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三次元培養皮膚を用いた衣服の安全性試験法

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

三次元培養皮膚を用いた衣服の安全性試験法

著者 内田 惠美子

雑誌名 奈良教育大学紀要. 自然科学

巻 56

号 2

ページ 29‑33

発行年 2007‑10‑31

その他のタイトル Safety Examination Method for the Clothes with a Three‑Dimensional Cultured Skin Model

URL http://hdl.handle.net/10105/655

(2)

三次元培養皮膚を用いた衣服の安全性試験法

内 田 惠 美 子

奈良教育大学生活科学教育講座(被服学)

(平成19年4月16日受理)

Safety Examination Method for the Clothes with a Three-Dimensional Cultured Skin Model

UCHIDA Emiko

(Department of Clothing Science, Nara University of Education, Nara 630-8528, Japan)

(Received April 16, 2007)

Abstract

To establish a safety examination method for the clothes that are used in contact with human skin, verification  of  the  experimental  conditions  was  conducted  in  conformity  with  Japanese  Industrial Standard, using a three-dimensional cultured skin model.  It was revealed that the density of cationic sur- factants adsorbed on a cloth was correlated closely with the cell viability, suggesting that this method is applicable to assess the primary skin irritation.  To quantify the irritant material shifted from a cloth toward the skin a reasonable addition of the irritant material has to be prescribed in the primary skin irri- tation examination.  A suitable dose was found to be in the range of 50-100 μl.  Safety examinations of wearing clothes involve an addition of suitable artificial sweat, but the actual sweat contains free fatty acids.  So it will be necessary to consider the constituents of the artificial sweat in addition to the dose of the irritant materials. 

Key Words: primary skin irritation,

three-dimensional cultured skin model, safety examination method

キーワード: 皮膚一次刺激性,

培養皮膚モデル,

安全性試験法

1.緒 言

現在,衣料製品に関わるトラブルで最も多いのは接触 皮膚障害である.実際,衣料製品に使われている化学物 質(反応染料,仕上げ加工剤,残留洗剤など)が原因と なる接触皮膚炎が多く発症している(1)−(4).それにも かかわらず,これまで衣料の接触皮膚障害に関する基礎 研究はほとんど行われていない.その理由の一つは,安 全性の確認方法が煩雑で難しいことである.既存の安全 性評価法としてはin vivo法とin vitro法がある.前者に は閉鎖式皮膚貼付試験およびレプリカ法などがあり,後 者には細胞毒性試験などがある(5).前者はヒトを被験

者とするため,一定数以上の被験者の確保が難しく,被 験者間のデータのバラツキが大きいなどの問題点を抱え ている.したがって,より簡単に短時間で,試験結果の バラツキの少ない判定法が求められる.現在,細胞培養 技術の進歩によって正常ヒト細胞を用いた皮膚に近似し た構造をもつ,3次元培養皮膚モデルが開発されてい る.そこで,この培養皮膚を用いて,衣料品に関わる接 触皮膚障害原因物質のヒト皮膚への反応に関する詳細な データの蓄積を図り,皮膚刺激性物質と皮膚障害の関係 を明らかにすることで,繊維に残存している皮膚刺激性 物質の安全基準を確立することを目指した.この基準が 確立できれば,現在接触皮膚障害で悩んでいる患者を減

(3)

少さす一助となろう.

培養皮膚を用いた皮膚一次刺激性試験法は平成12年 3月に社団法人繊維評価技術協議会から平成11年度新 エネルギー・産業技術総合開発機構研究受託成果報告書

(新規産業育成即効型国際標準開発事業―特殊機能繊維 製品の性能評価法の標準化―)が提出され,その中で繊 維製品の皮膚化学試験法(暫定法)(6)が検討された.

平成13年には繊維製品新機能評価協議会から皮膚化学 刺激性試験方法の中間報告がなされ,漸く,2005年に 細胞培養技術の進歩によって正常ヒト細胞を用いた皮膚 に近似した構造をもつ三次元培養皮膚モデルによる試験 法が開発され,JIS化された(7).しかし,それらの衣類 への応用研究はいまだ発表されていない.本研究はこの 暫定法に則って,被服の安全性試験を行うに当たり,そ の反応時間,被験物の添加量などの実験条件設定を検証 し,それぞれの刺激物質に応じたより適正なる試験方法 の検討を行った.

2.実験

JIS化された試験方法の原理は試験布を皮膚モデルに 一定時間作用させた後の細胞生存率を,色素を用いて定 量化する方法である.色素の違いからNRneutral red)法とMTT3-(4,5-dimethyl-2-thiazolyl)-2,5- diphenyl-2H-tetrazolium bromide)法(8)があるが,本 試験ではMTT法により測定し,皮膚一次刺激性を予測 するものである.このMTT法は細胞毒性試験で普及し ている簡便な細胞生存率を測定する方法で,MTTは真 核細胞のミトコンドリア内の脱水素酵素の基質となり,

その作用を受けて青紫色のホルマザン色素を生成する.

細胞によるホルマザン色素の生成は生きた細胞の数に比

例する(9)−(10).ホルマザン色素の量は吸光度によって

定量する.

2-1.試料

培養皮膚モデルはグンゼ株式会社から提供されたヒト 由来の皮膚角化細胞と皮膚線維芽細胞から構成されてい る三次元培養皮膚モデル(Vitorlife-Skin®)である(12)

その構造を図1に示す.プラスチック環は皮膚モデルの 把持および被験物質添加時の受け皿として使用されてい る.試験布は金巾(JIS L0803に規定する染色堅牢度 試験用添付白布)を用い,試験薬剤としてアニオン界面 活性剤(和光純薬工業 1級),カチオン界面活性剤(ナ カライテスク 1級),ホルムアルデヒド(和光純薬工業),市 販柔軟剤,および石油系ベンジン(ナカライテスク)を用いた.

2-2.皮膚一次刺激性試験法

試験布の皮膚一次刺激性試験は暫定法に則って,コン トロール(試験薬剤をしみこませていない)綿布および 既知濃度の薬剤をしみこませた試験綿布を7.5mmのポ ンチで打ち抜き,皮膚モデル表面に載せる.このとき,

実際の衣服を着用した状態を想定して試験布重量の3倍 量の人工汗液をしみ込ませておく.測定は各試験布につ いてn=3である.人工汗液にはJIS L0848に規定され ている酸性溶液(L-ヒスチジン塩酸塩一水和物,塩化ナ トリウム,リン酸二水素ナトリウム二水和物,水酸化ナ トリウム)を用いる.培養液を加えたこの皮膚モデルを COインキュベーターにて37℃,5%COの条件下で 24時間培養する.培養後,培養皮膚表面から試験布を 除去し,表面に残存している被験物質をリン酸緩衝液で 洗浄したのち,これらの培養皮膚をMTT溶液に浸漬し て,37℃,5%COの条件下で再び,3時間培養して生

細胞を染色する.図2は3時間染色後の24ウェルプレー トの一例を示す.細胞の染色状態をスケッチして染色状 態から刺激性の判定の予測を行うことができる.色素の 抽出は,余分のMTT溶液を再びリン酸緩衝液で洗浄し たのち,培養皮膚の試験布が直接接触していた部分を 6mmのポンチで打ち抜き,抽出溶媒液(イソプロピル アルコールに1/100容量の4N塩酸を添加したもの)と 抽出補助剤(10%濃度ラウリル硫酸ナトリウム,SL S)でホルマザン色素を抽出する.抽出は室温暗所にて 24時間以内に行う.抽出液の570nmにおける吸光度を ダブルビーム分光光度計(日立ハイテクノロジーズ 内 田 惠 美 子

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/

図1 三次元培養皮膚モデルの構造

図2 MTT溶液にて3時間培養後の培養皮膚モデル

(4)

U-2800形)にて測定する.細胞生存率は式(1)から 算出される.

細胞生存率(%)=(A1-b1)/(A2-b1x 100・・・(1)

ここで,A1は被験布の試験片を貼付した組織片から抽 出した液の吸光度,A2はコントロール布の試験片を貼 付した組織片から抽出した液の吸光度,b1は抽出溶媒液 の吸光度である.被験試料の皮膚一次刺激性の分類は暫 定法に則って,24時間培養試験で細胞生存率が80.0%以 上を示す場合を陰性と分類し,50.0%以上80.0%未満を 弱陽性,50.0%未満を陽性に分類する.

衣料製品に含まれた加工剤の皮膚への影響は布に含ま せた薬剤が実際にはどれだけ皮膚に移行したかによる.

たくさんの薬剤を布に加工しても,それが皮膚に移行し なければ,皮膚への問題は起こりにくい.そのため,衣 料製品に加工された加工剤の影響を調べる前に,その加 工剤そのものの皮膚への影響を調べた後,布での加工実 験を行うことが必要である.その場合は加工剤添加濃度 とともに加工剤の添加量の影響も大きく,皮膚一次刺激 性試験における薬剤の適切な添加量を決定する必要があ る.

そこで,加工剤そのものの皮膚一次刺激性試験におけ る適正なる添加量の決定には,暫定法において試験成立 判定用試料として規定されている1.0% SLS水溶液を用 いた布のときの手順に準じて試験を行った.作用時間は 生存率への影響をより鮮明にするため,1時間に短縮し て行った.さらに,「有害物質を含有する家庭用品に関 する法律」(13)によって,乳幼児の衣類や繊維製品など に含まれる量がすでに規制されているホルムアルデヒド での添加濃度を変えて,24時間培養時間で添加量と細 胞生存率の影響を調べた.また,布の試験において,実 際の衣服を着用した状態を想定して人工汗液をしみ込ま せておくが,その有効性を親水性被験物質と疎水性被験 物質を用いて検討した.

3.結果および考察

3-1.繊維に吸着させた加工剤濃度と細胞生存率の相関性 図3は対生地重量あたり01246%濃度のカチ オン界面活性剤をしみこませた布の細胞生存率を調べた ものである.加工剤濃度と細胞生存率の間にR2=0.996 の高い相関が見られ,細胞生存率は試験薬剤のしみこま せ量に比例して低下した.この条件下では,この試験法 で,安全性の指標を得ることができることを確認できた.

このときの50%細胞生存率を与える加工剤濃度は4.3%

であった.

3-2.  加工剤そのものの皮膚一次刺激性試験における薬 剤の添加量

前項の実験では布に含ませた薬剤の量と細胞生存率は 比例したが,実際にはどれだけの加工剤量が皮膚に移行 し,細胞に直接ダメージを与えたかはわからない.その ため,加工剤そのものの皮膚一次刺激性試験が必要とな る.図4は1.0%SLS水溶液を用いての添加量と細胞生存 率の関係を示している.同一濃度であっても添加量が多 いほど細胞生存率は低下しており,添加量が50μlを超 えると1時間の培養時間であっても細胞生存率は20%で ほぼ一定になっている.このことは添加濃度より,細胞 に移行した実質の添加剤の量が重要であることを示して いる.また,培養時間についてみれば,暫定法では 1.0%SLS水溶液を30μl添加して24時間培養後の細胞生 存率は20%以下であることが試験成立の要件でとなっ ているが,1時間培養の場合,同じ濃度,添加量でも生

存率は40%であり,その生存率は大きく異なる.すなわ

ち,培養時間の規定も重要である.

図3 カチオン界面活性剤をしみこませた綿布での細胞 生存率

図4 1.0%SLS水溶液の添加量と細胞生存率(培養時間1h)

(5)

次に示す図5は,異なる濃度のホルマリン水溶液を用 いて,添加量の影響を調べたものである.培養時間は

JISに則り,24時間とした.いずれの濃度でも添加量が

多くなるほど細胞生存率は低下しているが,0.5%以上 の濃度では50μlの添加量ですでに細胞生存率は10%以 下となった.

図6はそれぞれの濃度での実質ホルムアルデヒド量を 換算して横軸にとったものである.この図から,添加濃 度にかかわらず,実質ホルムアルデヒド量が75μg以下 の低濃度では生存率と添加薬剤の量には高い負の相関

(R2=0.891)が認められ,それ以上の濃度では細胞生存 率は平衡に達し,10%以下となっている.このときの 50%細胞生存率を与えるホルムアルデヒド量は40.4μg である.このことから,被験物質そのものの試験には添 加量を適切に規定することが重要であることがわかる.

今回使っている培養皮膚の被験物との接触面は直径 8mmの円であり,添加量はその面を完全に覆う量が必 要である.培養皮膚に親和性の高い液体の場合は暫定法 で規定されている約30μlでも十分に表面を覆いつくす

ことができるが,親和性の低い物質の場合では,30μ lでは十分に培養皮膚表面を覆うことができない.また,

この三次元培養皮膚モデルは図1に示したようにプラス チック環が皮膚モデルの把持と被験物質添加時の受け皿 として使用されており,被験物質液を多量に添加すると プラスチック環から溢れ出る恐れがあり,100μl以下が 望ましい.また,75μgのホルムアルデヒド量を与える ホルマリン量は0.5%濃度では45μlである.これらのこ とから,今後の被験溶液添加量の適量は50μlと定めた.

3-3. 人工汗液添加の有効性

実際の衣服着用時を想定して,JISでは薬剤をしみこ ませた試験布に人工汗液を添加して被験物質の安全性を 評価している.この人工汗液の有効性を親水性および疎 水性被験物質をしみこませた綿布とポリエステル布で検 討した.

図7は被験物質として水溶性である柔軟剤をしみこま せた場合での人工汗液の添加の影響を調べたものであ る.綿布,ポリエステル布いずれも,人工汗液を添加し たものが,細胞生存率が低下しており,被験物質がより 多く,皮膚へ移行したことが明らかであり,人工汗液の

添加の有効性が認められた.しかし,図8に示すように,

有機溶剤である石油系ベンジンを用いて同様の実験を行 った結果は水溶性被験物質とは異なる結果となった.す なわち,綿布では汗液添加効果が認められるが,ポリエ ステル布では効果が認められない.これは綿布が親水性 であるため,汗液を添加したほうが有機溶剤の皮膚への 移行が大きくなったためであり,ポリエステル布は疎水 性であるため,有機溶剤は汗液を添加しても皮膚への移 行は進み難かったためと考えられる.このことは,現在,

多発しているドライクリーニング溶剤の残留による化学 やけどの多くが皮革や綿ズボンで起こっている(14)事実 と も 関 係 し て い る . 今 回 用 い た , 人 工 汗 液 はJ I S 内 田 惠 美 子

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図5 異なる濃度のホルマリン溶液の添加量と細胞生存率 ホルマリン水溶液/%:(○)0.25,(△)0.50,(□)1.0

図6 添加ホルムアルデヒド量と細胞生存率

80 100

図7 柔軟剤をしみこませた布での汗液添加の効果 綿布:     (●)汗液あり,(○)汗液なし ポリエステル布:(▲)汗液あり,(△)汗液なし

(6)

L0848に規定されている酸性溶液であったが,実際の汗 液には皮脂などの遊離脂肪酸も含まれており,今後,被 験物質によっては添加汗液の成分の検討が必要であろ う.

4.まとめ

①布にしみこませたカチオン界面活性剤量と細胞生存率 との相関性を暫定法に則って,皮膚一次刺激性試験 法で試験したところ,両者には高い相関が認められ,

この試験方法から布における皮膚一次刺激性の指標 を得ることができることを確認できた.

②刺激性の程度を知るためには刺激性物質の布からの移 行量が重要になってくる.そのためには,まず,細 胞生存率と刺激性物質そのものの量との関係や50 細胞生存率を与える刺激性物質そのものの量などを 知る必要がある.

③被験物質そのものの皮膚一次刺激性試験には適正なる 添加量を規定する必要があり,今回の実験から50 100μlが適切と考えられる.

④実際の衣服着用状況を考えて,布の安全性試験には適 当な人工汗液の添加が必要である.

今後は,この実験条件を用いて,布に付着あるいは吸着 された化学物質の皮膚安全性を評価する試験を行い,衣 服の安全性に寄与したい.

謝辞

本研究を進めるにあたり培養皮膚をご提供いただきま したグンゼ株式会社開発研究センターならびに安全性試 験法をご指導いただいた森川訓行氏に厚く御礼を申し上 げます.

なお,本研究は平成15年度から17年度科学研究費補 助金基盤研究(C) 課題番号15500512によって行われ た研究の一部である.

引用文献

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(14)国民生活センター(1999) 『消費者被害注意情報No. 25』 35.

図8 石油系溶剤をしみこませた布での汗液添加の効果

参照

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