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知的障害児の実行機能のアセスメント

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Academic year: 2021

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(1)Title. 知的障害児の実行機能のアセスメント. Author(s). 宮下, 知子; 北村, 博幸; 加藤, 順也. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 67(1): 171-180. Issue Date. 2016-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/8007. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.1. 平 成 28 年 8 月 August, 2016. 知的障害児の実行機能のアセスメント 宮下 知子・北村 博幸*・加藤 順也** 北海道教育大学附属特別支援学校 *. 北海道教育大学函館校障害児臨床教室 **. 北海道森高等学校. Assessment on Executive Functions of Children with Intellectual Developmental Disabilities MIYASHITA Tomoko, KITAMURA Hiroyuki* and KATO Junya** Special Needs School, Hokkaido University of Education *. Department of Special Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education **. Hokkaido Mori High School. 概 要 本研究では,実行機能アセスメントを用いて,対象生徒の実行機能の特徴を分析するととも に,特別支援学校の作業学習場面を取り上げ具体的な実生活上の困難との関連を検討した。 対象生徒の実行機能アセスメントの結果は,実行機能を構成する3つの要素である共通実行 機能,更新固有,シフティング固有ともに,小学1年生から3年生の定型発達児群の平均の± 2SDの範囲内であり,実行機能は小学1年生から3年生相当の可能性があると考えられた。 対象生徒は,特別支援学校の作業学習場面においての困難は見られなかったが,卒業後の生 活に向けて,実行機能を支える方略を身に付けたり方略を活用したりする学習機会の設定が必 要であることが示唆された。また,実行機能の特徴や実行機能アセスメントの過程で明らかに なった配慮事項を就労先へ引き継ぐ必要性が示唆された。 今後,より多くの知的障害のある児童生徒への実行機能アセスメントを行い,個々の実行機 能の特徴とそれに応じた支援の方法について検討する必要がある。. Ⅰ.問題と目的. への改訂では,知的障害の重症度の判断は,IQ よりも適応状態のレベルで決めることに変わり,. 知的障害とは,DSM-Ⅴによると「知的機能と. 知能検査だけでは把握できない「実生活上の困難. 適応行動の両方に制限をもつ障害,かつ,発達期. さ」を含めた総合的判断の重要性が強調されてい. に生じるもの」とされている。2013年のDSM-Ⅴ. る(富永,2014)。. 171.

(3) 宮下 知子・北村 博幸・加藤 順也. 知的障害児・者の実生活上の困難については,. かわる行動を例に挙げ,こうした行動の理解のた. 実行機能との関連が指摘されている(Henryら,. めには実行機能の特性を把握する必要があると指. 2010;Willnerら,2010;池田ら,2011)。. 摘している。. 実行機能は「計画性を持ち,状況の変化を受け. さらに,池田ら(2011)は,特別支援学校等に. とめ,臨機応変な対応をして,目標を達成すると. おけるさらなる支援の拡充には,実行機能に注目. いう一連を操り,日常的な問題解決に不可欠な能. した適切な支援方法の開発や実践を行う必要があ. 力」 (渥美ら,2006)と捉えることができ,人間. ると指摘している。また,石川ら(2013)は,近. の知的活動を根本から支え日常生活の様々な場面. 年のキャリア教育推進の中で評価方法が問われて. で大きな影響をもつ(齊藤ら,2014)と考えられ. いる特別支援学校の作業学習について,実行機能. ている。. の側面からの評価が必要であることを指摘してい. 近年,最も支持されている実行機能モデルに. る。. MiyakeとFriedmanら(2000,2012)の一連の研. しかし,知的障害児・者の実行機能は,本格的. 究がある。Miyakeら(2000)は大学生を対象と. な研究が始まったばかりである。実行機能の包括. した研究において,実行機能を「更新(updating)」,. 的 な 研 究(Daniellssonら,2012) や 実 行 機 能 の. 「シフティング(shifting)」, 「抑制(inhibition)」. 個々の要素を取り上げた研究(Henryら,2002;. の3つの要素でとらえた。さらに,Friedmanら. Van der Molenら,2007,池田ら,2014)では,. (2008)は,Miyakeら(2000)の研究で抽出さ. 知的障害児・者と精神年齢を一致させた定型発達. れた3つの要素間には共通する因子が存在すると. 児・者群との結果を比較しているが,知見は一致. いう考えに基づき,新たな分析を試みた。この結. していない。また,測定方法が議論の対象となっ. 果に基づいて,Miyakeら(2012)は新しいモデ. ており(葉石ら,2014),実行機能を測るとされ. ルを提案している。新しいモデルは,「更新固有. る課題の認知的負荷の高さや複雑さ(浮穴ら,. (updating specific)」 「 ,シフティング固有(shifting. 2006)が指摘されている。. specific) 」 , 「共通実行機能(common EF)」から. こうした実行機能課題の認知的負荷の高さなど. なっている。すべての実行機能にかかわる共通実. の問題を解決するために,宮下ら(2015)は,知. 行機能は,課題目標と目標関連情報の保持能力に. 的障害児・者の特性に対応した実行機能アセスメ. よって支えられていると仮定されており,そうし. ントの開発を行った。この実行機能アセスメント. た情報を利用しながらより低次の処理に対してバ. は,MiyakeとFriedmanら(2000,2012)らの実. イアスをかける能力と関係するとされている。. 行機能モデルを理論的基盤としている。また,. 知 的 障 害 者・ 児 の 実 行 機 能 に つ い て は,. Friedmanら(2008)が大学生を対象として用い. Willnerら(2010)が,ワーキングメモリ,反応. た実行機能課題を知的障害児・者に対応するため. の開始 (転換) , 行動抑制という,Miyakeら(2000). に①対象児・者の知的能力を考慮した適切な難易. の実行機能の3因子とよく類似した要素が知的障. 度にすること,②読みの能力を考慮すること,③. 害者の実行機能にも存在することを明らかにして. 精神年齢,生活年齢および生活経験を踏まえた題. いる。. 材を用いること,④疲れが成績に影響しない適切. また,Willnerら(2010)は, 「IQが70以上であっ. な課題量であること,といった条件を満たすよう. ても,実行機能の問題があることでデイセンター. に改訂されている。しかし,実際に実行機能アセ. に通うニーズがある」と示唆し,知的障害児・者. スメントを実施した報告は行われていない。. の実生活上の困難と実行機能との関連を強調して. そこで本研究では,宮下ら(2015)の実行機能. いる。また,葉石ら(2014)は,知的障害児・者. アセスメントを用いて対象とする知的障害児の実. は目標から逸脱しやすいといった意欲や態度にか. 行機能の特徴を分析するとともに,特別支援学校. 172.

(4) 知的障害児の実行機能のアセスメント. の作業学習場面を取り上げ具体的な実生活上の困. 行練習を行ってから,30試行実施した。. 難との関連を検討することを目的とする。. STOP-ITでは,円形か四角形の標的刺激を呈 示する。対象者は,基本課題では,円形か四角形. Ⅱ.方 法. かを判断して回答することを求められた。全課題 の25%の割合で停止信号が鳴り,そのときは反応. 1.対象生徒. しない。抑制に失敗すると,次の試行で遅延時間. 知的障害特別支援学校3年に在籍している女子. が50ms短くなった。抑制に成功すると次の試行. 生徒1名を対象とした。実行機能アセスメント実. で遅延時間が50ms長くなった。反応は,円形と. 施時の生活年齢は18歳1カ月であった。. 四角形の図形の目印付きのボタンキーの操作によ るものとした。難易度は,設定しなかった。課題. 2.時期及び場所. 遂行にあたっては,基本課題のみからなる練習を. 平成27年9月から12月に実施した。心理検査. 32試行実施後,64試行を実施した。. (WAIS-Ⅲ)及び実行機能アセスメントは,生. 白/黒課題では,黒い四角形と白い四角形を標. 徒が在籍する特別支援学校内において実施した。. 的刺激として呈示した。対象者は,中立条件では, 黒い四角形が呈示されたときは黒,白い四角形が. 3.手続き. 呈示されたときは白と答える。不一致条件では,. ①個別の教育支援計画と担任からの聞き取りを. 黒い四角形が呈示されたときは白,白い四角形が. もとに,日常生活上の実態把握を行った。 ②作業学習担当教員からの聞き取りをもとに,. 呈示されたときは黒と答えることを求められた。 反応方法は,白および黒の四角形の目印を付けた. 作業学習の実態把握を行った。. ボタンキーの操作によるものとした。難易度は,. ③心理検査(WAIS-Ⅲ)を実施した。. 設定しなかった。課題遂行にあたっては,中立条. ④実行機能アセスメントを実施した。. 件で20試行,不一致条件で20試行実施した。 ②更新固有課題. 4.実行機能アセスメントについて. キープトラック様課題は,コンピュータの画面. ⑴ 実行機能アセスメントの内容. の下部に3つの標的カテゴリーを呈示した。課題. 実行機能アセスメントは,宮下ら(2015)の実. 開始後,標的カテゴリーに該当するイラストと含. 行機能アセスメントを用いた。. まれないイラストを1500msごとに呈示した。標. ①共通実行機能課題. 的刺激を全て呈示した後に,反応の合図として回. アンチサッケード課題では,1500ms,1750ms,. ? 」を呈示した。対象者は, 答カテゴリー数の「○. 2000ms,2250ms,2500ms,2750ms,3000ms,. 標的カテゴリーに該当するイラストを覚えてお. 3250ms,3500msの い ず れ か で 注 視 点 を 呈 示 し. き,それぞれ最後に呈示された単語を回答するこ. た。その後,黒い四角形を呈示し,続けて標的刺. とを求められた。反応方法は,イラストリストか. 激として「右」 「左」「上」のいずれかの方向を示. らの選択または音声とした。難易度は,標的カテ. す矢印を,ランダムに同じ割合で呈示した。標的. ゴリー数が1つから3つの3段階とした。課題遂. 刺激は200ms呈示し,すぐに灰色の四角形で覆い. 行にあたっては,それぞれの難易度で1回ずつ練. 隠した。対象者は,標的刺激の矢印が向いていた. 習を行ってから,各難易度をランダムに6試行(各. 方向を回答することを求められた。反応方法は,. 難易度で2回)実施した。. 「右」 「左」 「上」の方向を示す矢印のイラスト付. レターメモリ様課題では,最初に注視点を呈示. きのボタンキーの操作によるものとした。難易度. し,その後,標的刺激である円形の色を呈示した。. は設定しなかった。課題遂行にあたっては,7試. ?○ ? 」を呈 標的刺激の後に,反応の合図として「○. 173.

(5) 宮下 知子・北村 博幸・加藤 順也. 示した。対象者は,呈示される2つの色を覚え,. カテゴリスイッチ様課題では,「ハート」を示. 3つ以上になったら,最後から3番目の色を入れ. すイラストもしくは,「自分」を示すイラストの. ?○ ? 」の画面が呈示さ ずに2つの色を覚える。 「○. どちらかを合図刺激として呈示した。合図刺激と. れたら最後の2つの色を回答することを求められ. 標的刺激は,回答するまで画面に残った。また,. た。反応方法は,色リストからの選択または音声. 回答後,次の合図刺激までは350msとした。対象. とした。難易度は,標的刺激の呈示数により設定. 者は,合図刺激が「ハート」のときは,標的刺激. し,3つ,4つ,5つの3段階とした。課題遂行. が動物か非動物かを回答する。また,合図刺激が. にあたっては,それぞれの難易度で1回ずつ練習. 「自分」のときは,標的刺激が自分より大きいか. を行ってから,6試行(各難易度で2回)実施す. 小さいかを回答することを求められた。反応方法. る。. は,上部が「動物」を示すうさぎのイラストで下. n-バック課題では,最初に3つの白い四角形. 部が「大きい」を示す大きい円の目印付きのボタ. を呈示した。ビーブ音が鳴ると四角形の1つが. ンキーと,上部が「もの」を示す椅子のイラスト. 1500msの間黒く変化し標的刺激となった。対象. と下部が「小さい」を示す小さい円の目印付きの. 者は,1つ前,または2つ前の場所と同じ四角形. ボタンキーの操作によるものとした。難易度は,. が黒く変化したら,「はい」と回答する。違う場. 合 図 刺 激 と 目 標 刺 激 の 間 隔 で 設 定 し,1500ms. 所が変化したら, 「いいえ」と回答することを求. (第2ブロック,第4ブロック)と150ms(第1. められた。反応方法は,「○」と「×」の目印を. ブロック,第3ブロック)の2段階とした。課題. 付けたボタンキーの操作によるものとした。1試. 遂行にあたっては,それぞれの間隔で16試行ずつ. 行内に「○」が4回, 「×」が12回の頻度とした。. 練習を行ってから,各ブロックで16試行実施した。. 難易度は,1つ前を答える条件と2つ前を答える. ナンバーレター様課題では,縦2×2マスの4. 条件の2段階とする。課題遂行にあたっては,そ. 角形の中に,図形と動物イラストを呈示した。対. れぞれの難易度で1試行ずつ練習を行ってから,. 象者は,上段のマスにペアが呈示されたときは,. 2試行(各難易度で1回)実施した。. 図形が赤色か青色かを回答する。下段のマスにペ. ③シフティング固有課題. アが呈示されたときは,動物イラストが色付きか. カラーシャープ様課題では, 「色」を示すイラ. 色無しかを回答することを求められた。反応方法. ストもしくは, 「形」を示すイラストのどちらか. は,上部が赤色で下部が色付きのイラストを示す. を合図刺激として呈示した。合図と刺激は,回答. カラーのりんごの目印を付けたボタンキーと,上. するまで画面に残った。また,回答後,次の合図. 部が青色で下部が色無しイラストを示す白黒のり. 刺激までは350msとした。対象者は,合図刺激に. んごの目印を付けたボタンキーの操作によるもの. 応じて,標的刺激の色名か形を回答することを求. とした。難易度は,上段のみの刺激呈示(第1ブ. められた。反応方法は,上部が赤色で下部が三角. ロック)と下段のみの刺激呈示(第2ブロック),. 形の目印付きのボタンキーと,上部が青色で下部. 全てのマスへの刺激呈示(第3ブロック)の2段. が円形目印付きのボタンキーの操作によるものと. 階とした。課題遂行にあたっては,それぞれのブ. した。1ブロック内に,課題セットの切り替えあ. ロックで12試行ずつ練習を行ってから,第1,第. りとなしは半数の頻度で出現した。難易度は,合. 2ブロックはそれぞれ12試行,第3ブロックは40. 図刺激と標的刺激の間隔で設定し,1500ms(第. 試行実施した。. 2ブロック, 第4ブロック)と150ms(第1ブロッ ク,第3ブロック)の2段階とした。課題遂行に. ⑵ 実行機能アセスメントの実施手順. あたっては,それぞれの難易度で16試行練習を. 実行機能アセスメントの実施手順を以下に示す。. 行ってから,各ブロックで16試行実施した。. ①実 行 機 能 課 題 の 呈 示 に は,Apple Mac Book. 174.

(6) 知的障害児の実行機能のアセスメント. Airを用いた。 ②対象生徒は,コンピュータ画面の正面に向かっ. され(西澤ら,2002),この値が低ければ,生じ 始めた反応を抑制する能力が高いことを示す。. て椅子に座り,画面中央に出現する刺激を注視. レターメモリ様課題では反応を得点化して全試. した。. 行での得点率を算出した。. ③各実行機能課題を始める前に,絵や図を加えた 説明文を読み上げ,取り組み方を伝えた。 ④すべての本試行の前に,練習を実施した。練習. n-バック課題では正反応率を算出した。 キープトラック様課題では反応を得点化して全 試行での得点率を算出した。. で取り組み方を理解していない様子が見られた. シフティング固有のカラーシャープ様課題,カ. 際には,再度③の説明を行った。. テゴリスイッチ様課題,ナンバーレター様課題で. ⑤実 行機能課題はFriedmanら(2008)に従い,. は,Miyakeら(2000)に従い,課題開始直後の. アンチサッケード課題,レターメモリ様課題,. 第1試行,RTが200ms以下の試行,誤反応およ. カラーシャープ様課題,カテゴリスイッチ様課. び誤反応直後の試行を分析から除外した。. 題, 白/黒課題,キープトラック様課題,n-バッ. カラーシャープ様課題,カテゴリスイッチ様課. ク課題,ナンバーレター様課題,STOP-ITの. 題では,難易度ごとの分析を行った。まず,反応. 順で実施した。なお,コンピュータ画面を注視. の判断基準を柔軟に変更する能力を表すセットの. することによる疲労を配慮し,30分程度で休憩. 転換を算出した。セットの転換は[セットの転換. を入れた。. =切り替えあり平均RT-切り替えなし平均RT] により算出した。この値が小さければ反応の判断. ⑶ 分析方法. 基準が変わった際の課題セットを切り換える能力. 実行機能アセスメントの各課題について,各課. が高いことを示す。次に,正しい分類反応をした. 題の結果を表す指標は,Friedmamら(2008)ら. 正反応率を算出した。最後に,分析から除外した. の実行機能課題をもとに加藤ら(2015)が開発し. 試行を含む全試行のRTの標準偏差と平均を算出. た支援プログラムを参考に設定した。. し,それを基に反応時間の変動係数を算出した。. アンチサッケード課題では,正反応率を算出し. 変動係数は[変動係数=全試行RT標準偏差/全. た。正反応率が高ければ,妨害刺激への反応を抑. 試行平均RT]により算出した(青木ら,2012)。. 制する能力が高いことを示す。. この値が小さければ,課題遂行中の反応の安定度. 白/黒課題では,中立刺激条件と不一致刺激条. が高いことを示す。. 件における正反応率を算出した。また,中立刺激. ナンバーレター様課題では,カラーシャープ様. 条件での平均RT(Reaction Time)と不一致刺激. 課題,カテゴリスイッチ様課題と同様の方法で第. 条件での平均RTを算出した。その数値を基に,. 3ブロックのセットの転換,正反応率,反応時間. 不一致刺激に生じる競合を解消するための能力を. の変動係数を算出した。. 反映するコンフリクト効果を算出した。コンフリ. これらの指標について事前に実行機能アセスメ. クト効果は, [コンフリクト効果=不一致刺激条. ントを実施した小学生群(小学校1年生から3年. 件での平均RT-中立刺激条件での平均RT]に. 生の定型発達児,22名)の平均と標準偏差を算出. よって算出した。この値が低ければ,不適切な知. した。実行機能課題の結果を表す指標ごとに,対. 覚情報から受ける干渉を制御する能力が高いこと. 象生徒と小学生群の結果を比較した。. を示す。. 対象生徒と小学生群結果を比較し,2標準偏差. STOP-ITでは停止信号反応時間(stop signal. (SD)以上乖離が見られた場合は,指標がもつ. reaction time:SSRT) を 算 出 し た。SSRTは 生. 意味に対して「低い」または「高い」の判断を行っ. じ始めた反応を抑制するまでにかかる時間と定義. た。. 175.

(7) 宮下 知子・北村 博幸・加藤 順也. Ⅲ.結 果. 語理解(VC)が56(信頼区間53-64),知覚統合 (PO)が79(信頼区間74-88),作動記憶(WM). 1.日常生活上の実態と課題. が62(信頼区間59-71),処理速度(PS)が50(信. 個別の支援計画では,対象生徒・保護者ともに. 頼区間48-61)であった。. 一般就労を希望していた。課題としては,言葉で 自分の気持ちを伝えるまでに時間がかかることが 挙げられていた。また,担任からの聞き取りでは, 下校時に他の生徒に誘われて寄り道をして帰るな. 130 115 100. ど,状況を判断して行動をすることが難しいと. 85. いった課題が挙げられた。. 70. 2.作業学習,産業現場実習の実態と課題. 40. 56. 79. 68. 58. 62. 56. 50. 55. 対象生徒は,高等部の作業学習において,卒業 後一般企業への就労を目指す「一般就労班」に所 属していた。週2回の作業学習のうち1回は一般 就労班において,校内における清掃活動や企業か. 図1 WAIS-Ⅲの結果. らの下請け作業(菓子の箱折り)等を行い,もう 1回は他の作業班(縫工・木工・陶芸)の活動に. ディスクレパンシー分析では,VC<PO,PO. 「派遣」という形で参加していた。一般就労班の. >PS,PO>WM,WM>PSにおいて有意差が認. 担当教員への聞き取りからは,設定されている活. められた。. 動内容で作業技術面での課題は挙げられなかっ. 下位検査のプロフィールを図2に示す。SとW. た。また,時間内に作業を終了するために,進ん. の判定では,符号と記号探しがW,積木模様と行. で他の生徒を手伝うことや効率よく作業するため. 列推理がSであった。. て取り組めることから高い評価を得ていた。 3.心理検査の結果と解釈. 5. 1. 1 記号探し. 5. 符号. 3. 語音整列. 勤務の経験をしており,長時間の勤務にも集中し. 3. 数唱. 産業現場実習では,衣料販売店や図書館等での. 3. 算数. た。. 4. 10. 行列推理. 定されている活動内容での課題は挙げられなかっ. 2. 7. 積木模様. 芸の各作業班の担当教員への聞き取りからも,設. 絵画完成. ことがあるということであった。縫工・木工・陶. 20 15 10 5 0. 知識. 対象生徒を見て作業の仕方を覚えるよう指導する. 単語. は挙げられなかった。さらに,他の生徒に対して,. 類似. の工夫することといった活動内容についても課題. 言語理解 知覚統合 作動記憶 処理速 (VC) (PO) (WM) 度(PS) 図2 WAIS-Ⅲの下位検査のプロフィール. 18歳1カ月時に実施したWAIS-Ⅲの結果を図 1に示す。IQ /群指数では,全検査(FIQ)は. POが高くVCとWMが低いことから視覚的な情. 58(信頼区間55-63)で「特に低い」の水準に分. 報処理が得意であることが考えられた。しかし,. 類 さ れ た。 言 語 性(VIQ) が56( 信 頼 区 間55-. 視覚的な情報処理であっても,数多く迅速に処理. 63) ,動作性(PIQ)が68(信頼区間64-76),言. することは苦手であると考えられた。さらにPO. 176.

(8) 知的障害児の実行機能のアセスメント. 表1 実行機能アセスメントの結果 対象生徒. 小学生群 平均. マイナス 2SD. プラス 2SD. 100. 78.94. 56.08. 101.8. 212.7. 237.18. -121.01. 595.38. 中立正反応率(%). 100. 97.25. 87.02. 107.48. 不一致正反応率(%). 100. 92.25. 70.46. 114.04. (SSRT). 107.3. 163.26. 102.08. 224.45. レターメモリ様課題. 得点率(%). 88.89. 88.38. 56.09. 120.68. キープトラック様課題. 得点率(%). 114.29 ↑. 67.71. 33.24. 102.18. 100. 82.95. 51.38. 114.53. 87.5. 62.09. 26.01. 98.17. セットの転換(ms). 9.67. 139.11. -334.01. 612.23. 正反応率(%). 61.76. 81.47. 59.9. 103.03. 0.67 ↓. 0.39. 0.25. 0.52. -99.07. 368.37. -105.2. 841.94. 85. 87.98. 66.73. 109.22. 0.29. 0.47. 0.25. 0.69. アンチサッケード課題. 正反応率(%) コンフリクト効果. 白/黒課題. STOP-IT. 停止反応時間(ms). 難易度1 n-バック課題. 正反応率(%) 難易度2 正反応率(%) 難易度1. カラーシャープ様課題. 反応時間の変動係数 Block 3 ナンバーレター様課題. セットの転換(ms) 正反応率(%) 反応時間の変動係数. ※成績が高い,低いと判断された指標を囲み線で示した。「↑」は高い,「↓」は低いを示す。. の下位検査や言語理解の結果から,図形を基にし. 対象生徒は,キープトラック様課題の得点率は. た状況理解や推理は得意であるが,視覚的情報で. 「高い」と示された。これは,本来ならば最後に. あっても知識や経験が必要とされる状況理解は苦. 呈示された標的カテゴリーに該当するイラストを. 手であると考えられた。また絵画完成の結果から,. 回答しなければならないが,最後より以前に呈示. 本質的な部分に注目することが苦手であることが. されたイラストを回答することがみられ,その得. 考えられた。処理速度が低いことについて,補助. 点が加算されたためであった。ただし,すべての. 問題の結果からは視覚的な情報の短期記憶の弱さ. 試行で同様の傾向が見られなかったため,更新固. は認められなかった。また,筆跡は整っており運. 有にかかわる,必要のなくなった古い情報を削除. 動性の問題も考えにくかった。. することに,難しさがあるとは断定できないと考 えられた。また,情報の削除にかかわる状態が結. 4.実行機能アセスメントの結果と解釈. 果に現れやすいレターメモリ様課題では,古い情. 18歳1カ月時に実施した実行機能アセスメント. 報の削除の難しさは見られなかった。よって,対. の結果を表1に示す。なお,カラーシャープ様課. 象生徒のキープトラック様課題の結果は,精神年. 題の難易度2,カテゴリスイッチ様課題の難易度. 齢を一致させた小学生群の平均の±2SDの範囲内. 1と難易度2については,小学生群の結果におい. であると考えられた。. て,実行機能課題の適切性に問題があると考えら. カラーシャープ様課題の結果からは,シフティ. れたため,分析から除いた。. ング固有にかかわるセットの転換の低下は見られ. 177.

(9) 宮下 知子・北村 博幸・加藤 順也. なかった。しかし,反応時間の変動係数の結果に. りしたペースであることが考えられる。そのため,. 低下が見られ,分類反応が不安定であったことが. 現在,特別支援学校で行われている作業学習や産. 考えられた。分類反応の不安定さの要因を明らか. 業現場実習での活動の遂行に困難は認められなく. にするため,平均RTを詳細に分析した。課題遂. ても,一般就労をするにあたっては,これまでに. 行中の平均RTは,難易度1の1回目が1757ms,. ない困難が生じる可能性が考えられる。. 難易度1の2回目が719msであり,後半の試行で. 葉石ら(2015)は,実行機能支援の1つとして,. 平均RTが短縮していた。以上より,対象生徒の. 動機付けが促されるような環境設備の工夫を挙. 分類反応には,慣れや経験が影響することが考え. げ,小集団での課題解決場面の設定の重要性を指. られた。また,こうした分類反応の不安定さは,. 摘している。すなわち,他者の学習の機会を観察. WAIS-Ⅲの処理速度の結果からも支持できると. し,そこから課題解決の方法を学ぶという視点で. 考えられた。. ある。対象生徒は作業学習場面では,他の生徒の. 共通実行機能の課題ではすべての実行機能課題. 見本となり観察される立場であるが,対象生徒が. において,小学生群の平均の±2SDの範囲内で. 自ら課題解決の方法を学ぶ機会の設定が必要であ. あった。. るのではないかと考えられた。. 以上より,対象生徒の実行機能は,更新固有,. さらに,知的発達や実行機能の実態とともに,. シフティング固有,共通実行機能のすべてにおい. 特別支援学校で取り組んでいた活動内容や支援の. て,小学校1年生から3年生相当の可能性がある. 手立てを就労先に丁寧に引き継ぐ必要があると考. と考えられた。. えられた。 また,実行機能アセスメントの取り組みの様子. Ⅳ.考 察 1.実行機能の特性と作業学習場面の行動特性と の関連. からは,対象生徒は,繰り返しの練習場面がある ことで,より良いパフォーマンスを発揮できるこ と,分類や判断に要する時間が安定しない場合が あることが明らかになっている。そのため,練習. 実行機能アセスメントの結果,対象生徒は小学. 場面を設定すること,分類や判断が必要な活動に. 校1年生から3年生相当の実行機能の可能性があ. おいては対象生徒のペースを考慮し,急がせない. ると考えられたが,作業学習や現場実習で取り組. ような作業量を設定するといったことを配慮事項. んでいる活動における問題点は挙げられていな. として引き継ぐ必要があると考えられた。. い。これは,作業学習や現場実習での活動内容や 支援方法が対象生徒の実行機能の実態にも対応し ているためであると考えられた。. Ⅴ.まとめ 実行機能アセスメントを用いて,対象生徒の実. 2.作業学習場面の課題と支援の方向性. 行機能の特徴を分析するとともに,特別支援学校. 対象生徒の実行機能は,小学校1年生から3年. の作業学習場面を取り上げ具体的な実生活上の困. 生相当の可能性があると考えられた。森口(2011). 難との関連を検討した。. は,定型発達児の実行機能の発達において,抑制. 対象生徒の実行機能アセスメントの結果は,実. 機能とシフティング能力は12歳ごろ,更新/ワー. 行機能を構成する3つの要素である共通実行機. キングメモリについては11歳ごろに大人の水準に. 能,更新固有,シフティング固有ともに,小学生. 近づくとしている。対象生徒の場合,生活年齢は. 群の平均の±2SDの範囲内であり,実行機能は小. 18歳であり,今後,実行機能が大きく発達すると. 学校1年生から3年生相当の可能性があると考え. は考えにくい。また,発達しても,非常にゆっく. られた。. 178.

(10) 知的障害児の実行機能のアセスメント. しかし,特別支援学校の作業学習や産業現場実. 文 献. 習の場面において,大きな困難は見られなかった。 これは,知的発達のレベルに対応して計画されて. 青木真純・岡崎慎治・前川久男(2012) :注意欠陥多動性. いる特別支援学校や現場実習先での活動内容や支. 障害児における干渉課題遂行中の認知的制御に関する. 援方法が,対象生徒の実行機能の実態にも対応し ているためであると考えられた。. 検討.LD研究21⑷,460-469. 渥美義賢・玉木宗久・篁倫子・海津亜希子(2006):障害 児教育と関連した脳科学的研究の方法論-ヒトの脳の. 一方,対象生徒は,学校外の日常生活の場面で. 形態と機能の計測及び心理学的検査-.国立特殊教育. は,学校からの帰宅途中に友達からの誘いを断れ. 総合研究所研究紀要33,27-37.. ないといったように,自分が取り組むべきことを. Danielsson, H., Henry, L., Messer, D., & Ronnberg, J. (2012): Strengths and weaknesses in executive. 遂行するために,状況を判断し行動をすることが. function in children with intellectual disability.. 難しい面があることが挙げられている。一般企業. Research in Developmental Disabilities, 33, 600-607.. への就労が内定している対象生徒にとって,就労. Friedman, N.P., Miyake, A., Young, S.E., Defries, J.C.,. 後の仕事中にもこうした状況が起こりうることは. Coley, R.P., Hewitt, J.K. (2008): Individual differences in executive function are almost entirely genetic in. 十分に考えられる。特別支援学校在学中にこうし. orgin. Journal of Experimental Psychology 137(2), 201-. たことを想定し,教師から与えられる環境設定に. 225.. よる支援のみでなく,集団の中で自ら実行機能を 支える方略を学ぶこと,方略を活用した課題解決 の機会の設定が必要であると考えられた。. Henry, L., MacLean, M. (2002): Working memory performance in children with and without intellectual disabilities. American Journal on Mental Retardation 107, 421-432.. また,就労先へは対象生徒の知的発達のレベル. Henry, L., Cornoldi, C., Mahler, C. (2010): Special issues. や実行機能の実態,作業学習や現場実習で取り組. on “working memory and executive functioning in. まれてきた学習内容と支援方法,また,今回の実 行機能アセスメントの過程で明らかになった配慮. individuals with intellectual disabilities”. Journal of Intellectual Disability Research54, 4, 293-294. 葉石光一・大庭重治・八島猛(2014) :知的障害と実行制. 事項の引き継ぎが必要であると考えられた。. 御.上越教育大学特別支援教育実践センター紀要20,. 本研究の対象生徒は,更新固有,シフティング. 5-8.. 固有,共通実行機能のすべてにおいて,小学校1 年生から3年生相当の可能性があると考えられ. 葉石光一・池田吉史・八島猛・大庭重治(2015) :知的障 害者の実行機能と支援実践の課題.上越教育大学特別 支援教育実践研究センター紀要21,39-42.. た。しかし,先行研究では,知的障害児・者の実. 池田吉史・奥住秀之(2011) :知的障害児・者における実. 行機能が精神年齢を一致させた定型発達児群と比. 行機能の問題に関する近年の研究動向.東京学芸大学. 較して下回るといった知見もある。こうした知見 から,知的障害のある児童生徒の中には,更新固 有,シフティング固有,共通実行機能の3つの要 素の全て,もしくは,いずれかが知的発達のレベ ルを下回る可能性が考えられる。そのため,今後,. 紀要 総合教育科学系62⑵,47-55. 池田吉史・奥住秀之・國分充・葉石光一(2014) :Strooplike Big-Small課題における知的障害児・者の抑制機 能.日本特殊教育学会第52回大会発表論文集. 石川緑里(2013):知的障害特別支援学校に在籍する生徒 を対象とした他者の指示に基づく行為の遂行に関する 事例的研究.発達支援研究17,1-3.. 多くの知的障害児・者を対象として実行機能アセ. 加藤順也・北村博幸(2015) :発達障害のある児童の実行. スメントを実施し,個々の実行機能の特徴と日常. 機能のアセスメント-実行機能の評価と介入が一体化. 生活の実態との関連を検証していく必要があると. した支援プログラムを用いて-.北海道教育大学紀要. 考えられる。さらに,実行機能支援の方向性につ いての検討と実際に支援を行った上での検証が必 要であると考えられる。. 教育科学編65,2.375-388. Miyake, A., Friedman, N.P. (2012): The Natur and Organization of Individual Differences in Executive Functions: Four General Conclusions. Current in Psychological Science 21(1), 8-14.. 179.

(11) 宮下 知子・北村 博幸・加藤 順也. Miyake, A., Friedman, N.P., Emerson, M.J., Witzki, A.H., & Howerter, A. (2000): The Unity and Diversity of Executive Functions and Their Contributions to Complex “Frontal Lobe” Tasks: A Latent Variable Analysis. Journal of Cognitive Psychology 41, 49-100. 宮下知子・北村博幸・加藤順也(2015):知的障害児・者 の実行機能アセスメントの開発.北海道教育大学紀要 教育科学編66,1.65-77. 森口佑介(2011):児童期における実行機能の発達.上越 教育大学研究紀要30,115-121. 西澤優子・小松伸一(2002):停止信号課題を用いた注意 機能研究の展望.信州大学教育学部紀要108,101-111. 齊藤智・三宅晶(2014):実行機能の概念と最近の研究動 向.湯澤正道・湯澤美紀(編著),27-45.北大路書房. 富永康仁(2014):知的障害.こころの科学,38-42.日 本評論社. 浮穴寿香・橋本創一・出口利定(2006):重度の知的障害 を伴う成人発達障害者における実行機能の特徴- Dimensional Change Card Sort課題を用いた検討-. 東京学芸大学教育実践研究支援センター紀要2,2734. Van der Molen, M.J., Van Luit, J.E.H., Jongmans, M.J. & Van der Molen, M.W. (2007): Verbal working memory in children with mild intellectual disabilities. Journal of Intellectual Disability Research51, 2, 162-169. Willner, P., Bailey, R., Parry, P., & Dymond, S. (2010): Evaluation of executive functioning in people with intellectual disabilities. Journal of Intellectual Disability Research 54(4), 366-379.. (宮下 知子 附属特別支援学校教諭) (北村 博幸 函館校教授) (加藤 順也 北海道森高等学校教諭). 180.

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参照

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