Ⅰ.
序 論
アルコール依存症とは, 飲酒がコントロールできな くなる病気で, 多量飲酒や連続飲酒によって身体疾患 を引き起こし, 家族や身近な人間関係に深刻な影響が 生じることもある. 治療中の患者が12.7万人とされる のに対し
1), 疑いのある人は440万人, 今すぐ治療が必 要と考えられる人が80万人と推計されている
2). 疑い のある人や治療が必要と考えられる人に対して患者数 が少ないということは, アルコール依存症が病気とし て認識されていない可能性を示唆している. 岡田らが,
「アルコール依存症とは」 という質問に, 「病気である」
「意志の問題である」 「わからない」 という選択肢を設 定して実施した調査で, 「病気である」 と49.0%が,
「意志の問題である」 と44.1%が回答したと報告して いる
3). うつ病が 「怠けている」 と誤解されることが あるように, アルコール依存症を 「意志が弱い」 と考 えている人は多い.
ある分野に関する知識を持っていることをリテラシー という. メンタルヘルスリテラシーは 「精神保健に関 する知識の住民の認知状況についてフィールド調査に 基づき, 集団として定量化する手法
4)」 と定義される.
金子らは, うつ病について 「男性」 「教育歴が低い」
「抑うつ度が高い」 群でリテラシーが低いことを明ら かにした
5). アルコール依存症もうつ病と同じように メンタルヘルスの課題であり, 「病気である」 という 認識が治療の前提になるので, リテラシーを高めるこ とが治療につながると考える.
一方, アルコール依存症の治療は, 断酒を継続しな がら日常生活を送ることが中心となる. 小関はアルコー ル依存症患者とその家族を地域で支える取り組みを通 して, 「クライエントがその社会資源, とりわけ情緒 的な人間関係や定着した住まい, 安定的な就労や経済 力等々をどれだけ保持しているか否かが, 治療および 援助の内容よりも予後の良否決定の決め手になる
6)」 と述べているが, 回復の基本である断酒に至る過程で
*能代市二ツ井地域局市民福祉課
**秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻
Key Words: アルコール依存症リテラシー ソーシャル・キャピタル 自殺予防
要 旨
本研究は, アルコール依存症に関するリテラシーとソーシャル・キャピタルとの関連性を検証した. 調査は秋田県 N 市の20歳以上の全住民880人を対象に行い, 対象地域の人口に対する有効回答率は69.1%であった.
従属変数としてアルコール依存症に関するリテラシー<症例の理解><治癒の可能性><症例への対応>と飲酒習 慣, 飲酒量, 独立変数として基本的属性 (年代, 性別), ソーシャル・キャピタル<社会的サポート><信頼><互 酬性:社会の責任感・挨拶>との関連について, ロジスティック回帰分析を行った.
リテラシー<治癒の可能性:ある>には, 肯定的なソーシャル・キャピタル<社会的サポート, 信頼, 互酬性:挨 拶>と関連していた. リテラシー<症例への対応:相談以外の対応>には, 互酬性<社会の責任感:ない>が, 飲酒 習慣・飲酒量が多いことには互酬性<社会の責任感:ない>が影響していた. リテラシー<症例の理解>とソーシャ ル・キャピタルとの間には関連が無かった.
研究報告:秋田大学保健学専攻紀要22(2):47−56, 2014
アルコール依存症に関するリテラシーとソーシャル・キャピタルの関連
播 摩 優 子
*佐々木 久 長
**社会的関係性を喪失していることが多いと考えられる.
「アルコール健康障害対策基本法 (2014年6月施行)」
は, アルコール依存症が医療だけの問題ではないこと, また本人の努力に対する社会的支援の必要性を示唆し ている. ここに 「信頼」 「規範 (互酬性)」 「ネットワー ク (社会的サポート)」 等で構成されるソーシャル・
キャピタルが関連する可能性があると考えた. ソーシャ ル・キャピタルは 「人々の自発的協力関係を促進する ことにより, 経済の発展, 地域の防犯, 高齢者の孤立 防止, 健康寿命の延伸など, 個人や集団に利益をもた らす可能性がある
7)」 とされている. ソーシャル・キャ ピタルと健康の関係については多くの研究が蓄積され ているが, アルコール依存症に関連した指標での報告 は無い. そこで本研究では, 地域住民のアルコール依 存症に関するリテラシーとソーシャル・キャピタルと の関連性を検証することを目的とする.
なお, 本研究は平成24年度秋田大学大学院医学系研 究科保健学専攻修士論文に加筆・修正したものであり, その一部は既に公表している
8).
Ⅱ. 研究方法
1. 調査対象
秋田県 N 市内の A 地域 (人口990人:平成24年2 月1日現在の住民基本台帳より) の20歳以上の全住民 880人. 対象地域は573世帯, 60歳以上人口494人, 自 治会数は15, 主要産業は農業であった.
2. 調査期間:2012年3月1日〜31日
3. 調査方法
調査実施地域の健康推進員 (各自治会に1人) へ研 究概要を説明し, 地域住民への調査票配布を依頼した.
回答は対象者から直接郵送法によって回収した.
4. 調査内容
1) 基本的属性:年代, 性別, 家族構成について質
問した.
2) ソーシャル・キャピタル
社会的サポート
岩佐ら
9)により翻訳・作成された 「日本語ソー シャル・サポート尺度 短縮版」
10)を参考に質 問を作成した. 「私が困った時にそばにいてく れる人がいる」, 「私には普段の生活で何かに誘っ てくれる人がいる」, 「私には優しくしてくれる 人がいる」 について3件法で回答を求めた.
信 頼
カワチら
11)の 「一般的に人は信頼できると思 うか. それとも用心 (注意) をするのに越した ことはないと思うか」 について4件法で回答を 求めた.
互酬性 (地域に対する思い)
① 本橋
12)が作成したソーシャル・キャピタル を測定する5項目から, 「地域の人は子ども だけで危険なことをして遊んでいるのを見か けると注意するか (以下, 社会の責任感)」
について4件法で回答を求めた.
② 藤澤ら
13)が作成した質問の中から 「お互い に気軽に挨拶を交わし合う地域だと思うか (以下, 挨拶)」 の項目を用い, 6件法で回答 を求めた.
3) アルコール依存症に関するリテラシーと飲酒習
慣・飲酒量
本橋らが開発したメンタルヘルスリテラシーの 調査票
4), と新久里浜式アルコール症スクリーニ ングテスト
14)を参考に以下のとおりアルコール依 存症の症例を文章化し, 独自に作成した.
最近6カ月の間に, 酒が切れた時に, 汗が出 たり, 手が震えたり, いらいらや不眠など苦しく なる時があります. 飲んではいけない時, 場所, 場合でも飲酒してしまいます. 家族や友人に飲み すぎと言われたり, お酒が原因で人間関係が悪く なったことがあります.
このアルコール依存症の症例について, 病気と いう認識があるか (以下 「症例の理解」 とする), 適切な治療で治るか (以下 「治癒の可能性」 とす る), アルコール依存症と思われる人にどう振る 舞ったら良いか (以下 「症例への対応」 とする) のリテラシーに関する質問を行った. 「症例の理 解」 については, 「体の病気」 「心の病気」 「気の せい」 「わからない」 の4件法で回答を求めた.
「治癒の可能性」 については, 「なおる」 「なおら ない」 「わからない」 の3件法で回答を求めた.
「症例への対応」 については, 「特に何もしない」
「酒を少し控えるように言う」 「酒を飲まないよう に励ます」 「医療機関, 専門家への相談を勧める」
の4件法で回答を求めた.
飲酒習慣については, 「ほとんど毎日飲む」 「週
に3〜4回程度飲む」 「週1〜2回程度飲む」 「ほ
とんど飲まない」 から一つ回答を求めた. また飲
酒量については, 日本酒に換算して 「1合まで」
「1〜2合未満」 「2〜3合未満」 「3合以上」 か ら一つ回答を求めた.
5. 分析方法
1) 単純集計:各項目について単純集計を行った.
2) クロス集計
アルコール依存症に関するリテラシー (症例の 理解, 治癒の可能性, 症例への対応), 飲酒習慣・
飲酒量と年代・性別でクロス集計 (χ
2検定) を 行った. なお, 単純集計とクロス集計で一部数値 が違うのは欠損値の影響である. 有意水準は5%
未満とした.
3) ロジスティック回帰分析
アルコール依存症に関するリテラシー (症例の 理解, 治癒の可能性, 症例への対応) と飲酒習慣・
飲酒量を従属変数とし, 基本的属性 (年代, 性別), ソーシャル・キャピタル (社会的サポート, 信頼, 互酬性 (社会の責任感, 挨拶)) 独立変数として, ロジスティック回帰分析 (強制投入法) によりオッ ズ比と95%信頼区間を求めた. 選択肢はクロス集 計と同様である. 統計解析には, SPSS 統計ソフ ト for Windows Ver.18を用いた.
なお, 分析に使用した変数は以下のとおりであ る.
社会的サポート得点:「いる」 を1点, 「いな い・わからない」 を0点とし, 社会的サポート の3項目の合計点を算出した. 3項目とも 「い る」 と回答した3点の人と, それ以外の 「いな い・わからない」 の2群に分けた.
信頼:「信頼できる」, 「用心・両者の中間・
わからない」 の2群に分けた.
互 酬 性
① 本橋ら
12)の項目:「大変ある (よくする)」,「まあある (たまにする)」, 「ない・あまりな い (しない・あまりしない)」 の3群に分け た.
② 藤澤ら
13)の項目:「そう思う・ややそう思う」 を 「そう思う」, 「あまりそう思わない・
そう思わない」 を 「そう思わない」, 「どちら ともいえない・わからない」 の3群に分けた.
アルコール依存症に関するリテラシーと飲酒
習慣・飲酒量
① 症例の理解:「心の病気」 と, 「体の病気・
気のせい・わからない」 の2群に分けた.
② 治癒の可能性:「なおる」 と, 「なおらない・
わからない」 の2群に分けた.
③ 症例への対応:「医療機関, 専門家への相 談を勧める (以下, 相談を勧める)」 と, 「特 に何もしない・酒を少し控えるように言う・
酒を飲まないように励ます (以下, 相談以外 の対応)」 の2群に分けた.
④ 飲酒習慣:「ほとんど毎日飲む」 と, 「週に 3〜4回程度飲む・週1〜2回程度飲む・ほ とんど飲まない (以下, それ以外)」 の2群 に分けた.
⑤ 飲酒量:「1合まで」 と, 「1〜2合未満・
2〜3合未満・3合以上 (以下, 1合以上)」
の2群に分けた.
6. 倫理的配慮
秋田大学医学部倫理委員会の承認を受けて行った (平成24年2月14日医総1893号). 調査票の配布を依頼 する調査実施地域の健康推進員 (各自治会に1人) に 対し, 研究に関する説明を文書及び口頭で説明し, 同 意を得た. 対象者には, ①研究の目的 ②方法, 研究 への参加は自由意志であること ③答えたくない質問 には答えなくとも良いこと ④調査は無記名で行われ, データは統計学的処理を行い個人が特定されないこ と ⑤質問紙の返送をもって調査への同意とみなすこ と ⑥研究の結果は論文としてまとめるほか学会など で発表することを書面で説明した.
Ⅲ. 結
果
調査実施地域の住民880人に対して633人 (対象人口 比71.9%) から回答を得た (年代別回収率:20〜39歳 45.4%, 40〜59歳71.1%, 60〜79歳84.3%, 80歳以上 49.7%). 有効回答数は608人 (有効回答率69.1%) で あった.
1. 基本的属性
年代は, 60〜79歳は296人 (48.6%) と約半数であっ
た. 性別は, 男性は265人 (43.6%), 女性は343人
(56.4%) であった. 家族構成は, 「一人暮らし」 は34 人 (5.6%), 「家族と同居」 は567人 (93.3%) であっ た.
2. ソーシャル・キャピタル
(表1)
社会的サポートと社会的サポート得点については, 困った時にそばにいてくれる人が 「いる」 は93.1%, 普段の生活で何かに誘ってくれる人が 「いる」 は88.3
%, 優しくしてくれる人が 「いる」 は93.4%であった.
社会的サポート得点について, 「3点 (全て 「いる」
と回答)」 は88.8%であった. 信頼は 「ほとんどの人 は信頼できる」 は24.7%であった. 互酬性は, 社会の 責任感について, 「よくする」 は27.3%であった. 挨
拶については, 「そう思う」 は53.8%であった.
3. アルコール依存症に関するリテラシーと飲酒習慣・
飲酒量 (表2)
症例の理解について, 「心の病気」 は59.7%であっ た. 治癒の可能性について, 「なおる」 は59.4%であっ た. 飲酒習慣について, 「ほとんど毎日飲む」 は26.8
%であった. 症例への対応について, 「医療機関・専 門家への相談を勧める」 は50.2%であった. 飲酒量に ついて, 飲酒習慣で 「ほとんど毎日飲む」 「週に3〜
4回程度飲む」 「週に1〜2回程度飲む」 と回答した 人のうち, 日本酒換算で 「1合まで」 が18.9%であっ た.
表1 ソーシャル・キャピタルの回答
n=608
項 目 人数 %
社会的サポート 困った時にそばにいてくれる人 いる 566 93.1
いない 10 1.6
わからない 26 4.3
無回答 6 1.0
普段の生活で何かに誘ってくれる人 いる 537 88.3
いない 39 6.4
わからない 23 3.8
無回答 9 1.5
優しくしてくれる人 いる 568 93.4
いない 8 1.3
わからない 23 3.8
無回答 9 1.5
社会的サポート得点 いる(3点) 540 88.8
いない・わからない(0〜2点) 54 8.9
無回答 14 2.3
信頼 一般的に人は信頼できると思うか。 そ
れとも用心 (注意) をするのに越した ことはないと思うか。
ほとんどの人は信頼できる 150 24.7 用心するに越したことはない 250 41.1
両者の中間 150 24.7
わからない 36 5.9
無回答 22 3.6
互酬性 地域の人は子どもだけ危険なことをし
て遊んでいるのを見かけると注意する (社会の責任感)
よくする 166 27.3
たまにする 281 46.2
あまりしない 108 17.8
しない 22 3.6
無回答 31 5.1
お互いに気軽に挨拶を交わし合う地域 だと思う。
(挨拶)
そう思う 327 53.8
ややそう思う 196 32.2
どちらともいえない 43 7.1
あまりそう思わない 12 2.0
そう思わない 10 1.6
わからない 3 0.5
無回答 17 2.8
表2 アルコール依存症に関するリテラシーと飲酒習慣・飲酒量
n=608
項 目 人数 %
症例の理解 体の病気 95 15.6
心の病気 363 59.7
気のせい 18 3.0
わからない 78 12.8
無回答 54 8.9
治癒の可能性 なおる 361 59.4
なおらない 39 6.4
わからない 156 25.7
無回答 52 8.5
症例への対応 特に何もしない 44 7.2
酒を少し控えるように言う 157 25.8
酒を飲まないように励ます 53 8.7
医療機関、 専門家への相談を勧める 305 50.2
無回答 49 8.1
飲酒習慣 ほとんど毎日飲む 163 26.8
週に3〜4回程度飲む 34 5.6
週に1〜2回程度飲む 57 9.4
ほとんど飲まない 330 54.3
無回答 24 3.9
飲酒量 日本酒で1合まで 115 18.9
日本酒で1〜2合未満 80 13.2
日本酒で2〜3合未満 36 5.9
日本酒で3合以上 25 4.1
無回答 352 57.9
表3 アルコール依存症に関するリテラシー・飲酒習慣・飲酒量と性別との関連
項 目 回 答 男性 女性
人 (%) 人 (%) P 値
症例の理解 体の病気 41( 17.0) 56( 17.7)
心の病気 154( 63.9) 210( 66.5) n.s.
気のせい 9( 3.7) 9( 2.8)
わからない 37( 15.4) 41( 13.0)
治癒の可能性 なおる 165( 68.2) 198( 62.5)
n.s.
なおらない 19( 7.8) 20( 6.3)
わからない 58( 24.0) 99( 31.2)
症例への対応 特に何もしない 27( 11.0) 17( 5.4)
P<0.01 酒を少し控えるように言う 84( 34.1) 74( 23.4)
酒を飲まないように励ます 26( 10.6) 27( 8.5)
医療機関・専門家への相談を勧める 109( 44.3) 198( 62.7)
飲酒習慣 ほとんど毎日飲む 146( 56.8) 17( 5.2)
P<0.01
週に3〜4日程度飲む 16( 6.2) 18( 5.4)
週に1〜2日程度飲む 21( 8.2) 36( 10.9)
ほとんど飲まない 74( 28.8) 259( 78.5)
飲酒量 (飲酒習慣あり
と回答した人)
日本酒1合まで 58( 31.3) 57( 80.3)
P<0.01
日本酒1〜2合まで 71( 38.4) 9( 12.7)
日本酒2〜3合以上 34( 18.4) 2( 2.8)
日本酒で3合以上 22( 11.9) 3( 4.2)
χ2検定
4. アルコール依存症に関するリテラシー・飲酒習慣・
飲酒量と性別・年代とのクロス集計
1) 性別(表3)
アルコール依存症に関するリテラシーの<症例 の理解・治癒の可能性>と性別との間に, 有意な 関連性はなかった. アルコール依存症に関するリ テラシーの<症例への対応>では, 「特に何もし ない」 「酒を控えるように言う」 「酒を飲まないよ うに励ます」 は男性が, 「医療機関・専門家への 相談を勧める」 は女性の割合が高かった (P<
0.01). 飲酒習慣では, 「ほとんど毎日飲む」 は男 性が, 「ほとんど飲まない」 は女性の割合が高かっ た (P<0.01). 飲酒量では, 「1合まで」 は女性 が, 1合以上では男性の割合が高かった (P<
0.01).
2) 年代
(表4)
アルコール依存症に関するリテラシーの<治癒 の可能性>と年代との間に, 有意な関連性はなかっ た. アルコール依存症に関するリテラシーの<症 例への対応>では, 「医療機関・専門家への相談 を勧める」 は40〜59歳・60〜79歳の割合が高かっ た. 相談以外の対応として, 「特に何もしない」
「酒を飲まないように励ます」 は80歳以上で, 「酒 を控えるように言う」 は20〜39歳の割合が高かっ
た (P<0.01). アルコール依存症に関するリテラ シーの<症例の理解>では, 「心の病気」 は40〜
59歳の割合が高かった. 「体の病気」 「気のせい」
は80歳以上で, 「わからない」 は20〜39歳の割合 が高かった (P<0.01). 飲酒習慣では, 「ほとん ど毎日飲む」 が40〜59歳で, 「ほとんど飲まない」
は80歳以上の割合が高かった (P<0.01). 飲酒量 では, 「1合まで」 が80歳以上で, 1合以上の
「1〜2合未満」 「2〜3合未満」 「3合以上」 は 20〜39歳の割合が高かった (P<0.01).
5. アルコール依存症に関するリテラシーとソーシャ ル・キャピタル・飲酒習慣・飲酒量の関連
(表5) アルコール依存症に関するリテラシーの症例の理解, 治癒の可能性, 症例への対応, 飲酒習慣, 飲酒量を従 属変数とし, 基本的属性の 「年代」 「性別」, ソーシャ ル・キャピタルの 「社会的サポート」 「信頼」 「互酬性 (社会の責任感)」 「互酬性 (挨拶)」 を独立変数とした ロジスティック回帰分析 (強制投入法) を行った.
1) 症例の理解
症例の理解 (体の病気・気のせい・わからない) に影響を与える要因は, 「年代」 では (「20〜39歳」
に対し 「80歳以上」, OR=2.26, CI=1.06-4.85) という結果であった.
表4 アルコール依存症に関するリテラシー・飲酒習慣・飲酒量と年代との関連
項 目 回 答 20〜39歳 40〜59歳 60〜79歳 80歳以上
人 (%) 人 (%) 人 (%) 人 (%) P 値
症例の理解 体の病気 5( 8.9) 24( 13.6) 51( 18.8) 18( 30.0)
P<0.01 心の病気 37( 66.1) 132( 74.6) 171( 63.1) 27( 45.0)
気のせい 2( 3.6) 1( 0.5) 13( 4.8) 3( 5.0)
わからない 12( 21.4) 20( 11.3) 36( 13.3) 12( 20.0) 治癒の可能性 なおる 37( 66.1) 119( 67.2) 178( 65.7) 33( 54.1)
n.s.
なおらない 6( 10.7) 8( 4.6) 19( 7.0) 6( 9.8) わからない 13( 23.2) 50( 28.2) 74( 27.3) 22( 36.1) 症例への対応 特に何もしない 3( 5.2) 9( 5.1) 26( 9.5) 8( 13.0)
P<0.01 酒を少し控えるように言う 23( 40.0) 45( 25.4) 79( 29.0) 15( 24.0)
酒を飲まないように励ます 5( 8.8) 11( 6.2) 26( 9.5) 12( 19.0) 医療機関・専門家への相談を勧める 26( 46.0) 112( 63.3) 142( 52.0) 28( 44.0) 飲酒習慣 ほとんど毎日飲む 11( 19.3) 67( 37.0) 78( 27.2) 10( 14.1)
P<0.01 週に3〜4日程度飲む 2( 3.5) 11( 6.1) 18( 6.2) 5( 7.0)
週に1〜2日程度飲む 14( 24.6) 22( 12.1) 22( 7.7) 1( 1.4) ほとんど飲まない 30( 52.6) 81( 44.8) 169( 58.9) 55( 77.5) 飲酒量
(飲酒習慣あり と回答した人)
日本酒1合まで 8( 29.6) 35( 35.0) 62( 51.2) 13( 86.7)
P<0.01 日本酒1〜2合まで 9( 33.3) 33( 33.0) 39( 32.2) 2( 13.3)
日本酒2〜3合以上 6( 22.3) 19( 19.0) 12( 9.9) 0( 0.0) 日本酒で3合以上 4( 14.8) 13( 13.0) 8( 6.7) 0( 0.0)
χ2検定
2) 治癒の可能性
治癒の可能性 (なおらない・わからない) に影 響を与えている要因は, 「年代」 では (「20〜39歳」
に対し 「80歳以上」, OR=2.44, CI=1.12−5.33),
「社会的サポート」 では (「いる」 に対し 「いない・
わからない」, OR=4.06, CI=2.13−7.73), 「信 頼」 では (「できる」 に対し 「用心・両者の中間・
わからない」, OR=1.62, CI=1.04−2.53), 「挨 拶」 では (「そう思う」 に対し 「どちらともいえ ない・わからない」, OR=1.89, CI=1.01−3.56)
表5 アルコール依存症に関するリテラシーと SC・飲酒習慣・飲酒量との関連 (ロジスティック回帰分析)症例の理解 治癒の可能性 症例への対応
心の病気 (n=343)/体の病気その他(n=210) なおる(n=343)/なおらない・わからない(n=210) 相談を勧める(n=316)/相談以外の対応(n=237)
P 値 オッズ比
P 値 オッズ比
P 値 オッズ比
(95%信頼区間) (95%信頼区間) (95%信頼区間)
年代 20〜39歳 Reference Reference Reference
40〜59歳 0.60 0.93 0.65
60〜79歳 1.20 1.27 0.87
80歳以上 0.036 2.26(1.06−4.85) 0.025 2.44(1.12−5.33) 0.92
性別 女性 Reference Reference Reference
男性 1.20 0.94 0.000 1.92(1.35−2.73)
社会的
サポート いる Reference Reference Reference
いない・わからない 1.16 0.000 4.06(2.13−7.73) 1.26
信頼 信頼できる Reference Reference Reference
用心・両者の中間・わからない 0.69 0.034 1.62(1.04−2.53) 1.11
社会の
責任感 よくする Reference Reference Reference
たまにする 0.94 1.15 1.08
しない 1.46 1.35 0.015 1.86(1.13−3.08)
挨拶 そう思う Reference Reference Reference
そう思わない 0.76 1.14 1.80
どちらともいえない・わからない 1.10 0.047 1.89(1.01−3.56) 1.03
Reference:対照
飲酒習慣 飲酒量
ほとんど毎日飲む(n=155)/それ以外(n=398) 1合まで(n=104)/1合以上(n=135)
P 値 オッズ比
P 値 オッズ比
(95%信頼区間) (95%信頼区間)
年代 20〜39歳 Reference Reference
40〜59歳 0.000 0.17(0.07−0.41) 0.79
60〜79歳 0.013 0.36(0.16−080) 0.023 0.25(0.08−0.82)
80歳以上 0.81 0.005 0.03(0.00−0.36)
性別 女性 Reference Reference
男性 0.000 0.04(0.02−0.06) 0.000 13.87(6.26−30.74) 社会的
サポート いる Reference Reference
いない・わからない 0.71 2.00
信頼 信頼できる Reference Reference
用心・両者の中間・わからない 0.94 1.30
社会の
責任感 よくする Reference Reference
たまにする 1.21 0.036 0.45(0.21−0.95)
しない 0.032 2.15(1.07−4.32) 0.036 0.37(0.15−0.94)
挨拶 そう思う Reference Reference
そう思わない 1.67 4.14
どちらともいえない・わからない 1.16 1.53
Reference:対照 表5 (続き)
という結果であった.
3) 症例への対応
症例への対応 (「相談以外の対応」) に影響を与 えている要因は, 「性別」 では (「女性」 に対し
「男性」, OR=1.92, CI=1.35−2.73), 「互酬性 (社会の責任感)」 では (「よくする」 に対し 「し ない」, OR=1.86, CI=1.13−3.08) という結果 であった.
4) 飲酒習慣
飲酒習慣 (「ほとんど毎日飲む」 以外) に影響 を与えている要因は, 「年代」 では (「20〜39歳」
に対し 「40〜59歳」, OR=0.17, CI=0.07−0.41), (「20〜39歳」 に対し 「60〜79歳以上」, OR=0.36, CI=0.16−0.80), 「性別」 では (「女性」 に対し
「男性」, OR=0.04, CI=0.02−0.06), 「社会の責 任感」 では (「よくする」 に対し 「しない」, OR=
2.15, CI=1.07−4.32) という結果であった.
5) 飲 酒 量
飲酒量 (1合以上) に影響を与えている要因は,
「年代」 では (「20〜39歳」 に対し 「60〜79歳」, OR=0.25, CI=0.08−0.82), (「20〜39歳」 に対 し 「80歳以上」, OR=0.03, CI=0.00−0.36),
「性別」 では (「女性」 に対し 「男性」, OR=
13.87, CI=6.26−30.74), 「社会の責任感」 では (「よくする」 に対し 「たまにする」, OR=0.45, CI=0.21−0.95), (「よくする」 に対し 「しない」, OR=0.37, CI=0.15−0.94) という結果であった.
Ⅳ. 考
察
アルコール依存症に関するリテラシーの<治癒の可 能性>と, ソーシャル・キャピタル (社会的サポート や信頼, そして挨拶) に関連があり, 孤立している状 態が推測される群で 「治る」 という認識が低下してい た. 越智らは, かつてアルコール依存症者が断酒に結 びつく大きな転機として, 飲酒して死を選ぶか, 断酒 して生き延びるかの選択を迫られるのに十分な 「どん 底体験」 が必要と考えられていたことで, 患者が精神 病院への入院や家族関係の崩壊, そして警察沙汰など
「飲酒の継続による社会生活上の関係の断絶」 を経験 していたと報告している
15). 地域のソーシャル・キャ ピタルを高めて社会生活上の関係を維持・回復するこ とが積極的な治療行動を支援する可能性があると考え る. 治療が必要だと思われる本人や家族の孤立状態を
改善することも治療に至る大切な条件であると考える.
<症例への対応>で男性に 「医療機関・専門家への 相談を勧める」 以外の対応が多かった. 飲酒行動 (飲 酒習慣・飲酒量) の結果から, 男性は飲酒習慣と飲酒 量が多く, 心の病気で治療によって治る可能性がある ことを認識しながら, 飲酒量を少し減らすことで対応 したいと考える傾向にあった. これらの結果は, 飲酒 行動とリテラシーが独立している, つまりアルコール 依存症を心の病気と理解することと医療機関・専門家 に相談する行動とが結びつきにくいことを示唆してい る. アルコール依存症は, 「心と体と社会的背景とい う原因がある」 とされている
16). 心の病気という認識 だけでなく, 体と社会的背景も含めた対応がより効果 的だと考える. 例えば, 飲酒習慣・飲酒量は男性が多 いことから, 男性でも参加しやすい職場等の健診や健 康教室の機会を利用し, 心の病気として専門機関に受 診することが難しいことも考慮に入れ, 体の病気とし て受診しても専門医へつながるよう, 肝機能が高いな どアルコール関連疾患の患者の場合は十分に生活状況 や飲酒に対する気持ちを傾聴する, AUDIT 等の問題 飲酒を判定する質問項目を用いて状況を客観化する等 の関わりを通して, 専門機関への受診を先延ばししな いシステムを構築していく必要があると考える. また, 男性に比べリテラシーの高い女性や地域・職場の中で 健康意識の高い住民に正しい知識を伝え, 地域・職場 ぐるみで支援していくことも重要と考える.
<症例への対応>と飲酒行動 (飲酒習慣と飲酒量) は, 性別と年代が関連していた. この地域では男性で, 40〜79歳の飲酒習慣 (ほとんど毎日飲む) と60歳以上 の飲酒量 (1合以上) への対応が課題だと考えられる.
本橋は若いときの経験が高齢になったときのリテラシー に影響する可能性を指摘している
17). 今飲酒習慣や飲 酒量で比較的問題が少ないと考えられる若い世代には 今後アルコール依存症にならないために適切な情報提 供などを行い, 高齢者には地域で孤立させない関わり を意識することが, アルコール依存症の予防や治療に 必要だと考えた.
飲酒習慣・飲酒量とソーシャル・キャピタルでは,
ほとんど毎日, 一合以上の飲酒群は社会の責任感があ
る (「地域の人は子どもだけで危険なことをして遊ん
でいるのを見かけると注意するか」 に注意する) と回
答する傾向を示していた. 自分が普段身近な人から飲
酒量を減らすように注意される経験が反映しているの
かもしれない.
Ⅴ. 研究の限界と今後の課題
本研究はアルコール依存症のリテラシーとして,
「適切な治療で治るか」 という質問を用いた. 治療は 医療機関を連想させるが, 実際は断酒会などの自助的 支え合いが回復に影響する. 断酒会などは地域の重要 なソーシャル・キャピタルであり, 今後住民の支えあ いや自助的な取り組みにも焦点をあてた研究に発展さ せる必要性があると考える.
Ⅵ. 結
論
1. アルコール依存症に関するリテラシーの<治癒の 可能性><症例への対応>とソーシャル・キャピタ ルには関連があった.
2. 飲酒習慣・飲酒量とソーシャル・キャピタルには 関連があった.
文 献
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//www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/
10syoubyo/dl/h23syobyo.pdf> (参照2014.9.23) 2) 尾崎米厚・松下幸生・他:わが国の成人飲酒行動およ
びアルコール症に関する全国調査, 日本アルコール・
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3) 岡田ゆみ・浦光博:断酒しているアルコール依存症者 に対する人びとの理解・態度とその影響要因に関する 研究, 民族衛生 80(2):87-97, 2014
4) 本橋豊:平成15〜17年度文部省科学研究費補助金 基 盤研究(C) (2)研究成果報告書 地域のメンタルヘル スリテラシー測定手法の開発と GIS による総合的地 域診断への応用. 2006, 7-15
5) Kaneko Y, Motohashi Y : Male gender and low education with poor mental health literacy ; Population-based study. J Epidemiol, 17 : 114-119, 2007
6) 小関清之:地域に根ざす 「繋がり」 の継続性. 日本ア ルコール関連問題学会雑誌 15(2):107-109, 2013
7) 太田ひろみ:個人レベルのソーシャル・キャピタルと 高齢者の主観的健康感・抑うつとの関連. 日本公衆衛 生学雑誌 61(2):71-85, 2014
8) 播摩優子, 佐々木久長:地域住民のソーシャル・キャ ピタルと精神的健康との関連. 秋田大学大学院医学系 研究科保健学専攻紀要 21(2):97-111, 2013 9) 岩佐一・他:日本語版 「ソーシャル・サポート尺度」
の信頼性ならびに妥当性―中高年を対象とした報告―.
厚生の指標, 54(6):26-33, 2007
10) 橋尚也:心理測定尺度集Ⅵ―現実社会とかかわる
<集団・組織・適応>―. 堀洋道監修, サイエンス社, 東京, 2011, pp165-173
11) I.カワチ・S.V.スブラマニアン・他:ソーシャル・キャ ピタルと健康. 第1版, イチロー・カワチ, S.V.スブ ラマニアン, ダニエル・キム編 (藤澤由和.高尾総司.
濱野強 訳), 日本評論社, 東京, pp92
12) 本橋豊, 金子善博・他:ソーシャル・キャピタルと自 殺予防. 秋田県公衆衛生学雑誌 3:21-31, 2005 13) 藤澤由和, 濱野強・他:地区単位のソーシャル・キャ
ピタルが主観的健康観に及ぼす影響. 厚生の指標 54 (2):18-23, 2007
14) 厚生労働省ホームページ:知ることから始めよう み んなのメンタルヘルス総合サイト 心の健康や病気, 支援やサービスに関するウェブサイト. 厚生労働省.
(オンライン), 入手先 新久里浜式アルコールスクリー ニングテスト:男性版 (KAST-M) <http://www.
mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail̲alcohol̲
test1.html> (参照2010.10.1) 新久里浜式アルコー ルスクリーニングテスト:女性版 (KAST-F) <http:
//www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail̲alco- hol̲test2.html> (参照2010.10.1)
15) 越智百枝, 酒井由紀子・他:断酒会に参加しているア ルコール依存症者のどん底体験とそれに至るプロセス, 香川大学看護学雑誌 11(1):57-64, 2007
16) 榎本稔:アルコール依存症の現在. こころの科学 91:
16-21, 2000
17) 本橋豊, 金子善博:高齢者の自殺と自殺予防−高齢者 自殺の文化的側面. 老年精神医学雑誌 19:176-182, 2008
Relationship between the literacy of alcohol dependence and social capital : A community-based study
Yuko H
ARIMA*Hisanaga S
ASAKI***Noshiro City Futathui Community Center Citizen and Welfare Division
**Course of Nursing, Graduate School of Health Sciences. Akita University
The relationship between social capital and literacy associated with alcohol dependence among community residents was investigated. A questionnaire survey was conducted targeting all inhabitants over 20 years old living in a community in N city in Akita Prefecture (N=880), and the response rate was 69.1%.
A regression analysis was conducted regarding the literacy of alcohol dependence (including the cognition and attitude of alcohol dependence, and the possibility of receiving appropriate treatment) and alcohol-related behavior as the dependence variable, and the attributes and social capital (including social support, trust, and reciprocity) as independent variables.
The results indicated that the literacy of alcohol dependence (the possibility of receiving appropriate care) related positive social capital (including social support, trust, and reciprocity : exchange greetings), and the literacy of attitude of alcohol dependence except for consultation related reciprocity (a sense of no social responsibility). The amount of alcohol consumption was affected by reciprocity (having a sense of social responsibility).
The literacy of cognition regarding alcohol dependence was therefore found to not be affected by social capital.