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生命保険契約における解約返戻金規整

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生命保険契約における解約返戻金規整

肥 塚 肇 雄

■アブストラクト

解約返戻金およびその算定方法・金額については,商法には規律がなされ ていなかった。こんにち,低(無)解約返戻金保険,変額年金保険および市 場金利連動型解約返戻金保険等が開発されるに至ったが,これらの解約返戻 金算定基準は伝統的な生命保険のそれとはまったく異なるので,今般新たに 成立した保険法に解約返戻金に対する規律を設けることを望む声もあった。

しかしながら,結局,保険法に解約返戻金に対する規律は定められず,保険 料積立金に対する規律が設けられたに過ぎない。本稿は,保険法が新たに制 定されたことを契機に,商法における 被保険者ノ為メニ積立テタル金額 の意義と,解約返戻金に対する規律を再検討し,保険法下における保険料積 立金に対する規律の可能性と解約返戻金に対する規律の限界を考察すること を目的とするものである。

■キーワード

解約返戻金,保険料積立金,責任準備金

はじめに

解約返戻金(解約払戻金ともいわれる。以下解約返戻金という)について は,商法上直接の根拠規定はなく,解約返戻金の基礎・計算方法についても 商法上に明文の規定は置かれていなかった。商法に定められているのは,保

/平成21年8月11日原稿受領。

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険契約が中途消滅した場合に保険者が 被保険者ノ為メニ積立テタル金額 (680条2項・682条・683条2項。個別的責任準備金ともいう)を返還すべき 義務を負うということである。その金額は,平準保険料方式の下では,保険 契約者が支払った営業保険料のうち,純保険料の中の貯蓄保険料が積みたて られた部分と予定利率に従って付加された利息を合わせたものである 。保 険契約者が支払う貯蓄保険料部分は将来保険事故が発生した場合に保険者が 支払うべき保険金に備える部分である。これを保険団体全体について見ると,

その部分は保険契約者全体に対する保険責任としての総責任準備金あるいは 保険料積立金となるが,個別の保険契約者にとっては, 被保険者ノ為メニ 積立テタル金額 は保険料積立金に対する各保険契約ごとの持分と捉え得る のであって,商法上保険契約が中途消滅した場合のその金額を返還すべき義 務が定められているし約款上も保険契約者の自己の持分を利用・処分する権 利が認められてきたところである 。保険契約者が解約する場合には, 被 保険者ノ為メニ積立テタル金額 から解約控除された額が解約返戻金として 払い戻されることになるはずである。しかし,解約返戻金自体の規律も解約 控除額の算定方法などについての規律も商法上定められていなかった。それ らは約款に定められているのが通例であった。そのためか,実際に,生命保 険契約の失効により支払われるべき解約返戻金の額が既払込保険料の額と比 べてあまりにも少なかった事案もあり,解約返戻金の算定方法・金額の妥当 性が争われれたこともある 。

1) 志田惣一 解約返戻金 倉澤康一郎編・生命保険の法律問題・金判増刊号 986号136頁(1996年)。

2) 志田・前掲注⑴136頁。

3) 東京地判昭和56年4月30日判時1004号115頁,判タ441号143頁。判例評釈と して,山下友信 生命 保 険 解 約 返 戻 金 を め ぐ る 諸 問 題 NBL237号 6 頁

(1981年),同 生命保険解約返戻金をめぐる諸問題 NBL238号28頁(1981 年),同 判解 昭和56年重要判例解説・ジュリスト768号109頁(1982年),青 谷 和 夫 判 評 判 評272号196頁(判 時1010号194頁)(1982年),倉 澤 康 一 郎 生命保険の解約返戻金 法学セミナー325号132頁(1982年),神田秀樹 判 解 商法 (保険・海商)判例百選〔2版〕・別冊ジュリスト121号114頁 (1993年),

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解約返戻金については,近年様々な保険商品が開発・販売されるに至り,

また保険消費者保護の意識が徐々に高まり,次のような問題点が現代的な課 題として指摘され,保険契約法上の規律が望まれる社会情勢となってきた。

第一に,こんにち,低(無)解約返戻金保険,変額年金保険および市場金 利連動型解約返戻金保険等の新しい保険商品 が開発・販売されており,こ れらの解約返戻金算定基準は伝統的な生命保険のそれ とはまったく異なっ ている。それにもかかわらず,新しい保険契約が解約された場合の解約返戻 金の水準については,保険監督という観点からの議論がまったくなされない まま,認可されているという状況がある 。

第二は,消費者取引の側面から制定された包括的民事ルールである消費者 契約法と解約返戻金の水準との関係についての議論がまだ固まっていない点 である 。一方においては,解約返戻金の解約控除の額が, 平均的な損害 の額を超えるもの は無効であると定める消費者契約法9条1号に抵触する のではないかとも考えられる。他方においては,解約返戻金の理解の仕方と

石山卓磨 生命保険普通保険約款の拘束力と解約返戻金の控除 判タ455号70 頁(1982年),吉田明 判解 生命保険判例百選〔増補版〕・別冊ジュリスト97 号210頁(1988年)などがある。

4) 法制審議会保険法部会第11回会議(平成19年6月13日開催)参考資料 伝統 的商品の保険料について⑴等 。井上亨 保険契約終了時の保険料積立金の支 払と解約返戻金 落合誠一=山下典孝編・新しい保険法の理論と実務・別冊金 判245頁(2009年)。

5) 伝統的保険商品(平準払い・終身保険)の解約返戻金は, (契約者価格とし ての)責任準備金−未償却の新契約費など(解約控除) で求められた。法制 審議会保険法部会第11回会議(平成19年6月13日開催)参考資料 伝統的商品 の保険料について⑴等 。

6) 山下友信 保険法制定の総括と重要解釈問題−成立過程の回顧と今後に残さ れた課題− 生命保険論集167号22頁(2009年)。

7) 山下(友)・前掲注⑹23頁。具体的に解約返戻金額の合理性および妥当性を 判断するために必要な客観的根拠もしくはその確認方法をその約款の内容その ものから読み取るのは難しい状況にあるという指摘もなされている。金岡京子

解約返戻金の約款規制 保険学雑誌603号114頁(2008年)。

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して,解約に伴うリスク,それに見合ったコストを保険契約者と保険者がど れだけ負担するかという負担割合によって決まるものと捉えれば,解約費用 等を一切控除しない保険商品を設計することもできるし,また反対に解約返 戻金なしの保険商品を設計することも可能となるから,自由な商品設計の可 能性を残すという途を保障するのであれば,解約返戻金の額を法定すること は避けるべきであるとも考えられるのである 。

したがって,第三に,解約返戻金の法的性質は何か,なぜ解約返戻金に対 して規制をかけるのか,その際の理念ないし政策判断は何か,また解約控除 の根拠は何か等の理論的問題が整理されていないことである 。

以上の問題点が指摘されていながら,結局は,保険契約に関するルールを 現代化して制定された保険法には解約返戻金に対する規律は定められなかっ たのである。本稿の目的は,法制審議会保険法部会での議論も踏まえつつ,

保険法における保険料積立金に対する規律の可能性と解約返戻金に対する契 約上の規律の限界について検討を加えることにある。

商法下における規律

被保険者ノ為メニ積立テタル金額 の意義

商法下においても解約返戻金に関する直接の規律はおかれていなかった。

一定の場合には保険者は被保険者に対し 被保険者ノ為メニ積立テタル金 額 を払い戻さなければならないとする規律は商法680条2項および683条2 項の各規定において定められていた 。その一定の場合とは,すなわち,商 法上 被保険者ノ為メニ積立テタル金額 を払い戻さなければならない場合 とは,第一に,保険者免責の場合( 被保険者カ自殺,決闘其他ノ犯罪又ハ

8) 法制審議会保険法部会第2回会議(平成18年11月22日開催)議事録51頁。

9) 山下(友)・前掲注⑹38頁。

10) なお,保険者の 被保険者ノ為メニ積立テタル金額 支払義務は,商法上2 年の時効によって消滅する(682条)。保険約款には消滅時効期間は3年に延長 されているのが通例である。日本生命保険生命保険研究会編著 生命保険の法 務と実務 122頁〔中澤正樹〕(金融財政事情研究会,2004年)。

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死刑ノ執行ニ因リテ死亡シタルトキ 〔商法680条1号〕, 保険金額ヲ受取ル ヘキ者カ故意ニテ被保険者ヲ死ニ致シタルトキ 〔同法同条2号〕),第二に,

戦争其他ノ変乱 による保険者免責(同法640条,683条2項),第三に,

保険者カ破産手続開始ノ決定ヲ受ケタ 場合(同法651条,683条2項),第 四に, 保険者ノ責任カ始マル前 の保険契約者が任意解除を行った場合

(同法653条,683条2項)および第五に,保険期間中の危険の著増又著変に より保険者が契約解除した場合(同法657条,683条2項)である。

ところで, 被保険者ノ為メニ積立テタル金額 とは何かが問題となる。

商法においては,解約返戻金と同様に, 被保険者ノ為メニ積立テタル金額 に関する詳細な規律,たとえば,積立基準や具体的な計算方法の規定もおか れていない 。

思うに, 被保険者ノ為メニ積立テタル金額 とは,保険者が免責となっ たときまたは 保険者カ保険金額ヲ支払フコトヲ要セサルトキ に 払戻ス コトヲ要スル 金額(同法680条2項,683条2項)である。支払うべき保険 金の原資は,収支相等の原則および給付反対給付均等の原則に照らして考え ると,各保険契約の保険料に求めることができるから, 被保険者ノ為メニ 積立テタル金額 とは,各保険契約の保険料が積み立てられた金額,すなわ ち,保険料積立金を意味する と考えられる。この積立金は各保険契約者の 契約に対応する金額である 。ただ注意すべきは,保険料積立金に対応する 資産は法的には保険者の所有に属するものであり,これを返還しないで保険 者が保有することが法律上当然に不当利得となるわけではないという点であ

11) 山下友信 保険法 652頁(有斐閣,2005年)。

12) 山下(友)・前掲注 651頁。商法680条2項,683条2項の各規定は任意規定 であるが,これら規定には保険契約中途解約消滅の場合には保険料積立金の払 戻が行われるベことが私法上も原則とされるべきであるという考え方が明らか にされている。山下・前掲注 651頁

13) 山 下 友 信=竹 濵 修=洲 崎 博 史=山 本 哲 生 保 険 法〔2 版〕 256頁〔山 下

(友)〕(有斐閣,2004年)。

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る 。商法上 被保険者ノ為メニ積立テタル金額 に対する詳細な規律が定 められていないのは,その金額の支払については契約当事者の契約自由の原 則に委ねるという趣旨があるようである 。

ところで,生命保険契約の保険料の支払方式には,平準保険料方式と自然 保険料方式がある。自然保険料とは,毎年毎年,保険料の収入と保険金の支 出が相等しくなるように定めた保険料をいう 。死亡率は当該加入者の年齢 とともに高くなるから,保険期間が長期に及ぶ場合,純保険料も毎年徐々に 高くなり後年度の純保険料の額が加入者の保険料支払能力を超える可能性も あり,合理的な方式ではない 。これに対して,平準保険料とは,高年齢で 保険料が高くなっていくような場合に備えて予め当初に必要とする額以上に 多くの純保険料を徴収して残りの部分を積み立てておき後でそれを取り崩す ものである 。したがって,平準保険料の場合,保険期間全体において収支 が相等しくなるように毎年同一の純保険料を定めることになる ので,自然 保険料による場合のような不合理がなくなる。生命保険実務では平準保険料 が採用されているのが一般である。この方式によれば,たとえば保険者がい ずれ必ず保険金を支払わなければならない終身保険および養老保険の死亡保 険部分にあっては,そのための原資が毎回の純保険料から貯蓄されながらも,

保険期間の前半での純保険料の余剰分はその後半での不足分にあてがわれる。

このように,保険期間の前半に徴収し貯蓄された保険料(貯蓄保険料)を元

14) 山下(友)・前掲注 652頁,田口城 被保険者のために積み立てた金額と解 約返戻金 生命保険論集162号296頁(2008年)。保険料積立金に対応する資産 は,実質的には,保険料払込者である保険契約者の持分として保険契約者に帰 属するものである。岡谷野知広 生命保険契約に基づく権利の差押え 倉澤康 一郎編・新版生命保険の法律問題・金判増刊号1135号90頁(2002年)。

15) 山下(友)・前掲注 652頁。

16) 生命保険協会編 生命保険講座 生命保険計理〔29版〕 37頁(生命保険協 会,2007年)。

17) 山下(友)=竹濵=洲崎=山本・前掲注 21頁〔洲崎〕。

18) 日本生命保険生命保険研究会編著・前掲注 67頁〜68頁〔田中圭〕。

19) 井上・前掲注⑷241頁。

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本として,それを予定利率で増額した元利合計金を累加して積立てられる部 分を保険料積立金という 。このように,保険料積立金は,経済的には保険 者のもとで貯蓄として蓄積されることを意味する 。この保険料積立金の算 出方法としては,平準純保険料式とチルメル式がある。これらの算出方式の 違いは,保険者の事業費を考慮して,付加保険料部分を保険期間全体を通し て毎年均等に配分するか,それとも現実を直視し契約初年度に多額の事業費 支出になることから,新契約締結費用を初年度の保険料で支出したことにし て次年度以降は平準純保険料式に比べて不足する部分を徐々に埋め合わせて いくかに求めることができる 。前者の場合が平準純保険料式であり,後者 の場合がチルメル式である。

2 保険料積立金と責任準備金

保険料積立金が将来の保険金支払のために積み立てられているとすれば,

生命保険会社は,将来の保険金支払義務の履行を確実にするために,監督官 庁の監督に服するのが妥当である。実際に,保険業法上, 保険会社は,毎 決算期において,保険契約に基づく将来における債務の履行に備えるため 一定の金額の 積み立て が義務付けられている(116条1項) 。この金額 を,保険業法上責任準備金という。

しかし,保険業法上の保険料積立金とは,保険会社の保有する保険契約全 体に対してなされるものであって,理論的には個別の保険契約の保険料積立 金を総計したものであるという点には注意を要する 。生命保険会社は,保 険業法施行規則上,毎決算期において,当該決算期以前に収入した保険料を

20) 山下(友)・前掲注 648頁。井上・前掲注⑷241頁。

21) 山下(友)=竹濵=洲崎=山本・前掲注 21頁〔洲崎〕。

22) 山下(友)・前掲注 650頁注⑷。

23) 金融庁 保険会社向けの総合的な監督指針 Ⅱ−2−1責任準備金等の積立 の適切性(2009年7月)。

24) 山下(友)・前掲注 649頁。

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基礎として,保険料積立金 の他,未経過保険料 ,払戻積立金 および危 険準備金 をそれそれ保険業法4条2項4号に掲げる書類に記載された方法 に従って計算し,責任準備金として積み立てなければならない(69条1 項) 。

生命保険契約の保険料の額は,予定死亡率,予定利率および予定事業費率 にその計算の基礎が求められ,これらは保険料率計算の基礎率といわれる。

1995(平成7)年改正保険業法以前は,責任準備金の計算基礎率は保険料の 計算基礎率がそのまま用いられていたが,翌年4月の上記改正法施行後は,

内閣総理大臣が長期の保険契約で内閣府令で定めるものについて,責任準備 金の積立方式および予定死亡率その多の責任準備金の計算の基礎となる係数 の水準について必要な定めをすることができるように改められた(保険業法 116条2項,同法施行規則69条4項)。これにより積み立てられた金額を標準 責任準備金という 。この標準責任準備金の趣旨は,保険会社の将来の保険

25) 保険料積立金とは,保険契約に基づく将来の債務の履行に備えるため,保険 数理に基づき計算した金額〔払戻積立金として積み立てる金額は除く〕)をい う(保険業法施行規則69条1項1号)。

26) 未経過保険料とは,未経過期間〔保険契約に定めた保険期間のうち,決算期 において,まだ経過していない期間〕)に対応する責任に相当する額として計 算した金額(払戻積立金として積み立てる金額は除く)をいう(保険業法施行 規則69条1項2号)。

27) 払戻積立金とは,保険料又は保険料として収受する金銭を運用することによ って得られる収益の全部又は一部の金額の払戻しを約した保険契約における当 該払戻しに充てる金額をいう(保険業法施行規則69条1項2号の2)。積立保 険等に妥当し生命保険には存在しない。山下(友)・前掲注 650頁注⑸。

28) 危険準備金とは,保険契約に基づく将来の債務を確実に履行するため,将来 発生が見込まれる危険に備えて計算した金額をいう(保険業法施行規則69条1 項3号)。

29) 損害保険会社の責任準備金については,保険業法施行規則70条1項参照。日 本生命保険生命保険研究会編著・前掲注 562頁〜563頁〔福井俊郎=金山和 範〕。

30) 日本生命保険生命保険研究会編著・前掲注 75頁〔田中〕。

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金支払能力を実際に確保することにある 。現在は,平準純保険料式 によ り計算した金額を下ることなく積み立てられ,予定死亡率は,社団法人日本 アクチュアリー会が作成し金融庁長官が検証したものが用いられ,予定率は 過去の長期国債の応募者利回りの平均値に所定の安全率係数を乗じたものと することが定められている(大蔵省告示第48号 標準責任準備金の積立方法 及び計算基礎率を定める件 〔平成8年2月29日〕,平成13年金融庁告示24号,

平成16年金融庁告示55号) 。このように,こんにち,保険料の額の計算の 基礎と保険料積立金の計算の基礎とは異なるのであり,責任準備金は企業会 計上の積立金としての性格が色濃くなっている 。責任準備金では将来の債 務の履行に支障を来すおそれがあると認められる場合には,追加して保険料 積立金および払戻積立金を積み立てる必要がある(保険業法施行規則69条5 項)のも,この性格の表れである。

3 商法上の 被保険者ノ為メニ積立テタル金額 および保険業法上の保険 料積立金

各保険契約者から平準保険料が徴収されると,その保険料のうち,経済的 に保険者のもとで貯蓄として保険料積立金が蓄積される部分を認めることが できる。したがって,商法上の 被保険者ノ為メニ積立テタル金額 とは各 保険契約に係る保険料積立金を意味する。保険契約の中途消滅した場合に,

保険料積立金を返還するのが合理的であるが,前述のようにそれは保険契約 者の契約自由の原則に委ねられている。

31) 日本生命保険生命保険研究会編著・前掲注 75頁〔田中〕,562頁〔福井=金 山〕。

32) 平準純保険料式とは,保険契約に基づく将来の債務の履行に備えるための資 金を全保険料払込期間にわたり平準化して積み立てる方式をいう(保険業法施 行規則69条4項2号)。山下(友)=竹濵=洲崎=山本・前掲注 255頁〔山下

(友)〕。

33) 日本生命保険生命保険研究会編著・前掲注 75頁〔田中〕。

34) 山下(友)・前掲注 650頁。田口城 保険法における解約返戻金規整の考 察 保険学雑誌598号117頁(2007年)。

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これに対し,保険業法上の保険料積立金とは,保険会社の将来の保険金支 払能力を実際に確保するため積立が要求される責任準備金を構成する一要素 であって,保険会社の保有する保険契約全体に係るもの,すなわち,理論的 には個別の保険契約の保険料積立金を総計したものであって,商法上の 被 保険者ノ為メニ積立テタル金額 とは概念上違いが認められる 。したがっ て,契約全体としての保険料積立金に対して,各保険契約者の権利が直接認 められるわけではない。しかし,約款上は個別の保険契約者の各契約の保険 料積立金に対する権利が認められていて,それが監督関係法令上に表される とすれば,それは契約上の個別の保険料積立金に対する権利としてである 。 すなわち,その金額が保険業法177条3項および保険業施行規則10条3号に 定められている 保険契約者価額 である。すなわち,保険者価額として の保険料積立金は約定された保険契約者の価額の一つとして位置付けられ る 。

保険法下における保険料積立金

1 法制審議会保険法部会における議論の経過

法制審議会保険法部会における解約返戻金まはた保険料積立金に関する議 論は次のように推移してきた。すなわち,第2回会議においては,解約返戻 金に関する規律についての問題提起がなされ,4つの案が示された 。第11 回会議と第12回会議においては, 保険法の見直しに関する中間試案の取り まとめに向けた議論のたたき台 として, 保険契約が終了した場合の保険

35) 金澤理 保険法下巻 36頁〜37頁注⑵(成文堂,2005年)。

36) 山下(友)・前掲注 653頁。

37) 保険契約者価額とは,返戻金の額その他の被保険者のために積み立てるべき 額を基礎として計算した金額をいう(保険業法施行規則10条3号)。

38) 田口・前掲注 117頁。

39) 詳細は,田口・前掲注 309頁以下参照。

40) 法制審議会保険法部会第2回会議(平成18年11月22日開催)議事録47頁〜54 頁,配布資料3 保険法の現代化に関する検討事項⑵ (保険法部会資料3),

参考資料 解約返戻金について 。

(11)

者による保険料積立金等の支払 について,生命保険契約が終了して保険者 が保険契約者に支払うべき 一定の金額 の額について実質的な方向性が示 された 。その後,第14回会議では, 保険法の見直しに関する中間試案の 取りまとめ の段階で, 保険期間満了前に保険契約が終了した場合には,

保険者は,保険契約者に対し,将来の保険金の支払に充てるべき保険料をも とに算定した〔一定の金額〕を支払わなければならないものとする とされ,

片面的強行規定の方向で検討するとされた 。第20回会議では,保険料積立 金の規律および解約返戻金の規律についての方向性が示された 。しかし,

保険法の見直しに関する要綱案(第2次案) について審議がなされた第23 回会議に至り,保険料積立金に対する規律は定めるが,保険商品の中には無 解約返戻金型保険もあるように,解約返戻金の算出方法は個々の商品設計と 密接な関係があるので,解約返戻金の算出方法について一律のルールにより,

かつ,裁判規範性のある形で規律をすることは技術的に困難であるという理 由 から,解約返戻金に係る規律は設けないこととされた 。

2 保険料積立金に対する規律

保険法では,商法の保険料積立金( 被保険者ノ為メニ積立テタル金額 )

41) 法制審議会保険法部会第11回会議(平成19年6月13日開催)議事録50頁〜53 頁・会議用資料12(保険法部会資料12)・24頁〜31頁。同第12回会議(平成19 年6月27日開催)議事録1頁〜16頁。

42) 法制審議会保険法部会第14回会議(平成19年8月8日開催)議事録35頁〜36 頁,会議資料15(保険法部会資料15)26頁〜27頁。

43) 法制審議会保険法部会第20回会議(平成19年11月28日開催)議事録46頁〜53 頁,会議用資料22(保険法部会資料22)1頁〜2頁。

44) 法制審議会保険法部会第23回会議(平成20年1月9日開催)議事録20頁。竹 濵修 保険法入門 182頁(日経文庫,2009年)。

45) 法制審議会保険法部会第23回会議(平成20年1月9日開催)議事録19頁〜20 頁,37頁〜41頁,会議資料26(保険法部会資料26)20頁。

46) 保険料不可分の原則,すなわち 一個の保険料期間の保険料は不可分であ る。 という原則と保険法との関係について述べる。この原則は商法上に直接 にその根拠があるわけではないが,保険契約を支配する原則の一つであること

(12)

に対する規律(680条2項,683条2項→640条,653条,656条,657条,651 条)と同様の規律を設けた(63条,92条)。すなわち,保険料積立金を 受 領した保険料の総額のうち,当該生命保険契約に係る保険給付に充てるべき ものとして,保険料または保険給付の額を定めるための予定死亡率,予定利 率その他の計算の基礎を用いて算出される金額に相当する部分 と定義して,

①保険者の免責事由に該当する場合(51条各号。ただし,保険契約者が被保 険者を故意に死亡させたとき(2号)は除く),②保険者の責任が開始前に おける保険契約者による解除または被保険者による死亡保険契約の解除請求 を受けたときの解除(54条,58条2項),③危険の増加による保険者の解除

(56条1項),④保険者の破産手続開始決定による保険契約者の解除(96条1 項)またはその保険契約者の解除権不行使による保険契約の失効(96条2

が当然のこととして承認されていた(大森忠夫 保険法〔補訂版〕 79頁(有 斐閣,1985年))。これに対しては,従来から疑問が示されていたところである

(たとえば,金澤理 保険料の返還と保険料不可分の原則 損害保険研究29巻 1号1頁〜44頁(1967年),山下丈 ドイツ保険契約法における保険料期間概 念の機能と性質−いわゆる保険料不可分原則を中心に− 民商法雑誌69巻2号 314頁以下(1973年),金澤理 保険法上巻〔改訂版〕 73頁〜75頁(成文堂,

2001年)。なお,同・前掲注 42頁〜44頁も参照。立法論として破棄すべきだ とする見解もあった。山下(友)・前掲注 354頁)。現行の生命保険実務でも,

保険料年払契約,半年払契約および月払契約ごとにそれぞれの応当日を式とす る1年,半年および月払を各保険料期間と定め,当該保険料期間のうち一部で も保険者が危険を負担した場合には,この期間の中途で契約が消滅しても,保 険者は当該保険料期間に対する保険料の全額について権利を有し残存期間に対 する部分は返還されないこととされている(日本生命保険生命保険研究会編 著・前掲注 202頁〔岩崎治幸〕)。保険法においては,保険料不可分の原則は 採用されていない。その理由は,保険料期間よりも短い期間に対応する保険料 を算定することが技術的に不可能であるとはいえないこと,保険者が現に危険 負担をした期間の長短にかかわらず,一律に保険料期間全部の保険料を保険者 が取得することには合理性がないことに求められる(萩本修編著 一問一答保 険法 108頁〜109頁(商事法務,2009年))。保険料不可分の原則が採用されて いない以上,保険料期間の途中で保険契約が終了した場合には,保険者は,既 払の保険料のうち,未経過期間に相当する保険料を返還する義務を負う(民法 703条)(萩本修編著・前掲書109頁注⑵)。

(13)

項)により,生命保険契約が終了した場合に,保険契約者に対し,当該終了 時における保険料積立金を払い戻さなければならないと定め(63条),片面 的強行規定とした(65条)。傷害疾病定額保険契約においても同様な規律を 定めた(92条,94条3号)。

解約返戻金に対する規律

1 商法における解約返戻金と保険実務

保険契約者が契約を途中で任意解約した場合には,商法上の 被保険者ノ 為メニ積立テタル金額 (保険料積立金)から契約締結等に関する諸費用を 控除して(これを解約控除という),残りの貯蓄部分の払戻しが行われてき た 。これが解約返戻金といわれるものである。すなわち,解約返戻金とは,

保険契約者が契約を途中で任意解約した場合の他,約款上告知義務違反に基 づく解除および重大事由解除した場合等,保険契約者の責めに帰すべき事由 により契約が終了する場合に,保険料による貯蓄部分から①未償却の新契約 費用(保険者が当該契約の獲得に要した費用で契約継続期間中に支払われた 付加保険料では回収しきれていない額),②抗死力減退費用(残存する契約 の死亡率上昇に備える費用) 等を解約控除してなされる金額の払戻しであ ると一般に考えられてきた 。さらに言い換えれば,解約返戻金は,伝統的 には契約価額としての保険料積立金から所定の解約控除を経て計算されるこ とが一般的であったのである 。

普通保険約款においては,解約返戻金・(狭義の)責任準備金 の計算方 法と支払場所が定められおり,解約返戻金・(狭義の)責任準備金を有しな

47) 岡谷野・前掲注 90頁,山下(友)=竹濵=洲崎=山本・前掲注 254頁〔竹濵〕。

48) 大澤康孝 積立金に対する保険契約者の権利 ジュリスト753号107頁〜108 頁(1981年)。

49) 大森・前掲注 294頁,298頁。

50) 日本アクチュアリー会 保険1(生命保険) 第2章解約返戻金2‑12頁〔金 村慶二〕(2007年),山下(友)・前掲注 653頁注⑼。

51) 狭義の責任準備金とは,商法に規定する 被保険者ノ為メニ積立テタル金

(14)

い契約については,別途特約の約款で定められている 。たとえば,ある保 険会社の約款においては,次のような条項がおかれている。すなわち,解約 返戻金の計算について,保険料払込期間中の場合にはその保険料を払い込ん だ年月数により,保険料払込済の場合にはその経過した年月数により計算す る。ただし,災害割増特約等一定の特約については,その特約の保険料払込 期間がその特約の保険期間と同一の場合には,解約返戻金はありません,と いう条項である。また,(狭義の)責任準備金の計算方法についても同様の 条項がおかれている。

2 消費者契約法との関係

解約控除は,一般に,伝統的な保険商品においては,保険契約者が予想外 に早期に脱退したことによって保険者に生じる損害(費用)の賠償額の予定 と理解されていたように思われる 。問題は,伝統的な保険商品とは異なっ た低解約返戻金保険・無解約返戻金保険および市場金利連動型解約返戻金保 険等の新しい保険を含め,消費者契約法による解約返戻金に対する約款規制 をどうするかにある。解約返戻金の法的性質を一般的に論じることは困難で ある。伝統的な保険商品については,保険契約が中途解除された場合の精算 に係る付随的給付であると解されるので,解約控除は損害賠償の予約と捉え ることができ ,同法9条1号の 損害賠償額の予定 とし得る結果,同法 9条1号の規定の適用が肯定されることになる 。これに対し,解約返戻金

額 (680条2抗,656条,657条,651条,640条,683条)を意味し,広義の責 任準備金のうち,当該被保険者についての契約に対応する部分をいう。日本生 命保険生命保険研究会編著・前掲注 244頁〔小福利幸〕。

52) 日本生命保険生命保険研究会編著・前掲注 244頁〔小福〕。

53) 大森・前掲注 298頁,西嶋梅治 保険法〔3版〕 370頁(悠々社,1998年)。

54) 大森・前掲注 298頁,西嶋・前掲注 370頁,倉澤康一郎 保険法通論 143頁(三嶺書房,1982年)等。

55) 山下友信 講演 消費者契約法と保険約款−不当条項規制の適用と保険約款 のあり方− 生命保険論集139号6頁(2002年),金岡京子 解約返戻金の規律 に関する一考察 生命保険論集160号43頁(2007年)。

(15)

は保険金・保険料の計算と一体の保険数理計算の基づき算出されるものであ って,解約を原因とする約定給付であると捉えれば,同法9条1号の規定は 適用されないことになる 。

思うに,確かに保険業法上の保険料積立金と保険契約法上の保険料積立金 とは概念が異なり,後者は契約に基づいている。すなわち,保険者の解約返 戻金支払義務の根拠は,保険契約が失効したとき,保険契約者は解約返戻金 の支払を請求をすることができる旨を定めている約款に求められる 。しか し,解約控除額は主に新契約費の未償却部分の額に相当することから,新契 約費の未償却部分の額が実際に解約した場合に 事業者に生ずべき平均的な 損害の額 (消費者契約法9条1号)に対応するのかは疑問なしとしない 。 解約返戻金の額は自ずと合理的な金額に定まるものであると仮定すれば,保 険者が合理的な計算方式を超えて無制限に約款上に保険約款に計算方法など の詳細を示し解約控除の額を算定することは,保険消費者にとっては複雑か つ理解が困難なものとして写るであろうから,むしろ不合理なのかもしれな い。ただ,解約返戻金の額が必然的に合理的な金額に常に定まるという保証 はないのである。そこで,解約返戻金に対しても保険消費者の保護の必要性 を肯定し,しかも消費者契約法的民事規制を解約返戻金に課すという選択を するならば,解約返戻金の額の合理性に対する規制は消費者契約法10条に委 ねるという方向性が考えられる。しかし,それは困難であると指摘されてい

56) 井上・前掲注⑷250頁(ただし,井上はどちらの説にも与しない),田口・前 掲注 124頁。

57) 大澤・前掲注 108頁,中西正明 生命保険法入門 140頁(有斐閣,2006 年)。東京地判昭和56年4月30日判時1004号115頁参照。なお,解約控除の経済 的根拠については,大澤・前掲注 108頁,田口・前掲注 282頁以下,長谷川 宅司 解約返戻金 竹濵修=木下孝治=新井修司編 保険法改正の論点 322 頁(2009年)。また,解約返戻金支払義務の根拠は約款に求められるので,保 険料積立金に対し保険契約者の不当利得返還請求権は生じないであろう。山下

(友)・前掲注 651頁。

58) 山下(友)・前掲注 7頁〜8頁。

(16)

る 。それでも保険消費者保護の観点を民事法上において徹底しようとする 限り,(解約返戻金の額に対する民事規制は疑問なしとしないが,)消費者 契約法9条1号の規定を適用することを志向すると思われる。

3 監督法との関係

保険業法においては,解約返戻金の水準に関する規定がおかれている。す なわち,免許審査基準を定める5条1項4号には,内閣総理大臣は,免許の 申請があったときは,保険料及び責任準備金の算出方法書(4条2項4号)

に記載された事項が次に掲げる基準に適合するものであるかいなかを審査す る旨が定められている。イ 保険料及び責任準備金の算出方法が,保険数理 に基づき,合理的かつ妥当なものであること,ロ 保険料に関し,特定の者 に対して不当な差別的取扱いをするものでないこと,ハ その他内閣府令で 定める基準である。ハの内閣府令で定める基準は保険業法施行規則12条1項 に規定されている。その中の一つに,契約者価額の計算が,保険契約者等に とって不当に不利益なものでないこと(1号)という基準が定められてい る 。

さらに,解約返戻金の開示についても,保険業法5条1項3号に,免許の

59) 落合誠一 消費者契約法 152頁(有斐閣,2001年),山下(友)・前掲注 6頁,34頁。なお,金岡・前掲注⑺118頁。なお,長谷川・前掲注 323頁参照。

60) 法制審議会保険法部会第2回会議(平成18年11月22日開催)参考資料 解約 返戻金について 参照。

61) 金融庁 保険会社向けの総合的な監督指針 (2009年7月)においては,

Ⅱ−2−1−3−1保険料積立金の積立で,⑤予定解約率を使用する場合は,

当該予定解約率が過去の実績や商品性等から,合理的に定められたものとなっ ているか,Ⅳ−2−1逓増定期保険で,⑵各年度における解約返戻金が当該年 度の保険金額以下となっているか,Ⅳ−5−1保険料で,⑶予定発生率・損害 額又は予定解約率等については,基礎データに基づいて合理的に算出が行われ,

かつ,基礎データの信頼度に応じた補整が行われているか,Ⅳ−5−3契約者 価額で,解約返戻金については,支出した事業費及び投資上の損失,保険設計 上の仕組み等に照らし,合理的かつ妥当に設定し,保険契約者にとって不当に 不利益なものとなっていないか等が監督指針として定められている。

(17)

申請があったとき,事業方法書及び普通保険約款(4条2項2号3号)に記 載された事項が次に掲げる基準に適合するものであるか否かを審査する旨が 定められている。すなわち,ニ 保険契約者等の権利義務その他保険契約の 内容が,保険契約者等にとって明確かつ平易に定められたものであること,

ホ その他内閣府令で定める基準である。ホの内閣府令で定める基準は保険 業法施行規則11条3号に規定されている。すなわち,保険契約の解約による 返戻金の開示方法が,保険契約者等の保護に欠けるおそれのない適正なもの であり,かつ,明瞭に定められていることである 。

4 保険法における法制化の見送り

保険法上解約返戻金の規定を法定化する必要性は,解約返戻金支払義務が 約款にその根拠を有するからに他ならない 。しかし,結局,保険法には解 62) 金融庁の 監督指針 (前掲注 )においては,Ⅳ−1−9 保険契約者等

(顧客を含む。)への説明事項で,低解約返戻金型商品,無選択型商品,マーケ ット・ヴァリュー・アジャストメント(契約時と解約時の金利差によって生じ る運用対象資産の時価変動額を解約返戻金に反映させる仕組み)を利用した商 品及び転換に類似する取扱い等については,商品内容等を保険契約者等に十分 に説明する方策が講じられているか,Ⅳ−1−10 解約返戻金の開示方法で,

解約返戻金については,例えば,金額を保険証券等に表示する,計算方法等を 約款等に掲載するなど,保険契約者等に明瞭に開示するための措置を講じてい るか,Ⅱ−3−3−2 生命保険契約の締結及び保険募集で,契約概要(重要 な事項を告げるにあたっては,重要な事項のうち顧客が保険商品の内容を理解 するために必要な情報)と注意喚起情報(顧客に対して注意喚起すべき情報)

が分類の上告げられているか。すなわち,ア. 契約概要 の項目として,解 約返戻金等の有無及びそれらに関する事項が,イ. 注意喚起情報 の項目と して,解約と解約返戻金の有無が告げられているか。契約締結前交付書面に関 し,契約概要と注意喚起情報に分類の上,書面を作成し,交付しているか。す なわち,ア. 契約概要 の項目として,解約返戻金等の水準及びそれらに関 する事項または市場金利に応じた運用資産の価格変動を解約返戻金額に反映さ せる保険であることの説明について,イ. 注意喚起情報 の項目として,解 約と解約返戻金の水準についての書面の作成と交付がなされているか等が監督 指針となっている。

63) 長谷川・前掲注 326頁。

(18)

約返戻金に対する規律はなされなかった。すなわち,解約返戻金の規律の内 容として解約時の制裁的ペナルティーを控除することができない旨の法定化 はなされなかった 。しかし,保険契約者に任意解除権(27条,54条,83 条)が定められた。解約返戻金との関係では,解約返戻金約款によって保険 契約者の任意解除権の行使が事実上不可能とされているような場合には,そ の約款は,消費者契約法10条の規定に抵触し無効とされる余地がある 。

おわりに

不合理な解約返戻金に対する規律は保険法上定められなかったため,一般 法による民事規制と保険業法等による監督規制に委ねられることとなる。

監督規制では,保険商品認可制において監督行政を通して解約返戻金の合 理性を審査することになる。ところで,2008(平成20)年1月31日,金融審 議会金融分科会第二部会および保険の基本問題に関するワーキング・グルー プ(以下保険WGという)の合同会議が開催され, 保険法改正への対応に ついて がとりまとめられた。そこには,すなわち,保険料積立金に関し,

法制審議会においては,特に解約返戻金について,その内容として解約時の ペナルティーを控除することができない旨を明確化することが検討されたが,

結論としてはこれを定めないこととされた。保険WGにおいては,この点に 関して,規律の更なる明確化の観点から,解約控除の対象は保険料計算基礎 に基づいたものに限る(いわゆる解約時のペナルティーは含まれない)とい う趣旨の規定を商品審査基準に明確化する方向で検討すべきであると考えら れた。そして,保険料積立金等の支払に関する論点は,技術的な要素を多く 含むことから,今後,専門的・実務的視点も含めた更なる検討が行われるべ

64) 大串順子=日本生命保険生命保険研究会編 解説保険法 195頁〔坂井明〕

(弘文堂,2008年)。なお,桜井健夫=坂勇一郎=丹野絵美子=洞澤美佳 保険 法ハンドブック−消費者のための保険法解説 250頁〔丹野〕(日本評論社,

2009年)。

65) 金岡・前掲注⑺125頁。井上・前掲注⑷250頁。

(19)

きであるとされた。その後,2009(平成21)年6月19日,保険WGが,今 後の議論につなげていくために, 中間論点整理 をまとめ,検討の視点や 個別論点の整理について記載・公表した。そこには,保険料積立金等の支払 について, 保険商品に係る透明性向上等の観点から,解約返戻金に係る商 品審査基準を明確化すべきとの意見や基礎書類の開示を検討すべき等の意見 があった。また,無・低解約返戻金型保険商品について,特に保険料が比較 的高い保険商品のあり方について,考え方を整理すべきとの意見があった。

今後,これらの問題についても,募集面や商品面に係る他の問題と併せて検 討していくことが必要であると考えられる と記されている。

解約返戻金に係る実質的な規律を更に実質化させるためには,手数料の開 示が求められるが,解約返戻金の開示は主に保険契約募集手続の側面での問 題である 。また,解約返戻金の水準は,保険料・積立金・配当等の価格,

保険会社の事業費体系,保険会社の資産運用方針および商品性等との相互関 係,保険事業を営む上での社会環境の下で決定される 。したがって,解約 返戻金に対する規律に対し考慮すべきことは,一面においては,保険消費者 のニーズに対応する保険商品の設計・開発の柔軟性を可及的に認めるべきで あるという要請と,他面においては,複雑になる解約返戻金の計算の基礎・

方法に対する保険消費者の保護を手厚く図るべきであるという要請とをいか にして調和させるかという視点であろう。

(筆者は香川大学法学部教授)

66) 法制審議会保険法部会第23回会議(平成20年1月9日開催)議事録7頁。

67) 井上・前掲注⑷245頁。

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