母親の養育態度と乳幼児の身体発育との関連性
著者 宮原 時彦, 北村 陽英
雑誌名 奈良教育大学紀要. 自然科学
巻 42
号 2
ページ 27‑36
発行年 1993‑11‑25
その他のタイトル The Correlation between Maternal Bringing‑Up Attitudes and The Physical Development of Children
URL http://hdl.handle.net/10105/1680
奈良教育大学紀要 第42巻第2号(自然)平成5年
Bull. Nara Univ. Educ, Vol. 42, No. 2 (Nat.) , 1993
母親の養育態度と乳幼児の身体発育との関連性
宮 原 時 彦・北 村 陽 英
(奈良教育大学学校保健教室) (平成5年4月30日受理)
The Correlation between Maternal Bringing‑Up Attitudes and The Physical Development of Children
Tokihiko Miyahara and Akihide Kitamura
{Department of School Health, Nara University of Education, Nara 630, Japan) (Received April, 1993)
Abstract
The purpose of this study is to investigate and make a statistical analysis of corre‑
lation between the maternal bringing‑up attitude and the physical growth of children.
The analyzed objects were 928 pairs of mother and child (235 of 4 months old, 215 0f 10 months old, 254 of 18 months old and 244 of 42 months old). Babies and infants were given medical examinations for weight and height, and mothers were questioned on their ten most important bringing‑up attitudes by questionnaire. The children were se‑
parated into three groups (underdevelopment, normal, and over‑development) accord‑
ing to their degree of physical development, and the three groups were compared with each other from the point of mean of various maternal attitudes. The results were as follows:
1. Maternal bringing‑up attitudes were found to be correlated with the degree of development of the children.
2. The maternal excessive attitude of positive refusal was found to be correlated with the underdevelopment of children at the age of 48 months.
3. Maternal bringing‑up attitudes were proved to be different according to the sex of the children.
4. It was suggested that the babyhood underdevelopment had been caused by psychosomatic diseases.
I は じ め に
子どもの心身の発達遅滞を引き起こす養育態度17,18)のなかでも特に体罰等を含む積極的な拒否 態度は,過度な状態に陥ると虐待につながる.この虐待の発生する家族の問題点としては経済的 問題,家族関係の不和等が挙げられており,単純な親子関係の好し悪Lによって小児虐待が発生
27
しているのではないことが理解できる.
また,母子の間においては,なんらかの理由で母親と別れて母子の交渉がないとか,母子の接 触が少ない例が多く,虐待者自身(母親)の特徴として,小児期に親から愛され,保護された経 験が少なく,家庭は地域で孤立,父親が不在(がち)等の状況を背景としている′1).一方,被虐 待者自身の特徴は未熟児,発達障害,多動・強情等の性格的特徴があり,これらは親の要求への 応答に問題を生じさせやすい11)っまり,母親の特徴的気質,子どもの生得的気質,両者を取
り巻く環境の相乗作用によりひとつの養育態度である虐待が成立するものと考えられる.
他方,心身症は環境に適応できず,その環境ストレスを有害なものとして受け止めた場合に自 律神経系や内分泌系に異常をきたし身体症状を呈するものである13) また,任意のストレスに 対して反応の異なるものが存することは,ストレス感受性が個人によって異なることを示唆する ものであり,被虐待児にみられる種々の発育発達障害は,その容認限度を越えるストレスが長期 にわたり繰り返し与えられた結果であるといえる.一方,通常の母子間においても,有害なスト レスの発生を完全には否定できない.しかし,この時の有害ストレスの発生頻度は低く,散発的 であると思われる.つまり,これらストレスに起因する子どもの障害は子どものストレス感受性 の閥値とストレス発生頻度によって決定されていると考えられる.
そこで本研究では,母親の過度の養育態度が子どもへのストレス発生頻度と関連があると仮定 した上で,通常の母子間において,母子相互作用の結果のひとつであると考えられる子どもの身 体発育と母親の養育態度との関連性について考察することを課題とした.
Ⅱ 研究対象と方法
研究対象は 1992年4月9日 1992年9月29日の期間中,近畿圏にある中堅都市にて実施 されている乳幼児健康診査(以下健診と略す)を受診した乳幼児及びその母親1153組(4ヵ月 児286組, 10ヵ月児281組, 1歳6ヵ月児277組, 3歳6ヵ月児309組)である.また,受診 日のずれによる乳幼児の日齢差をなくするため,各健診対象児の平均日齢(4ヵ月児134.0±
7.5, 10ヵ月児332.0±14.4, 1歳6ヵ月児563.3±22.4, 3歳6ヵ月児1289.1±13.6)より, 標準偏差内にある小児についてのみ分析を行った.分析対象の内訳は4カ月児235組(男児113 組,女児122組), 10ヵ月児215組(男児113組,女児102組), 1歳6ヵ月児254組(男児117 組,女児137組), 3歳6ヵ月児244組(男児120組,女児124組)であった.
調査方法については,健診を受診した小児の母親に対して調査用紙を直接配布・回収した.な お,回収については一部分郵送による方法を用いた.配布数は1290部,回収数は1153部であり, 回収率は89.4%であった.また,誤答,無回答等を避けるため回答者の任意による記名方式を 採用した.
調査内容は,対象小児の健診時の体重,身長,母親の養育態度14,18)MO項目(表1)である.
また,分析方法については,各月齢毎に性により集団分けし,各集団について体重,身長およ び*Kaup指数10)の平均値,標準偏差を算出した.さらに各集団の体重,身長, Kaup指数を±
1標準偏差値を基準に低発育群,中間群,高発育群の3集団に分割し,これら群問の養育態度得 点(各10点満点:点数の低さは態度の過度さを表す)を分散分析し,有意性の兄いだされた各
月齢の養育態度項目について多重比較を行った.
これらの統計解析には, SL‑MICRO (Statistical Language for Microcomputers)統計パッ
母親の養育態度と乳幼児の身体発育との関連性 29 ケージにより, F検定及びT検定を行い, 95%推定信頼度を求めた.なお,分散分析では有意 水準10%のものについてもその後の処理を行った.
*Kaup指数は以下の式で表される.
Kaup指数‑体重(kg) × 107身長(cm)2 乳幼児期から学童期前半にかけては,
年齢による変動が少ないので小児保健 の分野ではよく用いられているもので あり,一般的には15.0‑19.0が乳児 の栄養状態の正常値とされている.
Ⅲ 結果および考察 1.対象児の特性
各月齢における対象児の特性を表2
‑4に示した.身長,体重ともに1992 年度の全国平均値8)とはぼ同程度の値 であり,特に傾向はみられなかった.
2.月齢による養育態度得点の比較 (表5, 6)
男児,女児共に服従型の二項目にお いて加齢にともない過度な養育態度が 改善され,拒否的・支配的態度は暫次 強くなることが確かめられた.この服 従型と拒否・支配態度は対極に位置す るものであり13)一方が過度になれ ば一方は良くなるものであると考えら れる.作田ら1115,16)は,幼児期におけ る母親の服従的態度は,他の項目に対 し相対的に過度になると報告しており, また,同報告よりさらに低年齢児を対 象とした本調査にて, 4ヵ月段階での 服従的態度が最も過度になることから, もっと早い段階,つまり,出生直後に おいて服従的態度は最過度に,対極の 拒否的・支配的態度は最も弱く出現し, 加齢とともに変化していくものである
ことが考えられる.
以上のことを考慮にいれ,これらの 養育態度の変化は,初期の母子関係に
表1母親の養育態度とその内容 消極的拒否:無視,放任,無関心等の態度を示す.
積極的拒否:体罰,虐待,威嚇等の態度を示す.
厳格型:常に厳格な態度をとり,絶えず子どもを監視す る.
期待型:親の要求や野心を子どもに強要する態度.
干渉型:子どもをよりよくするためにできるだけの助力 を与える態度.
不安型:子どもの日常生活にほとんど無意味な不安を抱 き,必要以上の保護を与える態度.
溺愛型:必要以上に子どもをかばい,少しも手放したか らない態度.
盲従型:一切の権力を子どもにもたせ,どんな犠牲をも 惜しまない態度.
矛盾型.'子どもの同じ行動に対して一貫性のない態度.
不一致型:両親の態度が‑致せず,子どもが両親から異 なった扱いを受ける.
表2 特性(体重)
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月齢 男児(標準偏差) 女児(標準偏差)
4 ヵ 月 7254.55 (713.325) 6748.35(673.425) 10 ヵ 月 9218.67 (1052.881) 9005.15 (892.580) 1歳6ヵ月10830.78 ( 965,522) 10260.22 (1082.076) 3歳6ヵ月14911.44 (1515.763) 14447.06 (1432.008)
表3 特性(身長)
単位: cm
月齢 男児(標準偏差) 女児(標準偏差)
4 ヵ 月 64.028 (2.470) 62.306 (2.131) 10 ヵ 月 73.349 (3.992) 72.428 (3.422) 1歳6ヵ月 79.939 (3.928) 78.455 (3.319) 3歳6カ月 97.181 (3.416) 95.792 (3.283)
表4 特性(Kaup指数)
月齢 男児(標準偏差) 女児(標準偏差) 4 ヵ 月 17.698(1.752)
10 ヵ 月 17.298 (1.423) 1歳6ヵ月 17.089 (1.276) 3歳6ヵ月 15.762 (1.027)
17.369 (1.348) 17.205 (1.554) 16.659 (1.350) 15. 748 (1. 087)
表5 男児にみる養育態度得点
単位:点(標準偏差) 態度項Ej 10 ヵ 月 1歳6ヵ月 3歳6ヵ月
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おいて母親の子どもに対する生得的保護システム7.19)が最も強く作用していること,加齢にとも ない子どもの愛着1,3)の対象が母性的対象者である母親から二次的対象者である父親および同胞 らへと拡散しつつあることが主な原因として考えられる.
3.養育態度と身体発育
① 4ヵ月男児(表7)
体重の不安型において,統計的に有意ではなかったものの高発育群,低発育群の二群に対して 中間群の不安傾向は弱かった.身長では,盲従型で低発育群と高発育群との間に有意な得点差が みられた. Kaup指数では,矛盾型において低発育群が中間群,高発育群の両群に対して矛盾傾 向が弱かった.
体重における不安傾向の強さは,低体重群の場合,低体重である事実そのものが母親の不安を 強める原因となっていると考えられる.一方,高体重群では低体重群で考えられるような現実的 な育児不安ではなく,発達課題の達成度の高い子どもに対する新しい環境設定のような未来志向 的な不安であると思われる.これは不安型と同じ保護的態度である干渉型が,子どもの加齢とと もに暫次過度化していることによっても示唆される.
母親の養育態度と乳幼児の身体発育との関連性
表7 得点比較(4ヵ月男児)
単位:点(標準偏差) 低発育群(低)中間群(中)高発育群(高) 多重比較 体 重 不 安 8.06(1.69) 8.75(1.12) 8.13(1.50)
身 長 盲 従 8.67(0.58) 8.19(1.51) 7.58(1.17)低>高, Kaup指数 矛 盾 9. (0.87) 7.81(1.77) 7.ll(1.69)低>中,低>高
31
身長及びKaup指数での低発育群の母親の態度が相対的によいのは,母親の保護システムが 子どもが低発育であることで一層強化され,子どもとの関わりが積極的に展開された結果,物理 的・精神的に母子関係が充実し,養育態度が安定したことに由来するものと思われる.
② 4カ月女児(表8)
体重では,積極的拒否において低発育群と高発育群の間に有意な差がみられ,低発育群の積極 的拒否傾向が強くなることが確認された.身長では,溺愛型において低発育群が他の二群より溺 愛傾向が弱くなることが確かめられた. Kaup指数では特に傾向はみられなかった.
少なくともこの時期の母親は子どもを積極的に保護しようとする傾向があるにもにも関わらず, 過度な積極的拒否が低発育と結び付いたことは注目に値する.この拒否的態度が現れるに至った 背景には,母親の子どもに対する生得的保護システムを抑制するなんらかの因子が介在したこと が予想される.母親自身の発育環境が貧困であったために母親のパーソナリティ形成に禍根を残
した場合,子どもの気質によって母親が育てにくさを感じた場合,そして,これらの事態を緩和 してくれるべき育児環境が不適切・不十分である場合の三点が複雑に関連しあうことで,養育態 度が過度に陥っていると思われる2,6.9,12)また,これら以前に,子どもが低発育であると,母親 は養育についての心配,不安,過労が高まり,不安に耐えきれなくなった母親がその不安を緩和 するために積極的拒否という自我防衛機制を働かせたことを合わせて考えておくべきだろう5,13)
とにかく, 4ヵ月女児段階では拒否的態度と発育との間には関連性が示唆された.さらに結果 にみられたように,拒否的態度と反対の性質を有すると恩われる溺愛傾向が低発育群において弱 いことは,母親の子どもに対する保護システムが抑制されたとする考えを補強するものとなって いる.
表8 得点比較(4ヵ月女児)
単位:点(標準偏差) 低発育群 中間群 高発育群 多重比較 体 重 積極拒否i.95(1.27) 9.43(0.79) 9.77(0.56)低く高
身 長 溺 愛 5.94(1.16) 7.74(2.24) 7.05(1.62)低>中,低>高
③ 10ヵ月男児(表9)
体重, Kaup指数では特に傾向はみられなかったが,身長の厳格型では高発育群に強い厳格傾 向がみられた.また,身長・盲従型では高発育群が他群に対して強い盲従傾向を示し,身長・矛 盾型においても他群に対して高発育群に強い矛盾傾向がみられた.
厳格・盲従型から低発育児に対する母親の保護態度の現れを読み取ることができる.一方,矛 盾型は子どもの加齢とともに変化するものではないことは結果より明らかであり,子どもの発育
表9 得点比較(10ヵ月男児)
単位:点(標準偏差) 低発育群 中間群 高発育群 多重比較 身 長 厳 格 8.44(0.57) 7.79(1.22) 6.60(1.14)低>高,中>高
盲 従 8.56(1.24) 8.13(1.38) 6.80(0.45)低>高,中>高 矛 盾 8.78(0.97) 8.03(1.67) 6.40(2.07)低>高
の良さが過度の矛盾態度を誘発しているとは考え難い.むしろ,この10ヵ月段階の低発育児の 母親の場合,相対的に低発育である子どもに対して,母親の一貫した保護の姿勢が矛盾傾向の低
さにつながったものと恩われる.
④ 10ヵ月女児(表10)
体重, Kaup指数の積極的拒否において低発育群が中間群に対して強い拒否傾向を示し, Kaup指数の溺愛型では低発育群が中間・高発育両群よりも強い溺愛傾向を示した.
4ヵ月に引き続き,積極的拒否と低発育との関連性が示唆されている. Kaup指数における低 発育児の母親の拒否と溺愛の態度が過度であることが特徴的傾向として挙げられる.この両態度 は先述の通り,反対の性質をもつものであり,ここで得た結果は矛盾したものであるといえる.
しかしながら,両者を表裏一体の関係とみた場合,子どもに対する積極的な保護を適切に実行で きない母親がその愛情を拒否の形で表現しているとして捉えることができる.また,これとは逆 に,子どもに対する拒否反応が溺愛として表出してしまったことも同時に示唆される.質問紙に よって矛盾傾向のあることを認めている母親とは違い,無意識のうちに矛盾した行動をとってし まう母親の心理が具体的数値となって示された興味深い結果であるといえる.
表10 得点比較(10カ月女児)
単位:点(標準偏差) 低発育群 中間群 高発育群 多重比較 体 重 積極拒否 8.59 (1.00) 9.32 (0.94) 9.29 (1.20)低く中 Kaup指数 積極拒否 8.64 (1.22) 9.32 (O.i 9.07 (1.33)低く中
溺 愛 7.29(1.86) 8.36(1.59) 8.62(1.04)低く中,低く高
⑤ 1歳6ヵ月男児(義ll)
体重の不安型において高発育群が他の二群より不安傾向が強かった.身長, Kaup指数では特 に傾向はみられなかった.
不安型の態度とは,子どもの日常生活や将来の進路などに不必要と思われるほどの心配や不安 を抱く18)ものであり,高発育群の母親はその子どもの相対的な発育の良さから育児中心ではな
裏目 得点比較(1歳6ヵ月男児)
単位:点(標準偏差) 低発育群 中間群 高発育群 多重比較 体 重 不 安 8.77(0.97) 8.75(1.02) 8.19(0.93)低>高,中>高
母親の養育態度と乳幼児の身体発育との関連性 33 く,きたるべき幼児期に相応した生活環境に関心を注いだ結果,不安傾向が強く出たものと思わ れる.また逆に,これらの母親の態度にみられる積極的な子どもとの関わりが子どもの環境を最 適なものへと導き,子どもの高発育を促したとも考えることができる.したがって,この高発育 群の母親の不安傾向の強さは,子どもに対する積極的保護態度が子どもの発育に正の影響を与え るものであることを示唆するものといえる.
しかしながら一方では,高体重は肥満につながるとも考えられ,その事が母親の不安を相対的 に高めていることも合わせて示唆される.
⑥ 1歳6ヵ月女児(表12)
体重・溺愛型において,高発育群が他の二群より強い溺愛傾向であった.また,矛盾型におい て多重比較の結果,低発育群と高発育群の間に有意な得点差があり,低発育群の矛盾傾向の強さ が認められた.身長, Kaup指数では特に傾向はみられなかった.
溺愛は積極的保護とするならば,母親の保護を十分に受けている子どもの発育は良好になるこ とは十分に予測できる.一方で, 10ヵ月段階でみられた拒否的態度と服従的態度が,この時期 での過度な矛盾的態度を誘発しているものと思われる.
表12 得点比較(1歳6ヵ月女児)
単位:点(標準偏差) 低発育群 中間群 高発育群 多重比較 体 重 瀦 愛 8.52(1.72) 8.58(1.71) 7.70(1.77)中>高
矛 盾 7.05(1.47) 7.76(1.52) 8.09(1.47)低く高
⑦ 3歳6ヵ月男児(表13)
体重・矛盾型での低発育群の矛盾傾向の強さが認められた.身長・積極的拒否において低発育 群と高発育群の間に有意な得点差があり積極的拒否傾向が低発育群に強くでることが認められた.
身長・積極的拒否では低発育群に強い拒否傾向がみられた.身長・厳格型では高発育群に対して 他の二群の得点が低く,厳格傾向が強くみられた.また,身長・矛盾型も同様に低発育群,中間 群に強く矛盾傾向がみられた. Kaup指数では特に傾向はみられなかった.
男児では,この3歳6ヵ月段階で初めて拒否的・支配的態度と発育との間に関連性がみられた.
やはりこれらの養育態度の過度さは子どもの低発育と関連があるようである.この理由について は, 1歳6ヵ月からこの時期にかけて次子の誕生がありうることがひとつの原因として考えられ る.つまり,次子の誕生によって母親の子どもに対する生得的保護システムが長子から幼い次子 へと向けられた結果,長子との関わり合いを縮小せざるを得なくなり(消極的拒否),また,千
表13 得点比較(3歳6ヵ月男児)
単位:点(標準偏差) 低発育群 中間群 高発育群 多重比較
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高高高く く く中中中
高高高く く く低低低
どもが母親に対して以前と変わらぬ愛情を要求する態度を母親が体罰などの方法を用い物理的に 回避しようとしたため(積極的拒否),結果にみられるような拒否態度が出現し,それが子ども
の低発育と結び付いたのではないかと考えられる.
そして, 3歳6ヵ月において低発育群の場合,母親の不安が高く,その不安が拒否の心を生ぜ しめたことを合わせて考えておかねばならない.
⑧ 3歳6ヵ月女児(表14)
体重および身長・消極的拒否にて低発育群の拒否傾向は他の二群に対して弱いものであった.
体重・厳格型では高発育群は他の二群に対し,弱い厳格傾向であった. Kaup指数・不一致型で は高発育群の同傾向が中間群に対して強くみられた.
4ヵ月, 10ヵ月に引続き拒否態度と発育との関連性がみられた.しかしながら,この段階で は過度の拒否的態度が子どもの発育の悪さを説明しておらず,逆に低発育児の母親の拒否的態度 は相対的に緩やかなものであった.そして,拒否の内容も積極的なものではなく,消極的なもの となっている.これは男児の場合と同様に,次子の誕生をきっかけに積極的保護の姿勢が縮小さ れたことが原因であると考えられる.しかし,男児とは逆に拒否傾向の弱さが発育の悪さを説明 しており,ここに男児および女児と母親との人間関係に違いがあるのではないかと推測できる.
例えば,母親が子どもの性によって抱く一致・不一致感であるとか,家長制度のような社会・文 化的背景などが子どもの性に対する母親の養育態度の違いを説明できるのではないだろうか.
その一方,やはり支配的態度の緩やかさは子どもの発育の良さを予測するものとなっている.
また,不一致型にみられるよう,夫婦間の育児に対する方針の違いは低発育を招くことが示唆さ れている.母性的対象としての母親と二次的対象としての父親の養育態度が異なることは,子ど もにとって負の発育要因となると同時に,育児補助者となるべき夫との意見の対立は,母親に心 理的負担を与えることにもなる.これが長期にわたったり,母親の容認限度を越える重大な負担
となった場合,この母親の抱く不一致感は,母子関係を貧困なものへと変化させるきっかけにな り得るのではないかと考える.
表14 得点比較(3歳6カ月女児)
単位:点(標準偏差) 低発育群 中間群 高発育群 多重比較
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Ⅳ 考察のまとめ
本調査で得られた養育態度と子どもの身体発育との関連性についての結果にみられたいくつか の傾向は,上述の子どもの気質,母親のパーソナリティ,また,両者の生得的性質を基礎とした 母子相互作用の形成・発達が,母親の養育態度と子どもの身体発育とに少なからず影響を与えて
いることを示唆している.また,過度な拒否的・矛盾的態度が子どものパーソナリティ形成にマ イナスの影響を与えることは既に確認されており14,15,16)本調査の3歳6ヵ月児にみられた傾向
母親の養育態度と乳幼児の身体発育との関連性 35
と一致している.したがって,少なくとも3歳以降の子どもの身体発育の面からもこれらの関連 性が示唆されるが,子どもが低発育であるゆえに母親の態度が不適切に陥っていることも考え合 わさなければならない.
母子相互作用が悪循環した結果,過度な態度と低発育が誘発されたのであるなら,母子共にお 互いの性質を有害なストレスとして認知しているとも考えられる.つまり,母親の拒否的態度と 子どもの低発育が結び付いていることは,心身の相関20,21)を示すものであり,乳児期に心身症と して低発育が起こる可能性を示唆するものでもある.
乳児期男児にみられた拒否的態度及び3歳6ヵ月児にみられた同態度の違いについて,乳児期 には拒否的態度の強さが発育の良さを,幼児期では同じく発育の悪さを予想するものであり,さ らに1歳6ヵ月段階において,有意性のみられた態度数が一時的に減少していることを考え合わ せると,この時期を境に母子相互作用の内容が逆転することが示唆される.
Ⅴ 結 論
乳幼児健康診査を受診した4ヵ月, 10ヵ月, 1歳6ヵ月, 3歳6ヵ月児の母親に対し,健診 対象児に対する養育態度,対象児の健診時体重および身長を質問紙法を用い調査したところ, 1153名の母親から回答を得た.そこで得た資料を元に,乳幼児の身体発育(体重,身良, Kaup 指数)と母親の養育態度との関連性について分析・検討した結果,以下の事柄が示唆された.
1.母親の養育態度と乳幼児の身体発育は相互に関連する.
2.特に3歳以降では過度な拒否的態度と低発育は相互に関連する.
3.子どもの性により母親の養育態度に差がみられる.
4.乳児期において心身症として低発育が発症する.
過度な態度は子どもの発育にとって決して良いものとはいえないが,夫との育児での不一致に みられるように母親の受けるストレスは単に母子間にとどまるものではない.それゆえ母子関係 を良好なものに保つためには,子どもに保護を与えるのと同様に,母親をも積極的に保護してい く必要があると考える.母子保健に関わる地域保健関係者はこれらを念頭におき,母子保健活動 の展開を図るべきではないだろうか.
文 献
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