特 集:泌尿器疾患の最新治療と腎疾患・がんの栄養管理
腎疾患患者の栄養障害:Protein Energy Wasting(PEW)に対する栄養管理
! 田 康 弘
1,2) 1)徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部疾患治療栄養学分野 2)徳島大学病院栄養部 (平成25年10月10日受付)(平成25年10月21日受理) はじめに 適切な栄養管理を行うことはすべての疾患において非 常に重要であり,医療の根本となるものである。一般的 に程度の差こそあるものの入院患者の約半数が栄養状態 不良であるといわれており,平成18年度の診療報酬改定 における栄養管理実施加算の新設,平成22年度の栄養サ ポートチーム(Nutrition Support Team : NST)加算の新 設にみられるように,最近になってようやく栄養管理の 重要性が広く医療者に認識され始め,多くの施設で NST が稼働するようになった。栄養管理,栄養療法が特に重 要となってくる疾患のひとつとして腎疾患があげられる。 本稿では,栄養管理,栄養療法の重要性がクローズアッ プされる腎疾患に対する栄養管理につき概説したい。 腎疾患の用語の変化 近年,腎疾患に関連して「急性腎障害(Acute Kidney Injury : AKI)」や「慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease : CKD)」といった用語が定義された。教科書的には,「血 清クレアチニン値が2.0∼2.5mg/dl 以上へ急速に上昇し たもの(基礎に腎機能低下がある場合には血清クレアチ ニン値が前値の50%以上上昇したもの),または血清ク レアチニン値が0.5mg/dl/日以上,BUN が10mg/dl/日 以上の速度で上昇するもの」を「急性腎不全」としてい たが,実は明確な定義は存在していなかった。そこで, 急性腎不全を明確に定義するべく,Acute Dialysis Qual-ity Initiative(ADQI)という組織が2004年に RIFLE 分 類(Risk, Injury, Failure, Loss, End-stage renal failure の頭文字をとったもの)という重症度分類を提唱した1)。つづいて,Acute Kidney Injury Network(AKIN)と いう組織が,Acute Kidney Injury(AKI)という用語 を提唱した2)。すなわち,「急性腎障害(AKI)」とは, 「48時間以内の急激な腎機能低下」であり,「血清クレ アチニン値が0.3mg/dl 以上または1.5倍以上に増加する こと,あるいは尿量0.5mL/kg/時以下が6時間以上持 続すること」と定義される。 急性腎不全同様,「慢性腎不全」にも明確な定義が存 在していなかった。そこで,アメリカ腎臓財団(National Kidney Foundation : NKF)の策定した K/DOQI(Kidney Disease Outcome Quality Initiatives)ガイドライン3)を
もとに国際的な組織である KDIGO(Kidney Disease Im-proving Global Outcome)による修正4)が加えられ,CKD
の定義とステージ分類が国際的な基準として提言された (表1)。CKD の定義は,「①腎障害を示唆する所見の 存在,②糸球体濾過量(GFR)60mL/分/1.73m2 未満, の片方または両方が3ヵ月以上持続した場合に CKD で あると診断する」となっている。腎障害の存在を示唆す る検査異常の代表は蛋白尿であり,試験紙法で1(+)以 上,もしくは随時尿蛋白クレアチニン比で300mg/gCr 以 上(蓄尿の場合150mg/日以上)をさす。微量アルブミ 表1:CKD ステージ分類 病期 ステージ 重症度の説明 進行度による分類 GFR mL/min/1.73m2 ハイリスク群 ≧90(CKD のリスクファ クターを有する状態で) 1 腎障害は存在するが, GFR は正常または亢進 ≧90 2 腎障害が存在し,GFR 軽度低下 60∼89 3 GFR 中等度低下 30∼59 4 GFR 高度低下 15∼29 5 腎不全 <15 透析患者(血液透析,腹膜透析)の場合には D,移植患者の場合 には T をつける。 (CKD 診療ガイド2009より引用) 四国医誌 69巻5,6号 211∼214 DECEMBER25,2013(平25) 211
ン尿測定の場合には,30mg/gCr 以上を陽性とする。そ の他の検査異常としては,画像診断における腎形態異常 (片腎,腎萎縮,多嚢胞腎など)があげられる。現在で は,CKD のステージ分類は表2に示したように GFR の みならず原疾患と蛋白尿を含めたさらに細かい分類と なっている。
Acute Kidney Injury(AKI)における栄養障害
AKI における栄養障害の特徴としては基礎疾患や合 併する病態によりさまざまな変化をきたすことがあげら れる。特に,ショック・敗血症・横紋筋融解症などを合 併している場合には,エネルギー消費量が増大し著明な 異化亢進状態となり,体蛋白の崩壊から,血清カリウム, リン,尿素窒素濃度の上昇,代謝性アシドーシスが出現 する。AKI における異化亢進の原因として蓄積した代 謝産物,代謝性アシドーシス,インスリン抵抗性,グル カゴンやコルチゾールの増加などが考えられていて,こ のため骨格筋への糖取り込みが減少し,アミノ酸由来の 糖新生が増加すると考えられている。また,腎臓はアミ ノ酸代謝に関する重要な臓器のひとつであるため,腎臓 で合成されるアミノ酸(アルギニン,シスチン,チロシ ン,セリン)の体内貯蔵が減少する。 しかしながら,AKI に対する栄養療法は病態が複雑 で,AKI においては確立した特別な栄養療法はないと いうのが現状である。もちろん,病態に合わせた管理は 必要で,水分・ナトリウムを中心とした体液量調節にく わえて,栄養管理も重要であるが,AKI が単独で発症 していることが少ないこと,すなわち,AKI が発症し ているときは,他の重篤な疾患を合併していることが多 いこと,さらに,このためにランダム化比較試験を行う ことが困難でエビデンスが得られないといった問題もあ り,ガ イ ド ラ イ ン 等 の 記 載 も ほ と ん ど 専 門 家 の 意 見 (expert’s opinions)に基づいている。 AKI における栄養投与の基本的な考え方としては, 一般的な栄養管理と同様,経口摂取が可能な場合はもち ろん食事療法を考慮し,次に経管栄養を考慮する。経管 栄養が不可能な場合や水分・電解質管理を厳重に行う必 要がある場合には,経静脈栄養で水分・電解質・エネル ギーを投与する。この際,体液過剰が生じ,肺うっ血等 による呼吸困難を伴うような場合には,尿毒症物質の蓄 積の有無にかかわらず早期に透析療法を開始するべきで, 特に,基礎に心疾患を有するような症例では積極的に透 析開始を考慮する必要がある。 表2:CKD の重症度分類
原疾患 蛋白尿区分 A1 A2 A3
糖尿病 尿アルブミン定量 (mg/日) 尿アルブミン/Cr 比 (mg/gCr) 正常 微量アルブミン尿 顕性アルブミン尿 30未満 30∼299 300以上 高血圧 腎炎 多発性!胞腎 腎移植 不明 その他 尿蛋白定量 (g/日) 尿蛋白/Cr 比 (g/gCr) 正常 軽度蛋白尿 高度蛋白尿 0.15未満 0.15∼0.49 0.50以上 GFR 区分 (mL/分/ 1.73m2) G1 正常または高値 ≧90 G2 正常または軽度低下 60∼89 G3a 軽度∼中等度低下 45∼59 G3b 中等度∼高度低下 30∼44 G4 高度低下 15∼29 G5 末期腎不全 (ESKD) <15 重症度は原疾患・GFR 区分・蛋白尿区分を合わせたステージにより評価する。CKD の重症度は死亡,末期腎不全,心血 管死亡発症のリスクを緑 のステージを基準に,黄 ,オレンジ ,赤 の順にステージが上昇するほどリスク は上昇する。 (CKD 診療ガイド2012より引用) ! 田 康 弘 212
Chronic Kidney Disease(CKD)における栄養障害 CKD は栄養管理,栄養療法が特に重要となってくる 疾患のひとつである。CKD とは,「腎臓の障害(蛋白尿 など),もしくは糸球体濾過量(GFR)60mL/分/1.73m2 未満の腎機能低下が3ヵ月以上持続するもの」と定義さ れ,日本において1330万人,すなわち成人のうち8人に 1人が罹患しているといわれている。CKD の栄養障害は 単なる低栄養とは質的に異なることがわかっており,近 年,この低栄養状態が「Protein Energy Wasting(PEW)」 と定義された(PEW については後述)5)。一般的な低栄 養は食事摂取不足や不適切な食事内容の結果により,主 として脂肪が失われ,エネルギー代謝低下などの適切な 防御機構が働くが,PEW では尿毒症環境に伴って,消 化管・中枢神経系の食欲関連ホルモンの異常に伴う食欲 低下が生じるほか,代謝性アシドーシス・炎症等に起因 する蛋白異化・エネルギー代謝亢進により,脂肪のみな らず筋肉などの体蛋白も失われるサルコペニア(筋肉量 減少)をきたす病態となる。 さらに,腎機能が廃絶した透析患者においては,前述 の病態に加え,透析患者特有の問題,すなわち尿毒素の 蓄積による食欲不振,味覚・嗅覚の低下,レプチンに代 表される食欲抑制物質の血中濃度上昇による食欲低下と いった状態に加え,透析療法そのものの関与,さまざま な透析合併症に伴う炎症惹起といった原因により栄養障 害を発生しやすい状態にある。さらに,不適切な食事制 限や不適切な透析療法が行われていた場合にはいっそう 低栄養状態が進行することとなる。また,透析患者にお ける低栄養状態には炎症と深いかかわりがあり,炎症は 動脈硬化の進展に深く関与するということから malnutri-tion, inflammation and atherosclerosis syndrome(MIA 症候群)といった概念も提唱されている。
Protein Energy Wasting(PEW)について
前 述 の と お り,腎 疾 患 患 者 に お け る 低 栄 養 状 態 が 「Protein Energy Wasting(PEW)」と定義された5)。
PEW は表3に示す診断基準により診断される6)。大き
く4つのカテゴリー,すなわち,「Serum chemistry」 「Body mass」「Muscle mass」「Dietary intake」に分け られている。それぞれのカテゴリー中の1項目でも該当 するカテゴリーが4つのうち3つ以上ある場合は,PEW と診断される。腎疾患患者において PEW,すなわち低 栄養状態はもちろん予後不良因子であり,PEW を引き 起こさないようにすることは非常に大切である。実際, 保存期 CKD 患者の約30‐50%,透析患者の最大75%に PEW の診断基準に当てはまるといわれている。また, 一般的な栄養状態の評価項目もこの PEW 診断基準に含 まれていることから,たとえ PEW の診断基準には当て はまらなくても(1項目でも該当するカテゴリーが4つ のうち3つ以上ない場合でも),該当する項目を少しで も減らすよう栄養管理を行っていくことが重要と考えら れる。
MDRD(Modification of Diet in Renal disease)試験 の10.6年間の観察において,著明な低蛋白制限食(指示 量0.28g/kg/day,実際の摂取量0.48g/kg/day)は透析 導入後の死亡率が高かった7)といった報告などは腎機能 の保護を念頭においた低蛋白食が低栄養状態を惹起する 原因となることが示唆され,生命予後を考えた場合,著 明な蛋白制限が本当に正しいのかどうか考えさせられる 結果と思われる。 おわりに 腎疾患に対する栄養療法は従来,腎機能をいかに保護 するかという観点が強かったが,近年,PEW という用 語が定義されたように全身の栄養状態にも目を向けなけ ればならないことがわかってきた。腎機能保護,生活の 質(Quality of Life : QOL)の改善,生命予後の改善のど こに注目するかによっても腎疾患に対する栄養管理・栄 養療法はさまざまに変化するものと考えられる。
文 献
1)Bellomo, R., Ronco, C., Kellum, J. A., Mehta, R. L., et
al. : Acute renal failure-definition, outcome meas-ures, animal models, fluid therapy and information technology needs : the Second International
Consen-表3:Protein Energy Wasting(PEW)診断基準 診断基準 Serum chemistry 血清アルブミン<3.8g/dl 血清プレアルブミン(トランスサイレチン)<30mg/dl 血清コレステロール<100mg/dl Body mass BMI<23 意図しない体重減少:5%/3ヵ月または10%/6ヵ月 体脂肪率<10% Muscle mass 筋消耗:筋肉量減少が5%/3ヵ月または10%/6ヵ月 上腕筋囲長の10%以上の減少
Dietary intake 食事蛋白摂取<0.6g/kg/day が少なくとも2ヵ月持続 食事エネルギー摂取<25kcal/kg/day が少なくとも2ヵ月持続 Protein energy wasting(PEW)の診断基準には,4つのカテゴ リーがあり,1項目でも該当するカテゴリーが3つ以上ある場合, PEW と診断される。 (文献6)より引用,著者作成)
sus Conference of the Acute Dialysis Quality Initia-tive(ADQI)Group. Crit. Care,8:R204‐R212,2004 2)Mehta, R. L., Kellum, J. A., Shah, S. V., Molitoris, B. A.,
et al. : Acute Kidney Injury Network : report of an initiative to improve outcomes in acute kidney injury. Crit. Care,11:R31,2007
3)National Kidney Foundation. K/DOQI clinical prac-tice guidelines for chronic kidney disease : evaluation, classification, and stratification. Am. J. Kidney Dis., 39(2Suppl1):S1‐266,2002
4)Levey, A. S., Eckardt, K. U., Tsukamoto, Y., Levin, A.,
et al. : Definition and classification of chronic kidney disease : a position statement from Kidney Disease : Improving Global Outcomes(KDIGO). Kidney Int.,
67(6):2089‐2100,2005
5)Fouque, D., Kalantar-Zadeh, K., Kopple, J., Cano, N.,
et al.: A proposed nomenclature and diagnosticcri-teria for protein-energy wasting in acute and chronic kidney disease. Kidney Int.,73(4):391‐398,2008 6)!田康弘,宇佐美眞:保存期慢性腎臓病におけるリ
ン代謝異常と栄養療法.Clin. Calcium,22(10):1577‐ 1582,2012
7)Menon, V., Kopple, J. D., Wang, X., Beck, G. J., et al . : Effect of a very low-protein diet on outcomes : long-term follow-up of the Modification of Diet in Renal Disease(MDRD)Study. Am. J. Kidney Dis.,53(2): 208‐217,2009
Nutritional Management for Protein Energy Wasting(PEW )
Yasuhiro Hamada
1,2)1)Department of Therapeutic Nutrition, Institute of Health Bioscience, the University of Tokushima Graduate School, Tokushima, Japan
2)Department of Nutrition, Tokushima University Hospital, Tokushima, Japan
SUMMARY
Nutritional management is related to all kinds of diseases and one of the bases of medical treatment. Chronic kidney disease(CKD)is no exception. Prevalence of chronic kidney disease (CKD)in Japan is estimated to be 13.3million. In addition, the number of dialysis patients in Japan is over 300,000. Recently, because malnutrition in CKD have been paid attention, the International Society of Renal Nutrition and Metabolism(ISRNM)have proposed a new term protein energy wasting(PEW)(Kidney Int. 2008;73(4):391‐8). PEW refers to the multiple nutritional and catabolic alterations that occur in patients with CKD and associated with morbidity and mortality. It has been reported that PEW, which is characterized by a decline in body protein mass, muscle and fat wasting and visceral protein pool contraction, is common in patients with dialysis. Various factors such as insufficient food intake due to poor appetite, dietary restriction, increased energy expenditure, acidosis, and persistent inflammation can cause PEW. Because PEW is a factor of bad prognosis, management of PEW should be also paid attention in treatment of patients with CKD.
Key words :nutritional management, chronic kidney disease(CKD), acute kidney injury(AKI), protein energy wasting(PEW)
! 田 康 弘