号 26
ページ 83‑86
発行年 2021‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10236/00029919
初任教員としての⚑年
宇 山 心
⚑.はじめに
私は正直なところ中学校、高校にあまりいい思い出は ありません。クラスには馴染めず、心の底から楽しいと 思ったことはなく、勉強もおろそかにしていました。し かし、唯一真剣に打ち込んでいた吹奏楽部で、高校⚓年 時に当時の顧問の先生に言われた、「あんたみたいな人 こそ学校の先生に向いていると思うよ」という言葉に胸 をうたれ、そこから教員免許の取得できる大学に進学し たいと思うようになりました。そうして受験勉強を本格 的に始めたもののスタートが遅く、残念ながら第一志望 の国立大学には合格することができませんでしたが、な んとか関西学院大学文学部に合格することができまし た。
大学では、最も好きな教科であった国語の教員になる ため勉強を重ねました。また、不登校支援を行う適応指 導教室へのボランティアなどにも参加し、学校を楽しい と思えない子や、学校に行きたくても行けない子がたく さんいるという現状を身をもって痛感しました。こうし た経験の中で「学校に行きたくない」と思う子どもを少 しでも減らすことのできる教員になりたいと思うように なり、もっと教育のことを勉強したいと思う気持ちが芽 生えました。先輩や先生方の勧めもあり、大学院で⚒年 間教育心理学の勉強をさせていただいたのち、この春か らついに国語科の高校教員としての生活を始めることが できました。
まだわからないことも非常に多く、毎日不安と反省の 中で必死に教員生活を送っているような状況ですが、少 しでもこの⚑年間で見てきたことや感じたことをここに 示すことができれば幸いだと感じ、次章から私の勤務し ている学校について振り返りながら述べていきたいと思 います。
⚒.学校生活について
⑴ 学校について
私は現在、兵庫県立農業高校にて国語科教員をしてい ます。本校は学校名にもある通り、普通科高校ではな く、農業を専門に勉強する職業高校です。「県農」の名 で親しまれている本校は、「農業科」「園芸科」「動物科
学科」「食品科学科」「農業環境工学科」「造園科」「生物 工学科」の⚗学科を持ち、各学科の中にも細かい類型分 けがされており、それぞれの専門分野を狭く深く学ぶこ とができることが大きな特徴です。学校の敷地は非常に 広く、田畑に果樹園や動物の畜舎、無菌室などの設備ま で整っており、およそ学校とは思えない豪華な施設に大 きな衝撃を受けたのを覚えています。
生徒は、普通教科に加えそれぞれの分野を座学や実習 を通して深く学んでおり、毎日動物や農作物に囲まれる 賑やかで活気のある学校であると思います。職員数も非 常に多く、様々な専門知識、視点を持った先輩の先生方 に日々ご指導いただき、とても刺激的な日々を過ごして います。
私が本校に赴任し、⚑年ほど勤務して大切だと感じた ことは「試行錯誤を繰り返しながら、日々の積み重ねを 確実に行うこと」です。教員の仕事は、朝の HR から始 まり、授業、部活動、校務分掌の仕事とある程度のルー チンはあるように思えるのですが、生徒関係においてそ の中身は毎日大きく変わってきます。同じスタイルの授 業をしていても、教材や授業を行うクラスによって、生 徒の反応や教材の定着度は全く異なります。その日その 日の天気ですら生徒の反応を大きく変えることに気がつ きました。こうした毎日のように変化し続ける学校の中 で働いていると、その変化を予測できなかったり、うま くついていくことができずにミスをすることもたくさん あります。しかし、そうしたミスを恐れて、当たり障り のないステレオタイプな指導しかできなくなってしまう と教員としての成長も止まってしまうだろうと思いまし た。もちろん自分のスタイルを持ち、それを確立してい くことも大切なことですが、その時々の場面に応じて適 切な対応ができる力を身につけることがなによりも大切 なことなのではないかとこの⚑年を通して感じました。
そのために必要なことは、教員として働いていく中で、
様々な経験を通して試行錯誤を繰り返し、自分の中に教 員として必要な力、「指導力」を積み重ねて涵養してい くことなのではないだろうかと思います。赴任する学校 によってもその雰囲気は大きく違います。在籍する生徒 一人一人も抱えている実態が異なります。どの学校で も、どんな生徒でも、しっかりと向き合うことができ一 人一人に適切な指導ができる教員を目指していきたいと
思います。
⑵ 生徒について
本校の生徒は、農作物の栽培や食品加工、動物の世話 など普通の高校生とは違った経験を非常に多くしていま す。命の尊さやそれを食べるということの責任を身を もって体験しているため、非常に真っすぐで責任感が強 く、情操豊かな生徒が多いなと感じています。授業に対 しても協力的で、真面目に課題に取り組み、グループ ワークやペアワークでも積極的に発言しようとする姿が 見られます。学校全体として見ると、人懐こい子が多 く、物怖じせず教員にも向かってきてくれるため、生徒 との関係づくりはとてもやりやすい印象を持っていま す。
しかし、生徒一人一人の実態に目を向けると、個々人 が抱える課題は様々で、性格や、生育環境、持っている 特性から学校に馴染めなかったり、トラブルを起こす生 徒もいます。また、⚑学科⚑クラスしかないため⚓年間 クラス替えができず、クラスメイト同士の距離が近くな りやすい反面、一度学校から離れてしまうとなかなか戻 ることができなくなってしまう一面もあります。課題を 抱える生徒に対してどのような支援をしていくべきなの か、個人でも学校全体でも考えていかなければならない 問題だと感じています。また、私は現在総務部に所属し ており、担任は持っておらず、学年団にも所属していま せん。そのため、生徒と関わる機会は授業中や部活動の 時に限定され、生徒との信頼関係を築く時間が不足して いると感じています。授業中などで支援を必要とする生 徒に直面した時、その生徒が抱えているものは何か、ど のような対応をするべきか適切な判断が難しく、悔しい 思いをする場面もありました。どうしても生徒から遠い 分掌にいると、生徒情報から離れてしまう傾向があるの ですが、自分から積極的に生徒と関わろうとする姿勢を 持つこと、また担任の先生や顧問の先生と情報交換を行 い、生徒理解を深めていくことが非常に大切なことだと 痛感しています。
⑶ 分掌について
前述した通り、私は現在総務部に所属しています。本 校の総務部は、主に「学校行事の運営」「新入生対応」「外 部業者との渉外」「図書室運営」などの業務があります。
私は、その中でも「新入生対応」と「図書室運営」をメ インで持たせていただき、総務部員として業務にあたっ ています。
総務部に所属していて良かったことは学校の⚑年間の 動き方が良くわかるということです。赴任したばかりの ころは、学校の動き方がわからず右往左往するばかりで したが、総務部として入学式から卒業式まで⚑年を通し
て多くの行事に携わり学校がどのように運営されている のか、直接見ることができ、学校運営に対する俯瞰的な 視点を身につけることができたと思っています。
また、私が総務部での⚑年間を通して学んだことが⚒
つあります。それは「生徒第一で考えること」と「分掌 に関わらず他の先生方との連携をしっかり取ること」で す。学校生活の主役は生徒です。学校行事も全て生徒が 主役になり、何かを学ぶことができるものにならなけれ ばなりません。総務はそうした生徒の成長を支える縁の 下の力持ちのような役割だと思っています。しかし、こ うした思いを持っていても「生徒第一で考える」という ことは意外と難しいことだと私は痛感しました。例え ば、行事の日程は、考査の勉強と差し支えないように配 慮したり、長期休暇の前後であれば生徒の様子を予測し たりして計画する必要があります。生徒に配布するプリ ントやホームページに載せる記事の文言は全ての生徒に わかりやすく、混乱を生まないように綿密に練って作ら なければなりません。あらゆる行事において生徒の安全 のために教員側は万全の準備をしておかなければなりま せん。しかし、実際に行事運営に携り、資料作りを行っ てみると、これがどれほど難しいことなのか良くわかり ました。自分の先入観で資料を作ってしまい「これじゃ 生徒に伝わらないよ」と言われ直されたこともたくさん あります。自分では気づくことすらできなかったミスも ありました。先輩教員に助けられながら「生徒が混乱し ないようにするにはどうすればいいか」を日々考え続け ることが大切だと感じています。
また、行事運営は総務部と保健環境部や生徒指導部、
体育科などが連携して動くことが非常に多いです。その ため、互いの分掌同士の協働がとても大切です。しか し、実際に学校現場に出てみると、自分の所属している 分掌以外がどのような仕事をしているのか見えにくいと いうことに気づきました。したがって、分掌間で情報共 有や意見交換を行い円滑に行事運営をしていくことが必 要不可欠なのですが、これも一筋縄ではいきません。教 員は多忙だと言われている通り、非常に業務量が多く分 掌以外の仕事も多く抱えています。特に本校は農業高校 であるため、農場管理なども行う必要があり、学科ごと に職員室が分散されている関係もあり、教員間での話し 合いが十分にされないまま日が経ってしまうことも多々 あります。そこで、私はスケジュール管理を徹底し、一 つ一つの業務に明確な期限を設け早め早めに動くことを 心がけました。余裕を持った日程の中で教員間の連携を 取ることで、他の先生方にも余裕が生まれ多忙な日々の 中でもあまり負担をかけることなく円滑に連携を取るこ とができました。
次年度は異なる分掌へ所属することになりますが、総 務部で学んだ「学校運営は教員間の連携を確実に取り、
生徒のことを第一に考えて動かなければならない」とい う教訓を忘れず、これからの教員生活を送っていきたい と考えています。
⚓.教科指導について
⑴ 授業について
私は現在、第⚑学年の「国語総合(現代文)」と第⚒
学年の「国語総合(古典)」「選択国語」の⚓種類の授業 を担当しています。担当する学年やクラスはそれぞれ異 なりますが一つずつ担当していく中で感じたことを述べ ていきたいと思います。
まず、「国語総合(現代文)」について述べていきます。
本校で現代文を教えるうえで、最も大切なことは「社会 で生きるための言語能力を身につけさせること」「言語 活動を通して考える力を身につけさせること」の⚒点だ と考えています。
同じ国語科の先輩に「うちの子たちにとって一番大事 なのは国語だよ」と赴任してすぐの頃に言われました。
本校の生徒たちは卒業後、半数以上は就職します。⚓年 生になると就職活動が本格化し、履歴書や志望理由書の 記入、面接練習などが始まります。その際、大事なこと は「正しく漢字を書けるか」「正しい言葉遣いで文章を 書けるか、また話せるか」などです。そのため、正しい 字を正しい言葉遣いで書き、話すということの練習を⚑
年生の頃から積む必要があります。そういった意味で本 校の生徒たちにとって「読む能力・書く能力・話す能力」
を伸ばすことのできる国語は最も重要な教科の一つだと 言えると思います。そこで、私が心がけていることは
「新しい言葉の習得」と「文章作成能力の向上」が可能 になる授業作成です。漢字の小テストや教材の語句調べ を徹底的に行い、漢字を習得することや、知らない言葉 を調べる習慣を付けさせるようにしています。また、教 材を読むうえで必ず⚑つは自分の意見を考え、文章に し、発表させるようにしています。現代文の授業を通し て、社会的に生きるための言語能力を向上させていきた いと考えています。
しかし、現代文の授業にとって重要なことは言語活動 の向上だけではないと思います。現代文は科学や自然、
哲学、文化、病気、経済など幅広い分野について考える 機会を与えてくれるという特徴があります。生徒には教 材文に書かれている内容が自分がいま生きている社会 に、また自分自身にどう関わっているのか考える力を身 につけてほしいと考えています。予測不可能な激動の社 会の中で、明確な答えのない中を生き抜く「課題解決能 力」を養う機会になるような授業を心がけています。
「教材に何が書かれているのかをただ読み解く」のでは なく「教材で何を読み取り考えるか」に重点を置き現代
文の授業をしていきたいと考えています。そのため実践 としては、教材文の内容に賛成するか反対するか、ある いは第三者的な意見を考えさせ、ペアワークやグループ ワークを通して自分の意見を発表させるということを 行っています。これからも現代文を通した生きる力の育 成を大切にして授業作成をしていきたいと思います。
次に、「国語総合(古典)」について述べていきます。
先ほども述べたように、本校では大学の一般入試を受験 する生徒はほとんどいません。したがって、いわゆる受 験テクニックのような古典知識を教える授業はあまり必 要とされていません。そこで、私が古典の授業で意識し ていることは、生徒が「古典を楽しく読むこと」「古代 の人々の文化、生活、考え方に触れ、それが現代にどの ように活かされているか考えること」ができるようにな るということです。
古代の人々が残した現代にも残る文化や考え方、教訓 が古典作品には非常に多く記されています。授業ではそ こに焦点を当て、内容を楽しんで読むと同時に、現代と のつながりや時代とともに変化したものを考えさせるよ うにしています。もちろん、古典を読むためには基礎的 な文法事項や古文単語の知識が必要であるので、触れる 必要はあるのですが、それらに傾倒しないように注意し て授業を行っています。
最後に、「選択国語」について述べていきます。この 授業は上述した⚒つの授業とは打って変わり、進学希望 者向けに開講されている学校設定科目です。比較的国語 力の高い生徒が受講するので、教材や授業のレベルは高 めに設定し「文章読解力」「要約力」を高めることを目 標にしています。
さきほど述べたように、本校では一般入試を受ける生 徒はほとんどいません。進学希望者であっても指定校推 薦や AO 入試が大多数を占めます。そのため、本校に おける受験指導として最も大切なものは小論文指導にな ります。⚓年生になると小論文指導を行う授業が開講さ れるため、この授業を受ける⚒年生時ではその前段階と して、文章を正しく読解すること、読解した文章を要約 することを目的とした授業展開を行っています。教材文 の主張を読み取り、それをまとめる力を⚑年間を通し身 につけさせ⚓年生への橋渡しにできるような授業を心が けていきたいと思っています。
教科指導において⚑年間通して感じたことは、生徒の 実態に合わせ設定した目的に応じた授業を展開していく ことが大切だということです。生徒が過ごす時間が最も 長いのは授業であるので、生徒にとって授業が少しでも 実のあるものになるよう努力を重ねていきたいと思って います。
⑵ 教科指導力向上のために必要なこと
教員として働く以上、教科指導力は何よりも大事な能 力の一つであると考えています。授業がつまらなく、わ かりにくい先生には生徒もあまりついてきてくれませ ん。ここでは、⚑年間を通し、先輩の先生方にご指導い ただいた内容も踏まえて教科指導力を向上するために必 要だと感じたことを述べていきたいと思います。
まず何よりも大切なことは、徹底的に教材研究をする ことだと思います。ただ教材に関する理解や知識を習得 するだけではなく、より多角的・多面的に研究し、教材 から何を学ばせたいか、学ばせたいことを学ばせるため に必要なことは何か、学習目標に向けた道筋を立てるこ とが重要だと学びました。一つの単元が終わる頃に生徒 は何ができるようになっているのか、それを見据えた教 材研究をすることを心がけていきたいです。
次に心がけたいことは、授業の導入に力を入れること です。授業の最初で生徒の心を惹きつけられないと残り の授業を集中して聞いてくれることはあまりありませ ん。私は授業のねらいが生徒に伝わり、なおかつ生徒の 興味を引くことができる導入づくりに力を入れていま す。教材内容と関連する身近な具体例を出したり、心理 学や哲学などの豆知識を使って教材文につなげるように しています。漫画やアニメの話から入ることもありま す。一見雑談に思えたり、無関係なことのように思える ものが、実は授業につながっていくことに気づいた生徒 はその授業のことをとても面白がってくれます。導入が うまくいった授業はその後もうまくいき、導入で惹きつ けきれなかった授業は失敗したなと感じることが多いで す。生徒を⚑時間の授業に惹きつけることのできる導入 力を高めることが重要だと思います。
また、「単元のねらい」「授業のねらい」を明確にする ことも大切だと思います。まず単元全体を通して生徒が 何を学び取るのか大きなねらいを決め、それを達成する ために授業⚑回⚑回で何をするべきなのか小目標を立て ることで、授業を構成する骨組みが出来上がります。そ れを軸に授業を組み立てることで一貫した教科指導につ ながるのではないかと考えています。
私自身まだ教科指導力に乏しく授業を失敗したなと思 う日ばかりですが、たくさんの先輩教員の授業を見させ ていただき勉強を重ね、ねらいを明確にし、生徒を惹き つけることができる授業実現させるため、日々の教材研 究を行い、教科指導力を向上させていきたいと考えてい ます。
⚔.部活動指導について
私は現在、吹奏楽部の顧問をしています。私も中高時 代吹奏楽部に所属していたため、懐かしさを感じながら とても有意義な時間を過ごしています。しかし、本校の 部活動には大きな課題が一つあります。それは、部員が 揃う日が極端に少ないということです。本校には、各学 科ごとに「当直」と呼ばれる当番制の実習があります。
当直は放課後に行われるため、当番にあたっている生徒 は部活動に参加することができません。集団で合奏を行 う吹奏楽部にとって、部員が揃わないということはとて も大きな課題です。なかなか部員の揃うことのない日々 の部活の中で、生徒のモチベーションを保ちながら技術 指導を行うことに困難を感じています。部活に出られな い生徒にも指導内容をしっかり共有し、部員全員で吹奏 楽を盛り上げていけるように努力していきたいと思いま す。
特殊な学校であるため、部活動の優先度は低くなりが ちですが、部活の意義をもう一度考え、生徒にとって少 しでもいい経験になるように顧問として考え続けていき たいと思います。
⚕.おわりに
初任教員として⚑年間を過ごし、教員という仕事の専 門性や特殊性、責任の重さを強く感じました。非常に重 い仕事に押しつぶされそうになる日もないとは言えませ んが、同時に生徒の成長に携わり、それを見守ることが できることの楽しさややりがいも感じています。一教員 として、また一社会人として未熟さばかりを感じる毎日 ですが、日々学び続ける姿勢を忘れず研鑽を積んでいき たいと思います。
また、今回このような論文執筆の機会をいただけたこ とに深く感謝申し上げます。この論文執筆にあたって、
私自身も自分の⚑年間を振り返ることができ、新たな発 見をすることができました。
私はついに関西学院大学教職教育研究センターで⚖年 間勉強し、培ったものを試される場に出たのだと考えて います。関学出身の教員として胸を張れるような教員に なることが、関西学院大学でお世話になった皆様への恩 返しだと思い、一人前の教員を目指し日々精進していき たいと思います。
(うやま こころ・兵庫県立農業高校教諭)