水工学論文集,第52巻,2008年2月
低平地の小河川における正常流量設定に関 する一考察-長良川水系新堀川の事例
PROSPECT ABOUT SETTING OF NORMAL DISCHARGE IN LOW-LAYING AREA IN CASE OF SHINBORIGAWA IN NAGARAGAWA WATER SYSTEM
澤田謙二
1・藤田裕一郎
2・大橋慶介
3・水上精榮
4 Kenji SAWADA, Yuichiro FUJITA, Keisuke OHASI, Seiei MIZUKAMI1学生会員 岐阜大学大学院 工学研究科(〒501-1193 岐阜県岐阜市柳戸1-1)
2フェロー会員 工博 岐阜大学流域圏科学研究センター教授(〒501-1193 岐阜県岐阜市柳戸1-1)
3正会員 工博 岐阜大学 工学部助教(〒501-1193 岐阜県岐阜市柳戸1-1)
4正会員 岐阜大学ものづくり技術教育支援センター(〒501-1193 岐阜県岐阜市柳戸1-1)
It is difficult to determine the normal flow discharge stated in the basic policy for river improvement and the river improvement plan even in cases of large-sized rivers, especially in medium to small-sized ones which spread as networks in river basins and have an important share in water environment there.
The normal flow discharge covers both of the water use and the maintenance flow discharge, the latter of which satisfies multi-purpose functions required ordinarily for rivers. The maintenance flow discharge of a small-sized river called the Shinborigawa draining a narrow low-laying area including the main campus of Gifu University is discussed in this study from the viewpoints of historical changes of the river and its basin, verifications of the river modification plan, and water quality improvement based on the use of rainfall and a shallow water analysis.
Key Words : normal flow discharge, maintenance flow discharge, small-sized river, river in low laying area, river water quality
1. はじめに
河川及びその流域は,古来より自然及び人為的な影響 を受けて,その姿を変え,現在のかたちになっているが,
近年では,都市化の進展等により,河川環境は急激に変 化している.このような背景から,従来,治水・利水を 中心として進められてきた河川事業の目的に, 平成9年 の河川法の改正に伴って「河川環境の整備と保全」が追 加された.これを受けて,「河川整備基本方針」及び「河 川整備計画」には「流水の正常な機能を維持するために 必要な流量(正常流量)」を設定することが定められた.
正常流量は既往の水文資料からできるだけ長期間の資料 を収集し,原則として10ヶ年第1位相当の渇水時におい てもその流量を維持できるように計画することが求めら れている.よって,これは,流量観測資料が整っていて 低水-渇水流量を見積もることができる大河川でも容易 ではなく,国土交通省の発表によると,平成19年9月現 在,109の一級水系のうち,47水系で設定できているに
とどまっている.また,設定できしたとしても現実に確 保することは難しい場合も少なくないと見られる.
一方,中小河川では,水文資料も整っていない場合が 多く,土地利用の変化に伴って様相が激変した河川も多 数に上ることから,正常流量を設定する場合には,流域 の現状やそれに至った歴史を把握して,そこから河川の 性質や成り立ちを理解していくことが不可欠となる.ま た,これら中小河川は流域を網の目のように覆っている ので流域の水辺環境に持つ重みは極めて大きく,正常流 量について検討していくことは,今後の河川管理・流域 管理にとって重要な意義を有している.このような,流 域面積の小さい中小河川では,大河川のように,恒常的 に満足される流量として維持流量を考えるだけでなく,
それに期待されている効果や機能に着目し,ある程度流 量の変動性や間歇性を認めて,例えば流水の清潔の維持 が満足されるように,河道形状のあり方を見据えながら その値を定めていくことがなされるべきであろう.
ここでは,そのような観点に立った試みの第一歩とし て,岐阜大学のキャンパスを2分して流れる長良川水系 水工学論文集,第52巻,2008年2月
の一級河川新堀川を対象に,小河川の正常流量の設定に 関して多面的な検討を加えている.新堀川は,歴史的経 緯から水利流量を有していないので,正常流量と維持流 量とは同一視できるが,それだけに全区間において平常 時の自流量が少ない.かつ,低平地河川のため下流の築 堤河川である伊自良川の背水によって常時湛水状態にあ り,水質が悪く,夏季には淡水赤潮が発生するなど,景 観も損なわれている.はじめに,景観や生物の生息生育 状況に関する考察の基礎となる新堀川とその流域の概要 と歴史的変遷について述べ,ついで,現河道計画の検証 をすると共に,河川環境に密接に関係する水質について,
近隣河川の状況と比較する.目標とすべき水質レベルに ついて降雨量との関係について考察を加え,年間の降雨 状況に対応してそれが満足されるにはどのような方策が あるかについて考察する.さらに,現況河床形状を変化 させた場合,年数回程度発生するようなまとまった降雨 によって期待できる水交換の規模や底質移動の可能性な どを検討する.
2.新堀川と流域の概要及び歴史的変遷
新堀川は,図-1に示したように,岐阜市北西部に
8.5km2の流域を有する,岐阜大学本部構内の北西端から
伊自良川合流点までの延長2.45kmの低平地の緩流河川で あり,その上流部は普通河川村山川となっている.最上 流の標高225mの御望山周辺を除いた流域のほとんどが 低平地で,水系は周辺水田の排水路としての機能を有し ているが,落差がなく,非常に緩い勾配となっている.
また,村山川が伊自良川に近接する箇所には,村山川の 流水を伊自良川に直接放出する交人樋門がある.平常時 にはこの樋門から村山川の全流水が伊自良川に流出して
いるので,新堀川には上流山地域からの表流水は流入し ない状況となっている.図-2に示した国土地理院の地形 図(大正13年,昭和45年,平成6年版)や史誌等1),2)に よれば,このような状況は,従来新堀川の排水域と上流 の村山川流域とは輪中で分断されており,直接伊自良川 に流入していた村山川の流水は,現在でも伊自良川下流 でその取水権が維持されていることによるためと考えら れる.もともと,別の輪中を流れる川であったことの名 残から,上述のように上流部の村山川流域の流水は平常 時には全く新堀川には流入せず,かなりの降雨があった ときや伊自良川との間にある交人樋門が閉鎖されたとき
村 川山
板 川
屋 岐
大 阜 学
排水機場 新堀川
自 川良
伊 交人樋門
新 川 堀 御望山
折立樋門
長良川へ
繰船橋 伊自良川 水質調査地点
新堀川河道 板屋川 村山川河道 洪水時に増える流域 平常時の新堀川流域 水質観測地点
図-2 新堀川の流域の変遷と土地利用(大正13年:左,昭和45年:中央,平成6年:右)
畑・原野 桑畑 果樹園 新堀川流域 新堀川河道 村山川河道 水田
図-1 新堀川流域概要図
のみ,越流堰を越えて流入するようになっている.この ため,平常時の流域面積は図-1の中の実線で囲まれた範 囲の3.7km2しかないにも拘わらず,次に述べるように,
河川改修は上流域(破線)を含めた全流域を対象として 実施されているため,平水時には河川断面に比べて極め て流量が少ない状態である.
なお,新堀川流域は伊自良川や新堀川の整備ととも に進められた岐阜大学の移転によって,急速に発展し,
近年でも,岐阜大学医学部および付属病院の移転があっ てその勢いは収まっていない.特に,平常時の流域は,
急速な発展の影響を最も多く受けている箇所である.
図-2からわかるように,新堀川は,水田地帯外縁の低平 湿地を蛇行していた伊自良川に向けて微高地を避けるよ うに流域の水を運んでいた排水路であったが,伊自良川 の河道整備とともにその旧流路を流れるようになり,両 者の合流点は下流に移されている.その後,昭和45年に まとまった岐阜大学移転計画によって,低湿地の遊水機 能の低下と周辺地域の開発が予想されたため,一級河川 に編入され,村山川流域を含めて整備されてきた河川で ある.この新堀川改修は昭和49 年に開始され,平成11 年までの26 年間で5 年確率の暫定改修が完了している.
計画規模には大規模な浸水災害を引き起こした同51年の 台風17号の降雨が反映されている.これにより,河床勾 配1/2000,計画高水流量65m3/s の単断面の堀込河道とな り,樋門処理した流末には排水能力20m3/s の排水機場 も整備されている.しかし,1割勾配の護岸と良好とは いえない水質・ヘドロ状の底質が相まって,現在水辺に 近付きにくい状態となっている.
3.実績降雨による河川計画の検証 (1) 現状の降雨強度式による検討
当初の河川計画は行われた時期が非常に古く,暫定計 画の完了まで26年という長年月が費やされたにも拘わら ず,近年の降雨データの蓄積がその後の改修には反映さ れていない.そこで,当時用いられた降雨強度式と現在 この地域で使用されている降雨強度式と比較し,その結 果を図-3に示した.これにより,暫定改修の5年確率に おける降雨強度は低く,計画上の安全度は下がっている
ということになっていて,例えば,河川環境に配慮して 河道形状を変更するような場合には十分に注意する必要 があることがわかる.なお,将来計画の1/50では,両者 ともほぼ同じような値となっていることが確認できる.
(2) 実績降雨による検証
新堀川流域に近い降雨観測所のデータより,ガンベル 法を用いて超過確率年の時間雨量を求め,新堀川計画の 時間雨量と比較し,図-4に示した.これにより,超過確 率年が低いときには実績降雨が大きくなり,逆に高いと きには低くなる傾向が確認された.また,超過確率年降 雨と実績降水量データにおける降雨発生回数を表-1にま とめた.これによって,降雨記録がある昭和36年~平成 18年までの46年間における暫定改修確率(1/5)規模の 降雨(48.6mm/hr)以上の発生回数は11回であり,暫定 改修程度の降雨は頻繁に発生していることが判明した.
この間1/50規模の降雨も2度経験しているにもかかわら ず,新堀川では全く洪水災害は生じていないため,現実 には河道にかなりの余裕があって,そこに上述のような 様々な工夫を加えることが可能であるようにも思われる.
ただし,近年の平成元年以降では50mm/hrを越える降雨 が3回しか発生していないので,流域の開発に伴う洪水 流量の増加には留意しておかなければならない.
4.正常流量の設定項目及び一級河川水系の動向
(1) 正常流量の設定に関する項目
流水の正常な機能を確保するために必要な流量,すな わち,正常流量は,河川水の利用や河川環境の現状等を 十分に把握し,流域の自然環境や社会環境及びそれらの 歴史的な経緯等を踏まえて定めなければならない.周知 のように,それは水利流量および維持流量からなり,維 持流量の設定には多くの項目の検討が必要とされる3).
0 20 40 60 80 100 120 140
0 20 40 60 80 100
降雨継続時間(min)
降雨強度(mm/hr)
新堀川暫定1/5 降雨強度式1/5 新堀川計画1/50 降雨強度式1/50
図-3 新堀川計画における降雨強度と降雨強度式
0 20 40 60 80 100 120
1 10 100 1000
超過確率年
時間雨量(mm/hr)
新堀川計画 ガンベル法
図-4 新堀川計画と実績降雨による超過確率年 表-1 超過確率時間降雨と既往データによる降雨発生確率
雨量 回数 雨量 回数 雨量 回数 雨量 回数 雨量 回数 雨量 回数 新堀川計画
(M20~S45) 48.6 11 58.1 5 69.2 5 78.2 3 85.5 3 90.1 2 ガンベル法
(S36~H18) 55.8 5 65.5 5 74.9 3 80.3 3 84.1 3 87.0 2 1/5 1/10 1/20
超過確率 時間降雨
1/30 1/40 1/50
その項目としては,①舟運,②漁業,③流水の清潔の保 持,④塩害の防止,⑤河口の閉塞の防止,⑥河川管理施 設の保護,⑦地下水位の維持,⑧景観・観光,⑨動植物 の生息・生育地の状況などが挙げられており,人と河川 との豊かな触れ合いの確保等を総合的に考慮して定めら れなければならないとされている.
(2) 一級河川水系の正常流量設定の動向
平成19年9月現在,全国の109一級水系のうち,47水系 のみの設定にとどまっている正常流量は,上記9つの維 持流量項目のうち,主に,⑨動植物の生息・生育地の状 況,⑧景観・観光,および,③流水の清潔の保持,以上 の3項目に基づいて設定されている.また,正常流量は,
季節ごとにその流量が違い,かんがい期・非かんがい期 に分けて設定されているところが多い.設定の根拠と なった上記の3つの項目に分けて正常流量を流域面積で 除し比流量として図-5 に示した.これによると,流域 面積が広い河川であっても比流量ではそれほど大きくな るわけではない.また,図中の跳び抜けて比流量の大き い河川は,上流部に基準点がある利根川水系の渡良瀬川,
鬼怒川等のかんがい期の値であるため,大きくなってい る.これらを除くと,流域の形状が多様な河川であるに もかかわらず,比流量は概ねまとまっている.言い換え れば,正常流量の比流量は下流部では低くなり,上流部 では高くなる傾向があり,設定根拠となった項目別で見 てもその差はほとんどない.
(3) 新堀川の正常流量設定に対する項目の選定
新堀川からは河川水が取水されていないため,水利流 量および,かんがい期・非かんがい期に分けて考慮する 必要はなく,また,河床勾配が緩やかで,瀬や淵がない ために単調な水域となっているが,堰がないので,魚類 の遡上に支障がある箇所がない.このようにもともと人 工的に掘り込まれた河川であるので,良好な水質と十分 な水深が確保されていれば動植物の生息・生育地に対す る配慮も特段には要求されない.そこで,正常流量が満 たすべき項目に関して流水の清潔の保持には不可欠で,
景観的にも重要な新堀川の水質に着目し,それが良好な 状態となるための流量条件について検討を行った.
5.水質観測結果及び評価
(1) 水質観測結果
新堀川での水質観測 4)は,岐阜市 人・自然共生部水 自然室(旧衛生部環境保全課)によって,1991以降,生 活環境項目(pH,DO,BOD,COD,SS)について下 流部で年間4 回実施されている.新堀川および近隣河川 における水質観測結果のうち,DO,BOD,SSの経年変 化を,図-6に示した.ここで,新堀川の近隣の水質観測 地点には,伊自良川本郷橋(上流部),同繰船橋(図-1 参照),同竹橋(下流部の新堀川・板屋川合流後)およ び板屋川(図-1参照)がある.
図-6より,DOについては,A~C類型にばらつきが大 きく,近隣河川も同じようにばらつきがあるので,観測 日直前の降雨による影響が大きいと考えられる.ただし,
新堀川は概して低い値となっている.BODについては,
1990年代は高い値と低い値に大きくばらついていたが,
近年,全体的に低下傾向にある.このような近年の低下
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 年度
(mg/l)
A類型 B類型 C類型 D類型 0
2 4 6 8 10 12 14 16
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 年度
(mg/l) 新堀川
板屋川 伊自良川竹橋 伊自良川繰船橋 伊自良川本郷橋
A類型 B・C類型
0 10 20 30 40 50
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 年度
(mg/l)
A・B類型 C類型
BOD DO
図-6 新堀川と近隣河川の水質の経年変化 SS
図-5 一級河川水系の正常流量の基準点における比流量
0.000 0.010 0.020 0.030 0.040 0.050 0.060
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 流域面積(km2) 比流量(m3/s/km2)
景観・観光 流水の清潔 動植物の生育
は,流域内で徐々に進められてきた下水道整備が2004年 に完了し,流域全体が整備されたことにより,生活排水 等の負荷が減じたことによると考えられる.しかしなが ら,近隣河川と比較すると,伊自良川の近隣3地点の値 が概ねA類型,板屋川はA~B類型の範囲にあるのに対 し,新堀川の値は最近でもB~C類型の中にあって,明 らかに周辺よりも高く,依然として水質は良いとはいえ ない状態である.SSについては,多少のばらつきがある ものの,近隣河川と同じ程度の値になっている.元来,
清澄な流水を有する近隣河川とSSのみ同程度ということ は,新堀川は河床勾配が緩やかで,常時湛水しているた め,浮遊物質が沈降しているものと判断できる.
以上のように,新堀川の水質は近隣河川に比して特に BOD値が高いため,これを改善の指標として検討する.
(2) 降雨と水質との関係
新堀川周辺の雨量観測所の降雨記録により、改修計画 以降について、新堀川の水質測定日の30日,20日,10日,
5日前からの累積降雨量とBODとの関係を季節別にて図- 7に示した.これにより,夏季には8月の数10mm程度の 降雨によって水質が著しく改善する.また,冬季には全 般に水質が悪く,調査日前10日間に100mm程度の累積降 雨があってもそれほど良くはならないということが明確 である.また,夏季に降雨がないとBODが異常に高くな ることがある.さらに,20日~30日間においてある程度 降雨があるにもかかわらず,その後の20日間では降雨が 無いと,BOD値が高くなっていることから,流量増によ る希釈の効果は,降雨後20日程度を経過すると,消失す るといえる.これは,土木研究所 5)によって報告され ている,出水により河床堆積物がフラッシュされると河 道内の水質浄化効果(自浄作用)が上昇し,3週間程度 経過すると自濁作用に変化することが示されている.こ の期間は,付着藻類が増殖した後剥離するという自濁作 用の期間と見なされるが,自濁作用は栄養塩類濃度、川 底に届く日射量、底質、生物による採餌量や洪水履歴な どにより変化する.付着藻類の剥離は,流水の有機物そ のものの増加であるため,水質悪化の原因となる.新堀 川では,流水が少ないため,過剰に増殖した付着藻類が 剥離して浮遊するようになると,水質悪化が引き起こさ れる.
6.水質向上策とその効果
(1) 降雨による希釈及び底質のフラッシュ
河川の汚濁物質は洪水によって希釈され,またフラッ シュされるため,その後の水質が向上する.新堀川は本 川の背水の影響を受け,平常時はほとんど流速がない状 態であることから,その水質は通常の流量のみによる改 善は望めないので,正常流量を考えるにあたっては,降 雨流出時の流量を加味し,それをできるだけ維持させる ように考える必要がある.一方,中小洪水発生後の水質 調査結果によれば,BOD値は2.0~3.0程度(B類型)が 期待できる.しかしながら,前述のように流域内で徐々 に進められてきた下水道整備が完了しているので,生活 排水等の負荷の減少による効果は,これ以上期待できな い.以上から,少なくとも年間3回程度は発生する降雨 によって底質がフラッシュされるような流速を発生させ、
水質改善を期待する方法として河床形状を変化させ,水 質改善策を考えた.
(2) 中小規模洪水による底質の移動に関する検討 降雨実績によれば,年間3回程度発生する時間最大降 雨強度(年間3番目の記録)の平均値は26.5mm/hrであ 0.0
1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0
0.0 100.0 200.0 300.0 400.0 5日間降雨量(mm)
BOD
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0
0.0 100.0 200.0 300.0 400.0 10日間降雨量(mm)
BOD
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0
0.0 100.0 200.0 300.0 400.0 20日間降雨量(mm)
BOD
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0
0.0 100.0 200.0 300.0 400.0 30日間降雨量(mm)
BOD
5月 8月 11月 2月
図-7 水質観測日前の降雨量とBODの関係
る.これを用いて,合理式によりピーク流量を推定する と,暫定計画40m3/s,河床幅16.6mの中流部で25m3/sと なった.現況河道に対してこの流量に対する流速を2次 元浅水流解析7)により求め,図-8に示す.次に,この河 道内に砂州を模して,高さ0.40m,幅7.0m,長さ100mの マウンドを100mピッチで交互に設け,結果を図-9に示 す.図-9では,流速が増加するとともに,高流速の範囲 が広がっていて,底質移動が大きく促進されることが明 らかである.ここで,砂州により河道断面積を減少させ ているが,新堀川は暫定改修後50年確率の降雨を経験し ているにもかかわらず計画高水位に達した記録はなく,
河道には余裕があり,また,沿川の堤内地は51年災害の 経験から,地盤を嵩上げしており,堤内地の安全度は高 いと考えられる.したがって,このような環境改善のた めの河道整備の許容度は高いと判断される.
(3) 河床変形の導入効果と今後の課題
新堀川の現在の景観は,両岸のコンクリート護岸の間 に一様な水深の水域が広がった単調な状態であり,河床 にはヘドロが堆積し,水草で覆われた水面も広がってい て,人を寄せ付けにくい状態である.このため,エコ
トーンも貧弱であるが,砂州河道を模した河床形状とす ることによって水域を区切れば,良好なエコトーンの創 出にもつながり,かつ,底質の移動も促進され,魚類等 の生息環境の質も向上すると思われる.前項の検討では 比較的規模の大きい出水を検討したが,降雨による効果 が20日程度であることを考えると,より頻度の高い降雨 にっても改善可能となり,そのときの流量を考慮して正 常流量を設定することが今後の課題となる.
7.おわりに
低平地に限らず小河川は,出水履歴によって大規模に 改修されていることが多いため,正常流量の設定に当 たっては,単に維持流量の9項目についての検討だけで はなく,歴史的背景を踏まえた成り立ちを十分に理解し,
かつ,降雨による洪水変動も考慮していく必要がある.
これは,多くの中小河川では,定期的な流量観測が実施 されていないため,10ヶ年第1位相当の渇水時の流量が 把握でないということからも重要である.正常流量の設 定は河川整備計画の必須事項になっていることから,今 後の河川整備を実施していく上で,ここで示した考え方 をさらに追求していくことの意義は高いと思われる.
本論文の新堀川のような低平地の常時本川の背水の影 響を受ける河川では,流水を流動させる必要があり,流 水の清潔の維持が重要な項目となった.低平地の小河川 における流水の清潔の維持には,年間数回の出水による 水質浄化を期待した河道とすることが,「河川環境の整 備と保全」にとって良好な河川環境となる.このほか,
中小河川には,渇水時に干上がってしまう河川も少なく ない.このような河川においても正常流量が設定され,
その流量を確保することが更なる課題となってくるであ ろう.今後,上述の課題等について,新堀川以外の事例 を含め,研究を進めて生きたいと考えている.
参考文献
1) 黒野史誌編集委員会編,岐阜市黒野史誌,1987.
2) 安藤満壽夫編著,輪中,古今書院,第3章,1975.
3) 国土交通省河川環境課,正常流量検討の手引き(案),2001.7.
4) 岐阜市衛生部環境保全課,岐阜市の環境1991~2005 年度版
5) 土木研究所成果報告書,変動を加味した河川の正常流量に関 する基礎調査 pp.499-550, 2006.5.
6) 島谷幸弘:河川における正常流量設定手法に関する近年の動 向と課題‐動植物の保全を中心に,河川技術に関する論文集,
第6巻,pp.173-178,2000.
7) Fletcher C.A.J.:Computational Techniques for Fluid Dynamics volumeⅡ,Springer-Verlag, pp.47-80,1991.
(2007.9.30受付)
図-8 現況断面の2次元浅水流解析結果の拡大図
図-9 砂州を配置した2次元浅水流解析結果拡大図