を医師へ提供すること、 2 ) 医師が診療に用いる検査について学ぶこ と、という 2 項を実施することが必要であり、これらの課題に対応した臨床検査室支援を行うことが効果的 であるとことが示唆された。以上のことから、経済発展に伴う医療の質の変化に対応するためには、技術支 援経年後に、 現状の再分析を行い、 技術フォローアップの実施を行うことが必須であることが明らかとなった。

連絡先:工藤芳子  ykudo@cis.ac.jp

千葉科学大学危機管理学部医療危機管理学科

Department of Medical Risk and Crisis Management, Faculty of Risk and Crisis Management, Chiba Institute of Science

( 2013

9

23

日受付,

2013

12

23

日受理)

開発途上国に対する医療支援の方策に関する検討

−カンボジア国立母子保健センターを事例として−

A study on the strategy development of an international cooperation in the fi eld of health

̶ The case of National Maternal and Child Health Center, Cambodia ̶

植田 麻佑子・工藤 芳子 Mayuko UEDA and Yoshiko KUDO

― 69 ―

(2)

2.対象施設分析

1999年から 2011 年までの NMCHC病院統計資料を分 析し、施設全体、入院診療と外来診療別来院患者数の経 年変化を検討した。各診療科における総受療者数に対す る総臨床検査実施数から、臨床検査の実施割合を算出す ることにより、NMCHC での医療における臨床検査の利 用状況を明らかにした。

3.臨床検査に対する医師の認識調査

2012 年 8 月に NMCHC 勤務医師全数である 64 人を対 象に、臨床検査に関する質問票を用いた自記式回収法に よる調査を実施した。調査実施にあたり、臨床検査室長 が対象者に検査項目に関する簡単な解説を行い、質問票 の記載法は現地における調査担当者がクメール語にて説 明を行い、 2 週間の記載期間を設けて回収を行った。質 問票はNMCHC 検査室で現行実施検査に推奨検査を加え た各臨床検査項目に対し、以下の四肢択一回答とし、特 記がある場合には自由記載とした。自由記載項目がクメ ール語記載であったものは、現地調査担当者が英語に翻 訳し集計を行った。

「 A  この検査はいつも信頼してオーダーしている」

「 B  この検査はいつもオーダーするが、 あまり信用して いない」

「 C  本当はこの検査を行いたいが、 オーダーすることが できない」

「 D  この検査はする必要がない」

4.カンボジア王国における周産期管理および分娩標準 指針に記載される推奨臨床検査実施項目の調査

カンボジア王国における周産期管理および分娩のプロ トコルが記載された 2000 年発刊の 「 Safe Motherhood As- sessmentand Management Protocols Referral Hospital」 と 2011 年発刊の 「 Safe Motherhood Clinical Management Pro- tocols Referral Hospital 」 に記載された臨床検査について 比較・分析し、現在のカンボジア王国の周産期医療方針 を分析した。また、現在のNMCHC で行われている臨床 検査利用状況と比較し、改善の方針を作成した。

[結果]

1.カンボジア王国の成長と現状

カンボジア王国の社会経済・保健統計指標を表 1 に示 す。 我が国が NMCHC支援を開始した直後の 1998 年から 2012 年までの 15 年間において、経済指標である一人あ たり国民総所得は 1998 年の 253 ( $US ) から 2012 年には 933 ($US) と 3 倍以上増加している。年度ごとの成長率 は 1994 年から 1996 年にかけて国民総所得が平均 6.1%

成長、 2004 年から 2007 年までは 10 %を上回り続けた。

2010 年には 6.0 %と成長率は低下したが、著しい経済発 本研究で対象とするカンボジア王国は、インドシナ半

島に位置し面積は日本の約 2 分の 1 弱の 18.1 万平方キロ メートル、人口は 1400 万人で日本の約 10 分の 1 である。

公用語はクメール語、仏教徒が 97 %を占める国

5

であ り、 2011 年度版世界開発報告においては、 「低所得国」 に 分類

6

される東アジアの国であり、 1994 年に東南アジア 諸国連合に加盟を果たしている。

カンボジア王国は 1887 年よりフランス領インドシナ 連邦となっていたが、 1953 年にフランスよりカンボジア 王国として独立した。この時代は安定した国勢であった が 1970 年から 1991 年にかけて内戦が続き、 特に 1975 年 から 1979 年の間のポル ・ ポト政権は極共産主義をとり食 糧増産を図るために近代科学・宗教・教育を否定し、国 民から財産・身分・家族を剥奪して農村への強制移住と 農業従事を課した。また多くの知識人は反逆の恐れがあ るとされて粛清され、これによりカンボジア伝統の政 治・文化・教育は失われた

7

。その後 1980 年代後半から カンボジアでは和平を模索する動きが活発化し、 1991 年にカンボジア和平パリ協定締結され、近代カンボジア 王国の歩みが開始した。

これを受け日本は 1991 年から多分野でカンボジア王 国の支援を開始し、特に医療支援は人道的意味からも初 期より専門家派遣による活動を開始した。日本国政府が カンボジア国に行っている医療支援の 1 つの柱は、 Mil- lennium Development Goals: MGDs の課題

8

である 「母子 保健事業」 への支援がある。カンボジア王国保健省と日 本の調整の上、 1997 年より日本は地域の母子保健医療 の質の向上の拠点となる国立母子保健センター ( National Maternal and Child Health Center: NMCHC) の建設と医療 技術支援を開始した。 NMCHC は、カンボジア王国母子 保健医療における最上位医療機関として設定されてい る。現在も 「助産師教育」 を課題として、 医師、 助産師を 専門家派遣し、無償資金協力による施設建設を含む活動 を継続している

9

。 臨床検査部門への技術支援は 1997 年 より専門家が派遣されていたが、 2004 年以降の介入は 行われていない。

本研究では NMCHC を対象として、臨床検査室活動支 援のための方策を検討するために、現状を分析し検討・

考察した。

[方法]

1.対象国分析

国連開発計画 ( United Nations Development Programme : UNDP )

1018

、国 際 連 合 児 童 基 金 ( United Nations Chil- dren's Fund: UNICEF)、 世界銀行 (World Bank: WB)、 カン ボジア王国政府発表資料

19

の統計資料からカンボジア 王国の社会経済、保健指標変化を調査した。

― 70 ―

(3)

おおよそ全員の受診者が上記検査を受けていた。時間外 外来診療では 1999 年より 2008 年まで検査実施率が 20%

前後であったが、 2009 年から利用率が 65.8 %に上昇し た。時間外外来診療で主にオーダーされる検査は血算、

血液型 (ABO,Rh)、出血時間、尿検査であった。

入院診療では、 1999 年に約 20 %の受療者が臨床検査 を用いた診療を受けていたが、 2001 年より減少傾向に なり、 2011 年には 3.7 %と大多数の診療で臨床検査を用 いていない。入院診療には、産科病棟、婦人科病棟、

ICU 、 NCU 、手術室が含まれる。

展の時期となっている。この経済的成長を背景として、

教育および保健指標も改善が見られる。

基礎教育指標である初 ・ 中 ・ 高等レベル総就学率は 60 % で大きな変化はないが、全体の就学年数は、 1995 年の 5.5 年から 2012 年には 5.8 年と改善が見られる。それに 伴い 15 歳以上成人識字率は 1998 年の 65 %から 2012 年 には 77.6 %と短期間での改善が示された。

保健指標では、出生 1000 人あたりの乳幼児死亡率が 1998 年の 104 人から 2008 年の 69 人と改善されている。

同様に出産 10 万件あたりの妊産婦死亡率は、 1998 年の 470 人から 2012 年には 250 人と大きな改善が示され、 そ れに伴い出生時平均余命も 1998 年の 53.5 歳から 2012 年 には 63.1 歳と延長が示された。

2. NMCHC における患者数推移と検査利用状況 1999 年から 2011 年までの 1 年間の NMCHC利用患者 数を図 1 に示す。外来総患者数は 1999 年には約 30,000 人 であり、 2003–2005 年に約 48,000 人に増加したが、 2006 年には 38,000 人に減少し、 2009 および 2010 年には更に 減少したが、 2011 年には 2006 年と同数台に回復してい た。入院総患者数は、ベッド数上限があるため、おおよ そ 10,000 人で 1999 年より推移してきたが、外来患者数 と同様に 2009 年および 2010 年は減少傾向にあったが

2011 年に回復している。

図 2 に臨床検査の利用率を示す。利用率は臨床検査が 受けた総検査依頼数を診療科ごとの総患者数で除して算 出した (総検査数/総患者数)。

外来における周産期管理初診では、診療に血算 (赤血 球数 /白血球数 /ヘモグロビン /血小板数)、尿中タンパ ク定性検査、梅毒抗体検査 ( RPR 法)、 HIV- 抗体検査が パッケージとして料金に組み込まれているため外来受診 をすると自動的に検査が依頼されるため、全期を通して

表1 カンボジア王国における社会経済・保健指標

#: 15

歳以上成人識字率

1 4

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図1  NMCHC における受療者数変化

図2  NMCHC における臨床検査利用率変化

3 4

0 1 2 3 4 5 6 7

1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011

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― 71 ―

(4)

80 %以上を 「信頼高」、 60-79 %を 「信頼中」、 それ以下を

「信頼低」 として臨床検査分類ごとの検査項目を示した。

「赤字」 で示した検査項目は、統計資料より 2011 年度に 検査依頼数が多い項目を示す。

「信頼高」 とした検査項目は、血算、ヘマトクリット、

3.臨床検査に対する医師の認識

質問票を用いた臨床検査に対する医師の認識調査で は、 NMCHC 勤務医師 64 人のうち 54 人から回答を得た

(回収率: 84.4 %)。表 2 に調査票で 「 A :この検査はいつ も信頼してオーダーしている」 と回答した医師の割合が

表2  NMCNC における臨床検査項目に対する医師の信頼度

2 4

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― 72 ―

(5)

査、血中グルコース定量検査、血液型は NMCHC で活用 されていたが、臨床化学検査、免疫学検査はあまり利用 されていなかった。

調査における利用されていない検査に対する医師の評 価には、「検査の質に限界がある」 「技術の向上が必要で ある」 との記載があった。

[考察]

我が国の政府開発援助により 1995 年から開始されたカ ンボジア王国における母子保健事業は、 2013 年で 19 年 が経過する。その間、 技術協力事業は、 母子保健プロジェ クトフェーズⅠから、現行の助産能力強化を通じた母子 保健改善プロジェクトまで、 4 つの技術協力プロジェク ト

22

と無償資金協力による施設 ・ 機器供与

23

を行ってき た。この間、技術協力活動対象は変化をし、初期はプロ ジェクトオフィスを設置する NMCHCの病院運営に重点 が置かれていたが、近年は地方都市における助産の能力 向上に向けた活動を展開している。このため、 NMCHC における医療そのものに関する技術協力は、母子保健プ ロジェクトフェーズⅠおよびⅡの完了する 2004 年でお およそ完了しており、同年に NMCHC 臨床検査室に対す る技術協力を行う専門家派遣も終了している。

一方、カンボジア王国の経済は、表 1 に示される通り 急速な発展を遂げており、経済力を基盤とした公衆衛生 の向上が可能となり、それに伴い医療の質の改善も期待 されている。特に、 NMCHC 医療への介入が終了した 2004 年以降の経済発展は目覚ましく、 経済力を背景に医 療機器や試薬等の市場も拡充され、これは当時に導入可 能であった医療技術と現在期待される医療技術が異なる ことを示している。これは、 周産期管理指針内容が 2000 年版から 2011 年版で大きく変更され、 導入されるべき医 療技術が増加し、特に臨床検査に関しては 「設置必須臨 床検査」 を記載していることからも示唆され、 1995 年時 点に比して現在は高度医療を NMCHCでは期待されてい ることとなる。

1999 年から 2011 年までの NMCHC における診療活動 は、 入院診療はベッド数に上限があるために2005 年まで はおおよそ一定であったが、その後、やや減少傾向にあ り 2011 年に増加に転じている。 同様に、 外来診療は 1999 年より増加傾向にあったが2005 年をピークに減少に転 じ、 2011 年にやや回復が見られている。この受療者数増 減の原因調査はされていないが、施設利用者の NMCHC の評価や期待が反映されていると考えられる。

臨床検査データは、現代医療 ; Evidence Based Medicine では欠かせないものであるが、開発途上国では十分に臨 尿中タンパク定性試験、尿中グルコース定性試験、血液

型等であり、実際に検査依頼数の多い検査項目であっ た。 「信頼中」 「信頼低」 の区分の検査項目は検査依頼数も 少ない傾向にあった。

一方、NMCHC検査室で実施可能な検査項目の中で、

ヘマトクリット、血液型を除くすべての検査項目に 「 C : 本当はこの検査を行いたいが、オーダーすることができ ない」 とした医師が 1 名以上いたことは、現行の実施可 能検査項目を把握していない医師が存在することにな る。現行では NMCHC 検査室で実施していないが、新規 に導入を希望する検査項目の要望の記載は無かった。

4.カンボジア王国の周産期管理・分娩における検査実 施プロトコル

カンボジア王国における産科医療の標準化をめざし The United Nations Population Fund :UNFPA が支援を行い 2000 年 「 Safe Motherhood Assessment and Management Protocols Referral Hospital 」

20)

が発刊された。その内容は、

大項目として周産期管理、分娩、産後の母子のケアに分 かれており、それぞれの正常時ケアと疾患を伴う場合の 対処方策が記載されている。 2011 年発刊の 「 Safe Mother- hood Clinical Management Protocols Referral Hospital」

21)

は、

UNFPA と World Health Organization: WHO の支援で作成 され、 2000 年版の内容に疾患予防管理と早期発見 ・ 治療 のために確認すべきこと、妊婦やその家族に対するアド バイス法やカウンセリング法が盛り込まれた。更に、扱 われる疾患が増え、大項目も妊娠中絶に関するケアが新 たに記述された。また、 2000 年度版には、 臨床検査につ いては 『if available:もし、できるのならば』 行うと記載 されていたが、 2011 年度版では Referral Hospital でそろ えておくべき医療設備および検査内容が明記されている。

表 2 の で示した項目は、 2011 年度版における母 子保健診療で実施することが指定された臨床検査項目で ある。

2011 年度版に記載されている周産期管理の検査 7 項

目の内 NMCHCではマラリアを除く 6 項目は頻繁に行わ

れており、医師への調査結果においても医師の信頼度が 高い項目であった。マラリアの実施回数が少ないのは NMCHCが設置されている首都プノンペンではマラリア の感染機会が稀であるためと考えられる。

周産期管理で疾患が疑われるときの追加検査項目につ いては、NMCHC では微生物検査はほとんど行われてい ない。検査室内に微生物検査の施設はなく、外注検査と なっている。輸血用のクロスマッチは NMCHC で行われ ていないが、輸血対応時には、患者血液を持参し国立輸 血センターへ赴き、血液パックを受領する時にクロスマ ッチを行い受領するシステムとなっているためである。

出産後診療における指定検査項目の中で、 HIV 抗体検

― 73 ―

(6)

示す通り血算等の基礎的検査は頻回にオーダーがあり、

その結果を信頼されているが、臨床化学検査の信頼度は 低かった。また、顕微鏡を用いた形態的検査となる帯下 の直接検査や微生物検査も信頼が低かった。

現在、カンボジア保健省は、 WHO 等ドナー

25

と協力 しながら臨床検査室の質の向上に向けた方針を作成し、

外部精度管理制度を含む活動をパイロットプログラムと して少数の上位病院で実施が始まっている。 NMCHC 検 査室も本プログラム対象施設として、臨床化学検査およ び血液形態検査のサーベイに 2013 年 4 月より参加して おり、今後は、このデータを用いた検査値の信頼性を医 師側へ積極的に提供することにより、検査利用を促す一 因となることが期待される。また、現在では実施されて いない内部精度管理を導入し、検査値の信頼性を向上さ せることも必要であることが示された。

[まとめ]

医療支援全期間の初期に行った臨床検査室への介入に より設定された臨床検査項目の実施は、経年後も医師よ り信頼を得て実施されていたが、それ以外の診療は問診 や症状による診断が行われていた。臨床検査を適切に利 用した Evidence Based Medicine を基礎として医療の質の 向上のためには、 1 ) 臨床検査の質の向上を行う㱺その評 価として内部 ・ 外部精度管理を実施する、 2 ) 精度管理デ ータを用いて、各臨床検査データに対して医師から信頼 を得る、 3 ) 医師が診療に用いる検査について学ぶ、 とい う段階が必要であることが明らかになったので、これら の課題に対応した臨床検査室支援を行うことが効果的で あると思われる。

以上のことから、医療支援活動初期に行われた活動を 効果的に維持 ・ 発展させ医療の変化に対応するためにも、

社会経済状況の変化に対応した技術フォローアップの実 施が必須であることが明らかとなった。

本研究は、 2012 年度千葉科学大学教育研究費により 実施された。

[参考文献]

1 .

人間の安全保障委員会:安全保障の今日的課題 人間の安 全保障委員会報告書.朝日新聞社,東京,

2003.

2 .

工藤芳子

国際医療協力入門第

3

回国際医療協力の枠組 み

2.

対象国の分析.

Medical Technology, 32 ( 6 ) , 589-591,

2004.

3 .

工藤芳子:国際医療協力入門第

4

回活動の概要

1.

保健政 策.

Medical Technology, 32 ( 7 ) , 719-722, 2004.

床検査を実施することが困難な場合に Symptomatic な診 断・治療の評価を行うことも散見される。NMCHCにお ける診療では、周産期管理初診以外の診療においては、

臨床検査の利用は極めて少なかった。

周産期管理初診における臨床検査実施がほぼ 100 %で ある理由は、診療料金に臨床検査費も含まれるパッケー ジ制としたために、受診者は自動的に臨床検査を受ける システムとなっているためである。 これは、 1999 年時点 で臨床検査技師専門家が妊産婦管理に必須検査項目の設 定と、その結果による医療介入を要する妊婦の抽出効果 を検討し、医師と協議して導入を決定した制度である。

一方、他の診療においては、臨床検査は診療費に含まれ ておらず、医師が検査を必要とする時に患者が検査料を 会計課へ支払に行き、検査を実施するという積み上げ制 を導入している。

NMCHCにおいては、外来患者よりも複雑なケースが 予想される入院診療においても臨床検査利用が極めて少 なかった。本院の病床構成は、産科: 104 床、婦人科:

34 床が一般病棟で、これに ICU: 4 床、手術リカバリー:

8 床、 NCU : 16 床が設置されている。 2001 年に実施さ れた入院患者を疾病別グループに分類し各グループにお ける臨床検査の利用調査を行った結果

24

では、 産科入院 では、正常分娩群の検査導入回数 0.4 回、帝王切開を用 いた分娩群で 1.8 回であった。同様に、手術を含む婦人 科群で 3.2 回、 手術を含まない婦人科群で 1.5 回の検査を 検査実施であった。 診療費は、 手術を含む入院ケースは、

血液型、出血時間、凝固時間、ヘマトクリット、赤血球 沈降速度、尿中タンパク質定性、尿中グルコース定性試 験がパッケージ料金に含まれていたが、検査を実施して いないケースも報告されている。

図 2 に示す通り、入院診療における臨床検査の利用率 は減少傾向にあり、各疾病群における現在の臨床検査利 用= Evidence Based Medicine へのアプローチは 2001 年時 点と変化がないか、更に Symptomatic な診断・治療が増 加していることが予想される。現代のカンボジア王国で 目指す医療の質の改善のためには、 Evidence Based Medi- cine への転換のために何らかの施策が必要であることが 示唆された。

一方、外来における時間外外来診療における臨床検査 の利用率は、 2009 年より急増している。本件を含め、 臨 床検査の利用について病院長および医師長からは、 「 1995 年から勤務していた医師が、近年、定年退職を迎えた者 が多く、医師の入れ替えが生じていること」 が 1 つの要 因であるとの指摘があった。今後は、 2011 年度版の診療 指針に従い、医師研修を実施し、その中に臨床検査デー タと病態の関係を学ぶことも必要であろう。

一方、医師の臨床検査データに対する認識は、表 2 に

― 74 ―

(7)

  

http: // www.mofa.go.jp / mofaj / gaiko / oda / shiryo / hyouka / report / cambo2.html

 参照

( 2013-09-29 ) .

24 .

石塚文平

「発展途上国の母子保健医療における包括的料金

支払い制度を考慮した病院運営試案」 

2002

11

月   

http: // www.pfizer-zaidan.jp / fo / business / pdf / forum9 /

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 参照

( 2013-09-29 ) .

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4 .

工藤芳子:国際医療協力入門第

5

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2.

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5 .

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http: // www.

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( 2013-09-29 ) .

6 .

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 一灯舎

,

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9 .

国際協力事業団:カンボジア技術協力プロジェクト,助産 能力強化を通じた母子保健改善プロジェクト.

  

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参照

( 2013-09-29 ) .

10 . UNDP :「人間開発報告書  1997 」

国際協力出版会,東京,

1997

11 . UNDP :「人間開発報告書  1999 」

国際協力出版会,東京,

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12 . UNDP :「人間開発報告書  2000 」

国際協力出版会,東京,

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13 . UNDP :「人間開発報告書  2001 」

国際協力出版会,東京,

2001

14 . UNDP :「人間開発報告書  2002 」

国際協力出版会,東京,

2002

15 . UNDP :「人間開発報告書  2004 」

国際協力出版会,東京,

2003

16 . UNDP :「人間開発報告書  2005 」

国際協力出版会,東京,

2004

17 . UNDP :「人間開発報告書  2006 」

国際協力出版会,東京,

2005

18 . UNDP :「人間開発報告書 2007 / 2008 」

国際協力出版会,

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実質成長率

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 参照

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Protocols Referral Hospital, Cambodia, 2000.

21 . UNFPA ・ WHO : Safe Motherhood Clinical Management Protocols Referral Hospital, Cambodia, 2011.

22 .

国際協力事業団:

JICA

ナレッジサイト,医療保健、全プ ロジェクト一覧カンボジア.

  

http: // gwweb.jica.go.jp / km / ProjectView.nsf / VW0204011 0a?OpenView&Start=1&Count=1000&Expand=7.4&Rest rictToCategory=%E4%BF%9D%E5%81%A5%E5%8C%

BB%E7%99%82#7.4

 参照

( 2013-09-29 ) .

23 .

外務省:国際協力 政府開発援助ホームページ、報告書・

資料、カンボジア母子保健センター

― 75 ―

参照

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