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「行政による避難勧告等の発令が住民の避難行動に与える影響について」

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⾏政による避難勧告等の発令が住⺠の避難⾏動に与える影響について

<要旨> 我が国の国⼟は約 70%が⼭地・丘陵地で構成されており、その地質は脆弱で、そこから 流れ出る河川は急勾配で洪⽔を起こしやすい特性がある。さらに、降⾬は梅⾬期や台⾵期に 集中し、⼟砂崩れなどの災害が頻繁に発⽣する。 ⾃然災害の発⽣により住⺠の⽣命に危険があると判断される場合には、地⽅⾃治体は避 難勧告等を発令し、住⺠に対して避難所への⽴退き避難を基本とした避難⾏動を促してい るが、各災害の避難率からも分かるように、住⺠が⾏政の発信する避難情報を⼗分に認識し 避難⾏動をとっているとは⾔い難い。 そうしたなか、⻄⽇本で発⽣した平成 30 年7⽉豪⾬では、重⼤な災害発⽣のおそれにつ いてマスメディア等を通じて事前に広く伝えられたうえで避難勧告等が発令されたにもか かわらず、⾃宅に留まる等により多くの住⺠が被災したことから、国ではワーキンググルー プを設置し、報告書がまとめられた。それを踏また新たな取組として、令和元年6⽉から、 これまでの避難情報と併せて警戒レベルによる情報提供が⾏われている。 本研究では、台⾵等の影響による⼟砂災害や浸⽔被害が頻繁に発⽣する⻑崎県における 過去 10 年間の避難勧告等の発令実績を基礎データとして、①全域への発令が避難率に影響 するか、②警戒レベルの導⼊が避難率に影響するか、③⾏政による情報発信がどの程度避難 率の向上に影響するか、について定量的に明らかにすることを⽬的とする。 なお、本研究の主な結果は以下のとおりである。①全域に発令すると避難率が低下したこ と、②警戒レベルの導⼊は避難率に影響がなかったこと、③⾏政による情報発信のみでは避 難率の向上には限界があること。 これらの結果を考察したうえで、避難率を向上させ、ひいては災害時の⼈的被害を減らす ための政策として、現状よりも細かい地域に絞った避難勧告等の発令、被災リスクの⾼い住 ⺠への⽕災保険の加⼊義務化等を提⾔する。 2020 年(令和2年)2 ⽉ 政策研究⼤学院⼤学 まちづくりプログラム 吉本 圭佑

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⽬次 1. はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 1.1. 研究の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 1.2. 先⾏研究および本稿の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 2. 避難勧告等の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 2.1. 避難勧告等の発令について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 2.2. 避難勧告等に関するガイドラインの改定について・・・・・・・・・・・・・・・5 3. 問題意識および仮説の設定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 3.1. 仮説1(避難勧告等を全域に発令した場合に⽣じる政府の失敗について) ・・・7 3.2. 仮説2(警戒レベルの導⼊について) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 3.3. 仮説3(住⺠の避難⾏動に対する判断基準について) ・・・・・・・・・・・・9 4. 実証分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 4.1. 使⽤するデータ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 4.2. 推定式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 4.3. 推定結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 4.3.1. 避難勧告等の全域への発令について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 4.3.2. 避難勧告と避難指⽰の違いについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 4.3.3. ⾼齢者の割合について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 4.3.4. 都市部の避難率について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 4.3.5. 警戒レベルの導⼊について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 5. 政策提⾔・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 5.1. 現状よりも細かい地域に絞った避難勧告等の発令 ・・・・・・・・・・・・・・15 5.1.1. 現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 5.1.2. 提⾔・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 5.2. 被災リスクの⾼い住⺠の⽕災保険への加⼊義務化・・・・・・・・・・・・・・・17 5.2.1. 現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 5.2.2. 提⾔・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 6. おわりに(今後の課題について)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 7. 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 8. 参考⽂献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

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1. はじめに 1.1. 研究の背景 我が国の国⼟は約 70%が⼭地・丘陵地で構成されており、その地質は脆弱で、そこから 流れ出る河川は急勾配で洪⽔を起こしやすい特性がある。さらに、降⾬は梅⾬期や台⾵期に 集中し、⼟砂崩れなどの災害が頻繁に発⽣する。 そうしたなか、災害対策基本法では、市町村⻑は⾃然災害の発⽣により住⺠の⽣命に危険 があると判断される場合には、住⺠に対し避難勧告や避難指⽰(以下、「避難勧告等」とす る)といった避難情報を発令することができることを規定し、避難所への⽴退き避難を基本 とした避難⾏動を呼びかけている。しかしながら、避難勧告等発令時の避難所への避難率 (以下、「避難率」とする)をみてみると、⾏政の呼びかけに対して住⺠が⾏政の発信する 避難情報を⼗分に認識し避難しているとは⾔い難い。 例えば、発達した前線や台⾵7号の影響により平成 30 年6⽉ 28 ⽇から数⽇間に渡り⻄ ⽇本を中⼼に甚⼤な被害をもたらした⾃然災害(以下、「平成 30 年7⽉豪⾬」とする)で は、約 860 万⼈に対して避難勧告等が発令されたにもかかわらず、実際に避難所へ避難し た⼈数は約 4.2 万⼈であり、避難率に換算すると約 0.5%と⾮常に低い割合であった。被害 状況としては、6,767 棟の家屋が全壊、15,234 棟の家屋が半壊または⼀部破損、28,469 棟 の家屋が床上または床下浸⽔し、200 名を超える死者・⾏⽅不明者が発⽣している1 この災害では、重⼤な災害発⽣のおそれについてマスメディア等を通じて事前に広く伝 えられたうえで避難勧告等が発令されたにも関わらず、⾃宅に留まる等により多くの住⺠ が被災したことから、国では「平成 30 年7⽉豪⾬による⽔害・⼟砂災害からの避難に関す るワーキンググループ(以下、「平成 30 年7⽉豪⾬に関するワーキンググループ」とする)」 が設置され、そこでまとめられた報告書を踏まえ、災害時の住⺠の避難にする新たな取組の ひとつとして、令和元年6⽉から警戒レベルによる避難情報の提供が⾏われている2 本研究では、台⾵等の影響による⼟砂災害や浸⽔被害が頻繁に発⽣する⻑崎県における 過去 10 年間の避難勧告等の発令実績を基礎データとして、①全域への発令が避難率に影響 するか、②警戒レベルの導⼊が避難率に影響するか、③⾏政による情報発信がどの程度避難 率の向上に影響するかを定量的に明らかにすることを⽬的とし、避難率を被説明変数とし て実証分析を⾏った。 なお、本研究における主要な結果は以下の通りである。①全域に発令すると避難率が低下 したこと、②警戒レベルの導⼊は避難率に影響がなかったこと、③⾏政による情報発信だけ では避難率の向上に限界があること。 これらの結果を考察したうえで、避難率を向上させ、ひいては災害時の⼈的被害を減らす ための政策として、現状よりも地域に絞った避難勧告等の発令、被災リスクの⾼い住⺠への ⽕災保険の加⼊義務化等を提⾔する。 1 内閣府「令和元年版防災⽩書」より(数値は平成 31 年1⽉9⽇現在)

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1.2. 先⾏研究および本稿の構成 避難勧告等発令時の住⺠の避難⾏動については、これまでにも多くの研究が⾏われてい る。廣井(1999)では、広島県での豪⾬災害時の住⺠の避難⾏動を分析し、「濁⽔、崖崩れ、 避難勧告など、災害状況の想像が容易な住⺠の積極的な避難⾏動につながっている」ことを ⽰している。また、奥村ほか(2001)では、1999 年6⽉ 29 ⽇の豪⾬により被害を受けた 広島市郊外の住宅団地を対象に⾏なったアンケート調査に基づいて定量的に分析を⾏い、 「⾬量等の事実情報から住⺠が被災の危険を理解することは難しく、避難勧告、主観確率が 積極的な避難⾏動に強く結びついている」ことを⽰している。さらに、及川(2016)では、 避難勧告等を積極的に発令することを⾼頻度戦略と定義したうえで、実験に基づく検証に より「⾼頻度戦略の避難勧告は短期的には意義があるがそれ以外のケースでの意義は認め にくい」ことを⽰している。 ⼀⽅、単⼀の都道府県で過去に発⽣した⾃然災害時における住⺠の避難に関する蓄積デ ータから、⾏政の避難勧告等の発令が住⺠の避難⾏動に与える影響について定量的に分析 を⾏ったものはほとんどない。さらに、本研究は政府の新たな取組である警戒レベルの導⼊ の影響を定量的に分析した点について新規性があるといえる。 また、本論を述べるにあたっての構成は次のとおりである。第2章では、避難勧告等の概 要について整理し、第3章では、⾏政による避難勧告等の発令が住⺠の避難⾏動に与える影 響について、経済学的な視点から論理的に考察し仮説を設定する。第4章では、設定した仮 説について定量的に分析を⾏い、第5章では、避難率を向上させ、ひいては⾃然災害発⽣時 の⼈的被害を減らすための提⾔を⾏う。第6章では、今後の研究課題を整理したうえで、本 研究のまとめとする。 2. 避難勧告等の概要 2.1. 避難勧告等の発令について 災害対策基本法において、災害の発⽣により住⺠の⽣命に危険がある場合に市町村⻑が 避難勧告等を発令することができる旨が規定されている3。また、発令の判断基準に関する ⽅針については、内閣府作成の「避難勧告等に関するガイドライン②(発令基準・防災体制 編)」によって⽰されており、地⽅⾃治体では、河川の⽔位情報や、気象庁の発する⼟砂災 害警戒情報等を参考に発令内容や発令対象区域を設定することとなる。このように、発令の 判断やタイミングについては、最終的には地⽅⾃治体の裁量に任されており、災害の発⽣が 差し迫るなか住⺠の避難を促すよう適切に判断しなければならない。 3 災害対策基本法 第 60 条

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なお、避難勧告等が発令された場合の住⺠への伝達⼿段については、主に、防災⾏政無線、 広報⾞、町内会や消防などによる訪問、テレビ等のマスメディア、インターネット、アプリ、 スマートフォンでのエリアメール等があり、住⺠の居住環境や年齢等といった属性に応じ た多種多様な⽅法により住⺠全員へ伝達される努⼒が⾏われている。 2.2. 避難勧告等に関するガイドラインの改定について 第1章で述べたとおり、平成 30 年7⽉豪⾬においてマスメディアによる事前の周知や⾏ 政による避難勧告等の発令があったにもかかわらず、避難⾏動をとらずに被災した住⺠が 多くいたことから、平成 30 年7⽉豪⾬に関するワーキング・グループが設置され、報告書 がまとめられた。この報告書をもとに、避難勧告等に関するガイドラインが主に以下の4点 に重点を置いて改定されており、本研究では、これらのうち⾏政からの情報発信という観点 から④について着⽬して分析を⾏う。 なお、④についての具体的な取り組みとして、令和元年6⽉からこれまでの避難情報に加 えて警戒レベルを⽤いた情報発信が⾏われている。 警戒レベルと避難勧告等の関係については表1のとおりであり、避難勧告および避難指 ⽰はいずれも「警戒レベル4」に区分されている。 ① 「⾃らの命は⾃らが守る」意識の徹底や災害リスクと住⺠のとるべき避難⾏動の理解 促進 ② 地域における防災⼒の強化 ③ ⾼齢者等の要配慮者の避難の実効性の確保 ④ 防災気象情報等と地⽅公共団体が発令する避難勧告等の避難情報の連携

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表1 警戒レベルと避難勧告等の関係 注)内閣府「避難勧告等に関するガイドライン①(避難⾏動・情報伝達編)」より 3. 問題意識および仮説の設定 本章では、⾏政による避難勧告等の発令が住⺠の避難⾏動に与える影響について、経済学 的な⽴場から理論的考察を⾏ったうえで仮説を設定する。 福井(2007)によると「資源配分の効率性の観点から、法などによる市場介⼊が正当化さ れるのは、いわゆる市場の失敗がある場合に限られる。」とされている。市場の失敗とは「公 共財」「外部⽣」「取引費⽤」「情報の⾮対称性」「独占・寡占・独占的競争」の 5 つである。 また、市場の失敗を根拠に対応した政府介⼊が意図したような成果を上げられず、かえっ て経済活動が⾮効率化することを「政府の失敗」という。 本研究においては、特に⾏政による避難勧告等の発令に関する「政府の失敗」に着⽬して 考察する。

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3.1. 仮説1(避難勧告等を全域に発令した場合に⽣じる政府の失敗について) 現在の技術では、⾃然災害発⽣時に、いつどこでだれが被災するか判断するのは困難であ る。また、災害対策基本法により、避難勧告等の発令対象地域の決定は市町村⻑の権限に委 ねられているが、部署異動を繰り返す⾏政担当職員が災害や気象情報について専⾨的な知 識を持ったうえで精度の⾼い避難情報を発令できるとは⾔い難い。 そうしたなか、近年の災害をみると避難勧告等を「全域」に発令するケースがしばしば⾒ 受けられる。本当に全ての地域が危険であるのであればこの判断は妥当であると考えられ るが、それ以外の場合は、被災する危険性のない住⺠に対しても避難を促しているため、住 ⺠は⾃⾝が被災するかどうかについて不確実な情報を与えられていることになる。 住⺠が避難⾏動を⾏う場合、避難所への移動のための⾝体的な負担や⾃宅での快適な⽣ 活を⼿放して避難所で⼀時的に⽣活をする精神的な負担といった複合的なコストが⽣じる。 これらのコストが被災することによる損害を超えない限り、住⺠は避難⾏動を取るインセ ンティブを持たない。つまり「被災確率×被害額−コスト>0」の場合にはじめて住⺠は避 難⾏動を起こすといえる。ここで、避難勧告等が全域に発令された場合のように、住⺠が感 じる被災確率が⼩さなものである限り、住⺠は避難するコストに⾒合った災害による損害 を感じないため、「避難しない」という選択をとってしまうと想定される。 これらのことから、以下のとおり仮説1を設定する。 仮説1) 避難勧告等が「全域」に発令された場合、それ以外に⽐べて避難率が低いのではない か。 3.2. 仮説2(警戒レベルの導⼊について) 平成 30 年7⽉豪⾬の際に、住⺠が避難⾏動を取らなかった事例が多く発⽣したことを踏 まえ、令和元年6⽉から、これまでの「避難指⽰」や「避難勧告」という避難情報に加えて、 「警戒レベル」による住⺠への情報提供が⾏われている。この制度は、避難情報に対してと るべき避難⾏動を住⺠に対してより直感的に理解してもらうことが趣旨であり、住⺠がこ れまで以上に避難を⾏うことが期待されている。これまでの避難勧告と避難指⽰の使い分 けには、⾏政からすると避難の緊急性や災害規模の違いといった共通認識があったと思わ れるが、情報の受け⼿である住⺠からすると、その違いが⼗分に伝わっていたとは限らな い。本制度では避難勧告と避難指⽰を同じ警戒レベル4に区分しており、「警戒レベル4= 全員避難」という認識であることを強調することによって、とるべき避難⾏動を住⺠の直感 的な理解に訴えかけている。なお、内閣府では図1のとおりチラシを作成するなどして、住 ⺠への制度周知を図っている。

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これらのことから、以下のとおり仮説2を設定する。 仮説2) 避難勧告等と併せて警戒レベルによる情報提供が⾏われた場合は、それ以外に⽐べて 避難率が⾼いのではないか。 図1 警戒レベルの導⼊に関するチラシ 注)内閣府 HP「避難勧告等に関するガイドラインの改定(平成 31 年3⽉ 29 ⽇)」より

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3.3. 仮説3(住⺠の避難⾏動に対する判断基準について) 当然であるが、⼈々の選好については個⼈差がある。 仮説1において、「被災確率×被害の程度−コスト>0」の場合にはじめて住⺠は避難⾏ 動を起こすと述べたが、ここでいう被災確率とは⾏政によって客観的に発信された確率情 報を住⺠が主観的に解釈した確率である。つまり、避難勧告等の情報が住⺠に⼀律に伝達さ れるのではなく、個々の住⺠にそれぞれ届いているという認識を持つ必要がある。被害の程 度についても、所有している財産や余命によって異なることが考えられる。また、避難コス トも若者か⾼齢者か、男性か⼥性かによって異なる。 このように、居住地域、年齢、性別、世帯状況、または住⺠それぞれの⼼理的な特徴とい った様々な個⼈的属性から、住⺠は避難するか⾃宅に留まるかの選択を⾏うことが考えら れる。 これらのことから、以下のとおり仮説3を設定する。 仮説3) ⾏政による情報提供だけでは避難率を向上させることは困難ではないか。 4. 実証分析 本章では、最⼩⼆乗法による実証分析を⾏い、第3章で導出した仮説について定量的に明 らかにする。 分析を⾏うにあたり、対象地域は⻑崎県とした。理由としては、台⾵等による⾃然災害が 定期的に発⽣しており、斜⾯市街地を多く形成していることから⼟砂災害等の被害も多く、 住⺠の避難⾏動を定量的に考察する本研究に適しているためである。なお、都市部や離島部 などの地域性による違いも分析するため、県内全市町を対象とした。 4.1. 使⽤するデータ 分析の基礎となるデータとして、⻑崎県危機管理課から提供を受けた、⻑崎県における 2009 年から 2019 年の期間で発令された避難勧告および避難指⽰の実績データを使⽤した。 本データには、市町ごとの避難勧告等の対象地域、対象⼈数、実避難⼈数が記されており、 筆者において避難率を算出した。なお、本研究における避難率とは、「避難勧告等の発令対 象⼈数のうち実際に避難所へ避難した⼈数の割合(%)」と定義する。 また、気象庁ホームページから発令時の降⾬量を調べることで、発令対象である⾃然災害 の規模を把握するとともに、国勢調査から発令対象地域の年齢構成を把握している。その 他、各変数の説明は表2に掲載したとおりである。主に、⾏政による情報発信、発令対象災 害の規模、発令対象地域の地理的特性について着⽬している。

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なお、避難率が 50%以上であるものは、既に⼟砂崩れなどによる被害が発⽣している状 況下において特定世帯に発令されているものであり、住⺠が避難⾏動を選択する余地がな かったものと判断し除外している。 表2 説明変数 変数名 説明 避難率 避難勧告等の発令対象地域における対象⼈数のうち実際に避難所へ 避難した⼈数の割合(%) 降⽔量 避難勧告等発令⽇及びその前⽇の降⾬量の合計(mm) 全域発令ダミー 避難勧告等が全域に発令されていれば1、それ以外であれば0をとるダミー 避難指⽰発令ダミー 避難指⽰が発令されていれば1、それ以外であれば0をとるダミー 建物被害ダミー 避難勧告等が発令された地域で建物被害があれば1、 それ以外であれば0をとるダミー 警戒レベル導⼊ダミー 警戒レベルが導⼊されていれば1、それ以外であれば0をとるダミー ⾼齢者割合 発令対象地域の⾼齢者の割合(%) 都市部ダミー 都市部(中核市)であれば1、それ以外であれば0をとるダミー 離島地域ダミー 離島地域であれば1、それ以外であれば0をとるダミー

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4.2. 推定式 推定式は以下のとおりである。被説明変数を「避難率」として最⼩⼆乗法による分析を⾏ う。なお、基本統計量は表3のとおりである。 Y(避難率)=B0+B1(降⽔量) +B2(全域発令ダミー) +B3(避難指⽰発令ダミー) +B4(建物被害ダミー) +B5(警戒レベル導⼊ダミー) +B6(⾼齢者割合) +B7(都市部ダミー) +B8(離島地域ダミー) +μ 表3 基本統計量 変数名 観測数 平均値 標準偏差 最⼩値 最⼤値 避難率 56 1.133357 3.547009 0 17.647 降⽔量 56 210.4196 107.8396 0 516 全域発令ダミー 56 0.5 0.504525 0 1 避難指⽰発令ダミー 56 0.125 0.3337119 0 1 建物被害ダミー 56 0.4285714 0.4993502 0 1 警戒レベル導⼊ダミー 56 0.3035714 0.4639609 0 1 ⾼齢者割合 56 32.91607 4.636761 23 45.7 都市部ダミー 56 0.1607143 0.370591 0 1 離島地域ダミー 56 0.4285714 0.4993502 0 1

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4.3. 推定結果および考察 本節では推定結果を表4に⽰し、第3章で導出した仮説に沿って考察を⾏う。 なおサンプル数について、実証分析を⾏うに際しては多いほうが望ましいが、今回得られ たものは 56 と決して多くはない。しかしながら、⾃然災害が発⽣し、なおかつ避難勧告等 を発令しているという制約のもと、過去 10 年間における避難勧告等の発令実績の最⼤値を 抽出しているため、やむを得ないと判断した。また、決定係数が必ずしも⾼くないが、仮説 検定に必要である有意な係数が得られており、分析結果から課題や解決策を考察していく にあたっては必要⼗分な結果であるといえる。 表4 推定結果 = 56 Source SS df MS = 2.44 Model 203.037053 8 25.3796316 = 0.027 Residual 488.932836 47 10.4028263 = 0.2934 Total 691.969889 55 12.5812707 = 0.1731 = 3.2253 避難率 Std. Err. t P>t [95% Conf. 降⽔量 0.0048514 0.99 0.328 -0.0049677 全域発令ダミー 0.9905566 -2.29 0.026 -4.265015 避難指⽰発令ダミー 1.527963 2.52 0.015 0.782934 建物被害ダミー 0.9799567 1.12 0.269 -0.8743808 警戒レベル導⼊ダミー 1.196061 -1.44 0.156 -4.131083 ⾼齢者割合 0.132347 -1.72 0.091 -0.4945295 都市部ダミー 1.531815 -2.35 0.023 -6.68159 離島地域ダミー 1.283838 1.07 0.290 -1.208242 _cons 8.336145 4.158612 2.00 0.05 -0.0299043 Coef. 0.0047921 -2.272272 3.8568 1.097038 Adj R-squared Root MSE -0.2282816 -3.599976 1.374507 Interval] 0.0145519 -0.2795289 16.70219 6.930666 3.068456 0.6812455 0.0379662 -0.5183628 3.957256 Number of obs F(8, 47) Prob > F R-squared -1.724918

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4.3.1. 避難勧告等の全域への発令について 避難勧告等が「全域」に発令された場合、そうでない場合に⽐べて避難率が約 2.3%低下 することが有意⽔準5%で⽰された。奥村ほか(2001)によると「現実に住⺠が最も多く直 ⾯する状況が避難勧告の「空振り」であるため、誤報による避難勧告への信頼性の低下が起 こる」とされている。今回の分析からも、避難勧告等が全域に発令された場合、実際に被害 に遭う確率が不明確であるため住⺠の避難勧告等への信頼性が低下し避難率に負の影響を 与えているのではないかと考察される。このことについては、図2に⽰すプロスペクト理論 4のグラフを⽤いて概念的に理解できる。 図2 プロスペクト理論における価値関数とリスク選好 原点 O を災害が発⽣していない状態であるとする。ここで⾃然災害が発⽣し、全域に避 難勧告等が発令された場合、住⺠が⾏動を選択する場合の前提を以下のとおり与えられる とする。 1)避難情報が不明確であり 50%の確率で被災する 2)被災した場合 100 のコストがかかる 3)避難した場合 50 のコストがかかるが確実に助かる 4 多⽥(2003)によると「プロスペクト理論とは、⼈々がくじ引きや株式投資など結果が確実ではない、 リスクが存在するような商品を購⼊する際に、そのリスクに対してどのような⾒込みを⾏い、どのような 価値 損失 -50 利得 リスク愛好的 リスク回避的 O -100 避難しない場合の価値(被災するか不明確) 避難して確実に助かる場合の価値

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この場合、避難する場合も避難しない場合も期待値として同じ 50 のコストがかかるにも かかわらず、住⺠は避難しない場合の⽅が避難する場合よりも価値を⾼く評価するため、被 災するかどうかの確率が不明確である全域への避難勧告等発令時は、住⺠は避難しないと いう選択をとるインセンティブが働きやすいということがいえる。 なお、上記の事例は極端な数値例であるが、損失⽅向の価値関数が原点に対して凹である 限り、損失の回避⾏動については全てのケースでリスク愛好的に⾏動することが図1から ⽰される。 4.3.2. 避難勧告と避難指⽰の違いについて 次に、避難指⽰が発令された場合、避難勧告に⽐べて避難率が約 3.9%上昇することが有 意⽔準5%で⽰された。 避難指⽰は避難勧告よりも緊急性の⾼い避難情報である。今回の基礎データからも、避難 勧告等発令時に⼈的被害、家屋被害、道路被害等があった割合は、避難勧告発令時が約 65% であったのに対し、避難指⽰発令時は約 75%であった。分析結果を踏まえ、避難指⽰は避 難勧告に⽐べて住⺠に対してより災害に対する緊急性を感じさせるとともに、⾃⾝が被害 に遭う確率が上昇すると考えるため、避難所へ避難するインセンティブを増加させるので はないかと考察される。 4.3.3. ⾼齢者の割合について 次に、発令対象地域の 65 歳以上の住⺠の割合が1%増えると避難率が約 0.2%低下する ことが有意⽔準 10%で⽰された。 奥村ほか(2001)では、「年齢の⾼い⼈ほど居住年数が⻑くなり、『今まで⼤きな災害が無 かったから、これからも無いだろう』という⼼理が働くため、避難⾏動に対し消極的になる」 とされている。今回の結果からも、⾼齢者は⾃⾝がこれまで被災しなかったことにより今回 も被災しないだろうというバイアスが働くのではないかと考えられる。 また、⾼齢者は避難所へ避難することに対する⾝体的なコストが⼤きいため、避難せずに ⾃宅に留まりやすいのではないかと考察される。 さらに、仮説1で述べたように、被害額が⼤きいほど住⺠は避難⾏動を起こしやすくなる が、この被害額は現在所有している資産のほかに、これから得られる⽣涯賃⾦についても考 慮される。このことから、平均余命が短い⾼齢者は若者に⽐べて被害額の期待値が低くなる ため避難⾏動を起こしづらいのではないかとも考えられる。

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4.3.4. 都市部の避難率について さらに、発令対象地域が都市部である場合、その他の地域に⽐べて避難率が約 3.6%低下 することが有意⽔準5%で⽰された。このことから、都市部はオフィスなども多く避難勧告 等が発令された際に仕事を優先してしまうことや、マンションなどの頑強で⾼層な住居が 多く、住⺠があえて避難所へ避難するインセンティブを持たないのではないかと考察され る。 4.3.5. 警戒レベルの導⼊について 最後に、仮説2で想定していた、警戒レベルの導⼊による避難率への効果であるが、今回 の分析からは有意な結果は得られなかった。このことについて、警戒レベルは避難勧告等の 避難情報を住⺠に対して分かりやすく伝えることはできているものの、住⺠が被災するか どうかという情報の正確性⾃体を解消しているわけではないため、避難率の向上に結びつ いていないのではないかと考察される。 5. 政策提⾔ 本研究では、⾏政による避難勧告等の発令が住⺠の避難⾏動に与える影響について、論理 的な考察から導かれた仮説を、住⺠の避難実績をもとに定量的に分析した。 本章では、これまでの章で述べた現状と実証分析により明らかになった結果を踏まえ、次 の①、②の政策提⾔を⾏う。 ①現状よりも細かい地域への避難勧告等の発令 ②⽕災保険への加⼊義務化 5.1 現状よりも細かい地域への避難勧告等の発令 5.1.1. 現状 仮説1では「避難勧告等が全域に発令されると、避難率は低下する」としていたが、実証 分析においても避難勧告等の全域への発令が避難率を低下させてしまうことが明らかにな った。今回分析対象とした 56 サンプルをみても、全域へ発令されたものは 28 サンプルと 半数の割合で全域へ発令されていることがわかる。 5.1.2. 提⾔ そこで、避難率を向上させるための改善策のひとつとして、現状よりも細かい地域に絞っ て避難勧告等を発令し、より正確な災害情報の発信を⾏うことで、住⺠の避難へのインセン

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ティブを⾼めることを提⾔する。少なくとも、全域への発令については慎重に判断するべき である。 本提⾔にかかる論理的考察については、ひとつは先述したプロスペクト理論により説明 することができる。第4章では、住⺠が実際に被災するかどうかの確率が不明確である状態 においては、避難所へ避難することよりも避難せずに⾃宅等に留まることの⽅が価値をよ り⾼く評価するために住⺠は「避難しない」という選択をとるインセンティブが働きやすい ことを説明した。極端ではあるが、避難勧告等の発令を細かい地域に絞ることで避難情報の 確度が⾼まり、住⺠が確実に被災するという認識を持ったとすると、被災して 100 のコス トがかかるよりも 50 のコストがかかっても確実に助かるほうが価値を⾼く評価するため、 住⺠は避難を⾏うインセンティブが⾼まる。 論理的考察のもうひとつは、政策の現実性である。⾏政が避難勧告等を発令する場合に は、避難場所となる施設の収容定員との兼ね合いについても考慮すべきであると考える。現 状として、今回分析対象とした⻑崎県の場合、避難所の収容定員が住⺠全員をまかなうこと ができるには⾄っておらず、この傾向は全国的にもみられる。避難勧告等を発令し、仮に収 容定員を超える住⺠が避難所へ避難してきた場合の影響について図3により説明する。 図3 避難者数が避難所の収容定員を超えた場合の影響 MB1:限界便益曲線(現状) MB2:限界便益曲線(収容定員超過時) MC :限界費⽤曲線 SMC:社会的限界費⽤曲線 Q1 :避難者数(現状) Q2 :避難者数(収容定員超過時) Q* :避難所の収容定員 (避難サービスに対する限界便益・限界費⽤) SMC MC (避難者数・避難所の収容⼈数) Q* MB2(収容定員超過時) Q2 Q1 MB1(現状) 避難者が避難所の収容 定員を超えた場合、混 雑による負の外部性が ⽣じてしまう。

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定の費⽤がかかり、収容定員を超えると追加的な費⽤がかかるものとする。現状は避難率が 低い状況であるので、避難者数は Q1の状態であるが、避難者数が Q2となり、収容定員で ある Q*を超えた場合には、施設の混雑が⽣じてしまうために、私的限界費⽤のほかに社会 的限界費⽤が発⽣し、負の外部性が⽣じてしまう。災害救助法により避難所の提供が保証さ れている今回の事例の場合、道路サービスのように料⾦を徴収して混雑を解消することは できないため、社会的な余剰を最⼤化するためには収容定員を超えない範囲で避難しても らう必要がある。地域を絞って避難勧告等を発令することによって、ある程度避難者数を⾒ 込んだ対応を⾏うことができる。 しかしながら、⾏政も投げやりに全域への避難勧告等を発令しているわけではない。少し でも多くの住⺠に避難してもらうことや、素早い対応が求められることを考慮した判断で あると考える。また、地域を絞って避難勧告等を発令するための客観的な予測技術が整って いない場合や、異動を繰り返す⾏政担当職員の経験不⾜によるところもあると想定される。 そこで、本提⾔を⾏うにあたっては、客観的な予測技術の向上のほか、地⽅公共団体も常 に新しい情報を取り込むとともに、研修等を通じて職員のスキルを向上させる機会を設け ることも必要であると考える。 5.2. 被災リスクの⾼い住⺠の⽕災保険への加⼊義務化 5.2.1. 現状 ここまで、⾏政による情報発信の観点から避難率を向上させるための⽅策を論じてきた が、今回の分析からも情報発信のみで⾶躍的に避難率を向上させるには限界があると考え る。平成 30 年7⽉豪⾬を事例にとっても、⼟砂災害による死者 119 名のうち、94 名が⼟ 砂災害警戒区域内等で被災している5。現状として、危険であることが公表されている地域 に居住していながらも、住⺠は避難所へ避難するインセンティブを持ちづらいのである。 これは、災害救助法や被災者再建⽀援法によって救助費⽤や住宅再建費⽤が賄われるこ とで、避難へのインセンティブが阻害されることがひとつの要因であると考える。 しかしながら、防災の究極の⽬的は⼈的被害を無くすことであり、その際には、避難率を 向上させることや被災した際の事後的な⽀援も重要であるが、そもそも危険な場所に居住 しないことも解決策のひとつであると考える。 5.2.2. 提⾔ そこで、例えば⼟砂災害警戒区域などの被災リスクが⾼いことがすでに公表されている 地域に居住している住⺠については、⽕災保険への加⼊を義務化することを提⾔する。

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⽕災保険への加⼊義務化により危険な地域へ居住することに対するコストが増加するこ とによって、被災リスクが低い場所に居住することのインセンティブを少しでも向上させ ることが狙いである。 また、保険に加⼊してもらう際には、モラルハザードの問題についても検討する必要が ある。今回の場合、例えば被災リスクの低い地域に居住する住⺠と被災リスクの⾼い地域 に居住する住⺠で同じ保険料を設定した場合、被災リスクの⾼い地域に住む住⺠は、リス クと照らし合わせて相対的に安い保険料でサービスを受けることができるため、かえって 被災リスクの⾼い地域に居住するためのインセンティブにもなりかねない。 そこで、この提⾔については新たに災害に関する保険制度を創設するのではなく、既に ⺠間企業で提供されている⽕災保険の利⽤を促進することが望ましいと考える。⺠間企業 が運営主体となることで採算性が求められるため、必然的に被災リスクの⾼い地域に居住 する住⺠にはより⾼い保険料が設定されるはずである。このことにより、モラルハザード の問題へ対応するとともに、被災リスクの低い地域へ居住するインセンティブを持っても らうことができると考える。 また、本提⾔におけるもうひとつの課題は、住⺠の理解である。この点について、再保 険の可能性についても⾔及しておきたい。例えばイギリスでは、⾏政において基⾦を設 け、保険会社が加⼊者に⽀払った保険⾦の⼀部を⽀援している。いわば補助⾦のような仕 組みである。この再保険の⽬的は、⾏政が保険⾦の⼀部を補助することにより、加⼊者の 保険料を安く設定でき、保険の加⼊促進を図ることである。 料⾦設定がいくらであれ、保険料を⽀払うことによる住⺠の負担は⼤きいものと考え る。また、⾏政が政策を実⾏するうえでは住⺠の理解を軽視してはならない。再保険の導 ⼊により、保険料を安く設定し、住⺠への負担を少しでも減らすことを念頭においた政策 実⾏が望ましいと考える。

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6. おわりに(今後の課題について) 本研究では、⾏政による避難勧告等の発令が住⺠の避難⾏動に与える影響に着⽬して経 済学の視点から論理的考察を⾏い、その結果から得られた仮説を実証することで現⾏制度 の課題を明らかにし、効率性の観点からより社会にとって望ましい⽅策を提⾔した。 特に本稿では、⾏政から発信される「情報の正確性」を向上させることで住⺠の避難⾏ 動を促進させることができることを主張している。しかしながら、本⽂でも触れたとお り、現在の災害予測技術では、どの地域にどの程度の被害が⽣じるのかを 100%把握でき るものではない。また、より⾼い精度の予測技術を開発するためには、多くの時間と費⽤ がかかるものと思われる。ただし、そのような状況でも⾃然災害は待ってはくれない。客 観的な予測技術が⼗分でないなかで⾃然災害により被災する可能性のある住⺠が少しでも 多く避難⾏動をとるためには、現場担当者の意思決定が⼤きく影響すると考えられる。本 研究の分析では触れなかったこととして、避難情報を発信する実務担当者がどのような過 程で意思決定をとっているのかといった実態把握や気象庁などの予測現場との連携の実情 を精査することがある。これらを今後の研究課題とすることで、より現場レベルでの有意 義な分析結果が得られることが期待される。 また、本研究では主に⾏政の⽴場から分析を⾏っているが、マスメディア等の報道によ る情報発信の影響や町内会などの住⺠が主体となった防災活動についても研究の余地があ る。 7. 謝辞 本稿の執筆にあたっては、まちづくりプログラムディレクターの福井秀夫教授をはじめ とする多くの先⽣から貴重なご意⾒をいただきました。⼼より感謝申し上げます。 また、ご多忙にも関わらず各種情報提供にご協⼒くださいました⻑崎県危機管理課、⻑ 崎市防災危機管理室の皆様、並びに政策研究⼤学院⼤学にて研究を⾏う機会を与えていた だきました派遣元、研修や調査に際し多くのサポートをいただきました⻑崎県東京事務所 の皆様に深く感謝申し上げます。 最後に、まちづくりプログラムの同期の皆様に対し、この1年間共に勉学に励むなかで 数多くの気づきや発⾒の機会を与えていただきましたことに感謝申し上げます。 なお、本稿における⾒解及び内容に関する誤り等については、全て筆者に帰属します。 また、本稿における考察や提⾔は筆者の個⼈的な⾒解を⽰したものであり、所属機関の ⾒解を⽰すものではないことを申し添えます。

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8. 参考⽂献 ・ 安藤⾄⼤(2013)「ミクロ経済学の第⼀歩」有斐閣 ・ N・グレゴリー・マンキュー・⾜⽴英之ほか編(2014) 「マンキュー経済学−ミクロ編−」東洋経済新報社 ・ 及川康ほか(2016)「避難勧告等の⾒逃し・空振りが住⺠対応⾏動の意思決定に 及ぼす影響」『災害情報』p93-104 ・ 奥村誠ほか(2001)「避難勧告の信頼度と避難⾏動」 『⼟⽊計画学研究・論⽂集』p311-316 ⼟⽊学会 ・ 多⽥洋介(2003)「⾏動経済学⼊⾨」⽇本経済新聞社 ・ 筒井義郎ほか(2017)「⾏動経済学⼊⾨」東洋経済新報社 ・ 廣井脩(1999)「⼟砂災害と避難⾏動」『砂防学会誌』p64-71 ・ 福井秀夫(2007)「ケースからはじめよう 法と経済学」⽇本評論社 ・ 防災⾏政研究会編(2016)「逐条解説 災害対策基本法」ぎょうせい ・ 内閣府「災害救助法の概要」 http://www.bousai.go.jp/taisaku/kyuujo/kyuujo.html ・ 内閣府「被災者再建⽀援法の概要」 http://www.bousai.go.jp/taisaku/seikatsusaiken/shiensya.html ・ 内閣府「避難勧告等に関するガイドラインの改定」 http://www.bousai.go.jp/oukyu/hinankankoku/h30_hinankankoku_guideline/index.h tml ・ 内閣府「防災気象情報と警戒レベル」 https://www.kantei.go.jp/jp/headline/bousai/keihou.html ・ 内閣府「保険・共済による災害への備えの促進に関する検討会」 http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hisaisha_kyosai/index.html

参照

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