招待論文
コネクテッドカーサービス実現に向けた LTE V2X 技術
工藤 理一
†a)安川 真平
†丸小 倫己
†Huan WANG
††永田 聡
†中村 武宏
†LTE V2X for Realization of Connected Car Services
Riichi KUDO
†a), Shinpei YASUKAWA
†, Tomoki MARUKO
†, Huan WANG
††, Satoshi NAGATA
†, and Takehiro NAKAMURA
†あらまし 高度道路交通システム(ITS: Intelligent Transport Systems)の更なる発展のため,車とあらゆる ものを接続するV2X(Vehicle to Everything)通信を利用したコネクテッドカーのサービスに期待が高まって いる.日本は官民ITS構想・ロードマップにおいて,世界一のITSを構築・維持することを目標に掲げており,
これまで自動料金収集(ETC: Electronic Toll Collection System)のARIB STD-T75や,ITSコネクトでは
IEEE802.11技術が実用化されるなど無線通信の利用は着実に拡大しつつある.このような中,3GPP(Third
Generation Partnership Project)において,LTE(Long Term Evolution)のセルラー通信・端末間の直接通 信を用いたLTE V2X通信の検討が進み,2017年3月にコア技術の仕様化が完了した.LTE V2Xは,携帯基
地局とのUplink/Downlink通信と,車両同士の狭域での直接通信の両方をサポートしており,安全にかかわる
ユースケースの利用について検討が進んでいる.本論文では,3GPP Release 14におけるLTE-V2X標準化概 要について,これまでのITSにおける通信技術と比較しつつ解説し,LTE V2X技術の各要素技術等について計 算機シミュレーションにより評価した結果を示し,その特徴を明らかにする.
キーワード LTE V2X,コネクテッドカー,ITS,DSRC,3GPP
1.
ま え が き車両と人と道路の間で情報をやり取りし,一体のシ ステムとして構築する高度道路交通システム(
ITS:
Intelligent Transport Systems
)の検討が自動車の普 及とともに長く検討されてきた[1]
〜[3]
.ITS
とは,道 路交通の安全性,輸送効率,快適性の向上等を目的に,最先端の情報通信技術等の活用したシステムであり,
先進の通信技術を用いて更なる発展が期待されている.
更に,世界的に自動走行の実用化が検討されつつあり,
日本も官民
ITS
構想・ロードマップ[4]
において,自 動走行も含めた世界一のITS
を構築・維持することが 目標に掲げられている.このような中,2017
年3
月†(株)NTTドコモ,横須賀市
5G Laboratory, NTT DOCOMO, INC., 2–3 Hikarinooka, Yokosuka-shi, 239–8536 Japan
††ドコモ北京研究所,中国
DOCOMO Beijing Communications Laboratories Co., Ltd., 7/F, Raycom Infotech Park Tower A, No. 2 Kexueyuan South Road, Haidian District, Beijing, 100190 China a) E-mail: [email protected]
DOI:10.14923/transcomj.2017JBI0002
に
3GPP
においてLTE V2X
のコア技術の標準仕様 化が完了した.V2X
とは車両とあらゆるものの間の 通信(Vehicle to Everything
)の略であり,車両と車 両(V2V: Vehicle to Vehicle
),車両と路側機(RSU:
Road Side Unit
)(V2I: Vehicle to Infrastructure
),車両とネットワーク(
V2N: Vehicle to Network
),車 両と歩行者(V2P: Vehicle to Pedestrian
),に整理さ れる.V2X
は,従来のITS
技術整理では,V2I
とV2V
をそれぞれRVC
(Road-Vehicle Communication
)とIVC
(Inter-Vehicle Communication
)[5]
として定義 することもある.基本的にはV2X
はITS
のうち安全 に関わる遅延や信頼性の要求がある通信に用いられる.日本では,道路交通情報通信システム(
VICS: Ve- hicle Information and Communication System
)[6]
と電子料金収受システム(
ETC: Electronic Toll Col-
lection System
)[7]
〜[9]
がITS
として広く知られて いる.これらはV2I
通信に対応する.VICS
は1996
年から情報提供サービスを提供しており,FM
多重放 送による広域配信及び電波ビーコン及び光ビーコンを 用いたスポット通信により,車両に渋滞情報,規制情図1 ITSのための無線通信技術の概略図 Fig. 1 Wireless communication technologies for ITS.
報,駐車場情報などの道路交通情報を配信してきた.
一方,
ETC
は2001
年から運用開始されており,有料 道路のゲートにおいて通行車両の料金の収受を可能に し,高速道路の出入りにおける交通渋滞の緩和を実現 するとともに,柔軟な料金設定を可能とした.更に,V2I
及びV2V
に対応するITS
コネクト[10]
が2015
年からサービス開始した.図
1
にLTE V2X
を含めたITS
用の無線通信技術の 概略図を示す.大きく広域通信,狭域通信の二つに分 類している.広域通信としては,VICS
に用いられるFM
多重通信[11]
と3G
やLTE
に対応するセルラー 基地局通信を分類した.これらは基地局がサポートす る通信エリアが広域であり,基本的には共通の情報を 多くの車両に伝達するのに効果的となる.FM
多重通 信のピークスループットとしては,16 kbps
,5
分で100 KB
程度のデータの配信に用いられる.LTE
では,下り回線として空間的に単一の信号経路を用いる仮 定で,
75.4 Mbps
ものピークスループットが20 MHz
帯域で到達でき[12]
,空間的に複数の信号を多重す るMIMO (Multiple-Input Multiple-Output)
技術やCA (Carrier Aggregation)
技術により更にピークス ループットを向上させることも可能である.狭域通 信としては,高速道路の出入り口のゲートなどRSU
と通過する車両との間のV2I
通信として,光ビーコ ン[13], [14]
と電波ビーコン[9]
,V2V
も含め数十〜数 百m
程度をサポートする通信として,IEEE802.11
及 びLTE V2X
を挙げている.本論文では,特に
ITS
無線技術として電波ビーコ ンSTD-T75 [9]
とIEEE802.11
のうち車両環境に特 化して策定されたIEEE802.11p [15]
を従来技術とし て紹介する.STD-T75
は,狭域通信(DSRC: Ded- icated Short-Range Communication
)システムとし て仕様が策定された.ETC
のピークスループットは1 Mbps
となっており,ゲートと通過する車両の間を 高品質に接続することが可能である.IEEE802.11
と しては,図1
に示すようにITS
コネクト,RC-005
,DSRC/WAVE (Wireless Access in Vehicular Envi- ronments)
を挙げている.ITS
コネクトは前述のとお り商用化されており,IEEE802.11-2007 [16]
を参照し て760 MHz
帯で10 MHz
の帯域幅での通信を実現し ている.規格としてIEEE802.11p
を参照していない ものの,10 MHz
帯域幅を用いたITS
用の通信であ り,通信特性としてはIEEE802.11p
と同等と考えら れる.RC-005 [17]
は日本における5.8 GHz
のV2X
実験用ガイドラインであり,IEEE802.11p
を用いて いる.DSRC/WAVE
(海外では単にDSRC
と呼称す ることが多い)はIEEE802.11p
及び,上位レイヤの セキュリティ,ネットワークサービス,マルチチャネ ルオペレーション等を規定したIEEE1609 [18]
と合 わせた規格を指す[19]
.DSRC
は前述のように日本で は一般にSTD-T75
を指すため,混同を避けるため本 論文では,STD-T75
,IEEE802.11p
とそれぞれ呼称 する.本論文で取り扱う
LTE V2X
技術は,広域通信と表1 2.以降で使用する略語一覧 Table 1 Acronyms list used after Section 2.
近距離通信の二つに対応する.
LTE V2X
の広域通 信では,基地局との上り回線(UL: Uplink
)と下り 回線(DL: Downlink
)が用いられ,端末(UE: User Equipment
)間での直接通信はUL/DL
と対比する形 でサイドリンク(SL: Sidelink
)と呼称する.UL/DL
の通信については,2009
年LTE
の初期リリースで あるRelease 8
(Rel-8
)において基本となる仕様が策 定された.SL
については,2012
年Rel-12
において 端末間の直接通信として初めて仕様化され[20]
〜[22]
,Rel-14
において,LTE V2X
として仕様が策定され た.LTE V2X
は安全に関わるユースケースをサポー トするため,DL/UL/SL
のいずれのシナリオでも,車両のモビリティに対応しながら低遅延・高信頼の性 能が実現できるよう機能が定められている.国際標 準としては
ITS
が交通の管理と安全を発展させるた め,ISO
(International Organization for Standard- ization
)TC204 WG16
が1992
年に設立され,各国 のITS
システムに関する標準化要請に対して対応を 行っている[23]
.V2X
で用いられるメッセージにつ いても取り扱われており,欧州のETSI
(European Telecommunications Standards Institute
)[24]
で定 められたV2X
メッセージの利用を基本とし作業が行 われている.以 下 ,本 論 文 の 構 成 を 述 べ る .
2.
で は ,従 来 のITS
用 無 線 通 信 技 術 と し て ,ARIB STD-T75
とIEEE802.11p
を概説する.3.
では,Rel-14
におい て仕様化されたLTE V2X
技術を中心にITS
に利用可 能なLTE
技術について説明,4.
で,Rel-14
の評価シ ナリオについてそれぞれ説明する.5.
ではLTE V2X
の性能について計算機シミュレーションによる評価結 果を示し,6.
において本論文の結論をまとめるととも に,LTE V2X
の今後の発展について述べる.2.
以降 で用いる略語のリストを表1
に記載する.2.
従来のITS
無線通信技術ITS
に用いられてきた従来の無線通信について概説 する.5.8 GHz
の電波ビーコンとしてETC
やVICS
として用いられてきたSTD-T75
,及び,車両通信用 に標準化規格として仕様化されたIEEE802.11p
につ いて述べる.2. 1 ARIB STD T-75
2001
年9
月にARIB
にて策定された.ETC
によ る有料道路の自動料金収集及びVICS
として用いら れており,車両通信端末(本論文では,UE
として定 義する)と路上機との間の通信(V2I
)を実現してい る.表2
にSTD-T75
の通信の概要を示す.同期はフ レームに対して行われ,変調方式はASK
またはπ/ 4
シフトQPSK
が用いられる.データレートはASK
で1.024 Mbps
,π/ 4
シフトQPSK
で4.096 Mbps
,0.78125ms
を単位とするスロットを構成する.誤り訂 正はBCH
符号,スロット割り当てはRSU
が実行す る.図2
にSTD-T75
による通信を表す模式図を表す.STD-T75
では,5 MHz
幅の14
個のチャネルを定め表2 STD-T75とIEEE802.11p概要 Table 2 Overview of STD-T75 and IEEE802.11p.
図2 STD-T75による通信を表す模式図 Fig. 2 Resource usage image in STD-T75.
ており,高い周波数(
U1
からU7
)が車両通信端末UE
から路上機RSU
への上り回線,低い周波数(D1
からD7
)がRSU
からUE
への下り回線となる.それ ぞれペアとなるチャネルは固定であり,図2
に記載の ように,U1
とD1
のように同じ数字のチャネルがペ アとなり,RSU
とUE
との間で,アダプティブスロッ テドアロハ方式[9]
による通信を行う.アダプティブ スロッテドアロハ方式では,上りと下りの回線を用い,RSU
はエリアを通過する車両に対し,フレームコン トロールメッセージスロット(FCMS
)を基本フレー ム構成の先頭に送信し,UE
に対しメッセージデータ スロット(MDS
)を割り当てることで,複数の車両と の高信頼通信を実現している.図2
ではUE-A
からUE-C
に対し,上り回線と下り回線でデータをやり取 りする例を示している.下り回線のFCMS
を起点と図3 IEEE802.11pによる通信を表す模式図 Fig. 3 Resource usage image of IEEE802.11p.
して割り当てられたリソースで
UE
が上り下りで同じ 時間を使うことなく通信している.2. 2 IEEE802.11p
IEEE802.11p
は,無線LAN
の標準化規格をもとに 策定された標準化規格であり,車両通信用にITS
ア プリケーションに利用されることを想定して仕様化 された.無線LAN
との大きな違いは基本チャネルが10MHz
で運用されること,及び基地局(BSS
)との 接続確立を行わずに周辺車両へ送信可能となる点があ げられる.ただし,同時に通常の無線LAN
の認証プ ロセスがないため,MAC
サブレイヤより上位のアプ リケーションで対応する必要がある.表
2
にIEEE802.11p
の通信の概要を示す.同期は フレームごとに行われ,フレーム検出,周波数及び時 間同期,チャネル推定を行い,続くデータフレームの 復号が行われる.OFDM
を用いており,周波数軸に 複数のサブキャリアが生成され,変調方式はBPSK
から64QAM
までのIEEE802.11-2007
において規定 される規格を用いることができる.誤り訂正は畳み 込み符号またはLDPC
符号が利用できる.図3
にIEEE802.11p
による通信の模式図を表す.フレーム の先頭にある信号部はプリアンブルと言われる制御信号であり,フレームごとに同期確立し,プリアンブ ルのチャネル情報を元に,続くデータチャネルが復号 される.図
3
では,CSMA/CA
に基づき,UE-A
〜UE-E
の車両が周辺の車両にマルチキャスト送信を 行っている例を示している.無線LAN
とは異なり,宛 先局の指定がないことからパケットの正常受信を示すACK
信号の送信がなく,UE
はあらかじめ定められ たBack-off
タイムと変調方式のルールで送信を行う.3. LTE V2X
技術LTE V2X
技術を説明するため,携帯基地局との通 信を介するUL/DL
と,直接通信のSL
のケースでそ れぞれ整理を行う.表3
にLTE
におけるDL
,UL
,SL
の概要を示す.LTE
システムは,通信を行う状態 において,端末と基地局,及び端末間はシンボルレベ ルでの同期を確立していることを前提としており,フ レームごとに同期を行うフレーム同期型のシステムで あるSTD-T75
やIEEE802.11p
と異なる.このため,時間的・周波数的にあらかじめ決められたリソースブ ロックを自律的に選択するか,スケジューリングした うえで割り当てられるかし,送受信を行うこととなる.
復調用の参照信号は
1 ms
のサブフレーム内に分散し て配置される.図
4
にLTE V2X
でサポートされるセルラー基地局 通信におけるUL/DL
及び,直接通信のSL
信号の模 式図を示す.本図では簡単のため,制御チャネルとデー タチャネルのみ図示した.LTE
ではUL/DL/SL
とも に複数のシステム帯域幅がサポートされており,1.4
,3
,5
,10
,20 MHz
がサポートされている.UL/DL
はFDD
の場合の例である.図4 (a)
はOFDMA
に表3 LTE DL/UL/SL概要 Table 3 Overview for LTE DL/UL/SL.
よる
Downlink
通信を表しており,サブフレームの先 頭にある下り制御チャネル(PDCCH
)を用いて対象 となる端末(UE-A
〜UE-D
)に下りデータチャネル(
PDSCH
)の時間・周波数リソースを割り当ててい る様子を示している.図4 (b)
は,SC-FDMA
による図4 LTE V2Xにおける(a) DL (b) UL (c) SL通信の 模式図
Fig. 4 Resource usage image of LTE V2X (a) DL, (b) UL, and (c) SL.
表4 V2X要求条件[26]
Table 4 Requirements of V2X [26].
UL
通信の模式図を表しており,上端と下端には上り 制御信号(PUCCH
)が配され,中央部を上りデータ チャネル(PUSCH
)に用いることができる.LTE
は 基地局が上下リンク両方の無線リソースを管理・割当 制御しており,UL
で送信に用いられるリソースは,DL
におけるPDCCH
により指定され,通信品質は基 地局が管理している.図4 (c)
はSL
通信を表してお り,Uplink
と同様SC-FDMA
による通信となる.SL
通信では受信端末がデータチャネルを検出するための 制御チャネル(PSCCH
)がデータチャネル(PSSCH
) と隣接した周波数を用いて送信される.Uplink
と同 様に基地局が指定する管理されたリソース利用とす ることもできる一方,端末が自律的に選択することも 可能であり,具体的な機能は3. 3
において説明する.UL/DL/SL
のいずれにおいても,互いに同期がとれ ている条件であるため,時間的周波数的に無線リソー スを効率的に利用可能である.3. 1 LTE V2X
の要求条件LTE V2X
が実現するべきユースケース・運用シナ リオ・要求条件は3GPP
においてSI
(Study item
)と して議論されている[25], [26]
.表4
に3GPP
で規定さ れた要求条件を示す.V2X
は安全に関わるユースケー スをサポートするため,100 ms
のような比較的短いE2E (End to End)
遅延が想定されており,Pre-crash sensing
や隊列走行などの特定の用途では20 ms
と非 常に小さいE2E
遅延が想定されている.このような 低遅延通信は特に基地局経由通信においては実現が困難であり,
Rel-13
までのLTE
仕様では基地局経由・直接通信いずれにおいても十分短い
E2E
遅延を実現 できない場合がある.また,直接通信では十分な通信 レンジの実現が大きな課題の一つであり,例えば4
秒 の応答時間を車速250 km/h
でサポートするためには 同方向の車両間で278 m
,対向車線の車両との通信で は556 m
の通信レンジを実現する必要がある.3. 2 LTE V2X (UL/DL)
基地局経由
V2X
通信では,UL
にユニキャスト,DL
にユニキャストないしMBMS
によるブロードキャス トを利用することが想定されている[27]
.MBMS
はRel-9 LTE
のMBSFN
及びRel-13 LTE
のSC-PTM
によってサポートされている[28]
.MBSFN
は複数セ ルを束ねてMBSFN
エリアを形成し,同一パケットを 協調送信する技術であり,SC-PTM
はセル単位で独 立にマルチキャスト配信を行う.下りマルチキャスト では複数UE
に対する送信を行うためMIMO
空間多 重は適用されず,単一アンテナポートでの送信ないし 送信ダイバーシチ技術が用いられる.UL/DL
通信においては遅延の削減が課題であり,基地局からのリソース割り当てに係る遅延を削減する ため,
MBMS
の制御遅延削減技術及びUL
における 周期送信をサポートするSPS
技術の拡張が仕様化さ れている.また,MBMS
のためマルチキャストトラ ヒックを所要基地局へ配信するネットワーク機能はコ アネットワーク内に配置されるため,基地局とブロー ドキャストのサーバセンターとの間の通信のやり取り により遅延が生じる.そのためこれらの機能を基地 局の近くに設置する方法(Localized MBMS
)も検討 された[27], [29]
.有線区間の遅延を削減する技術は,MEC
(Multi-access Edge Computing
)としての検 討も進められており,ETSI
がリファレンスアーキテ クチャやAPI
などの仕様策定を行っている[30]
.上り 送信電力制御は従来のLTE
と同様にUE
が基地局と の伝搬ロスに基づいて送信電力を制御するオープン ループ型送信電力制御及び基地局の動的な制御(送信 電力制御コマンド)によるクローズドループ型送信電 力制御が用いられる.3. 3 LTE-V2X (SL)
LTE V2X
のSL
通信について,(1)
同期(2)
高速移 動への対応(3)
通信距離の改善(4)
パケット衝突回避に ついて説明する.LTE V2X
のSL
通信は,Rel-12/13
の直接通信[20]
におけるLTE D2D
技術を基にしてい る.しかし,Rel-12 D2D
がUL
通信の周波数帯の中図5 Rel-14 V2XのSL端末間同期(GNSS優先の場合)
Fig. 5 SL synchronization in Rel-14 V2X (GNSS con- figured with highest priority).
図6 直接通信のサブフレーム構成 Fig. 6 SL subframe structure.
での
SL
運用を想定していたのに対し,Rel-14 V2X SL
通信では,SL
専用の周波数での運用を想定してい る.そのためRel-12 D2D
ではUL
通信との共存のた め基地局の支援が重要となっていたのに対し,Rel-14 V2X SL
通信は基地局なしでの運用が最適化されてい るなど,その機能は大きく異なる.(1)
端末間同期SL
通信は,前述のように同期を確立したうえで通 信を行うため,フレームごとに同期を行うシステム よりも少ないオーバーヘッドでチャネルアクセスが実 現できる.端末間同期を実現するため,Rel-14
ではGNSS
,基地局同期信号,SL
同期信号の3
種類の同 期ソースが利用できる[28], [31]
.複数同期ソースが利 用できる場合には,GNSS
を最優先して同期の共通化 を図る形態が想定されている.図5
に示すようにSL
同期信号による同期リファレンスのリレーもサポート されており,トンネル内などGNSS
が利用できない場 合もGNSS
同期をトンネル内端末にリレーすること が可能である.(2)
高速移動環境への対応図
6
に示すとおり,SL
はUL/DL
と同様に1 ms
の サブフレーム長で,サブフレームあたり14
シンボルが 時間多重されており,最終シンボルは無送信として送 受の切り替え時間やタイミング調整に用いられる[32]
.Rel-12 SL
では図6 (a)
のとおり,サブフレームあたり2
シンボルを用いて復調用参照信号(DM-RS)
が時間 多重されていた.しかし,高速移動環境で復調精度が低下することが確認されたため,
LTE V2X
のSL
通信 ではDM-RS
の時間方向の高密度化が行われ,図6 (b)
のとおり,4
シンボルがDM-RS
多重に用いられてい る[32]
.この時間方向に高密度化されたDM-RS
構成 により対向車線との車両の通信で想定される高ドップ ラー環境への復調精度を改善する.(3)
長距離通信のサポートSL
では,UL
と同様,SC-FDM
がOFDM
と比較 して低いPAPR
が実現できるため,少ないバックオ フ電力での高効率な送信が可能である.更に,図4 (c)
に示したとおり,送信を行おうとするUE
がPSSCH
と
PSCCH
を隣り合う周波数リソースを用いる構成をサポートし,低い
PAPR
を実現している[33], [34]
. 送信電力制御はUL
通信で用いられている開ループ型 送信電力制御を用いるが,UL
通信とSL
通信の同一 周波数内での共存時のみに基地局に対する伝搬ロスを 補償する電力制御を適用することが想定されており,SL
通信専用周波数での運用では固定送信電力の設定 が用いられることが想定される.PSCCH
の信頼性を 向上させるため,PSCCH
はPSSCH
に対して3 dB
高い電力密度で送信される[34]
.また時間・周波数ス ケジューリングがサポートされているため,狭帯域で 送信を行うことにより広帯域送信と比較して高い送 信電力密度での送信が可能となる.加えて,HARQ
(
Hybrid ARQ
)による繰り返し送信がサポートされ ている[34], [35]
.SL
通信ではACK/NACK
フィード バックを用いないオープンループでの繰り返し送信の みがサポートされており,繰り返し送信ごとに異なる 符号語が用いられる.具体的には,基本となる低レー ト符号に基づき符号化出力をパンクチャリングするこ とで送信ごとに異なる符号語が生成される.SL
通信 では送信ごとに用いる符号語に対応する識別子(RV:
Redundancy Version
)の順番があらかじめ定められ ており,受信機は最大2
回送信されたパケットをソフ ト合成することが可能である[36]
.またチャネル符号 化にターボ符号を用いることで,高い符号化利得を実 現できる.(4) SPS
とパケット衝突回避技術SL
における送信方法では,基地局によるスケジュー リングと,端末による自律リソース選択による送信が サポートされている[34], [36]
.基地局スケジューリン グではセル内のリソース衝突を回避するようにUL
と の周波数共有が効率的に行える.一方で,セル間や基 地局カバレッジ内外の端末間でのリソース衝突を効率図7 LTE V2XのSL通信におけるSPSとリソース選択の概略図 Fig. 7 SPS and resource selection for LTE V2X SL.
的に回避することが難しい.本論文では,シナリオに 依存せず利用可能な自律リソース選択について説明 する.自律リソース選択では,
SPS
と受信電力測定 の組み合わせにより通信が行われ,パケットごとに制 御チャネルであるPSCCH
と対応するデータチャネ ルとなるPSSCH
を周波数多重して送信する.UE
はPSCCH
により,対応するデータチャネルのリソース及び周期的な送信リソースの予約を通知できる.送信 を行う
UE
は,このリソース予約情報と一定時間測定 された干渉レベルに基づき,空きリソースを決定し,この中からランダムに選択して送信する
[36]
.このと き,空きリソースとして考慮する選択時間は[ T
1, T
2]
で定義でき,T
1≤ 4 [ms]
,20 ≤ T
2≤ 100 [ms]
とし て与えられる.SPS
による定期送信周期は100 ms
を 基本とし,20, 50, 100, 200 . . . , 1000 ms
が設定でき る.図7
にSL
通信の概略図を示す.SL
の周波数チャ ネルを構成するチャネル数を3
,選択ウィンドウサイズ を20 ms
,SPS
の周期を100 ms
とした例である.送 信時に選択するリソースとなる図中の1 ms
幅の四角 いスロットを以下,サブフレームリソースと定義する.図
7 (a)
に示したSPS
による周期送信から説明す る.本例では選択された送信リソースと同一周波数リ ソースを用いて100 ms
周期で送信を行う.周期送信 が長時間継続するとUE
の移動などに伴い発生したリ ソース衝突が継続する恐れがあるため,一定の条件で リソース再選択がトリガされる.具体的には,5
から15
回の中でランダムに設定されるリセレクションカ ウンタに基づいて,カウンタが満了するまで周期送信 を続ける.リセレクションカウンタ分の送信が終わる と,リセレクションキープ確率[35]
で同じリソースでの送信を再び行い,キープにならなかった場合,再度 リソースの選択を行う.
次に図
7 (b)
の例を用いてセンシングに基づくリ ソース選択について説明する.UE
は過去の1
秒間の センシング結果から選択時間内のサブフレームリソー スの候補から干渉が高いものを除外し,残ったサブフ レームリソースから送信に用いる候補を選択する.サ ブフレームリソース候補の除外は図に示したとおり三 つのステップから構成される.(1) SL
は半二重通信で あるため,送信を行っている時間に受信を行うことは できない.UE
は最初に,送信を行っている時間のサ ブフレームリソースを候補から除外する.図では,横 縞で示される長方形が自UE
の送信リソースであり,次の送信周期に対応する濃い灰色で色付けされたサブ フレームリソースが測定不可候補として除外される.
(2) PSCCH
によりリソースが予約されているサブフ レームリソースで,かつ対応するPSSCH
の参照信号 の受信電力(PSSCH-RSRP)
値があらかじめ定めたし きい値より高いものを,候補から外す.図では黒で色 づけされたサブフレームリソースが除外される.全て のUE
が100 ms
周期で送信する場合には直近の送信 信号による予約のみを考慮すれば十分である.しか し,実際には1
秒などの長周期のSPS
が混在し得る ため,1
秒前の信号による予約を考慮する必要がある.(3)
サブフレームリソースの受信信号強度(S-RSSI)
を100 ms
周期で評価した結果から,しきい値を超える リソース候補を除外する(図中では斜線で塗られたブ ロックに対応).ここで(2)
及び(3)
のステップにおい てUE
は以上のリソース候補除外をそれぞれ全リソー スの20%
以上が候補として残るようにしきい値の調整を行う.最後に残った候補からサブフレームリソース をランダムに選択することでパケット衝突を回避する.
このようなセンシングを遅延なく行うためには
SL
通信をバックグラウンドでモニタする必要があり,ハ ンドセット端末を送信に用いるP2V
通信では端末消 費電力が課題となる.そのためセンシングウィンド ウ内で一部のサブフレームのみをモニタするPartial sensing
も仕様化されている[34], [35]
.また,自律リ ソース選択では,送信端末数や送信頻度が増加すると,干渉信号の増加により通信品質の低下を招くため,混 雑時にはメッセージ送信頻度などの無線パラメータを 制限する
Congestion control
のメカニズムもサポー トされている[34], [35]
.4. 3GPP
のLTE V2X
評価シナリオ3GPP
ではリンクレベル及びシステムレベルシミュ レーションにより通信距離やパケット到達確率などの 評価を行うため,V2X
に特化したシミュレーションモ デルを規定した[27]
.本章では,3GPP
で想定してい たモデルを概説する.4. 1
トラヒックモデルETSI
にて規定された車両の位置や速度などを定期 的に送信するために用いられるCAM
と交通状況に 応じてそれを通知するDENM
の2
種類のV2X
メッ セージ[24]
を模擬し,それぞれ周期トラヒックとイベ ントトリガトラヒックの2
種類のモデルを規定した.周期トラヒックは
100 ms
ごとの190 bytes
のデー タサイズを基本とし,500 ms
周期(5
回に1
回)で300 bytes
のデータをパケットで送信する.パケット サイズはアプリケーションレイヤでのパケットサイズ であり,MAC
ヘッダーなど下位レイヤのオーバーヘッ ド[36]
は含まれない.送信ごとのパケットサイズの変 動は一定周期ごとに生じるセキュリティ情報によるパ ケットサイズ増を模擬したものである.4. 2
評価シナリオ図
8
に示す都市環境及び郊外の高速道路環境の二 つの評価シナリオが規定されている.都市環境は片側2
車線,車線幅3.5 m
の道路が250 m × 433 m
のグ リッドに配置されたモデルで,高速道路環境は片側3
車線,車線幅4 m
の直線道路を模擬したモデルであ る.いずれの環境でも,車両は道路上に2.5
秒速間隔 で配置される.車両速度は都市環境で15 km/h
ないし60 km/h
,高速道路環境で70 km/h
ないし140 km/h
を仮定しており,低速時ほど車両密度が高い環境と図8 V2X評価シナリオ(a)都市環境(b)高速道路環境 Fig. 8 V2X evaluation scenario (a) urban (b) high-way.
なっている.
基地局は
3
セクタ/
サイト構成であり,都市環境で は500m
のサイト間距離(ISD)
で配置され,高速道路 環境では35m
離れた高速道路沿いに1732m
で配置さ れる.基地局アンテナとして2
送信/2
受信のセクタ アンテナ,端末アンテナとして1
送信/2
受信の無指向 性アンテナが,それぞれ用いられる.なお,端末の最 大送信電力は23 dBm
と仮定される.遠方からの干渉 を考慮するため,基地局及び車両はWrap around
で 繰り返し配置される.キャリア周波数は,基地局経由通信では
2 GHz/
10 MHz
帯域幅,直接通信では6 GHz/10 MHz
帯域 幅が用いられる.2 GHz
は既存のLTE
ネットワーク の利用を想定し,6 GHz
は直接通信を用いたV2X
専 用のSL
周波数を想定したものである.4. 3
評 価 指 標V2X
では送信端末(車両等)から一定距離範囲内の 端末に対して一定遅延時間内にパケットが到達する確 率として,パケット到達率(PRR: Packet Reception
Ratio)
が評価指標として用いられる.4. 1
に示した周期トラヒックでは
190 bytes
,300 bytes
の2
種類 のサイズのパケットが周期的に発生するが,簡単のた めPRR
はパケットサイズによらない指標として統計 処理される.シミュレーションにおいては,目標とす る最大送受車両間距離(基地局経由通信の場合は下 りメッセージ配信範囲,直接通信の場合は通信レンジ に対応)として,各シナリオで想定した最大相対速度(都市環境で
120 km/h
,高速道路環境で280 km/h
) での4
秒車間におおむね相当する,150 m
(都市環境)及び
320 m
(高速道路環境)を用い,最大遅延時間と しては100 ms
と仮定した.送受車両間距離はLOS
,NLOS
いずれの場合も送受車両間の直線距離が用いら れる.5. LTE V2X
の性能評価本章ではこれまで概説してきた
LTE V2X
の性能に ついて,計算機シミュレーションにより評価した結果 を示す.はじめに基地局経由通信,続いて直接通信に よるSL
通信の評価結果を示す.基地局通信は,UL
とDL
により構成される.DL
がマルチキャストをどの ように行うかV2X
としての課題があるのに対し,UL
は基本的には従来のLTE
と同様のユニキャストによ り実施されるため,本論文ではDL
に着目する.直接 通信(SL
)については,一部IEEE802.11p
と比較す るとともに,3GPP Rel-14
におけるシミュレーション 条件に基づいた評価結果も用い,基本特性を明らかに する.5. 1
基地局経由通信(a)
基地局経由通信での下りメッセージ配信方法 基地局経由通信において,UL
はユニキャスト,DL
はユニキャストまたはマルチキャストが用いられ,基 地局が形成するいずれかの通信セルに接続している.DL
においてV2X
メッセージは送信端末周辺の一定 範囲内(下りメッセージ配信範囲)に配信される必要 がある.しかし,受信対象の車両は必ずしも同一セル に接続していない.そのためネットワーク側で適切な セルにデータを転送して配信する必要がある.評価に 用いる3
種類のV2X
メッセージ転送方法を図9
に示 す.図9 (a)
は送信元の車両が接続する基地局の隣接7
セルにデータを転送する方法であり,図9 (b)
,(c)
はUE
の位置情報と関連付けるGeo-based
の配信方 法である.図9 (b)
は送信元車両の位置情報と下りメッ セージ配信範囲に基づいて転送する隣接セルを決定し,図
9 (c)
では更に宛先となる全車両の位置情報に基づ図9 V2Xメッセージ転送セルの決定方法 Fig. 9 Target cell selection for V2X massage multicast.
いて,下りメッセージ配信範囲内に受信対象車両が存 在しないセルでは配信を行わないことで配信セル数を 削減する.受信車両の情報を用いる
(c)
では,周期的 な上りパケット送信を用いて,全車両からGPS
で測 位した位置をモニタするなどの必要がある.このような他セルへのメッセージ転送の必要性があ るため,マルチキャストを用いた場合でも
DL
には多 くの容量が必要となりうる.更に,DL
にユニキャス トを用いる場合はセル内の車両数分のメッセージ配信 が必要になるため,マルチキャストよりも大きな容量 が必要となる.(b)
システムレベル評価都市環境での
100 ms
遅延時間内のパケット到達率 をシステムレベルシミュレーションで評価した.トラ ヒックモデルは4. 1
に記載した周期トラヒックモデル を用いた.マルチキャストにおける課題を評価しやす くするため,DL
の周波数帯域はマルチキャストのみ に用いられるものとし,UL
通信に対応して下りメッ セージ配信範囲の車両にDL
通信を行うシステムを 仮定している.評価はトラヒックが支配的となるDL
を対象とし,マルチキャスト(SC-PTM [27])
を適用 した場合のパケット到達率とリソース占有率を示す.SC-PTM
の送信は単一アンテナポートを用い,送信ダイバーシチを適用した.評価諸元は
4.
で述べた諸 元を元に,都市環境で車速60 km/h
の場合の評価を 行った.車両は道路上に2.5
秒速間隔(41.7 m
)で配 置されるため,図8 (a)
に示される道路上で,およそ590
台ものUE
が存在する非常に厳しい通信環境であ る.評価では,帯域幅を10 MHz
,下りメッセージ配 信範囲150 m
を仮定してメッセージ転送セルを決定 した.変調方式を
QPSK
,符号化率は1/2
と1/3
の二 つのケースでリソース占有率を評価した結果を表5
表5 都市環境におけるDLマルチキャスト(SC-PTM) のリソース占有率
Table 5 Resource occupation ratio of SC-PTM for DL multicast transmission in urban environ- ment.
に示す.
7
セル配信シナリオでは,リソース占有率が83%
(R = 1 / 2
)及び87%
(R = 1 / 3
)となり10 MHz
の帯域をほぼ占有している.これに対し,Geo-based
の 配信では,大きくリソース占有率を低下させ,R = 1 / 2
のケースで送信元位置情報による通信セル削減でリ ソース占有率65%
,更に全車両の位置情報を利用す ることで47%
まで低下させている.符号化率1/3
で は,全車両の位置情報を用いることで,64%
までリ ソース占有率を低下させている.図10
には,下り メッセージ配信範囲に対するパケット到達率を評価 した結果を示す.7
セル配信シナリオでは,パケッ ト到達率は下りメッセージ配信範囲150 m
で69%
(R = 1 / 2)
,61%
(R = 1 / 3
)と低い特性となる.こ れに対し,Geo-based
の配信により送信元の位置情報 利用で,75% (R = 1/2)
(77% (R = 1/3)
),全車両 の位置情報を利用することで80% (R = 1 / 2)
(86%
(R = 1 / 3)
)まで向上している.V2X
の多くのユースケースでは高いパケット到達 率が必要とされる.ユースケースによって許容できる 遅延時間は異なり,要求する遅延時間を1
秒以上など 長くすることで,遅延時間内のパケット到達率を向上 させることができる.干渉が大きい環境下ではパケッ ト送信頻度を下げることがパケット到達率向上に有効 であり,干渉が小さい環境下では遅延時間内のパケッ ト送信頻度を上げて受信機会を増やすことが有効であ る.基地局経由通信の広域を対象可能とする利点を生 かし,数秒以上先の情報を配信することで,ある程度 の遅延時間を許容するサービスを提供することが可能 であると考えられる.図10 都市環境におけるDLマルチキャスト(SC-PTM) のパケット到達率評価
Fig. 10 Packet reception rate of SC-PTM for DL multicast in urban environment.
また,本評価では
UE
が在圏/
接続セルからのマル チキャストを受信する前提で評価を行ったが,在圏セ ルが必ずしも最近傍セルではなく所望のパケットが受 信できないケースもあった.例えば図9
のGeo-based
(全車両位置)では送受車両間距離が
150 m
の場合に,パケット到達率が劣化しているが,これは
DL
マルチ キャストでの配信セルとモニタ対象セルとのミスマッ チに起因するものであると考えられる.UE
が複数セ ルに同期し,在圏/
接続セル以外のセルからのマルチ キャストをモニタできるとパケット到達率が改善され ることも期待される.なおこのシナリオにおいては,送受信車両間距離
150 m
の圏内に28
台以上のUE
が存在し,DL
にユ ニキャストを用いる場合には個別にDL
を実施するた め非常に大きなリソースが必要になると考えられる.5. 2
直 接 通 信LTE V2X
として新たに仕様化されたSL
通信の通 信特性を明らかにするため,リンクバジェットによる通 信距離評価と,MAC
サブレイヤのシミュレーション,システムレベルシミュレーションを実施した.
5. 2. 1
ではLTE V2X (SL)
とIEEE802.11p
で達成可能な 通信距離を,リンクバジェットにより評価し,リソー ス選択メカニズムの違いによるパケット衝突特性を,MAC
サブレイヤでのシミュレーションにより評価す る.その上で,5. 2. 2
において物理層を考慮したシス テム評価結果を示す.5. 2. 1 IEEE802.11p
との比較(a)
リンクバジェット本節では
LTE V2X (SL)
とIEEE802.11p
それぞれ でV2V
通信を考え,達成可能な最大通信距離に対応 するリンクバジェットを評価する.最大通信距離はあ らかじめ決定した所要パケット誤り率(PER: Packet Error Rate
)を満たす受信感度を算出し,実効放射電 力と,伝搬モデルを仮定し送受間距離から得られる伝 搬ロスから,受信電力が所要受信感度を上回る送受間 距離として得られる.ここで,送受間距離は送受の端 末間の直線距離である.受信電力と所要受信感度は以 下の式で算出される.受信電力
[dBm]
=
実効放射電力[dBm] −
伝搬ロス[dB] (1)
所要受信感度[dBm]
=
熱雑音密度[dBm/Hz]+
受信機雑音指数[dB]+
10 log
10(
占有帯域幅[Hz]) +
所要SINR[dB] − (
送信アンテナゲイン+
受信アンテナゲイン−
ケーブルロス)[dB] (2) PER 10%
,1%
を実現するSINR
値は,リファレンス となるリンク性能が評価されており[37]
(注1),変調方式 をQPSK R = 1 / 2
とした条件で,それぞれ,5.14 dB
,5.07 dB
,LTE V2X
の性能が高い.IEEE802.11p
とLTE V2X
のパフォーマンスの比較は他にも報告され ており[38]
〜[40]
,3 dB
程度以上のずれとなっている.これは,両方式で適用される誤り訂正符号が異なり,
LTE V2X
で用いられるターボ符号が高い符号化利得 を有することや,LTE V2X (SL)
の方がサブフレーム 内の参照信号密度がIEEE802.11p
よりも高くチャネ ル推定精度が高いことに起因すると考えられる.次に達成可能な通信距離を数式
(1)
,(2)
に基づいて 算出する.ここで伝搬ロスモデルとして,3GPP
で規 定されたSL
によるV2X
通信用のモデルを用い[27]
, 周波数は6 GHz
,システム帯域幅10 MHz
とした.熱 雑音密度−174 dBm/Hz
,受信機雑音指数9 dB
,送受 アンテナゲイン3 dBi
,ケーブルロス0 dB
,送受信ア ンテナ高1.5m
,送信電力23 dBm
,変調方式QPSK (
符号化率R = 1 / 2)
,パケットサイズ300 bytes
,送(注1):[37]では5.9 GHzを対象にリンク評価が行われているが,キャ リア周波数はドップラー周波数にのみ影響があり6 GHzとの性能差は無 視できる.本論文では[27]に合わせリンク評価以外は6 GHzで行った.
図11 所要誤り率を満たす通信距離(6 GHz,QPSK R = 1/2)
Fig. 11 Communication range with target PER of 90% and 99% (6 GHz, QPSK R = 1/2).
受信機間の相対速度
30 km/h
を用いた.LTE V2X (SL)
及びIEEE802.11p
の所要PER 1%
及び10%
を 満たす通信距離を図11
に示す.なお,通信距離を算 出するに当たり,5. 2. 1
の式(1)
で表される受信電力 及び所要受信感度を用いた.図11
より,LTE V2X
はIEEE802.11p
と比較して,LOS
環境モデルにおける所 要パケット誤り率90%
と99%
でそれぞれ112m
,92m
, 長い到達距離が期待できる.NLOS
環境モデルでは,22m
,18m
長く到達できる.すなわちIEEE802.11p
と比較して,LOS
で1.5
倍程度,NLOS
で1.3
倍程 度の改善が得られる.安全に関わるサービスではこの リンク性能が事故回避などの性能に直結すると考えら れる.LTE V2X
の通信範囲が広いのは,前述のとお り所要PER
を達成するSNR
が,LTE V2X
の方がIEEE802.11p
と比較して小さいことに加えて,LTE V2X
では図4 (c)
に示したとおり送信帯域幅を狭くす ることができ,送信電力一定の条件において狭帯域送 信により送信信号の電力密度を高くできることも起因 している.(b)
パケット衝突特性LTE SL
通信におけるセンシングの特徴を明確化するために,高速道路環境による評価モデルにより,
LTE V2X (SL)
及びIEEE802.11p
のMAC
サブレイ ヤでのパケット衝突性能の比較・評価を行う.なお,本評価では図
8 (b)
の高速道路長を1 km
とし,中表6 LTE SLパケット諸元 Table 6 Parametes for LTE SL packet.
央の
200 m
区間に存在するUE
のみを評価対象とし た.各車両は300 bytes
のパケットを100 ms
間隔で 生成しマルチキャスト通信を行う.パケット送信を行 うUE
の通信レンジ(150m
)内に存在するUE
をマ ルチキャスト通信の通信対象とし,図11
の結果から,QPSK R = 1 / 2
のPER 99%
のLTE V2X (SL)
の通 信レンジ254 m
を信号の検出距離,及びパケット衝 突と判定する送受の距離として,LTE V2X (SL)
とIEEE802.11p
の双方に適用する.実際にはLTE V2X (SL)
の制御チャネルはより長い距離まで復号可能で あり,IEEE802.11p
とLTE V2X (SL)
で共通とする ことは,実システムの比較の上では正確な評価では ない.しかしながら単純にCSMA/CA
とLTE V2X (SL)
のセンシングベースのアルゴリズムが,定期通 信に対してどのような特性を有するかを比較する上で は,見通しが立ちやすい.本評価では,高速道路中央 に存在する評価対象UE
が,通信レンジ内のUE
か らパケットを受信している際に,パケット衝突判定レ ンジ(254 m)
内の他UE
から同一サブチャネルでパ ケットを受信する場合をパケット衝突として定義し,パケット衝突が生じなければパケット到達とする.ま た,同一パケットを
2
回送信するケースでは,少なく とも一方にパケット衝突が生じなければパケット到達 とみなす.LTE V2X
のSL
通信における諸元は表6
に示す.具体的には
300 bytes
に対応する占有リソースサイズ のみを定義するものとし,伝搬損失やフェージングは 考慮せず,送信電力制御も明示的には模擬しない.同 表に示すように,変調方式としてQPSK
,符号率1/2
, 及び16QAM
符号化率1/2
を用い,同一サブフレー ム内に周波数多重可能なパケット数(チャネル数)は,QPSK
(R = 1 / 2
)では二つ,16QAM
(R = 1 / 2
)で は三つ(図7
のイメージに対応)となる.リソース割表7 CSMA/CAパケット諸元 Table 7 Parameters for CSMA/CA packet.
り当ては端末による自律リソース選択を用い,半二重 通信により,パケット送信を行っている評価対象
UE
は同一サブフレームの信号を受信できないため,該当 する受信信号は全てパケット衝突とみなす.IEEE802.11p
を参照したCSMA/CA
ベースの通信 の諸元を表7
に示す.同表に示すように,占有帯域幅10MHz
,スロットタイム13 μs
,コンテンションウィ ンドウサイズ(CW) 15
とする.LTE
と同様,MAC
サブレイヤでのシミュレーションを行うため,フレー ム長のみを定義する.QPSK (R = 1 / 2)
及び16QAM (R = 1 / 2)
を用いるものとし,それぞれ477 μ s
及び244 μs
と設定した.図
12
に,1 km
あたりの車両数を50
台から300
台 まで増加させた場合の非衝突判定ベースのパケット到 達率を示す.図8 (b)
の高速道路環境では,1 km
あ たり車両数は70 km/h
,140 km/h
の場合でそれぞれ123
台,62
台である.図11 (a)
より,1 km
あたりの 車両数が増加するにつれて,パケット衝突数が増加し パケット到達率が低下することがわかる.図12 (a)
よ り,両方式共にデータレートの高い16QAM
を用いる ことで,300 bytes
に対して必要な無線リソースを削 減でき,パケット到達率が向上する.パケット到達率95%
において許容できる1 km
あたりの車両数をグラ フから求めると,LTE V2X (SL)
では,QPSK
で116
台,16QAM
で184
台,それぞれ対応できることに対 して,CSMA/CA
では60
台,105
台となり,MAC
サブレイヤでの衝突しない条件で比較して,LTE SL
が1.9
倍,1.7
倍の車両をサポートできることが分か る.なお本評価では物理層を考慮していないため実際には
16QAM
の利用により実現可能な通信距離は短くなる.図
12 (b)
は,100 ms
ごとに2
回送信を行図12 高速道路環境でのLTE V2X (SL)のパケット到 達率(MACサブレイヤ)
Fig. 12 Packet reception rate of LTE V2X (SL) in highway model (MAC sub-layer).
う場合のパケット到達率を示したものである.なお,
IEEE802.11p
に2
回送信の決まったシーケンスは存 在しないため,本評価では,1
回目のパケット送信後,20 ms
〜40 ms
の間のランダム時間待った後,2
回目 の送信を行うものとする.本来はLTE
ではHARQ
の効果で高い符号化利得も期待できるシナリオであ る.しかし,本MAC
シミュレーションは単にパケッ ト衝突のみに注目しているため,その効果は確認でき ない.HARQ
のゲインについては次の5. 2. 2
におい て評価する.図12 (b)
において,1 km
あたり車両数30
台といった低トラヒックモデルで,LTE V2X (SL)
と
IEEE802.11p
共に,パケット到達率99%
以上の高 い到達率が得られている.パケット到達率99%
を満 たすLTE V2X (SL)
で対応する1 km
あたり車両数 はQPSK
で67
台,16QAM
で131
台となる.これはIEEE 802.11p
の1.5
倍,1.8
倍となり,CSMA/CA
よりパケット衝突に対して有効に動作している.一方,2
回送信では無線リソースを多く消費するため,LTE V2X (SL)
もIEEE802.11p
のいずれも,車両数の増 加に対して大きくパケット到達率が低下する.QPSK
を用い,1 km
あたり300
台の条件では,LTE V2X (SL)
がIEEE802.11p
より特性が悪くなる.これは,IEEE802.11p
は通信が非常に混雑した場合,常に誰 かの通信を検出して,送信できずにタイムアウトする ことがあるのに対し,LTE V2X (SL)
は,常にリソー スの選択位置の中から送信を行うため,パケット衝突 が生じやすいことによる.本シミュレーションでは2
回送信/QPSK
の際に確認できるが,車両数を増加さ せ,無線リソースをひっ迫させれば,他の条件でも同 様の結果が得られると考えられる.LTE V2X (SL)
の1
回送信と2
回送信で比較すると,QPSK
と16QAM
に対応するパケットサイズに対し,1 km
あたりの車 両数がそれぞれ140
台以下,217
台以下の条件で2
回 送信が1
回送信を上回るパケット到達率を得る.5. 2. 2
トラヒックモデルに対する評価高速道路シナリオにおいて物理層を考慮したパケット 受信確率を評価することで,
LTE V2X (SL)
通信によ る干渉の影響を考慮した計算機シミュレーションを行っ た.車両の速度及び密度を考慮し,走行速度70 km/h
と140 km/h
でシミュレーションを行った結果を示す.70 km/h
と140 km/h
における2.5
秒の車両間隔は それぞれ48.6 m
,97.2 m
に対応し,1 km
あたりの 車両密度はそれぞれ123.4
台,61.7
台に対応する.制 御チャネル(PSCCH
)とデータチャネル(PSSCH
) の送信帯域幅をそれぞれ360 kHz
,2.34 MHz
とする,サブチャネル数固定の条件で評価を行った.トラヒッ クモデルは
4. 1
で述べた周期トラヒックモデルを用 い,パケットサイズ190 bytes
,300 bytes
の変調方 式としてそれぞれ上記サブチャネルサイズに対応するQPSK R = 1 / 2
,QPSK R = 7 / 9
を用いた.5. 2. 1
と同様,端末自律リソース選択を用いて評価を行っ た.図13
に評価結果を示す.伝搬ロスや干渉の影響 で,同程度の車両数におけるMAC
サブレイヤでのシ ミュレーションよりも低いパケット到達率となってい る.なお本シミュレーションモデルでは2.5
秒車間を図13 高速道路環境でのLTE V2X(SL)のパケット到 達率(物理層考慮)
Fig. 13 Packet reception rate of LTE V2X (SL) in highway model (physical layer modeled).
仮定しており,車速が高いほど車両密度が低くなるた め,車速が高いほど信頼性が高い結果となっている.
車速
70 km/h
及び140 km/h
におけるパケット受信 確率90%
を実現する通信レンジは2
回送信の場合にそ れぞれ104 m
,203 m
となっており,70 km/h
及び140 km/h
での同一車線内の車両間での4
秒車間距離(
78 m
及び156 m
)よりも広く,対向車線の車両との4
秒車間距離(156 m
及び311 m
)よりは狭い結果と なっている.なお70 km/h
シナリオの通信レンジが広 い領域においては2
回送信によりパケット到達率が低 下している.これは車両密度が高い環境では再送によ るソフト合成利得以上に干渉の増加が顕著であるため だと考えられる.通信レンジを小さく設定する場合に 再送の利得が得られているが,これは受信信号レベル・干渉レベルの双方が高い環境下では再送による干渉の ランダム化による効果が高く出ているものと考えられ る.
SL
通信の運用・実装の観点では,本評価で行った 送信回数などのSL
通信の無線パラメータ最適化にと どまらず,遅延が許容されるパケットのUL/DL
通信 へのオフロードなどの最適化も考えられる.6.
む す びこれまで
LTE V2X
について説明してきた.2017
年3
月のコア技術の仕様化が完了したRel-14 LTE V2X
は世界中で実用化に向けた検討が進んでいる.LTE V2X
は,Uplink/Downlink
による広域通信とSidelink
による狭域通信をサポートする機能が仕様 化されており,新たなコネクテッドカーサービスの実 現に向けたキー技術の一つといえる.広域通信ではDownlink
に注目し,下りメッセージ配信方法に対す るリソース占有率とパケット到達率を評価し,デー タ・制御信号双方の占有リソースを削減する高効率な 配信がキーとなることを示した.狭域通信に対して は,リンクバジェット,MAC
シミュレータによるパ ケット衝突特性と,システムレベルシミュレータによ る通信レンジに対するパケット到達率の評価から,優 れた通信距離と通信トラヒックが十分に低い条件での 高いパケット到達率を示した.広域通信,狭域境域通 信ともに,通信トラヒックの増加に対して,通信品質 は大きく影響されるため,通信のデザインの最適化 と干渉マネジメントが重要となる.今後は,より具 体的なユースケースシナリオにおいて,LTE V2X
のUplink/Downlink
の高信頼・高効率な利用方法,及びSidelink
のセンシングやリソース選択技術の性能の評 価が進むと考えられる.最後に,今後の性能改善やより広いユースケースの サポートを目指した動きとして
Rel-15
におけるV2X Phase 2
とRel-16
以降の動向を紹介する.Rel-15 LTE
では,V2X phase 2
として,Rel-14 sidelink V2X
仕 様に対する性能改善が検討されている[41]
.具体的に は64QAM
のサポートや最大8
キャリアの並列送信・並列受信を行うキャリアアグリゲーション,及びリソー ス選択に伴う遅延の更なる削減などが仕様化される予 定であり,コア機能の仕様化は
2018
年6
月に完了す る予定である.Rel-16
以降に向けてはeV2X
のユー スケース[42], [43]
に対し,特に直接通信についてセン サ共有のように大容量通信をサポートするための高い 周波数(6 GHz
帯以上)のチャネルモデルやアンテナ モデル,トラヒックモデルなどが検討されている[44]
.LTE V2X
は,これまで述べてきたように広域通信 と狭域通信の両方を利用し,将来生じうる多様なサー ビスに対し柔軟に設計していけることが大きな魅力と なる.高度道路交通システムの更なる発展の一助とし て,今後の発展が期待される.文 献
[1] 津川定之,“高度道路交通システムにおける通信システ ム,”信学論(B),vol.J82-B, no.11, pp.1958–1965, Nov.
1999.
[2] 松下 温,屋代智之,“ITSの通信基盤の展望と課題,”信 学論(B),vol.J82-B, no.11, pp.1950–1957, Nov. 1999.
[3] 森下 信,“次世代ITSの実現に向けた最新の取り組み,”