地域の自然を生かした環境教育 : 学習テキスト「海の砂漠」の開発
27
0
0
全文
(2) Na47.. 1993.3. 地域の自然を生かした環境教育 一学習テキスト「海の砂漠」の開発一 田中 邦明. AProposalonEnvironmentalEducationthroughNative. EnvironmentbyTeachingTextof“TheDesertinthesea” KuniakiTanaka. 思われる概念が指摘されているが8),環境教育の目. はじめに. 的との関連で十分に説明がなされていないように思. 最近,理科教育において地域の身近な自然を生か した指導が強調されるようになっている。1)2)3). われる。 平. Hungerford7)は,環境教育が我国よりも独立. 成3年に文部省から発行された「環境教育指導資料」. した教科としての評価を受けているアメリカにおい. においても地域教材の開発,利用が重視されている。. ても,1960年代に始まる“自然保護教育”が失敗に. これらの主張は,理科教育において地域の自然環境. 終わった反省と,1978年までに試行錯誤的に開発さ. を教材として利用し,環境教育に役立てようとする. れた環境教育プログラムの多くで環境教育にとって. ものと考えられるが,環境教育の目的が「環境問題. 有効な到達目標が意識されていないことを問題視. に関心を持ち,環境に対する人間の責任と役割を理. し,環境教育力リキュラムにおいて最終的統一目標. 解し,環境保全に参加することにある」4)とするな. と中間的下位目標を設定することの重要性を指摘. らば,それらの目的にてらし,理科教育においてど. し,環境教育の基礎的習得項目として設定すべき具. のような概念を習得させるべきかが論議されねばな. 体的内容を提案している(表1)。このような提案. らないであろう。. の第一の意義は,環境教育と「生態学教育」との間. 本稿においては,まず我国の理科教育における環. に一線を画しながらも,生態学的諸概念の形成が環. 境教育の基礎的課題が生態系概念の形成にあること. 境教育の重要な基礎部分として認められたことにあ. を論じ 独自の方法によって地域の生態系からどの. るであろう。環境教育をめぐる我国の現状は,環境. ような概念が習得可能であるかを分析し,それらの. 教育が独立した教科として独自の発展が保証されて. 習得をめぎす仮説的地域学習教材を提案する。. いないうえに既存のそれぞれの教科においても種々 の環境問題の本質を学問的基礎概念から子どもに理 解させるという態勢も未だに整っていないという,. 1.我国の環境教育の現状と生態学的概念の習. いわば二重の混乱を包含している状況にあると考え. 得. られる。もちろん,環境教育の目的は前記のような. 我国の学校教育における環境教育の一環として生. 能力,態度をもった人材の育成であるのに対し,生. 態学上の基礎概念を教えることの必要性は従来から. 態学教育は生態系にかかわる諸概念の習得そのもの. も指摘されている5)。しかしながら,それらの生態. を目的とするというレベルの違いがあるものと考え. 学的概念の各々についてなぜ環境教育にとって重要. れるが,このような我国の状況を顧みるならば,と. であるかが,必ずしも論議されているわけではない。. りあえず理科という個別の教科において環境教育の. 「環境教育指導資料」においても重視すべき視点と. 基礎となり得る「生態学教育」を独自に展開するこ. して,“循環’’‘‘平衡”“有限性’’などの生態学的と. とば意味あることと思われる。 -- 67 -.
(3) 田中. 邦明. る。このような轍を踏まないためにも,「理科とい. 表1Hungerfordが示した環境教育の基礎的修得項目. う教科は「自然科学のもっとも基礎的・一般的な概 A.個体と個体群. 念・法則を中心に,社会的な知的財産である現代科. B.相互作川と相互依存. 学の成果と方法を体得させること」と,「特殊では. C.環境要因と制限要因. あるが特良的な自然の事象の法則性とその利f引こっ. D.エネルギー流と物質循環(唯物地球化学的循環). いて広い知識・展望をもたせることJとを目標とし. E.君羊集と生態系概念. た教科」という板倉㈲の見解を想起しなければなら. F.性悪学的平衡. ないだろう。したがって,理科における環境教育に. G./ト態学的遷移. おいては,身の回りの‘‘環境や環境問題そのものを”. H.ヒトの/ト態系における地位. 教えるというより,身の回りの‘‘環境や環境問題を. Ⅰ.ヒトの活動とと卜社会の生態学的連鎖. 利用して”科学的基礎概念を教えるという姿勢が求 められ,そのためには,地域の自然を科学的に分析. さらに第二の意義として,環境教育先進国におけ. し(衷2),それらの中から子どもの科学的概念形. るこのような経験と現状は,地域の環境問題を環境. 成に有効と思われるものを選び出さなければならな. 教育の教材とする場合における目標設定の重要性を. い。. 示すものである。特に現実的には複数の教科に分散 して環境教育をすすめねばならない我国において,. 4.具体的教材開発における概念把撞. それぞれの教科において環境教育の【]自勺にてらした. 生態系概念の形成を目指す貝体的な地域教材の開. 具体的目標設定が明確にされていないとしたなら ば,さまざまな特殊車憎が複雑に入り込むであろう. 発にあたっては,対象となる生態系を構造・機能・. 地域の現象を環境教育教材として取り上二げた場合,. 歴史の側面にしたがって概念分析し,それらの中か. 問題の発生や現象の現れ方の方に視点が向けられる. ら教材として利用できる概念を選びHけことが有効. あまり,教材の配列などが必ずしも学問的体系に沿. と思われる。表2に沿岸生態系にかかわる生態学的. わないために,科学的基礎概念の習得がいっこうに. 基礎概念をホす。. 進まず,環境教再の基礎そのものが確立されないと. さらに,北海道南部の甘木海沿岸地域で発生して. う事態も危惧させる。かって,我国に“生活単元・. いる磯焼け現象とコンプの増殖事業および養殖事業. 問題解決学習”が導入されたころ,生活l二の問題の. を教材として淑り上げた場合,表2に示した慮礎概. 発生を重視することによって科学の論理的体系が軽. 念がどこでどのように現れるかを以ドに述べる。. 視され,子どもの学力低卜が起こったと言われてい. 表2 機能・構造■歴史的側面から分析した沿岸生態系の概念構造 要素. 基本概念. 内容例. 橋 井生物的環境. ・基質,流れ,水温,塩分,透明度,栄養塩数. 造 生物群集. ・生物相,個体群,生活史,個体数,現存嶺. 制限要因. ・耐性限界,捕食圧,病害. 食物関係. ・栄養生態,食物連鎖,食物網. 機 生態的地位. ・生産者・消費者・分解者. 能 エネルギー流. ・同化エネルギーの分散過程. 物質循環. ・栄養塩類の循環過程. ′「阜i′肯性. ・稽多様性,フィードバック機構. 暦 /巨態学的遷移. ・遷移系列. 史 極和. ・極仰の維持機構,極相の地理的変異. 地史的変遷. ・地王朝勺分布,古生態,進化,種分化. −、68−一.
(4) 1993.3. 地域のlノl然を隼かしたぷ境教育. No.47.. 4−1 磯焼け現象の生態学的把撮. ている。このように,磯焼け現象は,生態学的には. 北海道沿岸の磯における生態系としては,海中林. 大型海藻を中心とする極相から無節石灰藻を中心と. とよばれるコンプ・ワカメ属などの大型海藻が優先. する極相への生態学的遷移の過程としてとらえられ. する生物群集と無節石灰藻が優先する生物群集の二. るが,我国においては自然条件のもとで再び大型海. 種類の生態学的極相に分類される。磯焼けは後者の. 藻を中心とする極柑に戻る過程についてはほとんど. 極相が長期間持続し,沿岸に大型海藻が消失して基. 報告がない。. 質が少数種の無節石灰藻に占有された状態を意味す. 上二記のような磯焼け現象の学問的把握を行うため. る。このような貧弱な生物相と生物現存崖を呈する. に,磯における海中林および磯焼け生態系の本質的. 状況は,光合成による基礎生産の低迷が,高次消費. な適いを,構造,機能,時間的変化の側面から比較. へのエネルギー流を低下させているからであり,有. する必要がある(表3)。. 用な海藻のみならず,食物関係によってそれらを餌 とするウニ,アワビなどの底珪動物をはじめ,海藻. 4−2 人為的極相転換としてのコンプ増殖事業. 群落を産卵成育場所とする魚類や甲殻類など,電要. 北海道南部≠毎域の海中林生態系においてしばしば. な水産資源の長期的減産をよく説明している。この. 優先穫となっているコンプの人為的増殖は磯焼け現. ような現象は特に対馬暖流の影響を強く受ける北海. 象の解決を意味する。そのことにあたっては,海中. 道日本海沿岸で著しくみられるほか,部分的には太. 林生態系と磯焼け生態系の優先種である大型海藻と. 平洋沿岸にもみられる。. 石灰藻に対する人為的働きかけとして大きく4つの. 磯焼け現象で大型海藻が無くなる原因としては,. 方法が考えられ,さらに,それぞれについて具体的. 河川氾濫、山林濫伐による急激な淡水流人あるいは. に実施可能な技術的手法が行われている(表4)。. 暖流優勢などの海流異変による枯死などの非生物的. 上記の4つの手法のなかで技術的に完成されてい. 環境の作札バクテリアなどの寄生生物による病死,. るものは少ない。特に3,4についてはr−・一時的に人. およびウニやアワビなどの藻食動物の大量発生に. 工的な手段で石灰藻類の除去や成育の抑制を行えた. よって大型海藻が食べつくされるなどの生物的作用. としても,再び何らかの原因で大型海溝が消失する. の関与が予想されている。さらに,大型海藻が消失. ならば‘‘磯焼け”現象が復活することになるからで. した状態が良く続く原因としては,それまで大型海. ある。根本的に大型海藻消失の原因が除去されない. 藻の下で細々と生活していた無節石灰藻が大型海藻. 限り“磯焼げ’が再発し,永続的解決につながらな. の消失を引金として急激に増殖し,置などの基質を. いものと考えられる。したがって,現在明らかになっ. 占有して大型海藻の再生を阻害するものと考えられ. ている生態学的知見から考慮した最も理想的な. 表3 構造・機能・時間的側面からみた海中林および磯焼け生態系の特徴 海中林/ト態系. 磯焼け隼態系. 構 ・群集構成渾の多様性. 人きい. 小さい. ・隼物現存塙. 人きい. 小さい. 要素. トな特徴. 造 ・稀問でのエネルギー,物質関係 複雑 ・エネルギー流,物質循環崩 機 ・基礎/巨産名 ・潔食動物にとっての栄養. 能 ・他隼物の隼息場所として ・鰻兄種. 甲純 人きい. 小さい. 人里海藻. イi炊藻. 一偏\. 低い. 好適. 木適. 人里梅藻. ん炊藻. 一高い成長速度. t勘、組織. 時 ・極柚維持機構 捕食圧耐性 間. 矧圭‡]競や力. ・他極相からの遷移機構. ■机、受光,栄養吸収能力 イ、=引排除機構 捕食者の死滅?. 69. 人里侮藻の枯妃?.
(5) 田中 邦明 表4 磯焼けの人為的解決方法. 1,大型海藻類の枯死の防止 ・森林を保護育成して河川氾濫を防止し,海域への急激な淡水や懸濁物の流入を防止する ・過剰な浸食動物を除去して,大型海藻類の再生を促す ・藻食動物からの適切な隔離が行える大型海藻増殖施設を設置する ・大型海藻類の過剰な採集を行わない. 2,大型海藻甑の成長や増殖の促進 ・人工的な施肥あるいは河川水をとおして陸上からの栄養塩類供給を増加させる 3,石灰藻類の除去や死滅の促進 ・岩面剥離などの磯掃除によって大型海藻類が付着できる基質を造成する 4,石灰藻類の成長や増殖の阻害 ・岩石や人工藻場などを投入して大型海藻類が付着できる基質をつくり,海中林を人工的に造成する。. 人為的手段としては前記の1と2の手法が有効と思. ことに特徴づけられる。したがって,コンプ養殖事. われる。. 業は農業と同様に生態学的には極めて高度な人為的. このことから,河川流域の森林を保護育成して淡. 管理による生態系の恒常性維持活動としてとらえる. 水や懸濁物の急激な流出を防止する環境保全,水産. ことができる。. 廃棄物としてのイカゴロや下水処理水などを利用し. 現在ではこのような一定の技術的完成をみたシス. た陸上からの栄養供給,ウニなどの主要な藻食動物. テムを応用して磯焼け生態系の解消を試みた取り組. を適度に間引きして大型海藻の成育量に見合った個. みも存在するが,本来高度な人為的管理には近代農. 体密度に調節するなどの漁場管理が試験的に行われ. 業と同様に多大な人力,エネルギー,資材などの供. ている。. 給を必要する。そのため,このような集約的システ ムを自然生態系の大規模で長期間にわたる変革を意. 4−3 集約的な生態系管理としてのコンプ養殖事. 味する“磯焼げ’現象の解消手段として適用するこ とばコストなどの点からほとんど不可能であると言. 業. 1970年代に北海道南部沿岸地域で始められたコン. われている。. プ養殖事業が急速に発展してきた理由は,コンプの 生活史における初期減耗を人為的管理によって抑制. 4−4 磯焼け現象の解決の展望. し,同時に発生速度を高めることによって天然にお. 従来の磯焼け地域におけるコンプやウニなどの水. いて収穫までに要する期間を2年間から1年間に短. 産資源の人為的管理の多くは極めて直接的な手法が. 縮,促成化し,生産効率を高めたことにある。コン. 用いられてきた。これらは莫大なエネルギー的,人. プの各生活史段階における人為的管理方法はコンプ. 的支出を伴うため,経済的に採算が見合うとされる. の成育にかかわるほぼすべての環境要因を調節する. −】一部の手法だけが実際に行われてきたが,実質的採. ものである(表5)。. 算に合わないと思われるものも少なくない。将来的. このようにコンプ養殖事業においては,コンプ生. には生態系のシステムを活用した様々な管理方法が. 活史の初期段階においては大規模な種苗生産施設に. 展望される。貝体的には,アメリカやカナダの西海. おいてはとんどすべての非生物的・生物的環境要因. 岸ではラッコやロブスターなどのウニの捕食動物を. が管理調節され,制限要因の解除による成長促進と. 磯焼け地域に移植することによって海中林が復活. 初期減耗の抑制が行われていること。さらに,沖合. し,これらの動物によって磯焼けが防止されている. での養殖施設においては,自然界からもたらされる. ことが明らかとなっている。このような頂点捕食者. 光と栄養塩類の適正供給をはかりながら,培養した. を利用する生態系管理は有効と思われるが,特に新. 種苗を海底ではなくロープに付着させることによっ. たな移植を行う場合においては,現存する生物の生. てウニなどの強力な捕食者からの隔離を行っている. 態学的地位を十分に考慮し,影響を評価する必要が 70.
(6) 地域の自然を生かした環境教育. No.47.. 1993.3. 表5 コンプ養殖における環境要領の人為的管理 生活史段階 遊定子. 人為的管理方法. 調節された要因. 滅菌海水での人.1二採苗. 温度,塩分 競合生物や病害生物の除去. 配偶休∼. 種菌生産施設での培養. 栄養塩粕. 微小胞子体 薬浴. 大型胞子体. 温度,塩分,光観,光周期. 競合焦物や病害生物の抑制. 曝気. 酸素,∴酸化炭素. 沖合施設での縄付け養殖. 捕食者からの隔離. 深度調節. 光蛍. 間引き. 光星,栄養塩類. ある。. の構成については,地域生態系の特徴を様々な場面. また,最近では河川と海藻群落の関係についての. において構造・機能・時間の三側面からとらえるよ. 物質循環に着目し,自然河川をとおして森林域から. うに配慮しながらも,生態系の大きな構成区分にし. の栄養供給や下水処理水,水産廃水の活用によるコ. たがい,第一部では磯焼け現象そのものの理解,第. ンプ群落の増殖なども研究されており,海岸生態系. 二部では磯焼けと非生物的環境との関係,第三部で. にとどまらず陸地と海岸を包含したさらに大きなス. は磯焼けと生物的作用との関係,第四部では人為的. ケールで生態系の在り方を研究することが模索され. な生態系管理としての磯焼け解決の展望を扱った。. ている。. 次に,各部における生態学的基礎概念の習得にかか わるねらいについて論じる。. いずれにせよ,このような高度な研究課題を解決 するためには時間の尺度を大きく取ることが求めら. 第一部では,磯焼け現象が水産資源の生産を極端. れる。特に過去における北海道沿岸地域の生態系の. に低下させている実態を深く認識させ,それらの現. 姿を明らかにすることが重要と考えられ,北海道に. 象の根本が海における貧困な基礎生産にあることを. 類似した自然条件で,しかも開発のあまり行われて. 理解させる。本来,食物関係は食物連鎖の各段階で. いない沿岸地域との比較研究やコンプをはじめとす. のエネルギー流と物質循環の二側面を包含している. る海藻類の進化や種分化の過程を北海道の地史的変. が,ここではあえて物質循環にふれず,エネルギー. 遷との関係でとらえ,現在の磯焼け地域における石. を食物の量としてとらえさせる。具体的には,質問. 灰藻類とコンプの競合関係を歴史的に考察する研究. 3で明らかにされる磯焼け地域の貧困な生物相と,. が求められている。. 質問4で明らかにされる基礎生産での食物の不足, すなわち食物連鎖の出発段階でのエネルギー流の少 なさが生態系全体における低生産性の根本であるこ. 5.地域教材「海の砂漠」の開発. とを理解させる。. 以上のような北海道南部地域における特徴的な生. 第二部では,磯焼けと海流との関係から,生態系. 態系としての磯焼け現象とそこで起こっている人間. に関与する非生物的環境の重要性を認識させること. と自然のかかわりに関する諸問題の分析から,そこ. に重点をおく。また,非生物的環境の関与のしかた. では生態学的基礎概念のほとんど全てを扱うことが. についても,質問7では海水温が肥料成分となる栄. 可能であり,磯焼け現象を教材として取り上げる意. 養塩類によって直接影響を受ける場合,質問8では. 義は十分に確認された。したがって,ここでは中学. 海水温が海藻捕食者の活動をとおして間接的に海藻. 校から高等学校での使用を想定した仮説的な地域教. に影響を与える場合があることを理解させる。さら. 材として学習テキスト「【海の砂漠一」を提案し,今後. に,質問9では,生物種の生活史が非生物的環境の. の検討資料としたい(教材資料)。それぞれの部分. 季節的変化に適応するように進化してきたことを認 一71−.
(7) 田中 邦明. 識させ,ここでは環境への適応を生物進化の概念に. 好治教授の援助によって遂行できましたことを報告. 結び付けることが期待される。. し,深く感謝の意を表します。. 第四部では,磯焼けについてのウニと石灰藻の関 係から,生態系の恒常性維持や変動に関与する生物. 引 用 文 献. 的環境としての生物的作用の重要性を認識させるこ. 1)平田貞雄,「身近な自然を生かす理科指導の意. とに重点をおく。生物作卿こついては,質問11のよ うな石灰藻による付着基質の占有といった非生物的. 義と役割_」,理科の教育,第37巻7号,pp912,. 環境を介する間接的なものと,質問13における捕食. 1988. 2)平田貞雄,「理科における郷土学習の今日的課. という直接的なものがあることを認識させる。さら. 題」,理科の教育,第38巻5号,pp8【12,1989.. に,質問14では生態系における生物的作用のあり方. 3)橋本健夫,「地域の身近な自然を生かした理科. を知ることによって生態系の変革が可能であること. 指導の在り方」,理科の教育,第40巻8号,pp8. を理解させる。. −11,1991.. 第四部では,生態系の変革に際してはそれにかか. 4)文部省,「一環境教育指導資料」(小学校編),p. わる生物的作用と非生物的環境だけでなく,さらに. 7,1991.. 時間的・歴史的視点をもつことの重要性を認識させ. る。質問16から質問18では,遷移と極相の概念を与 えながら,従来から行ってきた様々な人為的生態系. 5)沼田 真,「環境教育論」,東海大学出版会,p. の変革事業を人工的遷移による−−・一時的極相の転換と. 6)前掲書4),p25.. とらえさせ,それらが時間的・歴史的に永続しえな. 7)Hungerford H.,R.Peyton and R・Wilke,. 6,1981.. い根本的弱点を有していることを理解させる。さら. “Goals for curriculum developmentin envi−. に質問21では,生態系の変革にかかわるさらに有効 で合理的な手段として,新たに物質循環の重視や頂. ronmentaleducation”,Journalof Environ− mentalEducation,pp42−47,1980. 8)板倉聖宣,「日本理科教育史」,p417,1968.. 点捕食者などの生態学的地位を活用した恒常性維持. 機構を提案しながらも,それらの実現には大きな課 題があることを理解させる。そして,質問22で生態 系の人為的変革には過去の復元も含まれていること. に気付かせ,それらの課題の重要部分が過去の生態 系に関する研究であることから,最終的に生態系を lEしく認識するためには過去・現在・未来を結び付 けるという歴史的時間の概念が付け加えられるべき ことを理解させる。. おわりに. 本報告においては仮説的地域教材として学習テキ スト「海の砂漠」を提案したが,今後は地域の子ど もの生態系概念について調査したうえで教材を再検 討し,さらに教育実践によって生態系概念の習得に 関する有効性とともに,環境教育の目的にかかわる 生態系の“多様性”“相補的完結性”“歴史性”を正 しく認識できるようになるかどうかを検証して行く 必要があるものと考えられる。それらのことがらに. ついては今後の報告に譲りたい。 なお,本研究は,僻地教育研究施設研究員,徳永 72.
(8) Nα47.. 地域の自然を生かした環境教育. 教材資料. 学習テキスト「海の砂漠」. 仙仙 73【【【【. 1993.3.
(9) 田【11邦明. 第一部 海の砂漠. 地球ヒには雨の少ない乾燥した地域がたくさんあり,アジア,アフリカ,オーストラリア大陸などの 内陸部には“砂漠”とよばれる広い砂地がひろがっている。“砂模”の特徴は雨が少ないだけではなく, 人間を含めてそこに住む生き物ははんのわずかにすぎない。生き物にとっては飲水や食べ物が少ないだ けでなく,昼の暑さと夜の寒さが厳しいために,たいへん住みにくい場所なのだろう。 しかし,このような生き物がばとんどいない荒涼とした場所が私たちのすぐ近くにもあるのだ。 資料1海中林と磯焼け. 海中林の海底 (1991年9ノj 松前町∴越). 磯焼けの海底 (1991年9月 松前町江良). コンプ,ワカメ,ホンダワラ類などの大型海藻が海底の岩などにたくさん成育している場所は海中林 (かいちゅうりん)あるいは藻場(もば)と呼ばれている。それに対して,かっては海中林や藻場であっ た場所に大型海藻がばとんどみられなくなり,岩の表面が石灰藻(せっかいそう)という白っぽい石の ような海藻におおいっくされて,まるで「海の砂模」のようになっている場所は“磯焼げ’(いそやけ) 地域と呼ばれている。. 資料2 漁師の声 「子どものころの酎ま磯の浜はどこでもコンプが余るくらいたくさん生えていた。波打ち際か ら何十メートルも沖までびっしりとコンプがついていて,機船を沖へ出すのにもオールやスク リューにコンプがからまってなかなか進まなかったくらいだ。深みでは今よりもっと幅の広いコ. ンプがところどころにかたまって仕えていて,アワビやウニも余るぐらいとれた。魚もニシンだ. けでなくホッケ,アブラコ,ソイ,イカなどがとれ過ぎて,煮たり干したりで何日も寝ないで仕 事をしたものだ。今では魚もアワビもほとんどとれなくなった。ウニはたくさんいるけれども, 最近は“身入り”(みいり)が悪くて脚ったものだ。」. 《質問1》漁師が言っているウニの“身入り”(みいり)とは何のこ とだろうか?. 74 −.
(10) No.47.. 地域の「1然を生かした環境教育. 資料3 ウニの解剖図. 横断面下側の園. 周辺黒色部が生殖巣,中央部が[]器の東側 (「 ̄巨≡l本動物解剖図説,‡,P95,広島大学隼物学会編). (解説1). ウニの“身”といわれる部分はウニの生殖巣のことで,メスの個体は卵巣,オスは精巣に相当する。 卵巣はやや赤っぽく,精巣は白っぽいので区別できる。いずれも寿司ネタや刺身として生のまま,ある いは塩浸けとして食用にされている。“身’’の部分はウニが子孫を増やすための生殖細胞であることか. ら,多くの栄養素が含まれていると考えられる。夏から秋にかけてのウニの産卵期前には産卵に備えて “身”の部分を大きく太らせる必要があるため,ウニにとって特にその時期は多くの栄養分が必要にな る0 したがって,産卵期の前に栄養価の高い餌をたくさん食べているウニは十分に“身”を太らせるこ とができるが,餌をあまり食べられなかったウニは‘‘身”がやせている。このような“身”のやせたウ ニのことを漁師は‘‘身入り”の悪いウニと呼んでいる。ウニのはとんどがこのような状態になると,い くらたくさんのウニをとっても売り物になる“身”がさっぱりとれない。手間ばかりかかって収入が少. なくなるため漁師泣かせとなる。 《質問2》ウニは餌としてどんなものを食べているのだろうか?. 【…−▲ 75 −¶. 1993.3.
(11) 田中 邦明. 資料4 ウニの餌となるもの. 藻類. ウニ類. 種名. エゾバブンウニ 緑藻類 アナアオサ. 褐藻類 マコンブ,チガイソ,アナメ,ヨレモク,カヤモノリ 紅藻類 ツノマタ,アカハダ,グルス,アカバギンナンソウ. キタムラサキウニ 緑藻類 アナアオサ. 鳩藻類 ホソメコンプ,チガイソ,ワカメ,ウルシグサ,スジメ 紅藻類 ツノマタ,グルス,アカバギンナンソウ 腸管内容物および直接観察からみたウニ類の餌料 (大野正夫,「海■lI林−その生態と造成技術」,海洋科学17(1針),1985,P709 他). (解説2). 海で生きているウニをっかまえて殻を割ると,コンプやワカメの小什が出てくる。それはウニが体の 卜郎にある【l器(こうき)でかじりとった海藻が腹の中に入っていたもので,いずれは消化され体のf二 部にある肛門から糞として出されるものである。このように腹の内容物を調べてみると様々な海藻類が. みつかり,ウニの好みの餌が海滞であることがわかる。しかし,餌が不足してくるとIJ器という硬くて 鋭い歯でキ!‡に付着しているイi灰藻や陸卜から流れこんだ木の葉などの植物質,あるいは死んだ魚や員な. どの動物質も食べることがあり,何でも食べる雑食性の動物といえるだろう。 資料5 北海道沿岸のコンプとウニの生産圭. 図. a図 コンプ類の漁獲量 川1イ、∫/∴トン/′/隼). 5. b園 ウニ,アワビ類の漁獲土 =iリ、ンニ:トン//咋). C図 コンプ類とウニ・アワビ 類の漁獲土の比 (コンプ難/ウニ・アワビ類). (菊地省圧 浮永 久,アワビ・ウニ類とコンプ難藻場との俣J係.ノ,藻場・海中林2),1981, PP.1517,い/トネ=ゾ/上聞). 北海道を取り囲む三つの海である卜】本嵐 太平洋,オホーツク海の沿岸で1年間にとれたウニ,アワ ビの簑(a図)とその餌になるコンプの生産量(b図)を比較すると,ウニ,アワビはどの海域も同じ 76.
(12) 地域の自然を生かした環境教育. No.47.. 1993.3. くらいとれているのに,日本海のコンプだけは生産量がたいへん低くなっている。そのため,ウニ,ア ワビの生産量に対するコンプの生産量の比率(c図)は日本海が岬一番小さくなっている。それほど日本 海ではウニ,アワビの餌となる海藻が少ないということである。そのため,北海道を取り囲む三つの海 のうち,日本海沿岸では身入りの悪いウニがとれることが多いのである。 《質問3》磯焼け地域と海中林ではコンプの量は海中林で多いこと はわかるが,そのほかに住んでいる生き物の種類数では どちらの方が多いだろうか? 資料6 磯焼け地域と海中林の生物の種類 礪焼け. 劇中緋. 櫓物 紅i翳 k軒石戌■聯 その他 付曽ケイ議爛. 繊物 緑■¶ アナアオサ.ミル 袖幕蠣 ホソメコンプ.マコンブ.ワカメ,チガイソ.スジメ アナメ.カヤモノリ.ウルシグサ.フシスジモク.. よ食動物. エソノネジモク 虹■■. キタムラサキウニ,カサガイ.小型巻貝. ウミゾウメン.丁カ/く.ダルス. 有■細片食勤惰 ナマコ. 有岬石灰轟■.■断石灰■事. 岬花欄物 スガモ 捕食動物 ■食動物. キタムラサキウニ.ユノパフンウニ. 松前町二越1992年. ヒサラガイ.カサガイ.アワビ/′小型鸞貝. ろ遇食敷物. イソガニ.ヤトカリ. ムラサキイガイ,エソイガイ.フジツポ カイノン.コケムシ.ホヤ. 有れ拙片食動物 クモヒトデ.ナマコ 惰食動物. イソガこ,ヤドカリ.イトマキヒトデ.魚類. 上ノ国町汐吹1992年 直接観察により確認された海中林と磯焼け海底の生物群集 (解説3). 生物群集とはその場所に生活しているすべての種類の生物の集まりのことをいう。磯焼け地域では海 中林にくらべて動物も植物も種類が少ないことがわかる。また,生き物どうしでの食う食われるの関係 (食物関係)では,海中林ではコンプのような大きな海藻を食べるウニ,アワビなどの大型動物がたく さん住んでいる。しかもそれらの動物が出した糞やプランクトンなどを食べているクモヒトデ,ナマコ, イガイ,フジツボ,ホヤなどの動物がたくさん住んでおり,さらにそれらの小さな動物をっかまえて食 べるヒトデ,カニ,エビ,魚類などもたくさん住んでいる。それにくらべて,磯焼け地域では大きな海 藻が全くみられず,無節石灰藻と付着ケイ藻類だけが生えていて,小動物もわずかに小型のカサガイ, 巻員などで,大きな動物もウニ以外はあまりみられない。 《質問4》磯焼け地域では海中林にくらべて動物の餌となる生き物 が不足している。その一番大きな理由は何だと思われる か?. (解説4). 磯焼け地域にみられる動物で石灰藻を食べることができるのはカサガイの仲間だけで,歯舌というヤ スリのような歯で石灰藻を削って食べることができる。そのほか小型の巻貝やウニなどは石灰藻の表面 にわずかに生えた小型の藻類をかじって細々と餌にしているようである。このように磯焼け地域では, 石灰藻はたくさんあっても石のように硬い性質であるために,それを食べることのできる動物が限られ ていることが,そこに住む動物全体の餌不足を引き起こしていると考えられる。それにくらべて海中林 − 77 →一.
(13) 【伸t】邦明. ではコンプなどの大型の海藻矧またくさんの生き物によって簡単に食べられるものであり,しかも栄養 価が高い良い餌になっている。そのためそこに住む生き物の餌が多いと考えられる。 このように最初に動物の餌となる海藻類の質の遠いが生物群集の豊かさを決めている。一般に海中林 の中で1年間に作られる餌の量を100とすると,磯焼け地域の餌の量は9ぐらいだと言われている。した がって,我々人間が漁業によって海からとれるウニ,アワビ,魚などの量は磯焼けになると10分の1にへ るということだろう。なるはど確かに漁師が言っているように磯焼け地域は貧しい海と言えるだろう。. 第二部 磯焼けと海流.
(14) 地域の自然を生かした環境教育. N仇47.. 1993.3. (解説5). 北海道の磯焼け地域は日本海沿岸に集中している。これはちょうど日本海の沿岸を北上している暖流 の対馬海流の影響を受けている地域でもある。日本海沿岸のすべてが磯焼け地域というわけでもないが, 特に北海道で一番南の渡島半島日本海岸では磯焼けが最もひどいと言われている。それにくらべ,太平 洋沿岸は寒流である親潮の影響が強く,オホーツク海は夏から秋にかけてだけ対馬海流の影響を受ける と言われているが,磯焼けはわずかな地域で報告されているのみである。このようなことから,磯焼け が対馬海流のような暖流の力が強くなったことによっておこったという考えが出てきたのである。. 資料8 北海道産のコンプの種類と分布. ノサップ岬 柵丹岬. 襟裳岬. ●マコンブ. ●リシリコン7 ▲ホソノコンプ ★オニコンフー. 0ナかコンプ ロミツイシコンプ. 牡鹿半島. (長谷川由雄,「北海道沿岸産有用コンプ族植物の分布」,北水試月報16(1飢 1959,PP201−206より作図). 北海道沿岸には産業的に重要な6種類のコンプの仲間が生息している。もっとも生産量が多いのは大 型種のナガコンプで・北海道東部の太平洋沿岸でとれる○中型種のミツイシコンプ,マコンブは西部の. 太平洋沿岸でとれ,特にミツイシコンプは加工原料として,マコンブは葉の部分が厚いため味の良い最 叫 79 ¶.
(15) 田中 邦明. 高級品として扱われている。一方,小型種のリシリコンブが北部日本海沿岸からオホーツク海沿岸にか けて,ホソメコンブは北海道では南部日本海沿岸地域だけでとれる。リシリコンブは葉が厚いため高級 品となるが,ホソメコンブは特に小型で幅が狭いため生産量も少なく,ダシ昆布などの下級品として扱 われる。最もひどい磯焼け地域が日本海沿岸であることから,そこのウニやアワビはホソメコンブとい う質の悪い餌をわずかだけ食べているということになるだろう。 《質問6》磯焼けが対馬海流という暖流の影響を受ける地域に多い ことから,コンプの量と質がおもに水温,塩分,栄養塩 類(海藻の肥料の成分),光の強さ,潮の干満,流れな どのうち,どのような環境要因によって影響を受けてい るのだろうか。. 資料9 北海道沿岸海域の水温と栄兼壇類の土 ■■■PO4−P. 栄養塩類(リン)の季節変化. 日 本 海. 調 査 項 目. 17.2. 水 温(Oc). オホーツク海. 太 平 洋. 13.4. 13.4. 8.0. 3.7. 3.3. 全窒素(喉/ゼ). 0.124. 0.235. 0.342. 全リン(喉/ゼ). 0.013. 0.040. 0.055. 透明度(m) 栄養塩類. 各海区における水温年平均・透明度・栄養塩類 (八戸法昭,「北海道沿岸における磯焼けの実態と原因」,北方林業43(9),1991,. PP4−5,改変作表). (解説6). 海水中の栄養塩類の量をみると,寒い冬と春には多くても,暖かい夏から秋にはほとんど無くなって しまうことがわかる。日本海,オホーツク海,太平洋で年間平均水温を比べてみると,高い方から日本 海,オホーツク海,太平洋の順になっている。日本海では暖流の影響を受けて水温がどの季節でも一番 80.
(16) No.47.. 地域の自然を生かした環境教育. 高く,夏から秋にかけて表面水温が200c以上にもなる。また,冬から春にかけての最も低い場合でも水 温が4℃以下になることはない。一方,太平洋とオホーツク海では冬から春にかけて40c以下となり, 夏から秋にかけてもあまり水温は上がらない。. 一方,海水中の栄養塩類の平均値は多いほうから,太平洋,オホーツク海,日本海の順に少なくなっ ている。このことから,水温が高いことと栄養塩類が少ないことば何か関係がありそうに思われる。 《質問7》海の水温が高いほど栄養塩類(肥料の成分)の量が少な いのはどうしてだろうか?. 資料10 海水の温度と混ざり方. 季節による水深ごとの水温変化と水の混ざり方. (井上尚文,「西日本海々域の海洋学的特性」,対馬噴流・海洋構造と漁業, 1974,P35,恒生杜厚生閣,一部改変). (解説7). 夏の海では太陽に暖められた温度が高くて軽い海水が表面に浮かんでおり,海の底の方には40cに近 い重い海水が沈んでいる。そのようなときに強い風が吹いても,混じり合うのは表面の軽い海水だけで ある。ところが,秋,冬,春にかけては40cに近い重い海水が表面から底まであるため,噴い風が吹け ば表面から底まで海全体の海水が簡単に混じり合うようになる。 海藻の肥料になる栄養塩類は,光が届かない海の底や寒くて光の少ない地域の海に多く含まれている。 もともと栄養塩類は海水の中にわずかしか含まれていないで,夏から秋になって表面近くの水温が高く なると表面の栄養塩類は海藻などによってすぐに使われて無くなってしまう。しかし,冬から春になっ て海水の温度が表面も底も同じ4℃になると,上下の重さの速いがなくなり底と表面が簡単に混じり合 う。こうなるとまだ使われていない栄養塩類が底から表面へと次から次に湧き上がってくる。このよう なしくみで水温が低くなると栄養塩類の量が多くなるのである。 太平洋沿岸に大きな影響を与えている親潮はオホーツク海で冬にできた流氷が溶けてできた冷たい海 水が南へ流れてきたものと考えられている。流氷はもともと寒くて光の少ない海域でできたもので,ま だ使われていない栄養塩類がたくさん含まれた海水が凍ったものであるから,栄養塩類の「缶詰¶j と考 えてよいだろう。北海道の太平洋沿岸では磯焼け現象がほとんどみられず海中林が発達している理由は, このように親潮が栄養塩類をたくさん運んでくる豊かな水だからといえるだろう。反対に対馬海流は水 温が高いため,上下の海水の混じり合いがおこりにくく,海藻類が使える栄養塩類の量が少ないと考え られている。日本海沿岸地域の磯焼け現象の原因のひとつは対馬海流の栄養塩類の貧しさにあると言え 一81. 1993.3.
(17) 田中 邦明 るだろう。. 《質問8》日本海のように海水の温度が高くなるとウニなどの海藻 を食べる動物の動きが活発になる。こうなるとコンプな どの海藻はどうなるか?. (解説8). ウニなどの動物は温度が高くなると活発に運動し,エネルギーをたくさん使う。そのため餌もたくさ ん食べるようになる。しかも,日本海では海藻が使える栄養塩類が少ないので海藻の量も少ない。その 結果,水温が最も高くなる夏から秋にかけてはウニの餌になる海藻がまったく無くなってしまうことも ある。そのような場所が磯焼け地域になりやすい。したがって,水温が高いという日本海の環境は,コ ンプにとって育つ栄養が少ないこととウニに食べられやすいという両方の理由で,たいへん住みにくい 場所といえるであろう。こんな厳しい環境でも生きているホソメコンブは本当にすごい生き物といえる だろう。. 資料11コンプの生活史と季節 1年コンプ. ♀配偶体. 2年コンプ. ㊨ノ′ 一→遊走子. →戎\雪虹附 遊走子 秋. 芽胞体. ♂配偶体. 幼体. 糞体 春. 冬. 夏. 秋. 北海道産コンプの生活史と季節 (金子孝,「コンプ類の生態と増養殖」,前掲書1),P725より作図). 《質問9》コンプは秋になると最も小さな体の遊走子や配偶体にな り,冬から夏にかけて大きな胞子体になるというように, 季節によって体の大きさを変えることば,厳しい環境の 中で生きぬくためにどんな意味があるのだろうか? (解説9). コンプにとって秋は水温が高いため,最も栄養塩類が少ないので成長しにくく,しかもウニに食べら れやすい危険な時期である。そのような時期を数の多くの小さな体になって過ごすことによって,栄養 塩類をたくさん使わなくてもすみ,しかも小さい体で岩のすきまなどに隠れて生き残ることができるの であろう。また,水温が下がり栄養塩類が多くなってウニの活動もにぶる冬から春にかけては,体を大 きく成長させて栄養をたくさん取り込んでおいて,秋に遊走子を出してたくさん子孫を増やす準備をし ていると考えることができる。このようにコンプは一年間のうちに水温と栄養塩類の大きな変化に対応 する生活リズムをもっていることがわかる。これを「「生活史」と呼んでいるが,このリズムが海の季節 による環境の変化に合っているからこそ,そこで良いあいだ生き続けることができたのであろう。 肝¶ 82 一【Ⅳ−.
(18) No.47.. 地域の自然を生かした環境教育. 1993.3. このように生き物が環境の変化に合わせてうまく生きられるようなしくみをもっことを「適応」とい う0また,長い時間がかかって今までよりもさらに「適応」した新しい生き物ができることを「進化」 と呼んでいる0今から何万年も前の氷河時代には,現在よりかなり寒い気候であったと言われている。 もともとコンプの仲間は冷たく寒い海に住んでいたものと考えられている。現在最も暖かい海に住んで いるホソメコンブは暖かい海に適応した最も「進化」した生き物なのかもしれない。. 第三部磯焼けと石灰藻とウニ. 資料12 磯焼け地域の石灰藻. ヽ、. 有節石灰藻(上)と無節石灰藻(下2種) (図鑑「北【]本の魚と海藻」,P234,北ト】本海洋センター). 磯焼け地域の海底の岩は無節石灰藻と呼ばれる石のような海藻におおわれている。石灰藻業酌まサンゴ 藻と呼ばれることもあって,動物のサンゴと間違われるが,れっきとした植物の仲間で,地球上で進化 した歴史はたいへん古く・世界で最も古い化石としても見つかっているほどである。石灰藻という名前 のとおり,その体はたいへん堅く,まるで石のようでもある。色は白色やピンク色のものが多く,紫色 のノリと同じ仲間の紅藻類に分類されている。 《質間10〉石灰藻類がウニのたくさん住んでいる磯焼け地域ても平 気で生きているのはどうしてだろうか?. ー83 ¶.
(19) 田中 邦明. 資料13 石灰藻の体のしくみ. 石灰藻の細胞分裂のしくみ (藤川人介,「ェゾイシゴロモによる磯焼け維持機構に関する研究」 」ヒ海道人ノ’f:水花乍郎情巨論文,1986, 灘改変). (解説10). 石灰藻をウニが実際に食べていることは,ウニの糞として石灰藻のかけらが出てくることからわかっ ている。しかし,石灰藻は体の表面が炭酸カルシウムという石灰岩とおなじ成分をもっているためたい へん堅い。そのため,そう簡単に体の全部がウニに食べられるということばない。ウニが食べれるのは せいぜい表層だけで,石灰藻の内部にある分裂細胞層まで食べられることはない。分裂細胞層は,上と 下に次々と新しい細胞を作って成長することができる。しかも,石灰藻の仲間は表層の古い細胞が自然 にはげ落ちると言われている。 《質問11》石灰藻の表層の細胞がはげ落ちたら,その表面にくっつ いたコンプなどの大型の海藻はどうなると考えられるか?. (解説11). 石灰藻の表面にせっかくコンプなどの大型海藻の芽がついても,表層がはげ落ちたらそこに生えてい コンプもいっしょに落ちてしまうことになる。このようなしくみで,石灰藻は新しくその上に生えてこ ようとするコンプなどの大型海藻の成育を邪魔しているとも考えられている。このことから,磯焼けの 原因が石灰藻だとも考えられている。 《質問12》いちど石灰藻におおわれてしまった岩場を海中林に戻す ためにはどのような方法があるか? (解説12). 石炭藻におおわれた岩場を再び海中林に戻すためには岩から石灰藻を取り除く方法が考えられる。実. 際に行われている方法としては,かなり乱暴だが岩をダイナマイトで爆破して砕き,新しい岩の面をっ 一 84.
(20) 地域の自然を生かした環境教育. No.47.. 1993.3. くる方法が古くから行われてきた。また,波で動く浮玉にぶらさげた鉄の太いチェーンを振り回したり, あるいは鉄の金具を直接船で引き回したりして,岩の表面に生えている才i吹藻をはぎ取る「磯矧除」が 行われてきた。. しかしながら,石灰藻の表層がはげ落ちるとはいっても,ほげ落ちるまでの間に素早く成長できる海 藻は成育することができる。また,大きい椴のような付着器をもったコンプ,ワカメなどの大型海藻は いったん大きくなってしまえば石灰藻におおわれた岩でも付着することができるようである。海[f一休で も大型の海藻が生えているその根元をよくみるとかなりの右快漢が生えていることや,カナダ太、ド洋沿 岸の磯焼け地域で実際に海中林に戻った場所があるという例も報告されていることから,イi吹凍だけが 磯焼けの原因とは言えないようである。 資料14 海中林の海藻群落とウニの土 実験期間:1974年11月3日∼75年6月18日 実 験 区. I. II. l. l. Ⅲ. Ⅳ. I. 8個(209g)l16個(414g)t 32個(932g). 芸品左孟蒜忘ト㌃. 7個(罰3g)llO個(370g)l29個(1118g). ケウルシタサ ウルシタサ ホソメコンプ. ++(50). アミジグサ ハイウスノミノリ属. +. フタロノリ シオブサ属 アナアオーサ イトグサ属 ダジア属 オバク サ 有節石灰藻 無節石灰藻. ++. 注)十++:多い,++:やや多い,+:少ない,(数字):本数 人工海底に譜生した海藻類とウニの個体数 (菊地省吾・浮永久,「アワビ・ウニ瓶とコンプ類藻場との関係」,前掲書2),P19). 普通の海中林ではたくさんの種類の海藻が生えている。そのような海中林を綱で仕切って他の動物が 出入りできないようにしておき,その綱の中にそれぞれいろいろな数でウニを放しておいたところ,ウ ニが▼¶▲番多かったところでは無節石灰藻だけが残り,他の海藻はみんな無くなってしまった。しかも, ウニの数が少なくなるにつれて海藻の種類が増えていることから,海中林が磯焼け地域に変わってしま うときにはウニの数が関係していることがわかる。 《質問13》ウニのどのような作用が磯焼けを引き起こしていると考 えられるか?. (解説13). 海中林がよく発達している場所の近くには岩からちぎれて「一流れ藻∈になった海藻がたくさん沈んで. いる場所がある。ウニは普通そのような余った海藻を食べていると考えられる。ところがウニが多すぎ たり「流れ藻」が少なくなると,直接岩の上に生えている海藻までねらうようになると云≡ミ▲われている。 85 -.
(21) 田中 邦明. ゥニはたいへん器用な動物のようで,コンプのような大型の海藻から,ノリの芽のような小さな海藻ま で徹底的に食べつくすようだ。. 《質問14》多すぎるウニを適度に取って間引きすることにより,ど のようなことが期待できるか?. (解説14). ウニの数を減らすことは海藻が食べつくされることを防ぐ。特に海藻が小さな芽のうちにウニから守 られるならば,やがては大きく成長し,ある程度の量のウニを養うのに十分な餌となることが期待でき る。アラスカ海岸の磯焼け地域では,ウニを人の手で取り除くことによって大型海藻がすぐに生え 年後にはもとどおりの海中林に復活したという例がある。このように最近では,磯焼け地域の石灰藻が びっしりと生えているところでも,条件によっては大型海藻つき,りっばな海藻群落ができることがわ かってきた。石灰藻の邪魔も大型海藻の成長にはおよばないということだろう。 そのほかに,ウニの適切な間引きは海中林の復活だけでなく,ウニの「身入り」を良くするというも う一一つの効果が期待できる。大型海藻が増えることによって,ウニが栄養価の高い餌を十分に食べられ る状態になるから,生殖巣が大きく充実しておいしいウニがとれることになるであろう0. 第四部 人工海中林と磯焼けの解決. 《質問15》コンプを増やしたり大きくするために必要な環境要因と. しては,水温,塩分,栄養塩類,光,ウニなどの藻食動 物,付着できる場所などが重要だと言われている。それ ぞれどういう条件がコンプにとって良いのだろうか?. (解説15). コンプなどの海藻にとっては栄養塩類は多いはど良い。光は配偶体の時期は弱く,葉体では比較的強 い光を好むが,いずれも適当な強さがある。ウニなどの藻食動物は少ないほど良い。水温や塩分は高く なるとウニなどの食欲が増してコンプなどにとっては食べられる危険性も多くなり,良い条件ではない。 コンプ,ワカメの配偶体が成熟して卵が受精し,葉体ができるためには10∼15℃が適温であると言われ ている。また,コンプなどの海藻にとって付着できる場所がなければ絶対に生きることができない。 《質問16》「磯掃除」や「海中爆破」などの乱暴な方法を使わずに, 海中林を人工的に作る方法としてはどんなものが考えら れるか?. ー 86 −. ・1.
(22) No.47.. 地域の自然を生かした環境教育. 1993.3. 資料15 コンクリートブロックによる人工海中林. ト H 型(1976年). 7加−. こi. 台形型(1976,符年). コンクリートブロックによる人工海藻礁 (中久喜昭,「アラメ・カジメ場」,前掲書2),P121). (解説16). 人工的に海中林をつくる方法としては,人工コンプ礁として山から運んできた新しい岩石を海中にし ずめて新しい岩場を作ったり,資料15のようなコンクリートで作ったブロックを海に沈めたりする方法 がある。磯焼けは石灰藻によって岩などが独り占めされる状態が良く続いているから問題なのである。. こういう特定の生物が長い間にわたって増えている状態を「極相」というが,もしそこに海藻が成育で きる岩やコンクリートなどの新しい環境を与えることによって,以前には少なかった適った生物が増え はじめ,以前とは適った状態でまた長く続くことになる。このような生物の暮らしの様子の変化を「遷 軌」と呼んでいる。人エコンブ礁は,まさに人工的に環境を変えてr¶遷移」を引き起こし,「ム極相jを 変えようとする行いである。しかしながら,このような方法も東大な弱点がある,人工コンプ礁では…一・ 時的に海中林ができるものの,再び石灰藻やウニが増えてきて磯焼け地域と同様な状態になってしまう ことが報告されている。結局,コンプなどが付着できる場所を作ることは有効であるが,それを長続き させることができない。磯焼けを防ぐためには,なぜだんだんウニや石妖藻が増えてくるのかという根 本原因を明らかにしなければならないということである。. 光量・密度調節. 滅菌海水 種糸 水温調節 換液・消毒. (遊定子)(配偶体). (幼体). コンプ養殖における人為的管理 一871仙. (葉体).
(23) 田中 邦明. 《質問17》コンプの養殖では陸上の施設においてコンプの遊走子を. 種糸に付着させ,配偶体から小さな葉体になるまで人工 培養を,さらに沖合での養殖ではロープに葉体を付着さ せ,浮上させて水深調節や間引きを行っている。このよ うな人工的操作はコンプにとってどのような環境要因の. 調節をしていることになるか?. (解説17). コンプ養殖の陸上施設では,コンプが付着できるものとして合成繊維の種糸が使われていて,さらに 人工的に光,水温,栄養塩類が調節されている。特に栄養塩類はよく研究された培養液が使われ,コン プに適した栄養成分が十分に入ったものが与えられている。また,消毒や滅菌が行われているのは,コ ンプの病気を引き起こす病原菌やコンプの成長を邪魔する他の生き物が混じるのを防いでいる。沖合の 養殖施設では,養殖する水深を浮玉の良さで調節することによって太陽光線の量を調節し,生えている コンプの本数を少なくすることで光と栄養塩類の簑が十分になるよう調節している。また,コンプが付 着するために太いロープが使われているが,海底から離れていることから,ウニなどの藻食動物に食べ られる危険性もまったくない。言ってみればコンプ養殖は農業と同じで自然の力をかりた栽培というこ とになる。. 《質問18》このようなコンプの養殖方法を利用して海中林を作り, 磯焼けを解決しようとしたときに,どんな問題がでてく るだろうか?. (解説18). コンプ養殖を利用して海中林を作るためにはコンプが生えられる岩場と同じくらいの広さにロープを. 張りめぐらせなければならない。また,波の荒い沿岸では嵐によってロープが流されたりする被害も予. 想される。陸上の管理施設も必要である。このように養殖方式では施設を維持するためにたいへんな費 用と人手がかかるであろう。 《質問19》人手も費用もかけないで磯焼けを解決するためにはどん な方法が考えられるか?. (解説19). 磯焼けの根本的解決法としては自然の力をうまく利用する以外に方法は軌、と考えられる。コンプな どの海藻を増やし,ウニや石灰藻を減らす条件としては,たくさんの栄養塩類と光,低い水温となれば 良い。このような条件のうち,水温と光りは調節不■叶能である。なぜならば,今日の技術で気象現象を 調節することばいまだにできていないからである。残りは栄養塩類である。栄養塩類は植物の肥料とな る成分であり,今日の農業用の化学肥料として大量に生産もされているが,そのような成分はもともと 人間の糞尿やF水,食品加工廃水などに大量に含まれていて,流れの弱い悔や湖では川や下水から流れ 込む栄養塩類が多すぎて赤潮などの環境問題が発生しているほどである。したがって,もし都市や工場 から捨てられる余った栄養塩類を磯焼け地域で利用できれば,栄養塩類の不足は解決されるであろう。. 88.
(24) Nα47.. 地域の自然を生かした環境教育. 1993.3. 資料17 水産加工廃水でコンプを増やす. なって,コンプもその栄養分をちょうだいしていたのかもしれない。今日では公害防止法でそのような. 行為は禁止されているが,ある漁村では漁師がイカゴロを試験的に海に投げ入れて,魚,ウニ,コンプ などの増え方を調べているという。. 北海道のある町では水産加工場から出てくる魚の煮汁を海岸の磯にホースでひっぱってきて,コンプ の成長時期に少しずつ流して栄養を補給したところ,コンプの成長が非常に良くなったことが報告され ている。このようなことが磯焼け地域のいたるところで行われるようになるかもしれない。. 資料18 川と山とコンプ. 自然河川とコンプ海中林の分布(国Ⅰ二地理院2万5千分の1地図,江良 一郎改変) 一89 −−. 六=。. が出てくる。昔はそれらを直接海に捨てていたそうである。そのころはイカゴロは魚やウニの良い餌に. の高いコン7を育てる寧稟. 大きな港町や漁村では,大量の魚がとれるため,近くには必ずそれらを食品に加工する工場がある。 そこでは魚の内蔵や煮汁が大量に発生し,特にスルメイカの加工ではイカゴロという内蔵の産業廃棄物. 秋と、採取曙前の書の撃 ★稚 内 回。肥料は海岸に落首れ 海中に伸ばしたホースた に三つのタンクからホース 液体肥料を送り込み、品で 質沖合に送り出さ九る=鷲. に稚内漁協が取り組んでい 道立稚内水産試験場が年 る。 帝状況を粥ペたところ、艶. 魚の煮汁を応用したコンプの増殖(北海道新聞,1992,11月1川). 肥料に魚の煮汁. 高叔のもの︶がニ︹T二八. コンプすくすく. の煮汁.固形分や油分を除. 高い比革が把められち. 肥料としで使っている布 の海域のコンプには﹁一箪 は、ミール工場から出る検 魚﹂ ︵一−四窄検までの鴨. る.散布時朋は、コンプの. 華琴丁が着床し変る. いたうきへ十㌦当たり二% 十含克ており、散布しな ㌔の硝酸アンモニア毒 い地域の一一−二二%より. 1992年(平成4年)11月11日(水可日). 重縁 轟㌣ 瀦.
(25) 田中 邦明. 《質問20》地図左はじの黒くなっているところがコンプの海中林で あるが,そのような場所は川が海に注いでいる河口付近 である。また,海岸の地形をみると周りは天然の森林で ある。このように,コンプが天然河川の河口に多い理由 としてどのようなことが考えられるか? 資料19 川の水で助けられるコンプの成長. 河川水無添加. 河川水30%添加. 配偶体のみ観察される. 配偶体と幼体が観察される. リン・窒素添加海水で30日間培養したコンプの配属体. (解説20). 自然の海水にリン・窒素を加えただけでコンプの配偶体を飼育してもほとんど成長しない。しかし, 自然の海水にリン・窒素を加え,さらに川の水を混ぜて飼育すると成長が良くなり1カ月でコンプの幼 体ができる。このような川の水の栄養効果は,川の種類によって違うようであるが,泥などの濁りが多 い川の水では,コンプの芽に濁りの粒が付着して死んでしまうことが知られている。 《質問21》濁りの多い川の近くではコンプなどの海藻が広い範囲で 枯れてしまうことが知られている。このようなことも磯 焼けの原因として考えられている。このことから,コン プなどの海藻が増えていくためには,どのような川が好 ましいのであろうか?. (解説21). コンプなどの海藻にとって好ましいのは,上流に天然の森林があり,水もきれいで濁りが少なく,一 年中水が澗れることがない川であろう。このような自然の川の水にはコンプの成長を助ける栄養成分も 含まれているものと考えられるが,現在はどのような成分であるかまだよくわかっていない。. 一川190 −−.
(26) Na47.. 地域の自然を生かした環境教育. 1993.3. 資料20 ウニを食べる動物の利用 〈ウニの捕食者がいないとき〉. (ウニの捕食者がいるとき〉. の食物関係. の食物関係. フ、ソ コ. ロ フ、、ス タ. tウニ莱百 †. =コ ンプ莱貢. コンプ類. (磯焼‘ナ). (海中林). 頂点捕食者によるウニの個体群の調節と海中林の育成. カナダやアメリカの西海岸にはゃこを食べる動物として哺乳類のラッコやイセエビの仲間であるロブ. スターが頂点捕食者(他の動物に食べられることのない動物)として海に住んでいる。このような動物 が住んでいる場所ではウニが適度に食べられているため,ウニが増え過ぎて大型海藻を食べつくすよう なことがないので,磯焼けも起こっていない。ところが,ラッコやロブスターを人間が取り過ぎていな くなってしまった所ではウニが増え過ぎて磯焼けが起こっているという。日本でも昔はラッコが住んで. いたと言われているので,ラッコを人間の手で移植し,増え過ぎたウニを食べさせながら,しかも漁師 がとるためのウニやアワビを食べつくさない程度に数を調節することも賢い方法かもしれない。. 資料21自然の力が生きていた昔の生態系. 豊かだった昔の北海道 岬 91−.
(27) 田中 邦明. 《質問22》自然の力を利用して費用や人手をかけずにコンプ,ウニ, 魚などの生産を高めるためには,海,川,山という環境 とそこに生きるすべての生き物が結びついている生態系 のしくみを研究しなければならない。漁師は「苦はたく さんコンプも魚もとれた」と言っていることから,この ような生態系のしくみを明らかにするためにはどんなこ とを研究したらよいだろうか?. (解説22). 磯焼けを解決してたくさんの水産資源を増やそうとするこれまでに行ってきた人間の行いは,すべて 廿然の牲き物や自然環境を人間の力で変えようとしてきた。そのなかで私たちは,自然の力が人間には およびもつかないような人きなものであること,わずかな人間の行いによって壊されてしまうものでも あることを学んできた。また,そのことから私たちは,人間を含めた生き物と自然環境は互いにつなが り合った生態系というものになっていて,それらのしくみを知らないとどのような取り組みもうまくい かないことを学んできた。私たちが現在の自然を変えて,ほんとうに人間の都合のいいようにしようと するならば,それははかの生き物にとっても都合のいいものでなくてはならないだろう。 人間にもほかの生き物にも都合のいい自然は昔の北海道にはあったのだから,昔の自然がどうなって いたか,どんな生き物がどのようにして生活していたかを調べることが今ますます大切になってきてい ると思われる。. 92 -.
(28)
関連したドキュメント
「カキが一番おいしいのは 2 月。 『海のミルク』と言われるくらい、ミネラルが豊富だか らおいしい。今年は気候の影響で 40~50kg
■はじめに
海なし県なので海の仕事についてよく知らなかったけど、この体験を通して海で楽しむ人のかげで、海を
今日のセミナーは、人生の最終ステージまで芸術の力 でイキイキと生き抜くことができる社会をどのようにつ
C :はい。榎本先生、てるちゃんって実践神学を教えていたんだけど、授
自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から
講義後の時点において、性感染症に対する知識をもっと早く習得しておきたかったと思うか、その場
自分ではおかしいと思って も、「自分の体は汚れてい るのではないか」「ひどい ことを周りの人にしたので