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ポリエン抗生物質

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Academic year: 2021

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ポリエン抗生物質

Enacyloxinに関する研究

渡 港 敏 彦

Studies on the New Antibiotics Enacyloxins and  Enacyloxin Oxidase Produced by Frateuria sp. W ‑315 

Toshihiko WATANABE  (1994818日受理)

We found family of novel antibiotics, named enacyloxin (ENX), produced by pseudo acetic acid bacterium, Frateuria sp.  W315. In this paper, describe the summarized results  of chemical structures and ferrnentation properties of them, and also the mode of action of  ENX IIa and enzyrnatic properties of ENX oxidase. 

はじめに

本研究は,十数年前から筆者およびその共同研究 者により主として東北大学農学部農芸化学科に於て 行われたものであるが, 19947月,筆者の秋田高 専への転任に伴い.その研究も本校に引き継がれ,

卒業研究のテー?としても現在進行中である。多く の方々のご理解をいただきながら今後の研究を進め たいと考え,その概略をまとめてみた。なお本文は,

化学と生物,第30巻,第5(1992年}に記載され た文章を基本に改訂,加筆したものである。

抗真菌(抗かぴ)抗生物質として従来報告されてい るポリエン抗生物質はすべてラクト ン環構造をもっ とされていた。筆者が発見したポリエン抗生物質 Enacyloxin (ENX)はラクトン環のない鎖状構造を もっ新規な一群の抗生物質である。ENXはラクト ン環構造をもっポリエン抗生物質とは大きく異な

り,抗真菌活性はほとんど無いが,強い抗細菌活性 を 示 し た。ENX生 産 菌 は 酢 酸 菌 の 一 種 で あ る

Frateuria属に属す細菌であり,酢酸菌が抗生物質 を生産するということは大変珍しいことである。そ の培養方法は赤パンかび (Neurooracrassa)を培 養した後,その培養液を用いて, ENX生産菌を培養 するという 2段階培養が用いられた。 ENX生産菌 はまた,培地中に新規な酸化酵素 (ENXoxidase)  を分泌し,さらにその補酵素もまた新規物質である 可能性が示された。 Frateuria属細菌が赤パンかぴ の培養濡液で生産するという珍しい抗生物質である Enacyloxinは,その他にもいくつかの興味ある問

題を提供している。

Enacyloxinの構造13)

現在までにその構造が決定,あるいは推定されて いるEnacyloxin(ENX)Fig.1に示した。ジヒ ドロキシシクロヘキサンカルボン酸と酸化の進んだ ペンタエンカルポン酸がエステル結合したものであ る。従来報告されているポリエン抗生物質は,大環 状ラクトンと共役二重結合をもち,あるものは,糖 をその構造にもっとされている。これに対し,現在 までに発見された, 13個のENX同族体はいずれも ラクトン環をつくらないペンタエンクロモフォアを もち,その構造に 1個または2個の塩紫原子をもつ ことが特徴である。後述するように,生産菌の培養 方法を変えると生産物の内容にも変化が見られ,主 として塩素原子を1個 も つENX(ENX Ia及 び ENX IIIa)が得られる。この場合, 18'位が無置換と なっている。このENX中の塩素原子は培地中の必 須成分である塩素イオンに由来するが,これを臭素 イオンで代替することは可能であり,培地に KClの 代りにKBrを添加した場合,臭素原子をもっENX が 得 ら れ る 。 し か し ハ ロ ゲ ン を 全く含 有 し な い ENXはまだ発見きれていない。シクロヘキサン環 の34位のジオールはcis配置であり1位のカル ポン酸がそれらとはtransの関係にあるため, 3位 の水酸基はaxial4位の水酸基はequatorialとな るが,クロモフォア部分はこの3位のaxial水酸基 とエステル結合している。酸性条件下ではこのアシ

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ポリエン抗生物質Enacyloxinに関する研究

偶 数 番 号 : 2塩 素 同 族 体 奇 数 番 号 : 1撞素同j京体

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Fig̲ 1 ヱナシロキシン類

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i広 治 敏 彦 ル基が,次第に安定な4位に転移するようである。

2.  ENX IIaの抗細菌活性45)

ENXの抗菌活性はいずれの同族体も同様の作用 を示すものと考えられるが,最も抗菌活性の強い ENXIIaについて主として検討した。 Table1に示 すように, ENXIIaは広〈グラム陽性・陰性細菌に 活性を示す。しかし,赤パンかびには非常に弱い活 性を示すが,酵母には活性を示さなかった。このよ

うに,かぴ及び酵母に殆ど活性を示さずに抗細菌活 性のみを持つポリエン抗生物質は, ENXが最初の 報告例と考えられる。その作用は静菌作用(殺菌作 用と対比される言葉,菌の生育を止める働き)であ り,大腸菌を用いた菌体内高分子物質合成にたいす る作用は蛋白質合成に対する阻害のみが観察され た。蛋白質合成の場であるリボソームにおけるペプ チド鎖延長反応に対しては, phe‑tRNAのりボソー ムへの結合を30μg/mlで約50%阻害したが,ペプチ ド転移反応には阻害は見られなかった。またフラン スのParmeggiani教授との共同研究によると,

ENX IIa は細菌のペプチド鎖延長反応において,リ ボソームおよびelongationfactor Tu (EF Tu) 直接作用する最初の抗生物質であることが示された

Table ヱナシロキシンの最小生育阻止温度 (μg/ml)

細 菌 名 lIa  IVa  lII

εschtn'chin coli K 12  5.5  5.5 

εsdllricllio co{j 110  0.5  ND  ND  Solm01ltffn  Iythimun'um 7 M 10  ND  ND  Pstlldumo"os /1uortsctllS IFO 3081  ND ND  Pstudomonos otntginosn lAM 1007  40  ND  ND  Ent'In;o corolot'oro IAM 1024  ND  ND  Strrol;o morCtsctllS FK 5  25  ND  ND  Klebsitlla ouogtnes ATCC i256  ND  ND 

ProltllS ",irob;{;s 

1468  ND  ND 

80cillus nltgnleiu' ND  ND  Bocill subt;lis.Marburg  10  ND  ND  Slntl'ylococClInureus 209P  20  ND  ND  MicrQcoccus luftus IAM 1097  10  ND  ND  M;crQcocclls  lultlls IFO 3232  10  ND  ND  Slretfococcus fotenlis 

TCC 8043  ND  ND 

Sfretlomyces sp.  0. ND  ND  NellrQsorocrosso IFO 6068  200  ND  ND  cchorOTl1ycesceret'isioe  500  ND  ND  ND: :実償をしていない

(投稿準備中)。なお細胞壁を欠<L型大腸菌はラ クトン環をもっポリエン抗生物質に対し感受性であ ることが示されておりへ細菌に対する効果の有無 は細胞壁に対する薬剤の透過性もその原因のーっと 考えられる。マウス腹腔内注射による LD50150 mg/kgであり,ポリエン抗生物質としては毒性は低 い方であろう。

3. Enacyloxinの発群生産1789)

ENXの発見の経緯はおよそ次のようなものであ り,スクリーニングにおける被験菌の代謝産物に依 存して生産菌が抗生物質を生産するという経過をた どったものである。これは筆者の,恩師である故植村 定治郎教授の示された 微生物生態論"川の考え方 を抗生物質生産の場に応用したものである。抗真菌 抗生物質の検索のために,薦糖を単一炭素源とした

CzapekDox寒天培地に被験菌としての赤パンかぴ を接種し,その周辺に土壌試料を塗沫したところ,

赤パンかぴの生育に依存するかたちで,ある細菌が 生育した。その際,培地中に黄色物質が分泌され,

それが赤パンかぴの菌糸の伸長を僅かに阻害すると い う 現 象 が 観 察 さ れ た 。 こ の 単 離 菌 は 当 初

Gluconobacter, AcetobacteηPseudomonas属 聞 の 中間型菌株(intermediatestrain)とされたが,そ の後,新たに Frateuria属が提唱された11)のに伴い,

Frateuria sp. W ‑315株と命名された。 W‑315株にと って,赤パンかぴの培養掠液以外には抗生物質生産 のための良好な培地が容易に見つからないため,赤 パンかぴをまずCzapek‑Dox培地で液体培養し,つ ぎにその培養穂波にW‑315株を培養するという 2 段階培養により抗生物質の生産を行った。この櫨液

中には抗生物質の生産を促進する代謝産物の存在が 推定された。そこで'本穂波を系統的に分析し,次の ことが明らかとなった。即ち,赤パンかぴは培地中 の薦糖をそのインベルターゼでぶどう糖と果糖に分 解し,果糖をより優先的に利用する。そのため培地 中の糖組成はほぽぶどう糖80%,果糖20%となり,

W‑315株はこのぶどう糖を王に利用してENXを生 産していた。さらに微量産物としてのりんご酸等の 有機酸も ENX生産に関与していることも示され た。以上の結果を参考に新たな組成の培地を作り,

l段階培養でのENX生産に成功した。但し,新しい 培地中では,先述の塩素原子がl個のみの同族体も 生産されたことにより, まだ解明されるべき要因が

あるのかもしれない。

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‑ 9 3 ‑ ポリエン抗生物質Enacyloxinに関する研究

各時期を通じて,その菌体を破砕しでも, ENX  oxidase活 性 は 破 砕 液 中 に は 検 出 き れ な い こ と よ

り,菌体外に分泌きれる際にプロセッシングきれて 活性化する分泌酵素であると考えられた。

quinoproteinに属する酵素は多数報告されてい るが,いずれも膜結合性,あるいはごく僅かに細胞 質中に存在するが,分泌酵素は1例もなく, ENX  oxidaseが最初の菌体外quinoproteinである。菌体 外て官も活性の強い抗生物質 (ENXIIa)を生合成 する新しいタイプのquinoproteinと思われるが,何 らかの理由により ENXを 生 産 し な か っ た 培 養 で は,本酵素活性も検出きれないことより,ENXの生 産に必須の働きをしているものと考えられる。

おわりに

抗 生 物 質 の 生 産 に つ い て は 報 告 例 の な い Frateuria属細菌が生産した新しいタイプのポリエ ン抗生物質Enacyloxinは,構造,作用機作のみなら ず,生合成(その最終段階が菌体外酵素の酸化作用 による)の面でも,大変興味ある課題を提供してく れた。更に,新しい補酵素の存在も推定されており,

こ れ ら の 諸 問 題 に 対 し て 取 り 組 み を 進 め な が ら Enacyloxinとは何かといフ疑問に迫りたいと考え ている。

4. ENX生合成に関係する酸化酵素12)

ENX生 産 培 養 に お い て , 菌 体 外 に 生 産 さ れ る ENXは,培養の前半はENXIVaが,後半はENX IIaが量的に主たる成分である。両者の構造上の相 違は15'位の酸化状態が異なるだけであり,脱水素反 応の関与が考えられた。そこでFig.2に示すよう に, ENX生産培養中期の培養液から,遠心分離によ

り菌体を除いた上清を,冷所(5.C)に保存し,HPLC を用いて経時的に3時間ENXの変化を追跡定量し たところ, ENX IVaは速やかに減少し, ENX IIa  は急激に増加したが,両者の和は完全に一定に保た れていた。上清を90C2分加温するとこの反応は完 全に停止した。これは培養上清中に存在する脱水素 活性を示す酵素(脱水素酵素あるいは酸化酵素)に よる反応であり, ENXIVaENXIIaに化学量論 的に変化したことを意味する (30.Cではいくつかの 副反応が見られ,化学量論的には進行しない。ただ い精製された酵素では,これらの副反応は見られ ない)。この反応には分子状酸素が電子受容体として 利用され,カルポニル試薬で阻害されることより,

PQQ (Pyrroloquinoline quinone)またはその類似 の活性をもっ物質を補酵素とする quinoprotein13)

に属す酵素であることが示された。本酵素は73kDa  の蛋白質であるが,精製するに従い高分子状態へと 会合する性質を示した。本酵素は上記の性質より酸

化酵素とされ, ENX oxidaseと命名された。培養の 参考文献

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9)  T.Watanabe, T. Sugiyama K. Izaki:

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12) R. uyama, T. Watanabe, H. Hanzawa, T.  Sugiyama K. Izaki: BiosciBiotech. Bio chem., 57, 1914 (1994). 

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参照

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