【報 告】
ハンドボール授業における“ジャンプシュート”の 修正指導に関する事例報告
松木 優也*1,中村 真由美*2,前田 奎*1,池川 哲史*3
*1 京都先端科学大学 教育開発センター,*2 清泉女学院短期大学 幼児教育科
*3 京都先端科学大学 健康医療学部 健康スポーツ学科
A Case Study of Instruction in Jump Shots in Handball Classes
Yuya Matsuki
*1,Mayumi Nakamura
*2,Kei Maeda
*1,Tetsuji Ikegawa
*3*1
Kyoto University of Advanced Science, Center for Educational Development
*2
Seisen Jogakuin College(2-year), The Department of Early Childhood Education
*3
Kyoto University of Advanced Science, Faculty of Health and Medical Sciences, Department of Health and Sports Sciences
要 旨
本研究では,ハンドボールにおけるジャンプシュートの個別指導を事例として,非習熟者の技術 習得過程における指導実践を動感変容とともに記述し考察することで,教科体育におけるジャン プシュートの指導方法を考えるための新たな知見を提供することを目的とした.本研究の対象者 B は,筆者が A 大学にて担当した「ゴール型球技(ハンドボール)」の受講生であり,キャッチボー ルの時点ではボールを押し出すような投球がみられた.さらにジャンプシュートでは「踏み切り
(ジャンプ)」において振り上げ足が後方に伸びてしまい,「空中姿勢(バックスイング)」において 肘が肩よりも低く,「投球動作(シュート)」では押し出すような投げであった.これらを修正する ために,筆者は対象者 B に対し,「ベンチ上での空中姿勢保持」,「3 歩シュート」,「パスを受けてか らのジャンプシュート」の順に個別指導を行なった.その結果,どの局面においても動きの修正が みられたが,「パスを受けてからのジャンプシュート」では,それらの動きを上手く発揮できなかっ たことから,指導者は,対象者が複数の技術的課題を抱えている場合,個別性を踏まえながら優先 順位を設定し修正指導を行う必要性が示唆された.
キーワード:教科体育,動感変容,非習熟者,技術
Keyword: Physical education, Kinetic modification, Non-expert, Skill
Ⅰ 問題の所在と研究目的
教科体育授業の球技種目における技術指導につい ては,学習指導要領をもとに作成された指導教本等 によって,技術の習熟段階ごとに“目標となる動き”
が明示されている.そして指導対象の習熟度が低い 場合,指導者は学習者の運動経過を「見る」という ことを通して瞬時に評価し,技術上の問題点を見つ
け出し,適切な修正指導を行わなければならない.
投動作を例に挙げれば,バイオメカニクス的手法
1)や観察的動作評価法
2)を用いた研究によって, “目標 となる動き”が明示されてきた.しかし佐藤
3)は,
技術指導において対象者に次に行うべき課題を設定 し提示するためには,運動観察において学習者の動 きと目標となる動きの違いを観察するだけでなく,
学習者の“どんな感じで動いているか”という感覚,
いわゆる“動感”を観察する必要があることを指摘 している.さらに,山本
4)は,体育・スポーツ指導 に関わる研究の発展において,事象の普遍性を追求 する科学研究と,科学研究だけでは解明できない個 別性の問題を追求する実践研究の棲み分けを図るべ きだと指摘している.これらを踏まえると,指導現 場に有用な知見を提供するためには,バイオメカニ クス的手法や観察的動作評価法を用いた研究だけで なく,学習者の動感変化を対象とした個別事例研究 が必要であると考えられる.また指導経験の浅い指 導者が非習熟者の運動修正指導を行う場合,学習者 の動感を共有することが困難である.そういった観 点からも,非習熟者の技術習得過程における動感変 容を個別事例として提示できれば,類似する対象を 目の前にした指導者にとって転用可能な知見となり うる.
筆者が専門とするハンドボールにおいても,これ までプレーヤーの動感を対象とした研究が行われて きた.例えば,丸井ほか
5)は,女子大学生プレー ヤーを対象にアンケート型の集合調査法を用いて,
遅攻局面におけるバックコートプレーヤーの動感志 向性を明らかにしている.また,山田と中村
6)は,
女子大学トッププレーヤー(ゴールキーパー)のス カウティング能力,すなわち相手プレーヤーの動感 を見抜く能力について,借問(運動者に対したたみ かけるように質問する行為)を用いて究明している.
これらの研究では“競技スポーツ”におけるプレー ヤーの動感を対象としている.一方,教科体育にお けるハンドボールに関する研究では,小野
7)や中島 と三上
8)の研究など,授業実践の概要と成果を詳細 に報告したものは多く存在するものの,個々の学習 者が有する動感を対象とした研究は見当たらない.
そこで本研究では,ハンドボールにおける主要技 術の一つであるジャンプシュートを題材に,教科体 育における非習熟者に対する個別指導実践を動感変
容とともに記述し考察することで,教科体育におけ るジャンプシュートの指導方法を考える際の新たな 知見を提供することを目的とした.
Ⅱ 方 法 1.対象事例
本研究では,A 大学において 2020 年度秋学期に 筆者が担当した「ゴール型球技(ハンドボール)」の 授業の受講生 B(以下 B)に対する個別指導事例を 考察対象とした.なお,B の運動歴は水泳,陸上競 技であり,ハンドボールの競技経験はなかった.
2.ジャンプシュートの技術構造について
ジャンプシュートは,ハンドボールのゲームにお いて最も使用頻度が高いシュート技術であり,“走 る”“跳ぶ”“投げる”という動作が組み合わさっ た複雑な技術である
9).ジャンプシュートの局面は
「キャッチ(パスを動きながら受ける)」「踏み込み」
「踏み切り(ジャンプ)」「空中姿勢(バックスイン グ)」「投球動作(シュート)」と 5 つの局面によっ て構成されている.とりわけ,教科体育における指 導では,「踏み込み」を力強く行うこと,「踏み切り
(ジャンプ)」の際に肘と膝を上げる力を利用するこ と,「空中姿勢(バックスイング)」の際に肘を肩よ りも高く上げることが重要とされている
10).
3.事例の記述および呈示に関する手続き
指導実践については,筆者の内省を手がかりにし ながら「1.修正指導に至るまでに背景」「2.修正 指導」の 2 つに分けて記述して,図 1 に示した.内 省の際には,筆者が指導中に残した指導ノートや映 像を参考にした.また,個別修正指導において,筆 者は B に対して「どのような感じで動いていたか」,
すなわち動感に関する聞き取りを実施していた.聞 き取りはボイスレコーダーで録音しながら実施し た.また,特に重要だと感じた発言に対しては,質 問を繰り返して深く掘り下げて聞き出した.
①第2・3回目授業
2020年9月24日,10月1日
・2回目授業において、特 徴的なボールの投げ方を するBを発見。
・3回目授業において、Bの ジャンプシュートの「踏 み切り」「空中姿勢」
「投球動作に」課題があ ることに気づく。
・個別の修正指導を実施
②修正指導(1回目)
2020年10月21日
③修正指導(2回目)
2020年10月28日
・ジャンプシュートの課題 として、以下の局面の課 題を優先的に修正した。
踏み切り 空中姿勢 投球動作
・練習内容として、ベンチ 上での空中姿勢保持、3歩 シュートを実施した。
・パスを受けてからのジャ ンプシュートを実施した が、フォームが崩れてい たため、前回実施した3 歩シュートを再度実施し、
フォームの修正指導を行 なった。
図 1.ジャンプシュートの修正指導の流れ
B の発言については,技術習得過程における動感 変容について重要と思われる内容を適宜記述に加え た.その際,方言や言い間違いについては適宜修正 を加えた.さらに,読者に事例のリアリティが鮮明 に伝わるよう,適宜撮影した映像を連続写真として 編集し,それぞれ図に示した.なお,これらを事例 として呈示する前には,B 本人に発言内容が本人の 意図と異なっていないかを確認してもらった.
4.考察の観点
本研究では学習者の運動および筆者の指導実践に ついて,運動感覚意識の問題を解決していく学問で あるスポーツ運動学
11)の立場から考察した.この スポーツ運動学は〈主観/客観〉の一致を確かめる のではなく,むしろ〈主観〉の内部だけで成立する
「確信」(妥当)の条件を確かめることを問題の核心 とするフッサールの現象学
12)を基底に据えている.
すなわち,指導者の内省や学習者の動感といった「主 観性」を重要なものとして取り扱うことになる.本 研究はこのような視点から指導実践について考察す ることにより,筆者の指導の効果や B の動感変容か ら示唆されることを示した.
Ⅲ 事 例 呈 示 1.修正指導に至るまでの背景
(1)エピソード
2020 年 9 月 24 日,第 2 回目授業のテーマは「パ ス・キャッチ」であった.ハンドボールには状況に 応じた様々な種類のパスが存在する.本授業では肩 を軸に投げる(ショルダースロー)最も基本的なパ
ス技術であるオーバーハンドパスの指導に重点を置 いた.
第 2 回目授業では,ボールの握り方,バックスイ ングやフォワードスイングのコツなど段階的に指導 を行った.オーバーハンドパスのポイントはいくつ かあるが,なかでも特に重点的に指導したのは「肘 を肩よりも高い位置にあげること」である.なぜな ら,これはのちのち指導するジャンプシュートにお いても重要なポイントとなるためである.筆者が 2 人組でのパス練習(キャッチボール)を観察してい ると,肘が肩よりも低く,まるでボールを押し出す ように投げている左利きの学生,Bが目に付いた(図 2).「肘を高く上げるように投げてみよう」「手首の 外側を持ち上げるように」など個別に声かけをする ものの,改善がみられなかった.
第 3 回目授業のテーマは「ジャンプシュート」で あった.まず筆者が見本(図 3)を見せた後,各自 ボールを持った状態でゴールに向かわせ,フリース ローラインに右足を置くように指示,そこから左・
右・左(左利きの場合は右・左・右)とステップさ せジャンプシュートを打たせた(3 歩シュート).こ の際,B は振り上げ足(左足)が後方に伸びるような 体勢で低いジャンプから,肘が下がった状態でボー ルを押し出すような感じのシュートであった.
次に 7mT ライン付近に筆者がパスの出し手とし て立ち,そこへパスを出し走り込みながら再度ボー ルをもらってシュートを打たせた.初心者の場合,
パスを受ける方向とシュートを打つ方向を揃えて練 習させることで,視野の確保が容易になり,キャッチ
図 2.B の立位での投球
図 3.筆者のジャンプシュート
ミスが少なくなるためである.Bを除く14人のほと んどが,課題は見られるものの回数を重ねるごとに 上達していった.しかしながら B にとってはこの練 習も難しい様子であり,3 歩シュートでは打ててい たシュート自体,上手くボールをキャッチできない がために 3 回に 1 回程度しか打つことができなかっ た.この時,B も自分が周りに比べあまり上手くで きていないことに不安を感じている様子であった.
しかし,今後は個人戦術,グループ戦術指導も行う 予定であったため,授業時間内に各学生の個別の課 題に対し十分な修正指導を行う時間はなかった.そ こで第 4 回目授業終了直後,筆者は B に対し「授業 時間以外で空いている時間があったら,少しジャン プシュートの個人練習をしようか?」と聞いてみた.
すると,B は「ぜひお願いします」と答えた.そう して,毎週授業前日に 30 分から 1 時間程度,B に対 するジャンプシュートの個別指導を行なった.
(2)筆者の B に対する修正指導の考え方
筆者は B に対し「ジャンプシュートそのものの課 題」を克服しなければ「ゲームにおいて走り込みなが ら,味方のパスを受けてシュートを打つこと」がで きないだろうと考えていた.そこで,第一段階とし ては「3 歩シュート」を用いた反復練習によって,各 局面で見られる課題のうち, 「踏み切り(ジャンプ)」
「空中姿勢(バックスイング)」「投球動作(シュー ト)」を優先的に修正することを目指した.具体的に は,「踏み切り(ジャンプ)」において後方に伸びて しまう振り上げ足を正しく上げながら力強くジャン プすること,「空中姿勢(バックスイング)」におい て肘を肩よりも高く上げること, 「投球動作(シュー ト)」では押し出すような投げを振り切るような投げ へと修正することを目指した.
第二段階としては,走り込みながらパスを受けて ジャンプシュート練習を繰り返し行いながら,3 歩 シュートで身に付けた技術が発揮できるところまで 上達させることを目指した.
2.修正指導
(1)修正指導 1 回目「3 歩シュート」
1)映像確認による修正点の共有
2020 年 10 月 21 日,翌日に第 6 回目授業を控え たこの日,筆者はまず B の「3 歩シュート」をビデ オカメラで撮影し,一緒に映像を見ながら修正点を 共有することにした.練習に入る前に,まずは B が どんな感じでシュートを打っているのかを聞いてみ た.すると B は「授業で教わった通り,ジャンプし た後に左脚を上げるよう意識してます」と答えた。
また「とにかくフワーンとせず,真っ直ぐゴールに 向かっていくように投げる」ことを意識していたこ ともわかった.筆者がお手本(図 2)を見せた後,
B に 2,3 回「3 歩シュート」をさせ,改めて 2 人 で映像(図 4)を確認した時,筆者は B のシュート が「ジャンプと同時に左脚が振り上がってきていな いし,後ろに反り返ってしまっている…」「ジャン プと同時にシュートを打とうとしている,しっかり バックスイングができていないため,空中姿勢が安 定していない」ように見えた.しかし,筆者はその ことをすぐに B に伝えるのではなく,B 自身に映像 を見た感想を聞くことにした.B は,振り上げ足に ついては「左脚…全然上がっていないですね,なん か残っている感じに見えます」と答え,さらに「な んかジャンプが低いし,スピードも無いですね…」
と話した.つまり,この時点では,B は「踏み切り
(ジャンプ)」における課題は認識できているものの,
「投球動作(シュート)」における課題は認識できて いなかったと考えられる.そこで,「3 歩シュート」
の最初の課題として「振り上げ足(左脚)を高く上 げてジャンプすること」 「ジャンプと同時に左肘を高 く上げること」を設定した.B 自身も自覚している
“ジャンプが低いこと”を克服するには,下半身だ けでなく上肢を上手く使わなければならない.よっ て,高く跳ばせるには振り上げ足だけでなく「左肘 を高く上げること」を意識させる必要があった.
図 4.B のジャンプシュート(指導前)
2)ベンチ上での空中姿勢保持
B はジャンプが低く,本来空中でとるべき姿勢,
すなわち利き腕を肩よりも高く肘を上げ,非利き腕 を前方へ出す“半身の姿勢”が取れない不安定な状 態でシュートしていた.そこで「3 歩シュート」を 行う前に,ベンチをシュートエリア付近に置き,そ の上に片足立ちで空中姿勢を取らせてみた(図 5).
すると,最初は慣れない様子であったが「ジャンプ した後にこの姿勢になればいいんですね」と理解し た様子であった.
3)「3 歩シュート」での修正指導
実際に「3 歩シュート」を反復練習させながら,
振り上げ足の高さに注視しながら指導した.練習当 初,B の振り上げ足はジャンプした後,後方へ伸び てしまっていた.筆者は「もっと膝を真っ直ぐ上げ ながら跳ぶイメージで」と声かけした.それでもう まくイメージが掴めていない様子だったので,ボー ルを左手に持たせたまま,スキップをさせてみた.
スキップは手足の反動をリズミカルに使いながら行 う片足連続跳躍であるため,ジャンプと振り上げ足 を上手く連動させるきっかけになると考えたからで ある.その後,もう一度シュートを打たせてみる と,膝は上がるようにはなったものの,まるでもも 上げのように胴体に対し正面に上がってしまってい た.これでは空中で“半身の姿勢”が取れないので,
股関節を開くように横に上げることを伝えた.する と,振り上げ足は横に上がり,かつ半身の姿勢を取 りながらシュートを打てるようになった.
次に肘の高さについて意識させるように「ボール
を体の中心から外側に向けるイメージで,手首の外 側から上げてみよう」と声かけをした.すると,何 度か練習していくうちに,B 自身から「あー今の上 がってた!」とか,「下がった!」という声が聞こえ てきた.確かに再現性に乏しいものの,B は実際の シュートの出来を自分で感じることができており,
肘の高さについては修正できると感じた.しかし,
ここで筆者は大きな問題に気がついた.それは,一 度修正されたはずの振り上げ足が元に戻ってしまっ ていたことである.そこで,もう一度「振り上げ足 が上がっていないし,ジャンプも低くなっているよ.
もう一度足を上げるよう意識してみよう」と伝える と,再び B の振り上げ足が上がるようになった.し かし,B は「あー(肘が)下がった!」という声を 多く発するようになってしまった.これらのことか ら,筆者は B に対し,1 つの課題を意識させること によってもう 1 つの課題への意識が散漫になってし まうという特徴を持っていると感じていた.全体的 に少しずつ課題が修正されてきた(図 6)ところで,
初回の修正指導を終了した.
(2)修正指導 2 回目「パスを受けてからのジャン プシュート」
2020 年 10 月 28 日は前回の「3 歩シュート」の おさらいを行った後,走り込んでパスを受けての シュート練習を行った.授業の時と同様,B が走り 込みながらパスをキャッチできるのは 3 回に 1 回程 度であった.さらにキャッチできたとしても, 「3 歩 シュート」で習得したフォームでジャンプシュート を打つことはほとんどできなかった.その際,B は
図 6.B のジャンプシュート(指導後)
図 5.ベンチ上での空中姿勢保持
「ボールを取ることに集中すると,ジャンプシュート がめちゃくちゃになっちゃうんです…」と話してい た.また,キャッチできた場合に多かったのは,4 歩以上使ったジャンプシュートであった.筆者は,
キャッチした後のジャンプシュートの映像を B とと もに観察し,振り上げ足,肘,そして投げの修正点 をそれぞれ指摘した後,「3 歩シュート」を行わせ た.そのうち,肘についてはすぐに修正できたもの の,“半身の姿勢(投球方向に対し,ボールを保持し ていない方の肩を向けた姿勢)”をとれているにも関 わらず,ボールを押し出すような投げがみられた.
筆者は B に対し「投げるときは,左手を振るという よりむしろ右腕を引くようにすると上手くいく」と 伝えた.すると,少しずつ腕の振りは改善され,押 し出すような投げから,腕を振り切るような投げへ と変化していった.B も「先生に言われた通り,右 手を前に出して,引いてくることは意識できてきま した」と答えた.
その後,もう一度走り込んでパスを受けてからの シュートを打たせてみたが,やはりキャッチの精度 は改善されず,たまにキャッチした後のシュート フォームも不安定であった.
Ⅳ 考 察
1.B の技術習得過程における各局面の動感変容
(1)「踏み切り(ジャンプ)」
この局面における課題は,後方に伸びてしまう振 り上げ足を正しく上げながら力強くジャンプするこ とであった.個別指導の前,B は振り上げ足の意識 に対し「ジャンプした後に左足を上げるよう意識し てます」と話している.このことから,B は「踏み 切り(ジャンプ)」の局面ではなく,ジャンプした後 の「空中姿勢」で足をあげようという意識だったと 考えられる.筆者は,お手本は自らシュートを打っ て見せて,各局面におけるポイントを示していたも のの,それらの動きの目的を示していなかった.B のような習熟者に対しては, 「足を高く上げよう」と いった動きの説明だけでなく,「高くジャンプする ために」という目的を合わせて提示する必要があっ た.ただし,B の技術習得過程においてスキップを 行わせたこと,すなわち自動化された動きとして振 り上げ足を含む動作を行わせたことは,非習熟者に 対する指導として有用であったと考えられる.
(2)「空中姿勢」
この局面での課題は,肘を肩よりも高く上げるこ とであった.個別指導の前,B に対する聞き取りで は肘に対する意識は見られなかった.ただし「ジャ ンプが低いし…」という点に関しては自覚していた.
つまり,この時点で B の頭の中には肘を高く上げる という意識はなく,それが高いジャンプにつながる ことも認識していなかったと考えられる.これは,
動作の目的を提示していなかった(あるいは理解さ せていなかった)ことは,振り上げ足と同様の状態 であった.ベンチ上での空中姿勢保持を行わせると
「ジャンプした後に…」と話していたことから,B は 目標とする空中姿勢を理解できたと考えられる.こ のことは,肘が上がったり,下がったりしていること を自己評価できている点からも推察される.朝岡
13)によると,非習熟者は自分が意識もしていない,す なわち「どうなっているかもわからない」状態の場 合,何も考えずに運動を繰り返していくだけで,1 回 1 回の運動体験の良し悪しを身体が無意識のうち に評価し,もっと良い感じへと自らを導いていくと いう.これらのことから,本事例では,目標とする フォームを身体に覚えさせた上で反復練習する方法 が,学習者の動感意識の目的論的作用を促したと考 えられる.
(3)「投球動作(シュート)」
この局面における課題は,押し出すような投げを 振り切るような投げへと修正することであった.B は当初,投げについて「とにかくフワーンとせず,
真っ直ぐゴールに向かっていくように投げる」を意 識していた.つまり,身体の動かし方ではなく,自 らが志向するボールの動きを意識しており,結果と して押し出すような投げを生み出していたと考えら れる.その後,筆者が「投げるときは,左手を振る というよりむしろ右腕を引くようにすると上手くい く」という身体の動かし方を指導したことにより,B は「右手を前に出して,引いてくることは意識でき てきました」と答えている.そもそもシュートとい う技術は得点を取るための手段として存在する技術 であることは,大学生のみならず低年齢層の学習者 らも認識している.しかし,本事例の B のように,
得点したいという強い意志からかボールの動きに囚 われてしまい,身体の動きが適切でない学習者も存 在すると考えられる.これらのことから,非習熟者 の「投球動作(シュート)」における指導に関して は,彼らの動感を聞き出し,身体の動かし方よりも ボールの動きに意識が向いていないかを確認するこ とが適切であると考えられる.ただし,このことは,
学習者の意識がボールの動きに向くことを否定する わけではない.
2.複数の動きを同時に修正することのリスク
筆者が B に対して修正指導する際に感じた印象的
な事柄として, 「1 つの課題を意識させることによっ
てもう 1 つの課題への意識が散漫になってしまうと
いう特徴を持っている」ということが挙げられる.
このことは,2 回目の修正指導における B の「ボー ルを取ることに集中すると,ジャンプシュートがめ ちゃくちゃになっちゃうんです…」という発言にも 現れている.学習者にとって,思うような動きがで きたりできなかったりする段階は,あくまでできる ような気がするという受動的構成段階であり,今こ んな感じになっているという意識に基づいて能動的 に構成された動きではない
14).このような状態の時 には,ある動きに焦点化して指導した際に,これま で身に付きかけていた動きが消失してしまうリスク を秘めている.また,佐藤
15)は,バレーボールの アンダーハンドレシーブの指導を例に,「初心者に とっても最も肝心な技術は腕の操作」であり,「膝 の使い方が活きてくるのは,ボールをうまく弾く腕 の操作ができるようになってから」であると指摘す る.このことは,初心者に対する技術指導では,動 きの優先順位を踏まえながら順序立てて指導するこ との重要性を示している.本事例においても,肘の 高さに焦点化して指導した際,一度は修正された振 り上げ足が元に戻ってしまっている.つまり,筆者 自身,ジャンプシュート指導における運動課題の優 先順位を設定せずに指導してしまったことが,特定 の課題のみ“一時的に”克服される事態を招いてし まったとも捉えられよう.これらのことから,指導 者は,対峙する学習者が複数の技術的課題を抱えて いる場合,個別性を踏まえながら優先順位を設定し 修正指導を行う必要があろう.
Ⅴ お わ り に
本研究では,大学体育におけるハンドボール授業 を対象に,ジャンプシュートの非習熟者に対する 個別指導事例を動感変容とともに記述し,考察し た.本事例から得られた知見は,必ずしも全ての学 習者に当てはまる一般可能性を有してはいない.し かし,「目の前の対象にも当てはまるかもしれない」
と感じた指導者(および教育者)にとっては,転用 可能性のある知見として活用されることが期待され る.
付 記
※本論文を執筆するにあたり,本研究の対象となっ た学生には事例の報告と当時の映像を用いる承諾
を得ている.しかし,対象となった学生のプライ バシー保護の観点から大学名や学生に関しては
「A 大学」,「B」とした.
文 献
1) 小林育斗,阿江通良,宮崎明世 他:優れた投能力 をもつ小学生の投動作の特徴とその標準動作.体育学 研究,57:613-629,2012
2) 滝沢洋平,近藤智靖:投動作の観察的評価基準に関す る研究-小学校全学年児童の動作を対象として-.体 育科教育学研究,33(2):1-17,2017
3) 佐藤 徹(日本コーチング学会):コーチング学への 招待,102-109,大修館書店,2017
4) 山本正嘉:実践研究の考え方と論文の書き方,8-30,
市村出版,2018
5) 丸井一誠,明石光史,田中 守:ハンドボール競技 における動感志向性に関する一考察-遅攻でのバック コートプレイヤーに着目して-.福岡大学スポーツ科 学研究,39(1):27-41,2008
6) 山田永子,中村 剛:球技スポーツにおけるスカウ ティングの動感能力に関する研究-ハンドボール競技 のキーパーの能力性を中心にして-,スポーツ運動学 研究,30:1-20,2017
7) 小野浩由:低学年がハンドボールを楽しむために必 要な基礎感覚と指導の工夫-コーディネーショント レーニングを取り入れた実践-,ハンドボール研究,
13:50-59,2011
8) 中島和也,三上 肇:福井大学教育地域科学部附属 小学校の実践-4 年間のハンドボール型ゲームの実践 を通して-,ハンドボール研究,12:33-52,2010 9) 酒巻清治:ハンドボール 基本と戦術,22-23,実業之
日本社,2016
10) 鈴木一行:ステップアップ高校スポーツ 2019,128,
大修館書店,2019
11) 金子一秀:スポーツ運動学入門,48,明和出版,2015 12) 竹田青嗣:現象学入門,42,NHK ブックス,1989 13) 朝岡正雄:指導者のためのスポーツ運動学,105-106,
大修館書店,2019
14) 朝岡正雄:指導者のためのスポーツ運動学,108- 109, 大修館書店,2019
15) 佐藤 徹:指導者の運動感覚意識覚醒の意義と方法
-アンダーハンドパスの指導事例に基づいて-,ス ポーツ運動学研究,20:17-31,2007