富士電機技報 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 2017 Vol.90 N o.4 富士電機技報 第 90 巻 第 4 号(通巻第 896 号) 2017 年 12 月 30 日発行 富士電機技報 第 90 巻 第 4 号(通巻第 896 号) 2017 年 12 月 30 日発行 ISSN 2187-1817
特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
2017
Vol.90 No.
4
特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
地球温暖化防止のため CO2排出抑制への取組みは非常に重要であり, 省エネルギー化をはじめ,太陽光発電や風力発電などの再生可能エネル ギーの拡大,HEV や EV など自動車の電動化が進展しています。その ため,電気エネルギーを効率的かつ安定的に利用するためのパワーエレ クトロニクスにおいて,キーデバイスとしてのパワー半導体への期待は ますます高まっています。富士電機では,多くの分野に向けて,パワー エレクトロニクス装置の小型化や高効率化に寄与するパワー半導体を開 発し,製品化しています。 本特集では富士電機のパワー半導体について,最新の技術および製品 を紹介します。2017
Vol.90 No.
4
① ② ③ ④ ⑤ 表紙写真 ① 第 7 世 代「X シ リ ー ズ 」1,700 V IGBT モ ジ ュ ー ル “PrimePACK™”,② All-SiC 2 in 1 モジュール(タイプ 3L), ③大容量 SiC ハイブリッドモジュール「HPnC」,④車載用 大容量 IGBT モジュール「M660」,⑤第 6.5 世代車載用圧力 センサ目 次
〔現状と展望〕パワー半導体の現状と展望
202
( 4 )藤平 龍彦 ・ 宝泉 徹 ・ 栗原 俊治
SiC トレンチゲート MOSFET 搭載 All
-
SiC モジュール
209
(11)中沢 将剛 ・ 大長 規浩 ・ 辻 崇
〔特集に寄せて〕パワーデバイスと回路トポロジー
201
( 3 ) 伊東 淳一特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
SiC
-
MOSFET のバイポーラ劣化抑制のためのバッファ層技術
214
(16) 俵 武志 ・ 呂 民雅 ・ 宮里 真樹配電機器向け 3.3 kV 耐圧 All
-
SiC モジュール
219
(21) 谷口 克己 ・ 金子 悟史 ・ 熊田 恵志郎第 7 世代「X シリーズ」1,700 V IGBT モジュール“PrimePACK™”
224
(26) 山本 拓也 ・ 吉渡 新一 ・ 岡本 有人大容量 SiC ハイブリッドモジュール「HPnC」
228
(30) 関野 裕介 ・ 三本 孝博 ・ 森谷 友博第 7 世代「X シリーズ」産業用 RC
-
IGBT モジュールの系列化
233
(35) 山野 彰生 ・ 高崎 愛子 ・ 市川 裕章第 6.5 世代車載用圧力センサ
242
(44) 鵜澤 良平 ・ 西川 睦雄 ・ 田中 貴英車載用大容量 IGBT モジュール「M660」
238
(40) 大澤 彰浩 ・ 樋口 恵一 ・ 仲野 逸人第 7 世代「X シリーズ」1,700 V IGBT モジュール“PrimePACK™”
255
(57)3 レベル用 IGBT モジュール I
-
type“PrimePACK™”
258
(60)超高効率モールド変圧器「スーパーエコモルトラⅡ」
260
(62)第 6.5 世代車載用圧力センサ
263
(65)新製品紹介論文
650 V 耐圧 PWM 電源制御 IC「FA8A80 シリーズ」
246
(48) 日朝 信行 ・ 遠藤 勇太 ・ 狩野 太一DFN8×8 パッケージの「Super J MOS S2 シリーズ」
251
(53)「Super J MOS S2FD シリーズ」
島藤 貴行 ・ 渡邉 荘太 ・ 松本 和則略語・商標
266
(68)富士電機技報 vol.90 2017(平成 29 年)総目次
Contents
[Preface] Power Devices and Circuit Topology
201
( 3 )ITOH, Junichi
Power Semiconductors Contributing in Energy Management
2017 Vol.90 No.
4
Power Semiconductors: Current Status and Future Outlook
202
( 4 )FUJIHIRA, Tatsuhiko HOSEN, Toru KURIHARA, Toshiharu
All-SiC Modules Equipped with SiC Trench Gate MOSFETs
209
(11)NAKAZAWA, Masayoshi DAICHO, Norihiro TSUJI, Takashi
Buffer Layer Technology to Suppress Bipolar Degradation in
214
(16)SiC-MOSFETs
TAWARA, Takeshi RYO, Mina MIYAZATO, Masaki
3.3-kV All-SiC Modules for Electric Distribution Equipment
219
(21)TANIGUCHI, Katsumi KANEKO, Satoshi KUMADA, Keishiro
“PrimePACK™” of 7th-Generation “X Series” 1,700-V IGBT Modules
224
(26)YAMAMOTO, Takuya YOSHIWATARI, Shinichi OKAMOTO, Yujin
“HPnC” Large-Capacity SiC Hybrid Module
228
(30)SEKINO, Yusuke MITSUMOTO, Takahiro MORIYA, Tomohiro
7th-Generation “X Series” RC-IGBT Module Line-Up for
233
(35)Industrial Applications
YAMANO, Akio TAKASAKI, Aiko ICHIKAWA, Hiroaki
“M660” High-Power IGBT Module for Automotive Applications
238
(40)OSAWA, Akihiro HIGUCHI, Keiichi NAKANO, Hayato
“PrimePACK™” of 7th-Generation “X Series” 1,700-V IGBT Modules
255
(57)I-Type “PrimePACK™” of 3-Level IGBT Modules
258
(60)“SUPER ECO MOLTRA
Ⅱ” Cast Resin Transformer
260
(62)Achieving Super High Efficiency
6.5th-Generation Automotive Pressure Sensors
263
(65)New Products
6.5th-Generation Automotive Pressure Sensors
242
(44)UZAWA, Ryohei NISHIKAWA, Mutsuo TANAKA, Takahide
“FA8A80 Series” 650-V PWM Power Supply Control ICs
246
(48)HIASA, Nobuyuki ENDO, Yuta KARINO, Taichi
“Super J MOS S2 Series” and “Super J MOS S2FD Series” for
251
(53)DFN 8×8 Packages
SHIMATO, Takayuki WATANABE, Sota MATSUMOTO, Kazunori
Abbreviations and Trademarks
266
(68)特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 長岡技術科学大学 技術科学イノベーション専攻(兼)電気電子情報工学専攻 教授 伊東 淳一 ITOH, Junichi 炭化けい素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を使ったワ イドバンドギャップ半導体の開発が目覚ましい。1.2 kV ク ラスは既に多くのメーカーから製品化され,最近は,高耐 圧を持つ SiC の開発が盛んで,10 kV 耐圧 SiC の適用例も 報告されている。これまで,サイリスタ→ GTO → IGBT への変革が電力変換装置を大きく変えたように,パワーエ レクトロニクスはパワーデバイスの発展とともに大きく進 化してきた歴史がある。 低損失デバイスが出現すると,電力変換装置は飛躍的に 小型化(高パワー密度化)が進む。効率は最大 100% で限 りがあるが,小型化には限りがない。高効率化の恩恵は省 エネルギーと思われることが多いが,95% を超えるよう な高効率の世界では,高効率化に伴うランニングコストの 低減効果は小さい。一方,効率が向上すると低損失化に 伴って冷却を小さくでき,小型,軽量化に大きく寄与する。 高パワー密度化は大きなイノベーションの可能性を秘め ている。例えば,スマートフォンはいくら魅力的なコンテ ンツやサービスがあっても,ポケットにしまえなかった り 1 日電源がもたなかったりしたら,ここまで普及しない だろう。これには,部品,バッテリー,実装をはじめ電力 変換回路の大幅な高パワー密度化技術が大きく貢献してい る。同様に LED 照明や液晶テレビの普及には,見えない ところで電源技術が大きく活躍している。高パワー密度化 によって,開発当初は加工,組立てコストがアップするか もしれないが,最終的に原材料の削減につながり,コスト の削減につながる。 新しいパワーデバイスが出現すると,新しい回路トポロ ジーが生まれるのかが期待される。しかし,もともと電力 変換回路のトポロジーは,抵抗,キャパシタ,インダク タ,スイッチの組合せであり,簡単化されていく流れがあ る。純粋な意味で,これらの新しい組合せは,ほぼ出尽く している感がある。しかし,パワーデバイスの発展により, “昔は実用が難しかった回路”が復活する可能性を秘めて いる。例えば,T タイプ 3 レベルインバータの回路トポロ ジーはずっと昔からあったが,高圧大容量の電力変換装置 ではダイオードクランプ型が主に使用されてきた。しかし, 高耐圧パワーデバイスの導通損失が低下したことや,その コストがインダクタのコストよりも安価になったこと,小 型化,高効率化の要求が格段に高まったことにより,2000 年初頭に実用化された。このように昔とは技術だけでなく, 社会の価値観が変化している。現在,小型化,高効率化の 要求に加え,信頼性(メンテナンスフリー)や,系統連系 やワイヤレス給電など新たな規格への適合が求められるた びに大きな変革をもたらすチャンスである。 ワ イ ド バ ン ド ギ ャ ッ プ 半導体は,高耐圧,低オン抵 抗,低スイッチング損失の特徴がある。また,マイコン, FPGA をはじめとするデジタル制御装置の発展と低コス ト化も目覚ましい。これまでの常識を一回捨てて,新しい 価値観に適合した回路やシステムを新しいパワーデバイス や制御装置で実現できないか,見直してはどうだろう。 例えば,SiC 化により 1,200 V 系のデバイスが当たり前 になれば,1 台で世界中のさまざまな電源電圧に対応する スイッチング電源が当たり前になったように,汎用イン バータも従来別々に対応していた 200 V/400 V の両方の電 圧に共通して対応できるようにするのもよいかもしれない。 また,AC200 V 系の回路に 1,200 V 耐圧のデバイスが適用 できれば,これまで,“パワーデバイスの耐圧が上がるか ら”敬遠されてきた回路が日の目を見るかもしれない。こ のような回路トポロジーの“発掘”や“再発見”がワイド バンドギャップ半導体の発展とともに訪れるであろう。 回路トポロジーの“発掘”や“再発見”は早い者勝ちな ので,いち早く発見できるかどうかにかかっている。こ のような研究開発には,回路だけでなく,パワーデバイ ス,受動部品,冷却,構造などさまざまな知見が必要であ り,特に最適設計を行うにはパワーエレクトロニクスにお けるシステムインテグレーション技術が重要である。これ は,回路トポロジーありきの設計ではなく,コンポーネン ト,サーマルマネジメント,EMC を含めた統合設計技術 である。これを実現する手法はいくつかあるが,いずれも 幅広い知識が必要であり,アンテナを広げて得た知識を整 理することが重要である。自戒の念を込めていうと,特に 目の前の仕事に追われているとなかなか気がつかない。自 分から積極的に交流を広げ,簡単に入手できるインター ネットからの情報だけでなく,自分でいろいろな人から生 きた情報を取ることがますます大事となる。 特集に寄せて
パワーデバイスと回路トポロジー
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
特集 エネルギーマネジメントに
貢献するパワー半導体
Power Semiconductors: Current Status and Future Outlook
まえがき 人口増加と経済成長に伴い,世界のエネルギー消費 量は増加の一途をたどっている。CO2排出量を抑制し て地球の温暖化を防止するため,省エネルギー(省エ ネ)化をはじめ太陽光発電や風力発電などの再生可能 エネルギーの拡大,ハイブリッド自動車(HEV)・電 気自動車(EV)など自動車の電動化などによる低炭 素化も進展している。パワー半導体は,電力の供給・ 制御に欠かすことができない部品であり,エネルギー の効率的な利用による省エネ化や低炭素化を牽引(け んいん)するパワーエレクトロニクス技術における キーデバイスである。 富士電機は,創業以来,エネルギー技術の革新に取 り組んできている。その一つとして,エネルギーを安 定的にかつ最も効率的に利用するため,環境にやさし いパワー半導体を開発して製品化し,安全・安心で持 続可能な社会の実現に向けて貢献している。 本稿では,今後も高い市場成長が見込まれるパワー 半導体の技術および富士電機における製品の現状と展 望について述べる。 パワーモジュール パワーモジュール(* 1)においては,半導体チップの設計 に加え,パッケージの電気設計,放熱設計,絶縁設計, ならびにこれらによって得られた初期の特性が一定期 間保持される長期信頼性設計が重要となる。富士電機 では,技術革新を繰り返し,高機能で大容量,かつ環 境対応といった要求を満足するパワーモジュール開発 を進めてきた。 2 . 1 パワーモジュール製品 図 に,富士電機のパワーモジュール製品の応用例 を示す。家電製品などの小容量用途には,第 2 世代小 容量 IPM (* 2)
(Intelligent Power Module)を製品化して いる⑴。インバータ,ロボット,無停電電源装置(UPS) などの中容量産業用途には,モジュールおよび IPM を製品化しており,第 7 世代チップ技術やパッケー ジ技術を用いた「X シリーズ」が最新の製品である⑵,⑶。 中容量市場では,HEV や EV といった車載向けのモ ジュール,および IPM も製品化してきた⑷。近年では, RC-IGBT ( * 3 )
(Reverse-Conducting Insulated Gate
Bipolar Transistor)を搭載した車載用第 3 世代直接 水冷型パワーモジュールを開発した
⑸
。さらなる小型化, 高信頼性を狙い,第 3 世代直接水冷技術に加えて,従
藤平 龍彦 FUJIHIRA,Tatsuhiko 宝泉 徹 HOSEN,Toru 栗原 俊治 KURIHARA,Toshiharu
パワー半導体の現状と展望
(* 1)パワーモジュール ダイオードやトランジスタといった用途に応じた複 数個のパワー半導体を配線して電気回路を形成した 上でパッケージ化し,使用者の使いやすい形態とし たものである。一つのモジュールの中の素子(通常 は IGBT+ 逆並列接続 FWD)の数に応じて,1 in 1, 2 in 1,6 in 1 などと呼ばれる。パワー素子を制御する 駆動回路も搭載したものは,インテリジェントパワー モジュール(IPM)と呼ばれる。 (* 2)IPMIntelligent Power Module の略である。パワー半導体 素子に加え,駆動回路,保護回路を内蔵したパワーモ ジュールである。回路設計の負担を軽減できる上,専 用の駆動回路を用いることで半導体素子の性能を最大 限に引き出すことができる。 (* 3)RC-IGBT Reverse-Conducting(逆導通)IGBT の略である。モ ジュールにおいて対で使われる IGBT と FWD をワン チップ化した素子である。IGBT 部と FWD 部が交互 に動作するので放熱性に優れ,モジュール内のチップ 数を削減できるため,IGBT モジュールの小型化とパ ワー密度向上につながる。 電 流 電 圧 データ サーバ 家電製品 風力 電鉄 太陽光発電 高耐圧・大容量市場 小容量市場 中容量市場 HEV・EV インバータ ロボット UPS 「X シリーズ」 RC-IGBT パワーモジュール 車載用大容量 IGBT モジュール 小容量 IPM All-SiC モジュール 「X シリーズ」パワーモジュール 電鉄向けパワーモジュール 図 1 パワーモジュールの製品応用例
現状と展望 パワー半導体の現状と展望 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 来のワイヤ配線に替わるリードフレーム配線技術を採 用したモジュールを開発した。また,第 7 世代チップ 技術,パッケージ技術を用いた X シリーズの技術と RC-IGBT 技術とを組み合わせた産業用 RC-IGBT モ ジュールを開発した。 X シリーズを大容量帯に拡大し,電力変換装置のさ らなる小型化や効率化の要求に応えるモジュールを開 発した。また,FWD (* 4)
(Free Wheeling Diode)を低損 失の SiC-SBD
(* 5)
(Schottky Barrier Diode)とし,新規 パッケージを採用していっそうの高効率・高信頼性を 確保し,電鉄用途にも適したハイブリッドモジュール を開発した。 2 . 2 All-SiC モジュール 炭化けい素(SiC (* 6) )は,次世代のパワー半導体材料 として期待されている。SiC は,バンドギャップおよ び熱伝導率がシリコン(Si)の約 3 倍あるため,熱励 起キャリアの減少や発生した熱が拡散しやすいので 高温動作が可能である。さらに,SiC を用いることに より損失を低減できるメリットもある。パワー半導 体のスイッチング損失を小さくするためには IGBT (* 7)
を MOSFET( * 8)(Metal-Oxide-Semiconductor Field
-Eff ect Transistor) に 置 き 換 え る こ と が 有 効 で あ る が,MOSFET では導通損失が大きくなるという問題 があった。SiC は,最大電界強度が Si の 10 倍近くあ ることから,よりデバイスの薄化が可能である。さら に,ドリフト層に高濃度でドーピングできるため,導 通損失が低減できるメリットがある。このため,ス イッチング素子に SiC-MOSFET を採用することによ り,Si-IGBT に比べて損失の低減を図ることができる。 このような SiC の高耐圧,低損失,高温動作といった 優れた性質を生かすことにより,小型・高パワー密度 モジュールの実現が可能となる。富士電機では,これ らの SiC の優れた特徴を引き出すため,従来のパワー モジュールとは構造が大きく異なる銅ピン接合,樹脂 封止技術を用いた All-SiC モジュールを製品化してい る⑹。さらには,配電機器向けなど大容量帯の製品の開 発を行っている。 SiC-MOSFET の寄生ダイオードは,ボディダイオー ドと呼ばれ,通電による特性劣化が問題となるため, SiC-SBD を並列接続して,ボディダイオードへの順 方向電圧を低減する方法が採られてきた。さらなる小 型化や低コスト化のニーズに対応するためには,SiC -SBD を使わずにボディダイオードの通電による特性劣 化を抑制する技術が必要となる。富士電機では,特性 劣化の原因となる基板結晶の積層欠陥の拡大を抑制す る技術の開発に取り組んでいる。 パワーディスクリート・パワー IC パワーディスクリート(* 9)は,ダイオードや MOSFET などのパワー半導体を主に小型の汎用パッケージに搭 載した単機能の素子を指す。 富士電機では,車載用 DC/DC コンバータや充電器 向け,パワーウインドウやパワーステアリング向けな ど自動車用の電子制御部品を広く展開している。ま た,産業や民生分野では,UPS やパワーコンディショ ナ(PCS),サーバ,通信基地局,LED 照明などに使 用される製品を提供している。近年,IoT(Internet of Things)の進展により,PC やサーバといった IT 関連機器に加え,デジタル家電をはじめとするさまざ まな機器がインターネットに接続されるようになって いる。これらの機器に各種通信機能が付加されること で,電源の占有スペースも限られてきている。そのた (* 4)FWD
Free Wheeling Diode の略である。還流ダイオード ともいう。インバータなどの電力変換回路において, IGBT と並列に接続され,IGBT をオフした際にイン ダクタンスに蓄えられたエネルギーを電源側へ還流 させる役割を担うデバイスである。Si の FWD では, PiN ダイオードが主流である。少数キャリアも用いた バイポーラタイプであるため,順方向電流通流時の電 圧降下を小さくできるが,その分,逆回復損失が大き くなる。 (* 5)SBD
Schottky Barrier Diode の略である。金属と半導体と の接合によって生じるショットキー障壁を利用した整 流作用を持つダイオードである。その優れた電気特性 により,SiC-SBD の FWD への適用検討が始まって いる。少数キャリアも利用する PiN(P-intrinsic-N) ダイオードと比較して,多数キャリアのみで動作する SBD は逆回復スピードが速く,逆回復損失も小さい。 (* 6)SiC けい素(Si)と炭素(C)の化合物である。3C,4H, 6H など多くの結晶の構造多形が存在し,構造によっ て 2.2 〜 3.3 eV のバンドギャップを持つワイドギャッ プ半導体として知られる。絶縁破壊電圧や熱伝導率が 高いなどパワーデバイスとして有利な物性を持つた め,高耐圧・低損失・高温動作デバイスが実現できる として実用化が進められている。 (* 7)IGBT
Insulated Gate Bipolar Transistor の略である。ゲー ト部は MOSFET と同じ構造で,酸化物絶縁膜で絶 縁されたゲート部を持つ電圧制御型デバイスである。 MOSFET とバイポーラトランジスタの長所を生かし たものである。バイポーラ動作であるため伝導度変調 を用いることができるので,インバータへの応用に十 分なスイッチング速度と高耐圧・低オン抵抗を両立で きる。 (* 8)MOSFET
Metal-Oxide-Semiconductor Field-Eff ect Transistor
の略である。電界効果トランジスタの一つであり,酸 化物絶縁膜で絶縁されたゲート部を持つ電圧制御型デ バイスである。LSI では最も一般的な構造である。ユ ニポーラ動作であるため高速動作が可能であるが,耐 圧に応じてオン抵抗も上昇するため低耐圧・高周波デ バイスとして用いられる。ゲート部が素子の表面にあ り,チャネルが素子面と平行になるプレーナゲート MOSFET に対し,トレンチゲート MOSFET では素 子に溝を形成してゲート部を溝内に埋め込み,チャネ ルを素子面に対して垂直方向にしている。 (* 9)パワーディスクリート パワー素子の IGBT や MOSFET を 1 素子,またはそ れに逆並列にダイオードが挿入された 1 in 1 と呼ばれ る回路から構成されるパワー半導体である。形状は, 汎用的にピンレイアウトが決まっており,TO-220 や TO-3P などがある。小容量タイプの PC 電源,無停 電電源装置,液晶ディスプレイ,小型モータの制御回 路などに使われている。
現状と展望 パワー半導体の現状と展望 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 め,機器に搭載する電源の小型・薄型化に貢献する半 導体スイッチング素子の需要が高まっている。富士電 機では,従来のプレーナ型のパワー MOSFET に替わ り,損失と耐圧のトレードオフ改善にブレークスルー をもたらしたスーパージャンクション構造⑺を採用した SJ-MOSFET (* 10) 「Super J MOS シリーズ」を提供してき ている⑻,⑼。最新のシリーズに対し,さらに小型で薄型の 面実装タイプ品の開発を進めている。 パワー IC(* 11)製品としては,情報通信機器や薄型 TV といった民生機器向けに電源 IC を製品化している。ま た,車載用途としてはエンジン,トランスミッション, ブレーキなどの電装システム向けに IPS(Intelligent Power Switch)や圧力センサを製品化している。 省エネや環境対応のため自動車の電動化が進展して いるが,ガソリンエンジン車,ディーゼルエンジン車 においても,低燃費化や大気汚染物質排出量の低減 が求められており,圧力センサが貢献している。吸気 系では低燃費のために,圧力センサを使って空気と燃 料の混合比を高度に制御している。また,排気系では, 排出ガスのクリーン化のために,圧力センサを使って 燃焼後のガスを再循環する量を高度に制御している。 吸気系や排気系に,大気以外に混入する排出ガスなど に対する耐腐食性,電荷を持つ気化燃料に対する耐帯 電性が求められている。また,燃料タンクからの漏れ を検出する圧力センサも用いられている。 富士電機では 1984 年に車載用圧力センサの量産を 開始し,これまで国内外の自動車に採用されている。 2010 年からは,デジタルトリミング型の第 6 世代圧 力センサを量産している ⑽ 。さらに,この第 6 世代圧力 センサをベースにして,省エネ,環境対応ニーズに対 応した耐腐食性能・耐帯電性能の付与,高温動作保証, 小型化を実現した第 6.5 世代車載用圧力センサを開発 した。 パワー半導体の開発状況 富士電機のパワー半導体の開発状況について概要を 述べる。詳しくは本稿に続く各論文を参照されたい。
4 . 1 SiC トレンチゲート MOSFET 搭載 All-SiC モ
ジュール 富士電機では,これまで,銅ピン接合と樹脂封止技 術を用い,定格容量 1,200 V/100 A までの All-SiC モ ジュールを開発してきた。さらに容量を拡大するた めに,新構造パッケージを開発した。本パッケージ に,低オン抵抗と高速スイッチング特性を兼ね備え た SiC トレンチゲート MOSFET を搭載し,定格容 量 1,200 V/400 A の All-SiC 2 in 1 モジュールを実現し た(表 )。本パッケージでは,大電流動作に対応す るために,主端子にはねじ端子を採用し,主回路配線 には低インダクタンス化が可能なラミネートブスバー を採用した。また,本パッケージの構造は,絶対最大 定格電圧 1,700 V までの拡張を可能としている。開発 した All-SiC モジュールは Si-IGBT モジュールに対し,
ターンオン損失を約 87%,ターンオフ損失を約 74%, 逆回復損失を約 95% 低減した。これにより,総スイッ チング損失を約 84% 低減することができる(209 ペー ジ“SiC ト レ ン チ ゲ ー ト MOSFET 搭 載 All-SiC モ
ジュール”参照)。 4 . 2 SiC-MOSFET のバイポーラ劣化抑制のための バッファ層技術 SiC-MOSFET の寄生ダイオードであるボディダイ オードに通電すると,SiC エピタキシャル層中に積層 欠陥が拡大し,素子抵抗が増大する。この現象はバイ ポーラ劣化と呼ばれている。積層欠陥は,バイポーラ 動作により起こるホールと電子の再結合のエネルギー が基板界面近傍の積層欠陥に与えられることで拡大す る⑾。そこで,エピタキシャル層と基板の界面にホール キャリア寿命の短いバッファ層を挿入し,この層で大 (* 10)SJ-MOSFET ドレイン,ソース電極が素子の対向面に形成される縦 型パワー MOSFET において,従来は低濃度の n 層で ドリフト層を形成していた。これに対し,ドリフト層 を周期的な pn カラム構造にしたものが,スーパージャ ンクション(SJ)-MOSFET である。SJ-MOSFET は, 従来の MOSFET と比較して,素子のRon・A 耐圧と オン抵抗のトレードオフ特性を大幅に改善することが できる。 (* 11)パワー IC パワー素子と制御・保護回路を一つの半導体チップ 上に集積した高耐圧 IC である。パワーエレクトロニ クス機器の小型化や低消費電力化が可能となり,産 業,車載, 民生の各用途に応じて数十 V クラスから 1,200 V クラスまでのものが製品化されている。 表 1 All-SiC 2 in 1 モジュールのラインアップ 項 目 タイプ1 タイプ2 タイプ3L 外形寸法(mm) W68 × D 26 × H 13 W68 × D 26 × H 13 W126 × D 45 × H 13 外 観 定 格 電圧(V) 1,200 電流(A) 25, 50 75, 100 200, 300, 400 端 子 主端子 ソルダーピン ねじ端子 補助端子 ソルダーピン 接続先 主端子 プリント基板 ブスバー 補助端子 プリント基板
現状と展望 パワー半導体の現状と展望 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 部分の再結合を起こさせることで,基板欠陥近傍での 再結合を減少させることを試みた。その結果,バッ ファ層の導入により積層欠陥の拡大は抑制され,バイ ポーラ劣化を起こさなくなることが確認できた(214 ページ“SiC-MOSFET のバイポーラ劣化抑制のため のバッファ層技術”参照)。 4 . 3 配電機器向け 3.3 kV 耐圧 All-SiC モジュール 富士電機では,2014 年 9 月から国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプ ロジェクトである“分散型エネルギー次世代電力網構 築実証事業”に参画し,太陽光発電を中心とした再生 可能エネルギーの導入拡大および電力・機器システム 産業における国際競争力の維持・向上に資することを 目的として,SiC パワー半導体を用いた次世代電圧調 整機器(配電機器)およびその制御システムの開発を 行っている。 SiC パワー半導体を用いた次世代の配電機器向けと して 3.3 kV 耐圧 All-SiC モジュールを開発した(表 )。 この All-SiC モジュールでは,Si-IGBT モジュールに
対してインバータ発生損失を 64% 低減したことによ り,従来の Si-IGBT モジュールではサイズの制約上 不可能であった単柱に装柱可能な配電機器が実現でき る。また,モジュール構造として富士電機が既に量産 している 1.2 kV 耐圧モジュールのコンセプト(銅ピン 接合,樹脂封止構造)を用い,Si-IGBT に比べて 120 倍以上のパワーサイクル耐量を持ち,配電機器向けと して十分な耐量を実現した(219 ページ“配電機器向 け 3.3 kV 耐圧 All-SiC モジュール”参照)。 4 . 4 第 7 世 代「X シ リ ー ズ 」1,700 V IGBT モ ジュール“PrimePACK™ 〈注〉 ” 電力変換装置の高効率化,小型化,高信頼性化に 応えるために,第 7 世代「X シリーズ」1,700 V IGBT モジュール“PrimePACK™”を開発した(表 )。従 来製品と比べて,IGBT においては,微細化技術と薄 ウェーハ技術により,ターンオフ損失を約 11% 改善 した。FWD においては,ドリフト層を薄くするとと もにライフタイム制御の最適化により逆回復損失を 約 16% 改善した。これにより,消費電力を約 13.8% (キャリア周波数 1 kHz)低減し,電力変換装置の高効 率化を実現した。また,パッケージにも第 7 世代の技 術を適用し,同型パッケージで従来品「V シリーズ」 の最大定格電流 1,400 A に対して 1,800 A 品を製品化 し,最大定格電流を約 29% 拡大することにより,業 界トップクラスの定格電流を実現した。さらに,連続 動作時接合温度Tvjopの 175 ℃化を実現した(224 ペー ジ“第 7 世代「X シリーズ」1,700 V IGBT モジュール “PrimePACK™”参照)。 4 . 5 大容量 SiC ハイブリッドモジュール「HPnC」 富士電機では,電力変換装置の大容量化かつ小型化 の要求に対応し,電鉄用途にも適した大容量 SiC ハイ ブリッドモジュール「HPnC」を開発している。HPnC で は 第 7 世 代 X シ リ ー ズ IGBT チ ッ プ と SiC-SBD チップを採用したハイブリッドモジュールのライン
〈注〉PrimePACK ™: Infi neon Technologies AG の商標または 登録商標 表 3 X シリーズ PrimePACK™のラインアップ パッケ ージ 定 格 型 式 Tvjop 電 圧 電 流 M271 1,200 V 900 A 2MBI900XXA120P-50 175 ℃ 1,200 A 2MBI1200XXE120P-50 1,700 V 900 A 2MBI900XXA170-50 1,200 A 2MBI1200XXE170-50 M272 1,200 V 1,400 A 2MBI1400XXB120P-50 1,800 A 2MBI1800XXF120P-50 1,700 V 1,000 A 2MBI1000XXB170-50 1,400 A 2MBI1400XXB170-50 1,800 A 2MBI1800XXF170-50 約 40 % 改善 従来品 出力電流:450 A C:5 kHz 4,441 SiC ハイブリッド 出力電流:450 A C:5 kHz rr f off on sat 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 インバータ発生損失(W) 2,676 図 2 インバータ発生損失シミュレーション結果 表 2 3.3 kV 耐圧 All-SiC モジュール 外形寸法 W98×D65×H21(mm) 定 格 3,300 V/200 A モジュール構成 1 in 1 外 観
現状と展望 パワー半導体の現状と展望 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 アップを検討している。パッケージは他社モジュール との取付け互換性を確保しつつ,従来モジュールであ る HPM(High Power Module)と比較して低インダ クタンス化によるサージ電圧の抑制,さらなるスイッ チングスピードの高速化や並列接続による大電流化 に対応するとともに,端子接合に超音波接合を採用 して RoHS 指令にも対応した。IGBT チップの特性改 善,SiC-SBD チップの採用により,インバータ発生損 失を従来品から約 40% 改善できることを確認した(図 )(228 ページ“大容量 SiC ハイブリッドモジュール 「HPnC」”参照)。 4 . 6 第 7 世 代「X シ リ ー ズ 」 産 業 用 RC-IGBT モ ジュールの系列化 富士電機では,第 7 世代のチップ技術とパッケージ 技術を組み合わせた X シリーズにおいて,RC-IGBT を搭載した産業用モジュールの系列化を進めている。 RC-IGBT は IGBT と FWD をワンチップ化すること により,チップ数,素子面積の低減や放熱性の増大を 図ることができる。さらに,X シリーズのパッケージ 技術により熱抵抗を大幅に下げた。これにより,X シ リーズ RC-IGBT モジュールでは接合温度上昇ΔTvjを 大幅に下げ,ΔTvjパワーサイクル耐量が劇的に向上し た。従来と同等のパワーサイクル耐量の場合では高出 力化を,同等の出力の場合では高信頼性化を図ること ができる。この X シリーズ RC-IGBT モジュールの特 長を生かし,定格電流を従来の 600 A から 1,000 A ま で拡大した X シリーズ「Dual XT」を開発した(表 ,表 )(233 ページ“第 7 世代「X シリーズ」産業 用 RC-IGBT モジュールの系列化”参照)。 4 . 7 車載用大容量 IGBT モジュール「M660」 HEV や EV の電気モータを動作させるインバータに おいて,重要なキーコンポーネントの一つが IGBT モ ジュールである。車載用 IGBT モジュールには,バッ テリ電力を効率よく利用するための低損失化に加え, 限られたスペースに搭載するために小型・軽量化など が求められる。また,一般産業用途よりもさらに高 い信頼性が求められる。これに加えて,大容量化も 同時に実現しなければならない。そこで,富士電機は, 他 社 に 先 駆 け て 直 接 水 冷 方 式 を 用 い た 車 載 用 大 容 量 IGBT モジュールを開発している。車載用大容量 IGBT モジュール「M660」においては,内部配線に 従来のワイヤに替わりリードフレームを採用した(図 )。また,樹脂封止構造とすることにより,製品の 小型化とパワーサイクル耐量の向上を行った。さらに, 従来よりも特性を改善した RC-IGBT チップの採用と ウォータージャケット一体型冷却構造の最適化により, 汎用 6 in 1 IGBT モジュールとしては世界最大容量の 定格 750 V/1,200 A を実現した(238 ページ“車載用大 容量 IGBT モジュール「M660」”参照)。 4 . 8 第 6.5 世代車載用圧力センサ 圧力センサは,自動車の環境負荷を低減するための エンジンマネジメントを高精度化し,燃費効率を向上 するためのキーデバイスの一つである。富士電機では 第 6 世代圧力センサをベースに,耐腐食性能や耐帯電 性能を向上し,150 ℃の動作を保証しつつパッケージ サイズを小型化した第 6.5 世代車載用圧力センサを開 発した(図 )。すすなどの外来異物からセンサチッ プやワイヤを保護するためにゲル状保護材で被覆して いる。しかし,排出ガス,ガソリンおよび軽油の気化 燃料は,この保護材を透過してチップ表面のボンディ 表 4 「Dual XT」のラインアップ 定格電圧 1,200 V 定格電流(A) 225 300 450 600 800 900 1,000 Dual XT VシリーズIGBT+ VシリーズFWD XシリーズIGBT+XシリーズFWD XシリーズRC-IGBT 表 5 「Dual XT」の特徴 定格電圧 1,200 V
代表型式 2MBI600 VN-120-50 2MBI800XNE120-50 2MBI1000XRNE120-50 シリーズ名 第6世代Vシリーズ IGBTモジュール 第7世代Xシリーズ IGBTモジュール 第7世代Xシリーズ RC-IGBTモジュール チップ VシリーズIGBT+VシリーズFWD XシリーズIGBT+XシリーズFWD XシリーズRC-IGBT 熱抵抗:Rth(j-c)(a.u.) 1/1.5 (IGBT/FWD) 0.85/1.1 (IGBT/FWD) 0.55/0.55 (IGBT/FWD) U U N P N P (a)ワイヤボンディング接続 (b)リードフレーム構造 図 3 ハーフブリッジ回路内部レイアウトの例
現状と展望 パワー半導体の現状と展望 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 ングパッドを腐食することがある。そこでこの腐食を 防ぐために,腐食防止部を採用した。また,圧力を電 気信号に変えるピエゾ抵抗体を配置したダイヤフラム の可撓(かとう)部に対し,ポリシリコンを用いた シールド構造を採用し,構造を最適化することにより 帯電粒子の付着によるピエゾ抵抗値の変動を抑制し て耐帯電性を向上させた。さらに,回路ブロックの 温度特性の最適化を図ることにより,高温動作領域に おける特性の悪化を抑制し,高温動作保証温度を従来 製品の 125 ℃から 150 ℃まで上げた。このように,耐 腐食性,耐帯電性の付与,保証温度の高温化を図りつ つ,パッケージサイズは第 6 世代品に対し,体積比で 約 48% に低減させた(242 ページ“第 6.5 世代車載用 圧力センサ”参照)。 4 . 9 650 V 耐 圧 PWM 電 源 制 御 IC「FA8A80 シ リーズ」 電子機器向けのスイッチング電源においては,高効 率化,低待機電力化および小型化が求められている。 加えて,新興国などでは,経済の発展に伴い電子機器 の普及が進んでいる一方で,電源事情が不安定な場合 がある。そのため,電源ラインからの高いサージに対 する耐量の確保など安全性向上の要求がますます強く なっている。 富士電機はこれまでに,高効率で,かつ低待機電 力 機 能 を 内 蔵 し た 小 型 パ ッ ケ ー ジ(SOP-8:Small Outline Package)のスイッチング電源制御用カレン トモード PWM(* 12)-IC「FA8A60 シリーズ」を製品化し ている。今回,FA8A60 シリーズの優れた特徴を保 持しつつ,新たに電源装置の小型化や,安全性を向 上する機能を内蔵した 650 V 耐圧 PWM 電源制御 IC 「FA8A80 シリーズ」を開発した。FA8A60 シリーズ をベースに,AC 電源に接続される高圧入力端子の最 大印加電圧を 500 V から 650 V へと高耐圧化させると 同時に,起動素子(VH)端子の ESD(静電気放電) 耐量を 2 kV に改善することによりサージ耐量を向上 させた(表 )。 加えて異常時に電源動作を停止させる異常検出信号 入力(LAT)端子の特性改善により,IC の保護対策 部品を削減でき電源装置の小型化につながる(246 ペー ジ“650 V 耐 圧 PWM 電 源 制 御 IC「FA8A80 シ リ ー ズ」”参照)。 4 . 1 0 DFN8×8 パッケージの「Super J MOS S2 シリーズ」「Super J MOS S2FD シリーズ」 エネルギー消費の増加に伴い,電気機器における電 力変換部の高効率化が求められている。加えて,電気 機器の設置スペースを確保するため電力変換部の小型 化も重要な要求の一つである。富士電機では,搭載機 器の消費電力削減に貢献する素子の低損失化の要求に 応えるために「Super J MOS シリーズ」を提供して きている。最新シリーズである「Super J MOS S2 シ リーズ」(S2 シリーズ)および S2 シリーズの寄生ダ イオードを高速化した「Super J MOS S2FD シリー ズ」(S2FD シリーズ)において,従来の D2-PACK パッケージよりも小型で薄型の面実装タイプである DFN8×8 パッケージを系列に加えた(図 )。DFN8 ×8 パッケージはリード端子を持たない表面実装用の (* 12)PWM
Pulse Width Modulation(パルス幅変調)の略である。 スイッチング素子を用いた電力制御の方式の一つであ る。DC 入力に対し,一定周波数でオン・オフを繰り 返し,オンの時間幅を変化させることで出力を変化さ せる。インバータで DC-AC 変換を行う際などに一般 的に用いられている。 (a)第 6.5 世代 (b)第 6 世代 図 4 車載用圧力センサ 表 6 「FA8A80 シリーズ」の機能概要 項 目 FA8A80シリーズ FA8A60シリーズ 起動素子 内 蔵 高圧入力端子最大印加電 圧 650 V 500 V 高圧入力端子ESD耐量 (HBM) ±2 kV +1 kV/−2 kV LAT端子最大シンク電 流 500 µA 100 µA 外部ラッチ機能 内 蔵 スイッチング周波数低減 機能 内 蔵 周波数低減状態設定機能 内 蔵 バースト動作調整機能 内 蔵 過負荷保護レベル 交流入力電圧補正機能 内 蔵 パワーオフモード 内 蔵 待機電力(無負荷時) 30 mW以下
現状と展望 パワー半導体の現状と展望 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 構造であり,D2-PACK のようなリード端子を持った パッケージよりもプリント基板への高密度実装が可能 である。DFN8×8 パッケージは D2-PACK と比べて, 実装面積を 58%,パッケージ高さを 81%,パッケージ 体積を 92% それぞれ減少できる。さらに,D2-PACK 品に対して単位実装面積当たりのオン抵抗を 52% 低 減し,単位実装体積当たりのオン抵抗は 91% 低減し ている。また,サブソース端子を設けることにより, ゲート駆動回路からソース配線のインダクタンスの影 響を取り除くことが可能であるため,標準的な 3 端子 パッケージ品である TO-220 と比較してスイッチング 損失を 30% 低減している。そのため,従来のパッケー ジ製品よりも電源の高周波動作が可能となり,電源の 小型化・高電力密度化への貢献が期待できる(251 ペー ジ“DFN8×8 パッケージの「Super J MOS S2 シリー ズ」「Super J MOS S2FD シリーズ」”参照)。 あとがき 富士電機は,創業以来,エネルギー技術の革新に取 り組んできており,経営方針として“エネルギー・環 境技術の革新により,安全・安心で持続可能な社会の 実現に貢献”を掲げている。パワーエレクトロニクス 技術は,ますますニーズが高まる省エネルギー化,低 炭素化,環境保全を牽引(けんいん)するものであり, このキーデバイスであるパワー半導体の技術革新を通 じて,持続可能な社会の実現に貢献していく所存であ る。 参考文献 ⑴ 手塚伸一ほか. 第2世代小容量IPMの系列化. 富士電機 技報. 2016, vol.89, no.4, p.261-265. ⑵ 川端潤也ほか. 第7世代「Xシリーズ」IGBTモジュール. 富士電機技報. 2015, vol.88, no.4, p.254-258.
⑶ Thomas Heinzel. et al. “The New High Power Density 7th Generation IGBT Module for Compact
Power Conversion Systems”, Proc. PCIM Europe 2015.
⑷ 郷原広道ほか. ハイブリッド自動車用IPMパッケージ 技術. 富士電機技報. 2013, vol.86, no.4, p.258-262. ⑸ 荒井裕久ほか. 車載用第3世代直接水冷パワーモジュー ル. 富士電機技報. 2015, vol.88, no.4, p.269-273. ⑹ 仲村秀世ほか. All-SiCのパッケージ技術. 富士電機技 報. 2015, vol.88, no.4, p.241-244.
⑺ Fujihira, T. “Theory of Semiconductor Superjunction
Devices”, Jpn. J. Appl. Phys, vol.36, p.6254-6262.
⑻ 渡 邉 荘 太 ほ か. 第2世 代 低 損 失SJ-MOSFET「Super
J MOS S2 シリーズ」. 富士電機技報. 2015, vol.88, no.4,
p.292-295. ⑼ 渡邉荘太ほか. 高速ダイオードを内蔵した第2世代低損 失SJ-MOSFET「Super J MOS S2FD シリーズ」. 富士電 機技報. 2016, vol.89, no.4, p.289-293. ⑽ 西川睦雄ほか. 第6世代小型圧力センサ. 富士時報. 2010, vol.83, no.6, p.420-424.
⑾ Maeda, K. et al. Mater. Sci. Forum 725(2012)35.
藤平 龍彦 電子デバイスの研究開発に従事。現在,富士 電機株式会社電子デバイス事業本部開発統括 部長。工学博士。電気学会会員,応用物理学 会会員,日本金属学会会員,IEEE 会員。 宝泉 徹 パワー半導体の経営全般に従事。現在,富士 電機株式会社執行役員,電子デバイス事業本 部副本部長。電気学会会員。 栗原 俊治 電子デバイスの生産部門に従事。現在,富士 電機株式会社電子デバイス事業本部生産統括 部長。 8 15.24 10 (単位:mm) ゲート ゲート リード端子 サブソース ソース ドレイン (裏面) ドレイン (裏面) ソース t:0.85 t:4.5 8 (a)DFN8×8 パッケージ (b)D2-PACK パッケージ 図 5 DFN8×8 パッケージの外観
特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 まえがき 地球温暖化などの環境問題への対応や低炭素社会の実現 のためには,電力変換機器の省エネルギー(省エネ)化や 再生可能エネルギーの積極的な活用が必要である。効率的 な電力変換において重要な役割を担っているのが,パワー 半導体である。これまで,半導体材料として主流であった シリコン(Si)を使用した半導体デバイスは,特性改善が 進められているものの,既にその材料物性に基づく理論的 特性限界に近づいている。そこで,次世代半導体材料とし てワイドバンドギャップ半導体である炭化けい素(SiC) が注目されている。SiC デバイスは,Si デバイスよりも大 幅に低損失化が可能であるため,さらなる省エネ化への貢 献が期待されている。 富士電機は,2013 年に松本工場にて図 に示す業界初 の 6 インチ SiC ウェーハを適用した製造ラインの稼動を 開始した。2014 年には,メガソーラー用パワーコンディ
ショナ(PCS:Power Conditioning System⑴)の昇圧回路 向 け に,SiC-MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor
Field-Eff ect Transistor) と SiC-SBD(Schottky Barrier
Diode)を組み合わせた All-SiC チョッパモジュールを開
発し,生産を開始した。この All-SiC チョッパモジュール は,世界最高レベルである 98.8% の変換効率を達成する とともに,従来の PCS に比べて約 60% の小型化に貢献し ている。さらに,2016 年には All-SiC 2 in 1 モジュールを 開発し,その低損失,高温動作保証,高信頼性,低熱抵抗 という特長を生かし,全閉自冷タイプインバータ(IP65 インバータ)を実現した⑵。 既 に 富 士 電 機 で は, 最 大 定 格 容 量 が 1,200 V/100 A の All-SiC モジュールを開発した ⑶ 。パワーモジュールの容量 のさらなる拡大への要求に応えるために,大容量の新構造 パッケージを開発している。本パッケージに,低オン抵抗 と高速スイッチング特性を兼ね備えた第 1 世代 SiC トレン チゲート MOSFET を搭載し,定格容量 1,200 V/400 A の All-SiC 2 in 1 モジュールについて述べる。 All-SiC 2 in 1 モジュールのラインアップ 表 に,All-SiC 2 in 1 モジュールのラインアップを示す。 定格電流ごとにタイプ 1,タイプ 2,タイプ 3 L の新構造 パッケージをラインアップしている。これまでの最大定格 であるタイプ 2 モジュールの 1,200 V/100 A に対し,新た に開発した大容量タイプ 3 L パッケージを採用し,最大定 格 1,200 V/400 A 2 in 1 モジュールを実現した。
SiC トレンチゲート MOSFET 搭載 All-SiC モジュール
中沢 将剛 NAKAZAWA,Masayoshi 大長 規浩 DAICHO,Norihiro 辻 崇 TSUJI,Takashi
All-SiC Modules Equipped with SiC Trench Gate MOSFETs
電力変換装置のさらなる高効率化,小型化,大容量化の要求に対し,これを実現する SiC モジュールの製品化への期待 が高まっている。富士電機は,これまで独自の新構造パッケージにて,定格容量 1,200 V/100 A までの All-SiC モジュール
を製品化してきた。この新構造パッケージは,SiC モジュールの高性能化や高信頼性を実現している。今回,定格容量を拡 大するため,新たに大容量新構造パッケージを開発した。本パッケージに,低オン抵抗と高速スイッチング特性を兼ね備 えた SiC トレンチゲート MOSFET を搭載することにより,定格容量 1,200 V/400 A の All-SiC モジュールを実現した。
There are increasing expectations placed on products that utilize SiC modules to achieve higher effi ciency, smaller size and larger capac-ity in power conversion equipment. Fuji Electric has been producing products that incorporate All-SiC modules with a rated capaccapac-ity of up to 1,200 V/100 A in a package with a new structure. This package achieves higher performance and higher reliability for SiC modules. In order to expand the rated capacity, Fuji Electric has recently developed a large-capacity package with a new structure. This new package utilizes an All-SiC module with a rated capacity of 1,200 V/400 A, being equipped with a SiC trench gate MOSFET that achieves both low on-resistance and high-speed switching characteristics.
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SiC トレンチゲート MOSFET 搭載 All-SiC モジュール
All-SiC モジュールの要素技術 3 . 1 大容量新構造パッケージ All-SiC モジュール用に開発した新構造パッケージと, Si-IGBT モジュール用の従来構造パッケージの比較を図 に示す⑷。従来パッケージでは,配線にはアルミニウムボン ディングワイヤを,絶縁用の封止樹脂にはシリコーンゲル 樹脂を,絶縁基板には薄銅セラミックス絶縁基板を採用 していた。これに替わり,新構造パッケージでは,配線に はインプラントピンを,封止樹脂には高耐熱エポキシ樹脂 を,絶縁基板には厚銅セラミックス絶縁基板を採用してい る。これにより,SiC チップを多数並列接続した高密度実 装,内部のインダクタンスの低減,低熱抵抗化,高信頼性 を実現している。 これらの技術を基にした大容量新構造パッケージの開発 ポイントは,次に示す 3 点である。 ⒜ 主端子とラミネートブスバーとの容易な接続 ⒝ 補助端子とプリント基板との容易な接続 ⒞ 端子間,対地間絶縁距離の確保と低インダクタンス の両立 入力側の電源とパワーモジュールとを接続し,低インダ クタンスとするためには,ラミネートブスバーが望ましい。 ラミネートブスバーとパワーモジュールとの接続に用いら れるねじ端子構造を,今回の大容量新構造パッケージにも 採用した。このねじ端子構造は,外部端子とその上部に位 置するねじ穴のついた銅バーとをレーザ溶接によって接合 することで実現している。 また,高速・高周波スイッチングのためには,ゲート− ソース間の配線のインダクタンスを小さくする必要がある。 このため,補助端子は回路基板をはんだ付で直接接続でき るソルダーピンとし,ゲートドライバ回路をモジュールの 直近に配置できるようにした。 加えて,絶縁性は IEC 60077, IEC 62497 に準拠し,絶 対最大定格電圧を 1,700 V まで拡張可能な外形にするため には,十分な絶縁距離を確保する必要があるが,パッケー ジが大型化してしまうという問題があった。また,電流の 高速遮断時のサージ電圧を抑制するためには,モジュール の内部インダクタンスは小さくなければならないという課 題があった。そこで,本パッケージは,これまでのタイプ 2 パッケージと同様の低背型の外形にすることにより,十 分な絶縁距離を確保するとともに主回路経路を短縮し,低 インダクタンス化を図った。 3 . 2 1,200 V 定格耐圧 SiC トレンチゲート MOSFET 富士電機はこれまで,プレーナゲート MOSFET を搭載 した All-SiC モジュールを製品化してきた。一般的に,プ レーナゲート MOSFET のさらなる単位面積当たりのオン 抵抗を低減するためには,セルピッチの微細化が有効であ る。しかし,過度に微細化すると JFET(Junction Field
-Eff ect Transistor)抵抗が増加してしまい,オン抵抗も下 げ止まってしまう。 そこで,トレンチゲート MOSFET にすることにより, 微細化による JFET 抵抗成分の増加を抑えることができ, 低オン抵抗化が可能となる。図 に,今回開発した SiC ト レンチゲート MOSFET の断面構造と,チップの外観を示 す⑸。 低オン抵抗化と誤動作しない高いしきい値電圧とを両立 するために,セルピッチの微細化と,チャネル長の最適化 を行った。さらに酸化膜の信頼性を向上させるために,ト レンチ底のゲート酸化膜を p ウェルで囲い,ゲート酸化 膜への高い電界を緩和した。さらに,図 に示すように, トレンチ底の p ウェル(図中 A)とソースに接続した p ウェル(図中 B)とで挟まれた JFET 領域(図中 C)を最 適化した。 表 1 All-SiC 2 in 1 モジュールのラインアップ 項 目 タイプ1 タイプ2 タイプ3L 外形寸法(mm) W68 × D 26 × H 13 W68 × D 26 × H 13 W126 × D 45 × H 13 外 観 定 格 電圧(V) 1,200 電流(A) 25, 50 75, 100 200, 300, 400 端 子 主端子 ソルダーピン ねじ端子 補助端子 ソルダーピン 接続先 主端子 プリント基板 ブスバー 補助端子 プリント基板 外部端子 高耐熱エポキシ樹脂 シリコーンゲル 端子 金属ベース セラミックス絶縁基板 パワーチップ アルミニウムワイヤ 端子ケース SiC-MOSFET SiC-SBD 銅ピン パワー 基板 セラミックス 絶縁基板 (b)従来構造パッケージ (a)新構造パッケージ 図 2 パッケージの構造比較
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前述したトレンチゲート MOSFET の採用と各種パラ メータの最適化により,世界最高レベルのオン抵抗 3.5 mΩ・cm2 , し き い 値 電 圧 5 V の 1,200 V 定 格 耐 圧 SiC -MOSFET を実現した。 1,200 V/400 A All-SiC 2 in 1 モ ジ ュ ー ル の特性 4 . 1 出力特性 大容量新構造パッケージにトレンチゲート MOSFET を 搭 載 し た All-SiC モ ジ ュ ー ル(1,200 V/400 A 定 格 品 ) と 比 較 す る た め に 第 7 世 代「X シ リ ー ズ 」Si-IGBT モ ジュール(1,200 V/450 A 定格品⑹)の出力特性を図 に示す。 MOSFET は IGBT のようなビルトイン電圧がないので, All-SiC モジュールの連続運転時の定常損失は Si-IGBT モ
ジュールよりも低い。 4 . 2 スイッチング特性 図 に,All-SiC モジュールのターンオン,ターンオフ, 逆回復時のスイッチング波形を示す。誤動作なく安定した 波形を示している。 (a)断面構造 (b)外 観 ゲート ソース ドレイン ソース電極 p ベース SiO2 n+ 基板 n−ドリフト層 n+ p+ C A C n+ p+ p ベース p+ n n p+ B B ゲー ト p+ 図 3 SiC トレンチゲート MOSFET の断面構造とチップの外観 連続運転時 0 1.0 2.0 3.0 4.0 オン電圧 on(V) 100 150 200 250 300 350 400 50 0 出力電流 o (A) vj=175 ℃, Si-IGBT モジュール: GE=+15 V All-SiC モジュール: GS=+20 V Si-IGBT モジュール 450 A 定格品 All-SiC モジュール 400 A 定格品 図 4 出力特性比較 ターンオン ターンオフ 逆回復 GS:10 V/div D :200 A/div F :200 A/div :200 ns/div :200 ns/div :200 ns/div DS:200 V/div vj=175 ℃, CC=600 V, D=400 A, GS=+20 V/−3 V, g (on/off)=11 Ω GS:10 V/div D :200 A/div DS:200 V/div R :200 V/div 図 5 All-SiC モジュールのスイッチング波形(1,200 V/400 A) 0.1 1 10 100 ゲート抵抗 G(Ω) 300 50 100 150 200 250 0 ターンオン損失 on (mJ/pulse) vj=175 ℃, CC=600 V, D=400 A, Si-IGBT モジュール: GE=+15 V/−15 V All-SiC モジュール: GS=+20 V/−3 V 推奨ゲート抵抗 Si-IGBT モジュール 450 A 定格品 All-SiC モジュール 400 A 定格品 約 87 % 低減 図 6 ターンオン損失 0.1 1 10 100 ゲート抵抗 G(Ω) 300 50 100 150 200 250 0 ターンオフ損失 off (mJ/pulse) vj=175 ℃, CC=600 V, D=400 A, Si-IGBT モジュール: GE=+15 V/−15 V All-SiC モジュール: GS=+20 V/−3 V 推奨ゲート抵抗 Si-IGBT モジュール 450 A 定格品 All-SiC モジュール 400 A 定格品 約 74% 低減 図 7 ターンオフ損失
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エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
SiC トレンチゲート MOSFET 搭載 All-SiC モジュール
ターンオン損失の比較を図 に,ターンオフ損失の比較 を図 に,逆回復損失の比較を図 に,トータルスイッチ ング損失の比較を図 に示す。All-SiC モジュールは,第 7 世代 X シリーズ Si-IGBT モジュールに対し,ターンオ ン損失を約 87%,ターンオフ損失を約 74%,逆回復損失 を約 95% 低減している。これにより,トータルスイッチ ング損失を約 84% 低減した。 4 . 3 インバータ発生損失シミュレーション インバータに搭載した All-SiC モジュールと第 7 世代 「X シリーズ」Si-IGBT モジュールの一般的な使用条件に おける発生損失について,シミュレーションで求めた結果 を図 に示す。All-SiC モジュールのインバータ発生損 失は,Si-IGBT モジュールに対して約 57% 低減する。 図 に,発生損失のキャリア周波数依存性をシミュ レーションで求めた結果を示す。All-SiC モジュールは, Si-IGBT モジュールに対してスイッチング損失が非常に 小さい。そのため,高キャリア周波数化により DC リアク トルや絶縁トランスなどの受動部品は大幅に小型化するこ とができる。例えば,鉄道車両用の補助電源装置では,従 来の商用周波絶縁方式に対し,装置を約 1/2 に小型・軽量 化できる ⑺ 。 あとがき
SiC ト レ ン チ ゲ ー ト MOSFET を 搭 載 し た All-SiC モ
ジュールについて述べた。新たに開発した新構造大容量 パッケージに SiC トレンチゲート MOSFET を搭載するこ とにより,1,200 V/400 A 定格 2 in 1 モジュールを実現した。 今後は,さらなる All-SiC モジュールの高電力密度化やラ インアップの拡充により,各種電力変換装置の小型化,高 効率化,高信頼性化に貢献していく所存である。 本開発の一部は,共同研究体 つくばパワーエレクトロ ニクスコンステレーション(TPEC)殿の事業として行わ れた。関係各位に謝意を表する。 参考文献 ⑴ 大島雅文ほか. All-SiCモジュール搭載のメガソーラー用
PCS「PVI1000 AJ-3/1000」. 富士電機技報. 2015, vol.88, no.1,
0.1 1 10 100 ゲート抵抗 G(Ω) 300 50 100 150 200 250 0 逆回復損失 rr (mJ/pulse) vj=175 ℃, CC=600 V, D=400 A, Si-IGBT モジュール: GE=+15 V/−15 V All-SiC モジュール: GS=+20 V/−3 V 推奨ゲート抵抗 Si-IGBT モジュール 450 A 定格品 All-SiC モジュール 400 A 定格品 約 95% 低減 図 8 逆回復損失 0.1 1 10 100 ゲート抵抗 G(Ω) 600 100 200 300 400 500 0 トータルスイッチング損失 total (mJ/pulse) vj=175 ℃, CC=600 V, D=400 A, Si-IGBT モジュール: GE=+15 V/−15 V All-SiC モジュール: GS=+20 V/−3 V 推奨ゲート抵抗 Si-IGBT モジュール 450 A 定格品 All-SiC モジュール 400 A 定格品 約 84% 低減 図 9 トータルスイッチング損失 186 81 約 57 % 低減 450 A 定格品 Si-IGBT 400 A 定格品 All-SiC 250 200 150 100 50 0 インバータ発生損失(W) o=60 Hz, c=4 kHz, CC=600 V, o=140 Arms, 力率=0.9, 変調率=1.0, 三相変調 逆回復損失 ダイオード 導通損失 ターンオフ損失 ターンオン損失 スイッチング素子 導通損失 図 1 0 インバータ発生損失のシミュレーション結果 0 5 10 15 20 キャリア周波数 C(kHz) 100 1,000 0 0 100 10 200 20 300 30 400 40 500 50 600 60 700 70 800 80 900 90 インバータ発生損失( W ) 発生損失比率 All -SiC モジュール / Si -IGBT モジュール( %) o=60 Hz, CC=600 V, o=140 Arms, 力率=0.9, 変調率=1.0, 三相変調 Si-IGBT モジュール All-SiC モジュール 発生損失比率 図 1 1 インバータ発生損失のキャリア周波数依存性
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
SiC トレンチゲート MOSFET 搭載 All-SiC モジュール
p.13-17.
⑵ 蝶名林幹也ほか. All-SiC 2 in 1モジュール. 富士電機技報.
2016, vol.89, no.4, p.238-241.
⑶ Iwasaki, Y. “All-SiC Module with 1 st Generation Trench
Gate SiC MOSFETs and New Concept Package”. PCIM
Europe 2017.
⑷ 仲村秀世ほか. All-SiCモジュールのパッケージ技術. 富士
電機技報. 2015, vol.88, no.4, p.241-244.
⑸ 辻崇ほか. 1.2 kV SiCトレンチゲートMOSFET. 富士電機技
報. 2016, vol.89, no.4, p.234-237.
⑹ Yoshida, K. “Power Rating extension with 7th generation
IGBT and thermal management by newly developed
pack-age technologies”, PCIM Europe 2017.
⑺ 茨木那津子ほか. SiCデバイスを適用した高周波絶縁形鉄道 車両用補助電源の回路方式検討. 平成26年電気学会全国大会 5-124. 中沢 将剛 SiC モジュールの開発・設計に従事。現在,富士 電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部産 業モジュール部。 大長 規浩 SiC モジュールのパッケージ開発・設計に従事。 現在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部開 発統括部パッケージ開発部。 辻 崇 SiC パワー MOSFET, SBD の研究開発に従事。現 在,富士電機株式会社電子デバイス事業本部開発 統括部デバイス開発部。応用物理学会会員。
特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 まえがき 4H-SiC(炭化けい素)エピタキシャル基板 〈注 1〉 を用いた SBD(Schottky Barrier Diode)や,MOSFET(Metal
-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor) は,
パ ワ ー コ ン デ ィ シ ョ ナ(PCS:Power Conditioning System),モータ制御用インバータなどのパワーエレクト ロニクス製品に使用することで,低損失化や省スペース化, 軽量化などのメリットが得られる。しかし SiC-MOSFET をインバータに用いる際に,MOSFET のボディダイオー ドに通電すると,オン電圧が上昇するバイポーラ劣化(順 方向通電劣化)という現象が起きる。本稿では,その現象 と対策について述べる。 なお,本内容には,総合科学技術・イノベーション会議 の SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)“次世代 パワーエレクトロニクス /SiC 次世代パワーエレクトロニ クスの統合的研究開発”〔管理法人:国立研究開発法人 新 エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)〕により実 施された成果が含まれる。 MOSFET ボディダイオードの順方向通電劣化 と対策 SiC-PiN ダイオードの順方向に通電した際に,オン電圧 が上昇するという現象が報告されている⑴,⑵。同様に pn ダイ オードにおいても図 ⒜に示すように,一定時間順方向に 通電した後にオン電圧が上昇し,劣化していることが分か る。オン電圧の上昇は,発熱による損失増加や素子並列化 が困難になるため,望ましくない。一方,図 ⒝に示すよ うに,MOSFET のソース・ドレイン間に作りこまれてい る内蔵ダイオードはボディダイオードと呼ばれているが, 近年,このボディダイオードに通電した際も同様にオン電 圧が上昇することが分かり,解決すべき重要な課題となっ ている⑶。 順方向通電劣化の原因は,通電中に積層欠陥が拡大し, 高抵抗層となることである ⑷ 。図 に,順方向通電劣化時の 積層欠陥の拡大図を示す。図 ⒜に積層欠陥の PL(フォ
SiC-MOSFET のバイポーラ劣化抑制のためのバッファ
層技術
俵 武志 TAWARA,Takeshi 呂 民雅 RYO,Mina 宮里 真樹 MIYAZATO,Masaki
Buffer Layer Technology to Suppress Bipolar Degradation in SiC-MOSFETs
SiC-MOSFET のボディダイオードに順方向通電を行うと,エピタキシャル層中に積層欠陥が拡大してオン電圧が上昇す るという問題がある。そこで,キャリア寿命の短いバッファ層を SiC エピタキシャル層 / 基板界面に挿入し,通電時に注入 される過剰キャリア密度を減少させることで,積層欠陥の拡大が抑制できることを確認した。バッファ層として,窒素高 密度ドープ層(窒素密度:1×1018 cm−3 ,10 µm)を備えた pn ダイオードを試作し,DC600 A/cm2 で 1 時間の通電におい ても積層欠陥が拡大しないことを確認した。
When a forward current fl ows through an internal body diode of a SiC-MOSFET, the problem that a forward voltage increases with expanding stacking faults in the epitaxial layer occurs. Fuji Electric confi rmed that the reduction of the excess carrier density by inserting a buff er layer with a short carrier lifetime between the epitaxial layer and the substrate could suppress the stacking faults expansion. We made a trial pn diode with a highly nitrogen doped buff er layer (nitrogen density: 1×1018
cm−3
, 10 µm) and found no stack faults expansion even after the current conduction of 600 A/cm2
DC for an hour. 〈注 1〉 エピタキシャル基板:SiC 基板に SiC のエピタキシャル層を 形成したもの p+ p p n+ n− ゲート ドレイン ソース ソース 通電劣化後 n+ p+ n+ (a)PiN ダイオード - 特性 (b)MOSFET 断面構造 0 2 4 6 電圧(V) 20 15 10 5 0 電流(A) アノード 初 期 p+ n− n+ カソード 電流 電流 電流 図 1 順方向通電劣化の電気特性影響