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ペイトンの時価償却論(下)

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(1)

ペイトンの時価償却論(下)

その他のタイトル Current‑Cost Depreciation on Paton's (2)

著者 岡部 孝好

雑誌名 關西大學商學論集

15

1

ページ 13‑33

発行年 1970‑04‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00021186

(2)

(13)  13 

ペイ ンの時価償却論(下)

II lm IV VV I 

は し が き

財産計算的時価償却論の展開 時価償却の後退とその再生'(以上前号)

折衷法と新出発法

後入先出法的時価償却論の論理 結 び

IV  折衷法と新出発法

(39) 

このようにして,われわれは,いまやペイトンの説く後期の時価償却論の 細構成に触れるべき段階に達する。だが,そのためには,何よりもまず二つ の基本的な彼の考え方をここで明確にしておく必要があるであろう。

まず第一に,彼はカレント・コスト情報の有用性を依然として重視し,個 々の取替原価の増減を認識する立場に賛成する。すなわち,一方で彼は一般

(40) 

物価変動と個別物価変動とを峻別し, しかも統一ドル法 (common dollar 

(39)  原価基準の限界,原価改訂の必要性および修正方法についてほ,この期の次の 文献などで繰り返し論じられている。 W.A.  Paton,  "Cost  and  Value  in Ac counting," op. cit.,  pp. ̲192199,TheAccountant and Private Enterprise," op.  cit.,.  pp.  4458,  "Accounting Procedures and Private  Enterprise," Journal of  Accountancy, Vol. 85 (April 1948), pp. 278291, "Measuring Profits under lnfla tion Conditions: A Serious Problem fot Accountants," Journal of Accountancy,  Vol. 89 (Janu. 1950), pp. 1627.しかし,後期の時価償却の内容を最も 詳しく示

しているのほ. W.A. Paton and W. A. Paton, Jr.,  Asset Accounting (The Mac‑

millan Co., 1952) であるので,ここでほ主としてこれにより,•以下,本文中にこ の頁数を示すことにする。

(40)  W. A. Paton and W. A. Paton, Jr.,  Corporation Accounts and Statements:  An Advance4 Course (The Macmillan Co., 1955), p. 536. 

(3)

14 (14)  ペイトソの時価償却論(下) (

(41) 

approach) の合理性を一概に否定していないのであるが,しかし取替原価を

(42) 

採用する評価替法 (appraisal approach)にヨリ多くの支持を与えている。

私企業の所有している資源を有効に利用するためにしまた経営者や所有主 の適切な意思決定を助けるためにも,当該資産の現在の取替原価に関する資 料が重要であるからである (p.324)。 そ う し て 第 二 に こ こ で も 彼 は 基 本 的 には購買力資本を維持する目的をもって時価償却を提案する。既に述べたよ うに,彼の当初の問題は第二次大戦後の貨幣価値下落にあり.時価償却の一 つの重要な目的が.これから生ずる過少費用と過大利益の計上を有効に阻止 することにあったからである。

(43) 

さて.以上のような二つの要請を同時に充足するために設備勘定と減価償

(44) 

却費を公式にカレント・コスト(決算日の取替原価)に茎づかしめることが必 要とされるが.彼によれぼ,その方式には折衷法 (compromise procedure) 

と新出発法 (freshstart procedure)の二つが存在する (p. 322)。そこで,

われわれは,次にそれぞれの内容を順次吟味していくことにしよう。

折衷法はもともと20年 代 の 高 物 価 時 代 に 既 に 利 用 さ れ て い た も の で あ る

注19を参照せよ)が,この方法の特徴は記録原価数値を不明瞭にせずにカレ ント・コストを勘定に導入することにある。そうであるから,この場合には,

記録原価を記入する通常の勘定のほかにカレント・コストと記録原価との差

(41)  Ibid.,  chap. XIX. 

(42)  「現在においての私自身の反応は第一のアプローチ(評価替法ー引用者)にヨ リ賛成であると告白しなければならない。総じてこれは,会計が役立とうと意図す る利害関係者の立場からすると,ヨリ実行可能であるように私には思われる。」 彼ほのべている ("MeasuringProfits under Inflation Conditions," op. cit.,  p.23.) (43)  減価償却の目的が取替資金の準備にあるとする考え方をペイトンは誤りである

という (W. A. Paton,  Corporate  Profits  (Richard  D. Irwin  Inc.,  1965),  pp.  2728. またそれらが全く無関係であるとするのもいいすぎであるとしている。

われわれはここで実物資本維持を後期の時価償却の第三の目的として取り上げない ことにするが,のちにこの問題が十分に考慮されている事実を発見するであろう。

(44)  ペイトンのいう現在の取替原価 (currentreplacement cost)は決算日の取替 原価を意味するものであるが,費用評価の場合にはこれは販売日取替原価の近似値

と解されるべきである (cf.p.  325.

(4)

ペイトンの時価償却論(下) ( (15) 15  額(修正額)を記入する特別の勘定が新たに追加されなければならない。この

ことによって設備価額は実質的にカレント・コストで表示されることになる が,他方でほ修正基準に基づいて計算された利益と未修正基準に基づいて計 算された利益の二つが同時に示されるので,勘定は「二重の義務」 (p.339)  を果たしていることになる。 「二頭の馬に同時に乗る」 (p.346)方法である

とか「折衷法」であるとかよばれるのはこのためである。

さて,われわれは,この方法の明確な理解に資するために,次に,耐用年 20年の建物を5年使用後に評価替する場合の例 (pp.338‑345)をみること にしよう。この建物の原初原価ほ100,000ドルであったが現在では250,000 ルに増加している。いま残存価値はないものとして直線法によって償却され るとすれば,それは次のような一連の仕訳で処理されることになる(なお,ゎ れわれの手で若干の修正が加えられている。)。

(a)  〔総額法〕

建物ーカレント・コストヘ修正 150,000 

建物減価償却引当金(修正) 37,500  株主持分ー未吸収設備修正 112,500  又は,〔純額法〕

建物ーカレント・コストヘ修正 112,500 

株主持分一未吸収設備修正 112,500  (b)  減価償却費 12,500 

建物減価償却引当金(原初) 5,000  建物減価償却引当金(修正) 7,500 

(c)  株主持分一未吸収設備修正 7,500 

( 貸 ) 損 益 7,500 

上の仕訳(a)において新勘定を通じてカレ ノト・コストが認識されるが,そ れは総額法によっても純額法によっても同じ結果になる(総額法は新償却基準 を明示しうる点では便宜であるが, 償却費合計と減価償却引当金とが最終的に一致し ない点にほ形式的な問題が残る)。ここでは要するに現在及び将来に償却される

(5)

16 (16)  ペイトソの時価償却論(下) (

べき正味額112,500ドルを計上することが必要とされるのであり,したがっ て総額法の場合でも減価償却引当金を修正するのはこのためであって取替問 題に備えるためではない。他方,評価差額を示す貸方項目の「株主持分ー未 吸収設備修正」 (stockholders'equity — unabsorbed plant  adjustment) 一種の利益を意味するものであるが,しかしそれは償却費の引上分が収益に 対応されて吸収(実現)されるまで留保されなければならない性格のものであ る。いい換えると,「この貸記は将来において『吸収』又はその他の処分を受 けるほずの一種の仮項目」 (p.339)とみられる。したがって,彼によれば,

これを資本に属すべき部分と利益に属すぺき部分とに正確に分離する必要は ないのである (p.339)。また,新基準に基づく評価替後の減価償却費12,500 ((75, 000+ 112,500) Xん)ドルは仕訳(b)によって認識されるが,これと同時に,

原価基準に基づく利益へ復元せしめるための仕訳(c)が必要とされる。評価差 額は当該建物の利用によって順次実現するので,仮定により直線法基準で償 (112,500X

: 心

7,500)されなければならないからである。このような仕 訳の結果を示す損益計算書はたとえば売上高が500,000ドルであるとすれぼ,

次のように示されるであろう。

2 表

500,000  諸費用(カレント・コスト基準による

減価償却費12,500ドルを含む) 465,000  純利益(カレント・コスト) (a)  35,000  当期費用に吸収されている設備原価増加高 (b) 7,500  未修正基準による純利益 (c) 42,.500 

また,この手続きは価格下落時にも首尾一貫して適用されるべきものであ ると主張される (pp.355359)

ところで,折衷法を採用する場合,以上の最少限度の手順のほかに,次の (a')および(c')の仕訳を補足的におこなうことが望ましい(ただしそれに十分なだ けの留保利益が存在することが条件となる。)とされている。

(a')  留保利益 37,500 

吸収済設備原価増補償準備金 37,500 

(6)

ペイトツの時価償却論(下) ( (17)  17  (cり ( 留保利益 7,500 

吸収済設備原価増補償準備金 7,500  もちろん仕訳 (a')は過去に償却費が修正されなかったので評価替時にその 償却不足に相当するだけの留保利益を凍結したものであり,また仕訳(c') 毎期末に償却された評価差額にみあう金額を再び非公式に資本化するための ものである。こうした考え方は折衷法の最終的利益が未修正基準に基づいて 計算されるので,損益計算後の段階において当初の資本維持目的を達しよう とするものであり.,したがってこの追加の手続きがなければ折衷法の目的と

(45) 

する購買力資本維持の実効をあげることはできない。また,価格下落時には 未修正基準に復元されても十分に資本が維持されるから,この資本化の追加 手続きは必要とされないことになる (p.355)のである。

これを要するに,折衷法とは,(1)記録原価資料を留保しながら設備をカレ ント・コストで再評価し,(2)未実現増価を認識してこれを特殊な仮利益項目 と解釈し,そして(3)その後毎期の償却費を修正基準に基づいて計上するが,

これと同時に(4)償却費引上分に相当する評価差額を償却して損益計算書に繰 り入れる手続きである。これに付随して(5)過年度に帰すべき金額並びに償却 費引上分に相当する金額の留保利益を凍結することが必要とされる。このよ うに,折衷法によれば,耐用年数全体でみた場合はもちろんのこと期間的に みてもその最終的利益は未修正基準によるそれに正確に一致している。それ では原価基準を殊更否定してこの方法を呈示することはいったいいかなる意 味をもつのであろうか。その効果について少しく付言することにしよう。

ここで,もし個別物価は著しく変動するが貨幣価値は全く変動しないと仮 定できれば,上の結果はたしかに期間利益(第2(c))を営業利益(同 (a) 保有利得(同(b))とに正しく分割していることになろう。しかしこの条件はペ イトンの前提に反する。彼の当初の問題は測定単位の変動に起因する仮空利 益を何よりもまず損益計算から排除することであったからである。だがそう

(45)  睛買力資本維持のために(cりの仕訳が必要とされることは明らかであるとして も,過去に遡及して修正する (aりの仕訳が果たして必要とされるかどうかについて ほ議論の分れるところである。しかしこの点は次注で再び触れることにする。

(7)

18 (18)  ペイトソの時価償却論(下) (

であるからといって,逆の特殊な場合,すなわち取替原価と一般物価が同じ 方向でかつ同じ歩調で変動する場合を考えると,除去さるべき「過大」利益

(b))は,明瞭に表示されてはいるが不合理にも再び期間利益に加算されて おり,結果は除去というよりも区別にすぎないことになっている。そこで,

現実には厳密な分析はされていないとしても,それは資本的性格のものと純 粋の損益的性格のものをあわせて含むと考えることができる。とすれば,資 本修正と考えられるぺき部分ができるだけ少ない時,換言すればドル価値の 変動が比較的軽微な時に,折衷法は妥当性をもちうることになるであろう。

評価差額が資本的性格のものを多く含めば含むほど,これを償却して期間利 益に再び加算する根拠は薄弱とならざるをえないからである。そうしてまた,

資本的性格のものを部分的に含むとみるにもかかわらず利益を区分するにす ぎないとすれば,折衷法は貨幣価値変動に備える会計方式としては限られた 有用性しかもたないことになる。というのはほかでもない。警告のためには 区分それ自体が有効であるとはいえ,また留保利益の凍結によって配当制限 が実質的に可能になるとはいえ,この方法は,購買力資本維持という彼の基 本問題を損益計算領域外におき,そしてその最終的帰趨をすべて経営政策に 委ねるものであるからである。

さて,取替原価を採用する評価替のアプローチには,記録原価を離れて全 面的にカレソト・コストに移行するいまひとつの方法が存在する。すなわち,

継続事業公準を放棄してあたかも新会社が設立されたかのように,あるいは 現存会社が組織変更されたかのように会計上処理される,新出発法または準 更生法(quasireorganizationmethod)とよばれる方法が存在する。そこで,ゎ れわれは,次のような彼の仕訳例 (pp.345348)を手掛りにして,この方法 の特質を明らかにしていくことにしよう。

先に述べた折衷法の場合と同じ条件(記録原価$100,000,現在取替原価$250,000, 耐用年数20 5年使用済,直線法)を仮定すれば,新出発法では次のようにし て処理される。

(a)  〔総額法〕

建物一カレント・コスト 250,000 

(8)

ペイトンの時価償却論(下) ( (19)  19 

建物一原価 100,000  建物減価償却引当金 37,500  株主持分一資本修正 112,500  又は〔純額法〕

建物一カレント・コスト 187,500  建物減価償却引当金(原価) 25,000 

建物一原価 100,000  株主持分一資本修正 112,500  (b)  減価償却費 12,500 

建物減価償却引当金 12,500  まず仕訳(a)において記録原価数値は完全に消去されてカレ ノト・コストが 導入されるが,これは前の例と同じように総額法によっても純額法によって も同じ結果になる。しかしながら,この評価替時の貸方項目の「株主持分ー 資本修正」 (stockholders'equity — capital adjustment)は「企業資本に対 する即時的かつ永久的貸記」 (p.347)と解釈される。そしてその後は毎期仕 訳(b)によって,修正基準に基づく償却費(187,500x

: 心

12,500)が認識され

る。もちろんこの場合には,償却費引上分に相当する評価差額を取り崩して 吸収する手続きと同一額の留保利益を凍結する手続きは必要とされないが,

耐用年数のうち既に経過した年度に属する償却費引上分,すなわち将来にほ 負担させえない修正額 (150,000‑112, 500 : 37, 500)を評価替時に資本化す ることが必要とされうる(ただし留保利益が十分に存在することが条件になる。)。

その仕訳は次の (aりによって示される。

(aり ( 留保利益 37,500 

株主持分一資本修正 37,500  この仕訳は過年度の償却不足を修正するために留保利益を公式に資本化す

(46) 

るものであるが,またこれがなければ物的設備の取替問題も解決されえない。

(46)  過年度の償却費を修正するための仕訳(a')が新出発法(及び折衷法)の不可欠の 手順に編入されるべきかどうかには看過しえない問題がある。この解釈のいかんに よって著しい金額的差異が生じうるのみでなく理論的な相違もある程度明確化する

(9)

20 (20)  ペイトソの時価償却諭(下) (

なお,この方法は価格下落時にも首尾一貫して適用されなければならないこ とになる (p.357)

このようにみてくると,記録原価を全面的に離れること,および評価差額 の本質を資本修正に求めることに新出発法の特質があり,この点において折 衷 法 と 著 し く 異 な る こ と は い ま や 全 く 明 白 で あ る 。 そ う し て こ こ に 資 本 的 性 格 の も の と し て 処 理 さ れ る と い う の は , そ れ が 貨 幣 の 購 買 力 の 変 動 を 反 映 し ているという意味においてであることもまた明らかである。しかしながら,

実をいえば,新出発法の一つの問題はこの点にある。

叙 上 の 新 出 発 法 に よ れ ば , カ レ ン ト ・ コ ス ト に 基 づ い て 計 算 さ れ た 償 却 費 が収益に対応されて当該固定資産の個々の価格変動の影響はここですべて吸 収 さ れ る 。 そ し て 他 方 で は , そ の 修 正 額 は 永 久 に 資 本 に 組 入 れ ら れ て , 損 益 計算書に再び戻し入れられることはない。だが,このような議論は,正確に いえば,取替原価の変動が貨幣の購買力の変動を測定する,特殊な場合にお

からである。この要・不要の議論はさしあたり二つの見地から検討されなければな らないであろう。

まず,購買力資本維持の見地からすると,これを必要とする立場は,(1)耐用年数 のうち既に経過した年度の償却費が誤って計上されていたとみて,(2)誤りの発見さ れた当期にかかる償却不足を留保利益(又は当期利益)をもって訂正すべきである,

と主張する。これに反対する他の見解は,(1)過年度の償却費の計上は正確であった

(過去に価格変動がなかったかそれとも既に正しく修正されてきた)と看倣して,

(2)当期以降の償却費の修正のみを目的とするので,(3)仕訳(aりは必要でないと説く。

要するに,前者は耐用年数全体の修正を主張するのに対して,後者は将来の償却費 の修正のみで足りると主張する。

他方,実物資本維持の見地からすると,除却日の取替原価と収益から回収した減 価償却資金額とを一致せしめることが明らかに望ましい。そこでまず第一の考え方 はこのために仕訳(aりの処理をおこなって,留保利益を資本化しようとするもので ある。これに対して他の論者は,敢えてこの処理をおこなわなくても,不足額は自 勁的に解消すると主張する。というのは,回収した償却資金を当該資産と同率で価 格上昇する新資産に再投資すると考えれば,この取替資金不足の問題は実質的に生

じないからである(この点は後述する)。

このように,過年度に帰すべき償却費の修正には多くの問題があるが,にもかか わらず,ペイトンはこの点について明確に説明していない。けれども,彼が,これ

(10)

ペイトンの時価償却論(下) ( (21)  21  いてのみなりたちうるにすぎない。われわれの経験している一般的な場合に ほ保有損益が存在しており,これを損益計算から全面的に除外するとすれぼ

(購買力資本維持の見地からみて)過少利益の計上と過大資本の維持が結果する ことになりやすい。したがって,新出発法が合理性をもっためには,取替原 価の変動と一般物価水準の変動とが大きく乖離しないという条件が現実に妥 当することが必要とされることになるであろう。

もちろん,保有資産を現在の取替原価で表示する点において折衷法と新出 発法の間に実質的な相違があるわけではない。そうしてまた,取替原価資料 それ自体が多くの有用性をもつとすれぼ,これらの方法のもつ意義はたしか に否定されえないものである。けれども,過大利益の計上を阻止しようとし た彼の当初の問題にいったん立ち返ると,これら二つの時価償却法の難点も またおのずから明白になるであろう。折衷法は仮空利益の除去に成功してお らず,購買力資本を維持するためには経営政策の援けをかりなければならな い。これに対して新出発法では,すべての価格変動の影響が排除され,あま りに狭い利益の報告を結果する場合も生じてくる。そこで,もしこのような 難点を回避すべきであるとすれば,ここに統一ドル法の考え方をある程度導 入して,利益概念の範囲と真の保有損益の大きさを確定することが少なくと

(47) 

も理論的には可能であるはずである。

しかしながら,ペイトンは,実際的な理由からこのような途を求めずに,

むしろ,二つの時価償却法を代替法として並置しているように思われる。そ れではいったい,二つのうちいずれが現実に採用されるべきなのであろうか。

われわれはここで,こ◎ような疑問にも答えておかなければならないであろ

を「経過した耐用年数に関係するが,過去に生産に賦課されておらずかつまた将来 にも合理的に賦課されえない」修正部分であるとのべている (p.340)こと,およ びこの仕訳(aりの目的は「追加投資によるというよりも収益によって物的資本と企 業の営業規模を維持するという一般的理想を反映することにある」 (p.341)とのベ ていることからみて,上にのべた二つの見地の両方からこの必要性を考えている,

と判断して大過ないであろう。

(47)  Cf. Eldon S. Hendriksen, Accounting Theory (Richard D. Irwin, Inc., 1965),  p.  166. 

(11)

22 (22)  ペイトソの時価償却論(下) (

う。もちろんこの問題を彼は明示的に論じてはいないのであるが,われわれ は以上の分析によって彼の理論体系の中から答えを引き出すことができる。

一般に歴史的原価に基づく減価償却は,価格水準が一定であるとする仮定が ほぼ成立する場合に合理性をもつものである。折衷法は評価差額の大部分を 損益的性格のものが事実上占めるような状況を仮定すると最も良く妥当する。

これに対して新出発法は,取替原価と一般物価が近似して変動する条件のも とで合理性をもっていることになる。したがって,ここで問題となるのは,

どの仮定が正しいかということではなく,どの仮定がある特定の状況に一致 又は近似しているかということであり,そこでもしこの点が明らかにされれ ば,採用されるべき償却法はおのずから指定されることになるであろう。

さて,このようにみてくると,総じてペイトンの後期の時価償却論は,他

(48) 

のすべての場合と同じように,きわめて弾力的であることが知られる。そう してまた,他の幾分含みのある考え方がこの傾向をさらに著しくしているよ うに思われる。彼が,取替原価を,同一能力をもつ近代的設計の設備の取替 のための費用であると定義して (pp.325‑326),技術水準変動の要素を織り込 んだ幅のある考え方を示しているのも,あるいは過年度に属する修正額の取 扱を明確にしえていない(注46参照)のも,わずかにその一例にすぎない。し たがって,その概念的な明瞭性にもかかわらず,結果的にみれば,彼の利益 概念は時として不確定となることをどうしても避け難いのである。なるほど 彼の時価償却は総合的であり,それだけにすぐれて実践的であったのは事実 である。また,時価主義への傾斜を著しくしつつある現代の会計理論に,そ れが多くの示唆を与えずにはおかなかった事実も否定されえないであろう。

しかしながら,ここには利益概念を中心にして,なお慎重に検討すべきいく つかの問題が秘められているようにわれわれには思われる。

(48)  原価主義の反省に急なペイトンも,現実に修正を実施することにはしばしば躊 躇している。反復的な評価替には消極的態度をとっており (pp.349350),また,原 価計算資料等の内部的修正,補足説明や補足財務諸表の作成,資金運用表や比較貸 借対照表の活用,などの補助的処置の途もあけている (pp.333338)から,実際に はかなり広い幅があるように思われる。

(12)

ペイトソの時価償却論(下) ( (23)  23 

後 入 先 出 法 的 時 価 償 却 論 の 論 理

ペイトンの時価償却論の検討を目的とする小稿の課題は,以上によってほ とんど果たされたといえよう。しかしなが,ら,彼の最近の見解の中には以上 のどれとも異なるいまひとつの考え方が存在している。そこで,これまでの 説明を補充して小稿をヨリ完全なものとするために,われわれは最後にこの

(49) 

後入先出法的時価償却の内容に簡単に触れることにしよう。

周知のように,後入先出法が米国連邦所得税法において1938年に承認され て以来,棚卸資産評価におけるこの方法の是非について極めて多面にわたる 議論がいく度となく繰り返されてきた。しかし,このような議論の中には,

要するに次のような,当面のわれわれの主題に重要な関連をもつ批判が含ま れていたのである。すなわち,後入先出法はもともと普通の原価配分方法

(口別法,先入先出法,直線法,定率法など)とは異なった利益概念を追求するも のであるから,たとえ後入先出法それ自体が理論的に妥当であるとしても,

一方で固定資産原価の会計処理を伝統的方法のまま放置して他方で棚卸資産 の全部又は一部にかぎって後入先出法を適用するとすれば,全一体であるべ き会計計算の中に全く異質の利益を目的とする手続きが部分的に導入される ことになり,その結果,全体としての会計計算が秩序と首尾一貫性を失うこ

(50) 

とになる,という批判がこれである。しかるにこのような非難を回避するた めには,後入先出法を全面的に排斥しそして伝統的な固定資産会計手続きと

(49)  W. A.  Paton,  "Depreciation ‑ Concept and  Measurement," Journal  of  Accountancy, Vol. 108 (Oct. 1959), pp. 3843, "The Depreciation Deduction‑

LIFO Principle  Should  Be  Extended  to  Cover  Depreciable  Plant,"  X

Rision Compendium,  11 (1959). なお,本稿ではクガートの論文集 (Taggart (ed.), op.  cit.,  pp. 617633.)によったので,以下で,その頁数を示すことにしよう。

(50)  ペイトンはかってこの点を論拠の一つに加えて後入先出法に強く反対していた ことがある。 「製造業において,設備に対して後入先出法が厳密に適用さるべきで あると,すなわち設備に対する投資は最初の設備部分の原価によってあらわされて いると常に考えるぺきであると示唆する大胆さを,ほとんどの人はもっていないで あろう。」 (Recentand ProectiveDelopmentin  Accounting  Theory,  op.  cit.,  (1940), p. 15.)

(13)

24 (24)  ペイトンの時価償却論(下) (

の調和を回復させる途を求めるか,それとも後入先出法の基本原理を逆に 固定資産会計に拡大して新たに一貫性を確保する途を求めるかという二つの

(51) 

可能性のうち,いずれかを選択しなければならないことになる。ここに取り

(52) 

上げるペイトンの所説は,もちろんこの後者の可能性を追求するものである。

ところで,これまで章固に反対していたペイトンは,後期に至って漸く後入

(53) 

先出法のもつ長所を是認した。こうした態度の変化はもとより実物資本維持 を保証する利益の算定という,後入先出法の本来的目的を全面的に承認した がゆえに生じたのではなく,彼がこれを認めたのはむしろ,貨幣購買力の下 落に対処する意味を,あるいは払出商品原価を取替原価で評価するのとほぼ 同様の意味を後入先出法がもっているからというにすぎない。しかし,その 是認の理由が何であろうとも(といっても,このことは重大な関係をもっているが),

こうして後入先出法を承認するかぎり,これに対する上の非難について彼は 何等かの解答を用意しなければならないことになるであろう。とりわけ,こ のことほ,棚卸資産原価と固定資産原価の本質的同質性を高調するペイトソ であってみれば,極めて重大な問題になっていたはずである。

とはいえ,実をいえぼ,彼は既にそれなりの解決を与えていたのである。

というのは,後入先出法を必ずしも十全な方法でないとして棚卸資産の時価

(54) 

評価を彼は主張していたのみでなく,既に前節でみたように取替原価による 固定資産の評価替を提唱していたからである。このように,原価基準から完 全に離脱してカレント・コストをすべての勘定に導入するとすれば,一つの 利益概念をめざす手続きが一つの会計計算の中で首尾一貫して適用されたこ

(51)  George O. May, "Should the Lifo Principle Be Considered  in  Depreci ation Accounting When Prices Vary Widely," Journal of Accountancy, Vol. 86  (Dec. 1947), p.  456.渡辺進著『棚卸資産会計(増補版)』(森山書店,昭40),第7 章第3 (480頁以下)参照。

(52)  武田隆二稿「後入先出法的償却計算の論理—業績実体結合計算の構想ー一」

(「企業会計」,第17巻第4 58頁以下参照。

(53)  W. A. Paton and W. A. Paton, Jr.,  Asset  Accounting,  p.  67.  清水宗一著

『資産原価配分論』(森山書店,昭42)V (96頁以下)参照。

(54)  Ibid.,  p.  90. 

(14)

ペイトソの時価償却論(下) ( (25)  25  とになり, したがって,後入先出法原理の部分的導入に起因する叙上の混乱 は既に完全に解消していることになるであろう。

こうした事実にもかかわらず,彼が改めてこの問題を提起し,そして後入 先出法原理の拡大を敢えて主張した特別の事情ほ,当面する税法改正問題を

(55) 

重視したことに求めることができる。すなわち,棚卸資産評価において後入 先出法が税法上容許されている現実があるとすれば,税負担の公乎化あるい は軽減という見地からみて,この考え方を拡大するのが合理的であると主張

(56) 

しようとしたのである。

それではいったい,後入先出法的時価償却とほ,具体的にいえば,どのよ うな根拠と手続きによって支えられているのであろうか。

ペイトンはまず,溶鉱炉と石炭の例をあげて費用の同質性を次のように説 明することから始める。溶鉱炉とその中で燃焼する石炭との間には,前者が 全一体的にそして長期に利用されるのに対して後者は物理的にそして短期的 に消費されるという点に相違があるにすぎない。生産物(銑鉄)をつくりだす に必要な用役という本質的な側面ではこれらは全く同質的なものであり,し たがってこれらの用役の費消原価は同等・同順位のものとして処理されなけ ればならない (pp. 619‑620)。しかるに,かかる理解からすれば,棚卸資産 だけに対して後入先出法を適用することは著しく合理性を欠いていることが わかる。後入先出法によれば最も新しい材料の原価が当期収益に賦課され,

この限りにおいて価格変動の影響が損益計算から排除されることになるが,

本質的に同じ性格の固定資産用役についてほかかる考慮がほらわれておらず,

価格変動の問題が全く無視されているからである。これに加えて,多額の価

(55)  事実,ここに取り上げた論文は米国議会(下院)の「方法手段委員会」 (Ways and Means Committee)での彼の証言を基礎にしたものである。なお,この考え 方が特別の事情によるのであって,彼の主張の根本的変更ではないという点は,彼 の最近の著書の内容が以前とすこしも変っていない事実によって確認されうる (cf. W. A. Paton, Corporate Profits,  chap.  IV.

(56)  ちなみに,ペイトンは最近になって税制改革論を積極的に展開するようになっ たが,その要点は税制の単純化・合理化,株主所得への二重課税の防止,企業減税 などである (ibid.,pp. 116119.

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