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[研究ノート] 価値統合にかんするノート

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[研究ノート] 価値統合にかんするノート

その他のタイトル [Note] A Note on the Value Integration

著者 春日 淳一

雑誌名 關西大學經済論集

巻 29

号 3

ページ 205‑214

発行年 1979‑10‑20

URL http://hdl.handle.net/10112/14582

(2)

205 

研究ノート

価値統合にかんするノート

春 日

目 次 1 .   はじめに

2 .   問題の性格

3 .   マズロー図式からの示唆 4 .   価値統合のパターン ( 1 ) 5 .   価値統合のパターン ( 2 )

1 .   は じ め に

財の生産・交換・消費に代表される経済行動はより一般的に財制御行動としてとらえる ことができる。家計(家族)はこの一般的な意味での経済行動の重要な担い手である。家 計の具体的な財制御行動は,単に財そのものが生物有機体としての人間に与える満足=効 用に動機づけられているだけではなく,多様な価値の実現をめざして行なわれる。筆者は 前稿 1) においてこうした財制御行動の指向価値を,非人格的存在(生物有機体及び財)一 家計システム一家計間システムー全体社会システムという指向客体のハイラーキーに対応

させて,効用•愛・位置づけ・正義の四つに類型化した。その結果,個々の財制御行動が

これら四つの価値にさまざまなウエイトを置きうること,特定の価値に強く指向した行動 例を挙げうることが明らかになった。しかし,価値と行動の関係についてそれ以上の立ち 入った分析はなされな・いままであった。

伝統的経済学の消費者行動理論は価値を「効用」に一元化することによって,価値統合 の問題をいわば棚上げしたが,その代り極大化原理の採用で価値と行動の関係を一義的に 与えることができた。家計行動にかんして伝統的理論を超えようとするのであれば,前稿

1)「財制御の一般図式をめざして」『関西大学経済論集」第2 8 巻 5 号 , 1 9 7 8 .

3 5  

(3)

206  闊西大學「癌清論集」第2 9 巻第 3 号

から進んで家計の財制御行動が多元的な価値の実現にどのようにかかわっているのかを明 らかにしなければならない。これが本ノートのテーマである。

2 .   問題の性格

ここで解かれねばならぬのは,複数の価値を行動にかんする一個の決定に結びつけるた めの価値統合の問題である。この問題は個人価値を社会的な価値に統合するアロー型の

「社会厚生関数」の議論 2) ゃ,多数の社会指標群を一つの総合指標にまとめる「福祉水準 指標」の試み の中で既にとりあげられてきた。アローの社会厚生関数は諸個人の選択か ら社会的な選択を導き出す手続きないしルールを意味しており,彼の議論は方法論的個人 主義と形式的分析によって特徴づけられる。一方,福祉指標論は社会の支配的価値を総体 としての社会の観察から見いだし,個別・具体的な価値にウエイトづけをしようとする点 で方法論的集合主義と実体的分析への指向がみられるり。 このような接近法の違いはある が,アロー型社会厚生関数と総合的福祉水準指標は共に,社会的な決定を行なうさいによ りどころを与えるべく構築されるものであり,そこではいかに価値を統合すべきかが問題 になる。これに対して,われわれが扱うのは,家計が行動の選択にあたって多元的な価値

. . . .  

を現にどのように統合しているかという問題である。同じ価値統合といっても規範的と実 証的の二側面があり,本稿では実証的側面に関心が寄せられる。議論に先立って予め確認 すべき第一点はこれである。もう一つ区別しておかねばならないのは,「価値統合のパタ ーン」と「価値の統合されたパターン一価値パターン」という二つの言葉である。前者は 多元的な価値をどのような仕方で統合するかという形式を指すのに対して,後者は何らか の形で統合された結果として現われる価値の配列の実体を指す。本稿が直接の分析対象と

しているのは前者である。

3 .   マズロー図式からの示唆

前稿で析出された四つの価値類型(効用•愛・位置づけ・正義)は財制御の指向客体類 型と一対ーに対応していた r ところが四つの指向客体(非人格的存在・家計システム・家

2)  K .   J .   Arrow  〔 l . 〕

3) 代表的なものとして J . Drewnows 屈〔 2 〕がある。

4) 直井優〔 6 , 〕 p p . 303‑307 参照。

36 

(4)

価値統合にかんするノート(春日) 2 0 7   計間システム・全体社会システム)は客体世界の全体をくまなく分割しているから 5 ) , 四

価値類型も価値世界の全域をおおい尽くすことになる。言いかえると効用•愛・位置づけ

・正義は,他にもさまざまある価値カテゴリーの中から四つだけ取り出したものではな く,価値世界を四分したそれぞれの区分に与えられた名称なのである。価値統合の様式を 明らかにするためには主体がもっている価値世界の構造ないし秩序を知らねばならない が,四類型への区分はその一助となるであろう。

こうした価値世界の秩序を見つけ出す試みとしては, A.H. マズローの基本的欲求のハ イラーキー図式が既に有名である。彼は人間の基本的欲求ないし価値がその相対的優勢さ によってハイラーキーを構成していると主張し, 次のような欲求の類型を示している 6 ) 。

低①生理的欲求(生物有機体としての人間の維持にかかわる欲求)

↑②笈 t 全の斜凍(危険や不確実性を回避しようとする欲求)

③所属と愛の欲求(愛で結ばれた他者との関係を形成・維持しようとする欲求)

④承認の欲求(自己及び他者から与えられる自己に対する高い評価への欲求)

土⑥自己実現の欲求(自己の可能性・能カ・適性を十分に利用しまた開発しようとする 次欲求)

マズローはさらにこれら基本的欲求満足のための前提条件として,言論の自由,他人に迷 惑をかけないかぎり自分のしたいことをする自由,自己表現の自由,研究をし情報を集め る自由,自己防衛の自由,正義,公平,正直,グループ内における秩序維持などを挙げ,

「これらの条件はそれ自体究極目的ではないが,明らかに究極目的そのものである基本的 欲求と非常に密接な関係にあるので,究極目的とほとんど同一と見られる」 7 ) という。

五つの欲求のうち最高次の「自己実現の欲求」についてはマズロー自身「(①から④ま での)基本的な欲求が満たされていることが,それだけでじゅうぶんなものなのか,また は,単に自己実現の前提条件なのかは,いまだに疑問である。自己実現というのは,基本 的欲求の満足に,少なくとも最小限の才能,能力,または豊かさを加えたものだといえる かもしれない」 8) と述べているように,必ずしもその位置づけが明確ではないが,ここで は彼が自己実現者の研究から導かれる重要な理論的結論としてあげる対極性・対立性・ニ 分性の解消という点に注目したい。すなわち自己実現者一健康人にあっては,情一知,理

5) 但し,人格としての個人は家計システムの特殊ケースとみなす。

6) Maslow  〔釘,訳 p p . 8 9 ‑ 1 0 1 .   7) Maslow, o p .   c i t . ,   訳 p . 1 0 2 .   8)~slow, o p .   c i t . ,   訳 p . 2 2 5 .  

・37 

(5)

208  闊西大學「艇清論集』第 2 9 巻第 3 号

性一本能,受容ー反逆,自己一社会,他者からの超越ー他者との同一視,神秘的一現実的 等々といった対立物が相互に融合・合体して統一され共働していることが認められるとい うのである 9) 。価値ないし欲求の類型化を例えば「パターン変数」のような二分法の対を軸

ペア

にして行なうなら,対極性は一つあるいは一組の価値(欲求)と他の一つあるいは一組の 価値(欲求)の対立として表現しうる。このことから対極性の解消は多元的な欲求各々の 充足が全体として織りなすパターンに依存しているといえるだろう。従って基本的欲求 Q

うち自己実現の欲求は何らかの価値類型に対応しているのではなく,価値の統合されたパ ターンに関連していると考えられる。その他の基本的欲求については,①と③が四価値類 型でいう「効用」,⑧が「愛」,④が「位置づけ」,そして基本的欲求満足の前提条件とし て挙げられたものが「正義」にほぼ対応することがみてとれよう。マズローの欲求ハイラ ーキーは指向客体のハイラーキーと明確に対応づけられているわけではないが,彼が「空 腹はきわめて自己中心的なものである。腹を満たして満足するのは自分だけである。しか し愛や承認を求める段階になると,必然的に他の人々のことが問題になる。更に,他の人 々の満足の問題が加わってくるのである。基本的欲求を満たした人々は(食物や安全より も)愛や承認を求め,忠誠心,友愛感,市民意識などの資質を発達させ,よき両親,夫,

教師,公務員などになっていく傾向がある」 1 0 ) というとき,先の四価値類型図式との親縁 性は一層はっきりしてくる。それと共にわれわれはマズローの図式から価値世界の秩序に かんして検討すべき次の二点の示唆を得る。すなわち,今までいわば同一平面におかれて いた価値類型が,対応する指向客体同様ハイラーキー的構造をもつかもしれないというこ と,そして「正義」が他の価値類型に対して特殊な位置を占めるのではないかということ の二つである。

4 .   価値統合のパターン ( 1 )  

マズロー図式の概槻を足がかりとして以下家計の財制御行動における価値統合のパター ンを分析していくが,最初に「正義」の特殊な位置という点をとりあげてみよう。

マズローはもろもろの自由,正義,公平,正直,秩序維持などを基本的欲求満足の前提 条件として挙げ,それ自体が欲求の対象になりうることを示唆している。他方,方法論的 個人主義を基調とするアローの議論にあっても,市民主権や非独裁といったいわゆる民主

9) M a s l o w ,  o p .   c i t . ,   訳 p p . 2 6 1 ‑ 2 6 3 .   1 0 )   M a s l o w ,  o p .   c i t . ,   訳 p . 1 6 6 .  

3 8  

(6)

価値統合にかんするノート(春日) 2 0 9   主義の諸条件が社会厚生関数の満たすべきものとしてはじめに与えられる 11) 。マズローや アローの挙げる諸条件は広くとらえた「社会的正義」の範疇にまとめることができるが,

これは統合される価値に対していわば統合する価値の役割を担っていると考えられる。す なわち,人々は社会の規範や自己の主義・経験等にもとづいて各自の「正義」観ないし

「正しさ」の基準をつくりあげており,それは行動選択のさい与件ないし制約条件として

他の価値(効用•愛・位置づけ,あるいはマズローの「基本的欲求」)の追求に環境・資

源制約とは独立に許容限界を画するのである 1 2 ) 。例えば,配給制の遵守を自己の「正義」

の基準にとり入れ,金銭的能力があっても闇米を買わなかった一判事のばあいには,「正 義」が「効用」の追求(生物有機体の維持)に資源制約を上回る強い制約を課していたこ とになるし,逆に収賄も自己の「正義」観と抵触しない政治家たちのばあい,社会通念か らみた彼らの本来の資源制約を超えて「効用」が追求されうる。

次にマズローの示唆するもう一点,価値のハイラーキーについてみてみよう。生存その ものが問題になるような低水準の資源状態から出発して欲求の発達 l 順序を観察するなら,

マズロー図式のハイラーキーはかなりよくあてはまりそうである。しかし,すべての段階 の欲求が発達したのちにもこうしたハイラーキーがそのまま維持されるとは考えにく<.

家族のために自分の命を犠牲にしたり,地位のために家族を捨てるといった逆転も珍しく はない。マズローも例外的に逆転が起こりうることを認めてはいるが 1 3 ) , われわれはもっ とはっきり,価値のハイラーキーは発達の順序を示す 1 4 ) にすぎず,一且発達したのちの相 対的優勢さや退化のさいの順序を指定するものではないと考えたい。以下対象をすべての

段階の欲求ないし効用•愛・位置づけの三価値への欲求を現にもっているか,もったこと

のある人間に限ることによって,マズロー的ハイラーキーに直接かかわらずに議論を進め よう。・

5 .   価値統合のパターン ( 2 )  

前節で行なった「正義」と他の三価値の分離は,背後にある指向客体に戻って考えると

1 1 )   Arrow, o p .   c i t . ,   p p .   2 2 ‑ 3 1 .  

1 2 ) これは行動例を示した前稿の表中,正義の欄に「抑制」という項目が多いことからも 推察できる。

1 3 )   Maslow, o p .   c i t . ,   訳 p p . 1 0 7 ‑ 1 1 0 .  

1 4 ) マズローも,高次の欲求は系統発生的及び個体発生的にあとになって発達したもので あると述べている。 Maslow,o p .   c i t . ,   訳 p . 1 6 4 .  

39 

(7)

210  闊西大學「継清論集」第 29 巻第 3 号

結局「社会」(全体社会)と「個人」(個人の集合体を含む)の分離にほかならない。すな わち,価値の統合にさいしては個人的な価値である「効用」「愛」「位置づけ」を自己の内 にある社会的な価値「正義」によって統合するという第一段階がある。より具体的にいえ ば,「効用」「愛」「位置づけ」を与えるさまざまな行動機会それ自体及びそれら行動の相 互関係のうち選択を許されるものが「正義」の基準によって決まるのである。

では,このある意味でゆる<統合された三価値を最終的に統合するものは何であろう か。統合された価値が行動を決定するとみる伝統的経済学の立場からすれば逆説的に聞こ

. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .  

えるかもしれないが,この最終的統合を担うのは行動ないし行動の基準であるというのが ここでの主張である。すなわち,行動以前に価値を統合する何らかのパターンが存在する わけではなく,行動の結果あるいは行動を通して統合された価値パターンが事後的に見い だされるのである。こうした考え方は V. バレートに既にみられる。彼は人間行動のうち 最も大きな部分を占めるものとして主に感情,潜在意識の作用など,一定の心理的状態か ら起こる「非論理的行動」というカテゴリーを,論理的思考過程の結果である「論理的行 動」に対置させる。そして非論理的行動にあっては人々はまず行動し,あとからそれに理 由づけをする(合理化)傾向が非常に顕著であるという 1 5 ) 。

一方,行動以前に価値が統合され,それにもとづいて選択すべき行動が決定されるとい う見方は古典的な「経済人」のもつ合理性 1 6 ) を前提にしなければ出てこない。なぜなら行 動が価値の水準変動を引き起こす限り H.A.サイモンが要約したように,「行動している 主体は, ( a ) 意思決定にさきだって,パノラマのように代替的諸行動を概観すること,

.  ( b ) 各選択によって生ずる複雑な諸結果の全部を考慮するこ

9

と , ( c ) 基準としての価値の体 系でもって,全代替的行動から一つの行動を選抜すること」

17)

が必要になるからである。

合理性の限界を強調するサイモンはこれに対して,「(たとえ合理性が要求されたとして も)個人は,彼の能力では彼の選択に必要なすべての要素を考慮できないとさとり,合理 性に絶望し,したがって,どの代替行動を実行しようかと迷い,ついには行動する時期を なくしてしまうことになる。実際には,その状況のなかで,すでに把握されている要素に 対してさえも注意を払うことなく,注意などするずっと以前に,通常,選択や行為が行な われてしまう」 1 8 ) と指摘する。さらにバレートの影響を受けた G.C. ホマンズも「はじめ 1 5 )   S .   E .  F i n e r ( e d . ) ,   p p .   183‑188 とくに § § 1 5 4 , 1 6 1 ,   及 び p p . 33‑35. 

1 6 )   「経済人」の合理性概念にたいする批判のうち本稿に関連して参照すべきは,西部邁

〔7〕 p p .   14‑34「虚構としての「経済人」」である。

1 7 )   Simon ( 1 0 〕,訳 p . 1 0 3 .   1 8 )   Simon, o p .   c i t . ,   訳 p p . 1 1 4 ‑ 1 1 5 .  

4 0  

(8)

価値綜合にかんするノート(春日) 211  疇仙ぁりき」という立場から,行動以前の態度とか指向に徒にとらわれることなく,行 動心理学的な一般命題にもとづいて人間の社会行動を説明しようとする 19) 。本稿でも行動 が正義の基準によって予め規制を受ける点は認めた上で,価値統合より前にまず行動があ るという立場をとろう。

そこでいま, 個の代替的な行動 H i , H 2 ,   ……,  Hn  ( H i は複数の行動の組でもよい)

の中から選択する場面をとりあげよう。このときもし「効用」「愛」「位置づけ」がそれぞ れ U , L ,   S と量的表示できるものとすれば,行動が価値水準を変動させる関係は写像

を f として

V;=J(H;) .  ( i = l ,  ・ ・ ・ ,   n ) ,   V;=  〔 U ; , L ; , S ; )

と表わせる。行動に先立って価値が統合されているばあいには U , L ,   S のさまざまな値 の組み合わせ(ベクトル V)を順序づける評価関数が予め与えられるが,この評価関数に もとづいて特定の行動 H* を選択するためにはすべての代替的行動凡,…, Hn について 事前に V をもとめなければならず,そのような作業はサイモンの指摘をまつまでもなく 人間の能力の限界を超える。これに対して本稿での行動と価値統合の関係のとらえ方は次 のようである。すなわち,家計は U,L,S の可能な組み合わせのすべてについて予め順 序づけを与えるのでなく,実行された行動 HD によって事後的に定まる価値の実現水準

v o =   〔 u o , . L o , s りにかんしてのみ U ,L ,  S それぞれの値の過不足を(三つの値相互のバ ランスをも考慮して)判定する。例えば実現値 u o , L O ,   s o は U にかんしてはほぽ満足 だが, L はやや不足しており, S は著しく不足しているといった形の判定が与えられる。

ここで過不足の判定基準はその時々の実現値に対応してその都度つくられるものであり,

パレートのいう如くしばしば実現値の合理化を含んでいることに注意しよう。この判定 基準は J . W . チボーと H.H. ケリーが相互作用の成果を評価する原点として比較の水準 (comparison  l e v e l ;   CL) と呼んだものにほぼ対応している。彼らによればC L は当該個 人が直接の経験あるいは他者の経験の見聞を通じて知っているすべての成果の加重平均で あり,個々の成果のウエイトは経験の新しさ(新しいほどウエイト大),自ら経験したも のか見聞によるものか(前者の方がウエイト大),成果の達成見込みが大きいか小さいか

(見込みが大きいほどウエイト大),成果ないし報酬ーコストの変動を自ら統制しうるか否 か(統制できるほどウエイト大)といった要因によって決まるという 2 0 ) 。この定義から明

1 9 )   Homans  〔 り

2 0 )   Thibaut and  K e l l e y   ( l l J ,   p p .  81‑99. 

4 1  

(9)

212  .闊西大學「純清論集」第 2 9 巻第 3 号

らかなように CL は絶えず変動にさらされており,とくに自らの行動によって最近時に実 現した価値水準一成果は大きなウエイトをもって現時点の CL に影響を及ぼすといえよ

けな

う。ただ過去の成果にかんしてチボーとケリーは「理想化」 ( i d e a l i z a t i o n ) と「貶し」

( d e b u n k i n g )   という対極的傾向をとりあげるのに対し,本稿では(恐らくこの両極間を 埋めているのであろう)「合理化」 ( r a t i o n a l i z a t i o n ) に注目する点が異なっている。

さて,行動を通して事後的に統合された価値パターンは一般に実現値を判定基準によっ て修正したものとして〔 u o + L I U O , L O + L J L O ,   s o + L J S O 〕のように示すことができる。但 し L J U , O , L J L O ,   , : J S O に具体的な数値が与えられるとは限らず,多くのばあ y ヽ正・負の符 号ないしせいぜい L J U O / U O , L J L 0 / £ 0 ,   , : J S O / S O の大小関係程度が指定されるにとどまる であろう。次の行動にさいしてはこの事後的に得られた価値パターンそのものではなく,

判定結果すなわち L J U O , , : J L O ,   , : J S O にかんするデータが一組のインプットとなり,環境 からのインプットと並んで何らかの「行動基準」の媒介をへて行動を規定していくと考え られる。ここで行動基準というのは具体的には経済学でなじみの深い極大化(最適化)基 準,サイモンの満足化基準,さらにホマンズが利用した ような行動心理学的一般命題群な どをさし,それ自体に価値内容の直接の評価を含んでいない点で他の二基準一正義の基準 及び判定基準ーと区別されるものである。ただ,それぞれの学問分野で人間行動の基準と してさまざまなものが採用されているなかで,基準の例を挙げることは容易であるがそれ ら諸基準を統合する体系はまだ見いだされていない。本稿ではさしあたり例示した諸基準 を含みうるような何らかの行動基準体系が存在し,環境からのインプット及び先行する行 動の判定結果に反応して新たな行動を起こさせると理解するにとどめ,体系そのものの解 明はのちにゆずることにしたい 21) 。

以上本稿で論じた価値統合と行動の関係を図式化して要約すれば次のようになろう。

2 1 ) 行動基準体系の把握に至る準備段階として諸行動基準の分類枠を設定することが考え られる。その一つの例は R . レッドフィールドが人間性 (humann a t u r e ) の分類に 用いたものである。彼はまず人間性を生まれつきみられるもの ( I n h e r e n t ) と,成 長したあるいは成長しつつある人間にみられるもの ( D e v e l o p e d ) に分ける。前者は 赤ん坊のばあいや,消化・膝蓋反射などを除けば純粋な状態でみられることはなく,

人間特有のものではない。後者は言語を用いること,生計を立てること,愛すること,

成功を求めること,及び物事の善・悪あるいは必要性にかんする判断を下すことなど を含み,人間特有のものである。他方レッドフィールドは当該人間性が個人に特有 か,集団(ここで「集団」とは確立した伝統的生活様式をもつものをさす)特有か,

それとも全人類共通かの区別を設け,先の区分と組み合わせて次のような枠を示して

42 

(10)

価値統合にかんするノ.ート(春日) 213 

環境からの資源・情報インプット

いる ( R e d f i e 迅〔 8 , 〕 p .4 4 4 ) 。

I  生まれつきのもの I 発達したもの

個 人 的 1  2 

( 特 異 的 ) 文

(化ー集団的 文化的") 3  4 

普人遍類 的 5  6 

( 全 的 )

この分類枠を行動基準にあてはめると,例えば極大化基準は第 4 欄あるいは第 6 欄 にはいるであろう。そして K. ボラニーらの実体主義的経済人類学者なら第 4 欄(西 欧資本主義にのみ妥当する基準)に, H.K. シュナイダーら形式主義的経済人類学者 な ら 第 6欄(交差文化的に適用できる基準)に入れることを主張するにちがいない ( S c h n e i d e r   〔 的 と く に c h a p .1 ) 。満足化基準はさしあたり企業組織についてのも のであるとすれば第 4 欄にはいると考えられるが,第 6 欄に入れうるようにも思われ る。ホマンズの挙げた五つの行動心理学的命題(それは人間だけでなく,すべての高 等動物に適用されるという)は第 5欄に位置を占めるであろう。

43 

(11)

2 1 4   閥西大學『継清論集」第 2 9 巻第 3 号 参 考 文 献

〔 1 〕 A r r o w ,   K .   J . ,   S o c i a l  C h o i c e  and I n d i v i d u a l  V a l u e s  ( 2 n d  e d . ) ,  Y a l e  U n i v e r ‑ s i t y  P r e s s ,  1 9 6 3 .  

〔 2 〕 D r e w n o w s k i ,  J . ,   On M e a s u r i n g  and P l a n n i n g  t h e   Q u a l i t y  of L i f e ,   U i t g e ‑ v e r i j  M o u t o n ,  1 9 7 6 .   (阪本靖郎訳『福祉の測定と計画」日本評論社, 1 9 7 7 . )

〔 3 〕 F i n e r ,  S .   E .  ( e d . ) ,   V i l / r e d o  P a r e t o :  S o c i o l o g i c a l  W r i t i n g s ,  s e l e c t e d  and i n ‑ t r o d u c e d   ? Y   S .   E .  F i n e r ,  t r a n s l a t e d  by D .  M i r f i n ,  B a s i l  B l a c k w e l l ,  1 9 7 6 .  

( F i r s t  p u b l i s h e d  by P a l l  M a l l  P r e s s ,  1 9 6 6 . )  

〔 4 〕 Homans, G .   C . ,   S o c i a l   B e h a v i o u r :   I t s   E l e m e n t a r y  F o r m Y ,   R o u t l e d g e   & 

Kegan P a u l ,  1 9 6 1 .   (橋本茂訳「社会行動ーその基本形態」誠信書房, 1 9 7 8 .

〔 1 9 7 4 年の R e v i s e dE d i t i o n の訳))

(5 〕 M a s l o w ,   A .   H . ;  M o t i v a t i o n  and P e r s o n a l i t y ,  H a r p e r  & Row, 1 9 5 4 .  

(小口忠彦監訳「人間性の心理学」産業能率短大出版部, 1 9 7 1 . )

〔 6 〕直井優「価値標準としての福祉」富永健一編『経済社会学」社会学講座 8 東京大学 出版会, 1 9 7 4 .

〔 7 〕西部邁『ソシオ・エコノミックス」中央公論社, 1 9 7 5 .

〔 8 〕 R e d f i e l d ,  R . ,   "The U n i v e r s a l l y  Human and t h e  C u l t u r a l l y  V a r i a b l e , "   i n   M. P .   R e d f i e l d  ( e d . ) ,  Human N a t u r e  and t h e  S t u d y  of S o c i e t y :   The P a p e r s   of R o b e r t  R e d f i e l d ,   V o l .   1 ,   U n i v e r s i t y  o f  C h i c a g o  P r e s s ,  1 9 6 2 .  

〔 9 〕 S c h n e i d e r ,   H .   K . ,   E c o n o m i c   Man:  T h e   A n t h r o p o l o g y  o f   E c o n o m i c s ,  F r e e   P r e s s ,  1 9 7 4 .  

〔 1 〕 〇 S i m o n ,   H .   A . ,   A d m i n i s t r a t i v e  B e h a v i o r  ( 2 n d  e d . ) ,  M a c m i l l a n ,  1 9 5 7 .  

(松田武彦他訳「経営行動」ダイヤモンド社, 1 9 6 5 . )

印〕 T h i b a u t ,  J .   W. and H .  H .  K e l l e y ,   T h e  S 。 c i a lP s y c h o l o g y  of G r o u p s ,  John 

Wiley & S o n s ,  1 9 5 9 .  

.  44 

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