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子どもの主体的活動から生まれる幼稚園の運動会-絵本「ぐりとぐら」をテーマに-

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子どもの主体的活動から生まれる幼稚園の運動会−

絵本「ぐりとぐら」をテーマに−

著者

齊藤 善郎

雑誌名

教育学部紀要

12

ページ

101-112

発行年

2019-03-01

URL

http://id.nii.ac.jp/1454/00002621/

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摘  要

 幼児教育では,一貫して,子どもが主体的に活動することを求めている。子どもは 自ら興味や関心をもって活動し,そこで様々なことを体験し身につけていく。保育者 から指示されて,できるようになることが求められているわけではない。幼児の視点 からすると,自由感あふれる保育であることが重要である。しかし,現状の保育を見 渡してみると,保育者主導の保育が多く見られる。とくに,行事の活動ではこの傾向 はさらに強くみられる。本編では,保育者主導にならない行事としての運動会をいか に組み立てていくか。この取り組みを実践している園の姿を追ってみた。子どもの好 奇心をとらえ,やってみたいという意欲を引き出すためのきっかけづくりから始ま り,練習の過程を通して,徐々に子どもの思いを引きつけ,保護者も巻き込んで,運 動会当日に向けて期待感が膨らむようにしかけていく様子を記録した。こうした活動 から,行事の活動の意義を考え,園としての思いをいかに保護者に伝えていくか,そ の取り組みを丁寧に実施し,保護者の理解と共感を得ることが,子ども主体の行事を つくっていくうえで大切であることが示されていく。園が確固たる保育観をもち,そ れを保育者全員で共有し,さらに保護者に向けて丁寧に園の保育観を周知することが いかに重要かを,その実践から見出していく。 キーワード:幼児の主体性,行事の活動,運動会,意欲を育てる環境 Key words: subjective of children, activities, sports day, motivational environment

1.研究の背景と目的

 幼児は,自ら周囲の環境に能動的に働きかける力をもっている。それは,興味関心 が育まれる環境の中で,発揮される。幼児期の教育では,子どもの興味関心が広がる ような「しかけ」や「きっかけ」を用意することで,幼児からすれば自由感にあふれ る中で,主体的に考え,かかわっていく活動がなされていく。そこでは,教師主導の 一方的な保育の展開ではなく,一人一人の幼児が教師の援助の手で主体性を発揮して 原著(Article)

子どもの主体的活動から生まれる幼稚園の運動会

──絵本「ぐりとぐら」をテーマに──

Sports day in a kindergarten based on children’s subjective

activities using a famous Japanese picture book “GURI TO

GURA”

齋藤 善郎

*

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活動を展開していくことに留意しなくてはならない。活動の主体者は幼児であり,教 師は活動が生まれやすく,展開しやすいように意図をもって環境を構成していく必要 がある。  こうした観点で,年間計画が作られ保育の実践がなされ,日々の保育では意識して 幼児の主体性を確保しようとしていくが,行事の活動ではどのように取り組まれてい るだろうか。ともすると,旧来のように保育者主導のカリキュラムの作成になり,幼 児はただ参加し,一方的にやらされる保育になっていないだろうか。今回は,運動会 という集団的な活動の中で,幼児のやりたいという意欲を引き出し,幼児が主体者と して活動できる環境をどのように用意していくかを,長期の指導計画の実践を踏まえ て,展開される活動の実際を追ってみた。  今年度は,子どもたちが日頃から親しんでいる絵本「ぐりとぐら」をテーマにし て,共通のイメージをもって,それを体現できるようなものを目指してすすめられ た。ちなみに,この幼保連携型認定こども園が,保護者向けに示した「運動会の持ち 方」の中で,「……運動会のルーツの一つには明治時代の軍隊での軍事教練がありま す。だから,一律一斉に,子どもの発達からみて難しいことを強制的に行う傾向が運 動会にはみられます。本園では,そうしたものではない 新しいかたちの運動会 を めざしています。……」と書かれている。準備から運動会当日まで,どのような「し かけ」や「きっかけ」を考えて,幼児が意欲的に参加する活動を作り上げていったか を報告したい。

2.研究の方法

⑴ 研究の対象  豊橋才能教育こども園の教職員と園児:保育教諭人数 49人(園長 1,副園長 1, 主幹保育教諭 1,保育教諭 28,パート保育教諭 18),園児数325人(0歳2人,1歳 10人,2歳14人,3歳98人,4歳100人,5歳101人) ⑵ 研究の期間  平成29年度運動会についてのカリキュラム作成時期(平成29年4月)から運動会 実施日(平成29年10月)まで ⑶ 実践記録の抽出  保育は,「遊びを通して行う」と言われるが,何ら計画を立てず,その場に応じて 保育を展開しているわけではない。幼児の発達に必要な経験を見通し,各時期の発達 の特性を踏まえて,指導計画を立てて継続的に指導をすることが求められる。  年度当初,年間計画を作成するにあたり,教員全体での話し合いが行われる。ま ず,第一の実践報告は,この話し合いによって,①園全体での保育目標の設定,②そ

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の目標を踏まえて行う行事の活動の意図,③テーマの策定,④テーマをどのように具 体化するか,の4点について,話し合っていく過程を追った。次に,ここで考えられ たテーマをどのように,保育活動の中に取り入れていくか,その実践の様子を,記し た。実践の様子は,3歳児から5歳児の各クラスでの取り組みの様子から抜粋した。

3.実践の記録

⑴ 年間計画における行事の活動の位置づけ ①保育目標の設定  このこども園では,編成された教育課程から,保護者に対して,理解されやすいよ うに,下記の保育目標を伝えている。 豊橋才能教育こども園がめざす保育は…… ①こども園は子どもたちのワンダーランド    こども園は,みんなに一斉に何かに取り組むことを強いる場所ではありません。「学 んだ力」よりも「学ぶ力」を育てたいと考えています。「どうしてなんだろう」「不思議 だね」「やってみたい」という気持ちを育てる場です。 ②友だちいっぱい,わかりあおう    「一人でいるよりみんなでいると楽しいね」という体験をいっぱい積み重ねてほしい と考えています。仲間同士,意見を出し合ったり,考えをまとめたりして,互いの気持 ちに気づく体験を,保育の中で多くもちたいと思います。 ③本いっぱい    いつも自由に絵本を手に取ることができる環境づくりをしています。言葉が豊かにな り,周りの子たちに思いを伝え,共有できる子どもに育てたいと思います。 ④心が動く,心が豊かになる毎日をつくろう    「面白そう」「わぁ,きれい」「すご∼い」という心の動きが子どものやる気を育てま す。好奇心を広げ,意欲を育てる保育をめざします。  この園では,保育の方針がしっかりと位置づけられており,保育者にその方針が周 知されている。そのため,日々の保育内容は各クラス担任に任されている部分が多 い。例えば,6月の一ヶ月間の保育活動をみてみると,「園内探検ごっこ」をしてい るクラスがあったり,「お店やさんごっこで,アイスクリーム屋さん」をしているク ラス,「サファリパークごっこ」をしているクラス,「恐竜博物館」をつくるクラス 等々,違っている。しかし,そこのコンセプトは「子どもが主体的に意見を出し合 い,発展させていく」ことに集約されている。 ②行事の活動の意図  行事の活動をどのようにとらえているかを示すアンケート結果がある。平成29年 の私立幼稚園免許更新講習を受講した中堅以上の保育者197名に対して,「箱んでハ イ・タワー」という DVD を視聴してもらい,このような運動会競技を計画すること が可能かどうかを尋ねた。ちなみに,この DVD の内容は運動会競技として,段ボー

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ルを工夫して積み上げ,どちらのチームが高く積むことができるかを競うものであ る。そこでは,子どもたちの工夫やひらめきが活発に出され,それを子どもたちなり に協力して作り上げていくというものである。アンケートの結果を見ると,次のよう な意見に集約される。  ・運動会に向け,行う競技が毎年決まっているので,新しく加えることは難しい。  ・個々の子どもの成果が見えにくい。  ・保護者の理解が得られるか。  ・結果が見えていない保育を進めるにあたって自信がない。  ・園児がこうした活動に参加してくれるか疑問。 以上の結果となり,前向きにとらえる傾向はみられなかった。しかし,この DVD の ような保育をしてみたいかという問いに対しては197名中156名が「やってみたい」 と答えている。理想と現実の差については「今勤務している園では困難」という意見 が多く述べられていることから,各園が教育課程を見直し,その園の保育者全体が保 育の仕方を新たに共有するところから始める必要があると思われる。  豊橋才能教育こども園では,①で示すように,教育課程を編成し,保育者全体で保 育観を共有するところから始めている。その結果,行事の活動においても,自由感に あふれる保育の在り方や子どもが意欲的に取り組むためのしかけづくりを,綿密に検 討している。 ③テーマの策定  運動会の目標について,「競争より協働」「意欲的に取り組みたくなる内容」「達成 感を味わうことができること」「運動の得意な子もそうでない子も,それぞれに楽し めること」を,まず保育者同士で確認し,運動会を一つのテーマに沿って演出すると いう方向を決めた。  園児が身近に感じている保育内容とは何か,どの子も共有できるテーマは何か,日 常の保育の中でみられる姿は何か,を考え意見を出し合った。どの年齢の子も,日頃 の保育の中で経験していることの中から,絵本をテーマにした。絵本は,日々,子ど もたちが自由に手にとり,読んだり見たりすることをしている。また,読み聞かせの 機会も多くあり,日常の中に織り込まれた時間である。  では,どのような内容のものなら運動会テーマになりうるのか,それには0歳児ク ラスの子どもから5歳児クラスの子どもまで,共通して今までに目にしているものを 選ぶこととした。そうした中で選ばれた絵本として「ぐりとぐら」があった。主人公 のねずみには,0∼1歳児にも馴染があり,2∼3歳児では保育者に読んでもらう機 会があり,4∼5歳児では自分で手に取り,見たり読んだりしている。こうしたこと から「ぐりとぐら」をテーマとした運動会を開催することとなった(写真1)。 ④テーマの具体化  「ぐりとぐら」の絵本をテーマに,それぞれの学年の競技の題名も,物語にふさわ しいものに決めた(写真2)。

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写真1 運動会のプログラム表紙 写真2 運動会プログラム内容 ⑵ 保護者向けの発信  運動会のイメージは,運動競技をそれぞれの子どもが競い合うということが一般的 である。保護者世代が経験してきたものはほとんどこれであり,それとは異なる運動 会をどのように受け入れてもらうかが,大きな課題である。そのため,早い時期か ら,運動会の内容について定期的に保護者向けの発信をしている。9月初めには「ぐ りとぐら」の物語の内容について,保護者に伝えている。 「ぐりとぐらのお話し」 ぐりとぐらのお話しを紹介したいと思います。野ネズミのぐりとぐらが一番好きなこと は,お料理することと食べることです。2匹は大きなカゴを持って森の奥へでかけまし た。そこで,どんぐりや栗を拾っていると,道の真ん中に大きな卵が落ちていました。こ の卵で カボチャのパンケーキ を作ることになりました。しかし,卵は大きすぎて持っ て帰れないので,その場所でお鍋・ボウル・泡だて器などを持って来てつくることになり ました。そして,卵・牛乳・小麦粉などボウルに材料を入れてかき混ぜました。その間に 石でかまどを作ったり,薪を集めました。お鍋に材料を入れ,ふたをしてかまどにかける と……。いい匂いにつられて,森の中の動物が集まって来ました。そして,みんなでふん わりできあがったカボチャのパンケーキを食べました。  このような物語を保護者に配布するとともに,園内に,運動会に使う「カボチャ」 や「かまど」を作り,保護者の目にとまるように置いておいた。こうすることで,保

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護者にも運動会への興味をもってもらうとともに,子どもと運動会のイメージを共有 できるような「しかけづくり」をしている(写真3と4)。 写真3 かぼちゃ 写真4 かまど ⑶ 子どもの意欲を育てる  子どもが主体的に関わるためには,意欲的にその活動に取り組めていることが不可 欠である。そのために,どのような取り組みをしているだろうか。9月以降しばらく の間,この園では運動会の練習はしない。しているのは,絵本のイメージから,カボ チャやフライパン,かまどなどを作っている(写真5 低年齢児では,絵本の中に出 てくる花やミツバチ等,自分で作れるものを保育士とともに作る)。ここでは,子ど もたちの意見を取り上げ,試行錯誤や工夫をしながら,作ること自体を楽しんでいる (しかし,子どもたちの頭の中では,運動会につなげることは十分意識されている)。 ⑷ 運動会競技へのしかけづくり  「ぐりとぐら」の物語のストーリーから,自分たちもそこに出てくる物をイメージ して作ったり,調理器具を集めたりという活動を保育の中に取り入れ,その活動に意 欲的に参加できるように進めている。次の文は,園での活動の様子を保護者に伝えた ものである。  ぐりとぐらのように,かぼちゃの入ったパンケーキをつくろうということで子どもたち は,大喜びです。しかし,どのように調理したらよいか……。みんな困ってしまいまし た。そこで,ぐりとぐらに聞いてみると,大きなフライパンを貸してくれることになりま した。ぐりとぐらは運動会当日にフライパンを持って来るそうなので,みんなもフライパ ンをつくることにしました。さらに,カボチャのパンケーキを作るための材料や調理器具 をいろいろ集めたり作ることになりました。ある子たちは,かまどに入れる蒔を公園に拾 いに行ったり,調理器具を作ったりしています。  物語に出てくる場面やストーリーを,楽しみながら取り組むことを通して,その活 動を運動会競技につなげる(写真6)。蒔を拾うことを競技に取り入れたり,ミツバチ になって花を摘むことを親子競技に入れたりと,絵本からのイメージを大切にして競

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技を行う。競技全体を通して,協同してカボチャのパンケーキを作り上げていくイメー ジを崩さない配慮をし,子ども達が意欲的に参加できる工夫を保育者は行っていく。 写真5 フライパンづくり 写真6 ぐりとぐらになってお散歩 ⑸ 運動会当日  運動会は0,1歳児クラスと2歳児クラスがそれぞれ親子競技1種目,3歳児クラ ス,4歳児クラスは競技2種目と親子競技1種目,5歳児クラスは競技3種目と親子 競技1種目で,全体が2時間30分程度で終わるように設定され,子どもに過度の負 担をかけないようにされている。最近は,両親のみならず,祖父母も来る家庭が多 く,園庭は立錐の余地もない程になる。  運動会は,ぐりとぐらの物語に沿って展開されていく。事前に保護者にはこの物語 のストーリーは伝えてあり,また,当日だけ来る祖父母に向けても,この物語の概略 を開始前にアナウンスする。こうすることで,物語の展開への興味とともに,その物 語をどのような競技で,どのように子どもたちが表現するかに興味をもってもらうね らいがある。話の展開として,まず,ぐりとぐらに変身した保育者が登場し,みんな でカボチャのパンケーキを作ろうと話しかけ,運動会の各競技で,調理器具や食材を 集めたり,小麦粉をこねたりして,子どもたちにも分るように展開。最後はフライパ ンにこねた食材すべてを入れ,かまどに蒔をくべ,パンケーキを完成させる(写真7 と8)。 写真7 お花集め 写真8 親子で薪ひろい

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⑹ 運動会終了後につなげる工夫 運動会フィナーレでは……  できあがった生地をフライパンに入れ,大きな大きなカボチャのパンケーキを焼きま す。さぁ,無事にできあがるでしょうか?  段ボールで作った手作りの かまど の上にフライパンを乗せ,その中にカボチャ のパンケーキになる具材を入れ,ぐつぐつ煮立てると……という設定で,保育者が布 製のパンケーキをフライパンの上でふくらませた。子どもたちからは,大きな歓声が あがり,運動会に参加した喜びとともに,自分たちで集めた材料や蒔が使用されて, パンケーキができあがったことへのうれしさも伝わってくる。 次の登園日は……  この日は,運動会で作ったカボチャのパンケーキをみんなで食べます。ん?カボチャの パンケーキは食べられるのかな……。  そうです,給食の調理員さんたちが,みんなのために,本物のカボチャのパンケーキを 焼いてくれます。給食の時に,特別にこのパンケーキを一人一人に切り分けて,食べるの です。みんなが力を合わせて作ったパンケーキ,おいしいかな?  カボチャのパンケーキを作るというストーリーに沿った運動会は,ただ競技をする だけでなく,子どもたちに対して,よりインパクトのあるフィナーレを用意したいと いう考えから,実際にカボチャのパンケーキを焼き,子どもたちに食べてもらうとい う設定をした。運動会の最後に,次の登園日の給食には「カボチャのパンケーキ」が 出されることを子どもたちに伝えた(写真9と10)。 写真9 みんなで作ったパンケーキ 写真10 給食に出されたパンケーキ

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4.考  察

⑴ 歴史的にみる運動会  1874年に海軍兵学寮で行われた「競闘遊戯会」が日本で最初に実施された運動会 といわれている。そこでは,国威発揚・富国強兵・健康増進が目的とされた。そこで の活動は,競争を中心に,一致団結して成し遂げることが求められた1)。以後,学校 や企業においても実施されるようになるが,いずれも,一つの共同体が力を合わせて 協働することに,その意義を見いだしていた。この流れは引き継がれていき,現在の 運動会へとなっている。  つまり,運動会とは一致協力をして,一律に何かを為すことが中心に据えられてい た。これは,現在の幼児教育にも引き継がれ,皆が一律に整然と競技をすることを主 眼とする傾向は衰えていない。 ⑵ 保育観の変遷と行事の活動  1956年に幼稚園教育要領が刊行され,学校教育法に掲げる五つの目標について, その内容を「健康」「社会」「自然」「言語」「音楽リズム」「絵画制作」の六つの領域 に体系的に分類し,保育内容について,小学校との一貫性をもたせようとした。この ことにより,六領域を教科的なものと解釈して,教師主導の保育ととらえる傾向がみ られた。保育の実践においても,教師の意図を指導計画に盛り込み,教師主導の保育 が展開されることが当然のこととうけとめられ,行事の活動は教師主体で為され,子 どもは受動的に教えられ,技能を習得する存在としてとらえられた2)。  こうした中,1980年代になると,少子化の傾向が高まり,園児獲得が至上命題と なってきた私学を中心に,保護者の期待するような小学校教育を先取りする保育が盛 んに行われるようになり,幼児教育の内容に混乱が生じた。こうしたことも踏まえ て,幼稚園教育要領は,1989年に改訂された。ここでは,「自由感にあふれる保育」 が求められ,子どもが主体的にかかわる保育の実践への期待が高まった。このこと は,六領域を五領域に改め,幼児期にこそ育てたい五つの事柄として示された。つま り,小学校教育の先取りではなく,幼児期ならではの生活の中で育つものを大切にす るという姿勢が貫かれ,そうしたことが保育の現場にも周知されるように試みられ た。  しかし,こうした改訂にもかかわらず,運動会などの行事の活動は,相変わらず, 教師主導のものが多く,子どもにとっては「やらされる活動」が中心であった。その 背景には,行事の活動は保護者などに見せるための機会ととらえ,より高度な内容を より上手に見せることが求められ,そのことが園の売りとなるという感覚が経営者や 園の運営者に蔓延していることと無関係ではなかった3)。  最近のデータにおいても,この傾向に変化はあまり見られない。昨年実施された 「幼稚園・保育園後継者育成研修会」(50名参加)での「子どもの主体的活動」につ

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いての自由討議では,現状の追認が多く,子どもの主体性を重視することや,好奇心 や意欲を育む取り組みへの期待はあまりみられなかった。 ⑶ 行事の活動の意義  2018年に改訂された幼稚園教育要領に示されている「行事の指導」4)の中では,「行 事は,幼児の自然な生活の流れに変化や潤いを与えるものであり,幼児は行事に参加 し,それを楽しみ,いつもとは異なる体験をすることができる」と記されている。こ の項でのキーワードは,「期待感」「喜びや感動」「達成感」である。それとともに, 行事に至るまでの体験や活動意欲の高まりが重要であり,その中に教育的価値がある と考えている。ここでは,行事そのものを目的化して,結果やできばえに過重な期待 をすることは,幼児の負担になるばかりでなく,生活の楽しさが失われるとして,戒 めている。 ⑷ 子どもの意欲を育てる環境づくり  行事の活動では,何をやらせるかではなく,子どもの心に何が育つかを考える必要 がある。本編で紹介した運動会の事例では,運動会当日に至るまでの過程を重視して いるところに,一つの特徴がある。「ぐりとぐら」の絵本から,パンケーキを作るに はどんな材料を用意して,どんな調理をしていくのかを,保育者と子どもが一緒に対 話し考えていくところから始まっている。対話を通して,意見を出し合い,それを具 現化できるような素材を用意し,子どもの考えを中心に据えている。蒔を集めるこ と,ベーキングパウダーを作ること,パンケーキに焼くこと等々が,一つ一つの競技 となっていく。そこでは,子どもの意欲を引き出す工夫がなされ,子どもからすると 自分たち一人一人がやってみたい活動となっている。つまり,この運動会の練習期間 は,たとえば蒔を集める仕方を身につける期間であり,パンケーキの材料を集める方 法を考える期間となっている。運動会全体が,このように,子どもの意欲を高め,工 夫や試行錯誤をしながら,徐々に自分たちが求めるものを追求する期間であると言え よう。  運動会のそれぞれの競技に,子どもたちが主体的にかかわることにより,保育者が 指示を出すこともなく,自分たちで内容を理解しているので,子どもたち同士の伝え 合いによって競技の仕方は周知されていく。そのため,長期間にわたる練習は必要な く,驚くほど短期間に運動会の実施が可能になっている。通常,一ヶ月から一ヶ月半 ほどかけて練習をする園が多いが,この園では三週間ほどで実施ができた。全体練習 やリハーサルも,この日程の中に含まれているので,実質は二週間でできている。  さらに大きな特徴は,運動会当日に表れた。子どもたちの豊かな表情,自信をもっ た表情や意欲的に取り組もうという気持ちの迸りが,見ている保護者たちに伝わって いく。また,たとえ競技中,間違えたり戸惑っている子がいたとしても,それを子ど も達同士で修正を加える様子が窺えた。保育者に頼るのではなく自分たちで作り上げ

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る運動会。そこでは,自分たちで作り上げる楽しさ,仲間とかかわる楽しさ,自信を もって活動する楽しさが培われていく。 ⑸ 保育の意図をどのように保護者に伝えるか  従来の保育者主導の運動会がなぜ変えられないのか,その点を考えてみると,園で の活動の主体者は誰なのかという「保育の原点」に立ち返ることとなる。保護者から 良い評価を得ることができる園を求める傾向は,少子化が進む現在,ますます強く なっている。つまり,保育の仕方についての確固たる自信をもって,このような保育 を実施したいという意欲を示しにくい状況にある。保護者にとってどうかという視点 から逃れられないと,いつまでも園の保育観を構築することは難しい。今一度,立ち 返ってみるべきは,その園の保育者がどのような保育観に立ち,保育を実践していく かを明確にする必要がある。  そのためには,まず明確な保育観を保護者に丁寧に説明をするところから始める必 要がある。この園では,「3.実践の記録」の項にあるように,当初からはっきりと その園の方針が示されている。実際,入園するにあたっては園見学をしてもらい,個 別に保育方針を伝え,それに賛同した方に入園をしてもらうということをしている。 入園してからも,こまめに園の保育の仕方を「園だより」「クラスだより」で知らせ ている。  行事の活動では,保育の過程を写真で示したり,手紙で知らせることをしている。 「見える化とライブ感」が保護者と子どもと園の一体感を形成していく。  保護者からの反応はどうであったか。行事が終了した後には,「保護者の感想」を 書いてもらっている。ストーリー性のある運動会に反対意見はなかった。保護者の関 心の多くは,自分の子どもの様子であったが,「楽しそうに参加していた」「生き生き していた」「自信をもって行えた」等良い評価であった。  いま,保護者が求めているものは何か。上手にできること,集団行動がとれること を求めているわけではない。園の側が,保護者の心情を忖度して,今までのやり方に 拘泥しているにすぎないのではないか。園が自信をもって保育観を示すとともに,ど のような保育を実践しているのか「保育の透明性」を高めていくことが必要である。 幼児教育についての視点は社会背景とともに変化している。子どもが主体的にかかわ る保育はこれからの社会の変化に対応できる子どもを育てるうえで,大変重要になっ ていくのではないだろうか。 ■引用文献 1) 日本体育協会監修(1987):『最新スポーツ大事典』,大修館書店,pp. 94‒96. 2) 日本保育学会編(2016):『保育学とは』保育学講座①,東京大学出版会,pp. 166‒168. 3) 千田隆弘(2016):「幼稚園行事の実践報告にむけて」,平成28年度愛知私幼研究紀要,pp. 41‒ 41. 4) 文部科学省(2018):『幼稚園教育要領解説』,フレーベル館,p. 114.

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■参考文献 浅井由美(2017):「主体的な遊びからみえる子どもの育ち─運動会の取り組みより─」,日本保育学 会第70回大会発表要旨集,p. 833. 石川直己(2018):「運動能力と子どもの意欲の関係性を探る」,日本保育学会第71回大会発表要旨 集,p. 894. 岩井勇雄(2004):『幼児教育課程総論』,同文書院,pp .16‒21. 大豆生田啓友(2016):『主体的な遊びで育つ子ども』,エイデル研究所,pp. 4‒9. 脇田町子(2017):「保育力を高める保育者の遊び心」,日本保育学会第70回大会発表要旨集,p. 644.

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