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「地域特性を考慮した附置義務駐車場制度の在り方に関する研究 〜公共交通利便性に着目して〜」

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Academic year: 2021

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(1)地域特性を考慮した附置義務駐車場制度の在り方に関する研究 ~公共交通利便性に着目して~. ― 要 旨 ―. 附置義務駐車場制度は,駐車需要発生源である建物設置者に駐車場設置を義務付けるこ とにより,路上駐車を減少させ, 「道路交通の円滑化」を図る制度である.しかし,制度に より建物建設コストが上昇し床供給を減少させるため,駐車需要を上回る駐車場設置を義 務付ける過剰規制となっているとき,社会的余剰の損失が発生する.そこで本研究では附 置義務駐車場制度の政策的妥当性を検証することを目的とした.まず,建物床面積の拡大 が自動車交通量を増加させる割合の大きさはどのような決定要因に影響を受けているかを 調べるため,関東における駐車場整備地区を対象とした分析を行った.分析により,公共 交通の利便性がこの割合に影響を与えていることが分かった.また,公共交通の利便性が 高い地域ではこの割合が相対的に小さいことが示された.続いて,東京都内の商業集積地 区を対象とした分析を行った結果,駅周辺地区においては附置義務駐車場制度の規制水準 が過剰であることが示された.. 2012 年(平成 24 年) 2 月 政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU11023 文野 誠司.

(2) 1. はじめに ............................................................................................................................................... 1. 2. 附置義務駐車場制度の 附置義務駐車場制度の概要 ............................................................................................................... 3 2.1. 附置義務駐車場制度導入の背景と目的 ................................................................................... 3 2.2. 附置義務駐車場制度の導入状況と駐車場数の推移 ............................................................... 3 2.3. 附置義務駐車場制度の課題 ........................................................................................................ 4. 3. 附置義務駐車場制度の 附置義務駐車場制度の影響に 影響に関する理論分析 する理論分析 .............................................................................. 4 3.1. 附置義務駐車場制度による経済的損失 ................................................................................... 4 3.2. 駐車場増加による交通選択への影響 ........................................................................................ 5. 4. 実証分析の 実証分析の研究フロー 研究フロー ....................................................................................................................... 6. 5.〔 〔実証分析1 「商業面積 実証分析1〕 「商業面積と 商業面積と自動車集中交通量の 自動車集中交通量の関係」 関係」に影響を 影響を及ぼす決定要因 ぼす決定要因につい 決定要因について について ... 7 5.1. 分析方法 ........................................................................................................................................ 7 5.2. 使用データ .................................................................................................................................... 8 5.3. 推定結果と考察 ............................................................................................................................ 9. 6.〔 〔実証分析2 実証分析2〕商業面積の 商業面積の拡大が 拡大が自動車交通量を 自動車交通量を増加させる 増加させる影響 させる影響の 影響の大きさについて ......... 11 6.1. 分析方法 ...................................................................................................................................... 11 6.2. 使用データ .................................................................................................................................. 11 6.3. 推定結果と考察 .......................................................................................................................... 12 6.4. 商業面積の拡大が自動車交通量を増加させる割合を示すパラメータの算出 ................. 13. 7. 附置義務駐車場制度と 附置義務駐車場制度と実証結果との 実証結果との比較 との比較 .................................................................................... 14 7.1.〔STEP1〕実証分析結果から係数を算出 ................................................................................ 15 7.2.〔STEP2〕附置義務駐車場条例の規制水準の係数化 ............................................................ 16 7.3.〔STEP3〕附置義務駐車場制度と実証分析結果の比較 ........................................................ 17. 8. 考察 ..................................................................................................................................................... 18 8.1. 分析結果の考察 .......................................................................................................................... 18 8.2. 政策的含意 .................................................................................................................................. 18. 9. おわりに ............................................................................................................................................. 19. 参考文献 .................................................................................................................................................. 20.

(3) 1.はじめに はじめに 附置義務駐車場制度は,道路交通が輻輳する地区において,駐車需要発生源である建物設置者に 駐車場設置を義務付けることにより,路上駐車を減少させ, 「道路交通の円滑化」を図ることを目的 として昭和 32 年に設けられた制度である.しかし,制度の創設から 60 年が経過し,駐車場や公共 交通機関等の社会インフラが充実した今日においては,現状に即した制度の見直しを検討すべきで ある.また,附置義務駐車場制度は地域の特性を考慮した規制であるべきだが,自治体単位で画一 的な基準が設けられているのが実情である 1.特に公共交通が整備された地区においては,相対的に 公共交通による来街者が多いため,駐車需要を上回る駐車場設置を義務付けた過剰規制となってい るのではないかと考えられる.もし過剰規制となっているのであれば,政策的介入の副作用が大き く,規制のあり方に関して妥当性が問われるべきである. また,附置義務駐車場制度が及ぼす影響として, 「道路交通の円滑化」という政策目的にプラスに 働く効果とマイナスに働く影響がある.前者は路上駐車を減少させる効果であり,後者は自動車交 通量を増加させる影響である(図 1 参照).駐車場が増えれば,地域の駐車場料金やドライバーが駐 車場を探すためのコストが低下し,駐車場が利用しやすくなる。そのため,ドライバーにとって自 動車利用のインセンティブが大きくなり,自動車交通量は増加すると考えられる. 建物設置により新たな路上駐車を発生させないためには,建物設置に伴う増加交通量のみを賄う 駐車場が整備されれば十分であり,これを上回る駐車場が設置されると,後者の道路交通円滑化に 逆行する副作用が大きくなり,「道路交通の円滑化」という政策目的とは逆の影響が生じる. そこで本研究では,附置義務駐車場制度の政策的妥当性の検証を目的とした.まず,駐車需要発 生源である建物の床面積が拡大したときに自動車交通量を増加させる割合の大きさがどのような決 定要因に基づいているかを調べるため,関東地区の駐車場整備地区を対象として実証分析を行った. この結果,建物床面積の増加が自動車交通量を増加させる割合には公共交通の利便性が影響を与え ている一方,自治体人口規模はこの割合に影響を与えていることは示されなかった.この分析より, 現状の規制水準の設定方法が妥当ではないことを説明している.さらに,駐車場が増加すると自動 車交通量が増加することが示され,附置義務駐車場制度の副作用も明らかになった.また,東京都 内の商業集積地域を対象として,その地域が駅周辺か否かに着目し商業面積と自動車交通量の関係 を実証分析したところ,駅周辺地域では,現状の規制水準 2が過剰であることが示された.以上の結 果を踏まえ,今後の附置義務駐車場制度の在り方について改善を提言している. A. 路上駐車減少. 附置義務駐車場制度導入. 駐車場供給. ⇒道路交通円滑化にプラス効果 (過剰供給分はプラス効果なし). 駐車需要を上回る過剰な 駐車場供給は道路交通円 滑化に逆効果. B. 交通量増加 ⇒道路交通円滑化にマイナス影響. 図 1 附置義務駐車場制度導入の影響. †本稿は個人的な見解を示すものであり,筆者の所属会社の見解を示すものではありません.また,本稿にお ける見解及び内容に関する誤りは,全て筆者の責任であることを申し添えます. 1 附置義務駐車場制度の概要については,第 2 章にて記述する. 2 「現状の規制水準」とは,平成 20 年 3 月末時点の東京都における附置義務駐車場制度を示している.以下, 同様とする.. 1.

(4) なお,本研究では,建物の種別を店舗用途に限定して分析を行う.これは,事務所用途等の建物 では,東京都千代田区大手町・丸の内・有楽町地区において附置義務駐車場台数を緩和する「地域 ルール 3」等の規制緩和事例がみられるのに対し,店舗用途については依然として「地域ルール」が 適用されていないためである.したがって,自動車交通量についても「自宅→私事」「その他私事」 目的 4に限定したデータを収集している. 商業地における駐車場問題に関する先行研究としては次のようなものがある.都心商業地におけ る附置義務駐車場制度の弊害について,柳澤ら(1997)は「各建築物へ駐車場設置が義務付けられる ことにより街路へ駐車場出入口が立ち並び,商業地としての価値が下がる」,「一定規模を超えると 駐車場を設置する必要がある附置義務駐車場制度の特性から,容積率に余裕があっても容積率より 小さい規模での建築となる」こと等を主張している.そして,附置義務駐車場制度は個別の建物の 義務ではなく地域全体の義務とする制度設計が提言されている. また,都心商業地における駐車場と自動車交通の需給関係に着目した研究は,阪神地区を対象と した一宮ら(2009),東京地区を対象とした三上ら(2005)がある.前者は,西宮北口駅・加古川駅・川 西能勢口駅周辺地区における現地調査に基づき,地区全体の駐車状況はピーク時においても 70%~ 80%前後であり,駐車場容量に余裕があることを示している.ただし,施設毎に混雑の差があるこ とから,施設毎に駐車場台数を規定するのではなく,地区単位でルールを設けるべきであると主張 している.後者は,渋谷・新宿・池袋周辺地区を調査対象とし,新宿・池袋周辺地区では地区内に 滞留する自動車量は駐車場供給量より少なく,総量では駐車需要を満たしているとしている.一方 いずれの地区でも路上駐車はあるが,路上駐車した利用者の来訪目的は業務目的が 7 割程度である ことが判明しており,業務目的の利用者に対する対策を講じる必要性について述べられている. また,小早川ら(2010)の研究では路上駐車の状況に関して,平成 18 年 6 月の道路交通法改正 5の影 響を調査している.これによると違法駐車取り締まりの民間委託制度が導入・運用された地域にお いては,乗用車の路上駐車は大きく減少していることが示されている. しかし,複数の商業集積地区を対象とし,計量分析手法を用いて店舗用途の建物床面積と自動車 交通量の関係について研究した論文は見当たらない.附置義務駐車場制度は建物床面積の拡大に伴 う交通量の増加を建物設置者が処理することを求めた制度であるため,建物床面積と自動車交通量 の関係を定量的に分析することで,現在の制度評価を試みるものである. 論文の構成は次のとおりである.第 2 章で附置義務駐車場制度の概要を述べ,第 3 章で制度の影 響を理論分析する.第 4 章で研究フローを提示し,第 5 章で現状制度設計の問題点を指摘する.第 6・7 章では,現状の規制水準が過剰であるか否か実証分析し,駅周辺地域における過剰規制の状態 が明らかとなる.第 8 章では,結果を考察して政策的含意を導出し,最後に今後の課題を指摘する.. 3. 4. 5. 「都市の交通実態に即した路外駐車場の整備を推進するための措置について(技術的助言)」(平成 16 年 7 月 2 日国都街第 18 号)により,特定の地区毎に別途の基準値を設けること(「地域ルール」)が可能となり,一 部地域にて「地域ルール」が制定されたが,店舗用途の建物で台数緩和が認められている地域はない.例え ば,本論に記述している大手町・丸の内・有楽町地区では,事務所用途は通常の規制に対し 0.7 の緩和係数 を乗じた台数の設置が認められているが,店舗用途の緩和係数は 1.0 であり,台数緩和は認められていない. 東京都市圏パーソントリップ調査では,トリップ目的を「自宅→勤務」,「自宅→業務」,「自宅→通学」,「自 宅→私事」,「帰宅」,「勤務・業務」,「その他私事」,「不明」の 8 つの目的に分類されている.このうち,買 物目的が含まれるのが,「自宅→私事」「その他私事」である. 平成 18 年 6 月 1 日の道路交通法の改正において,違法駐車取り締まり民間委託制度が導入されている.. 2.

(5) 2.附置義務駐車場制度 附置義務駐車場制度の 附置義務駐車場制度の概要 この章では,附置義務駐車場制度導入の背景と目的について説明する.次に,制度導入後の状況 と効果について説明したのち,制度の課題について整理する.. 2.1.附置義務駐車場制度導入 附置義務駐車場制度導入の 附置義務駐車場制度導入の背景と 背景と目的 昭和 30 年代の経済成長とともに,わが国の自動車保有台数は急激に増加した.これに伴い大都市 の市街地内において自動車交通量は増加し,当時の貧弱な交通インフラの整備状況のもとでは交通 渋滞が社会問題化した.自動車交通量はなおも増加したが,市街地内の駐車場整備が追い付かず, 路上駐車も交通渋滞に拍車をかける原因となった.このため,無秩序な路上駐車を規制するととも に,駐車施設を整備する必要性が認識された. 6 こうした状況のもとで, 「道路交通の円滑化を図り,もって公衆の利便に資するとともに,都市の 機能の維持及び増進に寄与すること」を目的として,駐車場法が制定された.自動車駐車需要は業 務や買物等の派生需要であり,本需要の発生源である建物を設置する者に対し,派生需要のために 必要となる駐車施設の整備を義務付けることができることとなった.これが附置義務駐車場制度で ある.. 2.2.附置義務駐車場制度 附置義務駐車場制度の 附置義務駐車場制度 の 導入状況と 導入状況と駐車場数の 駐車場数の推移 図 2 は,附置義務駐車場条例の制定都市数の. 条例制定都市数. 駐車場台数(千台) 3,000. 推移と,全国における駐車場整備状況の推移で. 250 都市計画駐車場. 2,500. ある.昭和 32 年に駐車場法が制定され,昭和 33 年から附置義務駐車場条例が各都市におい. 附置義務駐車場. 2,000. て施行されている.昭和 33 年当初は駐車場の. 200. 届出駐車場. 150. 附置義務条例. 1,500. 整備が進んでおらず,駐車場総台数は 50 万台. 100. 1,000. に満たなかった.その後,昭和 33 年に 27 都市. 50. 500. にすぎなかった附置義務駐車場条例の制定都. 0. 市数が平成 19 年では 197 都市まで増加し,こ れに合わせ,附置義務駐車場は 2,429 千台まで. S33. S40. S50. S60. H8. H19. 0. ※国土交通省都市・地域整備局街路交通施設課 「自動車駐車場年報」を参考に筆者作成. 整備されている.駐車場総台数では,届出駐車 図 2 条例制定都市数と駐車場台数. 場 7,都市計画駐車場 8の整備と合わせ 4,035 千台. まで増加している.附置義務駐車場制度の導入当初は駐車場を早期に整備することが必要な状況で あったが,平成 19 年時点では駐車場は相当数整備されている.また,届出駐車場も整備されてきて おり,駐車場法制定当時と比較し取り巻く環境が大きく変化している.. 6 7. 8. この段落は,駐車場法研究会「駐車場法解説」を参考にしている. 届出駐車場とは,道路の路面外に設置される自動車の駐車のための施設であって一般公共の用に供されるも のをいう.路外駐車場のうち,自動車の駐車の用に供する部分の面積が 500 ㎡以上であるもので料金を徴収 するものについて,その管理者が,駐車料金,営業時間等の管理規定を知事等に届け出る制度. 都市計画駐車場とは,その対象とする駐車需要が広く一般公共の用に供すべき基幹的なもので,かつその位 置に永続的に確保すべきものであるものとして都市計画に定められる路外駐車場をいう.. 3.

(6) 2.3.附置義務駐車場制度 附置義務駐車場制度の 附置義務駐車場制度 の 課題 附置義務駐車場制度は,各地方自治体において制定している附置義務駐車場条例にて定められて いる.制度上の問題点として以下の 2 点がある.1 点目は,各自治体内は一律の基準が定められて おり,公共交通の利便性等の地域の特性を考慮した地域毎の基準はほとんど設けられていない点で ある 9.2 点目は,各自治体が定める条例は,自治体の人口規模に基づいて附置義務駐車場規制の水 準が定められている点である.各自治体の条例は国土交通省の技術的助言による「標準附置義務駐 車場条例(表 1 参照)」を参考に定められており,都市人口が規制水準の決定要因となっている.し かし,建物設置が自動車交通量に与える影響は局所的なものであり,そのエリアが所属する自治体 の人口規模で影響の大きさを説明することは困難であると考えられる.したがって,人口規模に基 づく規制水準や自治体内における一律の基準設定は,制度としての妥当性が問われることになろう.. 表1 都市規模. 人口別附置義務駐車場規制 人口 100 万人以上. 規制対象建物 駐車場整備地区 商業地域 近隣商業地域 駐車施設 1 台 あたりの床面積. 人口 100 万~50 万人. 1,500 ㎡以上. 1,000 ㎡以上. 店舗・事務所 200 ㎡. 店舗・事務所 150 ㎡. 倉庫・その他 250 ㎡. 倉庫・その他 200 ㎡. 全て 250 ㎡. 全て 200 ㎡. 周辺地区 自動車ふくそう地区. 人口 50 万人未満. 全て 150 ㎡. 出典: 「標準附置義務駐車場条例」国土交通省技術的助言(平成 16 年 7 月). 3.附置義務駐車場制度 附置義務駐車場制度の 附置義務駐車場制度の影響に 影響に関する理論分析 する理論分析 この章では,附置義務駐車場制度の影響について,経済学の考え方に基づいて理論分析を行い, 制度の弊害について整理する.. 3.1.附置義務駐車場制度 附置義務駐車場制度による 附置義務駐車場制度 による経済的損失 による経済的損失 理論上は,土地利用構造も市場メカニズムによって決定される.土地利用に対する公共部門の介 入の目的は,市場メカニズムにまかせておいては不都合が生じる場合に,公共部門の介入によって 土地利用を改善しようとするものである.また,介入が正当化されるのは「市場の失敗」と比較し て介入による「政府の失敗」が小さい場合に限られる.したがって,建物設置者への駐車場設置の 義務付けに関しては,市場の失敗が発生する理由(介入の根拠)があるか,介入による「政府の失 敗」の程度が許容可能かどうかかを検討する必要がある. 10 9. 東京都内においては,千代田区大手町・丸の内・有楽町地区において,附置義務駐車場台数の緩和等の地域ル ールが設けられている.また,中央区銀座地区においては,各個別建物内で駐車場を完結するのではなく, 地区内において集約駐車場として隔地での確保を柔軟に行うなどの地域ルールが設けられているが,附置義 務駐車場制度により算定される駐車場台数総数の緩和は盛り込まれていない.また,神奈川県横浜市におい て,横浜駅周辺地区にて「駐車場整備ルール運用マニュアル(H22.8)」が策定されているが,大店立地法に基 づく指針の緩和はあるが,附置義務駐車場制度により算定される駐車場台数の緩和は盛り込まれていない. 10 この段落は,金本(1997)を参考にしている.. 4.

(7) 建物を建設すると,建物を訪れる需要のため自 商業床賃料. 動車交通量が増加し,周辺の交通環境を悪化させ. 過剰規制. (単位面積当り). S”(過剰規制後) (過剰な義務付). るが,これは建物建設に伴う外部不経済である. S’(適切な規制後). これは市場を通すことなく第三者に影響を与える E S (規制前) F. 技術的外部性であるため, 「市場の失敗」であり政 G 適切な附置義務駐車場規制. 府の介入が正当化される根拠となる.附置義務駐 (外部不経済の内部化). A. 車場制度は,建物設置者に外部不経済を内部化さ B D 過剰規制による損失分. せることにより,混雑外部性をコントロールし適 (政府の失敗). C. 切な土地利用を促す制度であると解釈できる. 商業床面積. 図 3 は,附置義務駐車場制度がもたらす経済的. (地域の総量). 図 3 制度がもたらす経済的影響. 影響を考察したものである.S は制度導入前かつ 駐車場を設置しない建物設置者の供給曲線(私的費用曲線)である.D は建物使用者(テナント) の需要曲線である.制度導入前は G 点で需給が均衡しているが,駐車場不足という外部不経済が発 生しているため,適切な供給曲線(社会的費用曲線)は S’となる.このため,附置義務駐車場制度 を導入し建物設置者の建設コストを上昇させる(外部不経済を内部化させる)ことにより私的費用 曲線を適切な水準だけ上方にシフトさせると,最適点である F 点を達成することができる. ところが,過剰な規制(駐車需要を上回る駐車場設置の義務付け)となり S”まで供給曲線をシフ トさせると,ABFE 分の「余剰の損失」が発生する.これが「市場の失敗」分を超えた政府介入に よる「政府の失敗」である.先行研究からも特定の地域を対象とした調査では,駐車場需要が供給 を下回っていることが検証されており,過剰規制により社旗的余剰の損失を発生させている可能性 がある.. 3.2.駐車場増加 駐車場増加による 駐車場増加 による交通選択 による交通選択への 交通選択への影響 への影響 第 1 章において「駐車場の増加が自動車交通量 を増加させる効果を持つ」という仮説を提示して いる.これは,ピグー・ナイト・ダウンズのパラ. Cc. ドックス 11と同じ現象である.図 4 は,ある特定. SACc SACr. A. SACc’ Cr B. の建物を来訪する人を対象に,横軸に交通量(一. C. 定)をとり,縦軸には一般化費用をとっている.. D. Cc と Cr はそれぞれ自動車利用者と鉄道利用者の 駐車場増加による自動車交通量の増加. 一般化費用である.交通量に関しては原点 Oc か ら右に自動車利用者数がとられており,原点 Or. Oc. Qa. Qb. Or. から左に鉄道利用者数がとられている.SACc と 図4. 駐車場増加によるモード選択の変化. SACc‘はそれぞれ,駐車場増加前後の自動車利用 者の社会的平均費用曲線であり,SACr は鉄道利用者の社会的平均費用曲線である.SACc は自動車 交通量が増加してもそれが駐車場容量を下回っている時には社会的平均費用曲線は一定であるが, 11. 「ピグー・ナイト・ダウンズのパラドックス」とは,「道路拡幅などの混雑緩和のための投資をしても,混 雑の状況は以前と変わらない」状況を説明するパラドックスである.この段落は,竹内 (2008) を参考にして いる.. 5.

(8) 容量を上回った点(C 点)から社会的平均費用は上昇する.一方 SACr は,特定の建物への来訪者 分が公共交通に与える影響は軽微であるため,常に一定であると考えられる.駐車場増加前の利用 者は自動車利用と鉄道利用の社会的平均費用が一致する A 点で均衡しており,交通量は Qa で均衡 している.附置義務駐車場制度により駐車場を増加させた場合,自動車利用者の一般化費用が低下 するため,社会的平均費用は SACc’に移行する.これにより鉄道利用から自動車利用への転移が起 こり,均衡点はB点に移行し自動車交通量は Qb 点まで増加する.以上より,特定の建物利用者に とっての社会的平均費用は駐車場整備前後で一定である.しかし,この図は特定の建物を来訪する 人に絞った分析であり,自動車交通量の増加による周辺の交通環境の悪化は考慮されていない.附 置義務駐車場制度によって建物の駐車場は整備されるが,周辺の道路環境は一定であるため,自動 車交通量の増加により周辺環境は悪化してしまう.このような外部環境に与える影響は,附置義務 駐車場制度の負の影響といえる.. 4.実証分析 実証分析の 実証分析の研究フロー 研究フロー 本研究では,制度上の課題と経済学を用いた理論分析により明らかとなった課題を分析するため, 以下のような仮説を設定する.. 仮説①. 商業面積の拡大が地域の自動車交通量を増加させる割合の大きさは,所属自治体の人口規 模ではなく,地域の公共交通の利便性に依存する.. 仮説②. 地域の駐車場台数の増加は,その地域への自動車集中交通量を増加させる.. 仮説③. 附置義務駐車場制度による駐車場設置義務は,駐車需要を上回る量の駐車場の設置を義務 付ける「過剰規制」となっている.. 上記仮説を検証するため,図 5 のフローに基づいて実証分析を行う.第 5 章で,仮説①②につい て実証分析を行う.この仮説の検証には,人口規模の異なる地域の観測が必要であること,自動車 交通量・駐車場台数等の詳細なデータが取得可能な地域を抽出する必要があることから,東京都・ 神奈川県・埼玉県・千葉県の駐車場整備地区(40 地区)に着目し,人口規模に応じた規制の妥当性 について実証分析を行う.第 6・7 章で,仮説③について検証する.頑健性の高い分析を行うにはよ り豊富な観測数と詳細地域のデータが必要なため,これらのデータを取得可能な東京都内の商業集 積地区 12(136 地区)を別途抽出し実証分析を行う.まず第 6 章にて商業面積の増加が自動車集中交 通量 13へ及ぼす影響の大きさについてのパラメータを算出し,第 7 章にてパラメータを附置義務駐 車場制度に適用されている規制水準と比較することで,過剰規制となっていないか検証を行う.. 「商業集積地区」とは「商業統計」の中で商業の核となる地域を集計したものである.主に都市計画法第 8 条に定める「用途地域」のうち,商業地域及び近隣商業地域であって,商店街を形成している地区をいう. 概ねひとつの商店街を一つの商業集積地区とし,一つの商店街とは,小売店,飲食店及びサービス業を営む 事業所が近接して 30 店舗以上あるものをいう.また,「一つの商店街」の定義に該当するショッピングセン ターや多事業所ビル(駅ビル,寄合百貨店等)は,原則として一つの商業集積地区とする. 13 「集中交通量」とは,あるゾーンを終点とするトリップ(人の移動)の合計量をいう. 12. 6.

(9) 1 都 3 県の駐車場データがある地域を特定 (「駐車場整備地区(49 地区)」を選定). ※1 都 3 県(東京・神奈川・埼玉・千葉). 集中交通量,商業面積等の 分析に必要な変数を収集. 集中交通量データが入手可能な地域に絞込み (40 地域を特定). ※新宿、渋谷、池袋、立川、八王子、浦和、千葉、柏、松戸、大和、相模原など. ◆確認事項① ≪制度設計の問題点を指摘≫ ・「所属自治体の人口規模」では,商業面積が自動車集中交通量へ与える 影響の大きさは説明できず,地域の公共交通利便性が説明可能である.. 実証分析 1 「商業面積と自動車集中交通量の関係」に 影響を及ぼす決定要因を検証. ◆確認事項② ≪制度の副作用があることを指摘≫ ・駐車場台数が増加すると,その地域への自動車集中交通量が増加する. 東京都内の商業集積地に限定し, 2 ヶ年の詳細データの作成(136 地区). 実証分析 2 商業面積の拡大が自動車集中交通量を 増加させる影響の大きさを検証. パラメータの算出 ・地域の公共交通利便性の違いに着目し, 商業面積の拡大が自動車集中交通量に与える影響をパラメータ化. ◆確認事項③ ≪過剰規制となっていることを指摘≫ 「附置義務駐車場制度により算定される必要駐車場台数」 >「研究から導いた交通量から算出した必要駐車場台数」. 図 5 研究フロー. 5.〔 〔実証分析1 「商業面積と 実証分析1〕 商業面積と自動車集中 自動車集中交通量 集中交通量の 交通量の関係」 関係」に影響を 影響を及ぼす決定 ぼす決定要因 決定要因について 要因について 本章では,前述した制度設計上の問題点と制度による副作用について検証を行う.本章の分析に よって検証する仮説は以下のとおりである. 仮説①. 商業面積の拡大が地域の自動車交通量を増加させる割合の大きさは,所属自治体の人口規模 ではなく,地域の公共交通の利便性に依存する.. 仮説②. 地域の駐車場台数の増加は,その地域への自動車集中交通量を増加させる.. 5.1.分析方法 分析方法 商業用途の建物を訪れる「私事目的の自動車交通量」へ影響を与える要因を検証するため,以下 の推定式に基づき,最小二乗法(以下,「OLS」という.)による分析を行う.なお,分析は被説明 変数を自動車集中交通量,鉄道集中交通量とする 2 つのパターンで行った. 集中交通量௠௜  α  ଵ 商業面積௜  ଶ 駅乗降人員௜  ଷ 商業面積  駅乗降人員௜  ସ 事業所密度௜ ହ 昼夜間人口比率௜  ଺ 駐車場台数௜  ଻ 人口 100 万人ダミー௜ β଼ 人口 50 万人ダミー୧  βଽ 店舗面積  人口 100 万人ダミー୧ βଵ଴ 店舗面積  人口 50 万人ダミー୧  ε୧. …式(1). ※添字 m は交通手段(自動車・鉄道)を表す. 7.

(10) 5.2.使用 使用データ 使用 データ 本分析で使用するデータの基本統計量は表 2 のとおりである.. 表 2 基本統計量 変数. 単位. 平均値. 標準偏差. 最小値. 最大値. 自動車集中交通量. TE 人/日. 10,257. 7,340. 2,586. 34,084. 鉄道集中交通量. TE 人/日. 34,410. 55,814. 676. 195,003. 127. 154. 7. 660. 商業面積 駅乗降人員. 千㎡. 469. 739. 22. 2,959. ―. 145,000. 337,000. 164. 1,480,000. 駐車場台数. 台. 8,673. 19,377. 39. 99,565. 事業所密度. 箇所/km2. 549. 693. 73. 2,987. 昼夜間人口比率. %. 172. 321. 72. 2,047. 100 万人ダミー. ―. 0.45. 0.50. 0. 1. 50 万人ダミー. ―. 0.175. 0.38. 0. 1. 商業面積×100 万人ダミー. ―. 86. 166. 0. 660. 商業面積×50 万人ダミー. ―. 15. 40. 0. 178. 商業面積×駅乗降人員. 千人/日. 本研究の調査対象は東京都市圏パーソントリップ調査の対象地域である東京都全域・埼玉県南 部・千葉県西部・神奈川県東部とし,このエリア内にある全駐車場整備地区(40 か所)のデータを 集計した. 被説明変数の集中交通量は東京都市圏パーソントリップ調査(平成 20 年度)の小ゾーンにおいて, 「自宅→私事」「その他私事」目的で自動車・鉄道を交通手段とした集中交通量を集計して用いた. 東京都市圏パーソントリップ調査は調査対象地域内 14を 1,655 の小ゾーン 15に分割しており,各ゾー ンの集中交通量を移動目的別,交通手段別に把握できる調査である. 説明変数は次のとおりである.商業面積(千㎡)は,各駐車場整備地区内にある店舗の売場面積 16 17. の合計であり,「商業統計 第 3 次地域区画 (平成 19 年度)」より作成した.このデータは約 1 ㎞ 四方に囲まれたメッシュデータであり,調査対象である駐車場整備地区に該当する区画を抽出し売 場面積を算出した.駅乗降人員(千人/日)は,各駐車場整備地区内にある全駅の乗降人員の合計で あり,公共交通の利便性の代理変数として「都市交通年報(平成 20 年度)」より作成した.このデ ータは JR・私鉄・都電・新都市交通等を含み,バス乗降人員はデータの制約のため含んでいない. 人口 100 万人ダミー(所属自治体の人口 100 万人以上=1、左記以外=0),人口 50 万人ダミー(所 属自治体の人口 50 万人以上 100 万人未満=1、左記以外=0)は,標準附置義務駐車場条例の規制水 準の境を表すダミー変数である(第 2 章参照).規制の妥当性を検証するため本項目を作成した.事 業所密度(箇所/㎢)は各駐車場整備地区内の事業所密度を表す変数である.地域特性(商業地か業 務地)によって,私事目的の交通量は影響を受けると想定されるため,この影響をコントロールす るための変数として「経済センサス(平成 21 年度)」 「全国都道府県市町村別面積調」より作成した. 「調査対象地域」は,東京を中心とする半径 80km 圏域 「小ゾーン」とは,夜間人口約15,000人を目安に区切ったゾーン. 16 「売場面積」とは,事業所が商品を販売するために,実際に使用する売場の延床面積をいう. 17 「第 3 次地域区画」とは,2 万 5 千分の 1 地形図の緯線上を経度 45 秒ごと、経線上を緯度 30 秒ごとに区切 り、それぞれを縦横に結んでつくられた区域であり、約 1km2 の方形の地域である。 14 15. 8.

(11) 昼夜間人口比率(%)は,都心と郊外の差により自動車利用に対する選好が異なると考えられるた め,この影響をコントロールするための変数として「国勢調査(平成 17 年)」より作成した.仮説 ②を分析するため説明変数として採用した駐車場台数(台)は,各駐車場整備地区内にある全駐車 場台数である.但し,駐車場台数は一般に時間制駐車場として開放されているものに限定しており, 地区への来訪者に与える影響がないため月極駐車場・自家用駐車場等を含んでいない.なお,この 変数は「自動車駐車場年報(平成 20 年度)」より作成した.. 5.3.推定 推定結果 推定 結果と 結果と 考察 (1)自動車集中交通量 (1)自動車集中交通量の 自動車集中交通量の 場合 OLS による推定結果は表 3 のとおりである. 表 3 推定結果 被説明変数:自動車集中交通量 商業面積 駅乗降人員 商業面積×駅乗降人員. 係数. 標準誤差. 39.6281. **. 17.5222. 9.9137. **. 4.7755. -0.0224. *. 0.0130. 駐車場台数. 0.1814. **. 0.0802. 事業所密度. -12.0681. ***. 4.1590. 昼夜人口比率. 11.1028. ***. 2.5398. 100 万人ダミー. 2108.9730. 3177.2550. 50 万人ダミー. -837.0273. 2802.7890. 100 万人ダミー×商業面積. 5.0324. 32.3534. 50 万人ダミー×商業面積. 22.7227. 23.7716. 定数項. 5410.1180. 自由度調整済み決定係数 観測数. **. 2341.2350. 0.7616 40. (注)***は 1%で、**は 5%で、*は 10%で有意であることを示す.. 商業面積が拡大すると,自動車集中交通量は増加するという結果が 5%水準で統計的に有意とな った.また,公共交通の利便性を示す駅乗降人員が多い地域において自動車交通量が増加するとい う結果が 5%水準で統計的に有意となっている.これは,駅の利用しやすさと街の経済的な発展に 相関があることを示唆している.興味深いのは,商業面積と駅乗降人員の交差項の係数の符号がマ イナスになっていることであり,しかも 10%水準で統計的に有意となっている点である.これは, 駅乗降人員が大きいほど,商業面積の拡大が自動車集中交通量の増加に及ぼす影響は小さくなって いることを示している.以上より,商業面積の拡大が地域の自動車交通量を増加させる割合の大き さは, 「地域の公共交通の利便性」に強く依存するということが示されており,さらに,駅乗降人員 が大きいほどその割合は小さくなる傾向にあることが示されている.同時に,100 万人・50 万人ダ ミーと商業面積の交差項については,いずれも統計的に有意な水準となっていない.このことから, 公共交通機能をコントロールした場合,人口規模は自動車集中交通量の増加量を適切に説明できな いことを示しており,仮説①を裏付ける結果となった. 続いて,仮説②「地域の駐車場台数の増加は,その地域への自動車集中交通量を増加させる」に ついて考察する.駐車場台数の係数の符号が正であり,5%水準で統計的に有意となっていることか. 9.

(12) ら,他の変数をコントロールした場合に駐車場台数が増加すると自動車交通量が増加することが示 された.以上より,仮説②についても本分析により裏付けられる結果となった. なお,コントロール変数として設定した事業者密度,昼夜間人口比率は予測とおりの符号を示し ており,1%水準で統計的に有意となっている.. (2) (2)鉄道集中交通量の 鉄道集中交通量 の場合 OLS による推定結果は表 4 のとおりである. 表 4 推定結果 被説明変数:鉄道集中交通量 商業面積 駅乗降人員 商業面積×駅乗降人員. 係数. 標準誤差. 100.6108. ***. 32.9377. 42.9705. ***. 10.3853. 0.0033. 駐車場台数. -0.5856. 事業所密度. 0.0273 ***. 0.1660. -23.4470. **. 9.1494. 昼夜人口比率. 28.5960. ***. 6.1918. 100 万人ダミー. -2507.9470. 50 万人ダミー. -7167.8650. 100 万人ダミー×商業面積 50 万人ダミー×商業面積 定数項 自由度調整済み決定係数 観測数. 169.5495. 3540.4980 4442.3350 ***. 60.7633. 78.1628. 50.0970. 641.2946. 2105.7210. 0.7616 40. (注)***は 1%で、**は 5%で、*は 10%で有意であることを示す.. 商業面積と駅乗降人員の係数は,自動車集中交通量を被説明変数とした場合と同様に正の符号 をとり,1%水準で統計的に有意となっている.特筆すべきは,駐車場台数の係数の符号が負であ り,1%水準で統計的に有意なことである.このことから,他の変数をコントロールした場合の駐 車場の増加は,鉄道交通量を減少させる効果を持つことを示しており,自動車集中交通量を被説 明変数とした分析と合わせると,駐車場台数が増加すると鉄道から自動車へ交通手段が転移して いることが説明できる.なお,100 万人ダミーと商業面積の交差項については係数の符号が正と なり 1%水準で統計的に有意となった.これは,100 万人以上の都市とそれ以外の都市では鉄道網 の密度に大きな差があることから,100 万人以上の都市においては,全ての移動手段に対する鉄 道の分担率が相対的に高いため,鉄道利用者を大きく増加させていると解釈できる. なお,コントロール変数として設定した事業者密度・昼夜間人口比率は,いずれも統計的に有 意である.. 10.

(13) 6.〔 〔実証分析2 実証分析2〕商業面積 商業面積の 拡大が自動車交通量を 自動車交通量を増加させる 増加させる影響 きさについて 面積の拡大が させる影響の 影響の大きさについて 本章と第 7 章では,附置義務駐車場制度が課している規制の水準が適正かどうかについて検証を 行う.検証する仮説は以下のとおりである.まず,本章にて,商業面積の拡大が自動車交通量を増 加させる影響の大きさについてのパラメータを抽出し,第 7 章で現行制度との比較を行う.. 仮説③ 附置義務駐車場制度による駐車場設置義務は,駐車需要を上回る量の駐車場の設置を義務付 ける「過剰規制」となっている.. 6.1.分析方法 分析方法 商業面積の拡大が私事目的の自動車交通量を増加させる影響の大きさを推定するため,以下の推 定式に基づき OLS 推定を行う. 自動車集中交通量     乗降人員   商業面積   駐車場台数   駅周辺ダミー.   駅周辺ダミー  商業面積   山手線からの時間   近隣商業ダミー   卸売ダミー   23 区ダミー   2008 年ダミー  ε. …式(2). 6.2.使用 使用データ 使用 データ 本分析で使用するデータの基本統計量は表 5 のとおりである.. 表 5 基本統計量 変数. 単位. 平均値. 標準偏差. 最小値. 最大値. 自動車集中交通量. TE 人/日. 1,835. 1,401. 99. 8,095. 乗降人員. 千人/日. 171. 358. 0. 2,374. 商業面積. ㎡. 23,853. 39,053. 1,171. 218,815. 駐車場台数. 台. 228. 509. 3. 4,028. 駅周辺ダミー×商業面積. ―. 18,933. 34,967. 0. 205,051. 駅周辺ダミー. ―. 0.70. 0.46. 0. 1. 山手線からの時間. 分. 16.83. 14.19. 0. 65. 近隣商業ダミー. ―. 0.43. 0.50. 0. 1. 卸売ダミー. ―. 0.02. 0.15. 0. 1. 23 区ダミー. ―. 0.72. 0.45. 0. 1. 2008 年ダミー. ―. 省略. 調査対象は東京都内全域の商業集積地域(136 か所)18とし,分析の頑健性を高めるため 2 ヶ年の データを用いているため,データの観測数は 272 となっている. 被説明変数の自動車集中交通量は,平成 20 年度および平成 10 年度の東京都市圏パーソントリッ プ調査の小ゾーンにおいて,「自宅→私事」「その他私事」目的の自動車集中交通量を集計して作成 した. 説明変数は次のとおりである.商業面積(㎡)は,各商業集積地域内にある店舗の売場面積の合. 18. 「商業集積地域」は,商業統計により作成された地域を用いる.. 11.

(14) 計であり,「商業統計(平成 19 年度・平成 9 年度)」より作成した.駅乗降人員(千人/日)は,各 商業集積地域内にある全駅の乗降人員の合計であり,公共交通の利便性の代理変数として, 「都市交 通年報(平成 20 年度・平成 10 年度)」より作成した.この変数には JR・私鉄・都電・新都市交通 等を含み,バス乗降人員はデータの制約のため含んでいない.駅周辺ダミー(駅周辺の商業集積地 域=1、左記以外=0)は,公共交通の利便性を示すダミー変数として使用し,「商業統計(平成 19 年度・平成 9 年度)」にて「駅周辺型商業集積地区 19」と定義されている商業集積地域を駅周辺とし た.駐車場台数(台)は,各商業集積地域内にある全客用駐車場台数であり「商業統計(平成 19 年度・平成 9 年度)」より作成した.山手線からの時間(分)は,都心部と郊外部においては,自動 車利用に対する選好が異なると考えられるため,この影響をコントロールするための変数として使 用し,ジョルダン㈱「乗換案内」20を用いて作成した.なお,山手線上と山手線の内側地域は「0 分」 としている.これは,山手線の内側地域を正の数値とすると郊外部と同様の数値となるため,自動 車利用に対する選好を適切にコントロールすることができなくなるためである.23 区ダミー(23 区内の商業集積地域=1、左記以外=0)も,23 区内とそれ以外では自動車利用に対する選好が異な ると考えられるため,この影響をコントロールするための変数として用いた.近隣商業ダミー(近 隣住宅地のみを商圏とする商業集積地域=1、左記以外=0)は,各商業集積地域の商圏の大きさに より,自動車利用に対する選好が異なると考えられるため,この影響をコントロールするためのダ ミー変数として使用し,「商業統計(平成 19 年度・平成 9 年度)」にて「近隣型 21」商圏と定義され ている商業集積地域を指定した.卸売ダミー(卸売販売を主体とする商業集積地域=1、左記以外= 0)は,卸売販売を主体とする商業集積地域は私事目的の自動車利用が相対的に少ないと考えられる ため,この影響をコントロールするためのダミー変数として使用し,「商業統計(平成 19 年度・平 成 9 年度)」にて「卸売業中心型 22」地域と定義されている商業集積地域を指定した. 2008 年ダミ ー(2008 年=1、1998 年=0)は,年度の違いによる影響をコントロールするための変数として用い た.. 6.3.推定 推定結果 推定 結果と 結果と 考察 OLS による推定結果は表 6 のとおりである. 商業面積が拡大すると,地域を訪れる自動車集中交通量が増加するという結果が 1%水準で統計 的に有意となった.本分析にて特筆すべきは,駅周辺の場合,商業面積の増加が地域の自動車交通 量を増加させる影響が小さくなることが 10%水準で統計的に有意となっていることである.このこ とから,商業面積の増加は当然ながら地域の自動車交通量を増加させる効果を持つが,公共交通を 利用しやすい地域においては,地域の自動車交通量の増加量は他の地域と比較しその効果が小さく 抑えられているということが示された.その他の説明変数については,山手線からの時間が増える (郊外になる)と自動車交通量を底上げし,23 区内の場合は自動車交通量を減少させることが統計 19. 「駅周辺型商業集積地区」とは,JR や私鉄などの駅周辺に立地する商業集積地区をいう.ただし,原則と して地下鉄や路面電車の駅周辺に立地する地域は除く. 20 ジョルダン㈱ホームページ http://jorudan.co.jp/ 参照 21 「商業統計」においては,飲食料品を主体とする最寄り品が主体となる商業集積地域,住宅地・住宅団地を 主体とする後背地があり地域に密着している商業集積地域等が該当する。買回り品率 40%未満の地域を「近 隣型」とし、これに商店数規模や立地環境等の要素で修正を加えて定義している. 22 「商業統計」においては,卸売業の商店数が、地域の商店数全体の 50%以上を占めており、商業活動の中 心が卸売業であるが、小売業の活動も活発であると見られる商業集積地域が該当する.. 12.

(15) 的に有意となっていることから,公共交通の利便性が私事目的の自動車交通量全体にもマイナスの 影響を与えていると考えられる.また,商業集積地域が近隣商業(地域の商店街など)の場合は自 動車交通量が減少すること,地域の商業が卸売主体の場合は私事目的の自動車交通量なので減少す ることが統計的に有意に示されている.. 表6 被説明変数:自動車集中交通量. 推定結果 係数. 乗降人員. 0.3479. 商業面積. 0.0212. 駐車場台数. 0.0591. 駅周辺ダミー. 標準誤差 0.3353 ***. 0.2041. -255.2032. 駅周辺ダミー×商業面積 山手線からの時間. 0.0057. 174.0701. -0.0113. *. 0.0059. 27.9136. ***. 8.0189. -571.9622. ***. 161.6329. 卸売ダミー. -1031.5100. ***. 239.4058. 23 区ダミー. -376.7074. *. 203.0709. 近隣商業ダミー. 2008 年ダミー. 26.8441. 定数項. 135.1273. 1708.2620. ***. 自由度調整済み決定係数. 354.5334 0.4189. 観測数. 272 (注)***は 1%で、**は 5%で、*は 10%で有意であることを示す.. 6.4.商業面積 商業面積の 商業面積の 拡大が 拡大 が自動車交通量を 自動車交通量を増加させる 増加させる割合 させる割合を 割合を示 すパラメータの パラメータの算出 商業面積の拡大が自動車交通量を増加させる割合を示すパラメータは,式(2)を「商業面積」で微 分することにより算出できる.以下のパラメータを用いて,第 7 章にて現状の附置義務駐車場制度 の規制水準が妥当かどうか検証を行う.. (1)駅 (1)駅周辺の 周辺の 場合 増加自動車交通量= 2 商業面積  5 (駅周辺ダミー  商業面積 =2  5   商業面積. =. .  商業面積. …式(3). (2)駅 (2)駅周辺以外 周辺以外の 以外の場合. 増加自動車交通量= 2 商業面積. =. 

(16)

(17)   商業面積. 13. …式(4).

(18) 7.附置義務駐車場 附置義務駐車場制度 実証結果との 附置義務駐車場制度と 制度と実証結果 結果との比較 との比較 第 6 章で,商業面積の拡大がどの程度自動車交通量を増加させるかについて,実証分析を行いパ ラメータの算出を行った.本章では,第 6 章で算出されたパラメータと規制水準を比較し,規制水 準が過剰となっていないか検証する.実証分析によって算出されたパラメータは,商業面積と交通 量の関係を,規制は商業面積と駐車場台数の関係を示している.図 6 の研究フローのとおり,実証 分析のパラメータから,商業面積と駐車場台数の関係を示す係数を算出したうえで比較する.. Step1 実証分析によるパラメータから,必要駐車台数を算定 解説 (A) 増加商業面積(㎡) (B) 実証分析による パラメータ. ・増加商業面積と必要駐車場台 数との比「係数(L),係数(P)」を 算出するフローである.. (D) 平均乗車人員 (人/台). ・係数(L)は実証分析により算出 されたもの,係数(P)は現状の規 制水準を表したものである.. (C) 増加集中交通量〔平日〕 (人・TE/日). (E) 増加集中交通量〔平日〕 (台・TE/日). (大店法指針による). (F) 平休日比(倍) (G) 増加集中交通量〔休日〕 (台・TE/日). (全国都市交通特性調査による). (H) ピーク率(%) (I) ピーク時増加交通量〔休日〕 (台・TE/時). (大店法指針による). 係数(L) 係数(L)=(K)/(A) (L) (J) 平均駐車時間係数 (K) 必要駐車場台数(台). (大店法指針による). 必要駐車場台数から, 係数(L)を求める.. Step2 附置義務駐車場条例の規制水準を係数化. (M) 増加商業面積(㎡) (N) 条例による 規制水準. 係数(P) 係数(P)=(O)/(M) (P). (O) 必要駐車場台数(台). Step3 附置義務駐車場制度と実証分析結果の比較 係数( 規制が 係数(L)>係数( 係数(P)のとき,規制 規制が不足している. 不足 自動車交通量の増加量は,規制により設置される駐車場台数で賄える量を上回っている. 係数( 過剰規制である. 係数(L)<係数( 係数(P)のとき,過剰規制 過剰規制 自動車交通量の増加量は,規制により設置される駐車場台数で賄える量を下回っている.. 図 6 研究フロー. 14.

(19) 7.1.〔 〔 STEP1〕 〕実証分析 実証分析結果 分析 結果から 結果から係数 から 係数を 係数を 算出 (1). 増加集中交通量から 増加集中交通量から必要 から 必要駐車場台数 必要駐車場台数を 駐車場台数を 算出. 実証分析結果から必要駐車場台数を算出するまでの流れを以下に示す.なお,以下で行っている 算出は主に「大規模小売店舗を設置する者が配慮すべき事項に関する指針 23(平成 19 年 2 月 1 日経 済産業省告示 16 号)」(以下,「大店法指針」という.)を参考としている. ①人数から 人数 から台数 から台数への 台数への補正 への補正. (C) ⇒ (E). ※アルファベットは「図 6 研究フロー」内の記号を表す.. 被説明変数として使用したパーソントリップ調査のトリップエンド数は,人数をカウントしたも のであるが,必要駐車場台数を求めるためには,人数/日(人・TE/日)を台数/日(台・TE/日)へ 変換する必要がある.今回,パーソントリップ数を自動車台数に変換するため,平均乗車人数を 2.0 人 24として算出した.この補正は,「大店法指針」の係数を用いた.. ②曜日の 曜日 の補正. (E)⇒ (E)⇒(G). パーソントリップ調査のトリップエンド数は,平日に調査したものであるため,一般的に商業施 設が繁忙となる休日のトリップエンド数より少ない数値となっている.このことから,ピーク曜日 の増加交通量の影響を考慮するためには,平日の数値を休日の数値に換算する必要がある.そこで, 本研究では「全国都市交通特性調査(平成 17 年度)」より,私事目的の平休日比を算定し 25,換算 する.調査によると,一人あたりの私事目的のトリップ数は平日 0.62TE/人・日に対し,休日 0.94 TE/ 人・日 26である.よって,平休日比は 1.51 と設定した.. ③ピーク時増加交通量 ピーク時増加交通量の 時増加交通量の 算定. (G)⇒ (G)⇒(I). 「休日一日全体の増加交通量」から「ピーク時間帯の増加交通量」に変換する. 「大店法指針」よ り,全国一律で 14.4%と設定されていることから,この数値を採用する.. ④必要駐車場台数の 必要駐車場台数 の算定. (I)⇒ (I)⇒(k). 「ピーク時増加交通量」に「平均駐車時間係数」をかけて算定する. 「大店法指針」より,店舗面 積に応じて係数が異なる 27ため,最も駐車場台数が多く算定される 1.75 を適用する.. 23. 「大規模小売店舗を設置する者が配慮すべき事項に関する指針」は,大規模小売店舗の設置者がその特性か ら,配慮することが求められている事項を具体的に示したものである.本研究にて使用している係数は,こ の大店法指針にて定められているものである.大店法指針の解説によると「全国約 5,000 店の既存店を対象 に行った『大規模小売店舗立地法の施行のための基礎調査』 (平成 10 年 8 月実施。総回答数約 2,900 店。)及 び全国約 18,000 店の既存店を対象とする悉皆調査『大規模小売店舗立地法指針見直しのアンケート調査』 (平 成 15 年 2 月実施。総回答数約 6,300 店。)などを踏まえ」係数を算出しており,現時点で最も確かと考えら れる係数であることから,本研究にて採用している. 24 「大店法指針(P.6)」によると,大規模小売店舗を訪れる自動車の平均乗車人員は店舗面積に応じて 2.0 人~ 2.5 人とされており,最も自動車台数が多く(安全側に)算出される 2.0 人を用いた. 25 国土交通省都市・地域整備局都市計画課都市交通調査室「大規模開発地区関連交通マニュアル改訂版(平成 19 年 3 月)」P.24 に次のとおり記載されている. 「休日の交通手段分担率は,多くの都市圏 PT 調査が平日調 査であるため,データが存在しないことも考えられる.その場合は,全国都市パーソントリップ調査の平日・ 休日の手段分担率費をかけ合せるか,または類似都市・類似施設の休日の交通手段分担率を適用するなどし て設定する.」よって,本研究でも全国都市パーソントリップ調査に相当する「全国都市交通特性調査」の最 新版を用いて,平休日比を算定する. 26 「都市における人の動き-平成 17 年度全国都市特性調査から-P.25」より 27 「大店法指針(P.6)」によると,平均駐車時間係数は店舗面積に依存するが,最も駐車場台数が多く(安全側 に)算出されるのは,20,000 ㎡以上の店舗面積の場合に適用される 1.75 である.. 15.

(20) ①~④のステップにより,係数(L)は以下の式(5)で表される. L  . A  B  F  H  J A  D. B  1.51  14.4%  1.75 2.0.  B  0.19026. (2). …式(5). 係数(L) 係数(L)を (L)を算出. 6.4.で算出したパラメータを式(5)に代入し,係数(L)を以下のとおり求める. ①駅周辺の 周辺の場合 L=B ൈ 0.19026. =0.0098565  0.19026. =. . …式(6). ②駅周辺以外 周辺以外の 以外 の場合 L=B ൈ 0.19026. =0.0212035  0.19026. =. . …式(7). 7.2.〔 〔 STEP2〕 〕附置義務駐車場条例の 附置義務駐車場条例の規制水準 規制水準の 水準の係数化 係数化 第 6 章の実証分析では東京都内の商業集積地域を対象とした分析を行っていることから,東京都 内の附置義務駐車場条例(平成 20 年 3 月末時点)による規制を係数化する.表 7 のとおり,係数(P) を求めた.. 表7. 東京都駐車場条例による規制. 区域. 特別区の区域. 市部の区域. 地域地区. 駐車場整備地区等. 周辺地区. 駐車場整備地区等. 周辺地区又は 自動車ふくそう地区. 駐車施設 1 台あたりの 床面積 (店舗等特定用途). 250 ㎡. 300 ㎡. 200 ㎡. 250 ㎡. 係数( 係数(P). 0.004. 0.003. 0.005. 0.004. ※駐車場整備地区等とは,駐車場整備地区・商業地域・近隣商業地域を指す. ※特別区の周辺地区とは,駐車場整備地区等以外の都市計画区域を指す. ※市部の周辺地区または自動車輻輳地区とは,駐車場整備地区を除く第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域,準 工業地域,第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、工業地域又は工業専用地域を指す. ※「図 6 研究フロー」より,係数(P)は商業面積 1 ㎡あたり設置する必要のある駐車場台数を表す.よって,係数(P)が大 きいほどより多くの駐車場設置が義務付けられる(厳しい規制である)と言える.. (出典:「東京都駐車場条例」より筆者作成). 16.

(21) 7.3.〔 〔 STEP3〕 〕附置義務駐車場制度 附置義務駐車場制度と 制度と実証分析 実証分析結果 分析結果の 結果 の比較 7.1.および 7.2.にて算出した係数(L)と係数(P)を表 8,表 9 のとおり比較する.判定は,係数(L)> 係数(P)のとき,自動車交通量の増加は規制により設置が義務付けられる駐車場台数で賄える量を上 回っているため,規制が過少であると判断し,係数(L)<係数(P)のとき,自動車交通の増加量 は規制により設置される駐車場台数で賄える量を下回っているため,過剰規制であると判断する.. 表8 区域. 規制と実証結果の比較(駅周辺のケース). 特別区の区域. 市部の区域. 地域地区. 駐車場整備地区等. 周辺地区. 駐車場整備地区等. 周辺地区又は 自動車ふくそう地区. 係数(P). 0.004. 0.003. 0.005. 0.004. 過剰. 過剰. 係数(L) 〔駅周辺〕 判定. 0.001875. 過剰. 過剰. 表9 区域. 規制と実証結果の比較(駅周辺以外のケース). 特別区の区域. 市部の区域. 地域地区. 駐車場整備地区等. 周辺地区. 駐車場整備地区等. 周辺地区又は 自動車ふくそう地区. 係数(P). 0.004. 0.003. 0.005. 0.004. ―(※). 適正. 係数(L) 〔駅周辺以外〕 判定. 0.004034. 適正. 過少. ※市部の駐車場整備地区等は,ターミナル駅を中心に設定されているため駅周辺以外のケースは存在しない.. 表 8 の分析結果より,駅周辺における附置義務駐車場制度の規制水準はいずれの地域においても 過剰規制となっていることが判明した.一方,表 9 の分析結果から,駅周辺以外の地域においては 附置義務駐車場制度の規制水準が適正もしくは過少な水準であることが判明した.すべての地域に おいて一律に過剰規制となっているわけではなく,駅周辺という特定の地域においてのみ過剰規制 となっていることが示された.. 17.

(22) 8.考察 考察 本章では,これまでの分析結果をふまえた考察と政策的含意についてまとめる. 8.1.分析結果 分析結果の 分析結果の 考察 第 5 章の分析において,商業面積の拡大が自動車集中交通量へ与える影響の大きさは,所属自治 体の人口規模ではなく,地域の公共交通の利便性に依存していることを示すことができた.これに より,所属自治体の人口規模に応じて規制水準を定めることとしている現状の附置義務駐車場制度 は,適正な規制水準を定める方法としては妥当ではないと考えられる. 第 5 章において,特に公共交通の利便性に応じて地域毎に規制水準を変えるべきことが分かった ため,第 6・7 章の分析においては商業集積地域が駅周辺か否かという点に着目し,東京都内の詳細 なデータを収集したうえで,既存の規制水準が適正かどうかを判定した.分析の結果,駅周辺の商 業集積地域においては,規制水準が過剰となっていることが示された.一方,駅周辺以外の商業集 積地域では,規制水準が適正もしくは過少となっていることも分かった. 上記の結果から,自治体内で一律の基準を設定することにより,それぞれの地域において適正と 考えられる規制水準との乖離が発生しており,特に駅周辺においては過剰規制となっているため, 第 3 章で行った経済分析の結果から,政府の失敗による社会的余剰の減少が起きている可能性があ ると考えられる. また,第 5 章では駐車場台数の増加はその地域への自動車集中交通量を増加させる副作用を持つ ことも分かった.よって,社会的余剰の損失だけではなく,周辺の自動車交通量を増加させ外部不 経済を増加させていることも判明した.. 8.2.政策的含意 政策的含意 自治体の人口規模に応じて規制水準を設定し,自治体内は一律の基準となっている現行の制度設 計は適切ではない.商業面積の拡大が地域の自動車交通量を増加させる影響の大きさは公共交通の 利便性に依存するため,地区に見合った柔軟な規制水準を設定することが必要である.特に駅周辺 地区においては,現状は過剰規制となっているため,規制水準の緩和(附置義務台数の縮小)が望 まれる.本研究から導かれた結果からは,現在の半分程度の水準まで規制緩和が可能である.なお, 本研究の課題でもあるが,交通量の増加分は地域全体の集計値であるため,特定の建物に自動車交 通が集中する可能性は否定できない.但し,現状の規制水準のもとで駐車場を整備すると,地域全 体では駐車場が過剰供給となることが明らかとなったため,駐車場間の連携により駐車需要を地域 内で分散させる政策も道路交通の円滑化には有効な対策であると考える.. 18.

(23) 9.おわりに おわりに 今回のデータは,被説明変数にパーソントリップ調査の私事目的の数値を用いた.実際には,商 業施設の利用者には,多くはないとはいえ業務目的利用者も含まれると考えられ,実際の数値より 自動車交通の増加量を少なく推定している可能性がある.また,集中交通量の増加量の算出には, 地域毎に集計されたパーソントリップ調査のデータを活用しているため,地域全体の交通量がどの 程度増加しているかを説明しているが,個別の建物を来訪する交通量がどの程度発生するかについ てのデータを入手できていない.よって,建物毎の自動車交通量への影響を把握するためには個別 建物毎にアンケート調査を行うなど,より実際に即したデータを収集することが望まれる. 本来,建築物利用の付帯需要である駐車場の需要量は,建物の業種や業態等によっても異なる. したがって,最も需要量を正しく把握できる主体は建物設置者であり,建物設置者自身が需要量を 考慮して駐車場を確保すれば最適水準が達成される.政府と建物設置者の間には情報の非対称性が あるため,全ての建築物に最適な駐車場整備を促すことはできず,効率的な資源配分という観点か らは無駄が生じることとなる.また,路上駐車による交通渋滞の発生という外部性を防ぐための施 策であるが,外部性を発生させるものに直接規制をかけるのが本来の姿であり,路上駐車の取締り を厳格に行うことが直接的な施策である.小早川ら(2010)の研究においても,平成 18 年の道路交通 法改正において違法駐車取り締まりの民間委託制度が導入されたことにより,乗用車の違法駐車が 大きく減少していることが示されている. 以上より, 「自動車交通の円滑化」という政策目的を達成するためには,路上駐車の厳格な取締り を行いつつ,建物設置者に駐車場確保の判断を委ねる制度を検討すべきである.今後,取締りコ. ストとその効果を考慮した附置義務駐車場制度の研究も望まれる.. 謝辞. 本稿の作成にあたり,西脇雅人助教授(主査),久米良昭教授(副査),加藤一誠教授(副査),安 藤至大助教授(副査)から多大なご指導ご支援を頂いたほか,福井秀夫教授(プログラムディレク ター)をはじめ,まちづくりプログラム及び知財プログラムの関係教員及び学生の皆様からも大変 貴重なご意見を頂きました.ここに記してお礼申し上げます. 最後に,政策研究大学院大学での研究の機会を与えていただいた派遣元および研究生活に協力を 惜しまず支えてくれた妻と家族に改めて深く感謝します.. 19.

(24) 参考文献. ・一宮大祐・土井勉・西田純二・本井敏雄・三浦良平・林真弘・藤澤伸和・奥村孝幸(2009)「総合 的な中心市街地駐車場施策に関する考察」 ・金本良嗣 (1997)「都市経済学」,東洋経済新報社,pp17-24 小早川悟ら(2010)「千代田区における駐車に関する調査研究」 ・竹内健蔵 (2008)「交通経済学入門」,株式会社有斐閣,pp230-234 ・駐車場法研究会(2005)「駐車場法解説‐改訂版‐」,株式会社ぎょうせい ・三上佑輔・兼杉裕記・大沢昌玄・岸井隆幸(2005)「副都心地区における駐車場整備実態に関する 研究」 ・柳澤聡子・高田慎也・小笠原伸・吉國泰弘・尾島俊雄(1997)「都心商業地における駐車場附置義 務に関する一考察-銀座地区における住宅誘導型地区計画導入の際の地下公共駐車場整備の検討-」 ・運輸政策研究機構「都市交通年報(平成 10 年度)」 ・財団法人運輸政策研究機構「都市交通年報(平成 20 年度)」 ・経済産業省商務情報政策局「大規模小売店舗を設置する者が配慮すべき事項に関する指針(平成 19 年 2 月 1 日経済産業省告示 16 号)」 ・国土交通省都市地域整備局都市計画課都市交通調査室「全国都市交通特性調査(平成 17 年度)」 ・国土交通省都市地域整備局都市計画課都市交通調査室「大規模開発地区関連交通マニュアル改訂 版(平成 19 年 3 月)」,pp24 ・国土交通省 都市地域整備局 街路交通施設課「自動車駐車場年報(2008)」 ・東京都中央区都市整備部都市計画課「中央区附置義務駐車施設整備要綱」 ・横浜市都市整備局都市再生推進課「エキサイトよこはま 22 駐車場整備ルール運用マニュアル」. 20.

(25)

参照

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