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父島の東平で見つかった両性と思われるムニンアオガンピ
永 光 輝 義(森 林 総 合 研 究 所)
大 門 夢 果(首都大学東京 牧野標本館)
鈴 木 節 子(森 林 総 合 研 究 所)
要 約
雌雄異株性のムニンアオガンピWikstroemia pseudoretusa Koidz.において、父島の東平で 両性と思われる1個体が見つかった。この個体の花には、花粉のある葯と柱頭のある雌し べがあり、その花粉の形態に雄個体との違いは見られなかった。この個体の結実率は54%
で、東平での雌個体の平均値13%より高かった。
Ⅰ.観察記録
海洋島では、両性から雌雄異株性への進化が起こりやすいことが知られている。小笠原 諸島でも、オオバシマムラサキやワダンノキなどで両性から雌雄異株性への進化が報告さ れている(Kawakubo, 1990; Kato & Nagamasu, 1995)。小笠原諸島の固有種ムニンアオガン ピWikstroemia pseudoretusa Koidz.(ジンチョウゲ科)は雌雄異株性だが、琉球・台湾・
フィリピンに分布する近縁種アオガンピW. retusa A.Grayは両性である(Sugawara et al., 2004)。よって、ムニンアオガンピで雌雄異株性が進化したと考えられる。
著者らは、2012年11月10日に、父島の東平(27.07548ºN, 142.22452ºE, 日本測地系
2000)で両性のムニンアオガンピを見つけた。この個体は著しく結実していた(図1)。そ
の個体に咲いていた花を実体顕微鏡で観察したところ、花粉のある葯と柱頭のある雌しべ が見られた(図2)。また、その個体の花粉と雄個体の花粉を走査電子顕微鏡(Keyence
VE-8800)で観察したところ、両者に形態的な違いは見られなかった(図3)。ムニンアオ
ガンピにおいて、雌しべに柱頭のある雌は花粉のない退化した葯を持ち、葯に花粉のある 雄は柱頭のない退化した雌しべを持つ(まれに雄に柱頭があるが、その場合でも胚珠はな い)(Sugawara et al., 2004)。したがって、形態的に正常な花粉を持ち柱頭があり結実して いたことから、東平で見つかった個体は、雌でも雄でもなく、両性だと思われる。しかし、
両性を証明するには、その個体の花粉を用いた受粉実験や花粉親を特定する遺伝分析に よって花粉の稔性を明らかにする必要がある。
研究ノート
首都大学東京 小笠原研究年報 第 36 号 2013
― 58 ― 図 2 両性と思われるムニンアオガンピの
花の形態(スケールは 1mm)
図 4 東平 (a) と宮之浜から長崎まで (b)の遊歩道沿いで結実していた個体の結実率 aの黒丸が両性と思われる結実率が高い個体を、bの黒丸も同様に結実率が高い個体を示す。
図 3 両性と思われる個体 (a) と雄個体 (b) の花粉の形態
図 1 両性と思われるムニンアオガンピの結 実状況
永光・大門・鈴木:父島の東平で見つかった両性と思われるムニンアオガンピ
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ムニンアオガンピは、結実期にも花がついていた痕跡が残る。そのため、シュート末端 の花の痕跡数と果実数から開花数を推定し、結実率を計算することができる。そこで、東 平(27.07520º-27.07726ºN, 142.22281º-142.22680ºE)と宮之浜から長 崎まで(27.10473º- 27.09900ºN, 142.19594º-142.21364ºE)の遊歩道沿いで結実していたそれぞれ23と26個体に ついて、各個体で花の痕跡数と果実数を数えることによって結実率を推定した(個体あた り開花数の最小値43、中央値123、最大値243)。その結果、ほとんどの個体の結実率は、
平均と標準偏差が12.6 ± 7.4%(東平)と10.8 ± 6.6%(宮之浜から長崎まで)だった(図
4)。しかし、上記の両性と思われる個体では54.1%で(図4aの黒丸)、さらに、長崎で
52.5%の結実率を示す1個体が見つかった(図4bの黒丸)。このような高い結実率は、自
家受粉による高い受精率で達成されているのかもしれない。残念ながら、長崎のこの個体 の花を観察することはできなかったが、東平で見つかった個体のほかに両性個体が存在す る可能性がある。
Ⅱ.考 察
そもそも、なぜ海洋島では、両性から雌雄異株性への進化が起こりやすいのだろうか?
海洋島での偏った動物(特に昆虫)相による送粉者との不適合によって、自家受粉が頻繁 に起こり、その自殖を避けるために雌雄異株性が進化したと考えられている(Kato &
Nagamasu, 1995)。そのためには、強い近交弱勢のために自殖が不利でなければならない (Sakai et al., 2006)。さらに、雌雄異株性によって交配相手が半減し、条件的自殖による繁 殖保証を失う不利益を乗り越えなければいけない(Sakai et al., 2006)。つまり、雌雄異株性 が進化した植物は、有害な突然変異が蓄積するほど集団サイズが大きく、交配相手が豊富 で繁殖機会が保証されるほど密度が高かったと考えざるをえない。確かに小笠原に侵入し たいくつかの外来種の現状を見ると、海洋島にたどり着いた植物が急激に集団サイズを拡 大し密度が高くなったことは十分に考えられる。
しかし、雌雄異株性になった植物で、そのような大集団や高密度がずっと維持されると は限らない。小集団や低密度の条件では、他殖の機会が減少し、花粉制限によって種子生 産が低下するだろう。ムニンアオガンピにおいて、両性と思われる個体の雌個体より高い 結実率は、雌個体の種子生産の花粉制限を示唆している。このような条件では、雌雄異株 性による交配相手の半減や繁殖保証の喪失のため繁殖成功が低下するだろう。また、他殖 の機会の減少は、近親交配を増やすと考えられる。近親交配の子は、近交弱勢のために生 存・繁殖力が低下する。このような子が淘汰されることによって有害な遺伝子が集団から 除かれ、近交弱勢が弱くなり、自殖の不利が解消されるだろう。その結果、雌雄異株性の
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維持が難しくなる可能性がある。ハワイのSchiedea属では、乾燥した場所に高密度に生育 する種では雌雄異株や雌性両全性異株など(10/14種)が多いが、湿潤な場所に低密度で 生育する種では雌雄異株性が見られず自殖性(8/19種)が多い (Sakai et al., 2006)。この事 実は、環境条件や個体密度によって雌雄異株性の成立・維持が左右されることを示唆して いる。
雌雄異株性の集団に生じた両性変異を用いれば、近交弱勢を測り、異なる性の間で適応 度を比較して、雌雄異株性が維持される条件を検討できる。今後、ムニンアオガンピで複 数の両性個体が見つかれば、それらを用いて、雌雄異株性の維持機構を明らかにすること ができるだろう。
謝辞
小笠原諸島での調査は、科学研究費補助金23310167(代表:加藤英寿)の援助を受けた。
永光輝義と鈴木節子は、客員研究員として、首都大学東京小笠原研究施設を利用させてい ただいた。また、報告にあたって、菅原敬博士と可知直毅博士、加藤英寿博士から助言を いただいた。
文 献
Kato M & Nagamasu H (1995) Dioecy in the endemic genus Dendrocacalia (Compositae) on the Bonin (Ogasawara) Islands. Journal of Plant Research 108: 443-450.
Kawakubo N (1990) Dioecism of the genus Callicarpa (Verbenaceae) in the Bonin (Ogasawara) Islands. Botanical Magazine, Tokyo 103: 57-66.
Sakai AK, Weller SG, Wagner WL, Nepokroeff M & Theresa MC (2006) Adaptive radiation and evolution of breeding systems in Schiedea (Car yophyllaceae), an endemic Hawaiian genus. Annals of the Missouri Botanical Garden 93: 49-63.
Sugawara T, Watanabe K, Kato H & Yasuda K (2004) Dioecy in Wikstroemia pseudoretusa (Thymelaeaceae) endemic to the Bonin (Ogasawara) Islands. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 55: 55-61.