モバイル通信分野の一層の競争促進について
通信とIoTの“新結合”時代を展望したMVNO推進政策
楽天株式会社 代表取締役会長兼社長
三木谷 浩史
エグゼクティブサマリー
消費支出に占めるモバイル通信料の負担割合は一貫して増加、 特に
若年齢層や低所得層により顕著。モバイル通信は、固定ブロードバンド
や海外との比較でも割高な水準。消費者は負担感を感じており、MVNO
(*)への期待がある。
一方、産業界ではIoT時代を見据えて通信とIoTの“新結合”(インテグ
レーション)に向けた動きが加速しつつある。多様なプレーヤーが、イン
ターネットの技術を介して通信の持つポテンシャルを様々な産業へ展開
させていくことが、イノベーションを加速させることにつながる。通信ネット
ワークの多様化も必要である。
モバイル通信分野の一層の競争を、スピード感のあるMVNO促進策に
より実現すべきである。MNOの機能のアンバンドル(加入者管理機能
(S
IMカード、HSS
/HLR)のアンバンドル、音声サービスの卸条件改善・ア
ンバンドル、通信契約とメールサービスのアンバンドル)と関連制度の見
直し(MNP転出手数料制度の再検討、端末認証の緩和)である。
消費支出における移動電話通信料
出所: 2004-2013年 家計調査(総務省) (注:消費支出は二人以上の世帯のうち勤労者世帯) 消費支出が伸び悩む中、移動電話通信料の割合は一貫して上昇。特に若年齢層、 低所得者層で顕著。消費支出 と 移動電話通信料の割合
(月平均、円)年収別
年齢別
(万円) (才)移動電話料金-ユーザー意識
出所: 携帯電話料金に関する意識調査(マイボイスコム、2014/9)
利用者は通信費負担が増えていると実感、節約したいと考えている。 ユーザー意識調査
仏携帯電話大手4社の単価の推移 (平均顧客単価ベース) 固定ブロードバンド料金は世界最安水準だが、スマートフォン料金は割高な水準。 平均顧客単価ベースでは尚更(フランスは顧客単価が劇的に低下)
移動電話料金-料金水準
Free参入前: 年率2.9~7.2%の 低下 Free参入後: 年率11.7~12.7%の 低下スマートフォン契約の伸び鈍化
スマートフォン契約の前年比増加幅は2013年3月をピークに減少に転じており、2014 年12月における増加幅はピークの半分強でしかない。 出所:2014年国内携帯電話端末出荷概況(MM総研、2015/2) 国内携帯電話端末契約におけるスマートフォン構成比とその増加幅 23% 37% 42% 45% 47% 50% 52% 8.8% 13.7% 14.7% 12.4% 11.0% 9.8% 8.1% 7.8% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 11 年 3月 11 年 6月 11 年 9月 11 年 12 月 12 年 3月 12 年 6月 12 年 9月 12 年 12 月 13 年 3月 13 年 6月 13 年 9月 13 年 12 月 14 年 3月 14 年 6月 14 年 9月 14 年 12 月 スマートフォン普及率 前年比増加幅MVNOのサービス提供と消費者の利用意向
出所:電気通信事業分野における競争状況の評価2013」利用者アンケート(2014/10)、MVNOサービスの利用動向に関するデー タの公表(平成25年12月末時点)(総務省、2014/4)、格安SIMカードに関する調査(インプレス総合研究所、2014/12)74%
音声&データを提供するMVNOは全体の22%だが、消費者の利用意向は高い(7 4%)。 -料金プラン、MNP、端末等に関する課題解決が困難及び時間を要することも一因 MVNO事業者の提供サービス別社数シェア 消費者の利用意向通信とIoTの“新結合”に向けた動き
出所:ICPF情報通信政策フォーラム資料(2015/1) MNO企業 IoT事業への取り組み状況 ベライゾン (米) • 700万以上のM2Mデバイスを通信網に接続済 • 自社モバイル・ネットワークへの外部デバイスの接続を認めるオープンポリシーを展開。 AT&T (米) • 2013年3月末時点で1470万台デバイスを接続済。 • コネクテッドカー分野に注力。自動車メーカーによる開発を支援するプラットフォーム 「AT&T Drive」を提供。 • アプリケーション開発促進を戦略的に行っており、作成・管理・サービス提供・セキュリ ティの支援ソフトウェアをクラウドベースで提供。 スプリント (米) • ネットワークをパートナーに開放し、開発されたM2M関連デバイスやソリューションを自 社ネットワークで展開する「Now Network戦略」を推進。 • M2M専門のコンサルティング部署を設置し、サービス・ブランド形成、顧客ケア、サービ ス販売・料金請求等のサポート業務を強化。 ボーダフォン (英) • 2010年よりM2M専任組織を設け、世界各国で360人以上の専任スタッフが従事 • デバイス/ネットワーク/アプリケーションソフトウェアをパッケージ化した、オールイン ワン型M2M監視ソリューションを自社ブランドで提供 ドイツテレコム (独) • 2011年9月、M2Mのマーケットプレイスをリリース。200社を超えるハードウェア事業者、 ソフトウェア事業者およびサービス事業者がエコシステムを形成。 欧米先進MNOはIoTインテグレーションに向け、オープン化やアライアンスを推進。通信とIoTの“新結合”に向けた動き
アプリケーション デバイス 通信ネットワーク プラットフォーム 通信事業者 フルサービス提供 アライアンス+
+
+
回線卸売り+
+
+
MVNO
SIM スマートメーター、テレマ ティクス、ヘルスケア、自販 機、ATM、サイネージ等 デバイス管理機能、セキュ リティ機能、顧客管理機 能、課金機能等 免許の要・不要周波数帯域 (通信距離、速度、容量、コ スト、セキュリティ等により) スマホ、タブレット、ウエアラ ブル端末等 アンバンドルによる多様なサービス提供の態様がイノベーションを促す可能性 - 通信ネットワークの多様化(MVNO促進)も必要 出所:ICPF情報通信政策フォーラム資料(2015/1)より作成 通信事業者からみたIoTサービス提供の態様政策提言
・廉価で多様なモバイルサービスを提供をすることは、国民に所得効果をもた
らし、景気浮揚の一助となる。選択の自由と煩雑な手続きからの開放は国民
厚生の向上に貢献する。
・一方、産業界ではIoT時代を見据えて通信とIoTの“新結合”(インテグレー
ション)に向けた動きが胎動しつつある。多様なプレーヤーが通信のポテン
シャルをインターネットの技術を媒介して様々な産業へ展開させていくことが、
イノベーションを加速させることになる。
・一層のMVNO促進策により、モバイル通信分野での競争を促し、上記を実
現すべきである。政府はモバイル創生プランを打ち出したが、一層の施策をス
ピード感を持って打ち出す必要がある。MNOの機能をアンバンドルし、関連制
度を見直すことである。
政策提言
1. MNO機能のアンバンドル化
①
加入者管理機能
(SIMカード、HSS/HLR)のアンバンドル
②
音声サービスの卸条件改善・アンバンドル
③
通信契約とメールサービスのアンバンドル
2. 関連制度の見直し
①
転出手数料制度の再検討
②
端末認証の緩和
【1-①】加入者管理の現状
携帯電話端末のSIMカード調達、及び加入者管理設備(HSS/HLR)の管理はMNOが 独占しており、MVNOは関与できないのが現状。 HSS HLR加入者管理設備
SIMカード MNO ネットワーク MVNO ネットワーク MNOがMVNOへ貸与 (独自調達不可) MVNOが接続を 求めるも未だ実現せず 連携して加入者の ネットワーク利用を管理【1-①】加入者管理機能のアンバンドル
アンバンドルによりMVNOとMNOのイコールフッティングが実現するだけでな く、MNO単体では実現できないサービスの提供も可能に。 現状 加入者管理機能の アンバンドルが実現すると 端末初回起動 時の設定 MVNO加入者は手動で 接続先の設定が必要 MNOと同等の 設定自動化が実現 SIMの発行 MNOが貸与したSIMしか使用できない 独自機能を持つSIMを利用可能海外 ローミング MNOが独占 MVNOによる ローミング仕入が可能 多様な サービスの 提供 加入者管理がMNO毎に 閉じており、SIMの接続先 HSS/HLRは1つに固定 MNOよりも使い勝手のよい サービスの実現 (例:接続先の動的切替、 障害・災害時の自動切替など) MVNOに とっての 事業環境 接続先MNOが固定化 MNOに比べ劣位かつ 自由度が低い MNOとのイコール フッティング+αが実現
【1-①】フランスの事例
フランスでは大手MNOに依存せず独自にSIMを調達・販売するFree Mobile社の参入 により価格が急激に低下するとともに、多様な販売方法が登場。仏における携帯契約価格推移
(2010年値100)
SIM自動販売機
出所: APCEP(2014/5)【1-②】加入者間無料通話の利用状況
出所: 我が国における通話サービスの利用形態についての考察(岡本剛和(内閣官房)、 中村彰宏(横浜市立大学教授)、2014/11) MNOのみが提供する加入者間無料通話サービスは広く利用されており、 加入者がMVNOへ移行する際の障害となっている。 スマートフォン利用者における無料通話サービス利用率【1-②】音声サービスの卸条件
音声サービスの卸条件は最大30%割引。無料通話の割合が3割を超えると原価割れ に。通話相手のトップは家族、現行の卸条件ではMVNOが家族間無料通話サービス の提供は困難。 MNO 回線数 割引率 NTTドコモ ~1,000 10% 1,001~ 2,000 15% 2,001~ 30% KDDI (詳細は協議にて別途提示)従量制 ソフトバンク モバイル データ通信のみ (音声サービスは 提供記載なし) 出所:MVNO様向け卸携帯電話サービス概要のご説明(NTTドコモ、2014/9)、MVNO様向けLTE通信サービス標準プラン (KDDI、2014/7)、MVNO様向け卸標準プラン概要のご説明資料(ソフトバンクモバイル)、スマートフォンでの音声通話 と無料通話アプリ・IP電話/格安通話サービスの利用傾向についての調査(LINE、2014/2) MVNO向け音声サービス卸条件 スマートフォンでの音声通話相手(複数回答)【1-②】音声サービスの相互接続
MNOが音声サービスを相互接続し電話番号発行及び料金設定権を開放すると、 定額サービスを含め多様かつ柔軟な音声サービスの提供が可能となる。 現状 相互接続が実現し MVNOが電話番号を 取得できるようになると 電話番号 発番 MNOが独占 MVNOが与えられた番号帯の 範囲で自由に発番 料金設定 MNOからの卸価格に 大きく依存 相互接続費用およびMVNO 自身のコスト構造に依存 多様な サービスの 提供 既存携帯事業者が独占 (例:定額通話料、 無料通話、電話会議など) MVNOも提供可能 MVNOに とっての 事業環境 硬直的な高コスト構造 自由度の低い事業運営環境 MNOとの イコールフッティングが 実現【1-③】メールアドレス移行問題
MNPにより携帯電話会社を変えると電話番号は同じものを継続利用できるが、 メールアドレスは通信契約切替と同時に利用できなくなる。 MNP (携帯電話番号 ポータビリティ) による移行 電話番号:090-xxxx-yyyy メールアドレス:abcde@ aaa.ne.jp 電話番号:090-xxxx-yyyy メールアドレス:abcde@ bbb.ne.jp 他携帯電話会社への移行や並行利用が できず、MNPと同時に利用停止となる。 携帯電話会社:A社 携帯電話会社:B社 移行先の携帯電話会社では 全く別のアドレスが提供される【1-③】キャリアメール利用状況
スマートフォン利用者で3割、フィーチャーフォン利用者で約5割がキャリアメール (携帯電話会社のメールアドレス)を利用している。日常的な通信手段に対しては 生活に支障のないよう配慮をすべきではないか。 出所: 2014年度 携帯電話の利用実態調査(情報通信ネットワーク産業協会、2014/7) メール種類別の利用率 (複数回答)【1-③】固定ブロードバンドの状況
固定ブロードバンドにおいては既に廉価でのアンバンドルが実現している。 携帯電話でも同様にアンバンドルを進め、利用者に選択権を与えるべき。 インターネット 接続先を変更 ISP: C社 ISP: D社 メールアドレス:[email protected] メールアドレス:[email protected] 接続契約がなくなっても廉価* で継続提供。D社アドレスへの メール転送設定も可能。 接続先を変えたことで D社が新規に提供 両方のメールアドレスを 利用できる * ブロードバンドISPにおけるメールサービスのみ提供価格は以下。So-net:100円、ぷらら/ODN/BIGLOBE/ DTI: 200円、OCN/@nifty:250円、ASAHIネット:300円、au one net/BB.excite:380円【2-①】MNP転出手数料の現状
MNOにおけるMNP転出手数料は最低で2,000円、最高で6,000円。手数料設定は MNOの裁量。 * 携帯電話機購入を伴わない新規契約後、90日以内の場合は5,000円 ** 携帯電話機購入を伴わない契約等で、 契約後翌々請求月末までの場合は5,000円 ***新規契約後6か月以内の場合は6,000円。2014年10月改訂。 NTTドコモ au /KDDI ソフトバンクモバイル ワイモバイル 2,000円* 2,000円* 2,000円** 3,000円*** 主要MNO4社におけるMNP転出手数料の設定額【2-①】海外におけるMNP転出手数料
OECD加盟国の76%にあたる26か国では、消費者はMNP転出に際して手数料を負 担していない。
出所:Number Portability Implementation in Europe(CEPT/ECC Working Group Numbering & Networks、2014/3)、 OECD COMMUNICATIONS OUTLOOK 2013(OECD、2013/7)、Wikipedia英語版、KDDI総研
【2-①】MNP転出手数料国際比較
MNP転出手数料を徴収する国の間で比較しても、日本の手数料は高い。システム 運用コストと手数料収入を検証・見直しが必要ではないか。
注: 日本円への換算レートは2015/1/25時点
出所:Number Portability Implementation in Europe(CEPT/ECC Working Group Numbering & Networks、2014/3)、 OECD COMMUNICATIONS OUTLOOK 2013(OECD、2013/7)、Wikipedia英語版、KDDI総研
MNP転出手数料国際比較 (手数料徴収するOECD加盟国のみ比較)