N.DC 756.6
剣道の攻防に関する時間的研究 一剣道少年の攻めについて一
田渕俊彦、 荒木祥一。,
A Study of Offensive and Defensive Reaction Times in Kendo
一 On thc otl cnsc and dct cnsc ot boys practicing kendo一
Toshihiko Tabuchi Shouichi Araki
In kendo, or Japanese fencing, the movement oif the sword point stroflgly affects t,he competitors
offensive and defensive actions.
1 have studied how sword point・ movement influences the defensive action of boys who practice kendo from the persective of indiviclnal reaction tirnes.
1.目的
剣道において、剣先の1)働きは打突動作、防御動作に大
きな影響を持っている。「剣先に攻めがある」「剣先がき いてVEる』「剣先が生きている」などというのは、すべて
剣先の威力、働きからくるものである。剣道は相手からの打突の情報をより早く、正確に把握し て対応することが重要である。その情報受容の結果が勝敗 を左右する大きな要因の1っである。
先行研究には剣道の打突動作の時聞的研究、攻防の研 究、熟練の程度による反応時間の研究など2〕 3} 4》5,9}数多
くある。しかし、これら研究の測定方法は被検者とロボッ ト、熟練者と非熟練者を対象として行われることが多いので、本実験では対象者を練習を共にしているチームメイト
とした。
予備実験の結果、被検者の剣道技術が同程度の場合は、
平素の練習状況で打突部位を限定すると、防御者は、攻撃 者の打突をほとんど防御してしまった。そこで、本実験で は防御者からは竹刀の動きのみが見えるように設定したボ ックスを試作し、その中に攻撃者を入れた。そして、実際 の競技中の動作に近いものにするため、被検者相互に攻め 合いをさせ、剣道特有の攻めが、防御動作にどのような影 響を与えているのかを反応時間・打突の成否の点から実験 を試みた。その結果、剣道指導上参考になると思われる若
干の資料を得たので報告する。H.研究の方法 1)実験の期日
平成9年9月7日〜平成9年10月5日
2)実験場所
津山工業高等専門学校 第一体育館
3)被検者
1.小学校低学年
小学校4年生 5名(9才)養徳館道場
剣道経験年数2年 年間剣道練習日数約22Q日 平成9年度 美作地区少年剣道練成大会 低学年の 部団体優勝(32チーム出場)
2.小学校高学年
小学校6年生 6名(11才)養徳館道場 剣道経験年数5年 年間剣道練習日数約220日 平成9年度 美作地区少年剣道練成大会 高学年の 部 団体優勝(42チーム出場)
3.中学生
中学生 6名(13〜14才)勝央中学校 初段1名、2段5名
剣道経験年数7年 年問剣道練習日数約250日 平成9年度 岡山県中学校剣道大会 団体優勝
* 一般科目(体育)
** 一般科目(体育)
平成11年8月30日受理
一 97
m.実験方法
1)被検者には平素練習に使用している防具・竹刀を使
用させ、一足一刀の間合(中学生:1.75m,小学生高学 年:1.60m,小学生低学年1.50m)で対峙させた。そして、攻撃者が自由に防御者を攻め、打突の機会に正面
打ちをするように指示した。2)攻撃者からは防御者の垂より上部の全体が見え、自由
に打突ができる高さ2.1m×横1。5m×縦1.5mのボックスを試作した。このボックスの打突する面は黒布を短冊状に し、攻撃者が自由に打突できるようにした。防御者を見
るための部分は日除けシェードを取り付けた。攻撃者をボックスの中に入れ、外の防御者と対峙させ、
防御者からは攻撃者の持つ竹刀の剣先から 中品・剣先から鍔までのみが見えるように
構えさせた。
3)各グループ(小学校低学年、小学校高学 年、中学生)の防御者に竹刀が剣先から中 丸まで見える・剣先から鍔まで見える状態 の位置で構えさせ、合図と同時に攻撃者に ボックスの中から防御者を自由に攻めさせ
打突の機会に正面打ちを行わせた。また、防御者には中段の構えを守りながら、攻撃 者の面打ちを最大努力し、防御するように 指示した。
4)面の打突についての成功、失敗の判定は
剣道試合・審判規則の有効打突と異なり、面の打突部位に攻撃者の竹刀が当たったか 表1 どうかを攻撃者と防御者の合議により判定
させた。
5)防御者が体捌きによって打突を防御した
時はその値を資料から除虫した。IV.測定方法
1)ソニーVideo Hi8をボックスの側面10mの 位置に設置して撮影した。その映像をモニ ター画面に写し、コマ送りをして反応時間
を測定した。2)攻撃者の打突開始時間は攻撃者が打突の 機会をとらえて、面打ちをするために右足 の踵を上げた瞬間を撮影したテープのコマ
を基点とした。3)防御開始時間は攻撃者が面打突をしよう とする動作を認知して、防御者が竹刀を防 御する方向に動かした瞬間を撮影したテー
プのコマを基点とした。4)各グループの反応時間は上記2)〜3)
までの時間とした。そして、打突者が剣先 から中結まで見える場合を中結反応時間・
剣先から鍔まで見える場合を鍔反応時間と した。
V.結果及び考察
中結反応時間・鍔反応時間と打突の成否を 示したのが表1〜6である。
攻撃者は相手の構え方、身体の動き、剣先 の動き、呼吸、精神状態などを総合的に判断 をして、打突の機会をとらえて、面打突をし
ている。
星川は4〕剣道において、もし相手の竹刀の動き以前に
打突を察知すれば打撃時間よりも防御時間が遅くても防 御は可能になると報告している。本実験では表1・表2・
表4に反応が0となっている個所が見られる。これは熟 練度の低い小学榛低学年、小学校高学年にみられ、攻撃
(msec)
打 突 者
A
成・否 B 成・否C
戚・否D
威・否 E 域・否A
2970 155
X 1980
0層 .「wB 429
o
1650
132 X 132 X、防
芬メ
C
66X
2G40
33X
231 XD
33X
99 X165 X
1980
E 231
0
66 X 198 X 2970
小学校低学年 中結反応時間と面打ちの成否
(msec)
打 突 者
A
成・否 B 成・否C
成・否D
成・否E
成・否A
33 X 33X
33X
33X
B 165
0
231 X 2310
198 X防 御 者
C
33 X 66 X23ユ 0
231 XD凸
0
X 165 X.264 o
2970
E 231
0
165X
165 X 2310
表2 小学校低学年 鍔反応時閻と面打ちの成否
(mseic)
打 突 音
F 霞・百
G
成・否 1.1 霞・盃 1 成・否 J 域・否K
蔭・否F
330 0 3go o 363 0 396 G 395 oG
264X
363x
231X
165 0 165X
H
99X
198 0 231 0 231X
132X
防 御 者
1 231
X
198X
165X
邑一Q31 o 198X
J 264 0 297
0
1650
264 0 198 oK 132
X
165X
330 0 165X
231X
表3 小学校高学年 中結反応時間と面打ちの成否
剣道の攻防に関する時間的研究 一剣道少年の攻めについて一 田渕・荒木
打 突 者
F 眠・否 G 確・否 H 咳・百 1 咳・否 J 霞・否 K 匪・否
F 330
0
254X
264X
2640
ユ98X
G 132
x
297x
330x
198x
ユ98X
H
0 X
132X
165 D 2970
132X
防 御 者
1 132
X
165x
165X .132 X 99 X
J 231 0 231 0 231
0
231 o 264X
K
264 0 297 0 254 0 231X
264X
表4 小学校高学年 鍔反応時間と面打ちの成否
f丁 突 者
L
成・否M
頃・百N
成・否 O 成・盃 P 賎・否 Q 成・否L 231
X
297 0 互 165x
165XX
M■
264
X
132x
264X
132x
99防」
芬メ
N 254x 132
0 198 x 155x
ユ32x 0
231X
3960
297 o 429 0 3630
P 254
x
462 o 396 o 264X
363X
Q 231 0 198
o
363o
2も4x
231o
表5 中学生 中結反応時間と面打ちの成否
灯 突 者
L
販・否M
霞・査 N 成・否0
頃・否P
戚・否 Q旺否
L
198x
330X
165x
165X
198X
M 198
X
198o
297o
132x
297X
N 264
0
363 0 330X
198X
2310
防 御 者
0 65 X. 231 0 297
0
264 o 254x
P 198
X
198x
2310
264X
165X
Q 198
X
297 0 231 0 165X ユ32 X
表6 中学生 鍔反応時間と面打ちの成否
(msec) 者の剣先の動きを防御者に察知され、防御 動作中の所へ打突したと考えられる。これ は攻防からの打突の機会のとらえ方が未熟 であると推察される。
表1・表5に400msec以上の値がある。
これは打突者の竹刀の動きにより、防御者 が竹刀を防御方向と逆方向の右無下に開き、
面を打突させる姿勢になったのである。つ まり、打突者が打突前の竹刀の攻防により、
防御者を完全に無防備にして打突したと考 えられる。この攻防の検証は今後の磧究課 題である。
竹刀の剣先から中震まで見える場合の面 打突の成功率は小学校低学年40%・小学校 高学年50%・中学生40%であり、剣先から
(mse。) 鍔まで見える場合は小学校低学年35%・小
学校高学年37%・中学生37%であった。
防御の成功率は攻撃者の竹刀が多く見え る場合が高かった。これは、竹刀の剣先か ら中結までの動きから察知する情報が剣先
から鍔までと比較して少なく、防御者は、剣道で言う「読み」がはずれ、面打突を多 く許したものと思われ、検者の予想通りで
あった。情報量の少ない忠君反応時間の標準偏差
は小学校低学年103.5・小学校高学年83,4・中学生95であり、鍔反応時間は小学校低
学年93,6・小学校高学年74.6・中学生66であった。中結反応時間は防御者が打突者の 打突の機会をとらえきれずバラツキが大き かったものと考えられる。しかし、鍔反応
(msec) 時間は小学校低学年・小学校高学年・中学
生と学年進行にともなって、竹刀の動きに 対する時間的な対応の差が少なくなり、バ
ラツキが少なくなっている。本実験で中毒、鍔反応時間のグループ別 の平均値を図示したものが図1である。
中空反応時間は小学校低学年170msec・小 学校高学年240msec・中学生254msecであり、
鍔反応時間は小学校低学年152msec・小学 脚高学年213msec・中学生226msecであった。
猪飼6)は第一線級選手(オリンピック候 補)と、第2線級の選手との比較で、両者 の反応時間の差は筋収縮時間であり、動作 時間の差はわずかであると述べている。安 東らの7〕研究では剣道少年の単純反応時間 の発達は中学3年生までほぼ線型的な時間短縮が見られ た。しかし、本実験では中耳反応時間・鍔反応時間はと もに小学校低学年、小学校高学年そして中学生と漸次時 間が拡大傾向にあった。これは熟練度が高くなるに従っ て、打突者の攻めが効果的になり、防御者に影響をあた
一99一
{msec}
300 270 240 210 180 150 120
90 60 30 o
中結反応時間 鍔反応時間
が決定されると思われる。又、打突者は打突前の攻防に おいて、この時間差を作り出し、打突の機会を得ること
が重要であると推察される。VI.要約
剣道の攻防動作について、中結反応時間・鍔反応時間
・
ナ突の成否等を検証する目的で小学校低学年・小学校 高学年・中学生を対象として、測定を行った。その結果
次のような知見を得た。1)防御者が打突者との攻防から、無防備の状態で打突
された場合には400msec以上の値を示した。小学校低学年 ド諺綬1高学年 中学生
図.1 中結反応時間・鍔反応時閻
(msec)
3rJo
300
250
200
150
IOO
rJo
o
:.;/−
雷い胎反応5む渦 成功
:=二:嚇醐魏
ノ」・学校低学年 小学校高学q三 中学生
図.2 中結反応時間・鍔反応時間の打突の成功・失敗
2)三笠反応時間の面打突の成功率は小学校低学年40%
・小学校高学年50%・中学生40%であり、鍔反応時間は 小学校低学年35%・小学校高学年37%・中学生37%で
あった。
3)鍔反応時間は小学校低学年・小学校高学年・中学生
と学年進行にともなってバラツキが少なくなっている。4)中結反応時間の平均値は小学校低学年170msec・小 学校高学年240msec・中学生254msecであり、鍔反応時間 は小学校低学年152msec・小学校高学年213msec・中学生 226msecであった。
えたものと推察されるが、この結果については今後の研究
課題である。中結反応時間と鍔反応時間を比較すると、各グループと も中結反応時間が大きく短縮されている。剣道では相手の 攻めを読む能力が防御における修業目標である8)と言われ ている。本実験では竹刀の見える部分の大小が、情報量の
差になり、防御者の読む能力に影響したものと推察される。図2は中結反応時間・鍔反応時間での打突の成功、失敗
を比較したものである。剣道では1本の打突を繰り出すまでの攻防にそれぞれの
個性的な工夫や修練の結果が示されている。本実験の中結反応時間で面打突に成功した場合と失敗し た場合の時間の差は小学校低学年150msec・小学校高学年 84msec・中学生102msecであった。又、鍔反応時間は小学 校低学年129msec・小学校高学年66msec・中学生61msecで ある。この時間の差が打突の成功・失敗となっているので
ある。
防御者は相手との攻防の中で、 「打突してくる」 「打突
してこない」と事前に察知できるかどうかで防御の成・否
5)中結反応時間で面打突の成功した場合と失敗した場 合の平均値の差は小学校低学年150rnsec・小学校高学年
84msec ・中学生102msecであり、鍔反応時間は小学校低学 年129msec・小学校高学年66msec・中学生61msecであった。本実験では剣道少年の中野反応時間・鍔反応時間につ いて報告したが、被検者グループの特性もあり、今後の
調査で問題点を明らかにしたい。稿を終えるにあたり、御協力をいただきました養学館
道場の植月正行氏に謝意を表します。参考文献
1)坪井三郎・佐藤成明:現代剣道講座第2巻・剣道の 実技,練習編 P113 1971
2)金木悟:万分目1秒計による竹刀スピードと攻防の 研究,武道学研究 9巻第2号 P15〜161976 3)田渕知好 安東三次:剣道の動作における反応時間 の研究 津山工業高等専門学校紀要 P381 1967 4)星川保:剣道の打突動作,防御動作の時問的関係か ら見た剣道技術の特牲,武道学研究11巻 第2号・
P114−」115 1978
5)恵士孝吉ら:剣道の打の研究(応じ技)日本体育学会
大会号 P2561971
剣道の攻防に関する時間的研究 一剣道少年の攻めについて一
田渕・荒木
6)猪飼道夫,広田公一:スポーツ科学講座 運動の生理
P141 19617)安東三次,田渕俊彦::反応時間の研究,少年期の反 応時間と応答時間のトレーニング効果について 津山 工業高等専門学校紀要 第25号 P99 1987
8)三橋秀三:不動智 P188 1986
9)八木沢誠・志沢邦夫・長田一臣:剣道の攻防における 対人打突動作の「予測」について 武道学研究22巻
第2号P39〜401989